総合病院精神医学
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23 巻, 3 号
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特集:自殺防止:救命救急におけるチーム医療
総説
  • 河西 千秋
    2011 年 23 巻 3 号 p. 241-246
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2015/05/20
    ジャーナル フリー
    わが国で1998年に自殺が激増してから以降,自殺対策基本法(2006年),自殺総合対策大綱(2007年)が整備され,国としての対策事業が開始されている。自殺対策を講じる際には,自殺の危険因子の把握や科学的な根拠(エビデンス)を踏まえたうえでの予防方略の実践が重要であるが,「自殺未遂」は既知の危険因子のなかで最も明確で強力なものであり,自殺予防学において未遂者対策は要諦と位置付けられている。予防方略に関しては,未遂者対策に関して世界的にエビデンスは未確立である。わが国の未遂者対策の経緯において,重要な2つの展開がみられる。1つは,自殺未遂者の自殺再企図防止方略を高いエビデンス・レベルで確立しようと開始されたACTION-Jプロジェクトである。また,もう1つは,自殺未遂者ケアのための各種ガイドラインの作成の動きと,これと符牒して実施されている各種研修事業である。社会的取り組みとしての自殺対策が叫ばれているなか,未遂者ケアは,医療施設・従事者が担うべき課題の一つであるが,そのための実践活動が広がりつつある。
原著
  • -日本臨床救急医学会『自殺企図者のケアに関する検討委員会』の取り組み-
    三宅 康史
    2011 年 23 巻 3 号 p. 247-252
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2015/05/20
    ジャーナル フリー
    日本臨床救急医学会『自殺企図者のケアに関する検討委員会』は,再企図を予防することにより完遂を抑制することを目標に2008年4月に設立され,実質的に自殺企図者の初療に関わる救急医療スタッフが,精神科医のいない状況下でも標準的な自殺企図患者のケアにあたれるよう,さまざまなリソースを提供してきた。手引きの配布,それを利用した自殺未遂者ケア研修の厚労省との共同開催,さらに学会活動を通じて精神科救急関連学会との協働,そして自殺企図者に限らず精神症状を呈する救急患者に安全な初期診療を提供するための教育コース(PEEC™)の開発などに取り組んでいる。
経験
  • ─再企図予防に果たすPSWの役割─
    山田 妃沙子, 杉本 達哉, 織田 裕行, 板東 宏樹, 北元 健, 片上 哲也, 藤山 雅晴, 平川 昭彦, 木下 利彦, 中谷 壽男
    2011 年 23 巻 3 号 p. 253-259
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2015/05/20
    ジャーナル フリー
    関西医科大学附属滝井病院では,2001年から精神科医が救命救急センターに常駐し,救急医と連携して自殺未遂者に対する身体的・精神的治療を行ってきた。また,2007年から自殺対策のための戦略研究の共同研究施設となり,PSWも協働して未遂者に対して心理・社会的支援を行うようになった。さらに,2010年からは大阪府自殺未遂者実態調査事業の委託を受け,PSWも救命救急センターに常駐する体制を整えた。その結果,搬送後早い時期から情報収集,家族への情緒的サポート,ソーシャルワーク介入が可能となった。救命救急センターにおけるPSWの重要な役割としては,以下の4点が考えられる。未遂者に寄り添うこと,危機的状況になったときの対処能力をエンパワメントすること,自殺企図の根底にある心理・社会的問題に対して社会資源を活用し解決を図っていくこと,さらに,身近な人や関係機関との連携体制を構築し,より長期的なサポートを保障することである。
資料
  • ─看護師のかかわりの変化について─
    柳澤 八恵子
    2011 年 23 巻 3 号 p. 260-267
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2015/05/20
    ジャーナル フリー
    救命救急センターには多くの自殺企図患者が搬入されてくる。看護師は,希死念慮のある患者にどのように対応したらよいかわからず,希死念慮の有無については触れず,十分なアセスメントができないでいた。私たちは,事例から自殺企図者に対して希死念慮の有無を確認することは,治療のうえでも重要なことであることを学んだ。そこで『自殺未遂患者アセスメントシート』を作成し,患者の希死念慮の確認と再企図リスク判定を行い,患者の安全確認に努めた。しかし,これは入院時のみに行われるものであり,入院中に継続的な安全確認はされていなかった。入院後に再企図を起こした事例から,患者からの危険物の除去および,安全確保の強化を実施した。このように,事例を通して対応はしてきたが,そこには限界や,新たな問題が出現することがある。そのようなときに大切なことは,一事例の経験から同じ事例を繰り返さないよう,病院をあげて対応することである。
原著
  • 伊藤 敬雄, 大久保 善朗
    2011 年 23 巻 3 号 p. 268-276
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2015/05/20
    ジャーナル フリー
    日本医科大学付属病院高度救命救急センターに自殺未遂もしくは自傷行為で入院した患者を対象に,その特徴,特に未遂手段・自傷手段を調査した。地域特性を考慮しなくてはならないが,当センターに入院した自殺未遂者・自傷者では,向精神薬の処方例がその85%を超えていた。未遂者の53%,自傷者の76%が向精神薬を未遂・自傷手段として過量服薬し,その割合は女性に多かった。さらに未遂者の45%,自傷者の48%がアルコール乱用もしくは依存症の診断に該当し,その割合は男性に多かった。この結果から,われわれは救命救急医療の場に搬送される未遂者,自傷者に対して,再自殺予防の見地から性別を考慮した向精神薬とアルコールによる精神疾患への早期介入の必要性を提案した。これらの疾患は,それ自体が自殺のハイリスク因子であり,また,自殺企図のハイリスク因子である気分障害,統合失調症そしてその近縁疾患に共存することに注意を払う必要がある。
一般投稿
原著
  • 渡邉 明, 名越 泰秀, 黒田 友基, 福居 顯二
    2011 年 23 巻 3 号 p. 277-286
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2015/05/20
    ジャーナル フリー
    2010年7月~12月の6カ月間で,京都第一赤十字病院入院中にせん妄と診断された21名のがん患者を対象に,quetiapine(QTP)の有用性についてのopen studyを行った。せん妄の重症度はDelirium Rating Scale Revised 98(DRS-R98)を使用し,QTP 50 mgから開始して,DRS-R98が50%以上改善するまで1日ごとに増量した。DRS-R98は平均20.6から6.7に有意な改善を認め,平均投与量は147.3 mg,改善までに平均2.0日を要した。介護負担の評価に関しては,介護者や担当看護師を対象にVisual analogue scale(VAS)を用いて評価し,平均6.8から1.6と有意な改善を認めた。有害事象は眠気とめまいを1例ずつ認めたが減量にて改善した。有害事象での投与中止例はなかった。
  • ─慢性期統合失調症および失調感情障害患者57例に対する6カ月間の臨床的検討─
    嶽北 佳輝, 坂井 志帆, 村田 知康, 織田 裕行, 田近 亜蘭, 吉村 匡史, 加藤 正樹, 木下 利彦
    2011 年 23 巻 3 号 p. 287-294
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2015/05/20
    ジャーナル フリー
    関西医科大学附属滝井病院精神神経科外来に通院中の慢性期統合失調症および失調感情障害患者57例においてrisperidone持効性注射製剤(RLAI)への切り替えを行い,6カ月間の有効性,忍容性,処方動向の変化,継続率の検討を行った。RLAIの治療継続率は71.8%であり,BPRS総得点では有意な低下が認められたが(p=0.002),DIEPSS合計点では有意な低下はみられなかった。 抗精神病薬やbenzodiazepine系薬剤,抗パーキンソン病薬などの併用薬投与量は,RLAI投与開始前と比較し有意な低下は認められなかった。高い治療継続率やBPRSの改善には患者へのアプローチへの工夫や服薬アドヒアランスの改善,製剤の特徴が関係している可能性があると考えられた。これらのことから,RLAIは総合病院精神科での外来治療の継続維持に有用な選択肢の一つとなることが示唆された。
資料
  • ─がん患者の家族を対象としたインターネット調査より─
    松下 年子, 野口 海, 小林 未果, 松田 彩子, 松島 英介
    2011 年 23 巻 3 号 p. 295-305
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2015/05/20
    ジャーナル フリー
    がん患者にとって家族は重要なケア提供者である。家族が患者の心の負担や患者への心のケア・サポートをどのようにとらえているかを把握する目的で,家族500名を対象としたインターネット調査を実施した。家族からみて患者が最も心の負担を感じるときは病名・再発・転移告知であり,その際に,家族からみて医療者の患者への心のケア・サポートが「あった」は26.4%,「なかった」は26.9%(提供者は主治医86.7%,看護師38.1%),その結果「楽になったようだ」は87.6%を占めた。家族からみた患者自らの相談は「あった」が53.5%で,その相手は家族が93.9%を占めた。家族が希望する「がん患者に対する心のケア・サポート」は,主治医や医師による診断時からの励まし,安心感の提供,適切な情報提供などであった。患者の心の負担と患者への心のケア・サポートのとらえ方は,患者家族間で異なる可能性が示唆され,それを踏まえたケアの必要性がうかがわれた。
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