超高齢社会を迎えたわが国において,認知症患者の身体疾患治療は医療上の大きな課題である。今後のわが国における認知症患者の身体疾患治療の対策を考える基礎とするため,一般病床高齢入院患者の認知症有病率を調べることを目的として,総合病院精神医学会認知症委員会で多施設共同研究を行った。本稿ではその結果について報告する。委員の所属する病院で一般病床高齢者入院患者を対象に,高齢者総合機能評価:comprehensive geriatric assessment(以下「CGA」)の認知項目,認知症診断歴の有無,抗認知症薬投与有無,レセプト上認知症関連疾患病名有無を調査し,認知症患者の頻度を推定した。同手法では一般病床入院患者の17.5〜52.3%が認知症の可能性があると推定された。
認知症高齢者では,身体疾患と精神症状が互いに影響しあい,双方への対応が同時に必要となることがある。このような場合,精神科医療従事者はコンサルテーション・リエゾン活動という形で関わる機会が多い。筆者の所属する施設では,せん妄や認知症患者への対応を主な目的として, 2013年5月よりリエゾンチームの運用を開始した。その結果,より多くの認知症高齢者に対し介入を行うことが可能となり,多職種による効果的なチーム医療を実践することができるようになった。 また,救命救急センターにおけるコンサルテーション・リエゾン活動では,自殺企図者への対応が最も重要である。高齢自殺企図者への対応の際には,①注意深い再企図リスクの評価と精神医学的評価を行うこと,②身体科との連携を心がけること,③可能な限り多面的な視点からの評価と介入を行うこと,が重要である。
高齢化社会を迎えたわが国では,認知症患者への支援体制の整備が緊急の課題である。そのなかで,従来悪性腫瘍への対応を中心に発展してきた緩和ケアを認知症ケアへ応用する試みが行われている。緩和ケアのアプローチの最大の特徴は,このような疾病の経過(illness trajectory)を把握し,現在どの時点にいるかを認識したうえで,今後,さまざまな身体症状による苦痛がいつ起こり得るか,患者・家族はどのような体験をし得るかを予測し,患者・家族の苦悩にあらかじめ対策を立てることにある。認知症への支援には,合併症管理や身体症状への対応と連携をとった精神心理的支援,社会的問題への支援が必要である。総合病院において,精神科医は身体症状と精神症状の両面を評価し,包括的な支援体制を構築するうえで,重要な役割を担う。
高齢者虐待防止法には,身体的虐待,心理的虐待,性的虐待,介護等放棄,経済的虐待の5つが規定されている。このほかセルフ・ネグレクトを重視する考え方がある。セルフ・ネグレクトは独立した死亡因子とされる。認知症高齢者は記銘力や判断力低下のために経済的虐待を受けやすい。 しかし,経済的虐待は把握が困難なばかりでなく,わが国が制度上,世帯を単位として社会保険料徴収や生活保護を行っている関係上,告発困難な側面もある。通報窓口は地域包括支援センターあるいは市町村である。通報電話番号が地域割りで数多く存在し,適切な通報番号を見つけることが困難なことがある。対応においては,「加害者を援助する」視点,「家庭全体を支援する」視点が重要である。 深刻な例では加害者から被害者を分離するが,そこでの医師の役割は大きい。
コンサルテーション・リエゾン精神医療において必要とされている心理的介入にはさまざまなレベルのものがある。また,治療の中心が身体科である点や多職種チームで関わっている点などを考慮した工夫も必要である。段階的ケア・モデルを用いることによって,必要とされている心理的介入に応じて,チームメンバーの役割を整理できる可能性がある。本報告では,当院のリエゾンチームに依頼があり,心理的介入を行った症例について,段階的ケア・モデルの基準に照らし合わせて各レベルに相当すると考えられる症例を,1レベルにつき1症例ずつ紹介した。今回の4症例はすべて臨床心理士が心理的介入を行った。段階的ケア・モデルに準じて整理すると,レベル1や2相当の症例は身体科スタッフや専門看護師によって対応可能であることは明らかであった。それを可能にするためには,段階的ケア・モデルに基づき各医療者が心理的介入についての知識や技術を身につける教育システムの整備が必要となる。
疾患のリスク因子を検討するために用いられる観察研究の一つにコホート研究がある。現時点で研究対象者を集め,将来に向かって追跡調査するのが前向きコホート研究であり,より質の高い研究にするためには研究からの脱落を予防する工夫が必要になる。現在当施設では「急性冠症候群に続発する心的外傷後ストレス障害の栄養学的危険因子を検討する前向きコホート研究」を精神科,循環器内科共同で実施している。本稿ではコホート研究からの脱落を防ぐための精神科と身体科との連携の工夫について検討した。研究参加者の半数以上を占める高齢者に特に配慮し,入院期間に応じた迅速な対応を取り,退院後の脱落を防ぐため定期的に連絡を取ることが重要であると考えられた。研究参加者の負担軽減のため,研究目的用の採血は身体科採血に合わせて同時に実施し,精神科の面接調査は身体科の通院,入院の都合に合わせて実施するなどの工夫も有用と考えられた。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら