日本消化器外科学会雑誌
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24 巻, 3 号
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  • 森岡 恭彦
    1991 年 24 巻 3 号 p. 741-747
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    わが国において肝切除術対象の主要部分を占める疾患は肝細胞癌であるが, その切除成績は必ずしも芳しいものとはいえない.その原因を検討し成績を向上させるため, 東京大学第1外科学教室における肝細胞癌切除症例193例を分析した.なお135例に肝区域切除以下のいわゆる小範囲肝切除を, 58例に葉切除以上の広範囲切除を施行した.
    肝細胞癌で1981年6月以降に切除された症例では1981年5月以前に切除された症例と比較し, 出血量が有意に少量であり, 手術死亡も少い.また, その遠隔成績も良好であり, 5年生存率は37.9%である.これは手術器械の開発, 画像診断法の進歩, 肝区域についての解剖学的知見, 術後の肝不全や呼吸不全などの重篤な合併症の病態の把握, 対策法の研究, 手術限界判定法の進歩などによりもたらされたものである.しかし, 肝細胞癌ではいまだに再発症例も多く, その再発予防法の開発が望まれる.再発に対して再切除が有効であり, 積極的に再切除すべきと考える.
  • 噴門癌モデルを用いて
    松尾 喬之
    1991 年 24 巻 3 号 p. 748-756
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    噴門癌モデルを用い, 下縦隔, 腹部大動脈周囲リンパ節への転移経路, および横隔膜へのリンパ行性進展の可能性について検討した.経内視鏡的にVX2腫瘍を家兎の下部食道 (E<C), 食道胃接合部 (C≧E), 胃上部 (C) の各領域に移植し噴門癌モデルを作成, 微粒子活性炭 (CH44) を用いリンパ流を観察した.腹部傍食道を上行する上方向へのリンパ流は, C≧E群15例中6例 (40%), E<C群10例中6例 (60%) にみられ, C群および対照群では認めなかった.腹部大動脈周囲に向かう下方向へのリンパ流は, 左胃動脈経路45例中36例 (80%), 下横隔動脈経路45例中12例 (27%) にみられた.横隔膜へ向かう側方向へのリンパ流はC≧E群, E<C群, 25例中3例 (12%) で横隔膜漿膜下にみられた.すなわち上方向, 側方向へのリンパ流は癌腫の進行に伴う側副経路として考えられ, また食道胃接合部領域と大動脈周囲リンパ節とはリンパの流れに密接な関係があることが示唆された.
  • 朴 常秀, 中根 恭司, 奥村 俊一郎, 岡本 真司, 岡村 成雄, 笠松 聡, 広実 伸郎, 田中 完児, 日置 紘士郎, 山本 政勝, ...
    1991 年 24 巻 3 号 p. 757-762
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌切除例94例を対象とし, 術前診断にplain computed tomography (plainCT) および, dynamiccomputed tomography (dynamic CT) をもちいて, 癌の漿膜浸潤, リンパ節転移の診断能について検討した.
    漿膜浸潤の正診率は, plain CT76%, dynamic CT80%で有意な差は認められなかったが, S2とS3の鑑別診断能はplain CT 56%, dynamic CT 84%であり, 他臓器浸潤の判定にdynamicCTは有用であった.リンパ節転移程度別の正診率は, plainCT59%, dynamicCT80%であり, 有意にdynamicCTが成績良好であった.所属リンパ節番号別にみた転移の有無の感受性でみると, plainCT58%, dynamicCT74%であり, 特にリンパ節郭清に重要なNo.(1),(7),(8),(9),(10),(11),(16) リンパ節の局在診断および質的診断にはdynamicCTが有用であった.
    以上により, dynamicCTは術前の進行度診断に有用であり, リンパ節郭清範囲, 手術術式の決定に寄与するものと考える.
  • 北村 正次, 荒井 邦佳, 宮下 薫
    1991 年 24 巻 3 号 p. 763-770
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    開腹時に腹膜転移を認めた胃癌300例を対象とし, 予後について検討した.これらの切除率は, P183.5%, P283.1%, P338.1%で全体では64.3%であった.P (+) 全体ではPの進行とともに生存率は低下し, P1とP3 (p<0.001), P2とP3 (p<0.05) の間に有意差を認めた.P (+) の胃切除例ではP1とP3 (p<0.05) の間に有意差をみたが, 非切除では差を認めなかった.リンパ節郭清度別に予後をみると, P1ではR2がR0より有意 (p<0.05) に良好であったが, P2およびP3では郭清度をあげても有意な生存率の上昇をみなかった.化学療法では非切除・化療 (+) の予後は非切除・化療 (-) より有意 (p<0.001) に良好であり, 切除・化療 (+) の予後も切除・化療 (-) より同様に良好であった.化療の内容では従来の5FU, MMC・5FU, ADM・5FUよりSequential MTX・5FUの有効性が示された.以上よりP (+) 例には適切な手術適応と郭清ならびに有効な化学療法の選択が重要と考えられた.
  • 東山 考一, 梨本 篤, 佐々木 壽英, 赤井 貞彦, 加藤 清, 佐野 宗明, 筒井 光広
    1991 年 24 巻 3 号 p. 771-778
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    80歳以上を高齢者とし, 高齢者胃癌症例66例と74歳以下の胃癌症例4,066例との間で種々の臨床病理学的事項について比較検討し, 高齢者胃癌の持つ外科治療上の問題点を追求した.その結果: 1) 両者間の切除率および胃全摘率に差はなかったが, 切除直死率は74歳以下群の0.8%と比べて5.3%と高齢者群で有意に高く (p<0.05), 22.8%の術後合併症の発生をみた.2) 組織学的に分化型が多く, リンパ節転移陽性率は高い傾向にあった.3) 両者の治癒切除例における5年生存率は他病死を除くと74歳以下群74.8%, 高齢者群66.2%であるが, 他病死を含むとそれぞれ72.1%, 51.9%となり高齢者群で他病死が多くみられた.4) 術後合併症の発生に関する危険因子として術前の肺活量 (%vc) が参考になると考えられた.以上よりquahty of lifeを考慮し高齢者胃癌では全身状態に問題がなければ治癒切除を目ざし, 不良なものは無理をしない合理的な手術が望ましいと考えられた.
  • 百瀬 隆二
    1991 年 24 巻 3 号 p. 779-787
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    著者は胃全摘術後長期経過例 (L群) の病態を解明する目的で, 術後の骨代謝障害, 消化吸収障害および貧血について, 短期経過例 (S群) を対照として比較検討した. 対象はL群が31例, S群が21例の計52例で, 術式の内訳は空腸間置術が41例, Roux-en-Y吻合術が11例である.骨代謝障害の発生頻度はS群57.1%, L群42.9%と両群間に有意差は認められず, 術式別, 年齢別にみても両群間に差はみられなかった.蛋白と脂肪の消化吸収はL群が不良で, ことにRoux-en-Y吻合術で吸収不良例が多かった.貧血はS群44.4%, L群55.6%に認められ, 鉄欠乏性貧血は術後早期より, 巨赤芽球性貧血は術後長期経過後に認められる傾向にあった.以上の成績きより, 胃全摘術後長期例に対しては定期的な食事指導と貧血のチェックが必要であるとともに, duodenal bypassとなる術式を可能なかぎり避けるべきであることが明らかにされた.
  • 榊原 敬
    1991 年 24 巻 3 号 p. 788-797
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    選択的近位迷走神経切離術兼幽門洞粘膜切除術 (selective proximal vagotomy with mucosalantrectomy: SPV+MA) は, 幽門輪近くで吻合を行うと胃内容排出能障害がみられる.これを予防するには, 幽門洞粘膜をできるだけ温存すればよい.一方, 温存範囲を広くすれば, 十分な減酸が得られない.そこで, 幽門洞粘膜温存範囲と減酸との関係をみるために, イヌを用いて幽門洞粘膜の温存範囲を幽門輪より1cm, 2cmおよび3cm温存の3群に分け, 術前, MA後およびSPV+MA後に胃内外分泌機能検査および胃排出能検査を行い, 比較検討した.
    SPV+MAにおいて, 3cm温存群で術後高gastrin血症が見られたが, MAO46.6%, IAO90.0%と十分な減酸が得られた, また胃排出能検査において, 液体および固体の胃排出能は満足すべきものであった.したがって, 幽門輪よりできるだけ遠位で吻合を行うという見地より, 幽門洞粘膜温存範囲は幽門輪より3cmまで温存することが可能であると考えられる.
  • 磯崎 博司, 岡島 邦雄, 革島 康雄, 山田 眞一, 森田 真照, 中島 立博, 中田 英二, 伊賀 千洋, 石橋 孝嗣, 谷村 雅, 原 ...
    1991 年 24 巻 3 号 p. 798-804
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝硬変併存胃癌に対するリンパ郭清のあり方を検討する目的で, 肝硬変併存胃癌切除28例を対象として, 術前検査値, 術中所見およびリンパ節郭清程度と術後合併症の関係を検索した.結果: 1) 術後の合併症発生率は71% (重度合併症28%) と高率であった.2) 重度合併症はChild C, 術前検査値が血清GOT80U/L以上, ビリルビン1.1mg/dl以上, アルブミン3.0g/dl未満, ICGR1535%以上で高率に発生した.3) 術中腹腔内静脈怒張を有する症例では重度合併症の発生率が高かった.4) 肝硬変が高度の症例では縮小郭清をしても合併症が発生した.5) No.12リンパ節郭清を腹腔内静脈怒張例に行うと重度合併症の発生率, 死亡率が高かった.6) 術後5年生存率は早期癌56%, 進行癌14%と不良で, 肝細胞癌死・肝不全死が多かった.結論: 肝硬変併存胃癌の手術では胃癌の進行度と肝硬変程度の両面を考慮することが必要で, リンパ節郭清範囲は必要最小限にとどめるべきである.
  • 松田 康雄, 中島 邦也, 藤川 正博, 位藤 俊一, 水野 均, 吉田 洋, 薮内 以和夫, 西岡 稔, 伊豆蔵 豊大
    1991 年 24 巻 3 号 p. 805-812
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    細小肝癌切除例21例および絶対非治癒切除例を除外した非細小肝癌切除例41例の計62例を対象にその遠隔成績について検討した.その結果, 細小肝癌の累積生存率は3年95%, 5年61%と非細小肝癌の累積生存率3年44%, 5年33%に比較し有意に良好であった (p<0.01).また, 細小肝癌の累積癌死率は非細小肝癌の累積癌死率に比較し有意に低値を示した (p<0.05).しかし, 累積再発率においては両群間に有意の差を認めなかった.細小肝癌は非細小肝癌に比べ再発までの期間が有意に長く (p<0.05), かつ単発性残肝再発を示すものが多かった (p<0.05).再発例に対する再手術率は細小肝癌において有意に高値を示した (p<0.05).以上より, 細小肝癌切除例においても術後長期に渡るfollow upが重要であり, また残肝再発例に対しては積極的に再手術を行うことにより良好な予後が得られるものと考える.
  • 萱原 正都, 永川 宅和, 上野 桂一, 太田 哲生, 小林 弘信, 角谷 直孝, 森 和弘, 中野 達夫, 宮崎 逸夫
    1991 年 24 巻 3 号 p. 813-817
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵頭部癌切除例44例を対象に神経浸潤を膵内神経浸潤と神経叢内神経浸潤にわけ, リンパ管浸潤, リンパ節転移との関係を臨床病理学的に比較検討した. 44例中39例がrpeであり, 膵内神経浸潤を40例 (91%) にみた.神経叢浸潤はrpe39例中27例 (69%) に認められ, 膵内神経浸潤とリンパ管浸潤, リンパ節転移とは相関がなかった.神経叢浸潤と膵内神経浸潤は有意な正の相関がみられたが, リンパ管浸潤やリンパ節転移とは明らかな相関はみられなかった.リンパ管浸潤とリンパ節転移は正の相関をみた.神経叢浸潤陽性例が陰性例に比べ, リンパ節転移率が高く, とくに (14) 転移率は神経叢浸潤陽性例が有意に高率であった. しかし,(14) 転移陰性例でも10例に膵頭神経叢第2部に浸潤がみられ, 神経叢の完全切除が重要と考えられた.
  • 大下 裕夫, 田中 千凱, 深田 代造
    1991 年 24 巻 3 号 p. 818-823
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大腸癌同時性肝転移64例の臨床病理像と手術術式別の遠隔成績について検討した.1) 肝転移の程度別発生頻度はH127例, H211例, H326例で, H1では右葉転移が88.9%を占めた.下腸間膜静脈に流入する左側大腸では右葉のみならず左葉にも転移する傾向が認められた.2) 原発巣を切除された症例の予後を肝転移の程度別に比較すると, H3はきわめて不良であった.3) H1の肝切除群 (A群), H1の大腸切除群 (B群), H2の大腸切除群 (C群), H3の大腸切除群 (D群), 非切除群 (E群) の予後を比較すると, A群はB群よりも術後1年以内の短期生存率が良好であった.原発巣のみを切除したB, C, D群とE群とを比較すると, D, E群の予後がきわめて不良であった.4) 少なくとも, H1症例では肝切除によって予後の向上が期待されたが, H3症例での原発巣切除はreduction surgeryとしての意義は認められなかった.
  • 初瀬 一夫, 小宮山 明, 国松 範行, 前村 誠, 青木 秀樹, 山本 眞二, 柿原 稔, 長谷 和生, 望月 英隆, 玉熊 正悦
    1991 年 24 巻 3 号 p. 824-830
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大腸癌肝転移切除例29例を対象とし肝切除後の遠隔成績および再発に関与する諸因子につき検討した.大腸癌取扱い規約による同時性H1肝転移肝切除9症例の3年生存率は54%, 非切除9例では0%であり, またH2転移肝切除7例の3年生存率は33%, 非切除10例では2年生存例はみられず, H1, H2とも肝切除症例のほうが予後が良好であった.H1肝切除症例21例において年齢, 性別, 術式, 切除時期, 転移個数, 大きさ, 術前TAEの有無について生存率を比較したが, 性別で男性が有意に予後が良好である以外差はみられなかった.術式としては部分切除と系統的区域切除とで予後, 再発率に差がみられないことから部分切除でよいと思われた.H121例の肝切除後再発例は11例 (52%) で残肝再発が8例 (73%) と最も多かった.以上のことから大腸癌肝転移例には肝切除が勧められ, 術式としては原則的に部分切除で十分であるが, 残肝再発が多くそれに対する予防治療対策が今後の課題と考えられた.
  • 奥本 聡, 堀田 芳樹, 加藤 道男, 出口 浩之, 橋本 芳正, 黒田 勝哉, 坂根 正芳, 山口 俊昌, 斉藤 洋一
    1991 年 24 巻 3 号 p. 831-839
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    若年者を30歳未満と定義して, 当教室で経験した若年者大腸癌症例の臨床病理学的特徴を非若年者と比較するとともに, 若年者の術後成績が不良であるか否かを検討した.若年者は12例で全大腸癌症例534例の2.2%を占めた.臨床的項目のうち, 直腸癌で腹痛を主訴とした症例が3例 (42.9%) で非若年者と比較し高い頻度であった.組織型では高分化腺癌が2例と, 有意に少なく若年者ではより未分化な症例が多かった.組織学的深達度では他臓器浸潤を認めた症例が5例 (55.6%) と有意に多かった.腹膜播種を認めた症例は3例 (27, 3%) で, 進行度でもstageVが4例 (44.4%) と多い傾向にあり, 若年者では手術時進行した症例が多く, これが切除率が低くて切除後の遠隔成績も不良であることの要因と考えられた.しかし治癒切除後の遠隔成績は良好であり, 若年者といえども大腸癌の存在を考慮して早期診断のための積極的な精査が必要と考えられた.
  • 白井 芳則, 更科 広実, 斉藤 典男, 布村 正夫, 奥井 勝二
    1991 年 24 巻 3 号 p. 840-845
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    69歳以下の男性直腸癌治癒切除例のうち, 骨盤内自律神経を温存しえて再発や転移を認めない症例を対象に, アンケート調査および術前, 術後の性機能検査を行い, 術後の性機能障害について検討した.手術時の平均年齢は55.9歳, アンケート調査時は平均57.7歳であった.アンケート調査結果より, 骨盤内自律神経をすべて温存した群 (全温存群) では勃起障害7.1%, 射精障害21.4%であったのに対し, 下腹神経を損傷し骨盤神経叢を温存した群 (部分温存群) では勃起障害26.3%, 射精障害100%であった.術式別では低位前方切除例および側方郭清非施行例に性機能障害が少なかった.性機能検査結果より, 勃起障害は切手法, AVSS負荷試験で確認されたが, 全温存群においても術後に精液量の減少を認めた.また陰茎の流入動脈系に異常を認めた症例はなく下垂体, 性腺機能にも大きな変動はみられなかった.
  • 広背筋皮弁を用いた食道再建術
    大田 準二, 藤田 博正, 辻 義明, 山名 秀明, 白水 玄山, 南 泰三, 掛川 暉夫
    1991 年 24 巻 3 号 p. 846-850
    発行日: 1991年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    乾燥剤 (生石灰) を誤飲し, 食道気管瘻を伴う腐蝕性食道狭窄の女児に対し, 広背筋皮弁を胸腔内に誘導する食道形成術および瘻孔閉鎖術が施行された.術後縫合不全が認められたが, 筋弁内に限局しており, 自然治癒した.
    腐蝕性食道狭窄の治療として, 有茎腸管によるバイパス術が一般的であるが, われわれは今回, 第1に広背筋皮弁の皮弁部で食道を再建し, 筋弁部で気管瘻孔閉鎖部を被覆補強する, 第2に食道をできるだけ温存するという目的で本術式を行った.一方, 本症例の経験から, 広背筋皮弁による胸部食道の再建において縫合不全, 吻合部狭窄などいくつかの問題点も明らかとなった.
  • 金 祐鎬, 鈴木 一男, 熊谷 太郎, 千木良 晴ひこ, 加藤 岳人
    1991 年 24 巻 3 号 p. 851-855
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    過去10年間で3例の食道原発悪性黒色腫を経験した.3例とも嚥下障害を主訴とし中下部食道に発生し, 黒色腫に特徴的なポリポイド様隆起性病変であった.症例1は69歳男性で, 未分化癌の診断にて術前放射線療法施行し, 腫瘤の著明な縮小を得て診断より4か月後食道亜全摘術施行したが肝, 肺に転移あり, 1か月後死亡した.症例2は60歳男性で, 診断時すでに多臓器転移があり, DAV (dacarb-azine, nimustin hydrochloride, vincristine sulfate) およびOK432の免疫化学療法を施行したが効果えられず6か月後死亡した.症例3は56歳女性で, 悪性黒色腫の診断後1か月で下部食道切除, 胃全摘膵尾脾合併切除術施行.術後DAV療法を併用し16か月後の現在再発の兆候はない.食道悪性黒色腫は進行例が多く, 予後向上のためには診断がつきしだいできるだけ早期の外科的切除と, 放射線および各種免疫化学療法を施行すべきと思われる.
  • 倉吉 和夫, 木村 修, 豊田 暢彦, 坂本 秀夫, 塩田 摂成, 米川 正夫, 星野 和義, 前田 迪郎, 貝原 信明
    1991 年 24 巻 3 号 p. 856-860
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    頸部食道癌の外科的治療においては, 他臓器合併切除を余儀なくされる場合が多い.甲状腺の合併切除を伴う症例に対しては甲状腺ホルモンを投与する必要があるが, 甲状腺製剤は経口剤しか製薬化されていないため, 術後早期の投与に難渋することがある.今回, 私どもは甲状腺全摘を伴う食道癌切除例に対して, 当院で作製した甲状腺製剤坐薬の投与を行い, 血中甲状腺ホルモン濃度の低下を防止しえたと考えられる症例を経験した.
    症例は58歳男性で, 下咽頭から頸部食道に至る10cm長の食道癌が両側甲状腺後壁への直接浸潤を認めたため, 甲状腺, 副甲状腺の合併切除を伴う食道全摘術を施行した.術後, 経口摂取不能の約3週間にわたり, 甲状腺末ならびにT4製剤坐薬の投与を行い, 血中T3, T4の低下ならびにTSHの上昇を抑制することが可能であった.本投与方法は, 経口摂取不能患者に対する甲状腺ホルモン投与法として有用と考えられる.
  • 前野 宏, 安江 満悟, 小島 宏, 平井 孝, 坂本 純一, 安井 健三, 山村 義孝, 加藤 知行, 紀藤 毅, 宮石 成一, 中里 博 ...
    1991 年 24 巻 3 号 p. 861-865
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は66歳男性.1989年8月27日, 腹痛, 嘔吐, 発熱が出現.8月28日, 他院に急性腹症として緊急入院し, 胃内視鏡内視鏡生検, computed tomographyなどにより, 胃癌および癌性腹膜炎と診断された.9月19日, 当院へ転院.当院の胃生検では癌は証明されなかったが, 上部消化管造影などでBorrmann4型胃癌と診断し, 10月6日, 手術を施行した.切除標本では胃大弯側に穿孔部を認め, その外側に炎症性肉芽腫が存在した.それとは別に小弯に潰瘍性病変が存在し, その中にアニサキス虫体と思われる異物を認めた.摘出標本の検索では胃癌は存在せず, 両病変ともにアニサキスによるものと診断した.本症例は, アニサキスにより胃に潰瘍性病変を形成し, さらに, 別な部分に胃穿孔を起こしたというきわめてまれな症例であり, さらに, 術前に画像検査および病理組織検査で癌と診断されたという点でも示唆に富む症例であった.
  • 嘉悦 勉, 新井 一成, 原田 高志, 丸岡 義史, 鈴木 恵史, 石井 博, 加藤 貞明, 河村 正敏, 小池 正, 鹿間 祐介, 松村 ...
    1991 年 24 巻 3 号 p. 866-870
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は70歳男性.言語・構音障害を主訴に当院入院.左側頭葉に血腫を認め, 保存的治療を行っていたが, 突然, 出血性ショックに陥り, 厳重な全身管理下に出血源精査を行った.上部消化管内視鏡検査では胃体上部にIIc型早期胃癌を認めたが, 出血源とは断定できず, 腹部超音波検査および腹部computed tomography検査を行った.肝下面を中心とする腹腔内血腫が認められ, 腹部血管造影検査を行い左胃動脈瘤の存在を認めたため, 早期胃癌を併存した左胃動脈瘤破裂と診断し, 胃全摘術を施行して救命しえた.本症は, 調べえた本邦報告例では10例とまれであり, かつ破裂例は6例のみであった.画像診断, 全身管理の進歩により, 近年予後の改善をみているが, いまだ診断に難渋している症例が多かった.原因不明の腹痛, 急激なショックを呈した症例に遭遇した際には本症も念頭に置くべきと思われた.
  • 上松 俊夫, 北村 宏, 岩瀬 正紀, 小栗 孟, 津崎 修, 二村 雄次
    1991 年 24 巻 3 号 p. 871-875
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    線毛円柱上皮よりなる消化管重複症の2例を経験したので報告する.症例1は14歳の男性で無症状.腹部computed tomographyにて偶然発見された.重複胃は胃体上部後壁に強固に結合, 一部筋層を共有していた.大きさは7×4×4cm.病理組織検査で, 重複胃は多列線毛円柱上皮で覆われ, 3層の比較的厚い筋層を有した.症例2は15歳男性で主訴は腹痛と嘔吐.イレウスにて手術.重複腸管は回腸にあり, 大きさは10×6.5×6.5cmで, 回腸の軸捻転を伴っていた.重複腸管は内面を多列線毛円柱上皮で覆われ, 厚い筋層を回腸と共有していた.消化管重複症は種々の発生学的異常に起因するためか, 組織学的にも解剖学的にも多彩である.自験例は食道重複症でしばしばみられるように線毛円柱上皮で覆われており, その解剖学的, 病理組織学的特徴から, 胎生期の前腸に由来する消化管重複症と考えられた.
  • 増田 亨, 森 孝郎, 池田 哲也, 下野 一子, 森山 茂, 梅枝 覚, 永田 憲和
    1991 年 24 巻 3 号 p. 876-879
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性で上腹部鈍痛, 食欲不振を主訴として入院.腹部超音波検査と腹部CT検査にて肝S5に径7cm大の腫瘍を認め, 腹部血管造影では動脈門脈ともに前下区域枝の偏位を認めた.術前診断は胆管細胞癌であった.手術は拡大右葉切除を行った.病理組織では腫瘍組織は厚い線維性間膜で囲まれ硬化型肝細胞癌と診断された.DNA histogramより腫瘍はaneuploidを示し, 胆管細胞癌に特異的なTPA染色は陰性であった.本例は術後8か月と早期に骨転移をきたし死亡し悪性度の高い腫瘍と考えられた.
  • 堀内 哲也, 坂口 雅宏, 岡 統三, 山本 誠己, 鎌田 義紘, 田中 晋二, 田伏 克惇
    1991 年 24 巻 3 号 p. 880-884
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝内結石症に肝原発腺扁平上皮癌を併存した1例を経験した.
    症例は74歳の男性で上腹部痛と発熱を主訴とし, 肝内結石および総胆管結石症を疑われ, 当科に入院した.諸検査により肝内結石症の肝膿瘍の合併と考え, 肝左葉切除術を施行した.病理組織学的には左肝管付近にはcholangiocarcinomaが, 外側上区域にはsquamous cell carcinomaが存在し, 肝内結石症に合併した肝原発腺扁平上皮癌と診断した.術後3か月目に肝転移をきたし, 術後9か月目に肝不全にて死亡した.
    肝原発腺扁平上皮癌は1971年にPianzolaらが最初の報告をし, 以後現在までに21例の報告がある.肝における扁平上皮癌の発生母地については諸説があるが, 本例においては胆管癌より化生性変化をきたしたものと考えた.さらに本例では肝内結石が胆管癌の発生に関与したと思われた.
  • 奥田 康司, 安藤 和三郎, 牟田 幹久, 谷脇 智, 馬田 裕二, 安永 弘, 名嘉真 透, 浦口 憲一郎, 押領司 篤茂, 才津 秀樹, ...
    1991 年 24 巻 3 号 p. 885-889
    発行日: 1991年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    下大静脈腫瘍栓合併肝細胞癌の切除を経験した.腫瘍栓は右肝静脈より胸腔内下大静脈右房直下に達し, 肝授動, 肝切除操作により腫瘍栓遊離による肺梗塞を起こす危険性が感じられたため, バイオポンプを用い体外循環下に肝ならびに下大静脈のcomplete vascular exclusionを施行した後, 肝切除および下大静脈部分切除, 腫瘍栓摘出術を行った.この際, 長時間の肝阻血に対し門脈より4℃ 乳酸加リンゲル液にて肝を持続灌流冷却した.肝阻血時間は70分であったが再灌流後の肝の色調は赤紫色均一で, 術後GOTおよびTBの最高値はそれぞれ187K.U., 2.6mg/dlであり肝は良好に温存されていた.また現在術後15か月であるが再発微候はなく元気に社会復帰しており, 高度脈管浸潤を伴う肝細胞癌切除療法として同法の有用性が示唆された.
  • 山元 勇, 浜崎 啓介, 柚木 靖弘, 宮島 孝直, 合地 明, 阪上 賢一, 三村 久, 折田 薫三
    1991 年 24 巻 3 号 p. 890-894
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    52歳男性.約5年前より高血圧と慢性肝炎にて加療を受けていたが, 超音波検査にて肝臓のspaceoccupying lesion (SOL) を指摘された.入院時検査で肝硬変はなく, エコーでfocalnodular hyperplasia (FNH) の中心瘢痕を思わせる高エコー域を持つSOLを, magnetic resonance imaging (MRI) で車軸状の隔壁とみられるlow signal intensityを腫瘍内に認めた.computerized tomography (CT), 血管造影では, hepatocellular carcinoma (HCC), FNH両者の特徴を示す所見はなかった.術後標本では, 中心瘢痕様にみえた部分は細胞密度の高いfocal lesionであり, 車軸状隔壁にみえた部分は腫瘍辺縁から内に向かう血管であった.さらに, 腫瘤を細かくみると, 胆汁うっ滞の所見がなくfocal nodular growthを示すFNHの部分と, 不完全ながら被膜を有していることや胆管を欠いていること, さらにはpseudograndularな増殖を示すことより, HCCと診断すべき部分がみられた.HCCとFNHの併存はきわめてまれで, 診断および治療上, 興味ある症例と思われた.
  • 塩竈 利昭, 立川 隆義, 寺田 正純, 古井 純一郎, 松尾 繁年, 小原 則博, 江藤 敏文, 松元 定次, 瀬川 徹, 元島 幸一, ...
    1991 年 24 巻 3 号 p. 895-899
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    黄色肉芽腫性胆嚢炎 (xanthogranulomatous cholecystitis) は胆嚢癌との鑑別が困難とされているが, 超音波検査ならびにcomputed tomography (CT) 検査など画像診断にて鑑別が可能であった症例を経験したので報告する.症例は54歳女性.右季肋部痛の消腿後に, 胆嚢に腫瘍性病変を指摘されて来院した.超音波検査では胆嚢底部に全周性に壁肥厚を認め, 胆嚢内腔は狭小化していた.肥厚した胆嚢壁内には結節性にhyperechoic lesionを認め, 同部は造影CTでlow density areaとして描出された.また, 胆嚢頸部には最大径約5cmの結石を認めた.血管造影では胆嚢動脈は拡張し, 肥厚した胆嚢壁に沿って屈曲蛇行した細動脈の増生がみられたが, encasementは明らかでなかった.以上より, 胆嚢癌を否定し, XGCの診断のもとに胆嚢摘出術を施行した.切除標本の胆嚢壁内には黄色の結節を認め, 組織学的には同部にxanthoma cells, リンパ球および異物型巨細胞を認めた.
  • 村上 義昭, 児玉 節, 竹末 芳生, 沖田 光昭, 今村 祐司, 瀬分 均, 宮本 勝也, 津村 裕昭, 松浦 雄一郎, 横山 隆
    1991 年 24 巻 3 号 p. 900-904
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    若年時より右季肋部痛を認め, 臍腫瘤を主訴として来院した41歳, 女性に対し, 超音波検査, computed tomographyなどにて胆嚢癌の脳転移と診断した.手術は肝床部切除, リンパ節郭清, 横行結腸切除を含む胆嚢切除術と贋切除術を施行したが, 術中造影にて非拡張型の膵管胆道合流異常 (以下, 合流異常と略す) を認めた.また, 術後は膵液の逆流によると思われる肝機能障害が遷延した.本症例は, 非拡張型合流異常に発生した胆嚢癌の典型例であったが, 血行性あるいはリンパ行性に贋転移を認めた胆嚢癌というまれな症例であった.
    若年者の胆道癌, 若年時より右季肋部痛を右する無石慢性胆嚢炎には合流異常を念頭にいれた診断が必要であり, 非拡張型合流異常においても, 胆道周囲のリンパ節郭清後は, 膵液の逆流防止のため分流手術が必要と考える.
  • 上辻 章二, 山村 学, 吉岡 和彦, 奥田 益司, 山道 啓吾, 坂口 道倫, 山本 政勝
    1991 年 24 巻 3 号 p. 905-909
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胆管癌は適当なスクリーニング検査が確立されておらず, 黄疸が出現するまで自覚症状に乏しいため進行癌になってから発見されることが多い.今回われわれは, 進行胆管癌にもかかわらず, 軽度肝機能障害をきっかけとして無黄疸にて発見され治癒切除可能であった肝門部胆管癌の2例を経験した.
    症例1は68歳男性.腹痛を主訴とし来院し, 肝機能障害を指摘され, 種々の画像検査にて肝門部胆管癌と診断, 治癒切除が可能であった.症例2は66歳男性.症例1と同様無黄疸ではあるが肝機能障害を指摘され, 精査の結果肝門部胆管癌の診断にて治癒切除された.
    胆管癌は一般に黄疸出現後または腫瘤触知後に診断される例が多いが, 無黄疸時期においても血清生化学検査のわずかな異常を呈する時期に発見される可能性がある.われわれは, 無黄疸で, 肝機能のわずかな変化を示す時期に画像検査が有効であった肝門部胆管癌2例を経験し, 文献的考察を加え報告する.
  • 横山 伸二, 川島 邦裕, 紀 計二, 武田 晋平, 青儀 健二郎, 土井原 博義, 棚田 稔, 曽我 浩之, 栗田 啓, 多幾山 渉, 佐 ...
    1991 年 24 巻 3 号 p. 910-914
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵のsolid and cystic tumorは, 通常若年女性に発生した女性ホルモンとの関連が推察されているまれな腫瘍である.当科において49歳女性症例を経験し, 免疫組織学的にestrogen reseptor (ER), progesterone receptor (PgR) の有無について検討した.患老は, 平成元年4月に偶然右上腹部の無痛性腫瘤に気付いた.某医より膵頭部の嚢胞性腫瘍が疑われ当科に紹介, 膵頭十二指腸切除術を施行した.腫瘍は膵鉤部を占居, 7×5×5cm大で線維性被膜に囲まれ, 中央部は出血, 壊死を呈し壁在性に充実性腫瘍組織を認めた.組織学的には, 主として好酸性胞体を有す小型類円形の腫瘍細胞が不全腺管をなし索状構造をとりながら増生, 一部に被膜浸潤像を認め悪性と考えた.免疫組織学的にはα1-antitrypsin陽性であったが, 膵島ホルモン陰性であった.また, ER, PgRは陰性であり本症例の女性ホルモンの関与については不明であった.
  • 湯浅 典博, 堀 雅晴, 三尾 泰司, 関 誠, 高木 國夫, 西 満正, 加藤 洋
    1991 年 24 巻 3 号 p. 915-919
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    主病巣, 肝転移巣に石灰化をともなった粘液産生膵癌の1例を報告した.症例は75歳女性.腹部単純X線写真にて左上腹部に石灰化の集族を認め, 腹部超音波検査, 腹部computed tomographyにて石灰化をともなった膵尾部の腫瘤と肝右葉の腫瘤を認めた.膵管像では主膵管の拡張と陰影欠損を認め癌研ERCP分類III型であった.粘液産生膵癌, 肝転移, 横行結腸浸潤と診断し, 膵体尾部脾切除, 横行結腸合併切除を施行した.腫瘍は病理組織学的に粘液癌mucinous adenocarcinomaと診断された.石灰化巣は腫瘍内に存在し, その成因としてdystrophic calcificationが考えられた.
    石灰化 (膵石) をともなった粘液産生膵腫瘍の報告例は本症例を含めて6例で, 粘液産生膵腫瘍における石灰化の成因について考察を加えた.
  • 木村 良直, 小針 雅男, 武田 和憲, 中村 隆司, 古川 徹, 岩崎 剛一, 遊佐 透, 松野 正紀
    1991 年 24 巻 3 号 p. 920-924
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    教室で経験した非機能性膵島細胞腫瘍7例について臨床病理学的検討を行った.
    症例は全例女性で, 病理組織学的に4例が悪性, 3例が良性であった.腫瘍径が10cm以上では悪性例が多い傾向を認めた.
    臨床症状や血清生化学検査に特徴的な所見はなかったが, 画像診断では腹部血管造影の有用性が評価された.
    腫瘍占居部位は尾側が多く, 全例で肉眼的治癒切除が施行された.内訳は膵頭切除術2例, 膵尾側切除術3例, 腫瘍摘出術2例である.術後13年以上生存中の悪性例があり, 予後は比較的良好と考えられるが, 腫瘍摘出術後に肝転移と癌性腹膜炎で再発死亡した例もあるため, 早期診断, 適切な術式選択, 切除標本の十分な検索を行ったうえで, 長期間経過観察する姿勢が必要と考えられた.
  • 木下 平, 丸山 圭一, 笹子 三津留, 岡林 謙蔵
    1991 年 24 巻 3 号 p. 925-929
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵切除, あるいは消化管の再建を伴う上腹部手術後に起こる活性化膵液瘻, 縫合不全が遷延している時に, 突然発症する動脈性の大出血は, 致命的な合併症の1つである.
    われわれは胃癌手術術後に発生したこの腹腔内動脈破綻による大出血の症例に対し, 開腹止血後に, 手術創を大きく開創し, 出血部位を中心とした持続洗浄を行い, 活性化された膵液, 消化液による血管の消化作用を予防する方法を考案した.この方法の導入以来, 連続して4症例すべての出血のコントロールに成功しており, 有用な方法であると考えられる.
  • 杉江 知治, 大垣 和久, 菅 典道, 峰松 壮平, 白石 隆祐, 真辺 忠夫, 内田 耕太郎, 戸部 隆吉, 山辺 博彦, 高橋 清之
    1991 年 24 巻 3 号 p. 930-934
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は46歳白人男性, 下腹部痛を主訴として来院.血清CEA異常高値 (124ng/ml) 小腸造影, 選択的血管造影により小腸癌の術前診断で開腹した.回腸末端60cm口側, 腸間膜対側に直径約2cmの腫瘍, ならびに所属リンパ節, 傍大動脈リンパ節の腫脹を認めたため原発巣および転移リンパ節を可及的に郭清した.腫瘍は肉眼的には正常粘膜で覆われており病理組織学的には粘液産生を伴う管状腺癌であり粘膜筋板下に存し固有筋層で囲まれていることより憩室組織由来の腫瘍と判定された.術後抗癌剤感受性試験による化学免疫療法により非治癒切除であったにもかかわらず1年6か月たった現在でも健在である.
  • 固武 健二郎, 小山 靖夫, 池田 正, 清水 秀昭, 菱沼 正一, 稲田 高男, 尾澤 巌, 尾形 佳郎
    1991 年 24 巻 3 号 p. 935-939
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    同胞3名が若年性に発症した多発性大腸癌症例を経験した.本家系ではさらに3名の血縁者に癌の発症が確認されており, Lynchらの提唱するcancer family syndrome (以下CFSとする) に合致する家系であると考えられた.
    本家系では祖父が直腸癌, 母親が悪性リンパ腫, 多発大腸癌, 子宮内膜癌, その妹が子宮癌に罹患してそれぞれ癌死している.第3世代では, 現在までに長女に多発大腸癌, 子宮内膜癌, 卵巣癌, 長男と次女に多発大腸癌が確認され, この3名に大腸癌14病変, 子宮内膜癌と卵巣癌が各1病変認められている.
    CFSの本邦報告例18家系について検討した.74名の大腸癌患者の男女比は1: 0.9, 発症年齢は40歳代が最多で, 右側結腸癌の頻度が比較的高かった.多発大腸癌は28% (21/74), 重複癌は19% (14/74) にみられた.他臓器癌では, 診断基準に含まれている子宮内膜癌を除けば, 胃癌の合併頻度が高かった.
  • 山中 洋一郎, 恩田 昌彦, 田中 宣威, 松倉 則夫, 中村 孝, 青木 繁政, 笹島 耕二, 内田 英二, 小林 匡, 相本 隆幸, 浅 ...
    1991 年 24 巻 3 号 p. 940-944
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は21歳男性.慢性反復性の下血を主訴に来院し, 上腸間膜動脈造影検査にて回結腸動脈末端部のarteriovenous malformationと診断した.下血による高度の貧血が保存的に改善しないため, 回盲部切除術を施行した.切除標本の病理組織学的検索では, 粘膜固有層と粘膜下組織に壁の薄い小血管の拡張, 蛇行が著明で, 破綻血管も認められ, 盲腸を中心とする回盲部のangiodysplasiaと診断した.本症は, 高齢者の右側結腸に好発し, 血管造影あるいは内視鏡による診断が有用とされている.本邦では若年発症例は非常にまれであり, 文献的考察を加え報告した.
  • 二渡 久智, 落合 正宏, 船曵 孝彦, 天野 洋, 杉上 勝美, 藤田 真司, 山口 久, 亀井 克彦, 松原 俊樹, 福井 博志, 長谷 ...
    1991 年 24 巻 3 号 p. 945-949
    発行日: 1991年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    癌における神経周囲浸潤は膵胆道系に高頻度に認めるのみならず, 欧米ではS状結腸癌など他の消化器癌にも認め, 特に直腸癌に多いとの報告がある.しかし, 膵胆道系以外については本邦では十分な検討がなされていない.われわれはS状結腸癌の再発症例で, 外科的剥離面と強く関連したと思われる神経周囲浸潤が著明な症例を経験した.症例は50歳, 女性, S状結腸癌術後の骨盤内再発例で左臀部から, 左大腿部の激痛を再発症状とし骨盤内臓器全摘術施行した.病理組織学的検討で腫瘍は直腸, 膀胱間隙を中心に発育し, 左中直腸動脈起始部への浸潤が著明でこの部位に著しい神経周囲浸潤が観察され, 浸潤の進展距離は再発腫瘍塊辺縁より約1.0~1.5cm離れた部位に及んでいた.本例の初回摘出標本では断端に及んではいないものの中等度の神経浸潤を認めた.神経周囲浸潤が局所再発要因, 局所再発時痛の原因の1つとなっている可能性を示唆する症例と考え報告した.
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