日本消化器外科学会雑誌
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25 巻, 12 号
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  • 国崎 主税, 杉山 貢, 山本 俊郎, 片村 宏
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2891-2897
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    急性胃粘膜病変に対する予防法と治療法を確立する目的で実験的に検討した.Wistar系雄性ラットを用い, 薬剤非投与群, H2-receptor antagonistであるcimetidine投与群, 粘膜防御因子増強剤であるteprenone投与群の3群に分け, 水浸拘束ストレスを負荷した.Cimetidine投与群;酸分泌抑制作用に加えdose dependentに胃粘膜血流量を保持するdual actionを示した.水浸拘束負荷前値を1.0とすると薬剤非投与群では, 6時間後に0.154±0.007と低下したが, cimetidine 100mg/kg投与群では0.278±0.07と抑制傾向を示した.Teprenone投与群;胃粘膜血流量は, 3時間後には0.303±0.081, 6時間後には0.225±0.038と有意に抑制された.Potential difference, 胃粘膜内ヘキソサミン量も低下が抑制される傾向を示し, 攻撃因子としての胃粘膜内giycosidase活性や活性酸素も活性化が抑制された.急性胃粘膜病変の予防, 治療にH2-receptor antagonist, 防御因子増強剤の投与が有用と考えられた.
  • 西土井 英昭, 石黒 稔, 工藤 浩史, 貝原 信明
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2898-2902
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    残胃の癌44例を初回良性疾患術後の残胃癌33例 (良性群) と初回悪性疾患術後の残胃癌11例 (悪性群) に分け, 両老の背景因子を比較検討することにより, 残胃癌の発生促進因子について検討した.初回手術術式は良性群ではB-II法が多いのに対し, 悪性群ではB-I法とB-II法はほぼ同数であった.悪性群の癌発生部位は良性群に比べて吻合部には少なく, 残胃癌の肉眼型は初回胃癌と類似したものが多かった.残胃癌の発生間隔をみると, 良性群では吻合部23.2年, 断端部20.1年, その他の部位10.9年であるのに対し, 悪性群ではおのおの14.3年, 11.8年, 12.4年と部位別差異はなく, 良性群に比べて発生間隔の短い症例が多かった.以上より, 残胃癌の発生促進因子として良性群では残胃吻合部における胆汁を含む十二指腸液の逆流の関与が推察されたが, 悪性群では同一胃における多発癌のリスクの高さの方が発癌により強く関与しているのではないかと推察された.
  • 藍沢 喜久雄, 多田 哲也, 鈴木 聡, 藪崎 裕, 田中 典生, 田中 申介, 渡辺 和夫, 武藤 一朗, 片柳 憲雄, 西巻 正, 鈴木 ...
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2903-2913
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    髄様増殖性低分化型胃癌169例を組織像より, 1) 充実型 (97例), 2) acinar type (54例), 3) 未分化型 (12例), 4) lymphoid stroma (6例) の4型に分類し, 臨床病理学的, 組織化学的に検討した.充実型は肝転移率, リンパ節転移率がacinar typeに比べ高率で, 5年生存率も充実型49.1%, acinar type75.5%と充実型の方が予後不良であった.また, acinar typeはlymphoid stroma同様に間質に細胞浸潤反応を伴うものが多かった.充実型の中にはGrimelius反応陽性で, 内分泌細胞へ分化を示すものが11例 (11.3%), AFP陽性例が17例 (17.5%) あり, これらは予後不良で肝転移再発が多かった.また, c-erb B-2遺伝子蛋白の発現と予後との間に相関は認めなかった.以上, 髄様増殖性低分化型癌には予後の良いacinar typeや, 予後不良で独立した病理学的entityとされる内分泌細胞癌, AFP産生癌が認められ, 今後, これら高悪性度群に対する治療法の開発が望まれる.
  • 石川 詔雄, 深尾 立, 大塚 雅昭, 高瀬 靖広, 轟 健, 折居 和雄, 渋谷 進, 野末 睦, 湯沢 賢治, 足立 信也, 近森 文夫 ...
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2914-2920
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌手術の術前と術後に, リピオドール-抗癌剤懸濁液動注療法 (L-TAI) をおこなった, 絶対的非治癒切除例を除く肝切除耐術例34例の予後規定因子を検討した.そのうち11例 (32%) に再発を認めた.その無再発生存率は, 1年, 91%, 3年, 68%, 5年, 45%であった.L-TAIによる80%以上の腫瘍内壊死, 腫瘍径5cm以下, 組織学的被膜浸潤なし (fc-inf (-)) そして組織学的門脈侵襲なし (vp (-)) などの各因子は, 有意に予後に良い影響を与えた.
    被膜浸潤の有無にかかわらず, 3cm以下の腫瘍の5年無再発生存率は100%であった, さらにfc-inf (-) 例やfc-inf (+) 例のそれぞれにおいて, 壊死率の高いほど, また腫瘍径が小さいほど, 再発までの期間は延長した.
  • 富田 秀司, 武藤 良弘, 玉城 哲, 伊佐 勉, 出口 宝, 高江洲 裕, 戸田 隆義
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2921-2928
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    癌の生物学的悪性度の指標として, 癌組織の異型度, 深達度およびリンパ節転移などが用いられ, 臨床的に有用であるが, この病理組織学的診断 (深達度) と癌細胞核DNA量およびCEA発現性との関連性とを検討し, これらが予後の指標となりうるかを追究した.
    胆嚢癌41例 (m, pm癌9例;ss癌13例;sei癌19例) を対象として検索を行い, 以下の成績を得た.(1) 癌深達度とDNA index, DNA ploidy patternおよびCEAの発現性とは相関し,(2) 核DNA量とCEAの発現性との間も相関し,(3) 多倍体の癌細胞の比率が増加するhigh ploidy化に伴い深達度は進展し, CEAの発現性は増強する傾向が認められた.以上の成績より, 核DNA量とCEAの発現性とは癌深達度と良く相関し, ある程度の予後の指標となりうると思われた.
  • 太田 大作
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2929-2937
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腹腔動脈および上腸間膜動脈神経節切除による小腸・結腸運動への影響を実験的に検討した.雑種成犬7頭を用い, それぞれ小腸, 回一結腸接合部, 右結腸にstrain gage force transducerを縫着し, 空腹期と食後期の小腸・結腸運動を神経節切除前・後で比較した.小腸では, 神経節切除後の空腹期にmigrating motor complexのphase Iの短縮, phase IIの延長, 伝播時間の短縮が認められた.食後期には全小腸を急速に伝播する高振幅収縮波群が出現し, 小腸の内容物移送亢進が示唆された.結腸では神経節切除後, 空腹期の変化は認めなかったが, 食後期において静止期持続時間が12.7~13.3分から4.9~6.3分へと短縮, 収縮期持続時間が6.9~8.6分から13.4~20.1分へと延長し, 運動の亢進状態が認められた.以上の結果から, 神経節切除後の小腸・結腸運動の亢進は, 同神経節を介する抑制系外来神経の遮断あるいは抑制系の腸-腸反射の遮断によるものと考えられた.
  • 森脇 義弘, 片村 宏, 市川 靖史, 山本 俊郎, 杉山 貢
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2938-2943
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    ラットの小腸分節の支配動静脈を10分間, 30分間遮断した虚血群と, 灌流静脈のみを遮断したうっ血群とで, 血行遮断解除後の組織障害の程度ならびに障害に対する活性酸素種の関与を比較検討した (n=80).また, これらの組織障害に対する活性酸素種のscavengerの抑制効果も検討した (n=16).同一時間の血行遮断であれば虚血群よりもうっ血群の方が組織障害が著しく, また, 遮断時間が長い方が障害が著しかった.障害腸管の組織中過酸化脂質, 灌流静脈の化学発光も, 虚血群よりもうっ血群の方が高値を示したが, うっ血群では, 血行遮断中の組織障害が進行し組織壊死が認められた30分間の血行遮断解除後よりも, 10分間の血行遮断解除後の方が高値を示した.血行遮断解除後の組織中過酸化脂質, 灌流静脈血化学発光の上昇はscavengerの投与で抑制された.
  • 長谷 和生, 望月 英隆, 横山 幸生, 吉村 一克, 山本 哲久, 中村 栄秀, 栗原 浩幸, 吉積 司, 上野 秀樹, 岩本 一亜, 玉 ...
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2944-2950
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    直腸癌手術症例297例のホルマリン固定標本を対象に, 癌の肛門側壁内進展について検討した.壁内進展は67例, 23%に認められ, その最長距離は3.7cmであった.壁内進展陽性例は陰性例に比べ治癒切除率 (34%: 77%; p<0.005), 治癒切除例における再発率 (57%: 25%; p<0.005), 累積生存率 (p<0.001) など, いずれも有意に不良であり, 壁内進展には予後規定因子としての意義がうかがわれた.一方癌の肉眼型3型, 低分化腺癌・印環細胞癌, 大きさ6.1cm以上, 亜全周以上などの病理学的所見を呈するものでは, 2.1cm以上の壁内進展がそれぞれ高率に認められた (おのおのp<0.005), これら4因子のうち1因子以下しか伴わない症例では2.1cm以上の進展は皆無であったが, 2因子以上を伴う症例では11%に認められた (p<0.005).したがってこれらの病理学的因子を2因子以上有する症例では肛門側切離縁までの距離はホルマリン固定標本上4.0cmが望ましく, 1因子以下では2.0cmで十分と考えれれた.
  • 局所再発例のDNA量解析結果との対比を中心に
    八岡 利昌, 望月 英隆, 長谷 和生, 中村 栄秀, 小池 聖彦, 玉熊 正悦, 四ノ宮 成祥, 鶴 純明
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2951-2957
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    直腸癌治癒切除後局所再発17例と非再発12例の手術材料パラフィン包埋標本を用いて癌細胞核DNA量解析を行った結果, 局所再発群のDNA index (以下, DI) は平均1.28±0.24であり, 非再発群のDI 1.12±0.10よりも高値を示した (p<0.05).また, DIが1.28以上を呈したものの割合は非再発群では8.3% (1/12) なのに対し, 再発群では41.2% (7/17) と明らかな差を認めた (p<0.05) ・さらにDIが1.35以上を呈したのは全例局所再発例であった.直腸癌術前生検新鮮材料を用いて得られたDIは同一患者の手術時摘出パラフィン標本のDIときわめて近似しており, 両者間にはY=0.96X±0.09と傾きが1にきわめて近い有意な正の相関が認められた (p<0.001).以上より術前生検で得られた新鮮標本を用いた核DNA量解析は, 直腸癌術後の局所再発リスク把握の上で臨床的意義を有するものと考えられた.
  • 大石 正博, 大西 信行, 大西 長久, 大西 徹哉, 里本 一剛, 山際 裕史
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2958-2962
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    37歳の男性.左上腹部腫瘤と吐血を主訴に来院.消化管検索の後, 潰瘍形成を伴う胃外型平滑筋肉腫と診断し, 1983年2月15日胃癌に準じて胃亜全摘およびリンパ節郭清を行った.腫瘍は15×13×13cm大で弾性硬で薄い被膜を認め, 組織学的にも平滑筋肉腫と診断された.初回手術より9年1か月の間に2回の残胃近傍での局所再発, 回腸間膜への腹膜播種, 横隔膜下面への腹膜播種の計4回の再発を来し, それぞれ腫瘍摘出術, 回腸部分切除術, 横隔膜部分切除術が施行された.再発巣のうち最大のものは22×10×10cmで, すべての再発巣は組織学的にも平滑筋肉腫と診断された.再発の原因として手術操作による腫瘍細胞の散布が推察され, no touch isolation methodにて腫瘍を扱う配慮が再発を防ぐために必要と考えられた.また, 胃癌に比ベリンパ節転移が少ないことを考えれば切除可能な腹膜播種に対して積極的な外科的治療を行うことで, 予後の改善が期待されうる.
  • 鈴木 孝雄, 落合 武徳, 永田 松夫, 軍司 祥雄, 中島 一彰, 有馬 美和子, 神津 照雄, 小出 義雄, 菊池 俊之, 山本 宏, ...
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2963-2967
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌における左鎖骨上リンパ節 (Virchow) 転移陽性切除例7例につき, 診断, 治療, 予後について検討した.術後腎不全にて死亡した症例とVirchowに再発した症例を除いた平均予後は3例の生存中を含め10.8か月であった.超音波内視鏡にて縦隔内転移陰性と診断された症例は, 頸部郭清を含めた根治術が施行され, 1年7か月を経過し再発を見ない.また, 縦隔内転移陽性例には自家骨髄移植を併用した大量etoposide, adriamycin, cisplatin併用療法を施行し, Virchow転移および縦隔内リンパ節転移の消失を得ている.このことから, 他の非切除要因のない症例では積極的に原発巣の切除を行い補助療法に期待すること, さらに縦隔内転移のない症例では頸腹部の広範なリンパ節郭清を含めた根治術を施行することが予後の向上に寄与すると考えられた.
  • 辻 福正, 木村 文敏, 山崎 良定, 山中 陽一, 山本 雅彦
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2968-2972
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌にて胃切除術後30年目に, 残胃に悪性リンパ腫が生じたまれな症例を1例経験し, 本邦報告の13例についても検討したので報告する.症例は74歳の女性.主訴は食欲不振, 左季肋部痛.既往歴は30年前に胃癌にて胃切除をうけた.胃体上部大轡側後壁に結節状の隆起性病変を認め, malignant lymphomaの診断を得, 残胃全摘, 脾, 膵尾部合併切除を施行した.病理所見はdiffuse lymphoma medium sized cell typeあるいは, mixed typeであった.術後経過はCHOP-Bを4クール施行するも術後11か月で死亡した.手術にて治癒切除できたと思われる症例でも, 悪性リンパ腫は全身疾患であるから, 厳重な経過観察が必要である.適切な化学療法を検討しつつ, 柔軟な治療方針で臨むことも必要と考えられた.残胃悪性リンパ腫は比較的進行例が多く, 残胃にも十分に注意すべきである.
  • 河田 直海, 鈴木 偉一, 斉藤 真悟, 船津 隆, 小林 展章
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2973-2977
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    発見時に両側鼠径リンパ節および多発骨転移を伴っていた早期胃癌を経験したので報告する.
    症例は78歳の女性で全身倦怠・食欲不振を主訴とし, 右第8肋骨の突出と両側鼠径リンパ節の腫大を認め, 血中carcinoembrionic antigen 30,880ng/mlと非常に高値であった.胃内視鏡で幽門部にIIa+IIc様隆起, 体部に粘膜下腫瘍および潰瘍を認め, 生検は幽門部のみgroup VでCEA染色陽性であった.骨シンチで多発性の異常集積が認められた.幽門側胃切除と右鼠径リンパ節生検を行い, sm早期胃癌, 粘膜下腫瘍はleiomyoma, 潰瘍はU1-III, 鼠径リンパ節も胃癌からの転移と判明した.
    早期胃癌の4群リンパ節転移は珍しく, 中でも鼠径リンパ節転移の報告は2例のみであった.骨転移についての報告も非常にまれで, とくに胃癌発見時に存在した例は剖検例を含め8例目であった.早期に転移を来す要因の解明が待たれる.
  • 奥野 清隆, 田中 晃, 中嶋 一三, 栃原 宣明, 吉田 年宏, 大西 博昭, 安富 正幸
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2978-2982
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌術後の多発性肝転移に対しinterleukin-2 (IL-2), mitomycin C (MMC), 5-fluorouracil (5-FU) による肝動注療法を施行しcomplete remission (CR) を得た1例を報告する.症例は54歳の男性で, 単発性肝転移を有する食道浸潤噴門部胃癌のために食道下部胃全摘, 肝部分切除術を施行.術後6か月目に多発性肝転移が発見されたため肝動注カテーテルを留置し, リザーバーよりIL-2 (80万単位) と5-FU (250mg) を連日2時間かけてポンプ注入, MMC (4mg) を週1回の割合で3週間投与したところ, 1か月目より著効を認め, 肝動脈造影と肝CTにて腫瘍陰影の消失を認めた.その後, 維持療法として通院でリザーバー肝動注 (IL-2: 200万単位と5-FU: 250mgを週2回, MMC 4mgを週1回) を6か月続行し, 新病巣の出現なきことを確認した後, 治療を終了した.現在治療開始後1年以上を経過したが, 1年後の肝CTにても再発を認めず, 元気に社会復帰を果たしている.
  • 田辺 博, 渡辺 進, 橋本 高志, 加納 宣康, 今井 直基, 下川 邦泰, 池田 庸子
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2983-2987
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝門部に発生したCastleman's lymphomaの1例を経験した.症例は60歳, 女性.心窩部痛を主訴として来院, 超音波検査にて肝門部に腫瘤を指摘されて入院となった.入院後の腹部computed tomography検査では内部に石灰化を伴っており, 腹部magnetic resonance imaging検査ではT2強調にて高信号を示し, 腹部血管造影検査ではhyperv-ascularとなる腫瘤として描出された.肝門部に発生した腫瘍と診断し手術を施行した.開腹すると肝門部にクルミ大の腫瘍を認め, これを摘出した.摘出標本は4×3.8×2.5cmで, 割面にて一部石灰化を伴う腫瘍であった.病理組織学的には小型のリンパ濾胞の増殖がみられ, 濾胞には血管が入り込み, 中心部は血管構造からなり, 周囲に同心円状にとりまくリンパ球を認めCastleman's lymphomaと診断された.腹腔内に発生するCastleman's lymphomaは極めてまれと考えられ報告する.
  • 西脇 学, 琴浦 義尚, 芦田 寛, 西岡 昭彦, 熨斗 有, 伊藤 通男, 橋本 直樹, 宇都宮 譲二
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2988-2992
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は60歳の女性で, 上腹部不快感精査の際に腹部超音波検査で胆道系拡張を指摘され入院となった.Percutaneous transhepatic cholangiographic drainage, endoscopic retrograde cholangio pancreatography, computed tomography, 低緊張性十二指腸造影, 血管造影の結果, 総肝管の隔壁症が示唆された.術中所見では総肝管にくびれを認め, その内腔はpinhole状であった.なお, 隔壁形成はみられなかった.手術は胆嚢摘出術, 狭窄部胆管部分切除術, 総肝管総胆管端々吻合術を施行した.組織学的には狭窄部に一致して筋層の肥厚が認められた.隔壁症とは異なる独立した疾患であると考えられる輪状狭窄症はきわめてまれであり, 胆道系の発生異常を考える上で貴重な症例であると思われた
  • 沼 謙司, 永田 文雄, 金城 明
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2993-2996
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    原発性細菌性腹膜炎は, 消化管穿孔や膿瘍など, ほかに原因をみない細菌性腹膜炎をいうが, 本邦では, そのほとんどが非代償性肝硬変患者においての発症であり, 小数ではあるが, ネフローゼ患者での発症の報告をみるていどである.今回, 肝硬変もネフローゼ症候群も伴わない原発性細菌性腹膜炎を経験した.症例は, 59歳の男性で血液透析目的にて通院中, 気管支肺炎にて入院となる.入院中下腹部痛で発症.腹膜炎を伴う虫垂炎の診断にて緊急手術を施行.1,800mlの混濁した腹水の貯留を認めたが, 虫垂が軽度に発赤しているのみで, 腹膜炎の原因となる病変部位を認めなかった.腹水細菌培養よりE.coliが検出された.本症例では, 基礎疾患として慢性腎不全があったが, 肝硬変やネフローゼ症候群を認めず, 術前理学的所見としても虫垂炎による汎発性腹膜炎としては, 合致しない点も多く, 診断的治療を目的として開腹手術を施行せざるをえなかった.
  • 尾関 豊, 安村 幹央, 林 昌俊, 雑賀 俊夫, 松原 長樹
    1992 年 25 巻 12 号 p. 2997-3001
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は64歳の男性.近医で肝腫瘍を指摘された.腹部超音波検査およびcomputed tomographyで肝右葉に類円形の腫瘤を認め, 腹部血管造影では腫瘍血管増生と軽度の腫瘍濃染を示した.便潜血反応が陽性, 血清carcinoelhbryonic antigenが異常高値のため大腸の精査を行ったところ, 直腸に中央陥凹を有する境界明瞭な隆起性病変を認め, 生検診断は腺癌であった.以上の所見から, 肝硬変併存肝細胞癌と直腸癌の重複癌と診断し, 手術を施行した.右肋弓下切開と上腹部正中切開で開腹し, 肝右葉切除術を施行.ついで下腹部横切開を加え, double stapling techniqueで直腸前方切除術を施行, 術後経過は良好であった.切除標本で肝腫瘍は7.0×5.5cm大の単結節周囲増殖型, Edmondson III型の肝細胞癌, 直腸腫瘍は4.0×3.5cm大の2型病変, 壁深達度ssの中分化型腺癌であった.
    肝大腸同時性重複癌の切除報告例を検討し, 手術時に工夫した点について報告した.
  • 天野 穂高, 横山 健郎, 柏原 英彦, 蜂巣 忠, 大森 耕一郎, 坂本 薫, 鈴木 孝雄, 一瀬 雅典, 神宮 和彦
    1992 年 25 巻 12 号 p. 3002-3006
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝転移を伴う非機能性膵島細胞癌に対し集学的治療を行い, 長期生存の得られている1例を経験した.症例は60歳の女性で, 腹部腫瘤を主訴に来院した.諸検査にて, 多発性の肝転移を伴った膵体尾部の非機能性膵島細胞癌と診断した.手術は膵体尾部切除, 肝動脈カニュレーションを施行した.病理組織所見では索状およびリボン状の組織構築を示し, 免疫組織化学的検査ではInsulin, Glucagon, Gastrin, Somatostatinは証明されず非機能性膵島細胞癌と診断した.また, 試験切除した肝転移巣も同様の所見であった.肝転移はtranscatheter arterial embolization (TAE) などにより画像診断上消失し, 術後3年8か月経過した現在complete responseの状態が続いており, 外科的治療とTAEによる集学的治療が長期生存を可能にしていると考えられた.
  • 桑原 義之, 片岡 誠, 佐藤 篤司, 呉山 泰進, 川村 弘之, 三谷 真巳, 岩田 宏, 坂上 充志, 加島 健利, 篠田 憲幸, 服部 ...
    1992 年 25 巻 12 号 p. 3007-3011
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は心疾患, 脳梗塞症の既応をもつ54歳の男性で, 突然の腹痛にて発症した.腹部computed tomography, 腹部超音波断層像にて門脈内ガス像を認め, 腹部血管造影にて, 急性上腸間膜動脈閉塞症と診断した.手術所見ではトライツ靱帯より約60cmから80cmまでの部分 (1) と145cmから上行結腸中央部までの部分 (2) の腸管が壊死した状態であった.また, 壊死腸管のmarginalvein内には, 多数の気泡が認められた.手術は (1) と (2) の壊死腸管を別々に切除し, それぞれ端々吻合した.残存小腸は約120cmであった.切除標本では, 壊死腸管の粘膜内に径1mm前後の小気泡が多数存在し, pneumatosis intestinalisの状態と考えられた.術後経過は, 比較的良好で, 術後第35病日に軽快退院した.門脈ガス血症を伴う上腸間膜動脈閉塞症の救命例は本邦にはなく, 欧米においても, 現在までに2例の報告をみるのみで.自験例はまれな症例と思われた.
  • 田中 達郎, 今野 弘之, 丸尾 祐司, 西野 暢彦, 松田 巌, 青木 克憲, 馬場 正三
    1992 年 25 巻 12 号 p. 3012-3015
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    転移性虫垂癌はまれな疾患であり, 本邦において今までに16例の報告を見るのみである.われわれは今回長期生存中の胃癌虫垂転移例を経験したので報告する.
    症例は76歳の男性で, Borrmann 3型胃癌に対する治癒切除術施行後, 経過観察を行っていたが, 術後4年6か月目に下腹部痛と発熱が出現した.急性虫垂炎による汎発性腹膜炎と診断し, 虫垂切除術を施行した.肉眼的には虫垂は根部を除き全長に渡り壊死に陥っていたが, 腹膜播種の所見はなかった.病理組織学的検索では, 虫垂の粘膜下層から漿膜にかけて低分化型腺癌細胞の小集塊が多数浸潤し, 一部腺管構造を呈していることより, 胃癌虫垂転移と診断した.虫垂切除術後2年1か月, 初回術後6年7か月現在再発の徴候なく健在である.
    癌患者における虫垂炎症状の出現に対しては, 虫垂転移の可能性を念頭に入れる必要があるものと思われた.
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