日本消化器外科学会雑誌
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25 巻, 8 号
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  • 黒木 嘉人, 山田 明, 榊原 年宏, 清水 哲朗, 坂本 隆, 唐木 芳昭, 田沢 賢次, 藤巻 雅夫
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2061-2068
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    超音波内視鏡 (EUS) と食道粘膜下造影法による食道癌の深達度診断成績について, 両検査とも施行された20例の食道癌切除症例を対象に比較検討した.全体の深達度正診率 (over all accuracy) は, EUSと粘膜下造影ともに80-3%と同等であった.粘膜下浸潤癌の正診率 (over all accuracy) は, EUSが76.5%, 粘膜下造影が100%と粘膜下造影の方が良好であった.EUSではsm癌3例すべてが過剰診断となり, 使用した探索子 (7.5MHz) の解像力が不十分で, それに加えsm層へmassiveに浸潤していたことが原因と考えられた.a1-3癌の正診率 (over all accuracy) は, EUSが94.1%, 粘膜下造影が70.6%とEUSのほうが良好で, 外膜浸潤の有無の判定能がEUSの方が高かったためと考えられた.しかし外膜へのmicro invasionを示した1例では両検査とも誤診となり, 現時点での診断能の限界と思われた.両検査法を併用すれば, より正確な深達度診断に迫れるものと思われた.
  • 積極的栄養療法の意義
    新津 頼一, 石田 薫, 木村 慶子, 岡本 和美, 村上 弘治, 寺島 雅典, 佐藤 信博, 池田 健一郎, 前沢 千早, 根本 ひろ子, ...
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2069-2075
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    積極的な栄養管理のもとに, 食道癌術後の補助療法を施行し, 術後の免疫能の推移を検討した.1984年9月から1989年12月までに, 切除術を施行した胸部食道癌151例を対象とした.術後の補助療法は, 頸部上縦隔に50Gyを照射した照射群, CDDP50~75mg/mm2, VDS3mg/mm2を投与した化療群, 頸胸腹部の3領域にわたるリンパ節隔清を行い補助療法は行わない手術単独群, の3群に分け検討した.栄養療法は, 経腸栄養を主体に40Kcal/kgの熱量投与を行った.免疫の各パラメータは, 手術単独群では, 術後4~6週で術前値に回復した.化療群においても, 手術単独群と同様の推移がみられた.一方, 照射群では, 栄養療法の併用にも関わらず免疫能の低下, 特に末梢血リンパ球数, T細胞数, B細胞数, helper T cell, cytotoxic Tcell, NK細胞数の低下がみられた.しかし重篤な感染症の併発もなく, 補助療法の完遂率, 開始病日, 施行期間においては, 満足のいく結果が得られ, 栄養療法の意義を認めた.
  • 渡部 洋三, 津村 秀憲, 中川 敏行, 矢吹 清隆, 森本 俊雄, 岡原 由明, 巾 尊宣, 大久保 剛, 佐藤 浩一, 織畑 道宏, 榊 ...
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2076-2082
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は, 70歳以上の消化性潰瘍穿孔例を詳細に分析し, その臨床的特徴を明らかにすることにある.対象は1966年から1990年までに, 順天堂大学で手術が施行された消化性潰瘍穿孔192例で, うち70歳以上の高齢者は20例であった.方法は全例を年代別, 年齢別に検討し70歳以上の症例については, 患者背景, 術前併存疾患, 臨床所見, 治療, 病理学的所見および死亡例について検討した.最近の10年間で70歳以上の症例は有意に増加し, 穿孔症例の年代別平均年齢は年々高くなっている.70歳以上の穿孔例20例のうち十二指腸潰瘍は16例と多くを占めていた.潰瘍の既往歴の無い例は14例で, 術前併存疾患合併率は85%であった.病理学的には急性潰瘍型が11例であった. 手術は単純閉鎖術が2例のみで他は根治手術が行われ, 手術死亡は4例であった.高齢老の穿孔例は, 既往歴の無い例が多く, 病状が刻々変化するので, 画像診断を駆使して早期に診断すべきである.
  • 三浦 敏夫, 平野 達雄, 草野 裕幸, 中越 享, 清水 輝久, 石川 啓, 川口 昭男, 宮下 光世, 下山 孝俊, 綾部 公懿, 富田 ...
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2083-2090
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    上部胃癌切除294例について, 占居部位・漿膜面浸潤・組織学的壁深達度別に所属リンパ節の転移を検索し, 術式の選択・適応について検討した.切除全胃癌中21.3%を占め, 男女比は2.7: 1, 平均年齢は60.0歳であった.胃癌取扱い規約によれば, Cに限局するものは129例で, 早期癌は15.0%であった.術式は胃全摘214例, 噴切52例, その他28例であった.リンパ節転移は, 早期癌ではn (-) であったが, pmで#2・3に7.7, 30%, ssβで#1・3に40%, #7・9に20%, #6・10・11・13・14に10%, ssγでは#4s・4d・16に37.5, 12.5, 12.5%の転移をみた.Cの漿膜面浸潤と#4d・5・6の転移は, S0S1はn (-) であったが, S2ではそれぞれ2.8, 11.1, 5.6%の転移をきたし, S3では21, 4, 14.2, 7.1%であった.5年および10年生存率は全摘で43.1%, 40.9%, 噴切で32, 5%, 27.5%で, 全摘が優れていたが有意差はなかった.以上より上部胃癌の噴切の適応はS1までのもの, 組織学的にはssγまでにとどまるものである.
  • 竹鼻 敏孝, 今田 敏夫, 蓮尾 公篤, 利野 靖, 円谷 彰, 野口 芳一, 山本 裕司, 天野 富薫, 松本 昭彦
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2091-2095
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    幽門輪と胃癌の進行度・予後との関係を調べる目的で, 下部胃癌症例162例を対象にし, 幽門輪に接した, または幽門輪を越えて十二指腸へ進展した胃癌 (幽門輪群) と, 幽門輪から離れた胃癌 (非幽門輪群) との間で臨床病理学的成績を比較・検討した.
    その結果, 幽門輪群は非幽門輪群に比べて進行癌の頻度が有意に高かった.リンパ節転移率も幽門輪群で有意に高率であった.しかし予後的漿膜面因子PS (+) 例のみの比較では両群間に差がなかった.
    組織学的分化度では両群間に有意な差を認めなかったが, 十二指腸進展例では, 組織型が分化型のものは限局性に, 未分化型は浸潤性に進展する傾向が認められた.
    治療成績では治癒切除例の5年生存率は幽門輪群40.7%, 非幽門輪群69.3%で, 幽門輪群で不良であった.しかしps (+) 症例のみに限定すると生存率による差はなかった.
  • 被爆距離との関係
    大城 久司, 稲垣 和郎, 大段 秀樹, 桧井 孝夫, 吉川 雅文, 中谷 玉樹, 春田 直樹, 田中 一誠, 山本 泰次
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2096-2102
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    23年間に手術施行した原爆被爆者の胃癌569例について, 被爆距離別に2.0km以内の近距離被爆群137例, 2.1km以上の遠距離被爆群168例, 2次被爆群264例に分けて検討した.低分化型癌では近距離群42.7%, 遠距離群40.3%, 2次被爆群29.6%でいずれの被爆距離群でも高分化型癌が多いのであるが, 近距離被爆群ほど低分化型癌の割合が多かった.そして近距離群および遠距離群, すなわち直接被爆群と2次被爆群との間で有意差があった.年代別には, 直接被爆群では低分化型癌が49歳以下で57.9%, 50歳代で52.6%, 60歳代で36.0%, 70歳以上で31.7%であった.すなわち50歳代以下では低分化型癌が多く, 60歳代以上では高分化型癌が多かった.2次被爆群では49歳以下で高分化型癌と低分化型癌が同率であるが, その他の年代群では高分化型癌が多かった.胃癌切除率, 胃壁深達度, リンパ節転移, 脈管侵襲, stage分類, 生存率などについて被爆距離別に有意差はなかった.
  • 北村 正次, 荒井 邦佳, 宮下 薫
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2103-2109
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    漿膜下浸潤胃癌 (ss胃癌) 450例をssα, ssβ, ssγ に亜分類し, 予後, 臨床病理学的特徴ならびにDNA ploidy pattemとの関係を検討した.年齢ではssγ 群に若年層が多く (p<0.05), ssα ・β では手術時ssγ より高い肝転移率を有した (p<0.01).組織型ではssα ・ssβに分化型, ssγ に未分化型を多く認めた (p<0.01).高度なリンパ管侵襲はssγ で高く, 静脈侵襲はssα ・β で高かった (p<0.05).治癒切除例のssα ・β ・γ 間の予後を比較したが, リンパ節転移の有無に関係なく3群間に有意差を認めなかった.再発形式ではssα では肝転移が多く, ssγ では腹膜転移を多く認めた.一方, DNA ploidypatternと予後との関係ではAneuploidy (+) 群の5生率は25.8%で (-) 群68.6%に比較して有意に不良であった (p<0.01).ss胃癌の亜分類は臨床病理学的な特徴を明らかにしたが, 予後を反映しなかった.DNA ploidy patternはss胃癌の予後規定因子となる可能性を示した.
  • 岡野 晋治, 沢井 清司, 山口 正秀, 清木 孝祐, 谷口 弘毅, 萩原 明郎, 山口 俊晴, 高橋 俊雄
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2110-2117
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    組織学的リンパ節転移を認めた切除胃癌541例を対象とし, 脾動脈幹リンパ節 (No.11) 転移陽性胃癌の成績向上策について検討した.(1) 胃上中部癌ではNo.1, 4sa, 4sb, 7, 8a, 10のいずれかに転移があるときには, No.11転移率が高かった.このような症例に対しては積極的に膵脾合併切除による胃全摘を行うのが妥当であると考えられる,(2) 胃下部癌でNo.6またはNo.14Vに転移があるときNo.11転移陽性率が高く, 胃亜全摘で可能な範囲のNo.11郭清が必要と考えられる.(3) 胃全体癌の17例 (25.4%), 全周性胃癌の22例 (23.2%) にNo.11転移が認められた.(4) いずれの占居部位でもNo.11陽性例のNo.16転移率は高かった.(5) 胃上中部癌および全体癌ではn2, 胃下部癌ではn3と, 転移程度を揃えて比較してもNo.11転移陽性例は陰性例と比べ生存率が不良であった.(6) 転移経路に応じた確実なNo.11郭清とNo.11陽性例にたいする積極的なNo.16郭清が予後の向上につながると考えられた.
  • 岩本 伸一, 佐々木 洋, 今岡 真義, 桝谷 誠三, 大橋 一朗, 石川 治, 古河 洋, 亀山 雅男, 甲 利幸, 小山 博記, 岩永 ...
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2118-2122
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    1990年12月31日末までの当センターにおける肝細胞癌 (hepatocellular carcinoma; HCC) に対する肝切除術施行例は291例でそのうちStage IV症例は38例であった.これら38例についてその予後からみた肝切除術の適応と意義について考察した.StageIV全症例の5年生存率は19%で, StageI, II, IIIに比べ有意に不良であった.しかしながら相対非治癒 (relative noncurative, RN) 切除症例17例の5年生存率は40%と他Stageの絶対非治癒 (absolute noncurative, AN) 切除を除いた症例の5生率と有意差はなかった.これらの症例はStageIVの絶対非治癒 (AN) 切除例に比べ腫瘍因子において有意に良好であった.特に腫瘍数が2個で多中心性発癌の可能性が考えられた症例に対する切除成績は極めて良好であった, これよりStage IV症例であってもRNの手術可能な場合は施行すべきであると考えられた.一方, AN症例については2年以上生存例はなく手術適応になるとはいい難いが, 手術後にtranscatheter arterial embolization (TAE) を主体とした集学的治療を施行することを前提とした補助的外科療法としての意義を見いだしうる可能性が考えられた.
  • 志岐 裕源, 具 英成, 大柳 治正, 斎藤 洋一
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2123-2128
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌・消化管癌を重複した11例の診断・治療上の問題点を検討した.同時性は5例, 異時性は6例であった.肝細胞癌の診断先行3例では消化管癌は内視鏡検査で偶然発見された.消化管癌の診断先行8例では肝転移検索のcomputed tomographyで腫瘍病変の存在 (4例, 50%), および血清α-fetoprotein (AFP) 高値 (4例, 50%) が肝細胞癌診断の主な契機であった.また血清carcinoem.bryonic antigen (CEA) は3例で軽度上昇を認めたが他は陰性で肝細胞癌の併存を疑う上でAFP高値とともにCEA低値は重要と考えられた.治療として肝切除は6例に施行され, 2例が肝不全で死亡したが他は耐術した.同時性3例で肝胃同時切除を施行したが, 1例は腹水, 低蛋白血症が持続し, 縫合不全, 肝不全を併発し1か月後死亡した.以上より肝重複癌の外科的治療に際しては肝機能上の安全域をより重視した術式選択を行い縫合不全や通過障害をきたさぬ確実な再建が重要と考えられた.
  • 絶食による変化について
    斉田 芳久
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2129-2138
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    術後急性無石胆嚢炎の成因としては, 胆汁の濃縮粘稠化が重要といわれている.そこで各種条件下における胆汁粘度の直接的測定, 分析を試みた.臨床例からは正常胆嚢内胆汁の粘度特性を測定した.またイヌにて絶食による胆嚢内胆汁の粘度変化を, 無処置絶食, 胆嚢収縮, 幹迷走神経切離 (迷切) の各条件下にてレオロジー的手法を用いて解析した.ヒト正常胆嚢内胆汁の粘度は, 非ニュートン粘性係数2.63±0.68, 粘性指数0.98±0.01で, 構造粘性を示した.イヌでは, 絶食により粘度は有意に上昇し, その傾向は迷切, 無処置, 胆嚢収縮の順に強かった.しかし, 胆汁のレオロジー的特性から, 生理的なずり速度のかかる状況では, 絶食による影響は少なくなり, また迷切による胆汁粘度上昇は, 有意な差でなくなった.以上から胆汁は生理的に, 濃縮だけでは排出障害を引き起こさず, 術後急性無石胆嚢炎の発生には, 絶食および迷切以外の因子の関与が存在することが示唆された.
  • 松尾 哲也, 佐々木 巌, 神山 泰彦, 内藤 広郎, 舟山 裕士, 松野 正紀
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2139-2144
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    ラットを用いて胃粘膜にnecrotizing agentの1つであるTaurocholate(TCA)を投与して黄疸時および減黄術を行った時の胃粘膜病変の発生について検討した.潰瘍係数は対照群に比べ黄疸群で有意に高く,減黄群では対照群とほぼ同じ値を示した.胃粘膜hexosamine量は,TCA投与前は,黄疸・減黄群で対照群に比べ低値を示したが,投与後の低下は対照群に比べ軽度であった,胃粘膜potentialdifference(PD)は,黄疸群でTCA投与後の低下が著明で,その後の回復も遷延し,減黄群は両群の中間の値を示した.胃内pHは,TCA投与2時間後までは3群間に差を認めないが3時間以降は対照群に比べ黄疸群で高値を示し,減黄群は両群の中間の値を示した.以上より,necrotizing agent投与による胃粘膜障害は黄疸時に発生しやすく,減黄術により改善し,これには胃粘膜PDなどの防御因子の改善が関与していると思われた
  • 平野 鉄也, 真辺 忠夫, 戸部 隆吉
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2145-2151
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵管結紮家兎にて膵腺房細胞の変化と新しい蛋白分解酵素阻害剤E3123の保護効果を検討した.3時間の短期間膵管閉塞とsecretin (0.2CU/kg・hr) 投与にて, 門脈血中amylase (46±4U/ml) (p<0.01), cathepsin B値 (9.6±0.7U/ml) (p<0.01), 膵水分量 (87±2%) (p<0.05), 膵amylase量 (614±42U/mg DNA) (p<0, 02) およびin-vitroでの膵ライソゾームの脆弱性はコントロール群 (amylase;15±2U/ml, cathepsin B;1.8±0.2U/ml, 膵水分量;74±2, 膵amylase量;387±23U/mg DNA) に比べ有意に上昇・亢進を示し, 膵腺房細胞内にてもcathepsin B活性がライソゾーム分画 (30±3%) より, チモーゲン分画 (49±4%) に移動するのが観察された (コントロール群: ライソゾーム分画;55±3%, チモーゲン分画;23±2%).これらの変化はE3123を5mg/kg・hrにて, 膵管閉塞時に投与することにより, ほぼ完全に阻止され, 2mg/kg・hrにても高アミラーゼ血症やcathepsin B活性の移動に対して抑制効果が示された.以上の結果は膵管閉塞障害における膵腺房内ライソゾームの脆弱化にE3123が抑制効果を発揮することを示唆させるものであった.
  • 青柳 慶史朗, 橋本 謙, 孝富士 喜久生, 田中 裕穂, 児玉 一成, 矢野 正二郎, 大田 準二, 武田 仁良, 掛川 暉夫
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2152-2156
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    比較的まれな衝突胃癌の2例を経験した.症例は72歳と52歳の男性で, 前者は低分化腺癌よりなるBorrmann2型と高分化管状腺癌よりなる表面隆起型早期胃癌の衝突であり, 術前の診断では表面隆起型早期胃癌の部をBorrmann2型の口側へのはみだしと診断, 後者は早期胃癌同士の衝突で, 低分化腺癌よりなる表面陥凹型と高分化型管状腺癌よりなる表面隆起型の衝突であり, 術前の診断は表面隆起型と表面陥凹型の混合型であった.2症例とも2つの病巣が相接しており移行像は認められず, 術前には衝突癌の診断はされなかった.今後, 術前診断が分類不能の症例や診断に苦慮する症例は衝突癌を念頭におく必要があると思われた.
  • 堀田 芳樹, 宮村 一雄, 安積 靖友, 古谷 義彦, 田頭 幸夫
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2157-2161
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    多発性筋炎・皮膚筋炎に悪性腫瘍が高頻度に合併することはよく知られているが, 悪性腫瘍については進行した状態で診断されることが多い.今回われわれは胃とS状結腸に早期重複癌を合併した多発性筋炎の1例を経験した.症例は63歳男性で1985年より多発性筋炎にて治療を受け, 以後毎年1回悪性腫瘍の検索がなされていた.1990年9月, CEA, CA19-9の上昇を認め, 胃とS状結腸に早期重複癌の合併を診断された.幽門側胃部分切除, S状結腸部分切除が施行され, 術後CEA, CA19-9値は正常範囲内に下降した.多発性筋炎に胃, 結腸の早期重複癌が合併した本症例はまれな症例であるが, 年1回の悪性腫瘍検索の結果, 早期癌での診断がなされたものと思われる.したがって多発性筋炎発症後少なくとも年1回の悪性腫瘍検索が必要と思われた.
  • 中山 肇, 布村 正夫, 斎藤 典男, 更科 広実
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2162-2165
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    患者は53歳男性で, 胃X線検査にて前庭部前壁に径4.5×3.0cmの表面平滑な隆起性病変を認めた.胃超音波内視鏡検査にて腫瘍は粘膜下層を主座とする境界明瞭な多嚢胞性疾患であり, 内容物は液体のエコーレベルを呈し, また, 内視鏡下に内容物の穿刺吸引細胞診を行い, 多数のリンパ球を確認した.以上より, 胃リンパ管腫と診断し当初外科的切除を考えたが, 基本的に良性でありかつ粘膜下に限局することより, 内視鏡的strip biopsyにて切除可能と考え, 平成2年5月1日切除を施行した.組織学的には嚢状リンパ管腫と診断され, 切除後1年半の経過にて再発は確認されていない, これまで, 胃リンパ管腫の多くは胃嚢胞の診断のもとに外科的切除されることが多かったが, 胃超音波内視鏡検査および穿刺吸引細胞診にてその質的診断, 局在の同定は可能であり, 過大な外科的侵襲を加えることなく, 内視鏡的strip biopsyにて治癒可能であると考えられた.
  • 松本 欣也, 国延 浩史, 大田垣 純, 嶋本 文雄
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2166-2170
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    過形成性ポリープより発生したと思われる早期胃癌を合併した胃平滑筋肉腫の1例を経験したので報告する.症例は66歳男性.全身倦怠感および黒色便を主訴に当院受診し, 血液検査にて高度の貧血を認めた.上部消化管造影および胃内視鏡検査にて胃体中部後壁に正常粘膜で覆われた直径5cm大の半球状隆起性病変とその直上に赤色調ポリープ様病変を認め, 胃平滑筋肉腫を疑い, 胃亜全摘術施行した.組織学的には粘膜下腫瘍は平滑筋肉腫で, ポリープ様病変は過形成性ポリープであり, 大部分が異型上皮組織で占められその一部に癌化を伴っていた.また, 2つの病変部は互いに独立して存在していた.過形成性ポリープより発生した早期胃癌を合併した胃平滑筋肉腫の報告例は本邦では他になく, 過形成性ポリープ癌化の形態発生においても興味ある症例と思われた
  • 中本 光春, 川口 勝徳, 中江 史朗, 西尾 幸男, 裏川 公章, 五百蔵 昭夫, 植松 清, 藤盛 孝博
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2171-2175
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃内分泌細胞癌は悪性度が高く予後不良とされている.今回S状結腸癌と重複してみられた胃内分泌細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は79歳男性で, 空腹時心窩部痛を主訴に精査したところ, 胃幽門前庭部の巨大な2型の腫瘍とS状結腸の1'型の腫瘍を発見し, 胃とS状結腸の同時性重複癌の診断で手術を施行した.S状結腸は術前診断通り, pmに達する高分化型腺癌であった.胃の腫瘍は組織学的に小型から中型の異型細胞がシート状に配列しび漫性に増殖していた.腫瘍細胞密度は高く, 核は多形性に富み, N/Cは高く, クロマチンの増量もみられた.特殊染色の結果, Grimelius染色陽性, NSE陽性, CEA陰性であったことより, 胃内分泌細胞癌と診断した.深達度ssβ, INFβ, ly3, v3, H0, P0, n0であった.術後経過は良好であったが, 14か月目に巨大な肝転移が発見され, 17か月目に肝不全で死亡した.
  • 小坂 健夫, 竹川 茂, 加藤 真史, 秋山 高儀, 冨田 冨士夫, 萩原 広彰, 斎藤 人志, 喜多 一郎, 小島 靖彦, 高島 茂樹, ...
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2176-2180
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大動脈周囲リンパ節 ((16) b1 inter) 転移陽性であったが切除術後4年5か月の現在再発徴候を認めず健在の1症例を経験した.本症例は64歳の女性で, 残胃癌と同時性に胆嚢癌を切除し, その1年1か月後に右乳癌を切除しえた.既往歴では左乳切 (詳細不明) と胃切除 (巨大皺襞症) がある.残胃癌は肝転移や腹膜播種を認めず, 組織学的には膠様腺癌で漿膜に露出し第4群リンパ節転移陽性で, 残胃全摘膵体尾部脾合併切除兼R2郭清術, また, 胆嚢癌は粘膜内に限局する乳頭腺癌で所属リンパ節転移を認めず, 拡大胆嚢摘除術兼R2郭清術, さらに, 乳癌は1cmの浸潤性乳管癌でリンパ節転移や遠隔転移を認めず, 非定型乳房切除術が施行された.進行した残胃癌は予後不良とされるが, 再建法と進行度に応じた積極的な合併切除とリンパ節郭清を選択することで長期生存の可能性が生じるものと思われた.また担癌患者を診察する際には, 術前術後の他臓器原発癌に留意することが肝要である.
  • 吉田 雅博, 竜 崇正, 渡辺 一男, 藤田 昌宏, 本田 一郎, 渡邊 敏, 川上 義弘, 宮内 充, 高山 亘, 広川 雅之, 笹田 和 ...
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2181-2185
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    67歳, 女性.十二指腸癌, 胆嚢癌術後, 発熱, 血尿にて発症, 腹部X線および腹部computed tomography検査にて肝右葉にガス像を認め, 急激な経過で死亡した.剖検にて, 全身の諸臓器および筋組織に溶血性の変化が認められた.病変は肝において著明であり, スポンジ様で崩れやすく, 前区域を中心に直径約10cmの腐敗臭の著しい膿瘍を伴っていた.組織学的には, 肝実質は大小の気泡腔の形成を伴った壊死に陥り, 同部に多数の大型のグラム陽性桿菌がみられた.細菌培養にてclostridium perfringensおよびecherichia coliが同定され, 前者は抗毒素血清検査によりα 毒素が確認された.
    本症例は悪性腫瘍の手術後であり, さらに術中, 術後放射線照射を施行しており, 免疫力低下状態を背景として発症したものと考えられた.
  • 上辻 章二, 高井 惣一郎, 箕浦 俊之, 駒田 尚直, 山村 学, 上山 泰男
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2186-2189
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    十二指腸乳頭部癌に傍乳頭総胆管十二指腸瘻を併存した症例報告はきわめてまれである.われわれは, 十二指腸乳頭部癌により傍乳頭総胆管十二指腸瘻を形成したと思われた症例を経験したので報告する.患者は72歳, 女性で全身倦怠感を主訴として来院した.十二指腸内視鏡および内視鏡的逆行性胆管膵管造影により, 傍乳頭部総胆管十二指腸瘻併存乳頭癌の診断にて膵頭十二指腸切除術を施行した.
    内胆汁瘻の成因としての胆石症例の報告は多数みられるが, 本症のごとく, 乳頭部癌が共通管, 総胆管下部および乳頭部粘膜下より十二指腸壁へと浸潤し, 腫瘍組織の崩壊, 脱落による抵抗減弱部が胆汁流出路として形成されると推測される報告は少なく, 本邦報告例は8例であり, これらにおける瘻孔形成機転など検討を加え報告する.
  • 遊佐 透, 舟山 裕士, 中村 隆司, 武田 和憲, 小針 雅男, 松野 正紀
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2190-2194
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    十二指腸膜様狭窄症はまれな先天性疾患であるが, 多くは幼児期に診断され成人例は少ない.今回, 幼児期に発症しながら成人になって初めて診断された十二指腸膜様狭窄症を経験したので報告する.症例は24歳女性, 幼児期より頻回に嘔吐を繰り返していたが, 成長障害がなかったため放置していた.1989年7月, 腹痛で来院, 上部消化管造影および内視鏡検査で十二指腸内のリング状透亮像と膜様物を認め十二指腸膜様狭窄症と診断した.開腹術下に膜様物切除術を施行し, 術後経過良好である.本症例では膜様物に副膵管が開口しており, Vater乳頭は膜様物近傍の肛門側に存在した.膜様物切除に際しては膜様物近傍に開口する胆管, 膵管の損傷を防止するために術中secretin静注や胆嚢圧迫試験により開口部を確認することが重要と考えられた.
  • 若林 正夫, 川村 信之, 宮崎 忠昭, 大塚 満洲雄, 沢田 久雄
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2195-2199
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵原発somatostatinomaはまれな疾患であるが近年radioimmunoassayによる血中ソマトスタチン濃度の測定法が確立したことより, 報告例が増加している.われわれはhypervascularな膵頭部腫瘍で末梢血中のソマトスタチン濃度の上昇より術前にsomatostatinomaと診断し根治切除しえた症例を経験したので報告する.症例は64歳男性で体重減少を主訴として近医を受診し糖尿病を発見され腹部超音波にて胆嚢の腫大を指摘され来院, 精査の結果胆石を伴う膵原発のsomatostacinomaと診断され膵頭十二指腸切除術を行った.切除標本で膵頭部に55×45×35mmの充実性腫瘤を認めた.ソマトスタチン抗体による酵素抗体染色では陽性細胞が認められ, 腫瘍中のソマトスタチン濃度は13,700ng/gと高値を示した.術後血中ソマトスタチン濃度は2か月後3.4pg/mlと低下し, 術後1年現在再発の兆候なく生存中である.
  • 中川 国利, 土屋 誉, 桃野 哲, 佐々木 陽平, 佐藤 寿雄
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2200-2204
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の女性で, 4年前に右腎細胞癌で右腎摘出を, 2年前左肩皮膚転移巣の切除を受けた.以後当院泌尿器科で経過を観察していたが, 腹部超音波検査で膵臓に境界明瞭で低エコーレベルの充実性腫瘍を多発性に認めた.またcomputed tomography検査でも, 造影剤で濃染する腫瘍像を認めた.endoscopic retrograde pancreatographyでは主膵管の圧排伸展や尾部での完全閉塞を, 腹腔動脈造影検査では境界明瞭なび漫性濃染像を多発性に認めた.以上より, 腎細胞癌膵転移もしくは原発性膵腫瘍と診断し, 膵全摘術を施行した.切除標本では, 膵全体に多発性の境界明瞭な腫瘍を認めた.組織学的には, 4年前に切除した腎細胞癌に一致した混合亜型で, 腎細胞癌の膵転移と判明した.
  • 堀家 一哉, 吉田 沖, 佐尾山 信夫, 津田 洋, 原内 大作, 田中 克浩, 増田 栄太郎
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2205-2208
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腹部内臓血管に発生する動脈瘤は比較的まれな疾患とされている.なかでも副腎動脈瘤の報告は少ない.今回われわれは後腹膜出血をきたし緊急手術を行った副腎動脈瘤破裂を経験したので報告する.症例は53歳, 男性.前胸部痛を主訴に近医を受診, 血圧のコントロールのみで翌日まで経過観察されていたが, 昼過ぎ頃より左季肋部-側腹部痛出現し腹部膨隆も著明となったため当科紹介された.腹部computed tomographyにて左腎周囲に異常陰影認め, 血管造影では左副腎動脈領域に径8mm大の瘤を認めた.副腎動脈瘤破裂による後腹膜出血の診断にて緊急手術施行.手術は出血部位を発見しその動脈壁を縫合閉鎖した.術後経過は十二指腸潰瘍よりの出血を認めたが, 保存的加療にて止血し術後34日目に軽快退院した.血管造影法の進歩とともに, 今後こうした内臓動脈瘤の報告が増加すると考えられ, また急性腹症の鑑別診断として考慮すべき疾患の1つであると考えられる.
  • 森田 高行, 藤田 美芳, 池永 治親, 宮坂 祐司, 井上 善之, 田辺 達雄, 宮坂 史路, 西沢 正明, 堀田 彰一, 下沢 英二, ...
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2209-2213
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    後腹膜海綿状リンパ管腫の1例を経験した.症例は40歳男性で, 腹部圧迫感を主訴として来院し, 超音波検査にて蜂巣状構造を呈する巨大な腹部腫瘤を認めた.Computed tomographyでは左横隔膜下から膵後方を通り左腎下極に及ぶ内部構造均一な嚢胞状腫瘤としてとらえられ, 血管造影では血管成分の乏しい腫瘤と考えられた.超音波ガイド下穿刺にて乳康を吸引した.
    上記より後腹膜腫瘍 (リンパ管腫を強く疑う) の診断にて摘出術を施行した.大動脈周囲にて強固に癒着し腫瘍の辺縁は不明瞭となっていた.切除された腫瘤はスポンジ様の構造・弾性を呈し, 病理組織学的にリンパ管腫と診断された.
    後腹膜リンパ管腫の本邦報告例は約100例で, そのうち海綿状リンパ管腫は7例とまれな疾患であり, また浸潤性の発育・悪性化の問題点もあり文献的考察を加え報告した.
  • 加藤 三博, 力山 敏樹, 高橋 良延, 木村 俊一
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2214-2218
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    空腸憩室に生じた胆汁酸腸石によりイレウス症状を呈した1例を経験した.症例は88歳の男性で, 嘔吐を主訴として救急外来を初診し, 炎症性疾患を合併した, 腫瘤による小腸イレウスとの診断で緊急手術のために外科入院となった.下腹部正中切開で開腹したところ腸石によるイレウスで, 空腸憩室炎も認められた.腸石は摘出し, 憩室炎はそのまま経過観察とした.術後経過は夜間せん妄を認めたものの順調であった.赤外線吸収クロマトグラフィー, 高速液体クローマトグラフィーにより, 腸石は2次性胆汁酸石と同定され, その形成機序や憩室の内腔と腸石の形態が一致することから考えて, この腸石は空腸憩室内で形成されたと判断した.空腸憩室内で形成された2次性胆汁酸石は本邦で2例目であり, きわめてまれな症例であったために若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 石井 敏勤, 岡本 安弘
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2219-2222
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腸閉塞症状を呈した回腸子宮内膜症の1例について報告する.
    症例は35歳女性で, 月経に伴った腹痛があり, 1991年3月, 腸閉塞症状のため緊急入院した.Ileus tubeによる腸管内の減圧をはかった後, 小腸造影で回腸末端部に狭窄像を認めた.回腸子宮内膜症の診断のもと, 回盲部切除, 右卵巣卵管切除術を施行した.組織学的検査で, 腸管の筋層内に子宮内膜組織を認めた.回腸子宮内膜症の本邦報告例は25例で, まれな疾患である.診断は, 婦人科的症状に伴ってしばしば起こる腹痛などの問診から, 疑いをもつことから始まる.症状を起こした腸管子宮内膜症に対する治療は, 腸切除が最適である.腸閉塞の原因として, 本疾患も念頭において診療にあたるべきである.
  • 斎藤 拓朗, 土屋 貴男, 木暮 道彦, 遠藤 幸男, 鈴木 弘行, 阿部 幹, 井上 仁, 元木 良一
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2223-2227
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    成人腸無回転症を伴った結腸放線菌症の1例を経験したので報告する.
    症例は54歳の女性.左下腹部痛と便秘を主訴に来院した.左下腹部に圧痛を伴う8×7cmの可動性のない腫瘤を触知した.注腸X線検査と大腸内視鏡で, S状結腸に境界不明瞭な全周性の内腔狭窄と粘膜面の粗大顆粒状変化を認め, 腹部computerized tomographyで左下腹部の腫瘤に一致して腸管壁の肥厚像を認めた.術前には炎症性腸疾患と結腸癌の鑑別ができず, 開腹術を施行したところ腸回転異常症 (non-rotation type) の合併が明らかとなった.腫瘤はS状結腸に存在し, 回盲部と横行結腸を巻き込み, それぞれに狭窄部を形成していた.回盲部からS状結腸までを切除し回腸瘻を造設した.組織学的に悪性像は無く, 腫瘤は線維化を伴う炎症性肉芽で, 多発した膿瘍の中心部に放線菌の菌塊 (sulfur granule) を認め, 結腸放線菌症と診断した.
  • 島田 悦司, 中江 史朗, 裏川 公章, 川口 勝徳, 西川 淳介, 上田 隆, 西尾 幸男, 植松 清, 岩越 一彦
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2228-2231
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は67歳男性で, 画像診断および大腸内視鏡検査による生検で盲腸から上行結腸におよぶ大腸原発悪性リンパ腫と診断された.初回手術時, 周辺臓器への浸潤のため切除不能であったため, adriamycine動注を併用したcyclophosphamide, adriamycine, vincristine, prednisolone療法を行い, 腫瘍の著明な縮小がえられた.残存腫瘍を除去する目的で再手術を行い右半結腸切除を行うことが可能であった.組織学的にはLymphoma study group分類のdiffuse medium sizedcell type lymphomaで, そのcellsurfacemarkerは抗B cell陽性であった.切除不能症例にたいして化学療法を行い, 腫瘍の縮小がえられた段階で残存腫瘍を切除する方法は有用と考えられた.
  • 中山 博美, 田中 紘輝, 宇都 光伸, 平 明
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2232-2236
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    結腸癌の穿孔により後腹膜膿瘍をきたした3症例を経験したので報告する.
    症例1は54歳女性, 症例2は70歳女性.症例3は28歳男性であった.症例1は子宮頸癌手術後, 上行結腸後壁へ転移をきたし後腹膜腔へ穿孔した.穿孔部の病理組織像では扁平上皮癌が結腸壁全層および後腹膜腔側に連続性に浸潤していた, 他の2例はおのおの, 上行結腸, 盲腸の原発癌で癌病巣部の潰瘍底に後腹膜腔への穿孔を認めた.膿瘍腔のドレナージとともに症例1と2に右半結腸切除術, 症例3に回盲部切除術を施行した.3症例とも後腹膜腔内穿孔後, 確定診断に至るまで日数を要した.症例1と2では入院後, 腰部に大きな圧痛を伴う皮下の腫脹がみられた.
    画像診断のなかでcomputed tomography (CT) は後腹膜腔の解像力に優れ, この領域の病変を検索するのに有用であった.後腹膜膿瘍を伴う結腸癌では膿瘍腔のドレナージとともに可能な限りすべての癌病巣部を癌腫から十分離れた健常部位で切除するように心がけなければならない.
  • 武藤 徹一郎
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2237-2242
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    炎症性腸疾患 (IBD) にはさまざまな疾患が含まれているので, 正しい治療を行うには先ずその分類と各疾患の病態を把握しておくことが大切である.
    代表的な潰瘍性大腸炎では, 激症型の手術時期を失しないことが肝要であり, 難治例においては手術時期が遅れたために, 患者のquality of lifeが著しく損なわれないようにしなければならない.10年以上の長期経過例においてはdyaplasia, 癌の早期発見のためにsurvaillance colonoscopyを行う必要がある.
    Crohn病では合併症を解除するために必要最小限の小範囲切除が勧められている.合併する痔瘻は切開開放で治療できる.孤立性直腸潰瘍症候群, 急性出血性直腸潰瘍のごとき新しく認知された疾患も念頭に入れておく必要がある.特に後者は突然大出血を来すことがあり, その存在を知らないと正しい対処に苦慮することになる.
  • 福島 恒男
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2243-2247
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎に対する外科治療は, ここ100年間位の間に, いろいろな試行錯誤を繰り返しながら進歩, 発展してきた.世界第2次大戦の前後で大きく分けることが出来, 前期ではcolonic irrigation, bowelrestなどの目的で回腸人工肛門, 虫垂瘻などが作られた.後期では, 前期の治療が有効でないことが判明し, 腸切除に移行した.腸切除の流れは2つあり, 一方は大腸全摘, 回腸人工肛門であり, 他方は肛門温存術で, 結腸全摘, 回腸直腸吻合術から, 大腸全摘, 回腸嚢肛門吻合へと進み, 現在, pouch operation, restorative proctocolectomyと呼ばれる後者の方法が主流となっている.
  • 宇都宮 譲二
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2248-2253
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    回腸肛門吻合術 (IAA) とは直腸粘膜を肛門歯状線上で完全に切除することを前提とする.著者は1979年東京において研究を開始し, 1983年以降兵庫においてさらに改良して術式を確立した.すなわちprone-jack-knife位における経肛門腹式medium cuff, 粘膜切除, Jpouchの肛門括約機構への直接の吻合および空置的イレオストミーの常用である.手術対象となったUC65例中64例98%に実施することができ, 評価対象51例中88.2%に成功し, その排便機能は平均排便回数4.8回continent率66%であった.不成功例は6例でいずれも骨盤内感染にかかわる排便機能障害であった.3期分画手術 (Schneider法) を原則的 (75%) に行い, 術式が定型化した1988年末以降では成功率はさらに改善されている.本法により外科的UC例の90%は自然肛門を温存しつつ症状から離脱しうるものと考える.また一層の排便機能の改善とpouchitis (11%) など晩期合併症の解決にはさらなる研究を要する.
  • 内科治療・手術適応・術式の選択
    吉雄 敏文
    1992 年 25 巻 8 号 p. 2254-2258
    発行日: 1992年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    クローン病の診断基準, 活動期・非活動期の診断基準, 内科治療 (栄養療法・薬物療法), 手術率, 手術適応, 術式適応 (広範囲切除・小範囲切除・断端残存病変・strictureplasty) について, 最近の趨勢を述べた.
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