日本消化器外科学会雑誌
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26 巻, 12 号
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  • 草地 信也, 炭山 嘉伸, 碓井 貞仁, 倉重 眞澄, 長尾 二郎, 栗田 実, 鈴木 雅丈, 川井 邦彦, 有馬 陽一
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2733-2739
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道癌術後の呼吸器感染およびmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(以下,MRSA)感染の予防として周術期の輸液管理と第1世代セフェム剤(cefazolin以下,CEZ)の投与が有効であった. 対策前のA群では術中に642±69ml/h. の電解質輸液がなされ,低アルブミン血症(2.6±0.2g/dl)から肺水腫を生じ,調節呼吸を要し,呼吸器感染の原因となっていた. 対策後のB群では術中電解質液を72.4±6.9ml/h. に抑え,凍結人血漿を1.5~2.0ml/kg/h. 投与し,血清アルブミン値を2.8±0.1g/dlに保った. 調節呼吸期間はA群平均38.7時間からB群平均4.9時間と短縮され,呼吸器感染が予防された. また,縫合方法の改良で頸部膿瘍が激減した. さらに,A群では術後感染予防に第2・3世代セフェム剤やこれらとアミノ配糖体剤が投与されたがB群では全例にCEZを投与し,菌交代現象によるMRSAの定着を防いだ. これらの対策の結果,MRSA術後感染はA群8.7%からB群0%と有意に減少した.
  • 前田 清, 鄭 容錫, 小野田 尚佳, 加藤 保之, 有本 裕一, 新田 敦範, 曽和 融生
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2740-2744
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    早期胃癌患者82例を対象とし, 増殖期細胞に特異的な抗pr01iferating cell nuclear antigenモノクローナル抗体を用いて, 術前の内視鏡検査でえられた癌病巣からの生検標本についてPCNA標識率をもとめ, 胃癌の増殖能と壁深達度, リンパ節転移との関係について検討した. PCNA標識率と壁深達度との関係ではsm癌ではm癌に比べ, 有意にPCNA標識率が高く, また, リンパ節転移陽性例では陰性例に比べて有意に標識率が高かった.PCNA標識率が40%以上の6例いずれもsm癌であり, 全例にリンパ節転移が認められた. これに対し, 標識率が30%以下の症例ではリンパ節転移はみられなかった.
    以上より, 術前の生検標本でのPCNA標識率は壁深達度, リンパ節転移の指標となりうることが示唆され, PCNA標識率が30%以下の症例では縮小手術の可能性が示唆された.
  • 木村 寛伸, 神野 正博, 高村 博之, 荒川 元, 前田 基一, 魚岸 誠, 素谷 宏
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2745-2748
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌患者73例において従来の予後因子に加え, 内視鏡下生検材料を用い, 胃癌の細胞核DNA量の測定を行った. 胃癌生検材料のDNA aneuploid症4/1は早期癌29例中15例 (51.7%), 進行癌44例中34例 (77.3%) に認められ, 早期癌の2例, 進行癌の8例にDNA multiploidyを認めた. 40例の生検と切除標本のDNA ploidy patternの一致率は95%であった.生検標本のDNA index (DI) の分布は1.0~2.8で, 切除標本のDIとよく一致した (r=0.9426).DNA ploidy pattemと臨床病理組織学的諸因子との関係をみると, 漿膜浸潤陽性, リンパ節転移陽性, 静脈侵襲陽性, リンパ管侵襲陽性はDNA diploldy症例に比べ, DNA aneuploidy症例で有意に高率であった. 以上より生検材料を用いて, 細胞核DNA量を測定することはprospectiveに癌細胞の生物学的特性を知るのみならず, ひいては治療方針の決定に役立つであろうと考えられた.
  • 鈴木 孝雄, 落合 武徳, 永田 松夫, 軍司 祥雄, 横山 健郎, 柏原 英彦, 蜂巣 忠, 坂本 薫, 徳元 伸行, 久賀 克也, 西島 ...
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2749-2755
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌に対する術後補助化学療法としてのEAP療法の有用性を検討する目的で, 原発巣が切除されたstage III胃癌12例, stage IV胃癌13例に対して, 術当日にmitomycin C 10mgを静とした後, 術後3週, 3か月, 6か月日にEAP療法 (etoposide 60mg/m2×3, adriamycin 20mg/m2×2, cisplatin40mg/m2×2) を施行した. 骨髄毒性, 腎毒性は十分コントロール可能であり, 全例安全に治療を遂行しえた. 治療成績はhistorical control群と比較して, stage IIIでは有意差はなかったものの, stage IVでEAP施行群の生存率が有意に良好であった (p=0.0358). また, アンケート調査の結果からは息者の負担は許容範囲と思われた. 以上, EAP療法は, 進行胃癌に対する安全で有効な, 術後補助化学療法であると思われた.
  • 城戸 和明, 神代 龍之介, 左野 千秋, 山崎 繁通, 田中 幸一, 犬塚 貞光
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2756-2766
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    同一症例の胃粘膜から発生する同時性多発胃癌 (以下, 多発胃癌と略記) の特性について検討するために多発胃癌20症例42病巣のc-Ki-ras遺伝子 (以下, rasと略記) を検索した. 対照として単発胃癌, 胃腺腫も検索した.
    rasの点突然変異 (以下, 変異と略記) は多発胃癌20症例中7症例 (35.0%) に認められ, 単発胃癌の変異が56症例中6症例 (10.7%) に認められたのに比べ推計学上有意に高率であった (p<0.05). 多発胃癌20症例42病巣中の変異率は, 副病巣 (9.1%) よりも主病巣 (35.0%) に有意に高率に認められた (p<0.05).単発胃癌よりも多発胃癌, 早期癌よりも進行癌, 副病巣よりも主病巣と, よりmalignant potentialが高い病巣により高率に変異が認められ, 変異はmalignant potentialを現してると考えられた. また多発胃癌の副病巣で変異が認められた症例においては, 主病巣と違った変異形式が認められ, 多発胃癌における各病巣間での転移浸潤判定の一助になる可能性が示唆された.
  • 佐藤 浩一, 野崎 浩, 榊原 宣
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2767-2774
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝移植後のgraft viabilityをdonorの絶食期間とdonor肝の単純浸漬冷却保存時間cold ischemic time (CIT) の面より検討した. 肝移植後3時間の胆汁排泄量は, 絶食期間が48時間以上になると, CITの延長するほど低値を示した. また30日生存率は絶食期間48時間, CIT6時間, 絶食期間72時間, CIT1, 6時間で0%と, Euro-Collins solutionの安全域とされるCIT6時間でも極めて不良であった. 肝ATPは絶食期間72時間で有意に低値を, 肝ADPとenergy chargeは絶食期間48, 72時間で有意に低値を示し, これらはCITの延長とともにより低下した. 電顕による観察では, 絶食期間48時間以上で細胞質の空胞化, 類洞内にblebが認められ, CITが6時間では類洞内皮細胞の変性, 脱落が認められた. 以上よりdonorの48時間絶食ではCITが延長すると, また72時間絶食ではCITが短時間でも, 肝移植後のgraft viabilityを低下させ, 移植成績を不良とする原因となりうることが示唆された.
  • 動脈遮断肝に対する長時間観察結果
    伊藤 清高
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2775-2783
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝動脈血行の途絶に起因する肝不全を回避するため部分門脈動脈化術を行い, 肝血行動態, 酸素受給動態を中心に長期的観察を行った. 雑種成犬を用い, 肝動脈遮断群 (N=7), 肝動脈遮断下に部分門脈動脈化術を施行後48時間観察する短期観察群 (N=7), 同1週間観察する長期観察群 (N=7) を作成した. 総肝血流量は肝動脈遮断48時間後には約60%に減少したのに対し, 短期観察群, 長期観察群とも術前値以上を保った. 門脈圧は変動をみなかった. 肝酸素供給量は肝動脈結紮群で48時間後に約49%に減少したが, 部分門脈動脈化群では1週間後も高値を保ちえた. 肝酸素消費量は有意な変化はなかった. GOT, GPTは部分門脈動脈化群では上昇が抑えられ, 1週間で前値に復した. 組織学的には肝動脈遮断群では認めた壊死像は, 部分門脈動脈化群では認めなかった. 以上から部分門脈動脈化術は少なくとも術後1週間にわたり肝臓に有効に作用することが示唆された.
  • 高島 茂樹, 冨田 冨士夫, 秋山 高儀, 後藤田 治公, 桐山 正人, 斎藤 人志, 小坂 健夫, 喜多 一郎, 木南 義男
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2784-2792
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    右側結腸癌109例を対象にリンパ節転移状況を検討し, 以下の結果を得た. 1) 採取リンパ節総数は7,664個, 1症例あたり平均70.3個で, 転移率は49.5%, 転移度は3.4%であった.2) 右結腸への動脈分岐は回結腸, 右結腸および中結腸動脈が独立して分枝する標準型は47w7%のみであった. 3) 肉眼判定と組織学的所見ならびにリンパ節長径と転移度の検討から肉眼判定の困難性が示唆された. 4) 転移率は癌腫部位に関係なく腫瘍近傍リンパ節で最も高く, 次いで中枢側転移が高率で, 主幹動脈に向かう流れが優位を占めた. なお, 腸管軸方向転移は癌腫縁より最長10cmに限られていた. 5) 癌腫部位からみた中枢側転移は盲腸および上行結腸口側1/3の癌では回結腸動脈, 右横行結腸癌では中結腸動脈領城が主で, 他の上行結腸癌では動脈分岐状況に左右され, 3動脈にまたがって転移がみられた. 6) 盲腸および同部の浸潤上行結腸癌の3例で下大静脈前面, 外腸骨動脈周囲リンパ節に転移を認めた. 以上から右側結腸癌に対する郭清術式を考察した.
  • 黒阪 慶幸
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2793-2802
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    小腸癌の発生に関し, その臓器特異性を解明する目的で, 回腸を遠位結腸間に間置したWistar系雄性ラットを作製し, 術後2週目よりMNNGを2.5mg/day, 14日間注腸投与した後, 10週, 20週, 30週, 40週目に犠牲死させ腫瘍発生率および粘膜の細胞動態を検索した. 同様な方法で生食注腸群を設けた. 細胞動態の解析はdouble labeling methodにより行った. 癌腫発生率は生食注腸群0%, MNNG注腸群では10週0%, 20週54.5%, 30週35.0%, 40週52.6%であった. 部位別に癌腫発生率をみると, 間置回腸は3.3%と遠位結腸の38.3%に比べ有意に低く, また1匹あたりの発生した癌腫個数も間置回腸が0.03個と遠位結腸の0.70個に比べ有意に低率であった. MNNG注腸群の細胞脱落時間は遠位結腸の91.4±21.1時間に対し, 問置回腸では40.6±8.2時間と有意に短縮していた. 以上より小腸粘膜上皮の速い更新性が, 小腸が持つ強い発癌抵抗性の主な因子である可能性が示唆された.
  • 小野寺 久, 朴 泰範, 長谷川 正人, 山添 善博, 坂本 忠弘, 井上 弘, 竹内 吉喜, 池内 大介, 今村 正之, 前谷 俊三
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2803-2808
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    教室で過去17年間に入院手術した放射線腸炎23例につき解析を行った. 1) 患者は手術時期により, 照射後1年前後の早期手術群 (16例) と, 10年以上の晩期手術群 (7例) に二分された. 2) 症状によっても, 腹痛, イレウス中心の小腸狭窄型 (14例) とテネスムスや下血が主体の直腸炎型 (7例) に二分され, 穿孔性腹膜炎が2例あった. 症状と手術時期の相関は認めなかった. 3) 施行術式は, 広範小腸切除・吻合 (13), 貫通術式 (3), 直腸切断 (2), バイパス術 (2), 腸瘻 (3) であった. 貫通術式のうち2例に吻合部の狭窄を認めたが, 広範小腸切除後の腸吻合では全症例で狭窄も縫合不全も認めなかった. 放射線腸炎の手術にあたっては, 障害腸管を十分に切除し, 健常部での吻合が望ましい. これにより術後の合併症や後遺症はむしろ軽減する. すなわち小腸では大量切除吻合術, 直腸では亜全摘・貫通術式が推奨される.
  • 犬房 春彦, 足立 俊之, 中村 正人, 進藤 勝久, 安富 正幸
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2809-2815
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    癌特異性抗原coagulant cancer antigen 1 (CCA-1) はわれわれが発見した血液凝固第X因子を直接活性化する新しいserine proteaseである. CCA-1を認識し, その凝固活性を特異的に抑制するモノクローナル抗体AI18抗体を用いて大腸癌および大腸腺腫におけるCCA-1の発現を免疫組織学的に検討し, CEAと比較検討した. 大腸癌におけるCCA-1の発現率は92%であり, CEAは98%であった. しかし, 注目すべきはCCA-1がすべての症例で正常大腸組織には認められなかったのに対し, CEAでは72%の正常大腸粘膜にも発現が認められたことである. 大腸腺腫内癌と大腸腺腫においては, CCA-1の発現は約半数に認められた. 正常組織におけるCCA-1の発現は成人, 胎児ともに扁平上皮, 気管支粘液腺, 胃固有線の一部分に認められたにすぎない. その生物学的特性が明らかなCCA-1は, 大腸癌に特異性の高い新しい抗原である.
  • 白井 芳則, 布村 正夫, 更科 広実, 斉藤 典男, 谷山 新次, 新井 竜夫, 小野 正人, 中島 伸之
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2816-2821
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    術前照射療法を併用した直腸癌切除症例34例の術後排尿機能を検討した. 術前照射終了後にみられた排尿障害は頻尿を主訴とする急性膀胱炎症状が主体であった. 骨盤内自律神経温存の程度と術後排尿機能では, 両側および片側骨盤神経叢温存症例で排尿機能がほぼ良好に保たれたが, 非温存例では高度障害が66, 7% (2/3) と多く認められた. 術式別では低位前方切除例に排尿障害を認めなかったのに対し, 腹会陰式直腸切断例では53.9% (14/26) に障害を認めた. 両側骨盤神経叢を温存した15症例の排尿機能検査では, 照射終了後40ml以上の残尿を21.4% (3/14), 最小尿意100ml未満を23.1% (3/13), 最大尿意200ml未満を15-4% (2/13), 膀胱コンプライアンス20ml/cmH2O未満を28.6% (4/14) の症例に認め, さらに術後1か月目に残尿量の増加, 最大尿意の減少, 膀胱コンブライアンスの低下が出現したが1年以上経過症例においてこれらの異常はすべて改善していた.
  • 岩崎 一臣, 篠崎 卓雄, 山口 聡, 浦川 聡史, 岡田 和也, 津田 暢夫, 林 徳真吉
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2822-2826
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大動脈周囲リンパ節に転移をきたした胃m癌の症例を報告する. 症例は40歳の男性で, 主訴は上腹部痛および嘔気である. 上部消化管造影検査と胃内視鏡検査で胃前庭部の表層拡大型IIC胃癌と診断した. 幽門側胃切除および第1群から第4群のリンパ節郭清を施行した. 病理組織学的には5.4×4.5cm大の深達度mの低分化腺癌と診断されたが, 粘膜下層, 筋層, 漿膜下層に著明なリンパ管侵襲が認められた. リンパ節転移は大動脈周囲リンパ節まで及んでいた.
    術後1年4か月経過した現在, 再発なく生存中である.
  • 橋本 可成, 福田 裕, 松井 祥治, 藤本 彊, 裏川 公章
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2827-2831
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は11歳の男児. 主訴は嘔吐と下血. 胃透視, 胃内視鏡検査で胃体部小彎側前壁の約3cmの粘膜下腫瘍からの出血と確認され手術に至る. 術中迅速病理診断で胃平滑筋芽細胞腫と診断され, リンパ節郭清を含む幽門側胃切除, Billroth I法で再建を行った. 病理所見は豊富な好酸性胞体を有する円形細胞や淡明化した胞体を有する細胞からなる腫瘍でmitosisも散見されたが, 摘出リンパ節への転移はなかった. 術後経過は良好で, 胸部X線, 腹部超音波検査, ガリウムシンチで異常所見を認めなかった.
    小児発症の胃平滑筋芽細胞腫はまれで本邦の報告は4例のみである. 欧米での報告では13例中11例が女児で7例にfunctioning extra-adrenal paragangliomaやlung chondromaのCamney's Triadを発症していたが, 本邦での報告はない. しかし, 胃病変と異時性に発症することが少なくないことから, 厳密な術後の経過観察が必要と考える.
  • 柳父 宣治, 森 敬一郎, 和田 康雄, 中村 肇, 山岡 義生, 小澤 和恵, 小原 弘
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2832-2835
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    凝固機転異常をもった患者に対する肝切除術は出血の危険性が高く, 困難が予想されるが, 血友病A患者に発生した肝癌に対し肝右葉切除術を施行し, 濃縮第VIII因子製剤の使用方法につき検討した. 1976年厚生省血友病研究班による外科手術時のプロトコールの最大投与量 (術前~POD 1: 70%, POD 2~7: 40%, POD 8~: 20%) を自標第VIII因子とし, 肝切除術の1時間前に2,500単位の濃縮第VIII因子製剤を投与した. 肝切除術は異常出血はなかったが, 閉腹時に腹壁から止血困難なoozing様出血を認め濃縮第皿因子製剤2,500単位を静脈内投与したところ止血した. 肝切除術時にはより高い第VIII因子活性が必要だと考えられる. これは肝切離面や剥離面における出血, それに伴う血栓形成などのために術中, 術後を通して凝固因子の消費が他の一般外科手術よりも多くなり, 理論上の半減期よりも急速に低下するためであろう.
  • 待木 雄一, 二村 雄次, 早川 直和, 神谷 順一, 近藤 哲, 梛野 正人, 宮地 正彦, 長坂 徹郎
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2836-2840
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は45歳の女性. 腹部CT検査にて肝腫瘍を指摘された. 単純CT検査では低吸収域として認められ. CT値は+56HUであった. dynamic CT検査では造影剤静注10秒後に腫瘍はほぼ均一に濃染し, 60秒後にはwash outされた. 腹部超音波検査では肝右葉後区域に内部は不均一な卵円型の低エコー像を認めた. MRI検査のT1-強調像では低信号域, T2-強調像では高信号域として認められた血管造影検査ではhypervascularで動脈相から静脈相にかけて均一な卵円形の濃染像を認めた. 術前診断では肝focal nodular hyperplasiaを疑い, 肝右葉後区域部分切除術を施行した. 腫瘍の割面は暗赤色で境界明瞭な腫瘍で, 病理組織検査により肝血管筋脂肪腫と診断された. 自験例は脂肪成分の割合がきわめて少ない血管筋脂肪腫であり, 非特異的なhypervascularな腫瘍の様相を呈していたため, 術前診断に難渋したものと考えられた.
  • 村上 茂樹, 石賀 信史, 庄 達夫, 石原 清宏, 酒井 邦彦, 岩藤 真治, 藤井 康宏, 山本 泰久
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2841-2845
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    心窩部痛を訴える27歳の女性の肝右葉に発生した肝血管筋脂肪腫の1例を経験した. 腫瘍は肝右葉全域を占め (15×13×10cm), 肝右葉切除術を施行した. 本疾患の画像所見の特徴は, 腹部超音波検査で高エコー, computed tomography検査では低吸収領域, 造影CT・血管造影では腫瘍濃染像として描出される. しかし, 腫瘤内にある筋成分と脂肪成分との比率により, その画像所見は症例により微妙に異なり, 自験例は上記特徴を有していたが, なお血管腫との鑑別を要した. 径2cm以下の症例では肝細胞癌との鑑別は困難とされる. 病理組織学的には, 増生した大小の血管と成熟脂肪細胞, 筋細胞の存在により診断される. 自験例は腫瘍内に髄外造血巣を認めたが, これは肝血管筋脂肪腫に特異的な所見である. 肝での悪性例の報告は認められないが, 最近腎血管筋脂肪腫の平滑筋肉腫への悪性化が報告されており, 経過観察する場合は注意が必要である.
  • 小林 功, 大和田 進, 森下 靖雄
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2846-2849
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    化学療法で完全寛解が得られた悪性リソパ腫に, 原発性肝細胞癌を併発し, 外科的に治癒切除しえた症例を経験したので報告する. 症例は43歳の女性. 1987年12月, 悪性リンパ腫で, Vincristin, Cyclophosphamide, Adriamycin, Predonisoloneの組み合わせによるVEPA療法を3コース行い, 完全寛解を得た. 1990年12月に, αfeto-protein (AFP) の上昇があり, 画像診断で肝癌と診断され, 1991年3月に肝右葉切除を施行した.本症例は悪性リンパ腫と肝細胞癌の異時性重複癌である. 1985年より5年間の日本病理剖検輯報で悪性リンパ腫に合併した重複癌の発生頻度は9%で, 肝細胞癌も0.8%にみられた. 悪性リンパ腫の化学療法の進歩により, 異時性重複癌は増加するものと思われる.
  • 坪野 俊広, 杉本 不二雄, 塚田 一博, 畠山 勝義
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2850-2853
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    傍乳頭部総胆管十二指腸瘻から動脈性出血をきたした1例を経験した. 症例は68歳の男性, 急性胆嚢炎に対して経皮経肝胆嚢ドレナージ術が施行され, 胆道造影で総胆管結石症と診断された. 総胆管十二指腸痩は胆嚢ドレナージの1週間後に発生した. 胆嚢摘出術, 総胆管切開・Tチューブドレナージ術を施行したが, 第13病日 (瘻孔形成後約3週間) に胆道出血と下血をきたしショックとなった. 内視鏡的止血術, 動脈塞栓術が不能であったため, 緊急手術で十二指腸を切開すると瘻孔内の膵実質より動脈性出血がみられた. 膵実質を含めて出血点を刺入結紮することにより止血しえた. 術後再出血はみられず胆管炎も発生していない. 総胆管十二指腸瘻出血は瘻孔形成後早期に発生しうる合併症であり, 経過観察に際しては十分念頭におくべき病態であると思われた.
  • 安村 幹央, 尾関 豊, 松原 長樹, 石田 秀樹, 木村 富彦
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2854-2858
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は55歳の男性. 近医で黄疸を指摘された. 腹部超音波検査で肝内胆管の著明な拡張と肝門部の不整形腫瘤を認めた. Computed tomographyで肝門部に30mm×20mmの低吸収域を認め, 内部には石灰化を疑わせる高吸収域を伴っていた. 腹部血管造影, 胆管造影所見とあわせ, 右肝管を中心とする肝門部胆管癌と診断し, 尾状葉合併拡大肝右葉切除術を施行した. 切除標本で腫瘍は3.0×2.5cm, 灰白色調を呈する高分化型管状腺癌で, 腺腔内を中心に砂粒腫様の微細な石灰化が多数認められた. 本症例における石灰化の機序はdystrophic calcificationで, 組織学的形態からは砂粒体型, 壊死型の混在する型と思われた. 悪性腫瘍中に石灰化を認めることはまれではなく, 甲状腺癌, 乳癌などの石灰化はよく知られている. しかしながら本例のごとき胆管癌石灰化の報告例は少なく, 石灰化の機序を考える上でも貴重な症例と思われたので報告した.
  • 本山 悟, 寺島 秀夫, 松岡 富男, 斉藤 昌宏, 阿保 七三郎
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2859-2863
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腎細胞癌の膵および皮膚への転移は他部に比べて極めてまれである. 今回我々は右腎細胞癌にて右腎摘出後, 19年経過してから膵, 皮膚転移を認めた67歳の女性の1例を経験した. 腎細胞癌根治手術後, 5年以上経過してから膵転移を生じたのは, 著者の検索しえたかぎりでは自験例を含めて18例であり, 膵, 皮膚への同時性転移に関しては2例目の報告である. 診断にあたりnon functioning islet cell tumorとの鑑別に苦慮したが, 病理学的に神経分泌顆粒がないことによって, 腎細胞癌の転移巣であると断定した-その転移経路の確証は得られなかったものの, 血行性転移が最も考えられた. またslow growthを示した要因として, 腎細胞癌そのものの特性, 患者の年齢, 性, 免疫状態, 化学療法施行などの影響が考えられた.
  • 2自験例を含む126手術例の臨床病理学的検討
    桂巻 正, 木村 雅美, 三神 俊彦, 山城 一弘, 向谷 充宏, 木村 弘通, 伝野 隆一, 平田 公一
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2864-2868
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵のsolid and cystic tumor (SCT) の2例を経験したので報告した. また, 今日までに本邦で報告された肉眼的, 組織学的記載の明らかな126例につき, 主に外科治療の問題点を検討した. 症例1は23歳の女性で腹部腫瘤を主訴とし, 膵尾部に11×7cmの被膜を有する嚢胞性の腫瘍を認め, 膵体尾部切除を施行した. 症例2は44歳の女性で膵体部に5×4cmの被膜内石灰化を伴う嚢胞性腫瘍を認め, 膵体尾部切除を施行した. 両者とも組織学的にSCTと診断された.
    上記2例を含めた126例の手術症例の検討では術中リンパ節転移は1例にのみ認め, 術後転移・再発は3例, 再発形式としては肝転移であり, リンパ節転移を認めなかった. 死亡例は2例で, 全例が肝転移を伴う60歳以上の症例であった. 以上より術後経過観察においては肝転移の有無に重点をおくべきと考えられた. また, 手術におけるリンパ節郭清の意義については, その必要性は少ないと思われた.
  • 塩谷 雅文, 具 英成, 長畑 洋司
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2869-2873
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    小網リンパ管腫の1切除例を経験したので報告した. 症例は56歳の女性で胆石症を合併しており, 上腹部不快感を主訴として来院した. 術前, 腹部超音波検査, computed tomography検査およびmagnetic resonance imaging検査で網嚢内嚢腫と診断し, 手術を施行した. 開腹時所見としては, 多房性の嚢腫が小網部を中心に存在し, 小網原発と考えられた. 摘出標本の大きさは12.0×5.0×3.4cm, 重量150g, 色調は暗赤色で平滑な被膜を有していた. 術後の病理組織学的検討でリンパ管腫と診断された. 小網リンパ管腫は比較的まれで, 今回検索したかぎりでは本邦で25例が報告されたにすぎず, また術前診断がきわめて困難である. 自験例を含め本邦報告例を集計し本疾患の診断および治療についての文献的考察を加えた.
  • 加藤 宣誠, 小林 仁也, 中川 司
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2874-2878
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は48歳の男性で腸閉塞症状にて入院した. 腸管の減圧とともに大腸内視鏡検査, CT検査などにより虫垂癌, 虫垂S状結腸瘻, 虫垂膀胱瘻の術前診断が可能であった. 開腹手術を施行したがすでに腹膜播種が存在し治癒手術は不可能であり回盲部切除術, 虫垂S状結腸瘻, 虫垂膀胱瘻各摘除術を施行した. 現在術後癌化学療法を施行中である. 瘻孔を形成した虫垂癌は本邦で本症例を含め15例が報告されている. 瘻孔形成部位は皮膚, 回腸の順に多かった. 組織型では粘液産生癌が多く, 外方浸潤傾向のため瘻孔を形成しやすいと思われた. 15例のうち治癒手術と報告されているものが4例みられたことから, 瘻孔を形成した虫垂癌でも適切な外科治療により治癒の可能性が示唆された.
  • 大村 健二, 金平 永二, 石田 文生, 足立 巌, 持木 大, 渡邊 洋宇
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2879-2882
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    われわれは遊離空腸片採取後に発生した腸重積症の4例を経験した. いずれの症例にも, 頸部食道癌もしくは下咽頭癌の診断で咽頭喉頭頸部食道切除術を行った. その際, 頸部食道再建のため上部空腸より遊離空腸片を採取し, 採取後の空腸断端はAlbert-Lembert縫合により端々に吻合した. 4例ともに腸閉塞様の症状で発症し, 保存的に加療するも症状の改善を認めず再手術を施行した. 再手術前に腸重積症と診断可能であったのは1例のみであり, ほかは癒着性イレウスの術前診断であった. 3例には先進部である空腸片採取後の吻合部を含めた腸管切除を行った. 再手術後は腸重積症の再発を認めていない. トライツ靱帯の近傍に吻合が形成されることや, 吻合部の浮腫が腸重積の誘因であると思われた. 採取後の空腸断端の血行不良部を切除し, 層々縫合によって吻合する方針とした以後は腸重積症の発生をみていない.
  • 丹羽 篤朗, 佐々木 信義, 三井 敬盛, 加藤 丈博, 小山 浩, 成田 守, 大和 俊信, 柴田 和男, 角岡 秀彦
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2883-2887
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    消化管病変に起因した壊死性筋膜炎はまれであるが, いったん生じれば骨盤腔, 後腹膜腔の筋肉, 筋膜の解剖学的関係から後腹膜腔, 大腿, 殿部, 体幹, 会陰, 外陰部などに広範に波及し致死的になる. 我々は46歳の精神分裂病の男性で, 痔瘻に起因して骨盤直腸窩, 後腹膜腔, 体幹へと広がった壊死性筋膜炎の症例を経験した. 緊急手術を施行し後腹膜腔は両側の腹直筋外縁切開で腹膜外にドレナージし, 体幹感染部は腹直筋, 外腹斜筋筋膜上で剥離し開放しドレナージとデブリードメントを行った. その後, 抗生剤, γ-globulinの全身投与と呼吸・循環・栄養管理を行う集中治療を行い, さらに積極的局所療法として連日全身麻酔下に希ポビドンヨード液で膿瘍腔, 皮下感染部の洗浄を行い救命した. 救命のためには早期に診断し早期に外科治療を開始するだけでなく, その後の全身治療, 連日の積極的局所治療が重要である.
  • 楠山 明, 岩本 公和, 渡辺 直哉, 村田 聡, 小室 恵二, 安藤 博, 伊坪 喜八郎
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2888-2892
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は38歳の女性. 3年半ほど前に, Borr.3型直腸癌 (Rs) (高分化腺癌) の穿孔による汎発性腹膜炎にて手術を受けた. 1992年10月, 腹部腫瘤とCEAの上昇を認め, 当院に入院となり, 腹部超音波検査・腹部computed tomography・腹部magnetic resonance imagingにて, 傍大動脈リンパ節転移と診断された. しかし, 手術所見では下大静脈の腫瘍塞栓であった. 組織学的にも高分化腺癌が証明された.
    われわれの調べえた範囲では, 直腸癌穿孔性腹膜炎術後3年半余を経過して, 遠隔他臓器に転移が認められず, 骨盤内リンパ節再発と下大静脈に腫瘍塞栓を来した症例はなく, まれな1症例であったので報告する. その進展様式は原発巣の直接浸潤ではなく, 血行性に大循環系へと浸潤増殖したものと思われた.
  • 中野 芳明, 川崎 勝弘, 川端 雄一, 太田 祥彦, 西 敏夫, 西出 孝啓, 相沢 青志
    1993 年 26 巻 12 号 p. 2893-2896
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は59歳の女性. 幼小児期よりcafe-au-lait spots, 皮膚腫瘤があり, von Recklinghausen病と診断されていた. 右上腹部腫瘤の精査目的にて来院. 腹部超音波検査およびCT検査で, 右腎前方に壁の一部に石灰化を伴った嚢腫状の, 4×4cmの腫瘤を認めた. 後腹膜奇形腫と診断し, 腫瘤摘出術を行った. 内部は黄色粘調な液体で満たされ, 毛髪が存在していた. 病理組織検査では, 皮膚および皮膚附属器官, 軟骨, 甲状腺組織が認められ, 良性の成熟奇形腫と診断された. 成人の後腹膜奇形腫は, 非常にまれで, 本邦では31例報告されており, これらを集計検討した. その診断にはCTが非常に有用であるが, 良悪性の鑑別は, 病理組織学的検索以外は不可能と思われた. 悪性例が31%を占めるため, 早期診断, 手術が必要であると考えられた.
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