日本消化器外科学会雑誌
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26 巻, 4 号
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  • 瀬川 正孝
    1993 年 26 巻 4 号 p. 971-978
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃十二指腸液の逆流が, 食道および前胃に癌を発生させるかいなかを検索した.ウイスター系雄性ラットに, 十二指腸液が吻合口より直接前胃に流入する経吻合口逆流手術 (第1群), 腺胃を経由して前胃に流入する経腺胃逆流手術 (第2群), 単開腹手術 (第3群) を行った.ラットを発癌物質を投与せずに飼育し, 手術後50週で, 犠牲死させ剖検した.対照の第3群には病変は認められなかったが, 第1群, 第2群には扁平上皮癌がそれぞれ3/11 (27%), 3/18 (17%) の頻度で, 食道下部か前胃に発生した.そのほか, 再生肥厚, 過形成, IMCH (intramural cyst with hyperplasia), dysplasiaなどの組織学的変化が観察され, 逆流による慢性食道炎を母地とした発癌様式が推測された.また, 食道の円柱上皮化生と, 前胃の粘液腺癌が観察された.以上の所見は, 胃十二指腸液の逆流が食道発癌の重要な要因であることを示唆している.
  • 稲田 高男, 井村 穣二, 尾形 佳郎, 島村 香也子, 安藤 二郎, 尾沢 巌, 松井 淳一, 菱沼 正一, 清水 秀昭, 固武 健二郎, ...
    1993 年 26 巻 4 号 p. 979-983
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    Alpha-fetoprotein (AFP) 産生胃癌切除例10症例の臨床病理学的因子を検討するとともに, proliferatingcell nuclear antigen (PCNA) の発現の程度から, その腫瘍細胞増殖能を検討した.AFP産生胃癌の頻度は同時期の進行胃癌切除例の6.1%で, 肉眼型では2ないし3型の潰瘍形成型を示し, 胃遠位側に存在するものが多かった.組織型別には乳頭状腺癌, 中分化型管状腺癌, 低分化型腺癌と種々のものがみられたが, 多くが中間型および髄様増殖型であり, 硬性型はなかった.また10例中7例が手術時肝転移を有し, 残り3例中1例も肝転移再発死し, 肝転移との強い相関がみられた.PCNAの発現の程度からみた細胞増殖能では, 他の進行胃癌のものにくらべて, AFP産生胃癌の細胞増殖能は高いことが示唆された.
  • 加藤 年啓, 山中 若樹, 岡本 英三
    1993 年 26 巻 4 号 p. 984-991
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    慢性肝疾患405例を対象とし, Rmax測定上の問題点と対策およびRmaxの意義について検討した.Rmax算出上の基本条件である不等式 (K1>K2>K3) 不成立の頻度は前期 (1976~1983.3, K0.5, K1.0, K3.0) では46% (92/201) であったが, Rmax測定法を改良した後期 (1983.3~1987.12, K0.5, K2.0, K4.0) では14% (28/204) に減じた.不等式を満足する評価可能例のRmaxは例外なく5mg/kg/min未満であった.不等式不成立例にはKICGが0.05min-1未満, あるいは0.15min-1以上を示す肝予備能の高度障害例あるいは良好例が多かった.Rmaxが最も強い相関を示したのは肝線維率であり, 0.47mg/kg/min以下の症例は例外なくB型肝硬変例であった.KICGに比べRmaxが相対的に低値を示す解離例は肝硬変の進行例が多く, また食道静脈瘤合併率が高かった.
  • 佐々木 誠, 江藤 敏文, 冨岡 勉, 角田 司, 兼松 隆之
    1993 年 26 巻 4 号 p. 992-998
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    ss胆嚢癌切除例は31例でssα, β22例, ss-γ9例, 根治切除例はそれぞれ18例, 6例であった.ssα, β22例とssγ9例の組織学的リンパ節転移, 静脈浸潤, 神経周囲浸潤の各頻度は前老32%, 18%, 23%で後者の78%, 67%, 67%に比較して有意に低率でおのおのの4年生存率68%, 23%に有意差がみられた.ssα, β 根治切除例18例のうち再発死亡は局所再発が3例で, 現在生存の11例には主としてS5, 4下肝亜区域切除+R2+16番リンパ節郭清術 (以下, 拡大胆摘術) が施行され肝外胆管切除, 膵頭十二指腸切除が併施された.一方, ssγ6例にも同様の根治手術が行われたが全例再発死亡し5例が局所再発に加えて遠隔転移を伴っていた.したがってss癌と診断された症例には拡大胆摘術を行い, 腫瘤の局在とリンパ節転移状況により肝外胆管切除, 膵頭十二指腸切除を併施する.さらに術後ssγ と診断された症例には, 免疫化学療法を主体とした補助療法を付加するのがよいと考える.
  • 児玉 節, 横山 隆, 竹末 芳生, 沖田 光昭, 中光 篤志, 檜山 英三, 今村 祐司, 山東 敬弘, 村上 義昭, 津村 裕昭, 平田 ...
    1993 年 26 巻 4 号 p. 999-1006
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    われわれの重症度スコアーを用い, 穿孔性腹膜炎, 腹部外傷95例の重症度判定と術後感染予測を行った.重症度スコアーは0から13までに分布した.症例数はスコアー0で最大で, スコアー3以下に70%が分布した.疾患別では平均重症度スコアーは虫垂穿孔 (n=19) 0.7, 上部消化管穿孔 (n=26) 1.9, 下部消化管穿孔 (n=29) 4.1, 腹部外傷 (n=21) 4.4であった.術後感染を35例に合併した, その内8例が死亡した.平均重症度スコアーは非感染例 (n=60) 1.4, 術後感染群 (n=27) 4.9, 死亡例 (n=8) 7.5で, 各群間に有意差を認めた.術後感染はスコアー5以上で83.3%に合併した.スコアーの上昇に伴い術後感染は増加した.死亡例はスコアー3より認められ, 死亡率はスコアーの増加に伴い上昇するも, スコアー4~5, 10~11では死亡例は認めなかった.腹部緊急手術時, われわれは重症度判定を行い, これを術後感染合併の予測・術式選択・化学療法剤選択の基準とし, 良好な結果を得ている.
  • 前田 壽哉, 湯浅 英樹, 有村 俊寛, 遠藤 慎一, 明石 勝也, 芦川 和高
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1007-1012
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    絞扼性イレウスは緊急手術の絶対的適応であり, 診断の遅延は予後を大きく左右する.腸管の循環障害を伴う絞扼性イレウスの早期鑑別診断の一助として来院時血清creatine phosphokinase (CPK) 値を指標とし測定した.対象は1987.4.より1990.3.にいたる満3年間に当院救命救急センターにイレウスまたは急性腹症として紹介された142例 (♂98例, ♀44例) で, 血清CPK値およびアイソザイムパターンは来院時に採血, 測定した.開腹所見と血清CPK値 (mu/ml) の関係を調べてみると絞扼性イレウス15例は174.5±48.3, 癒着性イレウス23例は73.6±26.5, 保存的治療の104例は54.1±7.5であった.絞扼性イレウスで腸管切除を行った症例の血清CPK値は腸管の虚血性病変が強い症例で高値を示す傾向がみられた.以上より血清CPK値は絞扼性イレウスの病態を忠実に反映し, 早期鑑別診断の指標として有用であることが示唆された.
  • 福島 亘, 小西 孝司, 佐原 博之, 松本 尚, 角谷 直孝, 谷屋 隆雄, 藪下 和久, 広沢 久史, 黒田 吉隆, 辻 政彦, 三輪 ...
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1013-1017
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    過去10年間に経験した大腸癌切除例576例中, 低分化腺癌は41例 (7.1%) であった.この低分化腺癌41例の臨床病理学的特徴を同時期の高・中分化腺癌と比較検討した.低分化腺癌は高・中分化腺癌に比べて右側結腸に多く認められ, 壁深達度でも深く浸潤した症例が多かった.またリンパ節転移陽性率は70.7%, リンパ管侵襲陽性率は65.9%と高・中分化腺癌に比べ有意に高かった.しかし肝転移, 腹膜播種転移の頻度には両者に差は認められなかった.低分化腺癌にはstage Iが認められなかったため, 高・中分化腺癌のうちstage I症例を除いた治癒切除例の予後を両者で比較すると, 若干低分化腺癌で不良であったものの明らかな有意差は認められなかった.したがって低分化腺癌は進行例が多いものの, 治癒切除により高・中分化腺癌と同等の予後が期待できると思われた.
  • 山下 芳典, 平井 敏弘, 向田 秀則, 岩田 尚士, 佐伯 修二, 吉本 晃宏, 峠 哲哉, 安井 弥, 島本 丈裕
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1018-1022
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道血管腫の報告例は少なくまれな疾患である.症例は53歳の男性, 主訴はなく職場検診で食道透視上, 頸部食道右壁に26×13mmの円形透亮像を指摘された.食道内視鏡では, 上切歯列より22cmの頸部食道右壁に青色調の柔らかい腫瘍を認め, 超音波内視鏡の所見と合わせ食道血管腫と診断した.手術は全麻下に左頸部に皮膚切開を加え頸部食道に至った.腫瘍の反対側の正常食道部を切開し, その対側の病変部を周囲の正常粘膜を含めて切除した.切除後の粘膜は縫合せず, 反対側の切開部は層々に閉鎖した.縫合不全, 狭窄などなく術後経過は良好であった.組織学的には, 静脈性血管腫と診断された.本術式は簡便かつ安全であり, 食道血管腫をはじめとする主に粘膜下層に存在する良性の腫瘍に対しても推奨されるものと思われる.
  • 田中 紀章, 小林 元壮, 小長 英二, 上川 康明, 折田 薫三
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1023-1027
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    偽肉腫は肉腫様成分からなるポリープ状の腫瘍で, 基部に癌腫を伴い, その多くは上皮内癌あるいは比較的早期の癌にとどまっている.この偽肉腫に類似した食道腫瘍であるが扁平上皮癌を伴っておらず, spindle cell carcinomaと診断された1症例を報告する.
    腫瘤は頸部食道左壁に茎を有し, 胸部食道Imに達する19.0×7.5cmの巨大なポリープで, 気管を強く圧迫していた.このため呼吸困難は次第に著しくなり, 緊急手術にて頸部切開創より腫瘍を食道壁とともに切除した.腫瘍組織の一部には, PASおよびアルシアンブルーに染まった粘液を含む腺管構造が認められ, 腫瘍細胞は腺上皮由来であると考えられた.このような食道腫瘍の報告は本邦の文献上では最初のものと思われる.その後26か月間に2回の局所再発を生じ, 3回目の手術で下咽頭, 喉頭切除, 遊離小腸移植により頸部食道を再建し, 以後13か月間, 健在である.
  • 大淵 徹, 添田 耕司, 神津 照雄, 原田 昇, 小出 義雄, 磯野 可一
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1028-1032
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腐蝕性食道狭窄 (corrosive stricture of the esophagus: CSE) に発生した食道癌の1例を報告した.症例は, 54歳の男性.3歳時に紙加工処理酸液を誤飲しCSEとなり頸部にて通過障害を認めていた.51年後胸部でも通過障害と嚥下困難が出現した.上部消化管造影により上胸部食道と中胸部食道 (Im) に全周性狭窄を認めた.内視鏡検査では, Im狭窄部口側に表在軽度陥凹 (0-IIc) 型食道癌を認め食道癌根治術を施行した.切除標本でIm狭窄部とその口側に0-IIc型で固有筋層にわずかに浸潤した癌が認められ, その病理学的所見は扁平上皮癌であった.術後経過良好で36病日に退院し術後12か月後健在であった.本邦報告例21例の検討では, 男性9例女性12例と女性に多く, 平均年齢は54歳であった.アカラシアに食道癌を併発した症例に比較して, CSE後併発食道癌例では, 食道狭窄後併発食道癌までの病悩期間は38年と長く, 狭窄部とその口側に接した併発食道癌の頻度は68%と高かった.
  • 坂本 英至, 松原 敏樹, 植田 守, 奥村 栄, 中島 聰總, 西 満正, 井上 雄弘
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1033-1037
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は64歳の男性.進行食道癌で, 両主気管支, 左房, 両下肺静脈浸潤を伴う高度な縦隔リンパ節転移を認め, 手術不能と判断した.化学療法として, CDDP 75mg/m2/day 1/q4w, MMC 10mg/m2/day 1/q8w, 5FU 600mg/m2/day 2~4/q4w (持続静注) を4クール施行した.
    化療後原発巣および転移巣ともに消失したため根治術が可能となった.病理組織学的には主病巣には粘膜内に小癌巣を残すのみで他はまったく消失しており (Ef2), またリンパ節転移巣は完全に消失していた (Ef3).
  • 辻 福正, 木村 文敏, 山崎 良定, 山中 陽一
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1038-1042
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    Exulceratio simplex (Es) は微小な胃粘膜欠損の底部において比較的太い動脈が破綻し大量の出血をきたすまれな疾患である.食道静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法後にEsをきたした2例を経験したので, Esの成因などについて文献的考察を加えて報告する.
    症例1: 63歳, 男性.主訴: 吐血.現病歴: 食道静脈瘤より出血し硬化療法後に再吐血した.Esophago-cardiac junction (ECJ) 直下後壁側の破綻動脈より噴出する出血が確認された.
    症例2: 53歳, 男性.主訴: 全身倦怠感, 現病歴: 食道静脈瘤破裂し硬化療法後にECJ直下の後壁より動脈性出血部位を認めた.
    硬化療法後にEsをきたす成因については, 肝硬変に起因する動静脈シャントにより左胃動脈領域に生じた血栓による循環障害, また左胃動脈血流量の増大および血栓による血管抵抗増大による動脈破綻をきたすことが示唆された.
  • 小野 寛人, 福島 淳一, 泉 武, 山本 勝美
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1043-1047
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃脂肪腫は良性腫瘍の中でもまれな疾患であるが, 今回われわれは, 胃軸捻転症および胃癌を併存した胃脂肪腫の1例を経験したので報告する.
    症例は78歳の男性.嘔気と全身倦怠感を認め近医受診.上部消化管造影・内視鏡検査により, 胃粘膜下腫瘍の診断にて当院紹介, 入院となった.精査により, 胃体中部大弯側の粘膜下腫瘍とともに体下部大弯側後壁寄りにBorrmann 3型胃癌を認め, 同時に胃軸捻転症を併存していた.さらに, 体中部の病変はCT値から脂肪組織に由来するものと考えられ, 胃亜全摘術 (Billroth II法), R2を行った.病理組織学的にも漿膜下組織層の脂肪腫および漿膜下組織層に浸潤した低分化型腺癌と診断された.胃脂肪腫に胃癌を併存したものは本邦において18例の報告があるのみで, しかも胃軸捻転症を伴ったものは過去報告例がなく, きわめてまれな症例と思われた.
  • 白部 多可史, 中村 修三, 安井 信隆, 太田 正敏, 安村 和彦, 角本 陽一郎, 中川 自夫
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1048-1052
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    門脈本幹内に長径7.5cmに及ぶ全周性の腫瘍塞栓を形成した胃癌の切除例を経験した.症例は38歳の男性で胃体下部から前庭部の大彎側を中心としたBorrmann3型胃癌で, 術中に上腸間膜静脈から門脈本幹におよぶ腫瘍塞栓を認め, 門脈を8cm切除するとともに膵頭十二指腸切除と横行結腸合併切除を施行した.本症例では肝転移はなく, 1年1か月経過した現在も再発の徴候なく, 社会復帰している.
    胃癌が門脈内に腫瘍塞栓を形成することは極めてまれで, 現在までにわずかに18例が報告されているのみである.しかも腫瘍塞栓を含めた切除が可能であったのは4例に過ぎない.これらの報告のほとんどが最近5年以内にされている.したがって, 画像診断の進歩により今後同様の症例が増加すると考えられるので, 進行胃癌の診断・治療にあたっては門脈腫瘍塞栓を念頭に置く必要があると考えられる.
  • 西土井 英昭, 石黒 稔, 工藤 浩史, 村上 敏, 正木 忠夫, 谷口 遙
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1053-1056
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は29歳の女性で, 心窩部痛を契機に胃癌が発見されたが, 本症例は生後3か月時に先天性肥厚性幽門狭窄症に対して胃空腸吻合術が行われていた.肉眼的には胃体部のBorrmann 3型であり, 胃切除術が行われたが, 術後の組織検査でow (+) と判明したため残胃全摘術が追加された.胃癌取扱い規約に従って記載すると, 組織学的には低分化型腺癌で, n (-), P0, H0, se, stage IIIであった.胃空腸吻合術後の胃癌の報告は, 本邦では自験例を含めて34例認められるが, これらを集計したところ癌発生部位は吻合部に多いことが判明した.したがって, 胃空腸吻合術後の胃癌の発生に胆汁を含む十二指腸液の胃内逆流が関与しているのではないかと推察された.
  • 島貫 公義, 宮田 道夫, 清崎 浩一, 佐竹 賢仰, 篠原 浩一, 鈴木 済, 甲斐 敏弘, 山田 茂樹
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1057-1061
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    手術適応のある心疾患と消化器悪性腫瘍の合併症例に対する外科治療においては, 開心術と悪性腫瘍根治術をどの時期に施行すべきかが問題となる.今回, 大動脈弁狭窄・閉鎖不全症に対する大動脈弁置換術を先行させ, 術後の著明な肝転移のために根治術の機会を逸したα-fetoprotein (αFP) 産生胃癌症例を経験したので報告する.症例は76歳の男性で心不全・狭心症を認め, 大動脈弁置換手術を目的として入院した.血中αFPが高値のために施行した画像診断にて進行胃癌を認めたが, 肝転移と2群 (胃癌取扱い則約) 以上のリンパ節転移は確認されなかった.心不全症状のため開心術を先行させ, その28日後に開腹手術を施行したところ著明な肝転移を認め, 胃切除術後45日目に肝転移巣の増大進行のため肝不全にて死亡した.胃癌の手術時期に関してはそれぞれの胃癌の進行度と予後を考慮し検討する必要があるものと思われる.
  • 牧野 哲也, 林 外史英, 菊池 誠
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1062-1066
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    われわれは胃多発癌と直腸癌の重複癌症例に対し1期的根治術を施行しえた.症例は56歳の男性.便通異常を主訴に来院, 直腸指診にて腫瘤を触知し, 大腸内視鏡検査にて限局隆起型進行癌を認めた.生検にて中分化型腺癌との診断をえた.
    術前検査中の胃内視鏡検査にて, 早期多発胃癌を発見した.1期的根治術可能と考え, 胃全摘術+第1群リンパ節の郭清および直腸癌に対して低位前方切除術+リンパ節郭清を施行した.
    術後約1年の現在健在であり, 特記すべき腹部症状もない.胃と大腸の重複癌はまれではないが, 胃癌が早期多発癌であった点はまれである.
  • 上田 幹子, 今村 正之, 嶋田 裕, 服部 泰章, 高橋 清之, 柴田 信博, 野口 貞夫
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1067-1071
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    悪性十二指腸粘膜下ガストリノーマの根治的切除をした1症例を報告した.37歳の男性.1981年より再発潰瘍に対し計3回の胃切除とさらにイレウスに対する開腹術を受けていた.1989年3月の血清ガストリン値 (IRG) は602pg/dlと高く, 精査目的で当院に紹介された.セクレチンテスト陽性にてZollinger-Ellison症候群と診断されており, 当院で選択的動脈内セクレチン注入法を用いて局在診断したところ, 胃十二指腸動脈および上腸間膜動脈内へのセクレチン30単位急速注入40秒後に肝静脈血IRGはそれぞれ370pg/mlと150pg/ml上昇し, 脾動脈では有意な上昇を認めなかった.したがって膵頭十二指腸領域にガストリノーマが局在すると診断した.開腹したところ膵頭部に腫瘍を認めず, 十二指腸切開にて下行脚内に8×9mmの粘膜下腫瘍を認めたので摘出した.膵頭十二指腸領域のリンパ節郭清後の術中迅速ガストリンアッセイ法を用いたセクレチン試験は陰性で, 治癒切除と判定しえた.2年10か月後の現在, 無再発生存中である.
  • 岡 正朗, 内山 哲史, 清水 良一, 矢野 一麿, 西田 峰勝, 硲 彰一, 下田 宏二, 鈴木 道成, 原田 菊夫, 鈴木 敞
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1072-1075
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝臓内には, Kupffer細胞やPit細胞をはじめとする種々の非実質細胞が存在しており, これらの細胞は強い抗腫瘍活性を持つことが報告されている.そこで, 肝非実質細胞および腫瘍浸潤リンパ球を活性化することにより残存腫瘍細胞を制御することが残肝再発防止に有効と考え, 4例の大腸癌肝転移症例に肝切除後, 教室独自の肝動注多剤免疫化学療法を行った.すなわち, 開腹時に肝動脈内にカテーテルを留置, 皮下埋め込み式リザーバーよりinterleukin-2 (IL-2), OK-432, adriamycin (10mg) およびcyclophosphamide (300mg) を肝動注し, さらにOK-432を筋注, famotidineを経口投与した.対象となった4例は, H1が2例, H2およびH3が1例であり, 肝切除後動注療法を施行しなかった9例 (H1が7例, H2が2例) と比較した.その結果, 40か月生存率は, 非動注例の45%に対して, 動注例100%と良好な結果を得た.また, 本動注療法により末梢血natural killer活性の増強を認めた.
  • 野浪 敏明, 中尾 昭公, 横山 逸男, 原田 明生, 黒川 剛, 村上 裕哉, 鳥井 彰人, 平岡 英策, 高木 弘
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1076-1080
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    Biopump体外循環下に下大静脈の処理を先行させて腫瘍栓の散逸を防ぎ, bypass解除後肝切除を行うことによって, vascular exclusion時間を短縮できた症例を経験した.症例は66歳の男性で検診の結果, AFPの異常を発見され, CT, 腹部超音波, 血管造影にて下大静脈に腫瘍栓を有する肝右葉後区域を中心とする肝細胞癌と診断して手術を施行した.腫瘍栓は右肝静脈から下大静脈の横隔膜部まで達しており, Biopump ® による体外循環下vascular exclusionのもとに, 下大静脈を切開して腫瘍栓摘除, 右肝静脈の切離を行った, 下大静脈切開部を閉鎖後, 下大静脈と肝門部の遮断を解除した後, 肝右葉切除を行った.遮断時間は27分と短時間であった.術後経過は良好であり第29病日に退院した.本症例に行った下大静脈処理を先行させた肝切除は, vascular exclusionの時間を短縮でき有用であると考えられた.
  • 柳澤 暁, 横田 徳靖, 小川 龍之介, 田中 純, 水崎 馨, 高橋 恒夫, 青木 照明
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1081-1084
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は84歳の女性, 5年前に胆嚢総胆管結石の診断にて, 胆嚢摘出, 総胆管切開, 切石, Tチューブドレナージを施行した.術後の胆道鏡にて下部胆管に隆起性病変を認めるも, 生検にて悪性所見を認めなかったため経過観察としていた.今回, 上腹部痛, 黄疸にて入院, エコー, CT検査にて総胆管結石の再発による閉塞性黄疸と診断し, 緊急手術を施行した.総胆管には, ビリルビン結石とともに, 1.3×1.0cmの柔らかい腫瘤を認め, 摘出標本の組織学的検索にて, Heinrichの分類によるI型の異所性膵組織と診断された.
    総胆管にみられる異所性膵組織は非常にまれであり, 著者らが検索しえたかぎりでは本症例を含め8例の報告のみで, いずれの症例も女性であり, 総胆管の拡張をともなっている.総胆管の異所性膵組織は, 胆汁うっ滞の原因となり, 総胆管結石, 胆管炎, 胆嚢炎などを引き起こすと考えられるため, 切除すべきである.
  • 大川 淳, 亀頭 正樹, 赤松 大樹, 吉龍 資雄
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1085-1089
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の女性.嘔吐を主訴に入院.入院時検査にて白血球19,300/mm3, 血清総ビリルビン値は15.2mg/dlと上昇し, 胆管炎および閉塞性黄疸を認めた.血清CA19-9値は89,305U/mlと著増を示し, 膵胆道系の悪性疾患が疑われた.腹部超音波と腹部computed tomography (CT), およびpercutaneous transhepatic cholangiography (PTC) 上総胆管結石を認めたが, 悪性所見は認めなかった.胆汁中のCA19-9は13,800,000U/mlであった.Percutaneous transhepatic cholangiodrainage (PTCD) にて減黄後, 血清CA19-9値は145U/mlまで減少し, 総胆管結石の診断にて手術を施行した.胆嚢壁は著明に肥厚し, 胆嚢内に混合石90個と総胆管内に混合石20個を認めた.病理組織学上, 胆嚢壁の強度の炎症所見と, 免疫組織学的に胆嚢上皮にCA19-9を証明した.術後CA19-9値の再上昇は認めない.
  • 嚢胞被覆細胞の免疫組織学的検討
    井原 朗, 橋詰 論太郎, 片山 憲恃, 小森山 広幸, 横瀬 裕義, 得平 卓彦, 山口 晋, 品川 俊人
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1090-1094
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は26歳の女性.左季肋部腫瘤にて来院.CT, 血管造影および脾臓シンチグラムの併用によって術前に脾嚢胞と診断し, 腫瘤と脾臓を一塊として摘出した.脾臓を含む総重量は1,800g, 大きさ20×18×12cmであり, 病理学的に嚢胞内面は1層の扁平な細胞からなり真性脾嚢胞と診断した.
    今回, われわれは自験例に対して, 免疫組織学的染色を行い真性脾嚢胞の起源について検討を加えた.中皮細胞のマーカーであるkeratin, vimentinおよびcancer antigen 125 (CA125) の染色では陽性を示したが, 上皮細胞のマーカーである上皮膜抗原 (epithelial membrane antigen: EMA), 血管内皮細胞のマーカーである第VIII因子関連抗原は陰性であった.
    以上より, 自験例の真性脾嚢胞が中皮由来であると考えられた.
  • 永井 裕司, 吉川 和彦, 東 雄三, 山田 靖哉, 有本 裕一, 石川 哲郎, 西野 裕二, 山下 隆史, 曽和 融生
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1095-1099
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性.以前より完全内臓逆位症を指摘されていた.6年前に某院で胃切除術を受け, このとき肝機能障害を指摘され, 治療を受けていたが, 高アンモニア血症が出現し, 当院に入院した.血清アンモニア値は最高274μg/dlを示した.脳波には異常を認めなかったが, 傾眠傾向がみられた.腹部血管造影, 経皮経肝門脈造影で最大径20mmの巨大な脾腎短絡路が認められた.超音波誘導下肝生検では肝線維症の所見であった.非肝硬変性のsplenorenal shuntと診断し, 短絡路閉鎖術を施行した.術中, 右膵尾部近くに母指~示指頭大の副脾を3個認めた.術前後で門脈圧の上昇はほとんどなく, 術後血中アンモニアは正常範囲内となり, 傾眠傾向も消失した.内臓逆位症と門脈下大静脈短絡の合併例の報告はなく, 興味ある症例と思われたので報告した.
  • 川村 弘之, 片岡 誠, 桑原 義之, 呉山 泰進, 岩田 宏, 篠田 憲幸, 加島 健利, 佐藤 篤司, 服部 浩次, 中野 浩一郎, 正 ...
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1100-1104
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    患者は53歳の女性で, 右下腹部有痛性腫瘤にて入院.回腸, S状結腸, 右卵巣に浸潤した回盲部悪性腫瘍と診断し, 腫瘤を含め多臓器合併切除を施行したが, 術後の病理診断にて放線菌症と判明した.本症の臨床上の問題点は, 術前診断が困難な点にある.今回1957年から1991年までの腹部放線菌症121例の手術報告例を集計し, 術前診断に有用な臨床所見, 画像所見に関して検討した.男性59例, 女性55例, 平均年齢は48歳.好発部位は回盲部, 横行結腸で, 主な臨床症状は腹痛, 腹部腫瘤であった.腫瘤は可動性不良で硬く, 圧痛を伴う点が特徴であった.白血球数は約半数の症例が正常値であった.超音波, CT検査では境界不明瞭, 内部不均一な腫瘤として描出される場合が多く, 腫瘤内の膿瘍腔, 腫瘤周囲の腸管壁の肥厚, 腫瘤周囲脂肪織のCT値の上昇が診断に有用と考えられた.注腸所見では, 腸管壁の圧排像や狭窄像に加え, 粘膜面が比較的正常である点が特徴であった.
  • 木村 昌弘, 福岡 秀樹, 船戸 善彦, 辻 秀樹, 春日井 貴雄, 鳥居 敬, 小林 学, 堀田 哲夫
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1105-1109
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    後腹膜脂肪腫は組織学的に良性に属する腫瘍で, CT, USなど画像診断の発達する前には診断の困難さにより比較的まれな腫瘍とされ, 本邦では自験例を含めて60例の報告を数えるのみである.われわれの症例は71歳の男性で, 腹部膨満感を主訴に来院し精査の結果, 後腹膜脂肪腫と診断され摘出術を施行した.腫瘍重量は7,530gであった.摘出標本の再三にわたる組織学的検索においてもよく分化した脂肪腫であった.その後外来にて経過観察していたが初回手術から3年および6年後に再発を来たし再手術を施行した.組織学的に悪性所見はなく, 脂肪腫の再発と診断した.脂肪腫の大きさ, 再発の点においてまれな症例であると思われた.
  • 井上 匡美, 竹中 博昭, 角村 純一, 岩瀬 和裕, 三木 康彰, 別所 俊哉, 大畑 俊裕, 横地 啓也, 永井 勲, 田中 智之
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1110-1114
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝, 膵嚢胞液中の腫瘍マーカーが悪性例で高値を示すことは一般に指摘されているが, 腸間膜嚢胞の内容液に関する検討はなされていない.今回われわれは2例の良性腸間膜嚢胞を経験し, 切除後, 嚢胞内容液中の腫瘍マーカーを測定した.症例は68歳の男性と46歳の女性で, 発生部位は前者は回腸終末部腸間膜, 後者はトライツ靱帯から110cmの空腸腸間膜であった.切除後の内容液の細胞診はいずれもClass Iで, carcinoembryonic antigen (以下CEA) 値はそれぞれ1.7ng/ml, 150ng/mlで, 他の腫瘍マーカー (CA19-9, CA125, CA15-3, SCC) は正常であった.術前の血清腫瘍マーカーはいずれも正常範囲であった.本疾患の内容液中の腫瘍マーカーについて, 他の本邦2報告例を合わせ検討したが, 良性腸間膜嚢胞の中には内容液中CEA値が高値を示すものがあると考えられた.
  • 太田 博文, 宮澤 とも子, 稲葉 秀, 上田 進久, 前浦 義市, 松永 征一, 冨田 和義
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1115-1119
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌術後に肝十二指腸間膜部リンパ漏による難治性腹水を生じた症例を経験した.症例は70歳の男性, 主訴は腹部膨満感.他院で早期胃癌のため幽門側胃切除およびリンパ節郭清を施行された後, 多量の腹水貯留をきたしたため, 当院へ紹介入院となった.入院時の腹部は高度に膨満していた.諸検査および画像診断により肝十二指腸間膜部リンパ漏による腹水と診断し, 血液製剤や利尿剤投与および腹腔穿刺排液による保存的治療を試みたが効果が認められないため, 手術を施行した.肝床部へ色素を注入することで肝十二指腸間膜部のリンパ管からの色素の漏出部を確認でき, リンパ液漏出部を結紮した.術後2年以上の現在も腹水の再貯留は認めていない.開腹術後の合併症で生じる肝リンパ液漏出は保存的に治癒する場合がほとんどであるが, 保存的療法に抵抗する難治性腹水となった場合には全身状態の悪化を招く前に外科的療法を考慮すべきである.
  • 山高 謙一, 滝沢 建, 今津 嘉宏, 川本 清, 和田 徳昭, 吉岡 政洋, 原 歩
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1120-1124
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    小腸原発と考えられる扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.患者は76歳の男性で, 主訴は腹部膨満と下腹部痛であり, 腹部単純X線写真により腸閉塞と診断し入院した.保存的治療で閉塞症状は改善したが, 小腸造影検査で回腸に壁不整をともなう狭窄を認め, 手術を施行した.開腹時, 回腸に腫瘍を認め, 右半結腸切除術を行った.病変は限局潰瘍型の大腸癌に類似しており, 病理組織標本では分化型扁平上皮癌で, 腺癌成分は認められなかった.腸切除から1年1か月後に左上腕に腫瘤が出現し, 生検で扁平上皮癌と診断された.その後化学療法を行い.一時的に頸部と左上腕の転移巣の縮少を認めたが, 腸切除から2年4か月後に死亡した.文献の検索をした限りでは, 回腸を原発とし, 重複腸管や炎症性腸炎などの基礎疾患がない扁平上皮癌の報告は1例のみであった.本症例は経過中, 他に原発と思われる病変が認められず, 原発性小腸扁平上皮癌と考えられた.
  • 木村 光宏, 柿崎 健二, 山内 英生
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1125-1129
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    過去2年間に13例の精神病患者の消化器外科手術を経験した.精神分裂病6例, そううつ病4例, その他3例であり, 平均14年の精神病治療歴を有した.術前より全経過を通じ, 精神科医, 麻医との協力により, 精神症状, 向精神薬の副作用の発現の回避に努め, 適宜, 向精神薬を投与すとで, 精神症状の発現は抑えられた.しかし, 各種の臓器障害, とくに肝機能障害を有する際, 向精神薬が相対的過剰投与となることがあり, これによると思われる呼吸抑制を1例で経験した向精神薬の副作用と思われる血圧低下や術後腸管麻痺の遷延なども認めた.精神病患者のしては, 精神病そのものの管理とともに, 長期的に投与されている向精神薬の副作用に十分にる必要があると思われた.
  • 5年以上生存10例と5年未満生存58例の比較
    轟 健, 川本 徹, 野末 睦, 小池 直人, 加藤 修志, 折居 和雄
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1130-1136
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝門部胆管癌は進行癌の状態で発見される症例が多く, 切除率の向上にもかかわらず依然として予後不良である.われわれはこれまで68例の肝門部胆管癌を切除し, 10例の5年以上の生存例を得ることが出来た.5年以上生存するために必要な条件を解明したいと考え, 生存率曲線に有意差を生ずる因子の検出 (log-ranktest) と, 5年以上生存群と5年未満生存群間に有意差を認める因子の検索 (カイニ乗検定) を試みた.5年以上の生存には下記の10因子が必要条件であると考えられる.1.腫瘍は右肝管 (Br), 左肝管 (B1), 上部胆管 (Bs) から中部胆管 (Bm) に至る区分のいずれか3区分以下の領域を占め, 2.肝側胆管への癌進展は左右いずれか一方の肝管で, 3.組織学的胆嚢浸潤や膵浸潤がなく, 4.組織学的癌深達度が漿膜に達していない, 5.stage Iまたはstage II (T1-2, N0, M0) の, 6.乳頭腺癌で, 7.血管合併切除を必要とせずに, 8.剥離面および, 9.肝側断端に癌浸潤陰性の, 10.治癒切除である.
  • 梛野 正人, 二村 雄次, 早川 直和, 神谷 順一, 近藤 哲
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1137-1141
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胆道癌の中でも治療が困難とされるstage IV胆嚢癌と肝門部胆管癌について長期生存をうるための条件を検討した.stage IV胆嚢癌ではp, h, n4のいずれかが (+) の場合3年生存率5.6%, 50%生存期間9.8か月とその予後は極めて不良であり, 根治切除の適応はないと考えられた.一方, p, h, n4のすべてが (-) であれば5年生存率は32.8%と比較的良好で, 積極的に切除を行うべきである.肝門部胆管癌では局所解剖と局在診断を沿った的確な肝区域切除術を行えば, stage I~IIIの5年生存率は43.3%と良好であった.一方, stage IVの予後は5年生存率21.5%とstage I~IIIより有意に不良であったが, hinf3, ginf3, vs (+) など局所の因子でstage IVとなった症例は長期生存例も多く, 積極的に切除を行うべきである.また, percutaneous transhepatic biliary drainage (PTBD) 瘻孔再発, PTBDや術中胆管切離の際の胆汁漏出に起因すると思われる腹膜再発が認められ, この対策が重要である.
  • 塚田 一博, 内田 克之, 白井 良夫, 吉田 奎介, 武藤 輝一
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1142-1146
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胆嚢に限局する進行胆嚢癌には肝床切除, 胆管切除, リンパ節郭清を伴う胆嚢摘出術を基本術式 (標準的手術) とし, 腫瘍の進展によって肝切除や膵頭十二指腸切除を加える (拡大手術) という手術方針について, 病巣所見と手術成績から評価した.1981年7月から1991年10月までの胆嚢癌切除例87例を対象とした.標準的手術が40例, 準標準的手術が22例, 拡大手術が25例であった.手術死亡は1例 (1.1%) であった.手術死亡例, 他病死例を含んだStage I (n=27) の累積5年生存率は89.1%, II (n=19) は66, 3%, III (n=16) は31.2%であった.Stage IV (n=25) では, 術後4年3月の症例が最長生存例であった.絶対非治癒切除を除いた切除例 (n=71) の累積5年生存率は62.6%であった.進行胆嚢癌に対しては標準的手術を基本として, 腫瘍の進展に応じ他臓器合併切除を加え切除断端を陰性に出来る手術術式を選択すべきである.
  • 中迫 利明, 羽生 富士夫, 今泉 俊秀, 鈴木 衛, 原田 信比古, 羽鳥 隆, 新井 俊男, 広瀬 哲也, 福田 晃, 宗像 茂
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1147-1151
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    通常型膵癌切除例284例を対象に, 拡大群, 対照群の2群にわけ拡大手術の評価を行った.
    拡大手術後の合併症, 手術死亡はおのおの膵頭部癌で19%, 4%, 膵体尾部癌で29%, 0%と拡大手術は安全に行われていた.拡大手術の治癒切除率は膵頭部癌で49%, 膵体尾部癌で71%と向上がみられ, 膵頭部癌では拡大手術で9例の5年生存が, 膵体尾部癌では拡大手術で50%生存期間の延長がえられており拡大手術の意義が認められた.組織学的進行度は拡大群, 対照群間で差はなく, stage III+IVは膵頭部癌で85%, 膵体尾部癌で95%以上と大多数が進行癌であり, 膵前方浸潤, 膵後方浸潤, リンパ節転移も高率に認め, ほとんどすべてに拡大手術を適応すべきと考えられた.しかしながら, 臨床病期IV期では拡大手術後の治癒切除は0%, 1生率は8%, 2生率は0%と拡大手術の適応外と考えられた.また, 拡大手術によっても高率に認める後腹膜再発, 肝転移に対しては集学的治療法を確立することが急務と考えられた.
  • 萱原 正都, 永川 宅和, 上野 桂一, 太田 哲生, 森 和弘, 中野 達夫, 竹田 利弥, 宮崎 逸夫
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1152-1156
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵頭部領域癌耐術肉眼的治癒切除例92例を対象に再発形式を検討し, 外科治療の問題点を考案した.膵頭部癌では組織学的治癒, 非治癒を問わず大動脈周囲リンパ節再発, 後腹膜局所再発が高頻度であり, 画像確認24例の検討では肝転移のみが2例, 後腹膜再発のみが12例, 両者が10例であった.また, Stage I, IIの膵頭部癌では拡大郭清の効果がみられたが, Stage III, IV症例に対してはいまだ十分とはいえなかった.下部胆管癌では膵浸潤が認められる場合には再発例がみられるようになり, リンパ節再発や肝十二指腸間膜内再発などの後腹膜再発が多かった.乳頭部癌では後腹膜局所に加え肝再発が重要であった.
    以上より, 膵頭部癌においては大動脈周囲リンパ節郭清, さらびに神経叢切除を伴う現行の拡大手術は不可欠であり, 下部胆管癌, 乳頭部癌では上腸間膜動脈周囲リンパ節を確実に郭清する手術が必要と考えられた.
  • 硬変肝における侵襲時のmetabolic responseと栄養管理
    東口 高志, 野口 孝, 川原田 嘉文, 水本 龍二, Per-Olof Hasselgren, Josef E. Fischer
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1157-1162
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝硬変合併例における術後敗血症ならびにエンドトキシン (ET) 血症の病態を検索し, さらに実験的にthioacetamideを腹腔内投与し作成した肝硬変ラットを用いて敗血症時の肝, 骨格筋, 腸管における代謝変動並びにその対策について検討した.1.臨床的研究: (1) 肝硬変合併例147例に対する肝臓外科手術後の重要臓器障害発生率は25.9%と高率で, その発生には内因性あるいは外因性ET血症の関与が示された.(2) 術後ET血症発生例の絶食期間はET血症非発生例に比べて有意に長く, bacterial translocationの発現が示唆された.2.実験的研究: 敗血症時の肝硬変ラットでは,(1) 肝, 骨格筋, 腸管の蛋白合成能は正常ラットに比べて有意の低下を示し,(2) 腸管粘膜の細胞数や蛋白含有量も減少した.(3) 経腸栄養を施行すると, 肝, 腸管のalanine, glutamine代謝が改善し, 蛋白合成能は経静脈栄養や未治療群に比べて有意の高値を示し生存率も向上した.
    以上より, 肝硬変症における敗血症の併発は肝, 腸管の蛋白, アミノ酸代謝が障害されるが, 経腸栄養の施行はこの病態を改善し予後の向上に有用と考えられた.
  • 山口 康雄, 久間 直哉, 久留須 裕司, 小川 道雄
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1163-1168
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌の診断で胃全摘術を行った症例を対象として, 手術侵襲後に急性相反応蛋白の産生が急増する時期における分枝鎖アミノ酸 (以下BCAA) 投与の意義について検討した.手術侵襲の指標として尿中norepinephrine総排泄量およびinterleukin-6 (IL-6) の血中濃度を測定した.これらはBCAA投与群, 対照群の両群間で有意差はなく, 侵襲の程度には差はなかった.総蛋白, アルブミンおよび種々の急性相蛋白の血中濃度は両群間で有意差はなかった.また, 必須アミノ酸であるleucine, isoleucine, valineの血中濃度は両群間で有意差は認められなかった.しかし侵襲に対する筋蛋白融解の程度, つまり体重当たりの尿中総3-methylhistidine排泄量は, 対照群に比べBCAA群では有意に低下した.以上より, 術後早期に耐糖能の変化に応じた非蛋白カロリー量にBCAAの豊富なアミノ酸製剤の併用投与により, 侵襲による筋蛋白融解が抑制される傾向が示された.
  • 五関 謹秀, 原 譲, 青井 東呉, 長浜 雄志, 土橋 康之, 玄 東吉, 川村 徹, 中村 宏, 滝口 透, 遠藤 光夫
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1169-1174
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    区域切除以上の肝切除13例, 食道静脈瘤直達術9例, 膵頭十二指腸切除12例, 右開胸開腹食道亜全摘24例を対象に, 術後第3病日から20kcal/20ml/hr (480kcal/day) のconstant & continuous infusionで経腸栄養 (EN) を開始し, その後1日20kcal/20ml/hrずつdoseupを計り, 5病日からは80kcal/80ml/hr (1,920kcal/day) を投与するプロトコールに従い栄養管理を行った.膵頭十二指腸切除例には高カロリー輸液を併用したが他の疾患は末梢輸液のみ併用して, 各種栄養指標の推移を検討した.さらに食道癌の6例には分枝鎖アミノ酸32.6%を含む高BCAA-EN剤を調整してその効果についても検討した.結果: (1) いずれの疾患も窒素出納は1週間以内に正転し, 3-methylhistidine尿中排泄量と負の相関を示した.(2) rapid tumover proteinのretinol binding protein, prealbumin, transferinのいずれも速やかに改善したが, 肝硬変例での回復は遅れた.(3) 高BCAA-EN剤の有用性が示唆された.
  • 齋藤 英昭, 橋口 陽二郎, 仲 秀司, 黒岩 厚二郎, 稲葉 毅, 武藤 徹一郎
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1175-1180
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    グルタミン (Gln) の安定なdipeptideであるアラニルーグルタミン (Ala-Gln) の効果を, Interleukin-1 (IL-1) 投与犬での短期間投与と持続腹膜炎ラットでの長期間投与で検討した.IL-1 (5μg/kg/時) 投与犬モデルでのAla-Gln投与 (6μmol/kg/分) は肝臓, 腸管, 肺のAlaやGlnの摂取量を有意に増加させ, また末梢骨格筋での解糖を抑制した.さらにE-coli 108cfu/日腹腔内注入によるラット腹膜炎モデルではAla-Gln添加製剤は, Glnを含有しない標準アミノ酸製剤や高BCAA製剤に比べて腸の構造を維持し, さらに腸管, 肝とともに全身の蛋白代謝をも有意に亢進させた.これらの成績から, Ala-Glnの投与は外科侵襲時の各臓器や全身のアミノ酸・蛋白代謝のみならず糖代謝も改善し, 腸などの臓器機能を維持し, さらに臓器相互間の代謝を円滑化する.Ala-Gln投与は侵襲時の栄養管理に有用である.
  • 平澤 博之, 菅井 桂雄, 大竹 喜雄, 織田 成人, 志賀 英敏, 中西 加寿也, 北村 伸哉, 上野 博一
    1993 年 26 巻 4 号 p. 1181-1186
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    消化器外科領域の多臓器不全 (multiple organ failure;MOF) 70例を対象に, いかにして代謝動態を把握し, いかなる栄養管理を施行すればよいかを検討した.代謝動態の把握には, indirect calorimetryによるエネルギ-消費量, respiratory quotient, %FAT, 動脈血中ケトン体比 (arterial ketone body ratio; AKBR) およびケトン体量, 血中乳酸値などが有効であった.MOF患者はhypermetabolicで, 基礎エネルギー消費量の140~150%を消費しており, AKBRの低下している肝不全合併MOF症例では, エネルギー基質の利用制限や蛋白代謝の低下が観察された.全症例に対して中心静脈栄養法を施行した.消費エネルギー量相当のエネルギ-量の投与は肝不全合併MOFおよび腎不全合併MOFで困難であったが, 前者ではATP-Mgやplasma exchangeの併用が, 後者では持続的血液濾過や持続的血液濾過透析の併用が有効であった.また分枝鎖アミノ酸を多量に含む製剤は有用であった.
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