日本消化器外科学会雑誌
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27 巻, 5 号
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  • 草野 力, 馬場 政道, 実 操二, 熊之細 透, 白尾 一定, 夏越 祥次, 福元 俊孝, 愛甲 孝, 吉中 平次
    1994 年 27 巻 5 号 p. 999-1006
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    右開胸による食道癌切除を行った69例について, 年代別に59歳以下 (24例), 60~69歳 (32例), 70歳以上 (13例) の3群に分けるとともに, 術中から術後2日目までの輸液量別に, 80ml/kg/day未満, 80~119ml/kg/day, 120ml/kg/day以上の3群に分けて術後早期の循環呼吸動態に対する加齢および輸液量の影響を検討した.年代別の循環動態では70歳以上で術後早期の心機能低下や肺循環の異常が明らかであった.術当日の循環動態は, 59歳以下ではnormal type 79%に対して60歳以上では34%と有意に低率であり, hypovolemia typeやcardiac failure typeが高率であった.59歳以下では, 輸液量の多い群において循環動態はhyper dynamicとなり呼吸係数も輸液の少ない群に比べて有意に低かった (p<0.05).しかし, 60歳以上の輸液の多い群では, むしろ心機能抑制の傾向となり, 呼吸係数も高い傾向であった.以上, 食道癌術後の年代別循環呼吸動態の相違を勘案すると, 輸液管理の面からは60歳をリスク年齢の目安とするのが妥当と思われる.
  • 特に内視鏡的粘膜切除術の適応について
    田村 茂行, 塩崎 均, 井上 雅智, 岡 博史, 土岐 祐一郎, 門脇 隆敏, 松井 成生, 岩沢 卓, 嶋谷 薫, 辻仲 利政, 城戸 ...
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1007-1014
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道粘膜癌17例25病巣, および微小なsm浸潤を示すsm癌 (sml癌) 6例, 明らかなsm層浸潤のあるsm癌 (sm2, 3癌) で長径2cm以下の8例の肉眼型, 病理学的因子を検討し治療法について考察した.粘膜癌ではリンパ節転移はなかったが, 粘膜筋板まで浸潤したmm癌の7病巣では長径2cm以上の2病巣でリンパ管侵襲を, またsm1癌では半数にリンパ節転移を認めた.肉眼型では粘膜癌はすべて0-II型で, このうち0-IIa病変を伴った5例は1pm中層以上の浸潤を示したが, 隆起病巣の大きさは1.3cm以下, 高さは4例で0.5mm以下であった.一方, sm1癌では5例に隆起を認め, 長径は平均2.7cmであった.長径2cm以下のsm2, 3癌では5例が0-I型, 2例が0-III型で, これらはmm癌と鑑別可能であったが0-II型の病変も1例認められた.以上より隆起を伴わない0-II型病変, 隆起を伴っていても2cm以下で高さが0.5mm程度のものは内視鏡的粘膜切除術が適応となり, その他の病変ではリンパ節郭清を伴う食道切除術が必要と思われた.
  • 前田 清, 鄭 容錫, 澤田 鉄二, 小川 佳成, 加藤 保之, 久保 俊彰, 小野田 尚佳, 新田 敦範, 有本 裕一, 曽和 融生
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1015-1020
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    plasminogen activator (以下, PAと略記) はtissue-type PA (以下, t-PAと略記) とurokinase-type PA (以下, u-PAと略記) の2種類が存在するが, 胃癌患者102例を対象に胃癌原発巣におけるPAの発現と臨床病理学的諸因子および予後との関係を免疫組織化学的に検討した.u-PAの発現は58例 (56.9%) にみられたのに対し, t-PAの発現は22例 (21.6%) のみに認められた.臨床病理学的諸因子別には肝転移症例では肝転移陰性例に比べて有意にu-PA発現率が高かった.また, t-PAの発現率は漿膜浸潤陽性例では陰性例に比べて有意に低く, stage別には進行癌よりも早期癌において有意に高かった.予後との関係ではu-PA発現陽性例ではu-PA陰性例に比べ, また, t-PA発現陰性例ではt-PA発現陽性例に比べて予後不良の傾向を示した.以上よりt-PAは胃癌の進行度, 壁浸潤と逆相関し, 一方, u-PAは癌の進展, 特に血行性転移と相関し, 胃癌の悪性度を反映する1つの指標となりうることが示唆された.
  • 久永 倫聖, 中島 祥介, 金廣 裕道, 福岡 敏幸, 瀧 順一郎, 吉村 淳, 堀川 雅人, 青松 幸雄, 高 済峯, 大橋 一夫, 中野 ...
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1021-1027
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    硬変肝切除中の肝血行動態を観察し, prostaglandin E1 (以下, PGE1と略記) の投与効果を検討した.肝硬変併存肝細胞癌20例を対象とし, 対照群とPGE1群 (0.03μg/kg/min) に分類した.肝切除前後で超音波カラードップラーにより肝血流量を算出し, 平均動脈圧, 心拍数, 動脈血中ケトン体比を測定した.肝切除術, 対照群では門脈血流量が56%に減少したが, PGE1群では肝動脈径の拡張と門脈血流速度の上昇により, 肝動脈, 門脈血流量がそれぞれ39%, 62%増加した.PGE1群においては肝切除前後で動脈圧, 心拍数は保たれ, 動脈血ガス分析は対照群と差異を認めなかった.ケトン対比は対照群では1.6±0.5から0.8±0.2, PGE1群では1.4±0.6から1.0±0.4とPGE1群においてその低下が有意に抑制された (p<0.01).以上より, PGE1は肝血流量を増加させ, 肝エネルギーチャージレベルの低下を抑えることにより, 術後の肝障害防御効果を有する可能性が示唆された.
  • 吉田 順一, 岸川 英樹, 千々岩 一男, 赤澤 宏平, 田中 雅夫
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1028-1032
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    総胆管切開と十二指腸乳頭ブジー操作後の胆管内圧の変化をみるため, 総胆管切開兼ブジー操作群 (n=9) と胆嚢摘出兼経胆嚢管ドレナージ群 (n=9) の間で術後7日間の胆管内圧と胆汁ドレナージ量を比較した, まず背景因子の14項目を比較したところ, 総胆管径のみに有意差があった.この因子と群別, 日数, 群別と日数の交互作用を独立変数に, 内圧と胆汁量を従属変数にして回帰分析を行った.また各群で日数に対する従属因子を2次式で回帰した.
    内圧は経時的にブジー群で若干有意に上昇した.ブジー群では次の回帰式が得られた.内圧=-0.047 (日数-7.5) 2+10.4 (cmBile) また胆汁量はブジー群で有意に上昇した.
    以上より, 総胆管切開とブジー操作の後は, 胆嚢摘出のみの後より内圧が上昇し, 第7.5日にピークとなった.この所見は総胆管切開後の胆道減圧に示唆を与えた.
  • 山下 好人, 鄭 容錫, 金銅 康之, 金 光司, 乾 嗣昌, 澤田 鉄二, 仲田 文造, 西野 裕二, 奥野 匡宥, 曽和 融生
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1033-1038
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腫瘤形成性膵炎 (以下, TFPと略記) と慢性膵炎を血清学的, 組織学的ならびに免疫組織化学的に比較検討した.血清学的検討では, 慢性膵炎, TFPともに1型糖鎖抗原の血中値が上昇する傾向が認められた.病理組織学的検討では, TFPは基本的に慢性膵炎と組織像を呈し, 腫瘤形成は比軌的保たれた小葉構造と著明な小葉間の線維化によるものと考えられた.免疫組織化学的検討では, 正常膵においてsialyl SSEA-1 (SLX) は発現せず, carbohydrate antigen 19-9 (CA19-9) は主に小葉内膵管上皮細胞管腔側に, SPan-1抗原は腺房中心細胞ならびに膵管上皮細胞管腔側にその発現を認めた.一方, 慢性膵炎では, SLXは発現せず, CA19-9, SPan-1抗原の発現は増強し, TFPにおいても同様であった.以上より, TFPは独立した一疾患とは考えにくく, 慢性膵炎の一病態であり, 血中腫瘍マーカー値の上昇は膵液のうっ滞による血中逸脱の可能性が示唆された.
  • 岡田 祐二, 稲垣 宏, 岩井 昭彦, 由良 二郎, 栄本 忠昭
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1039-1043
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵内分泌腫瘍12例, 膵管癌15例および正常膵十二指腸組織におけるアルドラーゼCの発現を, アルドラーゼCに対する精製抗体を用い, 免疫組織学的に比較検討した.膵内分泌腫瘍では機能性内分泌腫瘍5例, 非機能性腫瘍7例であった.染色結果は陽性細胞数により, グレード0からグレード3に分類した.正常膵では, ランゲルハンス島細胞および神経線維にアルドラーゼCの局在を認めた.内分泌腫瘍では, 12例全例にアルドラーゼCの発現をびまん性に認め, その平均グレードは2.8±0.4 (M±SE) であった.一方, 膵管癌におけるアルドラーゼC発現の陽性率は47%, 平均グレードは0.7±1.0であり, 内分泌腫瘍に比べ, 明らかな差があった (p<0.001).以上より, アルドラーゼCは膵内分泌腫瘍と膵管癌との鑑別診断において有用であるとともに, ラ島細胞および膵神経内分泌腫瘍に対する免疫組織学的マーカーとして臨床応用が可能であると考えられた.
  • その成否にかかわる経時的予知
    本山 悟, 寺島 秀夫, 薄場 修, 松岡 富男
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1044-1048
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    平鹿総合病院外科で過去3年9か月に急性虫垂炎として入院加療を要した206例中, 保存的治療を1次選択とした症例は65例であった.このうち保存的治療にて治癒しえた50例をA群, 保存的治療を試みたものの治癒せず結局手術となった15例をB群として, 保存的治療の限界とその成否にかかわる経時的予知についてretrospectiveに比較検討した.その結果, 虫垂超音波診断陽性率はA群18.8% (9例/48例), B群86.7% (13例/15例) であり両群間に有意差を認めた.A群の臨床経過の特徴として白血球数は第1病日で入院時の60%, 第2病日で50%以下に減少した.C反応性蛋白は初診時, 第1病日とも3 (+) (3.2~5.9mg/dl) 以下, 第2病日あるいは第3病日をピークに漸減した.体温は第1病日で37.0℃以下となり以降漸減した.これに対しB群では有意差をもって遷延する傾向を示し, これらが保存的治療の成否を予知する有用な指標になりうると考えられた.
  • 竹末 芳生, 横山 隆, 児玉 節, 村上 義昭, 山東 敬弘, 宮本 勝也, 沖田 光昭, 水流 重樹, 松浦 雄一郎
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1049-1054
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    消化器術後メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (以下, MRSA) 感染の発生要因をMRSA以外の細菌感染例と比較し分析した.まず宿主側因子において, 術前入院期間が2週間以上の症例はMRSA感染例41.1%, 他の細菌感染例17.6%とMRSA感染例で有意に高率であった.術前基礎疾患の有無は両者間で差はなかったが, 手術侵襲大, 縫合不全, 血糖コントロ-不良はMRSA感染発生に重要な因子であった.また挿入異物の数もMRSA3.1種類, その他の細菌2.2種類と有意差を認めた.抗生剤に関してはMRSA感染例は2.4種類と多く, 使用期間も9.7日と他の細菌感染例と比べ有意に長期であった.弱毒グラム陰性桿菌による日和見感染は基礎疾患による易感染状態において発生するが, MRSA感染は基礎疾患の有無よりむしろ抗生剤の長期使用, 長期異物留置を必要とする縫合不全などの術後合併症の有無が重要な因子であることが推察された.
  • 大谷 吉秀, 戸倉 康之, 山藤 和夫, 高橋 哲也, 愛甲 聡, 貴志 和生, 藤井 俊哉, 勝俣 慶三, 河合 俊明, 石井 寿晴
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1055-1059
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    多発粘膜内癌を伴う腹部食道原発の有茎性偽肉腫を経験したので報告する.症例は60歳の男性.主訴は嚥下障害.近医にて上部消化管造影X線検査で胃の巨大腫瘤を指摘され, 当科紹介受診となる.内視鏡検査にて腹部食道を基部とする手拳大の有茎性腫瘤 (13×7×6cm) の胃内への脱出を認め, ルゴール染色所見では切歯列28cmから腫瘤茎部まで斑状の不染帯が多発していた.生検では同不染帯に扁平上皮癌, 腫瘤には異型性を伴う紡錐形細胞を認めた.手術は右開胸開腹胸部食道全摘 (R2), 胸骨後胃管再建術を施行した.扁平上皮癌の深達度は大部分が上皮内 (ep), 一部粘膜筋板 (mm) で第2群リンパ節に転移を認めた.腫瘤には扁平上皮癌からの移行像は認められず, 免疫染色, 電顕所見から偽肉腫と診断された.多中心性の扁平上皮癌と偽肉腫の併存はまれであり, 多発する上皮内癌の一部からの刺激で間質細胞が異常増殖したものと考えられた.
  • 奥芝 俊一, 加藤 紘之, 郷 仁, 金谷 聡一郎, 道家 充, 下沢 英二, 井川 浩晴, 宮坂 史路, 堀田 彰一
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1060-1064
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道胃静脈瘤に対し, 内視鏡的硬化療法 (endoscopic injection sclerotherapy) を施行し, 経過観察中に食道癌を認めた症例につき術式上の工夫を加えたので報告する。症例は54歳の男性。1988年8月, 食道静脈嬉破裂に対しEISにて止血した後, 5か月にわたり頻回の追加治療を受けた。その後, 経過観察していたが, 1991年5月, 食道内祝鏡検査で下部食道 (Ei) に発赤を認め, 生検を行った結果, 扁平上皮癌 (深達度ep) の診断でレーザー治療を受けた。1992年1月, Elに再び癌を認めたため, 手術目的で入院となった。術前内視鏡では, 食道静脈嬉は改善されていたが, 胃静脈瘤を認めた。非開胸食道抜去, 胸壁前胃管再建に短胃静脈-外頭静脈吻合を加えた結果, 胃管鬱血, 静脈瘤の増悪に対処しえて良好な予後が得られた。
  • 阪本 研一, 後藤 明彦, 多羅尾 信, 市橋 正嘉, 角 泰廣
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1065-1069
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    進行胃癌と隣接し繊毛状発育を呈したきわめてまれな早期胃癌を2例経験したので報告する。症例1は食欲低下を主訴とする65歳の男性で, 胃体下部から前庭部小唇側に5, 0×5, Ocm大のBorr.2型胃癌を認め, さらに隣接して2.0×2, 0cm大の繊毛状病変を認めた.症例2は吐血を主訴とする78歳の男性で, 胃体下部後壁に5, 0×5.Ocm大のBorr 4型胃癌を認め, さらに隣接して4.0×3.0cm大の繊毛状病変を認めた。2例とも進行胃癌は深達度ssγの低分化型腺癌で, 繊毛状病変は肉眼的にも組織学的にも大腸villous adenomaに類似した構造を有する高分化型腺癌で深達度はmでぁった, 症例1は両病変の組織学的連続性を認めず多発痛と診断し, 症4212は両病変は接してはいるが境界が明瞭なため衝突痛と診断した。
  • 権田 剛, 石田 秀行, 樋口 哲郎, 蛭川 浩史, 中島 日出夫, 北條 郁生, 三島 好雄
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1070-1074
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    同時性4重癌 (多発早期胃癌, 早期大腸癌, 細小肝癌) のまれな1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は72歳の男性.肝硬変, 食道静脈瘤, 早期胃癌 (胃前庭部IIa+IIc) の診断を受け紹介入院となった.術前スクリーニング検査により径約10mmのS状結腸ポリープと肝S6に径約2cmの腫瘤を認めた.S状結腸ポリープに対しては内視鏡的摘除術を行ったが, その組織学的検査ではcarcinomain adenomaであった.胃全摘術 (D2), 脾摘術, 肝亜区域切除術を施行した.組織学的検査では, 胃には前庭部病変のほかに, 胃角にもIIa様病変があり, いずれも高分化型管状腺癌であった.肝腫瘤は高分化型肝細胞癌であった.4重癌ですべての癌に対し根治的治療が施行された報告例は11例認めたが, すべてが早期癌の範ちゅうに属する症例は本症例以外に認めなかった.多重癌は増加する傾向にあり, 十分なスクリーニング検査が重要と考えられた.
  • 朝戸 裕二, 吉見 富洋, 大久保 貴生, 石塚 恒夫, 古川 聡, 菱川 修司, 太田 岳洋, 小野 久之, 雨宮 隆太, 小泉 澄彦, ...
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1075-1079
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    画像診断上, 充実性腫瘍との鑑別が困難であった線毛性前腸性肝嚢胞の1例を経験した.症例は49歳の男性.近医にてエコーで肝腫瘤を指摘され当科紹介受診し, magnetic resonance imaging (MRI) にて充実性腫瘍が疑われ入院した.腹部超音波検査では径3cm大の内部エコーを有する低エコーの腫瘤で, computed tomography (CT) では周囲肝組織より低濃度であった.MRIのT1強調画像では軽度high intensityの腫瘤で肝細胞癌が疑われたが, 血管造影, 経動脈性門脈造影CTでは, 悪性所見はみられなかった.エコー下穿刺にて粘稠な液体が吸引され, 寄生虫性嚢胞が疑われたが十二指腸液からは虫卵は検出されなかった.粘液産生腫瘍の可能性を否定できず開腹した.胆嚢内より肝吸虫卵が検出されたが, 嚢胞は病理組織学的に前腸性肝嚢胞と診断され肝吸虫との関連は否定された.本疾患は画像上充実性腫瘍と鑑別が困難で注意が必要である.
  • 阿部 道雄, 加古 博史, 片渕 茂, 高野 定, 石丸 靖二, 小川 道雄
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1080-1084
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は57歳の男性.前庭部小彎のIIc型早期胃癌の診断をうけ, 手術目的にて当科に入院.術前検査として施行したultrasonography (US) にて, 肝S4区域に大きさ19×14mmの嚢胞性病変を認め, その内腔に嚢胞壁から隆起した充実性腫瘍を思わせるechogenic massを認めた.Computerized tomography (CT) では病巣はlow density areaを呈し, 充実性腫瘍像は描出されなかった.早期胃癌に合併した肝嚢胞腺腫 (腺癌) の疑いを否定できず, 手術を施行した.術中USでもより明瞭なechogenic massを認めたため, 胃切除と同時に核出術を施行した.摘出標本は単房性嚢胞で, 内容は灰白色粘稠な液体であり, 隆起性病変は認めなかった.病理学的検索にて繊毛性 (前腸性) 肝嚢胞と診断された.本疾患はまれな疾患であるが, US検査でechogenic massを呈する傾向があり, 充実性腫瘍との鑑別診断上重要であると思われた.
  • 谷口 正彦, 吉川 澄, 橋本 創, 山口 時雄, 道清 勉, 森口 聡, 上田 秀樹, 竹谷 哲, 内海 朝喜, 須原 均, 川野 潔, ...
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1085-1089
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌と胆管細胞癌の両者が併存するいわゆる混合型肝癌はまれな疾患である.われわれは肝細胞癌と胆管細胞癌がそれぞれ別の亜区域に独立して結節を形成した混合型肝癌の1切除例を経験した.症例は56歳の男性で, 全身倦怠感を主訴とし, 近医受診, 超音波検査にて肝腫瘤を指摘された.当院入院後, 超音波, CT, 血管造影検査などから後下区域, 前上区域のおのおの分化度の異なる2個の肝細胞癌と診断し, 肝右葉切除術を施行した.組織学的検索では後下区域の腫瘍は肝細胞癌, 前上区域の腫瘍は胆管細胞癌であり, 重複癌と診断した.混合型肝癌の中でも重複癌切除例の報告は極めてまれであり, 本例は混合型肝癌の診断および発生に関し示唆に富む症例であると考えられた.
  • 鈴木 偉一, 八木 草彦, 篠崎 啓一, 岩川 和秀, 井上 賢二, 嶌原 康行, 小林 展章
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1090-1093
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    多発性肝転移をともなったStage VのS状結腸癌の74歳の男性に対し, S状結腸切除, 動脈と門脈それぞれにカテーテルを挿入するダブルチャンネルリザーバー留置術を施行した.胃十二指腸動脈と下腸間膜静脈に, おのおのカテーテルを留置した後, 閉腹前にmitomycin-C (MMC) 4mgを各リザーバーより肝動脈と門脈に注入した.術後2週目, 5週目, 9週目にcisplatin (CDDP) 50mgと5-fluorouracil (51FU) 250mgの2剤を連続持続注入した.術前にenhanced computed tomography (造影CT) で肝両葉にlow density areaとして描出された複数の肝転移巣は, 術後2か月目のCTで画像上消失した.また術前に高値を示したcarcinoembryonic antigen (CEA), carbohydrate antigen (CA19-9) 値も激減し, 術後4か月目でも低下し続けている.本治療法がH3結腸癌治療に有効であることが示唆された.
  • 丹羽 篤朗, 三井 敬盛, 加藤 丈博, 小山 浩, 成田 守, 大和 俊信, 柴田 和男, 佐々木 信義, 角岡 秀彦
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1094-1098
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は70歳の男性で高血圧, 糖尿病で当院内科に通院していた.就寝中に突然の上腹部痛が生じ, その後悪心, 嘔吐, 発熱が生じたため発症後2日目に当院を受診した.胸部X線検査で胆嚢の輪郭状のガス像を認め, 腹部CTでは胆嚢壁内にガスを認めた.またガスは胆嚢壁だけでなく総胆管周囲, 膵後面にも存在した.以上より急性気腫性胆嚢炎と診断し入院となった.状態が落ち着いていたため抗生剤の点滴投与による保存的治療を行い, 第11病日に待機的に胆嚢摘出術を施行した.病理診断では壊疽性胆嚢炎であった.術後経過は順調で術後13日目に退院した.我々が本邦文献で調べえた限りでは胆嚢壁のガスが総胆管周囲, 膵後面まで達した症例の報告はなく自験例は極めてまれな症例と思われた.
  • 宮代 勲, 辻仲 利政, 田村 純人, 塩崎 均, 門田 守人, 森 武貞
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1099-1102
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    多発性神経鞘腫症例に伴って生じた後腹膜および縦隔の巨大神経鞘腫の1切除例を経験したので報告する.症例は多発性脊髄神経鞘腫および聴神経鞘腫の手術既往のある46歳の男性で, 家族歴には特記すべきものはなかった.脳神経外科手術時に巨大な縦隔および後腹膜腫瘍を指摘された.mass effectが無視しえず, また悪性化が否定しえないため, 切除目的で当科紹介となった.巨大腫瘍切除に際して, 本症例では右第6肋間開胸に腹部横切開を加えたアプローチを用いて良好な視野を得られ, 副損傷もなく切除が可能であった.腫瘍の切除総重量は1,800gであり, 組織学的には神経鞘腫であった.
    神経鞘腫は一般的に単発性で多発例はまれとされている.多発例ではvon Recklinghausen病との関連が問題となるが, 本症例ではcafe-au-lait-spots, 皮膚腫瘍, その他内臓腫瘍の合併はなく, 神経鞘腫の多発例と考えられた.
  • 中川 隆公, 中島 信久, 篠田 悠一, 新沼 竜之助, 宇根 良衛, 内野 純一
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1103-1107
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    比較的まれと思われる肺癌からの転移性空腸腫瘍による腸重積症の1例を経験したので報告する.症例は69歳の男性で, イレウス症状を呈して入院.小腸造影, 腹部CT検査より空腸腸重積症を疑い緊急開腹術を施行した.Treitz靱帯より約40cm肛門側に腫瘍を先進部とした空腸腸重積症をみとめ, 空腸部分切除術を施行した.空腸腸間膜リンパ節, および肝臓に多発性の転移性腫瘍をみとめたが, 他の腹腔内臓器には異常をみとめなかった.腫瘍は粘膜下層を中心として発育しており, 病理組織学的には, 転移性腫瘍の特徴を有した未分化癌であった.胸部単純写真, 胸部CTにて右S6の直径2cmの腫瘍と, 右肺門部異常陰影をみとめ, 喀痰細胞診より肺癌と診断し, 臨床的に肺が原発巣と考えられた.
  • 田中 雄一, 花岡 農夫, 工藤 保, 李 力行, 大内 慎一郎, 土屋 玲, 草野 智之, 瀬戸 泰士, 畑澤 千秋
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1108-1112
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    極めてまれな多発性回腸膜様狭窄症の1症例を報告した.
    患者は63歳の男性.1989年3月に当院で直腸癌の手術を受けるまでは, 腸閉塞の既往はなかった.術後のイレウスのため, 1989年9月に再入院し, 再開腹した.癒着剥離の際, 回腸の近位側に膜様狭窄部が多発していることが偶然に判明した.膜様部の中心にはpin-holeから径10mmの大きさの穴が1個あった.膜様物が集中していた回腸を50cm切除し, 端々吻合した.吻合前に空腸瘻と盲腸瘻のtubeを残存小腸内腔に挿入して抵抗なく通過できることを確認した.組織学的検査で膜様部には粘膜筋板が著明に肥厚している像が認められた.
    成人の先天性小腸狭窄症は極めてまれで, 我々が検索しえたかぎりでは, 報告例は世界で6例のみであった.
  • 舟山 裕士, 佐々木 巖, 宮下 英士, 溝井 賢幸, 土井 孝志, 松野 正紀
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1113-1116
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は69歳の男性.腹部手術の既往はない.1990年5月突然激烈な左下腹部痛が出現し, 急性腹症の診断にて開腹したところ, 回腸の一部が180度時計方向に軸捻転をおこしていた.小腸の血流は良好であったため, 捻転整復のみにて閉腹した.術後, 退院し何事もなく生活していたが, 1993年1月再び腹痛を訴え, 小腸軸捻転の再発の疑いにて開腹した, 開腹したところ中部小腸が反時計方向に360度軸捻転を生じておりその間の腸管は壊死状態であった.捻転部を解除し壊死腸管を切除し腸管を端々吻合にて再建した.術後経過は良好で現在再発は認められていない.成人の原発性小腸軸捻転症は本邦ではまれな疾患でこれまでに11例の報告があるのみである.また, これまでに再発の報告はなく, 本症例が最初である.
  • 菅野 公司, 猪口 貞樹, 幕内 博康, 田島 知郎, 三富 利夫
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1117-1121
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    完全型原発性虫垂重積症 (primary appendiceal intussusception, complete type) のまれな1例を経験したので報告する.症例は22歳の男性.繰り返す右下腹部痛, 嘔気, 嘔吐を主訴として来院.注腸造影X線検査および大腸内視鏡検査にて回盲部の過形成性ポリープと診断し, 内視鏡的ポリペクトミーを試みたが切除不能のため開腹術を施行した.開腹所見で虫垂重積症と診断し回盲部切除を行った.切除標本では重積の先進部に病変を認めず, 虫垂のみが完全に盲腸内に内翻, 重積していた.術前の検査所見について検討したところ, 腹部超音波所見が診断確定に有用と考えられた.
  • 渡辺 直樹, 中井 肇, 折田 洋二郎, 原藤 和泉, 笠原 潤治
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1122-1126
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腹腔内デスモイド腫瘍の報告はまれである.最近我々は横行結腸間膜内に発生したデスモイド腫瘍を経験した.本邦における20年間の報告31例の集計にて, 大腸腺腫症の合併がなく, また開腹術による腹部侵襲の既往のない腹腔内デスモイド腫瘍の症例は本例を含めて5例しか報告がない.
    症例は38歳の男性, 腹部腫瘤を主訴に来院した.Computed tomography, Echogramにより腹腔内腫瘍と診断し開腹手術を施行した.腫瘍は横行結腸間膜内に存在し, 右半結腸切除術にて切除した.病理組織学的に腹腔内デスモイド腫瘍と診断された.
    術後2年経過現在, 再発の兆候なく健康である.
  • 栗栖 泰郎, 倉吉 和夫, 星野 和義, 菅沢 章, 木村 修, 浜副 隆一, 貝原 信明
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1127-1131
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は70歳の女性.血便, 下痢, 体重減少を主訴に当院を受診し, 直腸指診で巨大な腫瘤が触知された.下部消化管の注腸造影, 内視鏡検査, computed tomographyにて, 子宮, 膣浸潤を伴う巨大直腸腫瘍, 膵腫瘍, 多発性転移性肝腫瘍と診断され, 生検にてカルチノイドが最も疑われた.直腸切断術, 子宮・膣後壁合併切除術, 膵尾部・脾合併切除術, 肝腫瘍生検術, 肝動脈内カテーテル留置術を施行した.切除標本の組織所見, 免疫組織所見, 電子顕微鏡所見では直腸, 膵, 肝いずれも同一の所見であり, 直腸カルチノイドの肝, 膵同時性転移と診断された.術後1年を経過した現在, 肝転移巣の増大を認めるが, 外来で肝動注化学療法を続け, 生存中である.
  • 佐藤 卓, 黒岡 一仁, 山田 博生, 藤井 良憲, 今西 幸雄, 安富 正幸
    1994 年 27 巻 5 号 p. 1132
    発行日: 1994年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
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