日本消化器外科学会雑誌
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29 巻, 11 号
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  • 生田 肇, 浜辺 豊, 成田 晃一, 白石 勉, 松浦 俊彦, 西田 勝浩, 大澤 正人, 山本 正博, 斎藤 洋一
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2069-2074
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道癌切除後症例のうち血中CEA, SCC抗原濃度の両者を測定した52例を対象とし, 再発例の陽性率, 経時的推移およびcombination assayについて検討した.再発例は23例でCEAのsensitivity56.5%, specificity 89.7%, accuracy 75.0%, また, SCC抗原ではそれぞれ60.9%, 93.1%, 78.8%であった.Combination assayではsensitivity 78.3%, specificity 86.2%, accuracy 82.7%と両者を測定することによりsensitivityが向上した.また, 対象例のなかで術前にCEA, SCC抗原を測定した症例の術前陽性率はCEA15.6% (7/45), SCC抗原13.5% (5/37) と低率であったが, 再発例の術前陽性例5例では術後いったん正常に復し再発時に再上昇した.また, 術前陰性例でも再発時に陽性となる症例がCEAで11例, SCC抗原で8例あり, また, 再発時の治療効果を反映した症例もみられた.従って, 食道癌術後にCEA, SCC抗原の両者を測定することはfollow up上有用と考えられた.
  • 倉澤 恒雄
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2075-2082
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    幽門保存胃切除術 (pylorus preserving gastrectomy: 以下, PPGと略記) における迷走神経幽門枝温存の意義を明らかにする目的で, 同一犬で無処置群, ついで迷走神経幽門枝温存PPG群 (PPG群), そして幹迷走神経切離術付加PPG群 (PPG-TV群) を作成し, 各群についてtransducer法とコンピューター解析を用いた消化管運動測定および胃排出能測定を行い比較検討した.まず, 空腹期では消化管運動に有意な変化はみられなかったが, 食後期ではPPG-TV群の幽門輪における運動量はPPG群に比し有意 (p<0.05) に低下した.またPPG-TV群の空腹期強収縮波群再出現時間は358分と, 無処置群の298分, PPG群の319分に比し有意 (p<0.05) に延長し, acetaminophen法による胃排出能測定でも, PPG-TV群は他の2群に比し有意 (p<0.05) に遅延した.以上よりPPGにおける迷走神経幽門枝の切離は, 消化管運動の低下と胃排出の遅延をもたらすと考えられ, その温存の意義が示唆された.
  • 大藪 久則, 松田 昌三, 栗栖 茂, 八田 健, 小山 隆司, 喜多 泰文, 梅木 雅彦, 木花 鋭一, 中島 幸一
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2083-2091
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    高齢進行胃癌に対しても積極切除方針で臨んだ最近10年間の胃癌切除手術823例を70歳未満, 70歳代, 80歳以上の3群に分け, 患者側要因および術式と在院死亡との関係から高齢者胃癌手術のrisk factorを検討した.在院死亡率からみたrisk factorは, 1) 術前の生活状況からperformance status3~4, 痴呆を含め意欲低下, 独歩不能, 2) 術前併存疾患から呼吸器疾患, 貧血, 低蛋白血症, 3) 手術要因からH.P.N4因子と胃全摘があげられた.70歳未満ではこれらのfactorの有無が在院死亡に与える影響は少なく, 70歳代では1) のみで在院死亡率の上昇がみられただけであった.しかし, 80歳以上におけるこれらのrisk factorを有する症例の在院死亡率はrisk factorのない症例に比し有意に高かった.
  • 稲田 高男, 尾形 佳郎, 市川 明, 五十嵐 誠治
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2092-2097
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    術前未治療進行胃癌切除例101例を対象として, 組織学的進行度と腫瘍細胞のS期分画 (S-phase fraction), apoptosis, bcl-2蛋白 (Bcl-2) 発現を検討し, 進行胃癌における増殖活性とapoptosisの関与を検討した.
    腫瘍細胞のS-phase fraction, apoptosisはflow cytometryによるapoptosis-DNA二重染色により, Bcl-2発現は免疫組織染色にて検討した.S-phase fractionはstage IV症例において高かったが, 他の因子と進行度との関連は見られなかった.apoptosis分画はBcl-2陽性例では陰性例に比べ有意に低く, また組織分化度より見るとBcl-2の発現は未分化型において高率であった.未分化型のS-phase fractionは分化型に比べ高く, S-phase fractionとapoptosis分画の間に逆相関の傾向が認められた.したがってapoptosisそのものは癌進行度との直接関係は認められないが, Bcl-2陽性例では低いことから, 腫瘍増殖を規定する一因である可能性が示唆された.
  • 田中 丈二, 石山 秀一, 布施 明, 塚本 長
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2098-2105
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    門脈枝塞栓術 (以下, PE) の効果と肝再生, 胆汁うっ滞下でのPEの効果につき検討した.家兎を用い, 部分肝切除, PE, 胆管結紮切離 (以下, BL), PE兼BLの各モデルを作成して検討した.肥大葉の3H-thymidine摂取率 (in vitro) はPE施行後は第1~7日に軽度上昇 (第7日: 229.1±72.0%) したが, 胆汁うっ滞による障害はなかった (205.4±52.5%).胆汁うっ滞下PE後の塞栓葉の萎縮は強く, 第14日非塞栓葉重量 (2.18±0.06%;対体重比) は胆汁非うっ滞下PE後 (1.14±0.04%) より高値だった.門脈枝塞栓および胆汁うっ滞のある部のin vitroでのDNA合成能は第5日に上昇 (356.2±68.2%) し, この部での再生のpotentialは高まっていると思われたが, bromodeoxy-uridine標識率 (in vivo) では再生は認めなかった.以上より部分胆管閉塞下でもPEの効果が期待でき, 塞栓巣の胆道ドレナージは非塞栓葉の再生の点からは, むしろ行わないほうが効果的である可能性が示唆された.
  • 丸山 千文, 高崎 健, 山本 雅一
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2106-2110
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肉眼的に肝静脈腫瘍栓を伴う24例 (HV group) と伴わない442例 (non HV group) の切除成績を比較検討した. 腫瘍栓先進部は, 原発性肝癌取扱い規約によるとVv3;8例, Vv2;13例, Vv1;3例であった. HV groupで門脈腫瘍栓 (67%), 肝内転移 (73%), を有意に高率に併存し, 腫瘍径が大きい傾向にあったが, 年齢, 性, 肝硬変併存率に差を認めなかった. 再発部位はHV groupで肝52%, 肺, 骨ともに4%でnon HV groupと差がみられなかった. 累積生存率では, 3年, 5年生存率が, HV group42.1%, 31.6%, non HV group64.9%, 49.6%で, 5年以降では差がなくなった. 腫瘍栓先進部別で切除成績に差は見られなかった. 門脈腫瘍栓の併存の有無で生存率に差が見られ, 門脈腫瘍栓のない8例中5例 (63%) が3年以上生存した. 以上より肝静脈腫瘍栓は単独では予後規定因子とはならず, 同じ血管侵襲でも門脈腫瘍栓とは区別する必要があると考えられた.
  • 菊地 充, 遠藤 重厚, 広沢 邦浩, 葛西 猛
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2111-2115
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腹腔内出血の総出血量および時間出血量を腹部超音波検査 (US) を用いて評価, 検討を行った.外傷性脾損傷36例を保存的治療を行ったA群: 10例, 手術をしたが脾を温存したB群: 9例, 脾摘術を行ったC群: 17例の3群に分けた.検討の結果, 推定出血量はA群;727.3ml (平均), B群: 1,077.8ml, C群;1,585.3mlであり, A, C群間で有意な差が認められた (p<0.05).推定出血量と開腹時出血量との相関関係を手術施行例 (26例) で検討したが, R=0.748, p<0.01で良好な相関関係が認められた.A群の時間出血量は124.7ml/h (平均) であったのに対し, B群256.2ml/h, C群258.5ml/hとB, C群で出血量が多いことが明らかとなった.またA群, C群間でp<0.05で有意な差が認められた.以上から, 脾損傷による腹腔内出血量からみた手術適応は, 総出血量が1,000ml以上または時間出血量150から200ml以上が外科的治療を考慮すべきであると思われた.
  • 江口 輝男, 植田 利貞, 中村 正彦, 喜多島 豊三, 岩井 重富
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2116-2121
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大腸癌イレウスの臨床病理学的特徴とその治療, 特に緊急手術の適応について検討した. 1976年から1994年までの大腸癌手術症例は252例で, そのうちイレウス症状を呈した症例 (イレウス群) は31例 (12. 3%) であった. イレウス群は非イレウス群に比べ男性に多く, 肉眼的には3型, 全周性が, 組織学的には深達度ss以上, n (+), ly (+), v (+) が多かった. 肝転移, 腹膜転移も多く, stage IIIa以上の進行癌が多かった. イレウス群のなかで1期的に切除しえた症例は分割手術が施行された症例よりも治癒切除率は高かった. 当院ではチューブドレナージによる待期的な1期的吻合治癒切除をすすめているが, 左側結腸では症例により緊急手術としている. その基準として,(1) イレウス発症から治療開始までに1週間が経過している,(2) 局所に強い圧痛を持っている,(3) 4日間のチューブドレナージで効果の現れないものとした.
  • 中川 英刀, 吉川 宣輝, 柳生 俊夫, 三嶋 秀行, 福田 和弘, 辛 栄成, 蓮池 康徳, 小林 研二
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2122-2126
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    左側結腸癌, 直腸癌における大動脈周囲リンパ節郭清の適応と意義を考える目的で, 253番リンパ節転移陽性 (n3群) または216番リンパ節転移陽性 (n4群) が証明された62例の生存率の検討を行った.n3群とn4群の間には有意差はなく, 肉眼的に切除できた症例が有意に生存率が良好であった (p<0.0001).さらに肉眼的に遺残なく切除できた40例の生存率の検討では, 左側結腸, Rs直腸癌 (p=0.0021), 転移リンパ節個数が少数の群 (p=0.0035) で有意に生存率が良好で, n3群n4群の別, 術前CEA値, 郭清度には有意差はなかった.性機能障害など術後合併症のある大動脈周囲リンパ節郭清は, 骨盤内側方リンパ節転移のない左側結腸癌とRs直腸癌, 低分化腺癌以外で, skip転移を含む比較的転移リンパ節の個数が少ない症例が良い適応と考えられる.n3群n4群の多くが肺や骨, 全身リンパ節に再発していることから, 化学療法など術後に強力な全身的治療が必要である.
  • 澤田 公任, 澤田 正志
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2127-2130
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    66歳の男性. 7年以上前から毎朝食後, 胃切除後ダンピング症候群で悩んでいた. 主な症状は動悸, 脱力感, 倦怠感, 時としてその後の深い眠りなどがあり15分位続いた. 各種薬物療法, 食事療法, 運動療法などはほとんど無効であった. 1995年12月18日, 右側に星状神経節ブロック (SGB) を行った. 効果は劇的で翌日の朝食後は全く症状がなく快適な朝を過ごした. この日, さらに左側のSGBを追加した. 効果はその後10週間以上続いている.
  • 山下 健一郎, 白戸 博志, 佐藤 裕二, 大沢 昌平, 近藤 正男, 大島 隆宏, 小橋 重親, 高橋 典彦, 高橋 周作, 嶋村 剛, ...
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2131-2135
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    門脈右枝内の腫瘍塞栓および肝S7領域の腫瘍性病変を合併したalpha-fetoprotein (AFP) 産生胃癌を経験した. 症例は52歳の男性. 胃噴門部にBorrmann 3型胃癌を認め, 血清AFP値は818.5ng/mlと高値を示した. 手術は胃全摘・肝右葉切除・門脈内腫瘍塞栓摘除術を施行した. 病理組織学的に胃腫瘍, 肝腫瘍および門脈内腫瘍塞栓はすべて同じ低分化型腺癌であり, 免疫組織学的にAFPの存在が証明された. 以上より, 肝腫瘍は門脈を介した胃腫瘍の転移性病変と推測された. 血清AFP値は術後33.3ng/mlまで低下した. 臨床的に血清AFP値が高値で, 門脈内腫瘍塞栓を合併した肝腫瘍を認める場合, その原発巣として, まれながらAFP産生胃癌も考慮に入れる必要があると考えられた.
  • 木田 孝志, 小谷 一敏, 宇野 浩司
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2136-2140
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は66歳の女性. 主訴は腹部膨満感, 左上腹部痛. 腹部は著明に膨満し, 巨大腫瘤を触知した. 腹部computed tomography (以下, CTと略記) などにより, 内部構造が不均一な充実性腫瘤を認め, 胃や腸管などを強く圧迫していた. 患者は1年6か月前にも腹部CTが施行されているが, この時には腹腔内に腫瘤は認められていない. また, 4か月前の上腹部消化管造影でも圧迫所見などは認められていない. 腹腔動脈造影で, 腫瘍は拡張した左胃大網動脈より栄養されており, 大網悪性腫瘍の診断にて開腹術を行った. 腫瘍は大網より発生し, 大きさ30×25×10cm, 重量3,600gであった. 病理組織学的には多形性の著明な紡錘形腫瘍細胞の増殖により形成される平滑筋肉腫であり, 多数の核分裂像もみられることから腫瘍の急速な発育が示唆された. 本症は早期発見が困難で予後は悪い. 特徴的な症状を伴わず, 急速に発育することが一因であり, 積極的な検査が必要であると考えられた.
  • 森田 康, 金丸 太一, 太田 恭介, 山本 正博, 斎藤 洋一, 林 祥剛, 伊東 宏
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2141-2145
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肉腫様肝癌は比較的まれな疾患である. 本腫瘍の特徴は増殖速度が速く, 早期より血行性またはリンパ行性に転移をきたすことで, 現在までに切除例の報告はない. 今回, 我々は肝切除後約2か月で巨大腹壁腫瘤として再発した肉腫様肝癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する. 症例は65歳の男性で, 上腹部痛を主訴に来院し, 画像診断にて肝左葉外側上区域に径4cmの腫瘍を認め, 術前低分化型肝細胞癌の診断にて肝部分切除を施行した. 病理組織学的所見で腫瘍細胞は紡錘形で充実性に増殖しており, 肉腫様肝癌と診断した. 術後1か月目よりドレーン挿入部より出血を認め, 同部に鵞卵大の腫瘤を認めた. さらに術後2か月目には腹壁外へ発育する小児頭大の巨大腹壁腫瘤となり術後141日目に死亡した. 本症例のdoubling timeは11.9日と短く, 肉腫様肝癌は悪性度の高い腫瘍であり, 可能な限り広範な肝切除が必要であると考えられた.
  • 斉藤 博昭, 西土井 英昭, 近藤 亮, 石黒 稔, 工藤 浩史, 村上 敏, 正木 忠夫, 谷口 遥, 前田 宏仁
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2146-2150
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝原発悪性混合腫瘍に肝細胞癌を併存した極めてまれな症例を経験したので報告する.
    患者は75歳の男性. 5年前より慢性肝炎にて近医で加療されていたが, 腹部超音波検査で肝外側区域の腫瘤を指摘され当院を紹介された. 腹部超音波およびcomputed tomography検査で肝S3およびS5に腫瘤像を認め, 肝生検でS3の病変は胆管細胞癌, S5の病変は肝細胞癌と診断された. 肝機能を考慮してS3の病変に対して亜区域切除, S5の病変に対しては術後にpercutaneous ethanol injection therapyを施行した. 術後の病理組織学的検討ではS3の病変は大部分が紡錘形細胞を主体とした肉腫成分で, 部分的に肝細胞癌成分と腺癌成分が認められた. 以上より, S3の病変は上皮系および間葉系由来の組織からなる肝原発悪性混合腫瘍と診断された. 成人の肝原発悪性混合腫瘍は本邦報告24例と極めてまれであった.
  • 井上 直也, 滝 吉郎, 川平 敏博, 坂野 茂, 頼 文夫, 冨永 純男, 花岡 道治, 久保田 晋, 西山 利正
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2151-2154
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胆嚢隆起性病変と診断された肝吸虫症の1例を経験したので報告する. 症例は60歳.男性で体重減少が主訴である. 腹部症状は認めなかったが, 他医にて腹部超音波検査を受けた際, 胆嚢に病変を指摘され, 当院を紹介され受診した. 超音波検査にて胆嚢内に径30mmのポリープ状病変を認めた. Computed tomographyにては, 胆嚢内にややlow densityな部分を認めたが, はっきりした病変は認めなかった. 胆嚢の悪性腫瘍も否定できず開腹術を施行した. 胆嚢内には血腫塊を認め, ポリープは径数mmのものを認めるのみで, 術中迅速病理診断にて良性と診断された. 後日, 血腫の固定標本内に肝吸虫卵を認め肝吸虫症であることが判明した. 術後糞便検査にても肝吸虫卵を認めプラジカンテル (80mg/kg) を経口投与した. 2週間後には虫卵の陰転化を認めた. 肝吸虫症は通常, 腹部の種々の症状で発見されるが, 本症例は腹部症状を欠き胆嚢内血腫として発見したまれな症例である.
  • 中川 浩一, 八木 孝仁, 貞森 裕, 笹井 信也, 大江 新野, 橋本 雅明, 大月 均
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2155-2159
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は72歳の男性.胃癌術後の閉塞性黄疸に対し前医にて下部胆管にStrecker-stent挿入されるも再度黄疸出現し, 肝外側区域切除・肝内胆管-空腸吻合術を施行されていた.その後発熱, 背部痛, 全身倦怠感出現するため当院来院.ERCでは下部胆管に腫瘍を認め, 腫瘍末梢側胆管の嚢胞状拡張を認めた.10か月間経過観察したが腹部CT像では, 腫瘍の増大は緩徐であった.血管造影にて主要血管への浸潤が認められた.胃癌の再発ではなく胆管原発との診断にて, 肝動脈・門脈・下大静脈合併切除を伴う膵頭十二指腸切除術を行った.組織学的に胆管癌が膵および十二指腸に浸潤しており, 組織型は粘液癌であった.術後10か月目に肝転移が生じたが, PEITにより肝転移巣の消失を認め, 術後2年の現在も健在である.胆管粘液癌はまれであるが, 進行癌であっても合理的拡大手術を追求することにより良好な予後が得られるタイプであることが示唆された.
  • 市東 昌也, 神徳 純一, 宮崎 洋史, 亀井 秀策
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2160-2164
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    門脈内腫瘍塞栓を伴う胆管細胞癌の1切除例を経験したので報告する.症例は59歳の男性.検診で肝機能障害を指摘され当院を受診した.血液検査で上記およびCA19-9の異常高値を認め, 血清検査ではHBeAg (+) HBeAb (-) であった.画像検査で肝右葉に76×51mmの腫瘍を認め, 門脈右枝の完全閉塞を伴っていた.以上の結果より胆管細胞癌と診断し, 尾状葉合併肝右3区域切除 (R2), 総胆管切除, 左肝内胆管空腸Roux-Y吻合術を施行した.組織学的所見は著明な血管侵襲を伴う中分化型管状腺癌で, 門脈内腫瘍塞栓を形成し所属リンパ節転移を認めた.経過は良好で術後9か月の現在再発の徴候はなくCA19-9値は正常である.以上より症状が全くない場合でも肝機能障害を認めた場合には超音波を用いた幅広いスクリーニング検査が必要であり, また治癒切除が可能な症例には積極的に外科的切除をすることで長期生存の可能性が出ると考えている.
  • 水口 敬, 徳村 弘実, 佐藤 敬文, 今岡 洋一, 大内 明夫, 山本 協二, 松代 隆
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2165-2169
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は54歳の男性で, 下部胆管癌のため, 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後, 腹腔内ドレーンから多量の排液がみられ, 経口摂取とともに乳白色となり増量した.トリグリセライド2,700mg/dlを含有し, 乳糜腹水症と診断した.低脂肪食と高カロリー輸液などの保存的治療を始めたが改善せず, 術後50日目に再手術を施行した.腸間膜根部の腸リンパ本幹断端と考えられる部位から乳糜液の流出が認められ, 同部を周刺結紮し治癒した.術後に発生する乳糜腹水症の報告は非常に少なく, 特に膵頭十二指腸切除術後に発生したものは, 過去30年間に1例報告されるのみであり, その治療方針は確立されていない.本例のように術直後からリンパ液の多量の流出を認める場合は, 難治性のことが多く, 保存的治療にあまり固執することなく手術に臨むべきものと思われた.
  • 上野 正義, 金泉 年郁, 江本 宏史, 杉森 志穂, 小林 豊樹, 八木 正躬, 下村 英明, 中島 祥介, 中野 博重
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2170-2174
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    非常にまれな膵原発somatostaminoma (以下, 本症) の1例を経験したので, 自験例を含め16例の本邦報告例を集計し, 若干の文献的考察を加えて報告する.症例は65歳の女性. 人間ドックで膵頭部腫瘤を指摘され精査目的にて当院を紹介された. 75g経口糖負荷試験にて境界型の耐糖能障害を認めた. 膵頭部に, 腹部ultrasonogramでhypoecholcを示し, computed tomography, magnetic resonanceimagingにて造影効果著明で, 血管造影でも, 血管増生の著しい腫瘤を認めた. 画像診断よりラ島腫瘍を疑い, 末梢血中のsomatostain濃度が, 50pg/ml (正常値1.0~12pg/ml) と高値を示したため本症と診断し, 膵頭十二指腸切除術を施行した. 切除標本では, 膵頭部に限局する径約3cm大の類円形腫瘍を認めた. 組織学的には良性のラ島腫瘍で, 免疫組織学的にはsomatostatin抗体陽性であった. 術後1か月目の末梢血中somatostatin濃度は1.0pg/ml以下に低下した. 術後8か月を経過した現在再発の兆候はみられない.
  • 岩川 和秀, 松本 康志, 渡辺 常太, 小野 芳人, 嶌原 康行, 小林 展章
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2175-2179
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腎細胞癌は一般的に肺, 骨, 肝臓への転移が多く, 膵臓への転移は剖検例では6%にしか認められておらず, 非常にまれである. また膵臓へは多発性に転移することも多いため診断および治療に難渋する. 今回我々は, 腎細胞癌の診断にて原発巣と脳, 甲状腺への転移巣切除術施行し, その4年後に多発性膵転移を来したため, 根治的に膵全摘術を施行した症例を経験したので報告する. 症例は52歳の女性で, 脳転移により腎細胞癌が発見され, 脳転移巣および左腎摘出術施行し, 半年後に甲状腺転移巣切除を受けた. 4年後に血便を主訴に来院, S状結腸に隆起性病変を認め, 同時に腹部CT検査と血管造影にて膵臓に多発性病変を認めたため, 転移性膵腫瘍とS状結腸癌の診断にて膵全摘術とS状結腸切除術を行った. 組織診断にて膵腫瘍は腎細胞癌の転移と確定診断した. 腎細胞癌の多発性膵転移症例は, ほかに有効な治療法のない現在では, 膵全摘術の適応になりうると思われた.
  • 三谷 眞己, 桑原 義之, 川村 弘之, 佐藤 篤司, 服部 浩次, 正岡 昭
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2180-2184
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は75歳の男性で, 再生不良性貧血の経過中に右下腹部痛, 発熱を訴え来院した. 右下腹部に圧痛, 反跳痛を認め, 腹部CT検査, 超音波検査にて回盲部の腫脹腸管を認めたため, neutropenic enterocolitisを疑い緊急開腹した. 画像検査でみられたごとく, 回腸末端より上行結腸まで腫脹しており, 盲腸は壊死様の色調であったため回盲部切除術を施行し, 自動吻合器を使用し端側に吻合した. 術後は抗生剤, G-CSFなどを使用し好中球数の増加とともに順調に回復した.
    本症は好中球減少時といった限られた状況で発症するため, 該当例においては腹痛, 発熱, 下痢などの臨床症状をみた場合に本症を念頭におき, 早期に対処することが望まれる.
  • 山崎 俊幸, 酒井 靖夫, 川口 英弘, 畠山 勝義
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2185-2189
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    80歳の女性に生じたmyxedema megacolon (粘液水腫性巨大結腸症) に対し, 甲状腺ホルモン剤を3か月投与して甲状腺機能は改善したが, 腹部症状は改善しなかった.放射性非透過マーカーを用いた検査で, 脾彎曲部から肛門側へのマーカーの移動が認められないことから, 腸管運動能の廃絶したmegacolonと判断し, 横行結腸瘻を造設して良好な経過が得られた.
    myxedema megacolonは極めてまれな病態で, 治療法は甲状腺ホルモン剤の補充で外科的治療は禁忌とされており, 手術などに関する議論はいまだ皆無である. 本邦報告例は5例にすぎないが, 自験例を含めて2例で手術的治療が有効であった. 過去に手術治療を試みなく死に至った報告もあり, 不可逆性と判断されたmegacolonに対しては, 積極的な外科的治療も考慮されるべきと考え報告した.
  • 澤田 傑, 上坂 克彦, 加藤 知行, 森本 剛史, 小寺 泰弘, 鳥井 彰人, 平井 孝, 安井 健三, 山村 義孝, 紀藤 毅
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2190-2194
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は52歳の女性. 1981年7月, S状結腸癌を伴う大腸腺腫症の診断で結腸全摘および直腸低位前方切除術を施行した. 1985年8月, CTで腹腔内デスモイド腫瘍が疑われタモキシフェン, スリンダクの内服治療を行い臨床上縮小した. 1995年7月, 内視鏡にて十二指腸多発性腺腫, および十二指腸下行部のVater乳頭対側に3個の腺腫内癌を診断した. 9月7日全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除の予定で開腹したが, 小腸間膜を広範に巻き込むデスモイド腫瘍のため再建不能と判断し十二指腸壁を切開し主だった腫瘍を摘出, 小ポリープは可能な限り焼灼した. 大腸腺腫症に十二指腸病変は高頻度に合併するが, 傍乳頭部領域以外の部位から発生した多発性十二指腸癌の報告例はまれである. また, この際腸間膜のデスモイド腫瘍を併発すると外科的治療に制約が加えられることが有りえるので治療法の選択上注意が必要である.
  • 丹羽 篤朗, 三井 敬盛, 森山 悟, 杉浦 正彦, 安藤 由明, 大和 俊信, 柴田 和男, 佐々木 信義, 角岡 秀彦
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2195-2199
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腹部放線菌症は比較的まれな疾患であるが, 悪性腫瘍と鑑別が困難で, 術前診断が難しい疾患とされている. 我々は左下腹部腫瘤の患者で画像, 血液生化学検査より本症を疑い, 生検術で本症と診断したので報告した. 症例は44歳の男性で, 左下腹部腫瘤と微熱を主訴とした. 近医でCT, Gaシンチなどの画像検査で腹部悪性腫瘍が疑われ, 当院に入院となった. 入院時, 左下腹部に11×8cmの可動性のない硬い無痛性の腫瘤を認めた. 腫瘤はGaシンチで強い集積像を示し, 微熱, 白血球増多, CRP陽性, 血小板の著増を認め, 炎症性の腫瘤を疑った. SBT/ABPCの投与により, 炎症所見の改善, 腫瘤の縮小を認めた. 15病日のCTで腫瘤内に短い線上の石灰化を認め魚骨穿通による放線菌症を疑い, 22病日生検を施行し本症と診断した. 35病日全身麻酔下に腫瘤摘出術を施行し, 魚骨のS状結腸穿孔による本症と診断した.
  • 湯沢 浩之, 小原 則博, 梶原 義史, 小関 一幸, 元島 幸一, 兼松 隆之
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2200-2204
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肛門外脱出を来した直腸癌を2例経験した. 症例1は51歳の男性で, 直径4cm大で腫瘍が肛門縁から5cmの部位に存在した. 直上にBorrmann 1型の腫瘍を併発しており, 2群リンパ節郭清を伴う超低位前方切除を施行した. 病理組織検査ではm癌であった. 症例2は68歳の女性で, 直径約6cm大の腫瘍が肛門縁から3cmの部位に存在した. 超音波内視鏡でsm癌と診断し経肛門的に切除した. 病理組織検査でもsm癌であった. 切除断端には癌組織を認めなかった.
    大腸癌が肛門脱出を来す機序としては有茎性腫瘍が脱出する場合と直腸脱に伴う腫瘍脱出があるが, 前者の場合は腫瘍の大きさにかかわらず早期癌である可能性が非常に高い. 自験例では2例とも前者の機序と考えられた.
  • 則行 敏生, 岡島 正純, 吉岡 伸吉郎, 田中 恒夫, 八幡 浩, 浅原 利正, 福田 康彦, 西亀 正之, 土肥 雪彦, 加藤 良隆
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2205-2209
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病とは, 錐体外路症状である振戦, 筋硬直, 無動を3徴とする慢性進行性疾患である.パーキンソン病を基礎疾患に持つ患者に消化管手術を行った場合, 術後の一定期間は抗パーキンソン剤の内服が困難となるため, 術後にパーキンソン病症状の悪化を来し, 術後管理に難渋することが多い.
    パーキンソン病患者3例に消化器手術を施行し, 2例に術後麻痺性イレウスを認め, そのうち1例で, パーキンソン病の悪化により呼吸管理に気管切開を要した症例を経験した.これらの症例の術前後の経過について述べ, パーキンソン病に対する周術期管理について検討を加えた.
    術後パーキンソン病症状を抑え, 早期離床をはかり, 呼吸器合併症, 腸管麻痺を予防することが重要で, そのために十分な抗パーキンソン剤を用いる必要があると考えられた.
  • 三木 康彰, 角村 純一, 長谷川 利路, 水谷 伸, 門田 治, 田附 裕子, 永井 勲, 岩瀬 和裕, 上池 渉
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2210-2214
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腹部鈍的外傷の治療方針決定における全身麻酔下腹腔鏡検査 (以下, DL) の有用性について検討した. 1989年以降5年間に入院した腹部鈍的外傷81例に対して腹部X-P, 超音波検査を全例に, CT検査を68例に施行した. 手術適応に迷った17例にDLを施行し, 13例を手術適応とし, 4例を非手術適応と判断した. 手術適応例では, 進行性腹腔内出血, 極少量の腸液貯留, アミラーゼ高値の希血性腹水の所見を認めたが, これらのうち7例はBlumberg's sign陰性であった非手術適応例では, 後腹膜血腫 (骨盤骨折), 腹壁血腫を認めた. これらは全例Blumberg's signを認めており, 2例にCT上腹水の貯留を認めていたが, 保存的治療が奏効した. DLは損傷臓器を直視下に観察することができ, 臨床所見X-P, US, CTでは得られなかった質的診断が得られ, 手術適応の判断に有用であった.
  • 田口 泰, 山崎 達雄, 安西 春幸, 松本 隆, 長島 直樹, 大畑 昌彦, 小山 勇, 尾本 良三
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2215-2219
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    消化器悪性疾患に腹部大動脈瘤 (AAA) を伴った6例を経験したので報告する.1991年1月~1994年12月までに経験した非破裂性AAAは57例で, その内消化器癌を合併した6例を対象とした.男5例, 女1例で胃癌4例, S状結腸癌1例, 直腸癌1例であった.AAAの手術適応は径5cm以上とし, 無症状の場合はまず癌に対して手術し, 2期的に人工血管置換術を施行.合併疾患, AAA最大径, 癌の進行度, 術後合併症, 予後について検討した.6例すべて経過良好で退院したが, 冠動脈病変のほか貧血, 腎機能, 呼吸機能障害を認めた胃癌の1例は術後6か月後急性心不全で死亡.胃癌のみ手術を施行した2例中1例は7か月後癌性腹膜炎, 他の1例は2年2か月後再発で死亡.その他の3例は生存中である.以上より, 2期的な手術は安全だが, 進行癌および冠動脈病変など合併疾患を有する症例に対しては術後厳重なフォローが必要であると思われた.
  • 前田 耕太郎, 丸田 守人, 橋本 光正, 山本 修美, 洪 淳一, 中島 顕一郎, 細田 洋一郎
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2220-2224
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    これまで行われた直腸腫瘍に対する経肛門的局所切除術 (PAE) ならびに経仙骨的局所切除術 (TSE) と, 新しく開発したE式開肛器と自動縫合器を用いた経肛門的局所切除術 (MITAS) につき臨床的に比較検討した. 対象は直腸腫瘍に対する局所切除術を施行した43例 (44病変) で, 24例にMITAS, 17例にPAE, 2例にTSEが行われている. 3術式の対象となった病変の大きさはほぼ同じであったが, 病変の部位はMITAS例で他の術式に比べ有意に高位であった. 手術時間はMITASで平均28分, PAEで41分, TSEで73分, 出血量はMITAS, PAE, TSEでそれぞれ平均25g, 47g, 45gであった. 術後の経口開始までの日数や術後の退院までの日数もMITASで有意に短縮した. 合併症はPAEで縫合不全2例, TSEではなく, MITASで軽度の後出血を1例認めた. MITASはこれまでの局所切除術と比較して, より高位の腫瘍に到達可能なminimally invasiveな術式と考えられた.
  • 金丸 太一, 太田 恭介, 森田 康, 山本 正博, 斎藤 洋一
    1996 年 29 巻 11 号 p. 2225
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
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