日本消化器外科学会雑誌
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29 巻, 7 号
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  • 山下 潤, 渡辺 明彦, 澤田 秀智, 山田 行重, 志野 佳秀, 山田 貴, 松田 雅彦, 三和 武史, 中野 博重
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1583-1590
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    当科にて切除された食道癌60例の原発巣を対象として, epidermal growth factor receptor (EGFR) の過剰発現を免疫組織化学的に検討した.EGFRの発現はおもに癌細胞の細胞膜上に認められ, その陽性率は48%であった.臨床病理学的因子との関連では, リンパ節転移度, 組織学的進行度との間に相関が認められた.またEGFR陽性例は陰性例に比較して有意に予後不良であった.一方, EGFRの発現と細胞増殖活性との関連を検討するために, 連続切片を用いてPCNAの免疫染色を行い, そのLabeling Indexを測定したところ, 両者の問に相関は認められなかった.さらに, 原発巣の一部をヌードマウス皮下に移植し, その生着性や増殖態度を検索したが, EGFRの過剰発現と生着率, 発育態度およびダブリングタイムとの間に関連は認められなかった.以上より, 食道癌におけるEGFR過剰発現は増殖能には関与せず, 主として転移に関連する因子に作用し, これを促進させる方向に機能する可能性が示唆された.
  • 金光 幸秀, 蜂須賀 丈博, 加藤 泰, 宮内 正之, 篠原 正彦, 森 敏宏, 大島 健司, 伊藤 誠二, 柴田 有宏, 日比 八束
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1591-1596
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    早期胃癌320例を対象として縮小手術 (D1+No.7リンパ節郭清) の妥当性とその適応について, 臨床病理学的因子, 郭清度と予後から検討した.m癌のリンパ節転移率は2.7%に対し, sm癌では30.9%と高率であったが, 腫瘍径4.0cm以下ではリンパ節転移のほとんどが腫瘍占居部近傍に限局しており, 第2群リンパ節転移はNo.7にのみ認められた.m癌に比べてsm癌の再発死亡率は高い傾向にあったが, リンパ節郭清度と予後との関係では, 縮小手術と標準手術 (D2) 例との間に差を認めなかった.大部分の早期胃癌は縮小手術の適応になりうると考えられるが, 肉眼型が進行癌型 (2T1) である症例では再発率が37.5%と高く, また腫瘍径が4.0cmを超える隆起, 陥凹, 平坦, 混合型では第2群以上のリンパ節転移が高率になるためD2以上のリンパ節郭清が必要と考えられた.
  • 板東 隆文, 豊島 宏, 藤原 睦憲
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1597-1602
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胃癌の静脈侵襲と核DNA量に関して一定の見解がないので, 組織型別の静脈内腫瘍塞栓の程度と核DNA量の関連を検討した.進行胃癌150例を対象に, 核DNA量はflow cytometerで測定し, 腫瘍塞栓は1cm2内の塞栓数を算定した.分化癌ではaneuploidが83.6%, 未分化癌ではdiploidが66.3%でおのおの有意に多かった (p<0.0001).高度腫瘍塞栓は分化癌の85.2%, 未分化癌の65.2%に認め, 分化癌で著明だった (p<0.002).高度腫瘍塞栓はaneuploidの82.7%, diploidの62.3%に認め, aneuploidで著明だった (p<0.001).DNA ploidyと組織型から4群に分類すると, 高度腫瘍塞栓はaneuploidの分化癌で著明だった (p<0.01).分化癌ではaneuploidが, 未分化癌ではdiploidが多く, 高度腫瘍塞栓は組織型別では分化癌に多く, DNA ploidy別ではaneuploidに多い.分化型でaneuploidの胃癌の腫瘍塞栓がもっとも高度である.
  • 田中 賢一, 中村 毅, 中江 史朗, 斎藤 洋一
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1603-1609
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    我々は胃癌組織におけるc-met遺伝子産物, proliferating cell nuclear antigen (PCNA) を免疫組織学的に比較検討した.PCNAは組織型, 腫瘍径, 深達度, 脈管侵襲, Stageとの関連を認めた.c-metは, 深達度, 脈管侵襲, Stageとの関連を認めた.c-metとPCNAとの関係を検討すると, PCNA高値群でc-met陽性例が多かった.c-met陰性群においては, n (-) 例, v0, 1例でPCNA低値群が多かった.PCNA高値でc-metが陽性の群とPCNA低値でc-metが陰性の群に分けると, 前者の群にそれぞれ深達度, リンパ節転移, 脈管侵襲, Stageが進んだ例が多かった.c-met, PCNAともに臨床病理学的予後規定因子と相関しており, 腫瘍の発育進展を反映する因子と考えられた.また, c-metとPCNAを併せて検討することにより, さらに詳細な悪性度判定が可能になると考えられた.
  • 野村 栄治, 岡島 邦雄, 磯崎 博司, 中田 英二, 一ノ名 正, 藤井 敬三, 泉 信行, 大山 直雄
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1610-1616
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    早期胃癌症例に対し施行した迷走神経肝枝・幽門枝・腹腔枝温存幽門保存胃切除術 (以下PPG) の有用性を検討した.対象は術後1年を経過したPPG症例15例であり, 対照としてD2郭清を伴う幽門側胃切除術 (以下, DG) を施行後1年を経過した早期胃癌症例15例を用いた.この2群に対し, 術後QOLの検討と機能評価を行った.PPG群はDG群に比較し, 食事摂取量および体重減少は有意に少なく, 腹部症状においては下痢・腹痛の発生がなかった.また, 血液検査では, 貧血が少なく, 内視鏡検査所見でも逆流性胃炎・食道炎の発生が少なかった.機能面ではPPG群の胃排出能・胆嚢収縮動態は術前に近似し, ホルモン分泌動態も生理的な状態に近かった.以上よりPPGは機能温存術式として有用と考えられ, この有用性は, 1) 幽門輪の温存, 2) 胃切除範囲の縮小, 3) 迷走神経の温存による効果と考えられた.
  • 切除後再発例の検討より
    棚田 稔, 横山 伸二, 高嶋 成光
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1617-1622
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    腫瘍径3cm以下小肝細胞癌60例の切除成績よりその治療方針について検討した.60例の5年生存率は60%, 無再発生存率は22%であった.再発は38例に認められ, 単発再発は22例, 多発再発は16例であった.多発再発例の再発後の予後は, 単発再発例に比べ有意に不良であった.無再発例, 単発再発例, 多発再発例の背景因子を比較すると, 多発再発例は, 無再発例, 単発再発例に比べ, 腫瘍径, 組織型, vp因子, im因子の4因子で有意差を認めた.そこで, 腫瘍径2cm以上, 中, 低分化型, vp陽性, im陽性のいずれかを有する症例を多発再発危険群と規定すると, これら症例ではTW (-) 症例はTW (+) 症例に比べ有意に予後良好であったが, Hr1以上の症例とHrS以下の症例では予後に差を認めなかった.以上より, これら4因子のいずれかを有する症例の治療に際してはTW (-) の肝切除が必要であると考えられた.
  • 安藤 修久, 原田 明生, 安井 元司, 野浪 敏明, 中尾 昭公, 高木 弘
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1623-1628
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    多発性肝細胞癌の切除例を, 直径2cm以下の結節に限定して, 多中心性発生 (sMO群: 19結節) と肝内転移 (sIM群: 28結節) に分類し, その画像診断と病理所見を比較した.超音波検査では, sMO群は高エコー像を示す結節が13例 (68%) とsIM群の6例 (21%) に比べて有意に多かった.造影検査では, 造影されなかった結節が, sMO群では造影CTで14例 (74%), 血管造影検査で13例 (68%) と, sIM群でのそれぞれ7例 (25%), 10例 (36%) に比べて有意に多かった.一方, 病理組織では, sMO群では16例 (84%) を高分化肝細胞癌が占め, 脂肪化または淡明細胞化を15例 (79%) に認めた.これは, 本研究におけるMOの定義からして当然の結果であるが, このsMOの病理所見が画像の特徴に関連していると考えられた.多発性肝細胞癌の発生様式は術前術中に診断可能な例が多く, これらを考慮することは術式を含めた治療法の選択に有用と思われた.
  • 安田 典夫, 宮崎 勝, 飯沼 克博, 大塚 将之, 中島 伸之
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1629-1635
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    ラットを用いin situでの60分間肝血行遮断下の分離肝灌流を行い, 各種灌流液による肝保護効果の生化学的および組織学的検討により行った.肝灌流は1ml/min/kgの速度で25℃ 乳酸リンゲル液 (25℃LR群), 4℃ 乳酸リンゲル液 (4℃LR群), Nafamostat mesilate (10μg/ml) 添加25℃ 乳酸リンゲル液 (25℃NM群), NM (10μg/ml) 添加4℃Lactate Ringer液 (4℃NM群) 4℃ University of Wisconsin solution液 (UW群) の5群とした.NM添加群で灌流液中s-GOT, TXB2, 6-keto-PGF1αの上昇がNM非添加群に比べ有意に抑制された.組織学的にはすべての灌流群で無灌流群に比べ肝細胞の腫脹が有意に抑制され, UW群で最も強い抑制をみた.また無灌流群でみられる類洞内皮細胞の連続性の消失および類洞内皮小孔の拡大はNM非添加群では抑制されず, NM群において明らかな抑制がみられた.阻血肝での肝灌流においてNM添加は類洞内皮細胞障害を抑制することにより微小循環を維持しその結果, 肝細胞保護効果をもたらすと考えられた.
  • 原田 雅光, 余喜多 史郎, 高木 敏秀, 阪井 学, 大西 隆仁, 三宅 秀則, 石川 正志, 福田 洋, 和田 大助, 田代 征記
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1636-1642
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝切除後早期の腹水発生関連因子につき検討した.1985年1月から1993年12月までの肝細胞癌肝切除例中77例を対象とし, 術後腹腔ドレーンからの1日最大総排液量が500ml未満をA群 (53例, 68.8%), 500ml以上をB群 (24例, 31.2%) に分類した.両群間 (A vs B) で有意差を認めたものは, 術前因子でChE (0.58±0.21 vs 0.45±0.15ΔpH), ICGRmax (1.15±1.01 vs 0.78±0.42mg/kg/min), 総合的Risk (2.35±0.64 vs 2.65±0.43), 術中因子で手術時間, 出血量, 輸血・輸液量, 術後因子で組織学的肝硬変度であった.両群間で, アプローチ法, 肝阻血法, 阻血時間, 脱転操作の有無, 切除部位・範囲, 切除重量に有意差はなかった.術後大量腹水の発生にはChE, ICGRmax, 総合的Risk, 肝組織の硬変度が重要であり, 長時間手術や術中出血量, 輸血・輸液量の多い症例に好発した.術後管理は, 体液バランスと肝機能保護, 術後合併症予防とその治療が重要と考えられた.
  • 隅田 英典, 片岡 誠, 桑原 義之, 川村 弘之, 三谷 眞己, 佐藤 篤司, 服部 浩次, 西脇 巨記, 中野 浩一郎, 木村 昌弘, ...
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1643-1651
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    担癌生体の免疫機能を評価するために, 消化器癌患者73例 (胃癌45例, 大腸癌16例, 食道癌6例, 肝臓癌3例, 膵臓癌3例) と非担癌患者17例を対象とし, モノクローナル抗体を用い末梢血リンパ球サブセットを測定した.
    T細胞のなかでは担癌状態および癌の進展によりCD3 (+) HLA-DR (+) (activated T) 細胞とCD8 (+) CDllb (+) (suppressor T) 細胞が増加する傾向が認められた.Natural Killer (NK) 細胞は担癌状態により増加し, そのサブセットでは病期の進行により活性の弱いCD57 (+) CD16 (-) 細胞と中間の活性を示すCD57 (+) CD16 (+) 細胞の増加傾向が認められた.またlymphokineactivated killer (LAK) 細胞については, CD3 (+) CD16 (-) CD56 (+) (T-LAK) 細胞が病期の進行により増加する傾向を認めた.
  • 土師 誠二, 宇佐美 真, 平井 昭博, 阪田 和哉, 小谷 穣治, 磯 篤典, 金丸 太一, 笠原 宏, 山本 正博, 斎藤 洋一
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1652-1657
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大侵襲の消化器外科周術期の真菌血症の発生について検討した. 対象は臓器真菌症を有さない胸部食道切除6例, 胃全摘12例, 膵切除4例で, 術前, 術後2, 10日目に末梢静脈血を用いて細菌培養, カンジダ抗原価 (Cand-Tec), β-D-glucan値 (トキシカラー値とエンドスペシー値の差) を測定し, 真菌血症の診断を行った. カンジダ抗原価, β-D-glucan値陽性率は2PODにはともに42.8%と有意に上昇し (p<0.01), カンジダ抗原価は10PODにさらに増加するのに対し, β-D-glucan値は減少し, 一過性の上昇を示した. 血液培養は全て陰性だった. 術式別では食道切除術で陽性率が高かった.陽性群と陰性群で比較すると, カンジダ抗原価陽性群は手術侵襲が大きく, 低栄養の症例が多かった. 以上より, 消化器外科手術後早期には培養陽性とはならぬが一過性の真菌血症が生じ, 手術侵襲の程度や栄養状態と関連し, microbial translocationの可能性が強く示唆される.
  • 太田 博文, 上田 進久, 松永 征一, 前浦 義市, 秋月 英治, 久本 卓司, 冨田 和義
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1658-1662
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    十二指腸壁内ガストリノーマの切除後, 迷走神経性胃酸分泌が原因の吻合部潰瘍をきたした症例を経験した. 50歳の女性, 胃潰瘍のため加療中, 空腸穿孔をきたし, 幽門側広範囲胃切除と空腸部分切除を受けた. 術後の血清ガストリン値1,224pg/mlでセクレチン負荷テストが陽性のためガストリノーマと診断された. 選択的動脈内セクレチン注入試験で胃十二指腸動脈領域に局在を確認し, 平成4年12月に膵頭十二指腸切除を施行した. 迅速ガストリンアッセイによる術中セクレチン負荷テストで陰性を確認し, 残胃を温存する再建を行ったが, 血清ガストリン値が正常にもかかわらず, 胃空腸吻合部に潰瘍による狭窄をきたした.迷走神経性胃酸分泌亢進が原因と考え, 迷切および狭窄部切除を行い, 治癒しえた. 腫瘍局在診断法の発達により胃を温存する術式が選択されつつある今日, 術後迷走神経性の吻合部潰瘍の発生の可能性があるため残胃を温存する場合には迷切を考慮すべきであると思われる.
  • 森田 哲史, 東野 健, 中川 英刀, 福田 和弘, 辛 栄成, 三嶋 秀行, 柳生 俊夫, 小林 研二, 小林 哲郎, 吉川 宣輝
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1663-1667
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は61歳の女性, 検診の腹部エコ-で肝腫瘤を指摘され当科紹介となった. 腹部computed tomographyにて肝海綿状血管腫と診断したが, 9か月後に胸腹部痛が出現し画像上肝腫瘤の増大を認め入院となった. 腹部血管造影ではcotton-wool like appearanceに加え腫瘍濃染像を認め, magnetic resonance imaging T2 強調画像ではhigh intensityとlow intensityが不均ーに混在しており肝血管肉腫と診断した. 治療としてtranscatheter arterial embolization (以下TAEと略記), interleukin-2 (以下, IL-2と略記) の肝動注およびステロイドの投与を行い一時的であったが症状の改善を認めた. その後再度増悪し症状発現より約4か月で死亡した. 剖検では肝右葉の大部分が暗赤色結節状の腫瘍で占められ, 組織学的に肝血管肉腫と診断された. 肝血管肉腫の治療は肝切除が第1選択であるが切除不能例にはTAE, II-2の肝動注, ステロイドの投与を試みる価値があると思われる.
  • 三辺 大介, 久保 章, 高橋 正純
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1668-1672
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    原発性胆汁性肝硬変経過観察中に胆管癌を併発した1例を報告する. 症例は50歳の女性で, 7年前より無症候性PBCと診断されていたが, 外来治療中, 黄疸・皮膚掻痒感が出現した. 画像診断上, 膵頭部領域癌と診断し, 閉塞性黄疸のため経皮経肝胆道ドレナージ術を施行した. 手術所見では十二指腸へ浸潤する膵頭部腫瘤を認め, 膵頭十二指腸切除術を施行した. 病理組織学的所見上, 下部胆管を中心とした高分化型腺癌であった.PBCは悪性腫瘍併発率が高いといわれているが, 胆管癌併発例については, 本邦・欧文とも論文報告はなく, 日本病理剖検輯報第33輯に記載された肝門部胆管癌併発例の1剖検例のみと非常にまれであった.
  • 松葉 芳郎, 鈴木 正敏, 小野 由雄
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1673-1677
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胆道出血 (Hemobilia) を呈する疾患のなかでも胆嚢由来のものはまれである. 今回我々は, 胆嚢頸部嵌頓結石による胆嚢潰瘍で生じたCysticartery pseudoaneurysmを経験したので, 文献的考察を加え報告した. 患者は72歳の女性. 腹痛, 嘔吐を主訴に近医受診. USにて胆嚢頸部嵌頓胆石症と診断され, 当院緊急入院となった. 経過中に吐血, 下血はなかった. 入院時検査では肝胆道系酵素の軽度上昇とビリルビンの上昇を認めた. 入院後のUSにて胆嚢頸部に中心に拍動を伴う腫瘤を描出, CT, Angiographyにて胆嚢動脈瘤の診断を得た. 入院後2日目に開腹胆嚢摘除術, 総胆管切開T-tube外瘻術を施行した. 摘出胆嚢の頸部には全層性潰瘍が存在し, 潰瘍底には露出した胆嚢動脈とpseudoaneurysmを確認した.
  • 佐藤 智丈, 井手 達, 森田 哲生, 伊藤 俊哉
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1678-1682
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胆嚢癌と胆嚢カルチノイドが異所性に併存した1例を経験した. 胆嚢カルチノイドは, 過去56例の報告があり, この内カルチノイドと胆嚢癌が異所性に合併したものは極めてまれである. 患者は呼吸困難で受診し, 肺炎の診断で入院した. 抗生剤の投与にて肺炎は軽快したが, 肝機能障害があり, 精査にて胆嚢頸部に隆起性病変を認め胆嚢癌と診断した. 手術は胆嚢摘出術と所属リンパ節郭清を行い, 切除標本で胆嚢頸部に乳頭型の隆起性病変と胆嚢底部に平坦な隆起性病変を認めた. 病理組織学的検索では, 頸部の病変はadenocarcinomaであり, 深達度はm, リンパ節転移は陰性であり, 底部の病変はcarcinoidtumorで, 粘膜上皮直下から筋層内にかけて局在していた. 患者は術後10カ月経過した現在, 再発の徴候なく良好に経過している.
  • 木下 貴之, 窪地 淳, 松井 英男, 大石 崇, 磯部 陽, 奥田 誠, 池内 駿之, 島 伸吾
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1683-1687
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は57歳の女性.健康診断の腹部超音波検査で脾腫瘍を指摘され, 当院に入院となった. 入院時現症, 既往歴, 家族歴, 血液検査所見では特に異常を認めず. 腹部超音波検査およびCT検査にて, 脾内に多数の低エコーまたは低吸収域を認め, 造影CTでは均一に造影された. MRIでは, 脾内にT1強調で等信号, T2強調でやや高信号, 造影剤meglumine gadopentetate (Gd-DTPA) 投与後, わずかに造影される領域を認めた. 腹部血管造影で脾動脈は著明に拡張・屈曲しており一部に動脈瘤を形成し, 動脈相において一挙に中心まで染まる腫瘤を多数認めた. 手術は脾動脈瘤を含め脾臓摘出術を行った. 摘出標本では脾臓実質に, 境界明瞭で被膜を伴わない白色の充実性腫瘍を多数認めた. 病理組織学的検索で, 血管内皮細胞の増殖主体の赤脾髄過誤腫との確診を得た. また, 同時に摘出した副脾にも同様の過誤腫を認めた.
  • 村元 雅之, 宇佐見 詞津夫, 大久保 憲, 佐竹 章, 松垣 啓司, 荻野 憲二, 犬飼 昭夫, 真辺 忠夫
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1688-1691
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    空腸癌術後高カロリー輸液 (total parenteral nutrition: TPN) 中に発症し, 重篤な全身状態を呈した代謝性アシドーシスの1例を経験した. 諸検査値から糖尿病性ケトアシドーシスや腎不全などの他の高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスは否定され, しかも重炭酸ナトリウムの投与が無効なこと, ビタミン製剤が投与されていなかったことなどからビタミンB1 (以下, vit.B1) 欠乏による代謝性アシドーシスが疑われた. 活性型vit.B1投与により代謝性アシドーシスは急速に改善し, それに伴い全身状態も改善された. TPN中の代謝性アシドーシスの原因として糖質負荷によるvit.B1の消費充進が従来から挙げられており, そのほかにも悪性腫瘍・化学療法・放射線治療などの背景により潜在的vit.B1不足が存在し, そこに供給不足が加わると数週間で発症することが多い.以上より手術後で経口摂取が不十分な時期には, 積極的にvit.B1且を投与する必要があると考えられた.
  • 力山 敏樹, 高橋 良延, 木村 俊一, 松野 正紀, 鈴木 教敬, 建部 高明
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1692-1696
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の男性.上腹部激痛を主訴に当院救急外来受診し, 腸閉塞の診断で入院となった. 腹部単純X線写真立位像では, 胃小轡側, 第12胸椎および第1腰椎に重なる鏡面像と第1腰椎右方で途絶する小腸ガス像が認められ, 注腸造影にて, 回腸が回盲部より約10cmの部位で横行結腸を乗り越え, その口側が第1腰椎の右側で閉塞するという所見が得られたため, Winslow孔ヘルニアによる腸閉塞と診断し緊急手術を行った. 回腸がWinslow孔から網嚢内に嵌入しており, 嵌入回腸間膜はWinslow孔部で絞扼され腸管は壊死に陥っていた. 嵌頓していた腸管は約70cmであり, 両側健常部を含め切除した. Winslow孔ヘルニアの本邦報告は著者らが渉猟した範囲では16例のみであり, 術前診断は困難とされている. 今回, 腹部単純X線写真および貴重な注腸造影所見より術前診断が可能であったWinslow孔ヘルニアの1例を経験したので, 本邦報告例の集計とともに報告する.
  • 福田 淑一, 月岡 一馬, 川崎 史寛, 松尾 吉郎, 吉村 高尚
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1697-1701
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    門脈ガス血症 (以下, 本症) は予後不良の徴候である. 我々は腹部CT像で本症が明瞭にとらえられた4例を経験し緊急開腹手術ですべて救命しえたので若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例は20歳から75歳の4例 (男性1例, 女性3例). そのうち2例は来院時重篤なショック状態であった. 原疾患は壊死性腸炎, 閉塞性大腸炎, 絞扼性イレウスおよび非閉塞性腸管梗塞でいずれも腸管の壊死を伴っていた. 2例が肝内門脈に, 他の2例は腸間膜静脈内に本症が認められた. なお1例はpneumatosis cystoides intestinalisも伴っていた.いずれも緊急開腹で壊死腸管を全切除して救命しえた.
    本症は重篤な腸管壊死の存在を示唆しているゆえ, 時期を逸せず開腹するべきである. また, 本症の診断に腹部CT検査が極めて有用で, 腸管壊死が疑われる急性腹症では本症の存在を念頭においてCTのウインドウ幅を調節し門脈内ガス像の描出に努力するべきである.
  • 小出 紀正, 二村 雄次, 神谷 順一, 近藤 哲, 梛野 正人, 宮地 正彦, 秋山 裕人
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1702-1705
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    術後成人腸重積症の約9割は胃切除術後であり, 腸管に操作を加えない症例での発生はまれである.今回, 左腎腫瘍の診断で開腹による左腎摘出術後に発症した成人腸重積症を経験したので報告した.症例は59歳の女性で, 術後5日目よりイレウス症状が出現し, イレウス管による減圧で症状は軽快した.小腸造影では空腸に長い狭窄像と肛門側腸管内に腫瘤状陰影を認め, 腹部超音波検査ではmultipleconsentric ring signを認め, 腸重積症と診断し, 術後19日目に再手術を施行した.トライツ靱帯から約60cmの空腸に順行性五筒性腸重積を認めた.用手的に整復を行い, 先進部は約10cm程の強く癒着屈曲した空腸であった.この空腸の癒着剥離は困難であり, また腸間膜側に炎症性の硬結も認めたため, 同部位を切除した.切除腸管には腫瘍性病変を認めなかった.自験例は腎摘出術後の腸管癒着を起因として発症したまれな腸重積症であった.
  • 小玉 正太, 平井 孝, 加藤 知行, 巻渕 弘治, 藤光 康信, 紀藤 毅
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1706-1710
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は47歳の男性.肛門出血および腫瘍の肛門からの脱出を主訴として, 平成6年8月1日近医を受診.平成6年8月18日, 経肛門的腫瘍摘出術を施行された.平成6年9月12日当科入院.摘出標本上, 高分化腺癌 (mp) から, 肛門粘膜上皮内にpagetoid spreadを認めたため, 肛門周囲の皮膚生検を系統的に施行し, 浸潤範囲を同定した.腹会陰式直腸切断術施行後1年4か月が経過したが, 再発徴候なく外来通院中である.
    肛門管癌に合併した肛門周囲Paget病変は極めてまれで, 文献上著者が検索しえた限りでは, 自験例を含めて9例の報告のみである.また根治術施行前に肛門周囲の浸潤範囲を同定しえた報告は, 検索しえた限り自験例のみであり, 文献的考察を加え報告した.
  • 川真田 修, 中島 晃, 佐藤 四三, 黒住 陽一, 青山 正博, 丸尾 幸喜, 石塚 真示, 中島 明, 新田 泰樹, 井口 利仁, 山村 ...
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1711-1715
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肺塞栓症は近年増加の傾向にあり, 急死の一因となることも認識されてきた.われわれは1993年1月より1994年12月までの2年間に4例の急性肺塞栓症を経験した.これはこの時期に経験した全麻下消化器外科症例の0.45%に相当した.全例肺動脈撮影で診断し, 同時にカテーテルよりurokinaseを投与した.末梢よりヘパリンの持続投与も併用し, 全例救命した.抗凝固療法によると思われる合併症は経験せず, 急性肺塞栓症にはカテーテルよりの肺動脈内urokinase投与と末梢からのヘパリン持続静注が有効であると思われた.
  • 三好 和也, 松井 武志, 雁木 淳一, 篠浦 先, 折田 薫三
    1996 年 29 巻 7 号 p. 1716-1720
    発行日: 1996年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    1992年から1994年末までの3年間に, 20年以上の長期にわたり抗精神病薬の内服治療を受けてきた8例の精神分裂病患者について消化器外科手術を経験した.手術の対象となった疾患は胆石症2例, 急性胆嚢炎2例, 虫垂炎の穿孔による汎発性腹膜炎2例, 肝内結石症と横行結腸癌が各1例であった. 術後の合併症は胆管空腸吻合の縫合不全と麻痺性イレウスを各1例に認めたのみで, 突然死例はなかった. 横行結腸癌で閉塞性イレウスをきたした1例を除いて, 抗精神病薬は手術の前日まで減量せずに継続した.手術の翌日から抗精神病薬の就眠前の非経口投与を開始し, 食餌開始にあわせて術前の経口剤を再開した. 4例に精神症状が見られたが, いずれも軽症で外科的管理上問題にならなかった. 精神分裂病患者の安全な周術期管理のためには精神科医の協力による精神的ケアが重要であった.
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