日本消化器外科学会雑誌
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30 巻, 4 号
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  • 植皮片収縮抑制効果の検討
    齊藤 素子, 坂本 隆, 藤巻 雅夫, 野崎 幹弘
    1997 年 30 巻 4 号 p. 809-814
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    人工食道の問題点の1つである術後狭窄を回避する試みとして, 広背筋上に人工真皮 (アテロコラーゲンスポンジ) を移植した後, 10/1,000インチの分層皮膚移植を行い3層構造の管腔を作製することを考案した.
    今回は, 人工真皮による植皮片の収縮抑制効果について検討を行った.人工真皮を広背筋上に移植し一定期間おくことで, 真皮に類似した組織 (いわゆる疑似真皮組織) が再構築された.また, 同部位への植皮は感染例を除きすべて良好に生着した.植皮面積の収縮率は, 人工真皮移植群で43.4±4.1%, 広背筋上に分層皮膚移植のみを行った対照群で61.0±10.2%であり, 人工真皮を使用することで, 分層皮膚の収縮は有意に抑制された.これより, 人工食道移植後の狭窄を防止する上で, 人工真皮の使用は有用であると考えられた.
  • 草野 力, 馬場 政道, 高尾 尊身, 実 操二, 島田 麻里緒, 白尾 一定, 夏越 祥次, 福元 俊孝, 愛甲 孝
    1997 年 30 巻 4 号 p. 815-822
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    食道癌術後早期の酸素運搬量と術後合併症の関連を右開胸切除食道癌133例を用いて検討した.前期94例の検討では, 縫合不全, 呼吸不全および入院死亡例の術後6時間の酸素運搬量は合併症がない症例に比べて有意に低下していたが1病日以降では差を認めず, 術後6時間の酸素運搬量の低下と以後の合併症発生の関連が示唆された.後期39例では術後12時間以内の酸素運搬量を600ml/min/m2以上に維持するように循環管理を行った.その結果, 縫合不全は前期28.7%から後期10.3%に, 呼吸不全は19.1%から5.1%に減少し, 入院死亡は前期8.5%に対して後期では認められなかった.食道癌切除術における術後早期の酸素運搬量の値は術後の縫合不全, 呼吸不全さらに入院死亡発生と密接な関連をもつと同時に, 術後12時間以内の酸素運搬量の増加は重症合併症予防の有用な手段となると考えられた.
  • 青笹 季文, 小野 聡, 市倉 隆, 平出 星夫, 望月 英隆, 玉熊 正悦
    1997 年 30 巻 4 号 p. 823-829
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    高度侵襲手術である食道癌手術の侵襲軽減を図るため術前からprotease inhibitorの予防投与を行い, systemic inflammatory response syndrome (SIRS) およびサイトカイン値の推移からその効果を検討した.食道切除症例11例を, 術直後からgabexate mesilate (1.5mg/kg/hr) の持続投与を行った術後投与群 (n=6) と, 麻酔導入時から開始した周術期投与群 (n=5) に分けて比較したところ, 周術期投与群では脈拍数が有意に低値で推移し, 呼吸数も第3病日に有意に低かった.また周術期投与群では術後SIRSからの離脱が早く, 術中, 術後の血中IL-6値は周術期投与群で有意に低値で推移し, また第3病日のIL-8, CRP値も周術期投与群が低値を示した.以上より食道癌手術においては, 術前からgabexate mesilateを投与することによって, 手術侵襲の軽減を図ることができる可能性が示唆された.
  • 小山 善久
    1997 年 30 巻 4 号 p. 830-837
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    家兎肝癌モデルを用いて抗癌剤の有効な投与経路や投与方法について研究した.VX-2腫瘍を移植した家兎肝腫瘍を用いた.投与経路はAdriamycin (ADR) 水溶液を門注 (PV群) あるいは肝動注 (HA群) し, また肝動注はADRとLipiodolを併用し, 腫瘍内濃度を測定した.投与経路別にみると腫瘍内濃度はPV群よりHA群で高い傾向を認めた (p<0.10).Lipiodolを併用した肝動注としてはADR水溶液を注入するone shot法 (I群), ADR投与前後にLipiodolを投与するsandwich法 (II群), 48%urografinでADRを溶解後にLipiodolと攪拌して投与するLip-uro-ADR法 (III群) の3法を行った.その結果, 腫瘍内濃度は投与1, 3, 24時間後のどの時点でもIII群が最も高値 (p<0.01, p<0.02) であった.肝動注は門注に比べ腫瘍内濃度が高く, Lipiodolを併用することでADRを腫瘍内に選択的かつ長時間停滞させ得ることができた.
  • 北村 文近, 佐治 重豊, 深田 代造, 宮 喜一, 国枝 克行, 杉山 保幸, 鷹尾 博司, 加藤 元久
    1997 年 30 巻 4 号 p. 838-845
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大腸癌術後異時性肝転移予測の可能性を検索する目的で, 治癒切除例で異時性肝転移33例 (転移群), 転移群と1: 2で度数マッチングさせた非転移66例 (対照群) を対象とし, p53, c-erb B-2, PCNA, CD44, nm23を免疫組織化学的に検討した.転移群は対照群に比べPCNA labeling index (LI) が有意に高く, CD44陽性例, nm23陰性例が有意に多かったが, p53, c-erbB-2は両群問に差を認めなかった.ROC曲線によるPCNALIの異時性肝転移判別閾値は60であった.転移群の無再発期間はCD44陽性例で有意に短縮し, nm23陰性例で短い傾向を示した.転移群の累積生存曲線はCD44陽性例で予後不良となる傾向を示した.各因子の免疫組織所見より算出した異時性肝転移確率は, 1項目ではPCNALI (0.23) が, 2項目ではPCNALI+nm23 (0.62) が最も高かった.免疫組織染色によるPCNALI, CD44, nm23の検索は大腸癌治癒切除後の異時性肝転移高危険群の判別に有用であると推察された.
  • 船橋 公彦, 辻田 和紀, 三木 敏嗣, 小池 淳一, 大谷 忠久, 永澤 康滋, 小林 一雄, 柳田 謙蔵, 吉雄 敏文
    1997 年 30 巻 4 号 p. 846-852
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大腸癌56例 (Dukes A: 9例, B: 15例, C: 18例, D: 14例) を対象に癌先進部における組織型とKi-67標識率 (以下, Ki-67LI) を検索し, 病理学的諸因子との関係について検討し, 以下の知見を得た.1) 組織多様性が33.9%に認められた.組織多様性に関係なく, 中心部に比べて先進部でKi-67LIが有意に高値であった.2) 先進部の組織型によってKi-67LIは異なり, 高分化腺癌に比べて分化度の低い癌や粘液産生癌で有意にKi-67LIが高値であった.3) リンパ節転移や脈管侵襲陽性例でKi-67LIが有意に高値であった.特に, 高分化腺癌のうち, Ki-67LI高値症例は, 低値症例に比べて有意にリンパ節転移や脈管侵襲が多かった.以上より癌先進部の組織型と細胞増殖動態の解析は, 大腸癌の悪性度を決定する有用な指標の1つと考えられた.
  • 塩見 尚礼, 谷 徹, 遠藤 善裕, 遠藤 郁, 白石 享, 星 寿和, 柿原 直樹, 小玉 正智
    1997 年 30 巻 4 号 p. 853-857
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    外科的侵襲時, グルタミン (Gln) は腸粘膜細胞などのエネルギー源になると言われている.しかし, 臨床例での侵襲時血漿Gln値の報告は少ない.今回, 消化器外科手術を受けた39例, 外科的侵襲を伴った長期間絶食の10例における血漿Gln値の変動を測定した.
    外科的侵襲により血漿Gln値の低下率は1日目に最大となり, 4日目には0に近づいた.手術侵襲下の完全静脈栄養管理 (TPN) は血漿Gln値の低下を抑制する傾向を示したが経口摂取以外に血漿Gln値は上昇しなかった.また2週間以上外科的侵襲が続くとTPN下でも血漿Gln値の低下が著しかった.
    以上より, 外科的侵襲によるGlnの消費が筋肉からの供給に追いつくには3日から4日かかるが, 2週間以上の絶食で筋肉内量も低下し, 供給が追いつかなくなることが示唆され, Gln供給の必要があると思われた.
  • 井戸田 望, 初瀬 一夫, 渡邊 覚文, 大渕 康弘, 青木 秀樹, 柿原 稔, 市倉 隆, 望月 英隆
    1997 年 30 巻 4 号 p. 858-862
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    右側Bochdalek孔ヘルニア合併のため特異な臨床病態を呈した成人の十二指腸潰瘍穿孔例を経験したので報告する.症例は68歳の女性, 突然の腹部疝痛にて入院.胸部X線で右側気胸, 右横隔膜挙上, 左横隔膜下遊離ガス像を認め穿孔性腹膜炎の診断で緊急開腹術を施行した.十二指腸球部前壁の潰瘍穿孔による腹膜炎で大網充填術を施行した.また右横隔膜外側後方にヘルニアを認めBochdalek孔ヘルニアの診断を得た.ヘルニア門は8×5cm, 嚢は認めなかった.脱出臓器は回腸末端40cmから右側横行結腸に至る小腸, 結腸で, 用手的に還納後, 横隔膜欠損孔を2層に結節縫合した.Bochdalek孔ヘルニアは新生時期に重篤な呼吸循環障害をきたして発見され, 新生児・小児期をほとんど無症状で過ごし成人になり発見される例はまれであり, またその多くは左側に発生する.成人右側のBochdalek孔ヘルニアは自験例を含め本邦報告110例中5例にしかすぎず, 非常にまれと考えられた.
  • 白石 哲, 川村 展弘, 山岡 透, 近藤 建, 佐藤 健
    1997 年 30 巻 4 号 p. 863-866
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    孤立性肝結核腫はまれな疾患で本邦では30例が報告されているにすぎない. 症例は, 48歳男子で主訴は発熱, 右季肋部痛であった.血液学的検査ではGOT 100IU/l, GPT 116IU/l, LDH 523IU/l, ALP 412IU/l, γ-GTP 187IL/l, LAP86IU/lと肝機能異常を認め, 腹部超音波検査, 腹部CT, 腹部血管造影検査で肝S5領域に腫瘤像を認めた. 鑑別診断のため超音波ガイド下にneedle biopsyを施行した. 病理学的に肝結核腫の診断を得たため, 6か月間の抗結核薬物療法 (INH, RFP, SMの3者併用) を施行した. 治療終了後の画像診断では腫瘤像は完全に消失し, 2年を経過した現在も再燃の徴候はない. 孤立性肝結核腫は外科的切除標本の組織学的検査ではじめて診断されることが多く, needle biopsyで診断され, 抗結核薬物療法のみで治療された例は非常に少ない. 本診断法が有用であった症例を報告した.
  • 打越 史洋, 伊藤 則幸, 松本 香織, 福本 泰明, 上池 渉
    1997 年 30 巻 4 号 p. 867-871
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    孤立性, 非寄生虫性肝嚢胞により閉塞性黄疸を来すことはまれで, 文献的に16例が報告されているに過ぎない.今回, 我々は閉塞性黄疸を来した孤立性肝嚢胞に対し腹腔鏡下dome resectionを行い, 良好な結果を得たので報告する.
    症例は75歳の男性で, 全身倦怠感を主訴に来院した.初診時, 黄疸および肝機能異常を認め, 諸検査にてS4, 5の径12cmの肝嚢胞による肝門部胆管圧迫が原因と診断した.治療は経皮経肝嚢胞ドレナージを行い, 減黄, 肝機能改善を得たのちに, 腹腔鏡下にdome resectionを行った.術後経過は良好で患者は術後7病日に退院した.腹腔鏡下dome resectionは低侵襲でかつ早期社会復帰が可能であり, エタノール注入療法に代わる第1選択の治療となると考えられた.
  • 中川 浩一, 八木 孝仁, 森谷 宜朋, 大江 新野, 橋本 雅明, 大月 均
    1997 年 30 巻 4 号 p. 872-876
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は13歳の男性. 右下腹部痛を主訴として来院. 大腸X線検査および大腸内視鏡検査にて盲腸に2'型の腫瘤を認め, 腹部CT, 超音波および67Gaシンチグラフィにて所属リンパ節腫大を認めた. 生検によりBurkittリンパ腫との診断にて右半結腸切除術 (D3+ α) を施行した. 組織学的にはstarry-sky appearanceを呈し, CD-10陽性, CD-21陰性でearly B cell由来と考えられた. southern blottingにてIgH, c-mycの再構成が認められた. 術後14日目よりadjuvant chemotherapyとしてmodified JALSG ALL 93 protocolにMTXにAra-C髄注を加え4コース施行し, 術後12か月経過した現在も再発なく健在である.
    本症は白血化, 中枢神経浸潤が高率で予後は不良であるが, 局所にとどまっている症例に関しては徹底的な (D3以上の) リンパ節郭清と化学療法の併用により長期生存が期待できる.
  • 岩田 辰吾, 安永 敏美, 高橋 玲, 山岡 義生
    1997 年 30 巻 4 号 p. 877-880
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は45歳の女性. 左鼠径部膨隆を主訴として来院した. 左鼠径ヘルニアの診断のもとに, 鼠径ヘルニア根治術を施行した. ヘルニア嚢に表面平滑な充実性腫瘤を認めた. 病理組織所見から子宮円靱帯原発の平滑筋芽細胞腫と診断した. 鼠径ヘルニアを初発症状として子宮円靱帯原発の平滑筋芽細胞腫は, 文献上報告がなく, 極めてまれであったので報告した.
  • 西脇 巨記, 片岡 誠, 桑原 義之, 川村 弘之, 三谷 眞己, 佐藤 篤司, 正岡 昭
    1997 年 30 巻 4 号 p. 881-885
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    アミロイドーシスはアミロイドが全身に沈着する代謝性疾患で消化管は好発臓器の1つである. アミロイドーシスにより緊急手術が施行されることはまれで報告例は自験例を含め18例である. 症例1は53歳の男性で慢性関節リウマチにて治療中, 穿孔性腹膜炎のため緊急手術を施行した. 症例2は72歳の男性で慢性関節リウマチにて治療中, イレウスのため緊急手術を施行した.
    アミロイドーシスは全身性疾患で心, 腎, 肝障害も合併しているため死亡率が高く, その手術および術後管理が重要である.
    また, 慢性関節リウマチの死因を検討した報告では消化性潰瘍は抗潰瘍剤の発達により激減したが, アミロイドーシスは現在その死因の第3位を占めており早急にその治療法の確立が必要である.
  • 胃癌におけるCD44変異体発現の検討
    山道 啓吾, 上原 芳彦, 大沢 常秀, 大草 世雄, 田中 完児, 中根 恭司, 日置 紘士郎, 喜多村 直実
    1997 年 30 巻 4 号 p. 886-890
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    接着分子CD44はalternative splicing機構により変異体を形成することが知られている. 最近, このCD44変異体の発現が癌の浸潤, 転移と深く関連するといわれている. われわれは癌の遺伝子診断の臨床応用として, variant exon 6を含むCD44変異体 (CD44v6) mRNAの発現を胃癌において検討し, 術前内視鏡生検材料の検索で術後の転移や再発を予測することが可能であるかを検討した. 胃癌73症例の手術標本のCD44v6 mRNA発現量はリンパ節転移および肝転移と有意に相関した. また, 再発例のCD44v6 mRNA発現量が増加し, 高発現群の予後は不良であった. 25症例の生検材料の検討ではCD44v6 mRNA発現は同症例の手術標本の発現とほぼ一致した. CD44v6 mRNAの発現は術前の生検材料でも十分, 定量可能であり, 胃癌の転移, 再発の危険性を予知する因子として術前の評価に利用することが可能であることが示唆された.
  • 中森 正二, 亀山 雅男, 今岡 真義, 安田 卓司, 甲 利幸, 平塚 正弘, 古河 洋, 大東 弘明, 石川 治, 相原 智彦, 中野 ...
    1997 年 30 巻 4 号 p. 891-896
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    大腸癌細胞の分子生物学的特性を利用し, 血液中やリンパ節内の微小癌病巣の検出が遺伝子レベルで可能であるか検討した. 血液中癌細胞の検出は, 末梢血および腫瘍部位からの流出静脈血中でのサイトケラチン19および20遺伝子発現を指標として行い, リンパ節内の微小癌病巣の検出は, パラフィン包埋材料を用い, 原発巣と同一のK-ras, p53遺伝子変異がリンパ節において認められるかを検討した. その結果, 22例中4例の大腸癌患者で血液中癌細胞の存在が認められた.サイトケラチン免疫染色による細胞診は, 全例陰性であった. また, 病理組織学的にn (-) と診断された109例の大腸癌中20例のリンパ節に原発巣と同一遺伝子変異が検出され, うち13例に再発が認められた. 以上より, 分子生物学的手法を用いることにより, 従来の方法では検出されなかった微小癌細胞が証明され, その臨床応用の可能性が示された.
  • 林 尚子, 江上 寛, 高野 定, 小川 道雄, 中森 正二, 今岡 真義, 中村 祐輔
    1997 年 30 巻 4 号 p. 897-900
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    Mutant-allele-specific amplification (MASA) 法により, 約正万個の正常細胞中に含まれる遣伝子変異をもつ1個の腫瘍細胞を簡便に検出することができる. 組織学的にリンパ節転移陰性と診断された大腸癌手術症例120例について, リンパ節に原発巣と同じ遺伝子変異が存在するか否かMASA法を用いて検討した. 原発巣にK-rasあるいはp53遺伝子の変異を認めたのは71例であり, 遣伝子診断でリンパ節転移陽性とされた37例中27例は術後5年以内に再発し, 転移陰性とされた34例は全例において再発はみられず, 遣伝子診断によるリンパ節転移と予後には高い相関が認められた. また, 膵癌の早期診断を目的とし本法を用い, 膵液中の変異K-ras遺伝子の検出を行ったところ, 膵癌の80%価(5例中4例) に膵液中から変異を検出できた. 本法を臨床応用することで, 正確な予後判定や癌の早期診断が可能になるものと思われる.
  • 高橋 正純, 山岡 博之, 市川 靖史, 渡会 伸治, 嶋田 紘, Martin A Cheever
    1997 年 30 巻 4 号 p. 901-905
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵癌・大腸癌患者において燃蛋白に対する免疫応答を検討した. 血清中の抗ras抗体陽性率は正常人の5% (2/40) に対し, 大腸癌で40% (51/150, p<0.01), 膵癌で80% (4/5, p<0.05) と高かった. 抗ras抗体の認識部位は燃蛋白の正常部, 変異部など多様でその73%はras蛋白のカルボキシル基側の正常部であった. 末梢血中のras蛋白関連ペプチドに対する特異的T細胞の検出率は正常人の50% (0/20) に対し, 大腸癌で24% (6/25), 膵癌で40% (6/15) と高かった (p<0.01). Ras蛋白を標的とした細胞障害性T細胞 (CTL) の誘導を試み, 膵癌3例中1例ではras蛋白のカルボキシル基側の正常部ペプチドに特異的なCD4陽性のCTL株が得られた. 以上より, 膵癌, 大腸癌でras蛋白に対する特異的な血清抗体による癌の存在診断の可能性およびras蛋白に対する特異的CTLによる癌治療の展望が期待された.
  • 平野 公通, 藤元 治朗, 山本 秀尚, 植木 孝浩, 王 孔志, 岡本 英三
    1997 年 30 巻 4 号 p. 906-909
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    HVJ-liposomeを用いてラット生体肝へE. coliβ-galactosidase (β-gal) geneを導入し遺伝子導入についての検討を行った. HVJ-liposomeにβ-gal geneを封入し, 経門脈群, 経門脈導入前部分肝切除を加えた2群に分け導入した. 導入後経時的に屠殺し, Xigal染色, RT-PCRにてβ-gal発現を検索した. 経門脈投与群においてβ-gal発現は, 導入3日後で31.9±11.5% (M±SD) で漸次減少し, 28日後では0%であったが, 導入前部分肝切除を加えた群では導入後28日でも約20%の発現を認めた. また, RT-PCRにてm-RNAの発現を確認した. HVJ-liposomeによる生体肝細胞への外来遺伝子導入は高率であり, 導入前部分肝切除の付加により発現期間を延長し得た. 本法は安全かつ高効率であり, 遺伝子導入によるmodel動物の作製, およびさまざまな疾患の遺伝子治療への応用が可能である.
  • 加治 正英, 米村 豊, 廣野 靖夫, 津川 浩一郎, 伏田 幸夫, 藤村 隆, 三輪 晃一, 宮崎 逸夫
    1997 年 30 巻 4 号 p. 910-914
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    標的mRNAに選択的に結合するDNAを用いて遺伝子発現をブロックする方法がアンチセンス法である.今回, 癌の進展に関与するc-met遺伝子に対して, 胃癌培養細胞における発現異常と, アンチセンスDNAによる培養細胞の増殖および浸潤抑制について検討した. c-met遺伝子の発現をNorthern blotにて解析したところ, c-met mRNAレベルはMKN-45>TMK-1>MKN-28の順に高かった.MKN-45細胞の増殖は10μMアンチセンスDNAの存在下で90%以上抑制された. マトリゲル中へのTMK-1細胞浸潤は, c-metアンチセンスDNA存在下で濃度依存性に低下した. 以上の結果から, c-metに対するアンチセンスDNAが胃癌の進展阻止のための有効な治療手段となる可能性も考えられた.
  • 野水 整, 渡辺 文明, 八巻 義雄, 土屋 敦雄, 阿部 力哉, 岩間 毅夫, 宇都宮 譲二, 馬場 正三, 宮木 美知子, 湯浅 保仁
    1997 年 30 巻 4 号 p. 915-919
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    遺伝性非ポリポーシス大腸癌 (HNPCC) の臨床的特徴のひとつに, 大腸多発癌や子宮体癌の重複の頻度が高いことがあげられる. 今回の検討では, 大腸多発癌の頻度22.1%, 大腸癌術後の直腸癌発生のリスク9.6%, 直腸癌術後の結腸癌発生のリスク27.7%, 子宮体癌の重複する頻度10.1%であった.したがって, HNPCCでは大腸全摘ないし大腸亜全摘や子宮の合併切除などの拡大手術が求められる. しかしこれらの拡大手術はQOLの低下をまねくことから, 適応は慎重になされなければならない. HNPCCの原因遺伝子であるhMSH2やhMLH1のgermline mutationを有する症例や生検材料でのRERが陽性の症例を適応とするべきであるが, 臨床的に対処するならば, Amsterdam Criteriaによって厳密に診断すべきである.
  • 柳生 俊夫, 吉川 宣輝, 三嶋 秀行, 西庄 勇, 辛 栄成, 蓮池 康徳, 小林 研二, 小林 哲郎
    1997 年 30 巻 4 号 p. 920-924
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    下部直腸sm癌と全大腸sm癌のリンパ節転移の危険因子を比較検討し, 下部直腸sm癌の局所切除術における追加腸切除の適応について考察した. 対象は国立大阪病院の大腸sm癌303例とそのうちの下部直腸sm癌71例で, リンパ節転移例は全大腸で22例, うち下部直腸で6例である. 全大腸sm癌の検討においてリンパ節転移と有意の関連を示した脈管侵襲 (p<0.01), sm浸潤度 (p<0.05), 先進部組織型 (p<0.05) の3因子ごとのリンパ節転移率は下部直腸sm癌でも非常に類似した値を示した. 下部直腸sm癌だけの症例数では有意とはならなかったが, これらの危険因子を用いた大腸sm癌に対する追加切除の基準は下部直腸sm癌でも有用であることが示された. また, 下部直腸sm癌の手術術式の適応においては, 歯状線近傍の腫瘍に対しても確実に腫瘍肛門側距離のとれる経肛門・腹式直腸切除-肛門吻合術が導入されたことにより自然肛門温存術式の適応が拡大された.
  • 岡本 春彦, 酒井 靖夫, 須田 武保, 畠山 勝義
    1997 年 30 巻 4 号 p. 925-929
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    直腸における局所治療法の意義と適応を考察した. リンパ節郭清を含む腸切除術が施行されたsm癌168病変でリンパ節転移は15病変8.9%に認められたが, 壁深達度smlaの病変および大きさ15mm未満の有茎・亜有茎性sm癌にリンパ節転移を認めなかった. 切除前壁深達度診断は有茎.亜有茎性病変で78.9%, 無茎性病変で88.5%正診可能で, 切除前にsm多量浸潤と診断された病変にsmla癌を認めなかった. sm癌に対する治療法の内訳では, 初回腸切除術が結腸で45.8%, 直腸で23.5%と直腸に少なく, 局所治療+追加腸切除術がおのおの27.1%, 41.2%, 局所治療のみがおのおの27.1%, 35.3%と直腸に多かった. 局所治療法はsm多量浸潤癌と診断される病変を除く腺腫・早期癌に対しては, 高率に根治的治療となりうるが, 直腸においては排便, 膀胱, 性機能温存の観点から診断的治療または姑息, 縮小手術としての意義も重要であると考えられた.
  • 沢田 寿仁, 早川 健, 土肥 健彦, 上野 正紀, 木ノ下 義宏, 堤 謙二, 松田 正道, 梶山 美明, 橋本 雅司, 宇田川 晴司, ...
    1997 年 30 巻 4 号 p. 930-935
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    直腸早期癌の内視鏡的-外科的治療法選択のポイントは根治性を維持しつつ排便, 排尿, 性機能温存をいかに行うかである.治療法選択には正確な壁深達度診断が最重要であり, より積極的な低侵襲, 縮小手術の選択には脈管侵襲の存在診断が不可欠である.リンパ節転移率は, sm1-4.8%, sm2, 3-19.3%であるが, 脈管侵襲の有無で分けると, sm2, 3は, 脈管侵襲 (-)-0-0%, 脈管侵襲 (+)-26.0%と有意差を認める.直腸切断術を避けるには, P, Pに近いRbの下部直腸の病変は積極的に内視鏡的切除, 局所切除を行い, 壁深達度, 脈管侵襲の有無を知り治療法を厳格, 正確に決定する必要がある.m, sm1はもちろん, sm2, 3であっても脈管侵襲 (-) であれば, リンパ節転移陽性の可能性は極めて低く, 多くは内視鏡的切除, 局所切除が許容でき, 直腸切断術が回避できる.追加, 拡大切除の郭清度は, リンパ節転移例が全例n1 (+) であり, 完全な自律神経機能温存を図る意味で, 上方D2, 側方D1の原則D1で良い.
  • 荒木 靖三, 磯本 浩晴, 辻 義明, 吉田 正, 松本 敦, 徳原 宏治, 石原 健次, 白水 和雄
    1997 年 30 巻 4 号 p. 936-940
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    早期直腸癌142例 (m癌;78例, sm癌;64例), 直腸結節性集簇病変78例を対象に術前深達度診断の面から超音波内視鏡の意義について検討した.さらに内視鏡的粘膜切除術と直腸鏡下手術の術式を比較した.深達度診断正診率はEUS (7.5MHz);74.5%に対して高周波EUS (20MHz); 87.9%と診断率は向上したが, 腫瘍高5mm以上の隆起性病変は腫瘍エコーのために診断困難だった.また術式別に腫瘍最大径をみると内視鏡的粘膜切除術は20mmに対して, 直腸鏡下手術は130mmと直腸鏡下手術は腫瘍の大きさや腫瘍の局在部位に影響を受けず, さらにsafety marginを十分に切除でき有用だった.
  • 日比 健志, 野垣 正樹, 伊藤 勝基, 高木 弘
    1997 年 30 巻 4 号 p. 941-943
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    低位直腸の進行癌以外の腫瘍に対する治療は, 機能の温存と治療の根治性を保つことが要求されている.我々は, 103例の直腸絨毛腺腫内癌に対し局所切除術を行い, その成績を検討した結果, 局所再発症例は7例あり, いずれも局所の再切除にて再々発は認めなかった.よって直腸絨毛腫瘍は, 可動性良好で術前検査で早期癌と考えられるものは, 大きさに関係なく局所切除を初回治療とすべきであると考える.しかし切除標本の病理検査でsm癌で, しかも脈管侵襲を認めるものに対しては, 機能温存の根治術を含めた後療法を考慮する必要があると考えている.いずれにせよ, 術後のフォローアップは重要であり, 定期的な内視鏡検査は勿論であるが, 直腸の場合は直腸指診も簡便かつ効率の良い検査法として特記すべきものと考えられる.
  • 畦倉 薫, 赤田 昌紀, 増田 勉, 上野 雅資, 太田 博俊, 高橋 孝, 久保 起与子, 柳沢 昭夫, 加藤 洋
    1997 年 30 巻 4 号 p. 944-949
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    下部直腸早期癌に対し経肛門的粘膜・粘膜下層切除術 (TMR) とwide (regional) mesorectal dissection (WM) 法直腸局所切除術と言う2段階の縮小切除術で至適手術の実施に努めてきた.TMR は術前診断SM' slightまでの癌を経肛門的に粘膜下全層まで切除し完全生検標本を得る.加藤の大腸sm癌深達度亜分類によるがm~sm1癌は治療終了, sm2癌で追加切除時でも直腸壁外の癒着は軽度で骨盤神経・肛門括約筋が確実に温存出来る.4例に施行し, 3例で術前深達度診断が正され, 適正手術がなされた.WR法直腸局所切除は癌の進展様式に合わせ小範囲 (safty marginは1cm前後) の直腸部分切除に広範囲な直腸間膜切除 (腫瘍より口側10cm以上をも) を加える新術式で経仙骨的に行う.かなりの根治性を有し, 適応はsm2癌.5例に施行し, n (+) の1例には開腹根治手術を追加.術後平均17か月で再発例はない.
  • 金平 永二, 疋島 一徳, 大村 健二, 春原 哲之, 亀水 忠, 渡辺 洋宇
    1997 年 30 巻 4 号 p. 950-954
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    27例の直腸癌に対し, 直径4cmの手術用直腸鏡を用いて行う経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー (TEM) を施行し, 臨床的検討を行った.対象は早期直腸癌20例と進行癌7例であり, 姑息的TEMも含まれていた.腫瘍の大きさは最大8.5cm, 平均3.1cmであった.一括切除となったものは92.6%であり, 断端腫瘍細胞陽性となったものは3.7% (進行癌1例のみ) であった.平均手術時間は81分であり, 術中術後に重篤な合併症は認めなかった.ほとんどの例で疼痛の訴えはなく, 術後第1病日から歩行が可能であった.低位前方切除術を3例に, 腹会陰式直腸切断術を1例に追加した.術後経過観察期間は最長3.1年, 平均1.1年であり, 早期癌症例は全例無再発である.進行癌に対して姑息的にTEMを行った例のうち, 1例で他病死を, 1例で局所再発を認めた.TEMにより早期直腸癌の一括切除や進行癌の姑息的切除が低侵襲で安全に行える.
  • 倉本 秋, 小林 薫, 味村 俊樹, 山崎 一樹, 橋本 政典, 酒井 滋, 上西 紀夫, 大原 毅
    1997 年 30 巻 4 号 p. 955-960
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    1985年1月から95年11月までに当科で治療された直腸表面型早期癌41例 (m癌20病変, sm癌21病変) の治療方法, 臨床病理学的特徴, 治療成績を検討した.m癌の内視鏡切除術の適応は直径20mm以下で, 断端陽性, 合併症は見られなかった.深達度smの表面型早期癌は浸潤傾向の強い癌で, 52.4%が脈管侵襲を伴っていた.Type Bのelevated type with depressionは, 全例が脈管侵襲陽性で, D2以上の郭清をともなった手術が必要で, 肛門縁から5cmの距離があれば仙骨腹仙骨式超低位直腸切除術のよい適応である.それ以外のRbの表面型早期癌では, 術前の深達度診断に合わせて, 直腸傍リンパ節のみの郭清を直視下に行う仙骨式楔状切除術, 環状切除術を最終治療手段として行うことによって, 再発なく肛門機能温存が可能と考えられた.下部直腸表面型早期癌に対しては, 内視鏡治療と通常郭清手術の問に, 直腸傍リンパ節の郭清を行う後方アプローチを位置づけることが妥当である.
  • 小林 英司, 宮田 道夫, 湯沢 浩之, 小原 則博, 兼松 隆之
    1997 年 30 巻 4 号 p. 961-962
    発行日: 1997年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
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