日本消化器外科学会雑誌
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31 巻, 5 号
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  • 岩附 昭広, 佐々木 巖, 神山 泰彦, 内藤 広郎, 舟山 裕士, 松野 正紀
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1051-1056
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    目的: 胃全摘後逆流性食道炎の発生機序に関して, trypsinおよび胆汁酸の食道上皮細胞機能に及ぼす影響を電気生理学的に検討した. 方法・成績: ラット食道粘膜を用いUssing chamber法にて食道上皮細胞機能を電気生理学的に検討した. 食道経上皮電気抵抗はtrypsin 10-4M投与にて抗与前と比べ有意な低下を, また食道経上皮電位および短絡電流量はtrypsin 10-3M投与にて有意な高値を示した. また, trypsin10-3M投与後にみられた短絡電流量の上昇はamiloride投与で有為に抑制された. 一方, 胆汁酸であるタウロコール酸ナトリウム投与後はいずれも有意な変化は認めなかった. 結論: 非酸性環境下においては, 膵酵素投与にて食道粘膜細胞における電気抵抗の低下とNaイオンを主とした電解質輸送能に変化がみられるが, 胆汁酸による影響は少ない. 胃全摘後の逆流性食道炎発生には胆汁に比べて膵液逆流の影響がより重要と考えられた.
  • 特に扁平上皮癌と腺癌の比較
    村上 信一, 野口 剛, 橋本 剛, 武野 慎祐, 平岡 善憲, 内田 雄三
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1057-1064
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    切除された食道胃接合部癌のうち扁平上皮癌15例と腺癌36例を臨床病理学的に比較検討した. 腫瘍の主な占居部位は扁平上皮癌ではEC7例 (46.7%) であり, 腺癌ではCE25例 (69.4%) であり, 腺癌の占居部位は扁平上皮癌のそれに比べて有意にCE領域に多かった (p<0.01). 扁平上皮癌の癌の食道側の距離は腺癌のそれに比べて有意に長かった (p<0.01). 左開胸・開腹症例の癌口側端から食道断端までの距離は開腹のみのそれよりも有意に長かった (p<0.001). リンパ節転移では扁平上皮癌と腺癌ともに主に下部縦隔から腹部リンパ節に転移を認めた. 扁平上皮癌の5年生存率は32.3%, 腺癌のそれは16.1%で予後不良であった. 癌の食道側の距離が食道裂孔を超える浸潤型の食道胃接合部癌に対しては, 組織型を問わず左開胸・開腹による下部食道切除と胃全摘を行い, 下部縦隔から腹腔内リンパ節を重点的にかつ合理的に郭清することが重要と思われた.
  • 竹内 賢, 渡辺 敦, 足立 尊仁, 加藤 元久, 佐治 重豊
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1065-1072
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    凍結融解処理肝組織 (FTHT) を皮下移植・感作することによりある種の肝細胞増殖因子 (HGF) が誘導されるが, その作用をラット30%肝切除後の肝再生能と四塩化炭素肝障害に対する保護作用から推察した. その結果, 1) 肝再生能は30%肝切除にFTHT感作を併用すると, DNA合成能, 細胞増殖能, 肝湿重量は有意の高値を示し高い肝再生能が示唆された. 2) 四塩化炭素による肝障害時にFTHT感作を併用すると肝逸脱酵素の増加が有意に抑制され, 直接的な肝保護作用の存在が示唆された. 3) 血清hepatocyte growth factor値は, 30%肝切除群 (3ng/ml前後) に比べFTHT感作群では14日目に20ng/ml前後と有意の高値を示した. 以上の結果, FTHT前感作は肝切除後の肝再生を有意に促進し, 薬物学的肝障害に対し保護作用を示す可能性が示唆された.
  • 北薗 正樹, 田辺 元, 浜之上 雅博, 上野 信一, 愛甲 孝
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1073-1077
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    開胸開腹下の肝切除における術後合併症の発生状況と, 合併症発生に関与する因子についてretrospectiveに検討した. 対象は過去5年間の肝細胞癌肝切除114例中, 右葉系の切除を行った開腹例45例, 開胸腹例 (右開胸腹連続切開) 32例である. 両群の年齢, 臨床病期, 腫瘍径に差はなかったが, 切除部位は開胸腹群で上区が多かった (p<0.01). 術後合併症の発生率, 内容も両群間に差はなかった. 開胸腹群の術後合併症発生状況をA群 (合併症なしを含む;n=24), B群 (ビリルビン値10mg/dl以上またはDIC発生;n=8) とし, 比較すると, B群は, A群に比べ年齢が高く (p<0.01), 腫瘍が肝静脈根部と近接する症例が多く (p<0.01), 肝門部阻血未施行例が多かった (p<0.05). 開胸腹下肝切除においては, 高齢者や肝静脈根部腫瘍近接症例では術後重症合併症をきたしやすく, 術中肝静脈よりの出血コントロールが重要である.
  • 別府 透, 小川 道雄, 大原 千年, 片渕 茂, 増田 吉弘, 工藤 俊介, 土居 浩一, 松田 貞士, 山中 剛, 佐野 収
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1078-1083
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌を対象として, magnetic resonance imaging (MRI) による肝動脈化学塞栓療法 (TACE) の治療効果判定を行った. 治療効果良好例に特徴的な単純MRI所見は, T1強調画像における信号強度の増加とT2強調画像における低信号腫瘍の出現であった. 各種画像診断から算出した腫瘍壊死率はdynamic CT86%, dynamic MRI66%, DSA64%であった. Dynamic MRIはリピオドールの集積部位においても組織学的な腫瘍壊死効果を正確に反映していた. Dynamic MRIから算出した腫瘍壊死率と腫瘍縮小率との間には有意な正の相関を認めた (r=0.47, p<0.05). 今回の検討から, dynamic MRIによりTACEの治療効果判定が正確かつ早期に可能であることが明らかとなった.
  • SIRSに準じた簡便な指標
    畝村 泰樹, 藤岡 秀一, 田辺 義明, 鈴木 旦麿, 三澤 健之, 藤田 哲二, 小林 進, 山崎 洋次
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1084-1089
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    膵頭十二指腸切除周術期に投与される予防的投与抗菌薬 (予防薬) の終了・変更の判定のために, SIRSの診断基準に準じた術後病状判別法を用い検討した. 過去5年間に施行された膵頭十二指腸切除38例の術後感染性合併症は42%に発症し, うち予防薬無効の早期感染例は16%であった. 起炎菌は投与薬剤に耐性を有し無効であった. 第3, 4, 5病日での判別法陽性例は32, 18, 23%であり, うち25, 60, 63%に感染を発症した. 第3, 4病日の判別法陽性例では手術侵襲や無気肺を陽性原因とするものが多かった. 第5病日の判別陰性例では96%に早期の感染を来さず, 第5病日での正診率は0.89であった. 以上より第5病日に判別法陰性であれば早期感染性合併症は予防できたと考えられる. 予防薬投与はこの時点で終了すべきであり, 陽性であれば感染の発症を想定し治療薬に変更することが妥当である.
  • 和田 徳昭, 長谷川 博俊, 藤崎 真人, 高橋 孝行, 平畑 忍, 前田 大, 滝沢 健次郎, 渡辺 昌也, 関根 和彦
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1090-1094
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    1993年1月より1996年12月の4年間に経験した大腸癌患者のうち便潜血反応陽性により発見された33例と有症状により発見された206例を臨床病理学的に検討した. 男女比, 平均年齢, 腫瘍占居部位に差はなかった. 治療における根治性は便潜血群が高く, 根治度Aは便潜血群97.0%, 有症状群72.4%と有意な差を認めた. 組織学的検討では組織型に差はなかったが, 壁深達度がm, sm, n (-), Dukes Aの割合が便潜血群で有意に高かった. また, 腫瘍占居部位別では右側, 左側結腸で便潜血群が有意にm, sm, Dukes Aの割合が高く, 有症状群は逆にDukes Aはなく非常に進行した癌が多かった. 直腸ではこの傾向は認めなかった. 以上により便潜血反応により発見された大腸癌は有症状群に比べ進行度も低く良好な予後が期待され, また症状の出にくい深部大腸癌の早期発見に便潜血反応は特に有用であると思われた.
  • 日野 恭徳, 橋本 肇, 黒岩 厚二郎, 高橋 忠雄
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1095-1101
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    最近10年間の90歳代大腸進行癌手術症例20例 (手術回数21回) について臨床的, 病理学的特徴を75-79歳症例103例と比較検討した.
    さらにそれ以前12年間の90歳代手術例17例と比較した. 90歳代群では, 1) 臨床症状は顕出血と腸閉塞がおのおの38%ともっとも多く, 緊急手術の頻度は前期47%, 今期33%と両期とも対照群より有意に高率であった. 2) 切除率95%, 治癒切除率90%は対照群と有意差がなかった. 3) 手術死亡率4, 8%(前期24%) は対照群 (3.9%) と有意差なく, 両期とも手術死亡例は全例緊急手術例であった. 4) 術前高血圧, 糖尿病, 心電図異常の併存は対照群と有意差なく, 術後合併症ではせん妄が29%(p<0.01) に認められた. 5) Dukes分類ではB群が高率であった (p<0.05). 以上より90歳以上大腸進行癌は積極的な待機的治癒切除手術の対象であることを強調した.
  • 島田 謙, 高橋 毅, 中山 伸一, 吉田 宗紀, 比企 能樹, 柿田 章
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1102-1106
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は68歳の男性で, 腹部膨満感を主訴に来院した. 検査所見では高度の貧血と便潜血陽性を認め, 上部消化管造影および内視鏡検査にて十二指腸第2部に壁外発育の著しい巨大な腫瘍を認めた. 十二指腸癌の診断で手術を施行した, 開腹所見では, 腫瘍は巨大で肝下面に真接浸潤しており膵頭十二指腸切除術および肝部分切除術を施行した. 病理組織学的には腫瘍の壁外性発育が著明で, 胆嚢漿膜下層および肝床部, 胃幽門部漿膜下層へ直接浸潤していた. HCGの免疫組織学的染色では腫瘍部は異型の強い多核の腫瘍性巨細胞を形成するsyncytiotrophoblastが認められ, 悪性絨毛上皮腫と診断された.
    消化管原発悪性絨毛上皮腫, なかでも十二指腸に原発する悪性絨毛上皮腫は極めてまれな疾患である. 以上, 十二指腸原発悪性絨毛上皮腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 中里 雄一, 羽生 信義, 成瀬 勝, 大平 洋一, 鳥海 弥寿雄, 中山 一彦, 小野 雅史, 宮川 朗, 稲垣 芳則, 青木 照明
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1107-1111
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は85歳の女性. 嘔吐を主訴に近医を受診し, 幽門狭窄の診断で紹介入院となった. 貧血 (-), 黄疸 (-), 発熱 (-), 上腹部膨満および右季肋部に圧痛あり. 胃内視鏡検査で黒緑色結石により幽門が閉塞していた. 腹部ECHOでは胆嚢壁の肥厚と, 肝内胆管から胆嚢内のpneumobiliaを認めた. 腹部CTでは十二指腸球部内に4cm大球形結石像を認めた. 上部消化管造影X線検査では胆嚢十二指腸瘻と球部内の4cm大の陰影欠損を認めた. 以上より球部に結石が嵌頓したBouveret's syndromeの診断で手術を施行した. 手術所見は萎縮胆嚢と十二指腸球部が瘻孔を形成し, 4cm大の結石を球部に認めた. 瘻孔は8mm大で瘻孔を長軸方向に延長して結石を摘出し, Heineke-Mikuliz形式で縫合閉鎖した. 胆石イレウスで十二指腸球部に結石が嵌頓して発症するBouveret's syndromeの本邦報告例は, 過去21年間に自験例を含め12例であった.
  • 倉地 清隆, 長嶋 孝昌, 水上 泰延, 生田 宏次, 近松 英二, 大平 周作
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1112-1116
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は67歳の男性. 肝機能障害を指摘され, 精査目的で入院となった. 入院後にC型肝硬変と診断し, 腹部超音波検査で肝右葉後区域に直径20mm, 類円形で内部はiso-hypoechoicな腫瘤を認めた. 腹部単純CTでは低吸収域として描出され, 造影CTでは不整形で内部均一に造影された. 腹腔動脈造影では動脈相より肝右葉後上区域末梢に腫瘍濃染像を認めた. 画像と臨床経過から肝細胞癌が疑われたが, 針生検では胆管細胞癌と診断された. 肝S6部分切除術を施行し, 腫瘍は径15×20mmの乳白色調結節性病変であり, 病理組織学的には中分化型管状腺癌であった. 非腫瘍部は乙型肝硬変であった. 術後16か月経過した現在, 再発なく健在である.
    一般に胆管細胞癌は典型的な症状や特異的な徴候に乏しく, 早期に診断することは極めて困難である. 末梢型細小胆管細胞癌の本邦報告例は16例であり, 特にC型肝硬変のみに合併した報告例は本例が初例である.
  • 待木 雄一, 重田 英隆, 高山 哲夫, 酒井 雄三, 近藤 哲
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1117-1121
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    胆管内発育型胆管細胞癌の報告は非常にまれであり, その1切除例を経験したので報告する. 症例は65歳女性. 閉塞性黄疸にて来院し, 経皮経肝胆道ドレナージ術を施行した.胆管像では乳頭状の陰影欠損によって肝門部胆管は閉塞し, 腹部CTでは右尾状葉から右葉後区域にかけて径30mmの腫瘍を認めた. 経皮経肝胆道鏡検査では右肝管から総肝管まで伸びる乳頭状腫瘍を認め, 生検にて腺癌の診断を得た. 経皮経肝門脈造影では門脈右枝は左右分岐部直後で閉塞していた. 術前の癌進展度診断により, 右尾状葉から発生した胆管内発育型胆管細胞癌と診断し, 肝右葉切除, 尾状葉全切除, 胆管切除, 下大静脈合併切除を施行した.
    本疾患の鑑別診断には経皮経肝胆道鏡検査による胆管内腫瘍の診断が有用であった. また, 手術術式決定の上では胆管内腫瘍と主腫瘍の存在, 部位, 進展範囲, 進展様式の診断が重要であった.
  • 片岡 祐一, 宮本 英雄, 高野 容幸, 豊川 貴司, 伊藤 徹, 小沼 博, 横田 等, 西村 博行
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1122-1125
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の男性で, 膵頭部腫瘍に対して膵頭十二指腸切除術を施行した. 術後52日目に血小板数とヘモグロビン濃度の急激な減少を認めた. その翌日に突然, 痙攣が出現し昏睡状態に陥り, 左片麻痺を認めた. また発熱もみられるようになった. 最初, 脳梗塞と敗血症によるDICの診断で治療を進めていったが改善傾向はなかった. 血小板減少, 破砕赤血球を認める溶血性貧血, 原因不明の中枢神経症状, および発熱より血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP) と診断した. 新鮮凍結血漿による血漿交換を行ったところ, 臨床症状は劇的に改善し始め, 計5回の血漿交換により完全寛解に至った. 本例は術後発症したTTPで原因は不明である. 退院後6か月間, 再発は認められていない. TTPに対しては, 正確な診断と早期の治療開始が救命に不可欠である.
  • 山中 秀高, 末永 昌宏, 国場 良和, 久留宮 隆, 草川 雅之, 初野 剛, 津田 真吾
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1126-1130
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は52歳の男性. 蛋白尿にて入院. 入院時尿中アルブミン値5.92g/日と高値で, 血清アルブミン値1.9g/dlと低値でネフローゼ症候群と診断された. 腹部超音波およびCT検査にて膵腫瘍を認め, 悪性が疑われた. また便潜血陽性のため, 注腸造影X線検査および大腸内視鏡検査を施行し, S状結腸癌を認めた. 高度のネフローゼ症候群の合併のため膵頭十二指腸切除術とS状結腸切除術の併施は手術侵襲が大きく, 術後合併症をきたす危険が高いと考え, 尾側膵亜全摘とS状結腸切除術を併施し術中左腎生検を行った. 組織学的には膵はacinar cell carcinomaと診断され, 結腸癌は深達度sm, n (-) の高分化腺癌であった. 術後2年目の現在, 再発はないが, ネフローゼ症候群は治療中である. ネフローゼ症候群と悪性腫瘍の合併は良く知られているが, 膵癌や重複癌との合併例は今までに報告がなくまれな症例と思われた.
  • 中里 雄一, 稲垣 芳則, 篠田 知太朗, 恩田 啓二, 足利 建, 藤崎 順子, 池上 雅博, 青木 照明
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1131-1135
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    遺伝性非ポリポーシス大腸癌 (以下, HNPCCと略記) は, 患者のほとんどが大腸癌に限られるLynch症候群 (以下, Lynchと略記) Iと, 大腸以外の他臓器にも悪性腫瘍を併発するLynch IIに亜分類される. 今回HNPCC術後に発生した原発性小腸癌 (Lynch II) の1例を経験したので報告する. 症例は53歳, 男性 (長男). 既往歴: 1990年 (45歳時) に上行結腸の多発癌 (低分化腺癌ss, 中分化腺癌ss) で右半結腸切除術, 1996年 (52歳時) に直腸癌 (m) を内視鏡的切除術. 家族歴: 母方祖父および母が直腸癌 (死亡), 三男が小腸癌と大腸癌 (生存), 五男が肝臓癌 (死亡). 現病歴: 健診で便潜血陽性と貧血を指摘され受診. 小腸造影X線検査でTreitz靱帯の肛門側に隆起性病変が疑われ, 小腸鏡で確認し, 生検で高分化型腺癌と判明した. 空腸部分切除術を施行し, 術後17日目に軽快退院となった. Lynch IIで小腸癌の報告はなく自験例が最初の報告例であった.
  • 国枝 克行, 河合 雅彦, 佐野 文, 渡辺 敦, 竹村 茂之, 佐治 重豊, 後藤 裕夫, 下川 邦泰
    1998 年 31 巻 5 号 p. 1136-1140
    発行日: 1998年
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    直腸癌を合併した成人腸回転異常症の2例を経験した.症例1は57歳の女性で, 肛門痛と出血を主訴として来院.直腸鏡検査にて2型の直腸癌と診断され, 注腸造影で腸回転異常が認められた.開腹時, 回盲部, 上行結腸は正中部に存在しており, 小腸は右側に大腸は左側に偏位しており無回転症と診断した.直腸癌に対してはD2郭清を伴う腹会陰式直腸切断術を施行した.腫瘍は6.2×3.8cm大でstage Iの腺扁平上皮癌であった.症例2は62歳の女性で, 血便を主訴として来院.直腸Ra部に腫瘍が認められ, 注腸造影にて腸回転異常が疑われた.開腹時, 症例1と同様の所見が認められ無回転症と診断した.直腸癌に対してD3郭清を伴う低位前方切除術を施行した.腫瘍は52×47mm大の2型の直腸癌でstage IIIaの中分化型腺癌であった.2例とも腸回転異常に対しては, 予防的虫垂切除術のみを施行した.腸回転異常症は併存病変の診断治療を困難にする可能性があり, 本症を念頭に置く必要があると考えられた.
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