日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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35 巻, 1 号
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  • 島田 謙, 高橋 毅, 吉田 宗紀, 柿田 章
    2002 年 35 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    目的:膵切除術後にsecretin負荷magnetic resonance cholangiopancreatography (S/MRCP) を行うと再建挙上腸管内の信号強度増強が観察される. 本研究ではS/MRCPの信号強度増強の因子と, 膵空腸吻合部開存や残膵の膵液分泌能の評価法としてのS/MRCPの意義について検討した.方法と結果: 膵切除患者44症例を対象に, 術後の膵液基礎分泌量とsecretin負荷後の分泌量を測定した. 膵液基礎分泌量は1.2±0.7ml/10minで, secretin負荷により増加, 10分後には9.0±6.6ml/10min (750%) と最大となった. また, 術前, 術後早期 (膵管チューブ留置時期), 術後後期 (膵管チューブ抜去後) にS/MRCPとpancreatic function diagnostant (PFD) 検査を行った. その結果, 術後早期ではS/MRCP上の信号強度増強は2例にみられたのに対して, 術後後期では40例 (95%) で信号強度増強が観察された. また, 術後後期の腸管内信号強度増強例のPFD値は非増強例と比べて有意に高値であると同時に, PFD値とsecretin負荷後の積算膵液分泌量には正の相関 (r=0.820) がみられた.考察: 膵切除後のS/MRCPにおける挙上腸管内信号強度増強の主要因子は膵液であり, 信号強度増強は膵空腸吻合部の開存を示す所見である. また, S/MRCPによる残膵膵液分泌能の客観的評価の可能性が示唆された.
  • 冨木 裕一, 鎌野 俊紀, 国井 康弘, 岡田 豪, 笠巻 伸二, 根上 直樹, 折田 創, 坂本 修一, 坂本 一博, 鶴丸 昌彦
    2002 年 35 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    目的:大腸癌の卵巣転移の危険因子を検討し, 予防的卵巣切除術の意義について考察した. 対象と方法: 20年間に切除した女性大腸癌552例を対象とし, 卵巣転移の特徴, 卵巣切除の理由, 多変量解析による卵巣転移の危険因子および予後について検討した.結果:再発も含めた卵巣転移は26例 (4.7%) であった. 卵巣の形態異常が認められた38例中14例 (36.8%) に転移を認めた. 片側卵巣に転移を疑わせる所見がみられたために, 形態異常がみられない対側卵巣の切除を施行した1例 (8.3%) に転移を認めた. ロジスティック回帰分析による多変量解析により, 大腸癌の卵巣転移の危険因子は, 年齢 (p<0.0001), 卵巣の形態異常 (p=0.0164), 深達度 (se, a2, si, ai: p=0.0366) および腹膜転移の有無 (p=0.0004) で, それぞれのオッズ比は年齢0.9063, 形態異常4.5499, 深達度3.1641, 腹膜転移8.1080であった. 全卵巣転移例の5年生存率は29.1%であったが, 卵巣のみの転移例では67.5%であった. 遠隔転移を伴う例に5年生存は1例もなかった.考察:卵巣以外に腹膜転移などの遠隔転移を伴う例では, 卵巣切除はpalliativeにならざるをえないと考えられた. 一方, 遠隔転移がなく, 卵巣に形態異常がみられない場合, 卵巣転移の可能性は低く, 予防的卵巣切除の意義は乏しいと思われた.
  • 鈴木 正徳, 小野川 徹, 海野 倫明, 遠藤 公人, 片寄 友, 竹内 丙午, 及川 昌也, 近藤 典子, 松野 正紀
    2002 年 35 巻 1 号 p. 18-23
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    目的:用時調整が原則である液状フィブリングルー製剤において, 使用前に予め溶解して使用する事前調整が可能か否かについて検討した.方法: アベンティス・ファーマ社製Beriplast®でA液およびB液を作製し, A液, B液の経時的粘度測定, ブタ皮膚切片法を用いた抗張力測定, 調剤後のフィブリノゲン活性, トロンビン活性と第XIII因子の力価試験, およびA液, B液の経時的細菌繁殖試験を, 室温時 (20~25℃), 冷所保管時 (6℃) および37℃の3条件下において実施した.結果:(1) 抗張力: 10日間, いずれもの条件下においても抗張力の低下は認められなかった.(2) 粘度: 各種温度下でのA液の粘度は溶解後3日まで著変なし. B液は溶解直後から10日後まで不変.(3) 各種成分の力価: フィブリノゲン活性および第XIII因子活性の経時的変化は僅かであったが, トロンビン活性はすべての試料で3日までに48.9~63%に減少し, その後も次第に活性は低下した.(4) 無菌試験: A液, B液の調整直後, および10日後に検討では無菌であった. 結論:生体接着剤としての効果の面からBeriplast®の事前調整は十分可能である.
  • 辻 孝, 澤井 照光, 林 洋子, 山田 義久, 松本 博文, 宮崎 拓郎, 稲村 幸雄, 長嵜 寿矢, 中越 享, 綾部 公懿
    2002 年 35 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    はじめに:手術後の肺塞栓症 (pulmonary embolism: 以下, PE) は致死率の高い重大な合併症であり, 塞栓子の多くは深部静脈血栓症 (deep vein thrombosis: 以下, DVT) に由来する. 本邦では術後の発生率が低いために, 予防法に関しても広く普及しているとは言い難い. 我々は独自のリスクスコアを用いてDVT・PEの術前リスク評価を行うとともに, 1998年12月より全手術症例に対してintermittentpneumatic compression (以下, IPC) による予防を行っている.方法:今回, IPC導入以前の1997年8月~1998年11月までの全身麻酔下手術症例109例とIPC導入後の1998年12月~2001年3月までの216例を対象としてDVT・PE発生率を比較した.結果:IPC非使用群では4例にDVT・PEの発生を認めたが (3.7%), IPC使用群216例では1例のみにPEの合併を認めた (0.5%, p=0.045). ロジスチック解析ではIPC使用によりDVT・PEのリスクが10分の1に減少した. IPC使用による副損傷は経験していない. 術前リスクスコアが平均値もしくはそれ以下の2例でもDVT・PEの発生を認めており, 発症の予測は困難である.考察:IPCは簡便で有用な周術期DVT・PE予防措置であり, 全手術症例に対して施行する必要があると考える.
  • 赤池 英憲, 武藤 俊治, 宮坂 芳明, 羽田 真朗, 芦澤 一喜
    2002 年 35 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    カバー付き食道ステントを用いて保存的に治癒しえた特発性食道破裂の1例を経験したので報告する.
    症例は45歳の男性. 平成12年2月6日夜, 飲酒後に嘔吐・吐血. その直後より左胸背部痛が出現したため救急当番病院受診. バイタルサインは落ち着いていたため入院し経過をみられた. 翌日呼吸苦出現, 精査の結果, 特発性食道破裂と診断され当院転院. 経皮的なドレナージが有効と予想されたため保存的に経過をみることとした. 全身状態が軽快するのを待ち2月9日カバー付き食道ステントを挿入した. その後, 全身状態は劇的に改善しステント挿入後14日目に食事開始となり, 入院76日で退院となった.
    カバー付き食道ステントは, 本来消化器系の悪性腫瘍による狭窄の改善等に用いられる器具であるが, 本症例ではこれを用い全身状態の劇的な改善と絶食期間の大幅な短縮に成功した.
  • 沖元 達也, 八幡 浩, 杉野 圭三, 滝口 透, 江本 健太郎, 篠崎 勝則, 丹治 英裕, 片岡 健, 嶋本 文雄, 浅原 利正
    2002 年 35 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    Parathyroid hormone related protein (PTHrP) およびG-CSF産生が直接癌細胞から証明された高Ca血症, 白血球増多症を呈した食道扁平上皮癌の1例を経験した. 症例は72歳の男性.UtからMtにかけ長径約6cmの2型の腫瘍を認めた. 術前検査ではWBC 12, 100/mm3と白血球増多を認めたが, イオン化カルシウムは1.21mmol/lと正常範囲内であった.食道亜全摘, リンパ節郭清, 胃管による胸骨後再建を行った. 術後WBCは一時正常化したが, 高Ca血症の出現と同時に再上昇した.血中PTHrPが306pmol/lと高値であったため大量輸液, フロセミド, エルシトニン, ビスフォスフォネート投与を行ったが, 術後88日目に死亡した.患者腫瘍の培養細胞上清よりPTHrPの産生が認められ, 免疫染色によりPTHrPおよびG-CSFが陽性に認められた.食道扁平上皮癌において直接癌細胞からPTHrP, G-CSFの産生が証明されたのは調べえた限り本症例が初めてであった.
  • 伊藤 博, 坂東 悦郎, 川村 泰一, 伊井 徹, 竹川 茂, 桐山 正人, 道場 昭太郎, 小島 靖彦
    2002 年 35 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    患者は50歳の女性で, 1996年9月 (47歳時) に3型進行胃癌にてD2郭清を伴う幽門側胃切除術を受けた.その病理組織所見は中分化型管状腺癌 (tub2), SE, INFγ, ly1, v0, N0で根治度Bであった. 1998年8月, 両側卵巣転移が出現し両側卵巣摘出術が施行された. 1999年10月頃より左季肋部痛が出現し, 腹部超音波とCT検査にて径5.0cmの充実性腫瘍が脾下極に認められた. 腫瘍マーカーはCA72-4が高値を示し, また注腸造影検査で結腸に陥凹性病変とその口側に全周性の壁の不整と硬化を伴う狭窄像を認めた. これらの所見より, 結腸浸潤を伴う胃癌の脾転移と診断し, 同年12月に開腹術を施行した.術中所見では, 結腸・横隔膜に浸潤する5cm大の腫瘍を脾下極に認めたため, 結腸と横隔膜合併脾臓摘出術を施行した. 病理組織学的には原発巣の組織像と類似しており, 胃癌からの脾転移と診断した. 術後13か月を経過し再発の徴候を認めず生存中である.
  • 高島 健, 川本 雅樹, 奥 雅志, 平田 公一
    2002 年 35 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    症例は8歳の男児. 腹痛, 嘔気を主訴に当院を受診した. 理学所見などから急性虫垂炎と診断した.緊急開腹し, 虫垂切除術を施行した. 術後5日目に40の発熱を認めたが, 創部皮下膿瘍の排膿により解熱した. しかし術後8日目から再び39℃台の弛張熱が出現した. 術後13日目の腹部CTで肝右葉S6-7に単発性肝膿瘍を認め, 経皮経肝的膿瘍ドレナージを施行した. 灰白色の膿汁が約300ml排出された. 膿瘍腔は次第に縮小し, 術後27日目にドレナージチューブを抜去した. その後も約2週間にわたり発熱が続いたが, 術後46日目に軽快退院した. 肝膿瘍穿刺内容の細菌培養検査でγ-streptococcussp.(以下, γレンサ球菌と略記) が検出された. 小児虫垂炎術後に発症した肝膿瘍の1例を報告した.虫垂炎手術後に高度炎症所見が持続する場合には, まれではあるが肝膿瘍も考慮すべき合併症のひとつであると思われた.
  • 今井 寿, 足立 泰, 太田 博彰, 佐治 重豊
    2002 年 35 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    73歳の女性が上腹部痛で来院し, 精査結果, S状結腸癌と血清CEAの異常高値 (19.5ng/ml) および腹部超音波検査で肝右葉に径10cm大の嚢胞を指摘され, 1999年4月30日, 結腸切除術を施行された.病理診断は壁深達度seの中分化型腺癌でリンパ節転移は陰性であった.術後低下した血清CEAが再上昇し, CTで肝嚢胞頭側の腫瘍と, それによる嚢胞の圧排変形が見られた.試験穿刺した結果, 内容液CEA値は38, 900ng/mlで, 腫瘍生検で中分化腺癌が確認され, 2000年3月25日に肝右葉切除を施行した.病理組織学的に肝割面でS8領域に6×5cm大の腫瘍が肝胞を圧排して存在していたが, 嚢胞壁や内部への癌浸潤はみられなかった.術後血清CEA値は漸次低下し, 術後6か月目の現在, 再発徴候なく元気に生存中である.肝嚢胞内容液のCEA異常高値と肝転移との関連で興味ある所見と思われ, 若干の考察を加えた.
  • 丸田 智章, 大竹 雅広, 末広 敬祐, 吉田 奎介
    2002 年 35 巻 1 号 p. 54-57
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    総胆管結石を伴った胆嚢低形成の1症例を経験した. 症例は62歳の女性で, 近医で肝機能異常を指摘され, 総胆管結石と診断された. 手術を希望し当科へ紹介された. 当科受診時の肝機能, CA19-9とも正常範囲であった.腹痛などの症状もなかった.Drip infusion cholangiography (以下, DICと略記) で総胆管は20mmと拡張し, 1cm大の総胆管結石を1個認めた. 胆嚢は描出不良だった. CTで胆嚢は描出されず, 他に異常はなかった. DIC-CTの3次元構築で総胆管に胆嚢管と思われる瘤があり, 萎縮胆嚢と考えられた. 以上より, 萎縮性胆嚢炎, 総胆管結石として手術した. 開腹所見で腹腔内に癒着などの炎症所見はなく, 総胆管に小突起があり, 胆嚢低形成と診断した. これを切除, 総胆管切石術を施行した. 胆嚢欠損, 胆嚢低形成は比較的まれな胆道奇形であり, 術前画像診断で胆嚢の存在が不明瞭な場合, 本症も考慮に入れる必要があると考えられた.
  • 谷口 史洋, 相川 一郎, 松田 哲朗, 津田 知宏
    2002 年 35 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    膵頭十二指腸切除後の膵液瘻はいまだ治療に難渋する合併症である.今回, 我々は難治性膵液瘻に対して非観血的に内瘻化し良好な結果が得られたので報告する.症例は73歳の女性, 胆管癌の診断で, 幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行した.術後1週目に膵空腸吻合部より膵液瘻を生じたが, 自然治癒し退院した.しかし, 退院後2か月目に膵液瘻が再燃し, 再入院となった.瘻孔造影では, しばらくは空腸が造影されず, 再手術も考慮したが, 空腸への膵液流出路が確保できたので, 局所麻酔下に瘻孔を通してendoprosthesisを膵管と空腸を橋渡しする形で留置し内瘻化した.
    経過は良好で内瘻化後より4週目に退院し, 1年5か月後の現在, 元気に社会復帰している.
  • 安藤 拓也, 榊原 堅式, 辻 秀樹, 西脇 巨記
    2002 年 35 巻 1 号 p. 63-67
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    症例は52歳の男性.1年前より膵仮性胞を指摘されていた.1999年7月, 下血にて当院入院.大腸内視鏡では脾彎曲部に凝血塊を認めたが, 出血源は不明であった.腹部CTでは膵尾部に径約4cmの胞を認め, 内部にガス像がみられた.胞はUSではモザイク様であった.ERCPでは膵管の不整狭窄像と膵管末梢部で胞への造影剤の漏出を認めた.血管造影で脾動脈に動脈瘤を認めた.以上より, 膵仮性胞内出血が横行結腸に穿通したことによる下血と診断し, 8月2日膵体尾部切除, 脾, 横行結腸合併切除術を施行した.病理検査では胞と横行結腸に瘻孔を認め, 脾動脈は胞内に破裂し仮性動脈瘤を形成していた.術後経過は良好であった.膵仮性胞が横行結腸に穿通した例は本邦報告例は自験例を含めて4例のみであり, 極めてまれな1例を経験したので報告する.
  • 勅使河原 修, 井上 総一郎, 山下 克也, 中山 茂樹, 杉本 博行, 竹田 伸, 金子 哲也, 原田 明生, 中尾 昭公
    2002 年 35 巻 1 号 p. 68-72
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    広義の膵体尾部欠損症に腫瘤形成性膵炎を合併した1例を経験したので報告する.症例は70歳の男性.上腹部痛を主訴に近医を受診し膵頭部腫瘍を指摘され, 加療目的で当科入院となった.腹部超音波検査・腹部CTで膵頭部の腫瘍性病変と膵体尾部欠損症を指摘された.ERCP・上部消化管超音波内視鏡で膵癌が強く疑われたため膵全摘十二指腸切除術を施行した.術中所見では, 全体に硬化した膵組織と膵体尾部の欠損を認めた.欠損部には脂肪組織に置換したと思われる部分は認めず, 脾動静脈は完全に露出していた.術後の病理組織学的検査で膵頭部の腫瘍は腫瘤形成性膵炎と診断された.術前検査で副膵管の存在が確認されており, pancreatic polypeptideを用いた免疫染色で背側膵原基の存在が確認された.以上から本症例は膵体尾部低形成症に腫瘤形成性膵炎が合併したものと考えられた.
  • 藤田 秀人, 井口 雅史, 岩田 啓子, 鰺坂 秀之, 山本 精一, 加治 正英, 前田 基一, 薮下 和久, 小西 孝司, 内山 明央
    2002 年 35 巻 1 号 p. 73-77
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    副脾の発生頻度は10~30%と報告されているが, 一般には無症状で臨床的に問題となることは少ない.極めてまれな, 副脾の茎捻転により急性腹症を呈した1例を経験したので報告した.症例は23歳の男性で, 主訴は左側腹部痛と発熱である.血液検査成績では白血球数上昇を認めた.腹部超音波検査, CT検査, MRI検査で腹腔内に充実性腫瘤を指摘された.腹腔内腫瘍の診断で開腹したところ大網内に8cm大の充実性腫瘍を認め摘出した.腫瘍は捻転した左胃大網動静脈からの血管茎を伴っていた.摘出標本は大網に覆われ暗赤色の脾様を呈しており, 病理組織学的には脾臓組織から形成され広範な壊死と線維化が認められた.以上の所見から, 腹腔内腫瘍は副脾であり茎捻転により梗塞をきたし腹痛を生じたと考えられた.副脾茎捻転はまれな疾患であるが, 若年者の腹痛を伴う腹腔内腫瘤の鑑別診断として銘記すべき疾患と考えられた.
  • 津田 倫樹, 脇山 博之, 岡田 和慈, 渡邊 千之, 松熊 晋
    2002 年 35 巻 1 号 p. 78-82
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    消化器出血を契機として発見された小腸原発gastrointestinal stromal tumor (GIST)の2例を経験した.症例1は80歳の男性.タール便を主訴として来院.Treitz靱帯より約10cm肛門側の空腸に, 内腔に突出する径約3cmの粘膜下腫瘍を認め, 手術施行.病理組織学的検索にて, low-grade malignant GISTと診断され, 免疫染色にてCD34に陽性, α-SMAに一部陽性で, 平滑筋への分化傾向を示した.症例2は73歳の男性.下血を主訴として来院.小腸壁と連続する腫瘤を認め, 消化管出血シンチにて小腸への出血を確認したので手術施行.病理組織学的検索にて, malignant GISTと診断され, 免疫染色にてCD34に陽性, S-100に一部陽性で, 神経への分化傾向を示した.本邦での小腸原発のGISTの報告例は, 自験例を含めて9例であり, 内6例は悪性または悪性を疑わせるものであった.小腸原発のGISTは悪性の可能性が高く, 術後も十分な経過観察が必要と思われた.
  • 本田 五郎, 大島 茂樹, 多田 修治, 志垣 信行, 荒井 光広, 箕田 誠司, 瀬井 圭起
    2002 年 35 巻 1 号 p. 83-87
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    症例は41歳の男性で, 3日間続く心窩部痛, 嘔吐, 下痢を主訴に来院し, 急性腸炎の疑いで入院となった.入院後の腹部CTで, 回腸から上行結腸にかけての肥厚した腸管壁の重複輪状影と, その内部に均一な脂肪密度の腫瘤影を認め, 回腸脂肪腫に起因する腸重積症と診断した, 開腹したところ, 回腸回腸結腸型の重積を認め, 回腸部分切除術を行った.切除した回腸には, 黄色調の割面を持つ茸状の隆起性病変を認めた.病理組織学的に, 表層は内翻した小腸壁に異所性胃粘膜組織を伴っており, 内翻したMeckel憩室と診断した.中心部の脂肪組織は腸間膜と連続しており, 巻き込まれた漿膜側脂肪組織であった.Meckel憩室は, 漿膜側の正常脂肪組織を巻き込んで内翻することがあり, この脂肪組織は, 脂肪腫との鑑別に注意を要する.
  • 有賀 浩子, 河西 秀野, 池輝 匡, 小池 秀夫, 伊藤 敦子
    2002 年 35 巻 1 号 p. 88-91
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    症例は73歳の男性.脳梗塞, 不整脈と肺癌手術の既往あり.2000年1月16日に突然腹痛と嘔吐が出現し急性腹症として内科緊急入院となり, 翌日腹膜刺激症状が出現したため外科紹介とされた.疼痛のため顔面は苦悶状, 腹部はやや膨隆していたが柔らかく下腹部中心に強い圧痛と自発痛があるが腹膜刺激症状は軽度であった.入院時に撮影した腹部CT検査で腸間膜血管内に樹枝状のガス像を認めたため, 門脈内にガス像はなかったが門脈ガス血症と同様の状態であると判断し, 既往歴および現症から腸間膜動脈閉塞症による腸管壊死と判断し, 緊急手術を施行した.開腹すると腹腔内に膿性腹水を中等量認め, 腸管はトライツ靭帯50cm肛門側空腸からバウヒン弁の10cm口側回腸まで壊死していたため, 壊死部切除とドレナージを施行した.術前推測しえた腸間膜動脈閉塞症による小腸壊死の1例を経験したので報告する.
  • 石黒 成治, 森浦 滋明, 小林 一郎, 田畑 智丈, 松本 隆利, 佐藤 太一郎
    2002 年 35 巻 1 号 p. 92-96
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    症例は82歳の男性.内視鏡的胆管造影で肝門部胆管癌と診断された.閉塞性化膿性胆管炎を合併し, 開腹ドレナージを施行した.術後8日目頻回の下痢を認め, Clostridium difficile (以下, C. difficileと略記) のtoxinAが検出されたためVancomycin (以下, VCMと略記) の経口投与を開始した.投与後4日目激しい腹痛と腹部膨満を認め, 腹部単純X線では麻痺性イレウスの像を呈した.イレウス管を挿入し経イレウス管的にVCMを投与した.翌日には症状が劇的に改善し, イレウス管挿入後6日目toxinAの陰性を確認してイレウス管を抜去した.C. difficile腸炎の治療にはVCMの経口投与が有効である.しかし, 炎症が激しく麻痺性のイレウスが呈している際には罹患部に十分届かない.その際には, 経イレウス管的VCM投与は非常に有効な手段である.
  • 都志見 貴明, 高橋 剛, 福田 重年, 小田 達郎, 井口 智浩, 江里 健輔
    2002 年 35 巻 1 号 p. 97-101
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    同時性3多発進行大腸癌の1切除例を経験した.症例は69歳の男性.主訴は下血.注腸造影検査, 大腸内視鏡検査にて盲腸, 横行結腸, S状結腸の3多発癌と診断され手術を施行した.S状結腸切除, 横行結腸部分切除, 回盲部切除を行い, S状結腸領域にはD3郭清を, 横行結腸, 回盲部領域にはD2郭清を行った.病理組織所見はS状結腸, 横行結腸, 回盲部のいずれの腫瘍も中分化型の腺癌であった.深達部はS状結腸, 横行結腸でss, 回盲部でmpであった.いずれの領域でもリンパ節の転移は認めなかった.また, CGH法を用い, 遺伝的解析を行った.盲腸, 横行結腸, S状結腸のいずれにおいても, 17番染色体短腕の欠失が認められ, 本症例はadenoma-carcinoma sequenceに関連して発生したことが示唆された.
  • 山成 英夫, 島山 俊夫, 櫻井 俊孝, 金丸 幹郎, 森 洋一郎
    2002 年 35 巻 1 号 p. 102-105
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    症例は32歳の女性で, 腹痛, 嘔吐, 腹部膨隆を主訴に当院に入院となった.既往歴に, 生下時より脳性麻痺, 精神遅滞あり.腹部単純X線検査にて上行結腸, 横行結腸の著明な拡張が見られた.注腸造影検査にて, 横行結腸左側で造影剤の途絶を認め, bird-beak signが見られたため横行結腸軸捻転症と診断し, 緊急手術を行った.横行結腸は腸間膜を軸として180度捻転していた.腸管の虚血性変化は見られなかったが, 再発の危険性を考慮し捻転部の横行結腸を切除したのち一期的に端-吻合を行った.横行結腸軸捻転症はまれな疾患であり, 各種結腸軸捻転症の約4%とされている.また, 本邦報告例36例中14例, 39%に脳性麻痺や精神運動遅滞を合併していた.これらの疾患では消化管の運動が不十分となりやすく, 便秘を伴っていることが多い.慢性の腸管運動障害を背景として発症した結腸軸捻転症では, 捻転解除のみでは再発率が高く, 積極的な腸切除術が必要と考える.
  • 築野 和男, 丸山 正董, 山崎 達雄, 小川 展二, 古川 俊隆, 新井 隆広
    2002 年 35 巻 1 号 p. 106-110
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    S状結腸憩室炎によるS状結腸膀胱瘻に前立腺膿瘍を併発し, 敗血症を呈した比較的まれな症例を経験した.症例は67歳の男性.2000年3月, 膀胱炎症状を訴え, 泌尿器科を受診, 前立腺炎が疑われ, 抗生剤投与を受けた.4月, 気尿が出現し, S状結腸膀胱瘻が疑われ, 注腸造影検査を施行, S状結腸憩室を認めたが, 確定診断にはいたらなかった.8月, 発熱と気尿が出現, 乏尿, 血圧低下を認めプレショック状態で入院となった.腹部CT検査上, 傍結腸膿瘍および前立腺膿瘍を認めた.S状結腸膀胱瘻に対してS状結腸切除, 人工肛門造設, ドレナージ, 前立腺膿瘍に対して経皮的ドレナージを施行し, 経過良好にて退院した.S状結腸膀胱瘻の治療は待期的手術治療が望ましいが, 本症例は, 急激に感染が拡大し, 保存的治療に抵抗性のため緊急手術が選択された.
  • 高野 学, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 金岡 祐次
    2002 年 35 巻 1 号 p. 111-115
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    S状結腸ポリープによる逆行性腸重積症を経験したので報告する.症例は62歳の男性で, 下腹部痛を主訴に来院した.左下腹部に腫瘤を触知し, 超音波検査で二重の管腔構造を認め, 注腸X線検査では鳥の嘴状の完全閉塞を認めた.イレウスの診断で手術を施行したところ, S状結腸が口側へ逆行性に嵌入重積していた.切除標本を開くと有茎性ポリープが存在し, 組織学的にtubulo-villous adenomaであった.腸重積症は超音波検査あるいはCT検査で診断される場合もあるが逆行性腸重積症の診断にはこれらに加えて注腸X線検査が有用であると考えられた.
  • 坂本 和彦, 中島 公洋, 御江 慎一郎, 蓮田 慶太郎, 穴井 秀明
    2002 年 35 巻 1 号 p. 116-119
    発行日: 2002年
    公開日: 2012/02/15
    ジャーナル フリー
    1996年から2000年までに当科で外科的治療を施行した105例 (切除62例, 焼灼治療43例) の肝細胞癌症例中, 12例の肝外転移症例の臨床病理学的特徴とその治療法について検討した.
    12例中9例に肝内再発を認めたが, 集学的治療によって6例はコントロールが良好であった. 肝外転移部位の内訳は肺7例, 腹膜5例, リンパ節4例, 副腎3例, 骨1例, 脳1例, 胃1例で, 治療は切除15例, 全身化学療法6例, 放射線療法3例であった (症例の重複あり).肝外転移症例の1, 3年累積生存率は67%, 39%であった.肝外転移症例を肝外転移切除群, 非切除群に分け生存率を検討したところ, 切除群が有意に予後良好であった.肝外転移切除症例はいずれも肝内再発がコントロールされていた.
    肝細胞癌の肝外転移に対しては, 肝内再発がコントロールされている場合, 外科的切除によってその予後が向上すると考えられた.
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