日本消化器外科学会雑誌
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35 巻, 10 号
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  • 須藤 隆一郎, 黒田 豊, 永吉 茂樹, 神保 充孝, 川添 康, 池田 祐司, 縄田 純彦, 倉田 悟, 中安 清, 江里 健輔
    2002 年 35 巻 10 号 p. 1599-1604
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    はじめに: 胃十二指腸潰瘍は, 良性疾患にもかかわらず穿孔, 出血などの術後に不幸な転帰をたどる症例が存在する. 方法: 1983年1月より2001年8月に胃十二指腸潰瘍穿孔に対して手術を施行した92例(死亡9例)を対象とし, 手術死亡の危険因子について統計学的に検討した. 結果: 生存群と死亡群間の検討で有意差を認めた項目は, 年齢p=0.04, performance status(PS)p<0.0001, 肝硬変の有無p=0.001, 透析の有無p<0.0001, 癌合併の有無p=0.006, 手術までの時間p=0.016, 穿孔径p=0.001, 術後縫合不全の有無p<0.0001, 術後消化管出血の有無p=0.001であった. 術式では, 単純縫合, 単純縫合+迷走神経切離および胃切除のそれぞれの群間に有意差を認めなかった. 多変量解析結果は, 術前重篤合併症, 術後縫合不全や消化管出血, PS, 穿孔径, 手術待機時間の順でオッズ比が大きく有意差を認めた. また, 術後縫合不全または消化管出血発生の有無とその他の因子との検討では, 死亡例の検討とほぼ一致する結果であった. ただし, 胃切除術では縫合不全, 単純縫合では出血の合併が多かった. 考察: 術後死亡は, 穿孔径, 手術待機時間など穿孔による侵襲に関与する因子よりも, 術後合併症, PS低下などの患者因子とより強く関係していた. これは, 合併症を含めた術前の患者の状態把握の重要性を示していた. また手術待機時間のみがわれわれの努力により変えうる因子であり, 早期診断と迅速な手術につとめることが重要となる.
  • 山中 秀高, 西垣 英治, 岡島 明子, 河合 徹, 杉浦 友則, 川井 覚, 平松 聖史, 北川 喜己, 河野 弘, 松浦 豊
    2002 年 35 巻 10 号 p. 1605-1609
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は13歳の女性. 左上腹部腫瘤で入院. 腹部超音波およびCT検査で径80mm, 内部不均一な膵尾部腫瘍を認め, 腹部MRI検査のT2強調画像で高信号, 腹部血管造影検査で乏血管性であった. 脾動脈浸潤はないが脾静脈は閉塞し, 左胃大網静脈を介する側副血行を認めた. ERCP検査で体尾部主膵管は圧排, 屈曲のみで途絶はなかった. 膵尾部原発solid cystic tumorと診断し手術を施行した. 腫瘍は皮膜を有し周囲臓器浸潤はないが, 脾動静脈の炎症性癒着を認め, 脾静脈は器質化閉塞し, 左胃大網静脈を介する側副血行を認めた. 脾温存脾静脈合併尾側膵(尾部)切除術を施行した. 摘出標本で90×90×85mm, 小分葉状で間隙形成を認めたが嚢胞はなく, 病理組織および免疫染色でsolid cystic tumorと確診された. 自験例は良性だが, 脾静脈の閉塞, 側副血行形成を認めており, 診断, 術式を考える上で示唆に富むまれな症例であった.
  • 中川 登, 山根 哲郎, 竹田 靖, 上野 満久, 北井 祥三, 岡野 晋治, 山口 正秀, 菅沼 泰, 中西 正芳, 安川 林良
    2002 年 35 巻 10 号 p. 1610-1614
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    無症状で定期健診(超音波検査)にて発見されたTS3, A3(左胃動脈)のStage IV b膵体・頭部癌に対して尾側膵亜全摘, 脾摘, 胃全摘, 横行結腸間膜部分切除, 胆嚢摘出術, D1リンパ節郭清を施行した. 肉眼的には根治度Bと判断したが, 組織学的には, 腹腔動脈・上腸間膜動脈神経叢周囲への癌の浸潤の可能性が高いと考えられ, 術後, 同部に体外放射線照射を施行した. その後, 左頸部リンパ節に再発し, 同部にも体外放射線照射を施行した. 術後8年経過した現在, 他に癌再発の所見なく, 健在な症例を経験した. 長期生存の要因は, 癌の局所遺残をなくするための徹底した切除と, 体外放射線照射療法と考えられる. Stage IV b膵癌でも, 局所とリンパ行性の過進展のみで, 膵癌の主たる予後規定因子の肝転移(静脈侵襲)の認められないものは, 原発巣切除と体外放射線照射療法で, 長期生存が望める可能性がある.
  • 林部 章, 坂本 一喜, 新保 雅也, 牧本 伸一郎, 仲本 剛, 岩田 恵典, 土細工 利夫, 廣岡 大司
    2002 年 35 巻 10 号 p. 1615-1619
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は60歳の男性で, 上腹部痛を主訴に平成13年6月3日当院に緊急入院した. CT・US・MRI (MRCP)・ERPなどにより膵管癒合不全に伴う背側膵炎と診断した. 長期にわたる保存的加療にても寛解せず, 外科的治療が必要と判断された. 術式は, ERPで副乳頭部副膵管に狭窄を認めず, 病態が背側膵炎と良性疾患であることなどから副膵管空腸側々吻合術を選択した. 同年8月30日手術を施行し, 術後4週間で軽快退院した. 膵管癒合不全に伴う背側膵炎に対して, 副膵管空腸側々吻合術は有用な術式であると考えられた.
  • 尾形 章, 大野 一英, 升田 吉雄, 遠藤 文夫, 新井 竜夫, 増田 益功, 笹田 和裕
    2002 年 35 巻 10 号 p. 1620-1624
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は18歳の女性. 突然の嘔気と上腹部痛を訴えた他院受診し膵炎およびintraluminal duodenal diverticulum (IDD)の診断にて当科紹介, 入院となった. 上部消化管造影にて十二指腸第2部腔内に約2mmの薄い嚢状の透亮像を認め, MRCPでは腹側膵および背側膵の癒合部位に狭窄と上流膵管の拡張を認めた. 1997年8月25日IDDおよび慢性閉塞性膵炎の診断にて十二指腸腔内憩室切除およびRoux-Y吻合による膵管空腸吻合を施行した. IDDに伴う膵炎の報告例は18例認められ, 治療として開腹或いは内視鏡的な憩室切除にてIDDおよび膵炎の症状改善がなされている. しかし, 自験例のごとき部位の膵管狭窄例は膵液のドレナージを要し膵管空腸吻合を必要とした. 腹側膵および背側膵癒合部の狭窄は先天性異常に起因することがほとんどであるとの報告もあり自験例ではIDDおよび膵管不完全癒合の併存の可能性が強く示唆された.
  • 坂本 和裕, 土田 知史, 保元 明彦, 有我 隆光, 利野 靖, 高梨 吉則
    2002 年 35 巻 10 号 p. 1625-1628
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    宿便性大腸穿孔はS状結腸から直腸に好発するまれな疾患であり, その他の部位での発生は極めてまれである. 今回, 上行結腸に発生した宿便性大腸穿孔を経験したので報告する. 症例は77歳の男性. 右気胸のため入院し胸腔ドレナージ中に腹部違和感に続く急激な腹痛が出現. 画像上, 腹腔内遊離ガス像と糞塊による上行結腸の著明な拡張を認めたため緊急開腹術を施行した. 上行結腸は糞塊により拡張し, 前壁の一部は薄く数か所で穿孔し糞便の流出を認めた. 憩室および通過障害をきたす病変は認めなかった. 周囲の汚染が比較的軽度であったため, 右結腸切除を行い1期的に再建した. 上行結腸前壁には1cm以下の類円形の穿孔と潰瘍病変を多数認めた. 病理学的に穿孔部周囲には全層性に炎症細胞浸潤を伴う高度の虚血性変化を認め, 圧迫壊死を示唆する所見で, 宿便性大腸穿孔と診断した. 術後経過は一時的譫妄を除き良好で, 術後15日目に退院した.
  • 鈴木 温, 関下 芳明, 塩野 恒夫, 藤森 勝, 加藤 紘之
    2002 年 35 巻 10 号 p. 1629-1633
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    大腸癌治癒切除後の卵巣転移は比較的まれな再発形式である. 今回, 我々は大腸癌治癒切除後の卵巣転移を切除した2例を経験したので報告する. 症例1: 27歳の女性. 下行結腸癌(n1 (+)で組織学的根治度A)術後6か月に両側卵巣腫瘍を認め, 両側付属器切除・子宮全摘術施行し, 両側卵巣ともに組織学的に大腸癌卵巣転移の診断であった. 大腸癌術後18か月, 癌性腹膜炎・肝転移にて死亡した. 症例2: 39歳の女性. 下行結腸癌(n1 (+)で組織学的根治度A)術後11か月に卵巣腫瘍を認め, 両側付属器切除施行し, 組織学的に右側卵巣の大腸癌卵巣転移の診断であった. 大腸癌術後19か月健存中である. 2例ともに閉経前の女性, リンパ節転移を有する下部進行大腸癌であり, このような症例では, 卵巣転移を念頭に入れた術後follow upが必要と思われた. 本邦論文報告例の集計による文献学的検討を含めて報告する.
  • 神尾 幸則, 稲葉 行男, 渡部 修一, 小山 基, 大江 信哉, 林 健一, 千葉 昌和
    2002 年 35 巻 10 号 p. 1634-1638
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は84歳の女性. 脳梗塞の既往があり, 心房細動, うっ血性心不全で近医通院中. 腹痛, 嘔気が出現し, イレウスの診断で入院となった. 大腸内視鏡検査でイレウスの原因が直腸S状部の2型腫瘍のためであると判明したため, 経肛門的に腫瘍口側にイレウスチューブを留置した. 肝機能異常のため手術を延期していたが, 入院20日目, 腹痛出現, 翌日には腹膜刺激症状を認め, 緊急手術を施行した. 開腹すると膿性腹水が骨盤内を中心に貯留しており, 腹膜炎の原因は腫瘍直上の口側腸管の穿孔と判明した. 手術はハルトマン手術を施行した. 標本を切開したところ, 癌腫の口側腸管に線状潰瘍とPTP包装薬剤を認めた. 最近, PTP (press through package)誤飲による消化管損傷が増加しているが, 大腸穿孔の例は本邦では5例と少なく, 直腸穿孔は本症例が本邦初の報告である.
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