はじめに: 胃十二指腸潰瘍は, 良性疾患にもかかわらず穿孔, 出血などの術後に不幸な転帰をたどる症例が存在する. 方法: 1983年1月より2001年8月に胃十二指腸潰瘍穿孔に対して手術を施行した92例(死亡9例)を対象とし, 手術死亡の危険因子について統計学的に検討した.
結果: 生存群と死亡群間の検討で有意差を認めた項目は, 年齢p=0.04, performance status(PS)p<0.0001, 肝硬変の有無p=0.001, 透析の有無p<0.0001, 癌合併の有無p=0.006, 手術までの時間p=0.016, 穿孔径p=0.001, 術後縫合不全の有無p<0.0001, 術後消化管出血の有無p=0.001であった. 術式では, 単純縫合, 単純縫合+迷走神経切離および胃切除のそれぞれの群間に有意差を認めなかった. 多変量解析結果は, 術前重篤合併症, 術後縫合不全や消化管出血, PS, 穿孔径, 手術待機時間の順でオッズ比が大きく有意差を認めた. また, 術後縫合不全または消化管出血発生の有無とその他の因子との検討では, 死亡例の検討とほぼ一致する結果であった. ただし, 胃切除術では縫合不全, 単純縫合では出血の合併が多かった.
考察: 術後死亡は, 穿孔径, 手術待機時間など穿孔による侵襲に関与する因子よりも, 術後合併症, PS低下などの患者因子とより強く関係していた. これは, 合併症を含めた術前の患者の状態把握の重要性を示していた. また手術待機時間のみがわれわれの努力により変えうる因子であり, 早期診断と迅速な手術につとめることが重要となる.
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