日本消化器外科学会雑誌
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35 巻, 8 号
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  • 安江 紀裕, 熊沢 伊和生, 杉山 保幸, 国枝 克行, 佐治 重豊
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1359-1368
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    目的: 癌局所環境における生体反応と予後との関連を腫瘍細胞と腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のアポトーシス発現程度から検討し, その臨床的意義を評価した. 方法: 対象は1992年から5年間に経験し, 予後が判明している49例. 方法は切除標本から薄層連続切片を作製し, H.E.染色および抗Tリンパ球抗体(UCHL-1)を用いたLabelled Streptavidin Biotin法で腫瘍細胞とTILを同定後, 連続する対側切片を用いてTUNEL染色し, 陽性細胞発現頻度 (AI,%) を辺縁部と中心部で比較検討した. 結果:(1)腫瘍細胞のAI値は辺縁部で高く, 中心部では病期, n因子, 壁深達度の進行に伴い低下した.(2)TILの浸潤程度は中心部で高いほど壁深達度が有意 (p=0.024)に浅く, AI値が高いほど深達度が有意 (p=0.024)に深かった.(3)単位面積当たり180個で比較するとTILが多いほど予後は有意 (p<0.002)に良好であった.(4)腫瘍細胞のAI値は辺縁部, 中心部とも高値群の予後が低値群に比べ有意 (p<0.05) に良好であった.(5) TILのAI値は辺縁部 (0.70), 中心部(1.00)とも低値群の予後が高値群に比べ有意(p<0.03, p<0.001)に良好であった. 考察: 腫瘍細胞とTILのアポトーシス発現頻度の検索は, とくに中心部で予後予測や補助療法の選択の上で, 有用な上方を提供可能と推察された.
  • 本症12例の経験から
    金丸 仁, 横山 日出太郎, 白川 元昭, 橋本 治光, 吉野 吾朗, 高津 光, 杉山 高, 秋山 敏一
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1369-1376
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    はじめに: 門脈ガス血症(以下, 本症と略記)は予後不良で緊急開腹術が必要と考えられてきたが, 最近自然軽快する例の報告も多く, 手術適応の判断が難しい. われわれの12例の経験と文献報告例から本症の手術適応につき考察した. :方法: 腸管壊死があり開腹術の適応であった5例(A群)と, 腸管壊死が無く経過観察可能であった7例 (B群) を比較した. :結果:: A群は全身状態不良で, 5例全例に腹膜刺激徴候を認めた. B群では全身状態は良好で, 2例を除き腹膜刺激徴候を認めなかった. A群では全例熱発を認めたがB群では4例で熱発を認めなかった. 白血球数はA群5例, B群5例で10,000/mm3以上であった. CRPは, 不明例以外で, A群では4.3mg/dlと7.0mg/dlの2例のほか2例が20mg/dl以上であったがB群では全例20mg/dl以下でうち5例は1.1mg/dl以下であった. :考察: 本症の成因には, 腸管壊死からの感染として, E. coliなどのガス産生菌が関与する場合と, 非絞扼性腸閉塞の場合など, 単に腸管内圧の上昇によって発生する場合があるが, 後者の成因の場合は経過観察が可能と考えられる. 手術適応は腸管壊死の有無にかかっているが, その判断は, 全身状態, 腹部所見, 熱発の有無など, 理学所見の正確な把握が重要で, 一般の急性腹症の場合となんら変わるところはない. 検査値としては白血球数よりもCRPが手術適応の参考になる.
  • 丸田 智章, 須田 武保, 畠山 勝義, 土田 正則, 林 純一
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1377-1383
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    はじめに: 大腸癌肺転移例に対する肺切除について検討した. 対象と方法: 1980年12月から2000年12月までの大腸癌肺転移に対し肺切除術を行った55例 (男31例, 女24例) を対象とした. 同時性肺転移10例を含む. 性別, 肺切除時年齢, 原発巣, 原発巣切除から肺転移までの期間, 肺転移発見時CEA, 転移個数, 最大径, 片側と両側転移, 同時性と異時性肺転移, 縦郭・肺門リンパ節転移, 肺外病変の併存既往, 肺再々発に対する肺再切除と予後について解析した. 結果: 5年生存率は29.0%, 10年生存率は22.1%だった. 最大径5cm以上とリンパ節転移陽性例で有意に予後不良だった. 他に有意差は認められなかった. 肺再々発は30例あり, 肺再切除は14例に施行された. 3年生存率は肺再切除群で40.2%, 非再切除群で0%, 初回肺切除からの5年生存率は肺再切除群で39.7%, 非再切除群で0%と再切除群で有意に予後良好だった. 肺再切除後5年生存率は31.7%と初回肺切除と同等だった.肺再切除後さらに肺転移を来したのは11例あり, 4例に3度目の肺切除を行った. 3回目の肺再発後の生存期間, 肺再切除後の生存期間とも, 3回目の肺切除の有無で差はなく, 予後の改善は認められなかった. 考察: 大腸癌肺転移には, 多発両側転移, 肺外病変の既往併存, 肺再々発に対しても積極的に肺切除を行うことで予後の改善が期待できるが, 3度目の肺切除は慎重にするべきと考えられた.
  • 高 賢樹, 秋田 幸彦, 近松 英二, 毛受 雅文, 塩見 正哉
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1384-1388
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は74歳の女性. 自覚症状は特になし. 乳癌術後約4年目にCTにて肝門部に腫瘍が認められた.10カ月後再検したところ肝門部の腫瘍は十二指腸球部の粘膜下腫瘍であり約1.5倍に増大していた.また, 胃底部にも粘膜下腫瘍が認められた. 十二指腸の腫瘍は約3cm, 胃底部はさらに小さいものであったが増大傾向を示しているため悪性の可能性も考慮し, 胃十二指腸部分切除術および胃部分切除術を施行した. 免疫組織学的には胃の腫瘍はCD34, C-kit, vimentin, NSEが陽性, SMA, S-100が陰性であった. 十二指腸の腫瘍はC-kit, vimentinが陽性, CD34, SMA, S-100, NSEが陰性であり, 両腫瘍ともGISTと診断した. 転移に伴う同一病変かどうかは確定診断ができなかったが, 転移経路の関係上転移は考えにくく, 胃と十二指腸にGISTが発生したと診断した. 本症例のように胃と十二指腸にGISTが同時に発症するのは報告がなく非常にまれな例と考えられたため, 文献的考察を加えて報告する.
  • 青野 景也, 新實 紀二, 横井 俊平, 久納 孝夫, 前田 敦行
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1389-1393
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は54歳の女性. 右乳癌(solid-tubular type)t2, n1βで胸筋合併乳房切除術を受けていた. 術後は化学療法とホルモン療法を施行されていた. 術後7年9か月に頸部リンパ節腫大と, 胃内視鏡検査で胃角部の3型の病変を指摘された. CT検査では大動脈周囲リンパ節の腫大も同時に指摘された. 全身化学療法によってリンパ節腫大は縮小し胃腫瘍も縮小したので胃切除術を施行した. 病理検査では粘膜内の高分化型腺癌と, 粘膜下に浸潤する初回の乳癌に類似した低分化型腺癌の両方を認めた. また免疫組織染色では, 低分化型腺癌と転移のあったリンパ節はestrogen receptorに陽性であった. 原発性胃癌と乳癌の胃転移が併存していると診断した. 臨床的に乳癌の胃転移が診断され切除された報告は少ない. 乳癌手術の既往がある患者では乳癌の転移も念頭に置いて胃病変を検討する必要があると考えられた.
  • 小池 伸定, 羽鳥 隆, 今泉 俊秀, 原田 信比古, 福田 晃, 高崎 健
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1394-1398
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は39歳の女性. 1995年2月門脈浸潤疑いの非機能性膵内分泌膵腫瘍に対し, 門脈合併切除を伴う全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PpPD)を施行した. 術後経過は良好であったが1995年7月よりタール便で出現し, 血管造影で門脈再建部の狭窄とその周囲に求肝性の数珠状の側副血行路を認め, 食道静脈瘤に内視鏡的硬化療法を施行したが, この後も吐血を繰り返しHassab's operationを施行, 一時良好であったが再度消化管の出血を繰り返すようになった. 出血の原因は側副血行路として発達した胆腸吻合部周囲の静脈瘤の破綻によるものと考え, 根治的治療として, 門脈再建部の狭窄部にExpandable Metallic Stent(EMS)を留置した. 留置後1年経過後, EMS内の門脈血流は良好で, 消化管出血は認められない. 門脈合併切除例の晩期合併症として, 本例のような再建部門脈狭窄や閉塞による繰り返す消化管出血に対する治療法として本法は低侵襲で, 効果的な治療法と考えられた.
  • 金住 直人, 鈴木 祐一, 本山 彩, 小林 大介, 加藤 公一, 江口 武彦, 木村 次郎, 石井 正大
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1399-1403
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は59歳の女性. 検診にて肝機能異常・胆道系酵素の上昇を指摘され, 精査目的に入院となった.腹部CTにて肝内側区域に径4cm大の嚢胞性病変とその内部に不均一な造影効果を伴う乳頭状腫瘤を認めた. 腹部MRIでは, T1強調像で低信号, T2強調像で高信号の嚢胞性病変を認め, 嚢胞内にはT1強調像で肝組織よりやや低信号, T2強調像でやや高信号の乳頭状腫瘤を認めた. 選択的血管造影では肝内動脈枝の圧排伸展および嚢胞の内部に結節状濃染像を認めた. 以上より, 胆管嚢胞腺癌の術前診断にて, 拡大肝左葉切除, 左尾状葉切除, 胆嚢・肝外胆管切除, リンパ節郭清術を施行した. 摘出標本では, 4×3×5cm大の多房性の嚢胞性腫瘍を認め, その内腔には充実性組織が乳頭状に増生していた. 嚢胞は, 粘調透明な液体に満たされていた. 病理組織学的に胆管嚢胞腺癌の診断であった.術後2年2か月経過した現在, 再発の兆候なく健在である.
  • 生田 義明, 杉原 重哲, 小林 広典, 米満 弘一郎, 金子 隆幸, 江上 哲弘
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1404-1407
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性で右季肋部痛を主訴に受診した. 腹部US, CT検査にて胆嚢内にガス像を認め, 肝内胆管にも一部ガス像を認めた. 気腫性胆嚢炎と診断し, 緊急的に経皮経肝的胆嚢ドレナージ(PTGBD)を施行した. 胆汁の細菌培養にてグラム陽性嫌気性菌のEubacterium属が検出された. 炎症所見が改善したPTGBD施行後22日目に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した. 術後経過は良好で術後10日目に軽快退院した. 気腫性胆嚢炎はガス産生菌を起因菌として, 画像診断上, 胆嚢内に特徴的なガス像を示す比較的まれな疾患である. 通常の胆嚢炎と比し急速に重篤化するとされており, 早急に胆嚢摘出術を行うべきと考えられてきた. 最近は全身状態が悪い症例に対しPTGBDで急性期をしのいだ後に, 全身状態の改善を待ち, 開腹胆摘術を施行したとの報告も多く, これからは本症例のように腹腔鏡下胆摘術の適応も増えてくるものと考えられた.
  • 柴原 弘明, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 坂本 英至, 伊神 剛, 太平 周作, 森 俊治, 水野 隆史, 服部 弘太郎
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1408-1412
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は52歳の女性. 下痢・背部痛・上腹部痛を主訴に当院を受診し超音波検査で膵体部腫瘤を指摘された. 膵腫瘤は造影CTで軽度の造影効果をみたが, 腹部血管造影検査では腫瘍濃染は認められず, 脾静脈については腫瘍による圧排伸展所見を認めた. 膵体部癌と診断し2001年3月膵体尾部脾合併切除術を施行した. 術後の病理組織学的検索にて膵well-differentiated endocrine carcinomaと診断された. No.8a・11にリンパ節転移陽性であった. 術後1年を経過した現在肝転移を認めており, 慎重に経過観察を行っている.
  • 野本 一博, 田近 貞克, 島多 勝夫, 増山 喜一, 辻 政彦, 塚田 一博
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1413-1417
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は29歳の男性で, 腹部腫瘤を主訴に来院. 23歳時に交通外傷で脾摘出術の既往あり. 臍左側に約8cmの比較的可動性のある腫瘤を触知し, 消化管造影では空腸の圧排を認めたが, 大腸にポリポーシスの所見はなかった. US, CT, MRIでは表面が平滑で, 内部均一な充実性の腫瘍を認め, 血管造影にて腫瘍はhypovascularであった. 以上より腸間膜腫瘍と診断し, 手術を施行した. 空腸の腸間膜腫瘍を, 約90cmの空腸, 腸間膜とともに切除した. 腫瘍は8.5×8.0×5.5cmで, 重量は256g, 表面は平滑, 灰黄色調, 充実性, 弾性硬で, 病理組織学的に腸間膜線維腫症と診断された. 本症例は術後1年を経た現在, 再発を認めず健在である.
    Gardner症候群を合併していない腸間膜線維腫症は, 再発率も低いため, 腸管の大量切除を回避できれば, 完全切除をするべきである.
  • 犬飼 道雄, 岡野 圭一, 唐澤 幸彦, 合田 文則, 若林 久男, 臼杵 尚志, 前場 隆志, 前田 肇
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1418-1422
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は59歳の男性. 2日間持続する右下腹部痛で来院. ACTH単独欠損症でヒドロコルチゾンを内服していた. 来院時右下腹部に圧痛と反跳圧痛を認め, 白血球数7,100/μl, CRP 14.1mg/dlであった. 腹部超音波検査で内部に高エコー領域を伴う腫大した径10mmの虫垂を確認した. 急性虫垂炎と診断, 緊急手術を施行した. 虫垂の壁側腹膜への癒着と魚骨2cm長の穿通を認め, 虫垂切除術を施行した. 本邦の魚骨による消化管穿通は, 下部消化管に多く虫垂は少ない. 慢性炎症による膿瘍と腫瘍との鑑別は難しく, 広範切除となる症例もある. 腹部超音波検査やCT検査で虫垂内部に高エコー領域を認めた時は, 本疾患の可能性も考え術前鑑別診断が重要である.
  • 東 久登, 山本 登司, 田中 潤一郎, 大木 亜津子, 坂 佳奈子, 山形 誠一, 増田 幸蔵, 志田 晴彦, 今成 朋洋, 町田 武久
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1423-1427
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    腹部鈍的外傷後に発症した腸管狭窄の1例を経験した. 症例は26歳の男性, 下腹部を車両の間に挟まれたが, 腹痛はすぐに軽快した. 受傷後13日目に腸閉塞による腹痛が出現し, 保存的治療で軽快せず受傷後21日目に手術を施行した. 術中所見では回腸末端の20cm口側から10cmにわたり回腸が変色・狭窄しており腸間膜の脂肪は白色腫瘤を形成していた. 狭窄部回腸を切除し端々吻合した. 組織学的には回腸動脈の血栓性閉塞と回腸の全周性区域性潰瘍および広汎な腸間膜の脂肪壊死, 脂肪織炎が見られ, 腸間膜損傷による虚血性瘢痕狭窄が原因と考えられた. 診断には腹部CTが有用であった. 腹部鈍的外傷後の遅発性腸管狭窄についての本邦報告例は自験例を含め38例とまれである. 腹部鈍的外傷後は遅発性腸閉塞の発症を念頭に置き対処する必要がある. 腸閉塞が見られた場合は虚血性・瘢痕性の非可逆性な狭窄であることが多く速やかに手術を施行すべきである.
  • 向坂 英樹, 村田 幸平, 亀山 雅男, 土岐 祐一郎, 大東 弘明, 平塚 正弘, 佐々木 洋, 石川 治, 真能 正幸, 今岡 真義
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1428-1432
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は47歳の女性. 2年8か月前に左大腿部皮下軟部腫瘍にて広範切除術施行. 8か月前に同右肺転移にてS8部分切除施行. 今回貧血の精査中に腸重積を発症し手術. 回腸腫瘤を先進部とした横行結腸への重積で, 右半結腸切除を施行した. Bauhin弁より15cm口側に56×45×36mmの有茎性腫瘤を認めた. 病理所見では腫瘍性類骨形成が著明で骨肉腫と診断された. 左大腿部および右肺S8転移巣の病理像では類骨形成が認められなかったため, 当初MFHと診断されていたが, 三病巣の詳細な病理学的検討の結果, 大腿皮下原発の骨外性骨肉腫が肺と小腸に転移したものと結論された. 術後2か月から多臓器に腫瘍が再燃し4か月目に原病死した. 骨外性骨肉腫は成人に発生する予後不良な軟部悪性腫瘍である. 肺転移が多いが小腸転移の報告は極めてまれである. 検索した限りでは本例が6例目であり, 文献的考察を含めて報告した.
  • 清水 健, 中田 雅支, 稲葉 征四郎, 松下 由紀, 荒木 康伸, 小山 拡史, 荻野 敦弘, 山田 英二
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1433-1437
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    今回, 我々は非常にまれな小腸原発悪性神経鞘腫(malignant schwannoma)を含む, 異時性四重複悪性腫瘍の1例を経験したので報告する. 症例は79歳の女性. 既往歴としてS状結腸癌, 甲状腺癌があった. 強い腹痛と腹部膨満を主訴に受診, 汎発性腹膜炎の診断で緊急開腹術となった. 開腹時, 小腸に穿孔性の腫瘍を認めたため小腸切除術を施行した. 腫瘍は病理組織学的に非上皮性で, 大小不同, 多形性, 不整分裂像をもった細胞より成り立ち, 免疫染色上, S-100, NSE, vimentinが陽性, MSA, desmin, CD-34, c-kitが陰性であった. 以上より小腸原発悪性神経鞘腫と診断した. 術後経過中, 食道癌(第4癌)も発見されたが, 全身状態悪化のため死亡した. 本症例は異時性にS状結腸癌, 甲状腺癌, 小腸悪性神経鞘腫, 食道癌(同時性)の四悪性腫瘍を重複した非常にまれな症例と考えられた. 本症例における神経鞘腫の診断には免疫染色が有用であった.
  • 吉田 信, 河島 秀昭, 原 隆志, 石後岡 正弘, 樫山 基矢, 高梨 節二, 後藤 剛, 菅 敏郎, 畠山 広巳, 山崎 左雪
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1438-1442
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は34歳の女性. 家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis; 以下, FAPと略記)にて1991年11月, 大腸全摘, 回腸J-pouch肛門吻合, 回腸瘻造設術を受け, 術後病理所見でm癌を認めた. 5年後に回腸瘻を閉鎖し, その後の経過は順調であったが2000年3月頃より単純性イレウスを繰り返し徐々に症状が悪化した. 同年4月イレウス管造影にて回腸に高度な狭窄を認めたため4月28日開腹手術を施行した. 閉塞部位は回腸瘻閉鎖時の吻合部であり, 同部位に硬い腫瘤を触れたためデスモイド腫瘍や吻合部狭窄を考え小腸部分切除を施行した. 術後病理所見で高分化型腺癌, ss, ly1, v2と診断した. 術後は本人の同意が得られず追加切除や化学療法は行っていないが現在無再発生存中である. FAPの小腸癌合併頻度は少なく, 自験例は術後吻合部に発生した極めてまれな症例と考えられた.
  • 湯川 寛夫, 赤池 信, 杉政 征夫, 武宮 省治, 亀田 陽一, 今田 敏夫
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1443-1447
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は50歳の女性. 1996年6月注腸検査, 大腸内視鏡検査で肛門縁から10cmの直腸に2型病変をみとめ生検でanaplastic squamous cell carcinomaであった. 術前CTにて傍直腸, 大動脈周囲, 左腸骨動脈周囲にリンパ節腫大を認めた. 8月12日低位前方切除術施行, 術中迅速診にて大動脈周囲リンパ節に転移陽性であり, 根治度Cであった. 病理組織診では直腸原発の小細胞癌と診断した. 肺小細胞癌に準じ術後CDDP40mg×2日, VP-16 100mg×3日(1クール)の化学療法を施行した. 化学療法が奏効し術後9MのCTにて傍大動脈リンパ節腫大消失CRを得て以後2001年2月まで42か月, 再発なく経過中である. 小細胞癌の直腸原発例はまれであり, 1クールにもかかわらず化学療法が奏効した1例を経験したので報告する.
  • 宮崎 恭介, 成田 吉明, 中村 文隆, 増田 知重, 道家 充, 樫村 暢一, 松波 己, 加藤 紘之
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1448-1452
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    Prolene* hernia system (以下, PHSと略記) を応用した腹膜外到達法による閉鎖孔ヘルニア修復術を考案し, その手術成績を検討した. 2000年7月から1年間に経験した8例の閉鎖孔ヘルニア (嵌頓6例, 非嵌頓2例) を対象とし, 全例骨盤部CT検査で診断した. 手術は内鼠径輪上方の4cmの横切開から腹膜外腔を経て閉鎖孔に到達した. 閉鎖膜を用指的に拡大し, 閉鎖管に嵌頓したヘルニア嚢および内容を整復した. 腹膜外腔にオンレイパッチをトリミングしたPHSを挿入し, 無縫合で閉鎖管を閉鎖した. 発症後4日以上の例は腹腔鏡で嵌頓腸管の性状を確認した. 嵌頓例で発症から手術までの期間は3.7日で, 腸管壊死は認めなかった. 手術時間は50分であった. 経口摂取は術後2日以内に開始され, 術後入院期間は5.2日であった. 術後合併症および再発は認めていない. 本法は非嵌頓および嵌頓早期の閉鎖孔ヘルニアに対して, 低侵襲で確実に閉鎖管を閉鎖できる術式である.
  • 猪熊 滋久, 石田 秀行, 橋本 大定, 高松 亜子
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1453-1456
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    広範に進展した肛門周囲Paget病に対し, 広範切除とgluteal fold flapによる再建を用い, 良好な結果を得た1例を経験したので報告する. 症例は83歳の女性. 肛門周囲に14cm×10cm大の全周性の湿疹様変化を認め, 当科受診. 生検にてPaget病の診断を得た. 他臓器に悪性腫瘍の合併を認めず, 局所切除を行った. 肉眼的皮膚側境界面から3cm離れた部位と歯状線よりおのおの4点迅速組織診を行い, 腫瘍組織のないことを確認し, 皮下を含めた広範囲切除を行った. 校門周囲の広範な欠損に対しgluteal fold flapを用いた全層有茎皮弁による再建を行い, S状結腸に双孔式人工肛門を造設した. 皮弁定着後人工肛門を閉鎖した. 術後26か月経過した現在, 健在で, 肛門機能の低下も見られていない. 今回の方法は, 肛門および会陰周囲の植皮を必要とする手術の場合に多く用いられる中間層植皮に比べ, 皮弁の拘縮や肛門狭窄などの発生もなく, 有用な方法であると思われた.
  • 癌患者は終の住みかを選べるか
    角田 明良, 渋沢 三喜, 草野 満夫
    2002 年 35 巻 8 号 p. 1457-1460
    発行日: 2002年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    1996年10月から2001年4月までに, 著者自身が主治医となった癌患者235人のうち癌告知を行ったのは221人(94%)で, この間に癌病死した患者は45人である. これらを対象として, 計画的なinformed consent (IC)と緩和ケアが未確立であった前期と確立した後期に分けて, 患者が死を迎えた場所を調査した. 前後期に亡くなった患者はおのおの10人, 35人であった. 死を迎えた場所は, 前期では大学病院8人, 緩和ケア施設と他院がおのおの1人であったのに対し, 後期では大学病院のほかに緩和ケア施設16人, 自宅6人, 癌専門病院4人と多様であり, その分布は前後期で有意の差が認められた(p=0.019). 大学病院の比率をみると前期80%(8/10), 後期21%(8/35)で後期は前期より有意に低頻度であった. これは計画的なICと緩和ケアの確立によって, 多くの患者が死を迎える場所を自己決定したためと考えられた.
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