日本消化器外科学会雑誌
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37 巻, 12 号
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  • 再発例からの検討
    牧田 英俊, 村上 雅彦, 澤谷 哲央, 大塚 耕司, 普光江 嘉広, 加藤 貴史, 草野 満夫
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1805-1812
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    はじめに: 食道扁平上皮癌患者における腫瘍マーカー (CEA, SCC抗原, CYFRA21-1) の経時的測定の意義について検討した. 対象・方法: 当科で手術を施行し定期的な術後経過観察を受けた食道扁平上皮癌患者55例 (うち, 再発23例) を対象とした. 各マーカーの術前, 再発時, 再発直近時の陽性率を求め, また複数のマーカーを組み合せた同時分析も加え, 進行度や術後経過との関連を検討した. 結果: 術前陽性率はCYFRA21-1 (30.9%) が最も高かった. 病理組織学的因子との検討では, CYFRA21-1のみ壁進達度・予後とに相関があった. 3種マーカーのcombination assayにより, 術前, 再発時, 再発直近時いずれも陽性率は有意に増加した. また, 術後経過中, SCC抗原とCYFRA21-1の両者が陽性化した9例全例に再発を認め, うち8例 (88.9%) がリンパ節転移であった. 考察: 3種類の腫瘍マーカー測定の保険請求は認められないが, 食道扁平上皮癌における術前血清診断として, CEA, SCC抗原, CYFRA21-1によるcombination assayは有用であった. 術前CYFRA21-1陽性例は, 根治切除例といえども, 追加治療の必要性が高いと考えられた. 術後経過観察において, SCC抗原, CYFRA21-1の両者が陽性化した場合, 高率に再発が疑われ, リンパ節再発の可能性が高いことが示唆された. 画像上再発所見が認められなくとも, combination assayによるマーカー陽性時は, 測定間隔を短縮し, 積極的に再発を疑う必要性が示唆された.
  • 寺川 直良, 里井 壯平, 柳本 泰明, 山本 栄和, 山本 智久, 高井 惣一郎, 權 雅憲, 山本 伸, 久保田 佳嗣, 上山 泰男
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1813-1818
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    はじめに: 本邦において, 胆管細胞癌のC型肝炎罹患率は増加してきている. 最近10年間の当院における胆管細胞癌症例を検討し, C型肝炎併存例の臨床的特徴を明らかにするため, 非併存例との比較を行った. 方法: 過去10年間 (1992-2001) において, 当院内科と外科に入院治療した胆管細胞癌35例を対象とした. 当該症例のC型肝炎罹患率を前・後半期5年ごとに比較し, 切除症例におけるC型肝炎併存例と非併存例の臨床的特徴や生命予後を比較した. 結果: 前・後半期の症例数は9例/26例で, うちC型肝炎罹患率は22%/50%であった. 切除症例のC型肝炎併存例7例と非併存例10例の背景因子を比較したところ, C型肝炎併存例でaspartate aminotransferase (AST) 値は有意に高く, ICGR15分値や術中出血量も高い傾向を示した. 病理学的進行度には差は認められなかった. 手術術式に関して, 非合併例は70%以上が葉切除以上であったのに対し, 併存例では57%が亜区域以下の切除で, 86%が根治度Cであった. 累積生存率はC型肝炎併存例で低い傾向を示した. まとめ: C型肝炎併存胆管細胞癌は術前より肝機能障害があり, 肝予備能低下のため切除範囲が制限され根治切除が困難になる傾向があった. C型肝炎併存例は明らかに増加してきており, 早期発見と集学的治療の必要性が示唆された.
  • 今井 一博, 本山 悟, 斎藤 礼次郎, 奥山 学, 今野 広志, 中川 拓, 提嶋 眞人, 小川 純一
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1819-1822
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は42歳の男性で, つかえ感を主訴に受診し, 上部消化管造影および内視鏡検査にて胸部中部食道に長径4cmの全周性狭窄を認めたが, 粘膜病変は見られなかった. CTで腫瘍は左主気管支, 下行大動脈に浸潤し, 悪性腫瘍が示唆された. 2度の消化管内視鏡下生検で確定診断をえられず, 胸腔鏡下腫瘍生検術を施行した. その結果, びまん性B細胞リンパ腫と診断された. 化学 (CHOP療法) および放射線 (40Gy) 療法を施行し, 完全寛解をえた. 治療後3年経過したが, 再発を認めていない. 確定病理診断の下, 化学放射線療法で3年の完全寛解をえた食道原発悪性リンパ腫の1例を報告した.
  • 篠原 玄夫, 森 崇高, 三室 晶弘, 野牛 道晃, 坂本 啓彰, 冨岡 英則, 海老原 善郎, 土田 明彦, 青木 達哉, 石井 英昭
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1823-1828
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    患者は60歳の男性で, 胃潰瘍にて通院中にフォローアップで行った胃内視鏡検査で異常を指摘され入院となった. 胃内視鏡検査, 胃X 線検査では胃体上小彎に連続する2つの隆起性病変を認めた. 口側の病変は一部正常な上皮で覆われ, なだらかに立ち上がっており, 中央に線状の陥凹を伴っていた. 肛門側の病変は中央に円形の深い陥凹を認め, 周囲は環状に隆起し, 小型Borrmann2型を呈していた. 2つの病変の間には正常上皮が存在し, それぞれが独立した病変と考えられた. 早期胃癌の診断にて噴門側胃切除術を施行した. 病理組織学的には双方とも低分化型腺癌で間質には著明なリンパ球浸潤とリンパ濾胞形成を認めた. 2つの病変は上皮内進展により連続していた. また双方ともEBER-1 (Epstein-Barr virus encoded RNA) in situ hybridization陽性であり, その発生にEpstein-Barr virus (EBV) の関与が疑われた.
  • 齋藤 克憲, 橋田 秀明, 岩代 望, 大原 正範, 石坂 昌則, 近藤 哲, 加藤 紘之
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1829-1833
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    今回我々はIIc型早期胃癌と診断され, 病理組織所見にて直下にアニサキスによる好酸球性肉芽腫を認めた1例を経験したので報告する. 症例は77歳の男性. 20年来の胃潰瘍の診断にてH2-blocker, 消化性潰瘍治療薬を内服していた. 平成14年9月, 定期検診目的の胃内視鏡検査にて胃体下部大彎側にIIc+III型病変を指摘, 組織生検にてgroup Vと診断され, 深達度がsm以上の可能性があるとして外科紹介, 幽門側胃切除術を施行した. 腫瘍は0.8×0.8cmのIIc型乳頭腺癌で深達度sm1, またそのほぼ直下の固有筋層内に好酸球性肉芽腫を認め, この中心部にアニサキス虫体を認めた. 連続切片からアニサキスはIIc部分から刺入したと思われた. アニサキスが癌や潰瘍など粘膜の脆弱部から胃壁内に進入する可能性はすでに指摘されているが, 本症例のごとく慢性化した場合, 虫体が鏡視下に視認出来ないため好酸球肉芽腫を癌の一部と誤認する可能性があり, 診断上注意が必要である.
  • 小淵 岳恒, 小西 小百合, 天谷 博一, 白石 享, 下松谷 匠, 丸橋 和弘, 中川 隆弘
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1834-1838
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    肝エキノコッカス単包虫症は本邦ではまれな疾患であるが, 海外渡航者の増加, 汚染地域からの移住者の増加により, 本邦での増加が考えられる. 今回, 肝エキノコッカス単包虫症の1手術例を経験したために報告する. 症例は55歳のペルー人女性で, 発熱, 上腹部痛を主訴に当院を受診した. 来院時, 低血圧, 頻脈を認め, 腹部中心に全身に発赤, 疼痛, 掻痒感を認めアナフィラキシーショック状態であった. 血液検査所見では炎症所見は認めず, 低酸素血症を認めた. 画像所見では, 腹部超音波, CT, MRにて肝外側区域に8cm大の嚢胞または膿瘍性病変が認められた. エコーガイド下に肝膿瘍ドレナージ施行したところ, 黄褐色の液体を採取し, 検鏡したところ単包虫を認めた. アルベンダゾール内服とし, 待機的に肝外側区域切除術を施行した. 肝嚢胞性疾患において本症例を念頭におき診断, 治療を行う必要がある.
  • 眞田 雄市, 栗田 啓, 棚田 稔, 高嶋 成光
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1839-1845
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    早期胃癌に合併した肝炎症性偽腫瘍 (inflammatory pseudotumor; 以下, IPT) を経験した. 患者は63歳の女性で, 心窩部痛を主訴に近医を受診した. 胃内視鏡にて, 胃角部に0I型の病変を認めbiopsy にてGroup Vが検出されたため, 当科紹介受診し, 手術目的で入院となった. 術前CTにて, 肝外側区域に径7cm の腫瘤を指摘され, 不均一な造影効果を伴い, 肝転移を疑った. 単発性であり他に転移巣を指摘されなかったため, 幽門側胃切除術, 肝左葉切除術を施行した. 病理組織学的検索にて, 胃の病変は0I型の粘膜内癌で乳頭状腺癌, リンパ節転移は認めなかった. 肝は, リンパ球, 形質細胞を中心とする炎症細胞浸潤が著明で, IPTと診断された. 癌に肝IPTを伴う場合, 肝転移との鑑別が問題となる. 近年の報告例を提示しつつ, IPTの画像診断, 臨床病理学的特徴について考察した.
  • 壁島 康郎, 田野 敦子, 亀山 哲章, 戸泉 篤, 田村 洋一郎, 影山 隆久
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1846-1850
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は54歳の男性で, 検診で貧血を指摘され当院を受診した. 盲腸癌・肝転移 (H3 (S6, S4, S8, S3, S7)) の診断のため入院となった (CEA: 95.0ng/ml). 入院時貧血 (Hb8.8g/dl) を認めたため, 原発巣治療目的で回盲部切除術を施行した. Moderately differentiated adeno-carcinoma n1 (+), se, ly1, v1であった. 肝以外に明らかな転移病変を認めず, 予後規定因子は肝転移病変と考え, 5-fluorouracil (5-FU), levofolinate calcium (l-LV), irinotecan hydro-chloride (CPT-11) による肝動注療法を施行した. 計6 クール動注療法を施行しPR (CEA: 10.6ng/ml) を認め, 根治目的に肝切除術を施行しえた. 初回手術後14か月の経過において明らかな再発の所見なく, 生存中である. 動注療法により良好な経過を示した1例を経験したので報告をする.
  • 近藤 哲矢, 角 泰廣, 村瀬 勝俊, 島本 強, 杉本 琢哉, 田島 吾郎, 尾関 豊
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1851-1856
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    十二指腸乳頭部癌に対する幽門輪温存膵頭十二指腸切除術 (以下, PPPDと略記) 後の良性胆管閉塞を経験したので報告する. 症例は63歳の男性で, PPPD術後3年目から発熱, 黄疸を繰り返していた. 4年後の入院時の血清総ビリルビン値は6.4mg/dlと高値を示した. 腹部CT, MRCPでは肝内胆管はびまん性に拡張していた. 肝内, 胆管空腸吻合部近傍の総肝管に異常所見を認めなかった. PTCD造影では左右肝管合流部直下でU字状の平滑な胆管閉塞像を認めた. PTCSでは総肝管閉塞部に悪性所見はなく, 胆管空腸吻合部の良性閉塞と診断した.内瘻化不可能のため胆管空腸再吻合術を行った. 胆管空腸吻合部は線維性にかたく狭小化し, 吻合口を確認できなかった. 左右肝管合流部と空腸を端側吻合した. 病理組織学的に吻合部直上の総肝管は, 内腔が消失し, 慢性線維性炎症を示したことから, 虚血による狭窄に加え胆汁うっ帯性の胆管炎が関与していた可能性が示唆された.
  • 春田 周宇介, 橋本 雅司, 飯塚 敏郎, 松嵜 理登, 的場 周一郎, 横山 剛, 宇田川 晴司, 澤田 壽仁, 渡邊 五朗
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1857-1861
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    出血性胆嚢炎はまれな疾患である. 抗凝固療法中に胆嚢内出血を発症し, 頸部嵌頓結石のため診断に難渋し, 特異な画像所見を呈した1例を経験した. 症例は69歳の女性. 主訴は上腹部痛. 大動脈弁置換術後の抗凝固療法中であった. 来院時, 貧血と肝機能障害があり, 超音波検査では胆石を認めるのみであった. 貧血が進行したためCT と超音波検査を再度行い, 胆嚢の著明な腫大と壁肥厚, 頸部嵌頓結石を認めた. 胆嚢内容は超音波検査やMRIで2層に分かれ水平面を形成していた. 胆石の頸部嵌頓と胆嚢内出血を伴う胆嚢炎と診断し開腹胆嚢摘出術を施行した. 摘出胆嚢には悪性所見を認めず, 出血性胆嚢炎と診断した. 抗凝固療法中の出血性胆嚢炎は本邦では6例の報告しかなく, 胆石発作を原因とした症例は本例のみである. 出血性胆嚢炎は画像診断の進歩により予後が改善している.
  • 吉田 信, 原 隆志, 高梨 節二, 石後岡 正弘, 樫山 基矢, 河島 秀昭
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1862-1866
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は78歳の女性で1999年10月に胆石胆嚢炎で当院入院し, ERCPで肝外胆管拡張を認めた. 2000年12月に胆管炎のため他医入院. ERCPで胆管結石なく肝外胆管は広範囲で狭窄し, 肝内胆管に一部狭窄を認めた. しかし, 全身状態を考慮しそれ以上の精査はされなかった.2002年5月に腹痛, 嘔吐あり胆石発作の診断で当院入院. 黄疸は認めず, ERCPで肝外胆管は広範囲で糸状に高度狭窄し一部憩室様突出を伴い, 肝内胆管B3やB8にも狭窄を認めた. 胆管癌の可能性は低いと考え原発性硬化性胆管炎と診断し, 腹腔鏡下胆嚢摘出術および肝生検施行した. 胆嚢結石2個以外に胆嚢体部に2.8×1.5cmのわずかに隆起する上皮性病変を認め, 病理組織所見で胆嚢癌, 深達度m と診断した. 術後経過良好でウルソデオキシコール酸300mg/日投与. 定期検査で経過観察中であるが癌の再発や黄疸もなく胆管像にも変化は認めていない.
  • 小田原 宏樹, 大和田 進, 川手 進, 織内 昇, 柏原 賢治, 森下 靖雄
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1867-1871
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    FDG-PETが悪性度の診断に有用であった早期胆管癌の1手術例を経験した. 症例は60歳の女性で, 右季肋部痛を主訴に近医を受診した. 超音波検査で胆管腫瘍を指摘され, CTおよびERCPでも中部胆管に腫瘤性病変を認めたが, 共に悪性所見に乏しかった. 細胞診ではclass IIであり, 良悪性の判断はつかなかった. FDG-PETでSUV3.6およびSUV比2.8とFDGの高集積を認めた. 以上より, 中部胆管癌の診断で, 幽門輪温存膵頭十二指腸切除, リンパ節郭清術を施行した. 中部胆管に長径約2cmの乳頭状腫瘍が存在し, 病理組織学的診断は早期の乳頭腺癌であった. 胆管癌と良性胆管腫瘍の鑑別は, 時に難渋することがあるが, 自験例ではFDG-PETにより悪性と診断し, 適切な治療が選択できた.
  • 土川 貴裕, 市村 龍之助, 阿部島 滋樹, 長谷川 直人, 菅野 紀明, 森山 裕, 川端 真, 浜野 哲男, 近藤 哲, 加藤 紘之
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1872-1876
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の女性で, 胆石, 総胆管結石による数回の手術歴がある. 繰り返す右季肋部痛を主訴に受診し, 腹部CT にて肝内胆管の著明な拡張および肝右葉の萎縮を認め, B3より経皮経肝胆道ドレナージ (percutaneous trans-hepatic cholangio drainage; 以下, PTCDと略記) を施行したところ, 粘度の高いゼリー状の胆道内容物を多量に認めた. CT, MRCP, PTCD造影の所見などから先天性胆道拡張症と右肝内胆管を主座とする粘液産生胆道病変の存在を疑い, 肝右葉切除, 胆管切除, 左肝管空腸吻合術を施行した. 摘出標本では, 上部胆管から右肝管入口部を中心に5.5×4cm大のIIa型隆起性病変が存在した. 組織学的には壁深達度mの高分化型腺癌で, 周囲組織への浸潤およびリンパ節転移は認めなかった. 術後27か月現在再発の兆候なく通院中である. 先天性胆道拡張症に粘液産生胆管癌を合併した症例はまれであると考えられ, 若干の文献的考察を含めて報告する.
  • 畑 泰司, 池田 正孝, 山本 浩文, 池永 雅一, 大植 雅之, 永野 浩昭, 関本 貢嗣, 中森 正二, 左近 賢人, 門田 守人
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1877-1882
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は68歳の男性で, 膵臓癌手術6日前に肺血流シンチ (SPECT) とCTを施行したところ, 無症候性の下肢深部静脈血栓症・肺塞栓症と診断した. ヘパリン12,000単位/日を開始し, 手術2日前のCTで増悪傾向は見られなかった. 術式は膵頭十二指腸切除術で, 術中はヘパリンを中断し弾性ストッキングと健足にフットポンプを使用して厳重な観察を行った. 術後1日目の下肢超音波検査では左大腿静脈にのみ壁在血栓を認めた. 術後出血のないことを確認し, ヘパリンを再開. 術後経過で肺塞栓症や深部静脈血栓症の増悪を疑う所見を認めず, 抗凝固療法による出血も認めなかった. 術後8日目の肺血流シンチで肺塞栓症は軽快していた. 術後肺塞栓症の中には, 術前からの無症候性肺塞栓症の術後増悪例も含まれていると考えられ, 特に悪性腫瘍患者においての周術期の診断と予防の重要性が示唆された.
  • 根塚 秀昭, 薮下 和久, 北條 荘三, 井口 雅史, 藤田 秀人, 山本 精一, 加治 正英, 前田 基一, 小西 孝司
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1883-1887
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    主膵管を経て消化管に出血する病態はhemosuccus pancreaticusと呼ばれ, 原因は膵仮性 胞内への脾動脈瘤の穿破が最多とされる. 今回, 我々は膵 胞性病変や動脈瘤を認めず, 動脈硬化性変化に基づく微小な破綻によって主膵管に出血した極めてまれな症例を経験したので報告する. 症例は79歳の男性で, 平成8年より度重なる吐下血をきたし精査受けるも原因は不明であった. 平成13年11月, 当院内科を紹介受診, 上部消化管内視鏡にて十二指腸主乳頭からの血液流出を認めhemosuccus pancreaticus と診断された. 血管造影検査にて出血部位が特定できず, 症状が増悪するため膵全摘術を施行. 病理学的に脾動脈の硬化性変化に基づく主膵管への微小な穿破が出血の原因と診断された. 出血源を特定できない消化管出血には本症を疑う必要があると思われた. また, 膵機能を考慮した治療法に関し今後も検討が必要と思われた.
  • 笠島 浩行, 諸橋 聡子, 吉崎 孝明, 大石 晋, 舘岡 博, 猪野 満, 武内 俊, 田中 隆夫
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1888-1893
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は70歳の男性で, 平成12年9月, 胃多発癌で胃全摘術を施行した. 平成14年10月の腹部CTで脾転移を疑われ, TS-1による化学療法を開始した. 平成15年2月のCTで腫瘍の増大傾向を認め, 他部位の転移を認めないため, 手術を施行した. 術中所見では脾に約10cmの腫瘍を認め, 横隔膜へ直接浸潤を示していたため, 横隔膜の一部を含めた脾摘術を施行した. 病理組織診断では原発巣と類似した中分化型腺癌の所見であり, 胃癌の転移と診断された. 術後1年を経過し無再発生存中である. 胃癌の脾転移は極めてまれであり, 同時性の脾転移は予後不良であるが, 孤立性異時性の脾転移は予後の改善が期待できるため, 積極的に手術するべきである.
  • 大石 純, 吉岡 晋吾, 牧 孝将, 冨田 昌良
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1894-1899
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    盲腸窩ヘルニアは後腹膜窩に腹腔内臓器が陥入する内ヘルニアの一つでまれな疾患である. 本邦報告は自験例2 症例も含めて49例であった. 症例1は89歳の女性で, 当院内科に心不全加療目的で入院中, 小腸イレウスを発症した. 保存的加療で改善なく当科転科となった. 腹部CTで盲腸窩ヘルニアを最も疑い緊急手術を施行し盲腸後窩ヘルニアと診断した. 症例2は59歳の男性で, 右下腹部痛で近医受診し小腸捻転症を疑われ当院紹介となった. 腹部超音波・腹部CTにて小腸の盲腸後窩に陥入する像を認め, 盲腸後窩ヘルニアの術前診断にて緊急手術を施行した. 本疾患は特異的な臨床症状はなく術前診断が困難とされてきたが, 右下腹部に自発痛や圧痛・腫瘤触知などの異常所見を認める報告が多い. さらに, 最近ではCTにより術前診断される報告が増えており, 本疾患の理学所見・CT所見・腹部超音波検査を認識しておくことが肝要であると思われた.
  • 遠野 千尋, 川村 秀司
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1900-1904
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    今回われわれは嵌頓鼠径ヘルニアの整復後に小腸狭窄をきたした症例を経験したので報告する. 症例は72歳の男性で, 2003年10月1日, 鼠径ヘルニア嵌頓から腸閉塞をきたし, 当院を受診した. 嵌頓鼠径ヘルニアによる腸閉塞の診断で入院し, 嵌頓を整復した. その後腸閉塞は改善し10月8日 (整復から7 日後) にヘルニア根治術を施行し, 退院した. しかし11月4日 (術後27日) に腸閉塞を再発し入院した. 諸検査にて小腸の狭窄を認めた. 保存的に加療したが狭窄の改善はなく, 11月18日 (術後41日) 開腹手術を施行した. 中部小腸に2か所の狭窄部を認め13cmの小腸部分切除術を施行した. 術後の病理組織学的検査では虚血性小腸炎と診断された. 嵌頓鼠径ヘルニアの症例に対して, 整復後にも虚血性小腸炎からの小腸狭窄が遅発性にありえることから, 慎重な経過観察が必要であると考えられた.
  • 田島 隆行, 向井 正哉, 檜 友也, 大谷 泰雄, 佐藤 慎吉, 中崎 久雄, 幕内 博康
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1905-1909
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は64歳の男性で, 約2か月前にイレウスで当院に入院したが, 自然軽快し退院した. 今回, 嘔吐を主訴に来院した. 腹部所見にて上腹部に疼痛を認めたが腹膜刺激症状は認めず, 腹部単純X線写真でイレウス像は認めなかった. 腹部CTで右下腹部に層状構造を認めたが, 採血所見上, 炎症所見は認められなかった. その後, 前回の入院時と同様に排ガス・排便を多量に認め症状も自然軽快した. 検査目的でイレウスチューブを約175cm挿入した. 小腸造影検査を施行したところ, 回腸内に直径4cm大の腫瘍性病変を認めた. 開腹手術を施行すると回盲部から約35cm口側に長径6cmの小腸重積を認めた. 腸重積を徒手整復した後, 小腸部分切除術を施行した. 病理組織学的所見は, 小腸脂肪肉腫と診断された. 以上より小腸脂肪肉腫が原因となり小腸腸重積症を発症した非常にまれな症例と考えられた.
  • 狩野 契, 鋤柄 稔, 高山 昇二郎
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1910-1913
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は43歳の女性で, 2002年7月12日より腹痛および下痢があり, 7月22日当院初診となった. 腹部超音波検査およびCT検査にて腸重積と診断. しかし, 腹部単純X線上イレウス像を認めず, 臨床症状も重篤ではなく, 本人の希望もあって経過を見ていた. しかし, その後も症状改善せず初診から9日後に開腹手術を行った. 手術所見では盲腸内の粘膜下腫瘍が先進部となり回腸が上行結腸内まで重積していた. これを用手的に圧出, 解除後, 回盲部切除術にて病変を摘出した. 切除標本は5cm大の粘膜下腫瘍で, 病理学的検索にて盲腸子宮内膜症と判明した. 腸重積を合併した盲腸子宮内膜症の報告は少なく, 本邦においては本症例が2例目, 国内外を合わせても6例目となる.
  • 森脇 義弘, 金谷 剛志, 小菅 宇之, 山本 俊郎, 杉山 貢
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1914-1919
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    重症骨盤骨折に合併した下腹部骨盤内血行障害に基づく直腸S状結腸壊死型虚血性腸炎でcolon castを排泄した1例を経験した. 66歳の男性で, 重量約2トンのショベルカーに腰背部から轢かれて受傷. 受傷直後は, 直腸損傷を疑わせる所見はなかったが, 第25病日肛門から160cmの管腔状壊死腸組織 (colon cast) を排泄. 第30病日内視鏡検査で直腸S状結腸壊死穿孔と診断し緊急手術とした. 限局した小骨盤腔膿瘍を認め, 横行結腸に双孔式人工肛門を造設した. 骨盤外傷患者は, 整形外科や救急・集中治療領域の診療科の管理下に置かれることが多く, 心臓血管外科の管理下にある腹部大動脈領域手術後患者と同様, 血行障害に基づく左側結腸・直腸の合併症が発生した場合, 消化器系医師に特殊病態下での消化器関連合併症という専門知識が要求される. まれな病態ではあるが消化器系医師の専門知識として念頭に置かなくてはならないと思われた.
  • 澤田 傑, 尾関 豊
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1920-1923
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は68歳の男性で, 急性虫垂炎の穿孔性腹膜炎と診断, 緊急開腹し虫垂切除およびドレナージ術を施行した. 術後病理組織検査で虫垂原発の中分化型腺癌を認め, 腹部CTでは肝右葉に計4個の肝転移を認めた. 初回手術3か月後, 結腸右半切除術, 肝右葉切除術を施行した. 病理組織検査では盲腸腫瘍は漿膜側から粘膜面に達する中分化型腺癌で脈管侵襲, リンパ節転移を認めた. 肝腫瘍はすべて中分化型腺癌で肝転移と診断した. 術後経過は良好で第28病日に退院した. 術後に化学療法を施行したが, 初回手術から12か月後に残肝, 肺, 腹膜胸膜に転移再発をきたし, 15か月後脳転移, 20か月目に死亡した. 虫垂癌肝転移例は予後不良であるが, 他臓器の遠隔転移や腹膜播種などがなければ肝切除を行うことで少なからず予後の改善が期待できると思われた.
  • 天本 明子, 三田村 篤, 高津 尚子, 福沢 太一, 河合 賢朗, 楠田 和幸, 鈴木 雄, 遠藤 義洋, 君塚 五郎, 北村 道彦
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1924-1929
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    イレウスの原因検査中, 下剤内服を契機に門脈ガス血症と広範囲腸管壊死を呈した閉塞性大腸炎, 穿孔性腹膜炎を併発した大腸癌の1例を経験した. 非常にまれで重篤な病態であったが, second look operationを前提とした緊急手術およびエンドトキシン吸着療法を含む集中治療により救命しえたので報告する. 症例は57歳の男性で, 検査の前処置の下剤内服後, 腹膜刺激症状と, 著明な炎症反応および代謝性アシドーシスが認められた. 腹部CT で腹水, free air, 肝内門脈内のガス像が認められ, 緊急手術を施行したところ, 便臭を伴う暗赤褐色の腹, と回腸末端付近からS状結腸までの広範囲腸管壊死, S状結腸に穿孔を伴った腫瘤を認めた. 循環動態が不安定のため壊死腸管の切除のみを行い, 37時間後にsecond look operationを施行, 小腸ストーマ造設を行った. 術後呼吸不全, DICを併発したが, 集中治療により全身状態は徐々に改善, 第59病日退院した.
  • 岡田 禎人, 鈴木 勝一, 中山 隆, 渡辺 治
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1930-1933
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は54歳の女性で, 下腹部痛を主訴に来院した. 下腹部に腫瘤を認め皮膚が一部自壊し便汁が流出していた. また尿中にも便が混じっていた. 腹部CTでは骨盤内の腫瘤と前腹壁に膿瘍腔を認めた. 注腸ではS状結腸からガストログラフィンが腹腔内に流出していた. また膀胱鏡では膀胱内に便汁を認めた. 患者は20年以上子宮内避妊具 (intrauterine contraceptive device; 以下, IUD) を装着していた. IUDを除去する際に行った子宮内スメアでは放線菌塊を認めたため, IUDの長期装着に伴い子宮骨盤放線菌症を来たし, これがS状結腸, 膀胱, 腹壁に進展し瘻孔を形成したものと診断した. 絶食, 抗生剤投与を行ったが改善が見られなかったため, 手術により瘻孔の切除と膿瘍のドレナージを行った. 術後経過は良好で, 腹壁の膿瘍は消失した. 術後7か月の現在再発を認めていない.
  • 岡本 規博, 丸田 守人, 前田 耕太郎, 桜井 洋一, 落合 正宏, 花井 恒一, 今津 浩喜, 升森 宏次
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1934-1938
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    異時性多発大腸癌の中で, 結腸ストーマに腺癌が発生する症例は極めてまれである. 著者らは直腸癌術後15年目に腫瘤が発生し, 20年目に手術を施行した症例を経験したので, 本邦報告例の検討を加え報告する. 症例は67歳の男性で, 1983年に下部直腸癌の診断でD3郭清を伴う腹会陰式直腸切断術が施行された. 術後他部位の再発は認めなかったが, 2003年8月に便秘とストーマの腫瘤増大を主訴に外科を受診した. ストーマには9.0×10cm大の巨大腫瘤が認められ, 腸管は圧排され狭窄を認めた. 生検では高分化型腺癌の診断で, 胃内視鏡検査では胃癌の合併が認められた. 遠隔転移を認めなかったため, ストーマ周囲皮膚を含めた結腸部分切除, ストーマ再造設, 皮弁形成術および幽門側胃切除術を施行した. ストーマ部の癌の病理組織学的所見は, 皮膚および腹直筋に達する高分化型腺癌で, 胃癌は早期癌であった.
  • 本橋 英明, 小畑 満, 森本 慎吾, 加藤 俊介, 桑山 隆志, 岡本 直子, 石田 孝雄, 杉原 健一
    2004 年 37 巻 12 号 p. 1939-1943
    発行日: 2004年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は86歳の女性で, 腹痛を主訴に外来受診し, 腹部単純X線検査にて腸閉塞と診断され入院となった. ガストログラフィン注腸検査ではS状結腸に高度の狭窄が見られ, 腹部造影CTで同部位に浮腫性変化による壁肥厚と憩室を認めたため, 憩室炎による腸閉塞と診断した. 大腸内視鏡は, 腸の屈曲が強く病変部まで挿入できなかった. 開腹するとS状結腸周囲は炎症が激しく, 強固に癒着していたが剥離可能であった. 口側の大腸は著しく拡張していたため大腸亜全摘を施行した. 切除標本の肉眼所見ではS状結腸は約6cmの壁肥厚を伴う狭窄が見られた. 病理組織学的所見では異型性のない大腸粘膜と, 筋層の肥厚, 著しい炎症細胞浸潤が認められ, 憩室による筋層の肥厚に, 浮腫性の変化が加わって狭窄がおきたと考えた. 悪性所見は認めなかった. 大腸憩室症の合併症は多彩であるが, 腸閉塞となり, 手術を要した症例の報告は少ないことから, 文献的考察を加えて報告する.
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