日本消化器外科学会雑誌
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38 巻, 11 号
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  • 奥村 浩, 夏越 祥次, 横枕 直哉, 松本 正隆, 愛甲 孝
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1637-1644
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    目的: 近年, 進行食道癌に対する治癒切除率の向上や予後改善の目的で術前化学放射線療法 (以下, CRT) 施行例が増加している. CRTの画像および組織学的効果判定は追加治療や予後の推測に重要である. 今回, 画像および組織学的効果判定の異同を是正し, 新たな効果判定基準の作成を試みた. 方法: 術前CRT施行後に切除された食道癌36例を対象とした. 食道癌取扱い規約に準じ, CRT後の画像および組織学的効果判定を行った後, 組織学的効果判定をもとに画像所見の再評価を行った. 結果: 画像効果はCR/PR/NCがおのおの0/26/10例, 組織学的効果はGrade 1/2/3がおのおの17/11/8例であった. Grade 1における画像所見の特徴は, 生検における癌細胞陽性であり, この所見に一致する16例中14例 (88%) がGrade 1であった. また, Grade 3の特徴は, X線上の縮小率75%以上かつ内視鏡像での隆起・潰瘍消失後瘢痕形成の存在であり, これらの所見を満たす5例全例がGrade 3であった. 以上のGrade 1と3の所見は多変量解析で有意なCRT効果の予測因子であった. 考察: 今回検討したX線と内視鏡の新たな効果判定基準では, 80%以上の確率で組織効果の推測が可能となった. 新たな効果判定基準を用いることによりCRTの継続や手術の選択, さらにCRT後の予後の推測に有用な情報を提供すると考えられた.
  • 阿古 英次, 山下 好人, 大平 雅一, 久保 尚士, 六車 一哉, 澤田 鉄二, 楠木 誠, 井口 広義, 山根 英雄, 平川 弘聖
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1645-1651
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    はじめに: 食道癌は重複癌の発生頻度が高く, なかでも頭頸部癌との重複頻度が高いと報告されている. 我々は頭頸部癌患者に対して上部消化管内視鏡スクリーニングを施行しており, 今回その成績ならびに食道重複癌の治療法について検討した. 対象と方法: 2000年から2004年10月までに当院耳鼻科における頭頸部癌患者の中で上部消化管内視鏡スクリーニングを施行した150例を対象とした. 結果: 150例中23例に単発ヨード不染帯, 38例に多発不染帯を認め, それぞれ5例と9例に食道癌を認めた. 食道頭頸部重複癌症例において, 頭頸部癌は14例中11例がstage IVであり, 食道癌は14例中13例が表在癌, うち5例は多発癌を認めた. また, SakeおよびBrinkman 指数は非重複癌症例に比べ有意差を認めなかった. 頭頸部癌の治療は全例に化学放射線療法 (うち5例に手術併用) を行い, 食道癌の治療が同時期の4例は食道癌も照射野に含めて治療を行った. 治療時期が異時の10例では頭頸部癌に対して根治的治療が行えている7例には食道癌の治療方針に基づき手術や内視鏡的粘膜切除術を行った. 考察: 頭頸部癌患者に対して上部消化管内視鏡スクリーニングにより食道癌の早期発見に努めることが重要と考えられた. このスクリーニングによって発見された食道癌の治療は, その治療時期や頭頸部癌の進行度により種々の治療法を選択する必要があると考えられた.
  • ss浸潤部の最大径からみた予後
    原 隆志, 河島 秀昭, 石後岡 正弘, 樫山 基矢, 高梨 節二, 吉田 信, 細川 誉至雄
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1652-1658
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    目的: ss胆嚢癌切除例の予後因子を検討し, ss浸潤部の水平方向最大径が予後因子となるかどうかを検討する. 対象と方法: 1975年6月から2002年9月までに当院で切除された胆嚢癌69例中, 深達度ssでhinf1aを含みbinf (+) を除外した28例を対象に病理組織学的結果と予後との関連を検討した. 結果: 男性6例, 女性22例, 平均年齢67.6歳 (45~82歳). 平均観察期間5.1年 (0.5~27.3年), 術死, 他病死を含む5年生存率は48.0%であった. 各術式間の予後に差はなかった. 肉眼型では乳頭膨張型, 結節膨張型, 組織型ではpap, tub1, 占居部位では体底部限局例, ly, v, pn, hmはいずれも陰性例が良好であったが有意差はなかった. em, bm陽性例はいずれも有意に予後不良で, n (+) の7例も有意に予後不良であった. INFαの5生率は83.3%と有意に予後良好であったが, 1例がn (+) で11か月後に癌死した. ss浸潤部の水平方向最大径10mm未満8例の5生率は83.3%と, 10mm以上 (34.3%) より有意に予後良好で, 死亡した1例はbm陽性で追加手術の許されなかった症例であった. 考察: 予後良好なss胆嚢癌の条件としてINFα, 浅いss浸潤などが報告されているが, 今回の検討ではss浸潤部の水平方向最大径10mm未満が予後良好な条件であった. EUSなどによるss浸潤の術前診断はある程度可能との報告もあり, 術式選択の際に有用な指標となりえると考えられた.
  • 矢野 浩司, 中野 芳明, 東野 健, 大西 直, 岩澤 卓, 木村 豊, 加納 寿之, 門田 卓士
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1659-1666
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    はじめに: 脾腫瘍に対する用手補助腹腔鏡下脾摘出術 (hand-assisted laparoscopic splenec- tomy; 以下, HALSと略記) の有効性については報告が少なく不明な点が多い. 対象・方法: HALSを施行した10例の脾腫瘍症例につきその術中, 術後経過, 術後回復をretrospectiveに検討した. 結果: 10例の脾腫瘍の内訳は5例が良性腫瘍, 5例が悪性腫瘍であった. 腹腔鏡手術から通常の開腹手術に移行した症例はなかった. 平均手術時間は170分 (100~310分), 平均術中出血量は105g (10~900). 摘出した脾臓の平均重量は478g, 平均長径は13cmであった. 脾臓の重量と大きさから, 50%の症例が脾腫症例であった. 術中術後の合併症はなかった. 術後理診断が転移性脾腫瘍と悪性リンパ腫であった4例については術後に全身化学療法が施行された. 平均術後経過観察期間26か月 (15~43か月) 中で全症例生存中である. ポート再発症例もなかった. 術後の排ガス期間, 第1歩行期間, 経口摂取開始期間, 在院日数, 硬膜外麻酔使用期間はそれぞれ, 1.8日, 1日, 1.5日, 10.8日, 3.1日であった. これらの結果は特発性血小板減少性紫斑病に施行した標準的腹腔鏡下脾摘出術13例と比較しても同等であった. 結論: HALSは良性, 悪性の脾腫瘍に対し良い適応になると思われた.
  • 五十嵐 誠悟, 富田 凉一, 福澤 正洋
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1667-1674
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    目的: 直腸癌低位前方切除術後肛門機能を陰部神経の運動枝と知覚枝から検討を行った. 対象: 直腸癌低位前方切除術 (D3郭清, 自律神経非温存) 術後症例28例 (男性19例, 女性9例, 47~77歳, 平均65.4歳) をsoiling陽性群14例 (A群; 男性10例, 女性4例, 66.8歳), soiling陰性群14例 (B群; 男性9例, 女性5例, 61.7歳) の二つに分類し, 対照症例29例 (C群; 男性19例, 女性10例, 40~66歳, 平均56.5歳) と比較検討を行った. 方法: 陰部神経運動枝はS2-4脊髄神経根磁気刺激 (SMS) を用いて伝導時間を, 知覚枝は肛門管粘膜電流感覚閾値測定法 (AMES) を用い検討した. 結果: SMS; A群はB, C群より有意に延長しており (それぞれp<0.01), B群はC群より有意に延長していた (p<0.01). AMES; C群では中部が最も鋭敏であった. A群では上 (歯状線より1cm上部)・中 (歯状線部)・下部 (歯状線より1cm下部) のいずれの部位において他の群に比べ最も不良であった. また, A群では上・中部において明らかにB群より不良であった (それぞれp<0.05). 結論: 低位前方切除術後のsoilingの原因に陰部神経の運動枝と知覚枝がともに損傷されて生じる可能性が示唆された.
  • 渡部 智雄, 笠巻 伸二, 河井 健, 佐々木 森雄, 松田 光弘, 冨木 裕一, 坂本 一博, 鎌野 俊紀
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1675-1683
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    大腸sm癌のリンパ節転移予測因子として癌の間質線維化反応desmoplastic re-action (以下, DR) の有用性について検討した. 対象: 外科的切除を施行した大腸sm癌59例. n (+) は9例 (15.3%), 組織型は高分化40例, 中分化19例とすべて分化型腺癌であった.方法: 大腸sm癌の臨床病理学的因子とDR発現の比較検討と, 生検組織標本のDR発現について検討を行った. 免疫組織化学染色でα-SMA (+), desmin (-) をDR 陽性と判定した.結果: DR発現は大腸sm癌59例中50例 (84.7%) に認められ, 24例 (41.4%) で表層のDR発現を認めた. sm1では14例中8例 (57.1%) に対し, sm2, 3で45例中42例 (93.3%) とsm2, 3で有意に高率にDR発現を認めた. また, n (-) 50例中16例 (32%) に対し, n (+) では9例中8例 (88.9%) とn (+) で有意に高率に表層のDR発現を認めた. 多変量解析による他因子との比較では独立性は認められなかった. 表層のDR発現は術前の生検組織45標本中22標本 (48.8%) で確認できた. n (+) で術前に生検を施行した7例中6例 (85.7%) で生検組織標本のDR発現を認めた. 考察: 表層のDR発現は大腸sm癌のリンパ節転移予測因子として有用であり, 生検組織標本でのリンパ節転移予測の可能性が示唆された.
  • 森 直樹, 藤田 博正, 末吉 晋, 田中 寿明, 田中 優一, 笹原 弘子, 的野 吾, 李 美慧, 山名 秀明, 白水 和雄
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1684-1689
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    アルカリ飲用による腐蝕性咽頭食道狭窄に対し, 食道バイパス術を施行した2例を経験したので報告する. 症例1: 47歳の男性で, 統合失調症に対し加療中, 10%水酸化カリウム液を盗飲した. 経過中に食道穿孔を来し, 縦隔・頸部ドレナージ術を施行. 発症から209病日に咽頭喉頭頸部食道切除, 胸壁前咽頭結腸胃吻合術, 永久気管瘻造設術を施行し, 経口摂取可能となり術後95病日に退院した. 症例2: 58歳の女性で, 自殺目的にパイプ洗浄剤を服用した. 発症より323病日に胸壁前咽頭結腸胃吻合術を施行するも術後誤嚥が改善せず, 術後181病日に喉頭挙上術, さらに術後219病日に喉頭摘出術を追加し, 経口摂取可能となり退院した. 腐蝕性咽頭食道狭窄の患者はしばしば背景に精神科疾患を有していたので, 術式特に喉頭を温存するか否かの選択には下咽頭病変の程度, 本人・家族の希望, 患者背景などさまざまな条件を考慮する必要がある.
  • 後藤 直大, 川崎 健太郎, 木村 泰之, 金光 聖哲, 大野 伯和, 神垣 隆, 市原 隆夫, 生田 肇, 黒田 嘉和
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1690-1696
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    魚骨による食道穿孔は比較的まれな疾患である. 今回当科では魚骨による食道穿孔から膿胸, 縦隔気腫を生じ開胸ドレナージ術を行った術後, 遅発性に仮性大動脈瘤を合併した症例を経験した. 症例は71歳の女性で, 発熱を主訴に発症, 近医で胸膜炎との診断で入院した. その後, 呼吸状態の悪化を来し食道穿孔との診断で当院へ転送された. 同日, 食道穿孔による膿胸および敗血症の診断のもと緊急手術を施行. 左胸腔内に膿瘍および食道近傍に魚骨の存在を認めたため, 異物除去とドレナージ術を行った. 術後は順調に経過したが, 術後13病日の胸部CTで仮性大動脈瘤形成を認めた. これに対し, 血管造影下でステントを留置した. 本症例は幸い救命できたものの, 治療開始まで時間を要したため, 仮性大動脈瘤という重篤な合併症を生じ, 長期入院を余儀なくされた. 早期に診断し, 治療を開始することが重要であると再認識させられた.
  • 赤木 純児, 高井 英二, 岩永 知大, 光野 利英, 蔵野 良一
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1697-1702
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    食道癌の小腸転移を経験したので報告する. 症例は66歳の女性で, 2003年9月に胸部食道癌にて, 食道切除および胃管再建術を受けている (moderately differentiated squamous cell car-cinoma, pAd n2 M0 stage III). 2004年7月下旬より, 嘔気・嘔吐が出現するようになり, 8月の腹部単純X線写真でニボーを認めたため, イレウスの診断で入院となった. 入院後の諸検査 (小腸造影X線検査, 腹部造影CT) にて, 回腸に狭窄部が存在すると考えられたため, 2004年9月イレウス解除術を施行した. 回腸末端部より約70cm口側に漿膜浸潤を示す腫瘍性病変を認め, 病理検索の結果食道癌の小腸転移と診断した. なお, 前胸部にも皮下に腫瘤を認め同時に切除し, これも食道癌の転移と判明した. 食道癌の小腸転移は極めてまれであり, 文献的考察を加えて報告する.
  • 石井 博道, 増山 守, 松村 篤, 森村 玲, 海老原 良昌, 鶴田 宏史, 渡辺 信介
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1703-1708
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    鈍的外傷による気管食道同時破裂は非常にまれな疾患である. 今回, 鈍的胸部外傷による気管食道同時破裂の1例を経験したので報告する. 症例は56歳の男性で, 転倒し鉄筋で胸部から頸部にかけて強打した. 来院時, 胸部から頸部にかけて広範に皮下気腫が認められ, 呼吸は努力様であったが意識はほぼ清明であった. 直ちに気管支ファイバー下に挿管しCTを撮影したところ, 胸骨柄の背側で気管が損傷していた. また, 食道内視鏡検査で同部位に長軸方向に約3cmの裂傷が認められた. 手術は胸骨縦切にてアプローチし気管, 食道の損傷部位を修復し, その後開腹し大網を損傷部周辺に充填した. 気管食道同時破裂に対して, この術式は非開胸操作のため比較的低侵襲で施行でき, また良好な視野のもと手術ができるため有効であると考えられた.
  • 河村 祐一郎, 井上 克彦, 大佐古 智文, 種子田 岳史, 花田 法久, 岡村 健二, 島尻 正平
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1709-1715
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    嚢胞内腔に早期癌を合併した胃重嚢胞の1例を報告する. 症例は64歳の男性で, 胆嚢炎の治療中に施行された上部消化管内視鏡検査にて残胃大彎側に粘膜下腫瘤を認め, その頂上にポリープ状の隆起性病変を認めた. 超音波内視鏡検査では, 腫瘤内部は均一低エコーで, 嚢胞壁の内腔の一部に不整を認めた. 腹部造影CTでは, 残胃大彎側に約2cmの嚢胞状病変を認めた. 胃粘膜下腫瘤について診断確定ができなかったため, 胆嚢摘出術と同時に胃粘膜下腫瘤切除術を施行した. 病理診断にて胃重複嚢胞と診断され, その内腔の胃粘膜上皮に類似した嚢胞内上皮の一部に腺癌を認めた. 胃重複嚢胞はまれな疾患であり, その悪性例は本症例を含めて8例と極めてまれな疾患である. しかし, 無症状で長期経過したと考えられる消化管重複症については, その悪性化例の存在も念頭におく必要がある.
  • 長田 博光, 横尾 直樹, 北角 泰人, 梁 純明, 吉田 隆浩, 北村 好史, 塩田 哲也, 岡本 清尚
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1716-1721
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は65歳の女性で, 左頸部腫瘤を主訴に近医より紹介受診した. 局所麻酔下左頸部リンパ節生検にて, 抗human chorionic gonadotropin (以下, HCG) 抗体染色陽性を示す腺癌細胞が証明された. 原発病巣の検索を行ったところ, 上部消化管内視鏡検査や腹部CTなどにより, 頸部・腹部大動脈周囲リンパ節転移を伴った噴門直下のHCG産生胃癌と診断した. tegafur・gi-meracil・oteracil potassium配合カプセル剤 (以下, TS-1) を用いた化学療法を2コース施行した. その結果, 腫瘍マーカーの正常化と, 画像上リンパ節腫脹消失を認めたため, 根治を目的に胃全摘術, 脾臓摘出術, D2郭清を施行した. その病理組織検査からもHCG産生胃癌と診断されたが, 大動脈周囲リンパ節など多数のリンパ節には転移の残存を認めた. 術後19日目より左頸部リンパ節再腫脹を含めた遠隔転移の急速増悪を認め, TS-1再投与するも効果が認められず, 術後102日目に永眠された.
  • 伊勢 憲人, 白山 公幸
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1722-1725
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は53歳の女性で, 突然の腹痛にて夜間救急外来を受診した. 既往歴は特記事項なし. 十二指腸潰瘍穿孔による汎発性腹膜炎と診断され緊急開腹し, 大網充填, 腹腔内洗浄ドレナージ術を施行した. 術前から高血圧, 洞性頻脈が認められた. 術後甲状腺腫大を認め甲状腺クリーゼを疑い, 甲状腺機能の精査を行った. 結果判明前に, 術後14時間後よりチアマゾール90mg/day, イオパミドール1ml/dayで開始し, 塩酸ジルチアゼムの持続静注を行った. その後, 採血結果から甲状腺機能亢進症と診断された. 術後経過は概ね順調で中枢神経症状, 心不全徴候を呈することなく, 術後5日目より経口摂取開始し, それに伴いチアマゾール, プロプラノロールの内服を開始した. 甲状腺機能も正常化したため術後15日目に退院した. 甲状腺クリーゼはまれであるが, 手術が誘因となりえ, 発症すると致死率が高いため, 常に念頭におく必要がある.
  • 村田 祐二郎, 坂東 道哉, 服部 正一, 森 正樹, 町並 陸生, 洲之内 広紀
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1726-1731
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は38歳の肝硬変の男性で, 腸閉塞症状を主訴に来院. 腹部CTで著明な腹水貯留, 一塊となった腸管を認め, 小腸軸捻転と判断し開腹した. 腹腔内は白色の硬く厚い被膜に覆われ腸管を識別できず, 萎縮した肝臓表面も同様の被膜に覆われていた. 手術所見より硬化性被.性腹膜炎 (sclerosing encapsulating peritonitis; 以下, SEPと略記) と診断した. 術後のステロイド療法により症状改善し, いったん退院したが, 激しい腹痛で再入院. 十二指腸球部の穿孔の診断で再開腹, 穿孔部閉鎖術を施したが, 縫合不全を起こし, 徐々に肝不全が進行し死亡した.SEPは肉眼的に “Cocoon-like appearance” を特徴とするまれな疾患で, 肝硬変に合併したSEPの報告例は極めて少ない. 特に, 本症例は肝硬変から特発性細菌性腹膜炎の状態にあったと考えられ, 腹腔内の慢性反復感染とSEP発症との関連性が示唆される点で重要と考えられた.
  • 太枝 良夫, 磯野 敏夫, 吉岡 茂, 若月 一雄, 貫井 裕次, 高橋 均, 鍋嶋 誠也, 西野 武夫, 高橋 年美, 宮崎 勝
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1732-1737
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    23歳の日本人男性に発症したリンパ節転移を認めた巨大fibrolamellar hepatocellular carci-noma (以下, FLCと略記) を切除し, 術後14年の無再発症例を経験したので報告する. 本疾患は特異な病理所見を有する肝細胞癌の特殊型で, 本邦では極めてまれとされている. 本症例は若年で, HBs抗原, HCV抗体がともに陰性, 非硬変肝からの発生であった. 腹部超音波およびCTにて肝右葉に直径16cm大の腫瘍が認められた. 造影CTおよび血管造影では腫瘍濃染像を呈し, 中心部は造影されず中心性瘢痕を思わせた. テクネシウムシンチグラムにて腫瘍部が欠損像を呈した. 以上より, FLCの診断にて肝右葉切除術, 肝門部リンパ節郭清術, 肝動脈カニュレーションを施行した. 下肝動脈リンパ節に転移を認めた. 病理組織学的には豊富な好酸性胞体を有する多形性の腫瘍細胞と層状の膠原線維束が認められ典型的なFLCと診断された.
  • 金本 秀行, 前田 敦行, 上坂 克彦, 松永 和哉, 伊在井 淳子, 古川 敬芳
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1738-1743
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は腹痛を主訴とする62歳の男性で, 2003年7月に左肝内胆管拡張と胆管内腫瘤の精査のため当院を初診した. 腹部CTにて左葉肝内胆管枝は著明に拡張し, 内部に腫瘍の充満を認めた. 直接胆道造影所見では, 腫瘤の下端は左右肝管合流部に及んでいた. 胆管内発育型の肝内胆管癌と診断し, 根治手術として肝左葉切除は必須と考えた. 患者はC型肝硬変であり, indo-cyanine greenテストは停滞率15分値37%,消失率0.089と不良であったが, CT volumetryで喪失する正常肝実質が少量であったことから耐術可能と診断した. 2003年8月肝左葉・尾状葉全切除, 肝外胆管切除再建術を施行した. 患者は合併症なく, 術後23病日に軽快退院した. 近年, 慢性ウイルス性肝疾患における肝内胆管癌の発生が注目されているが, 多くは腫瘤形成型の報告である. C型肝硬変に純粋な胆管内発育型肝内胆管癌が発生したとする報告はこれまでにない.
  • 林 洋子, 中崎 隆行, 福田 大輔, 地引 政晃, 谷口 英樹, 中尾 丞, 高原 耕
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1744-1749
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    患者は54歳の女性で, 腰背部痛を主訴に当院を受診した. 腹部CTにて肝S1および7領域の肝外側に径5cmのlow density areaを認め, 精査目的に入院となった. 腹部MRIでは, 腫瘍は肝内に一部進展を示すもののその主体は横隔膜であることから, 横隔膜原発の腫瘍と診断した. 肝右葉切除, 横隔膜合併切除術を行った. 病理学的診断は低分化型腺癌であった. 他臓器癌の横隔膜転移も考えられたが, 他に原発巣を認めず, 肝外発育型胆管細胞癌と診断した. 肝外発育型胆管細胞癌は本邦例を含めても報告例が極めて少なく9例目で, 若干の文献的考察を加え報告する.
  • 内山 周一郎, 豊永 健二, 旭吉 雅秀, 千々岩 一男
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1750-1755
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    内視鏡下生検による排膿で軽快後に再燃, 切除した盲腸周囲膿瘍の1例を経験したので報告する. 症例は52歳の男性で, 2週間持続する右下腹部痛と発熱のため入院となった. 腹部CTで回盲部に4cm大の腫瘤と多発する憩室を認め, 憩室炎に伴う盲腸周囲膿瘍と診断した. 保存的治療で症状が軽快したにもかかわらずCTおよび注腸造影で回盲部に腫瘤が残存しており, 腫瘍性病変の存在が疑われた. 大腸内視鏡検査では盲腸に発赤の強い結節状隆起を認め, 生検を施行したところ膿の流出を認め, その後腫瘤は縮小し軽快した. しかし, 7か月後に再燃し, 保存的治療で軽快せず回盲部切除を施行した. これまで報告された内視鏡的に排膿がみられた盲腸周囲膿瘍11例のうちで, 排膿で軽快後に再燃した症例はなく, 軽快後の経過観察では再発の可能性を考慮して厳重にfollowする必要があると考えられた.
  • 半田 寛, 原田 裕久, 小川 信二, 佐藤 道夫, 安藤 暢敏
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1756-1760
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は65歳の女性で, 右側腹部痛と嘔吐を主訴に近医を受診し, イレウスの疑いにて当院を紹介受診した. 開腹歴なし. 腹部は軽度膨満し軽い圧痛を認めるも, 腹膜刺激症状は認めなかった. イレウスチューブを挿入し経過観察としたが, 腹部CTにて拡張した小腸が結腸の腹側に存在し, また上部消化管造影にて十二指腸水平部を認めず, 小腸が右上腹部を屈曲蛇行していたことより腸回転異常症を疑った. 症状の改善を認めず4日後手術を施行した. 腹腔鏡にて観察すると肝下面と背側腹膜との間に膜性癒着が存在し, 膜内の直径2cmの裂孔に小腸が陥入していた. 陥入小腸を整復するのは容易で, その後ヘルニア門である裂孔を切開拡大した. 臍上にて小開腹を加えて全小腸を観察し, 血行障害のないことおよびnonrotationの腸回転異常症であることを確認した. 本症例のような腸回転異常症と非特異的な膜性癒着による内ヘルニアとの合併例の報告は稀少である.
  • 山口 智弘, 山下 哲郎, 小出 一真, 谷口 史洋, 塩飽 保博, 濱島 高志, 池田 栄人, 武藤 文隆, 栗岡 英明, 細川 洋平
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1761-1766
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    大腸癌の異時性脾転移の1例を経験した.症例は76歳の男性で, 平成5年4月他院で上行結腸癌に対し結腸右半切除術施行した.平成15年10月近医でCEA高値, 腹部超音波検査にて脾臓に直径10cmの腫瘤を指摘され紹介となった.腹部CTで腫瘤はlow density で, 横隔膜, 左腎臓に浸潤が疑われ, 左腎静脈背側にリンパ節腫脹を認めた.以上より, 大腸癌脾転移を疑い, 平成16年1月脾臓・左腎臓・左副腎摘出術と横隔膜合併切除術を施行した.摘出標本で脾転移巣は高度壊死に陥り, 左腎臓, 左副腎, 横隔膜に直接浸潤し, 組織学的に高分化から中分化腺癌であり, 大腸癌の孤立性脾転移が他臓器に浸潤したと考えられた.大腸癌の孤立性脾転移は非常にまれで, 術後10年目に再発した症例は報告がない.大腸癌術後でも長期フォローが必要で, CEA上昇を来した場合, 再発・転移巣の検索対象に脾臓も考慮にいれるべきと考えられた.
  • 境 雄大, 八木橋 信夫, 原田 治, 大澤 忠治
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1767-1772
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は75歳の男性で, 1週間の便秘と腹痛を主訴に当院救急外来を受診した.左下腹部に軽度の腹膜刺激症状を認めた.腹部造影CTにてS状結腸から直腸に多量の糞便の貯留を認めたが, 穿孔所見なく経過観察とした.翌日, 炎症反応著増, 腹部造影CTにて直腸壁外への糞便の漏出を認め, 宿便性大腸穿孔による汎発性腹膜炎の診断にて緊急開腹術を施行した.上部直腸に4.0cmの穿孔, 腸間膜内への糞便漏出を認め, Hartmann手術を施行した.術後に多臓器不全, 創感染, 腹腔内感染を来したが改善した.中枢神経症状が持続し, 臨床症状, 頭部CTにてBinswanger病の診断を得た.臨床症状が安定したため, 術後80日目に近医へ転院した.痴呆症状を有する高齢者では自覚症状が乏しいことがあり, 便秘を伴う突然の腹痛では宿便性大腸穿孔も念頭におき早期診断・早期治療を行うことが肝要である.
  • 永岡 栄, 板東 隆文, 磯山 徹, 遠藤 健, 酒井 敬介, 丸山 嘉一, 野地 満, 高山 尚久, 豊島 明
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1773-1777
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    当センターで胃癌に対して胃切除術を施行し, follow up 中に残胃の癌が発見され切除を施行した症例は15例であった.このうち噴門側胃切除術後の残胃の癌切除症例4例を詳細に分析した.これらは同時期に施行した噴門側胃切除術症例の2.8%であった.発見までの介在期間は11か月から4年2か月, 平均2.9年であった.発生部位は全例非断端部であった.全例早期癌であったが4例中3例は未分化型のSM浸潤癌であった.1例にリンパ節転移を認めたが観察期間4-125か月で全例無再発生存, 予後良好であった.初回術式は全例, 食道胃吻合術がなされており残胃の内視鏡での観察が容易であった.本邦における自験例を除く噴門側胃切除術後の残胃の癌24例の集計では, 介在期間の平均は7.0年, 組織型は分化型が多く, 残胃進行癌が多かった.以上の特徴を念頭におき, 計画的な経過観察により早期発見・治療に努めることが重要であると考えた.
  • 大迫 智, 鴻巣 寛, 山本 経尚, 藤原 郁也, 沢辺 保範, 白方 秀二
    2005 年 38 巻 11 号 p. 1778-1783
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は81歳の女性で, 腹痛を主訴に当院を受診し, 上腸間膜動脈血栓症の診断のもと緊急開腹手術を行った. 広範な腸管壊死を認めたため, 残存空腸50cmの大量腸管切除を余儀なくされた. 1期的に空腸下行結腸吻合を行ったが, 術後に縫合不全を来し, 空腸ストーマを造設した. 空腸ストーマ患者では, 短腸症候群による栄養障害のほかに, 大量のストーマ排液により脱水や電解質異常が問題となる. 本症例でも, 完全静脈栄養から経腸栄養に移行する過程で, 経静脈栄養量の減量や経腸栄養量の増量を行うと低ナトリウム血症などの電解質異常が生じた. これに対して, 経腸栄養剤の溶解液に食塩水を用いると血清電解質が安定し, 経静脈栄養から夜間持続経腸栄養と経口摂取への移行が可能となった. しかし, 経腸栄養剤は高浸透圧であるため, 脱水状態を助長する可能性があり, 適当な補液が必要である.
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