日本消化器外科学会雑誌
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38 巻, 12 号
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  • 野村 尚, 福島 紀雅, 高須 直樹, 飯澤 肇, 渋間 久, 池田 栄一
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1785-1794
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    はじめに: 中下部胃癌に対してはD2郭清を伴う幽門側胃切除術 (distal gastrectomy; 以下, DG) が標準術式として確立しているが, 早期癌には縮小手術も行われている. その一つに幽門保存胃切除術 (pyrolus preserving gastrectomy;以下, PPG) があり, 当院でも採用してきたが, その評価は定まっていない. アンケートによるquality of life (以下, QOL) の調査や内視鏡検査所見を用いてPPGの評価を行った. 対象および方法: PPGを施行した胃癌71例 (PPG群) を対象とした. 予後, 術後合併症, 愁訴に対するアンケート調査, 残胃内視鏡所見について, DGが行われた症例 (DG群) を対照に用いて検討した. 結果: 5生率には差がなかった. 術後早期の残胃内食物停滞はPPG群14.1%, DG群3.4%でPPG群に多かった. アンケート調査の結果, 逆流があると答えた人がPPG群13.4%, DG群38.0%, 早期ダンピング症状はPPG群36.2%, DG群60.5%で, これらはPPG群で少なかった. 内視鏡所見はPPG群の69.2%に食物残渣を認め, DG群の32.5%より高頻度であった. 残胃炎はPPG群33.3%, DG群68.3%, 残胃内胆汁逆流はPPG群5.1%, DG群22.0%とPPG群に少なかった. 考察: PPGはダンピング症状や胆汁の逆流, それによる残胃炎が少ないが残胃内の食物残渣が多かった. しかし, アンケート調査では残渣に起因する症状に差はなく, PPGを行うことでQOLの向上が望めると考えられた.
  • 服部 正一, 洲之内 廣紀, 町並 陸生, 森 正樹, 村田 祐二郎, 坂東 道哉, 正木 忠彦, 跡見 裕
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1795-1804
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    目的: 大腸癌におけるCA72-4組織内発現と予後・再発規定因子としての有用性を明らかにする. 対象と方法: 大腸癌手術症例211例を対象に, CEAおよびCA72-4免疫組織化学染色を施行した. CEA染色パターンはdiffuse cytoplasmic pattern (DC) とapicoluminal pattern (AL) に分類し, CA72-4染色パターンは陽性群と陰性群に分類して腫瘍全体 (CEAtumor/CA72-4 (tumor) cyto) と腫瘍先進部 (CEAmargin/CA72-4 (margin) cyto) で染色判定を行った. CA72-4では, さらに腫瘍組織内の間質または腫瘍内粘液結節を腫瘍細胞外 (CA72-4ex) と定義して染色判定を行った. 結果: 多変量解析による累積生存ではCA72-4ex分類が最も高いハザード比を示し, 陽性群が陰性群に比べ有意に予後不良であった. 染色パターン分類による再発後生存では, CA72-4ex 陽性群だけが陰性群に比べ有意に予後不良であった (p=0.0063). 再発形式ではCA72-4 (tumor) cytoとCA72-4ex陽性群に非血行性再発を含む症例が多く, 有意差を認めた (p=0.0232, p=0.0221). 考察: CA72-4ex陽性例は非血行性再発を伴いやすく予後不良であり, 術後再発時の治療方針決定に有用な指標となる可能性が示唆された.
  • 佐藤 弘, 坪佐 恭宏, 鵜久森 徹, 大曲 貴夫, 伊藤 以知郎
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1805-1809
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は79歳の女性で, 平成16年1月頃より嚥下時違和感が出現した. 前医で上部消化管内視鏡検査を施行 (GIF) し, 頸部食道癌疑いで当院に紹介された. GIFでは, 上切歯列16~19cmの右壁に約3cm大の瘻孔形成を伴う深い潰瘍性病変を認めた. 生検では強い炎症所見を伴う肉芽組織を認めた. CTでは101Rにリンパ節腫大を認め, 食道との間に瘻孔を形成していた. 喀痰培養検査ではMRSA・緑膿菌が陽性, 抗酸菌染色検査は陰性. 悪性所見が否定できないため, 6月上旬に手術を施行した. 食道壁に切開を加えた直視下の生検では, 肉芽腫性の炎症所見で, 抗酸菌染色検査が陽性であった. 結核性リンパ節炎による食道への瘻孔形成と判断し, 手術を終了した. 本症例はリンパ節転移を伴う頸部食道癌の画像所見と類似した結核性頸部リンパ節炎であり, 癌の確診がつかない場合, 結核性病変の可能性も十分考慮すべきである.
  • 金本 秀行, 上坂 克彦, 前田 敦行, 松永 和哉, 山口 茂樹, 小路 毅
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1810-1815
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は62歳の男性で, 2003年8月閉塞性黄疸・急性胆管炎のため前医を受診し, 当院へ紹介された. 初診時に, 経鼻胆道ドレナージチューブから粘液塊を含む胆汁排出を認めた. 腹部CTで, 下部胆管に胆管閉塞を伴う腫瘤像を認め, 肝S4に内部に充実性部分を伴う3.5cm大の嚢胞性病変を認めた. 胞性病変は, 胆管造影で胆管との交通を認め, 経皮経肝胆道鏡では嚢胞内腔壁にイクラ状の不整粘膜を認めた. 以上より, 粘液産生肝内胆管癌と下部胆管癌の重複癌と診断し, 2003年10月に肝左葉尾状葉切除, 膵頭十二指腸切除を施行した. 病理組織学的には, 肝内病変は豊富な粘液産生を示す乳頭腺癌であった. 下部胆管病変は高分化管状腺癌であった. 両病変間に連続性はなく, 最終的に粘液産生肝内胆管癌と肝外胆管癌の同時性重複癌と診断した. 患者は術後15か月現在, 無再発生存中である. 肝内胆管と肝外胆管の同時性重複癌の報告は初めてである.
  • 田中 麻紀子, 内藤 弘之, 山本 寛, 丹後 泰久, 谷 徹, 石田 光明, 九嶋 亮治, 岡部 英俊
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1816-1820
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は30歳の女性で, 5年前より特発性血小板減少性紫斑病 (idiopathic thrombocytopenic purpura; 以下, ITP) の診断のもと, 当院内科にて副腎皮質ステロイドによる治療が行われていたが, 血小板数の改善は不良であった. 今回, 血小板数が0.7×104μlまで減少したために脾臓摘出術を目的として当科外科に紹介となった. 術前にγ-グロブリン製剤の大量療法を施行したが血小板数の上昇は2.4×104μlにとどまった. Hand-assisited laparoscopic surgery (以下, HALS) による脾臓摘出術を施行し, 摘出脾臓の病理診断でsplenic marginal zone lymphoma (以下, SMZL) の診断を得た. SMZLは自己免疫性疾患の合併が報告されており, また本症例で脾臓摘出後に血小板数以外にPAIgG値の正常化が見られたことより, 本症例のITPはSMZLに伴って発症した可能性が示唆された. また, 脾臓摘出症例には本症例のような場合が存在し, 術後病理診断を確実に行うことが必要であると思われた.
  • 阪井 満, 竹田 伸, 石川 忠雄, 金住 直人, 井上 総一郎, 金子 哲也, 中尾 昭公, 長坂 徹郎
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1821-1827
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    膵管癌, 腺房細胞癌あるいは島細胞癌が混在する膵併存癌はまれであり, その報告は極めて少ない. 今回, 我々は膵管癌と腺房細胞癌の混在するmixed duct-acinar cell carcinomaの1切除例を経験したので報告する. 症例は63歳の男性で, 糖尿病のため近医通院中, 血糖コントロールの悪化があり, 精査にて膵頭部癌と診断され当科紹介となった. 腹部CTでは膵頭部に3.5cm大の境界不明瞭かつhypovascularな腫瘍を認めた. 腹部血管撮影では門脈へ直接合流する回結腸静脈にencasementが認められた. ERCPでは膵頭部領域における主膵管の途絶が認められた. CEAは軽度上昇, CA19-9は正常であった. 以上より, 膵頭部癌の診断の下, 回結腸静脈合併膵頭十二指腸切除術および術中照射を施行した. 摘出標本では, 膵頭部に浸潤傾向の強い充実性腫瘍を認めた. 病理組織および免疫組織学的検討により, 中分化型管状腺癌と腺房細胞癌の併存癌と診断された.
  • 原発臓器診断についての臨床的考察
    高橋 裕, 山口 哲哉, 武田 亮二, 坂田 晋吾, 山本 道宏
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1828-1834
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は61歳の男性で, 腹腔内嚢胞性腫瘤・腹膜偽粘液腫・早期胃癌の診断で開腹し, 巨大脾嚢胞摘出術と偽粘液腫除去手術のみ施行した. 免疫染色で腹水粘液はMUC1 (-) MUC2 (+) MUC5AC (+), 脾臓はmucinous epithelial cystで嚢胞壁細胞はCK-7 (-) CK-20 (+) CEA (+) Vimentin (-) を示し, 下部消化管に原発巣の存在が強く示唆された. 7か月後再開腹し, 胃局所切除術と虫垂切除術を施行, 粘液性腹水と腹腔内粘液腫の消失が確認された. 一方, 虫垂に粘液.胞腺癌が見い出され, 病理学的に虫垂原発腹膜偽粘液腫と最終診断された. 虫垂は外見上正常で病理学的に悪性度の低い病巣であるのに対し, 2次性脾病変が著明に巨大化した本症例の特異な病態の機序につき文献を参考に考察した結果, 虫垂の粘液嚢胞腺癌の粘液細胞が腹腔内に散布され, 一部が脾門部に集積して脾内に侵入し, 過剰生産されたMUC2ムチンが, 虫垂とは異なりドレナージ経路のない脾内に多量に貯留したものと考えられた.
  • 田中 千恵, 野崎 英樹, 小林 裕幸, 清水 稔, 佐々 実穂
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1835-1838
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は74歳の女性で, 平成13年11月検診で便潜血陽性を指摘された. 前医で下部消化管内視鏡検査を行い, 回盲部に粘膜下腫瘍を認めたが, 生検で悪性像を認めなかったため経過観察とされた. 平成14年5月下部内視鏡検査の生検でmucosa-associated lymphoid tissue (以下, MALTと略記) リンパ腫と診断され, 治療目的に当院紹介された. 採血上Hb 9.5g/dlと軽度低下を認めた. CT上回盲部に壁肥厚を認めた. 骨髄穿刺では異常を認めなかった. 以上より, 回盲部に限局するMALTリンパ腫の診断で平成14年7月回盲部切除術を施行した. 術後病理組織診断は虫垂原発のMALTリンパ腫であった. 腫瘍は漿膜面に露出していたが, リンパ節に転移は認めなかった. 術後経過観察しているが再発の徴候を認めない. まれな虫垂原発MALTリンパ腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 松田 明久, 橋本 正好, 桑名 壮太郎, 山門 進, 植木 信江, 古川 清憲, 田尻 孝
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1839-1843
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    日本住血吸虫卵が介在した多発早期大腸癌症例を経験したので報告する. 症例は85歳の女性で, 高血圧, 糖尿病で当院内科通院中, 血便を自覚し精査施行した. S状結腸に1'型の隆起性病変および上行結腸に多発ポリープを指摘され, 手術目的で当院入院となった. S状結腸切除および上行結腸粘膜切除術を施行した. 病理結果はS結腸が腺腫内癌, 上行結腸が腺腫 (2病変) と腺腫内癌 (1病変) であった. また, 摘出したS状結腸および上行結腸の粘膜下を中心に多数の日本住血虫卵を認めた. 日本住血吸虫症と大腸癌発生との関連性については相反する報告があり一定の見解を得ていない. 本症例は虫卵が非癌部の粘膜下層に多く認められ, 虫卵と発癌との因果関係を強く示唆するものではなかったが, 多発性病変を有することからpseudopolypからadenomaへ, さらには癌へ移行する発癌機序が完全に否定されるものではないと考えられた.
  • 木内 誠, 椎葉 健一, 佐藤 学, 金子 直征, 土井 孝志, 黒田 房邦, 小林 信之
    2005 年 38 巻 12 号 p. 1844-1849
    発行日: 2005年
    公開日: 2011/06/08
    ジャーナル フリー
    症例は75歳の男性で, 1996年に前立腺癌に対し前立腺全摘術を施行された. 排便困難を主訴に精査加療目的で当科紹介された. 血液検査では前立腺特異抗原 (以下, PSAと略記) が42.5ng/mlに上昇しているのみであった. 大腸内視鏡検査では肛門縁から約7cmに2型の腫瘍を認め, 生検の結果は低分化腺癌であった. CTおよびMRIでは直腸の壁肥厚と, この部位とは離れた左尿管開口部付近に約1.4cm大の腫瘍を認めた. 以上より, 前立腺癌の局所再発とRs直腸癌の合併例と診断し腹会陰式直腸切断術を施行した. 病理所見では漿膜側から粘膜下層にかけて低分化腺癌の浸潤増殖を認めたが, 粘膜層には一部にしか腫瘍細胞を認めず, 免疫染色ではPSA染色陽性であったため前立腺癌の直腸転移と診断した. 術後は抗アンドロジェン作用薬を経口投与している. 直腸癌との鑑別が困難であった前立腺癌の1 例を呈示し, この病態につき若干の文献的考察を加えて報告する.
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