日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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42 巻, 11 号
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原著
  • 島田 能史, 瀧井 康公, 神林 智寿子, 野村 達也, 中川 悟, 薮崎 裕, 佐藤 信昭, 土屋 嘉昭, 梨本 篤, 田中 乙雄
    原稿種別: 原著
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1643-1651
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     はじめに:大腸癌取扱い規約第7版(以下,第7版)では,腫瘍下縁がRSまたはRaの癌で3 cm,腫瘍下縁がRbの癌で2 cmの肛門側切離が必要であるとされている.直腸癌における肛門側癌進展(distal spread;以下,DS)に関する病理組織学的検討から直腸癌の肛門側切離範囲について検討した.方法:対象は直腸S状部癌および直腸癌213例.直腸間膜を含めた全割標本から,腸管壁内DSと直腸間膜内DSを検出し,それぞれの危険因子について検討した.また,第7版の定める肛門側切離範囲を超えるDSを高度DSとし,その特徴を明らかにした.結果:213例中31例(15%)にDSを認めた.内訳は,腸管壁内DSのみが20例,直腸間膜内DSのみが5例,腸管壁内DSと直腸間膜内DSの両者が6例であった.多変量解析では,腸管壁内DSの危険因子は組織型(tub2,por)と遠隔転移であり,直腸間膜内DSの危険因子は遠隔転移であった.高度DSは213例中3例(1.4%)に認め,全例がリンパ節転移を4個以上有するpN2症例であり,また3例中2例が遠隔転移を有していた.考察:遠隔転移を有する症例はDSを念頭においた手術が必要である.第7版の定める肛門側切離範囲は大部分の症例において妥当であるが,pN2症例や遠隔転移を有する症例の中には,高度DSを有する症例もあり,注意が必要である.
  • 森脇 義弘, 杉山 貢, 小菅 宇之, 鈴木 範行
    原稿種別: 原著
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1652-1657
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     はじめに:急速大量出血時には,アシドーシス,低体温,凝固障害が悪循環を形成し(lethal triad),ガーゼ圧迫留置などで対応しICUでの代謝失調補正に引き継ぐダメージコントロール(damage control;以下,DC)を要する.止血には長時間のガーゼ留置が有利だが,ガーゼ感染も懸念される.感染に対する安全性と限界を検討した.方法:腹腔内出血に対しDCとしてガーゼ圧迫留置法を施行,再手術でガーゼを除去しえた出血性ショックを伴う消化器・腹部手術24例を対象とした.除去ガーゼの細菌培養検査を行い,ガーゼ留置時間などとの関係を検討した.結果:ガーゼ留置は平均64.9時間,ガーゼの塗沫検査は全例陰性,培養検査は50.0%で陽性であった.術後1か月間の感染性合併症併発は16例,腹腔内感染は10例で,併発率は培養陽性例で高い傾向にあった.培養陽性例のガーゼ留置時間は陰性例よりも長かった(P=0.043).培養陽性率は36~96時間留置では一定,36時間未満で低値,97時間以上で高値の傾向にあった.97時間以上留置5例の陽性率は36~96時間の15例より高い傾向(P=0.053),121時間以上の3例の陽性率(100.0%)は36~120時間留置17例(47.1%)より有意に高値であった(P=0.009).初回手術時に消化管破綻のあった症例は培養陽性率が高い傾向にあった.結論:術中止血困難な急速大量出血例でのガーゼ圧迫留置で,止血とガーゼ感染防止の両立には,ガーゼは96~120時間以内に除去すべきと思われた.
症例報告
  • 塚原 哲夫, 磯谷 正敏, 原田 徹, 金岡 祐次, 亀井 桂太郎, 前田 敦行, 高橋 祐
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1658-1663
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は76歳の女性で,パーキンソン病と肺結核症手術の既往がある.2008年2月中旬に突然の腹痛が出現したため,当院救急外来へ搬送された.腹部は膨隆し,心窩部を中心に圧痛と筋性防御を認めた.腹部単純X線検査で胃の著明な拡張を認め,腹部CTでは胃拡張とともに多量の遊離ガス像および肝内門脈枝にガス像を認めた.以上の所見から,消化管穿孔性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.開腹すると胃前庭部が左上腹部へ短軸方向に180度捻転し,胃底部に穿孔部を認めた.間膜軸性胃軸捻転症に伴う胃穿孔と診断し,捻転整復,穿孔部切除,縫合閉鎖,胃前壁固定術を施行した.術後,左横隔膜下膿瘍を合併したが経皮的ドレナージによって軽快し,術後第45病日に退院した.門脈ガス血症と穿孔を伴った胃軸捻転症の報告は我々が調べえたかぎり国内外で1例のみと極めてまれで,自験例が2例目であり文献的考察を加えて報告する.
  • 五味 邦之, 梶川 昌二, 西山 和孝, 島田 宏, 矢澤 和虎, 代田 廣志, 中村 智次
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1664-1669
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は55歳の女性で,検診上部消化管内視鏡検査で十二指腸に巨大腫瘍を指摘され当院を受診.腫瘍は十二指腸球部に茎を有し,十二指腸下行脚に伸びる粘膜下腫瘍様の形態であり,超音波内視鏡検査よりBrunner腺腫が疑われた.出血,嵌頓の危険性があり悪性も否定できないため切除が必要と考えられたが,内視鏡検査では全容の把握が困難であり内視鏡的切除では出血などの危険性があるため開腹手術を施行した.摘出標本は6.5×1.5 cm大で,病理組織学的にはBrunner腺過形成であった.近年,Brunner腺過形成の切除方法として内視鏡的切除の報告例が増加しているが,本例のような巨大腫瘍に対しては外科的切除の方が安全であり,また切開部位としては術後狭窄を回避するために症例によっては胃前壁切開も有効であると考えられた.
  • 水本 雅己, 西村 理, 本庄 原, 松末 智
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1670-1675
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は60歳の男性で,乳頭部癌に対し,膵頭十二指腸切除術を施行した.肝腸間膜動脈幹から分岐する総肝動脈が上腸間膜静脈の背側から膵鈎部頭側にいたり,膵頭部膵実質を貫通していたが,膵実質を剥離して総肝動脈を温存した.腹側膵,背側膵は総肝動脈の走行部に連続する疎性結合織で隔たれており,発生に伴う肝動脈走向異常の形成が想定された.病理組織学的に中分化管状腺癌で,進行度はpT1,pN0,P0,M−,fStageIであった.肝門部腫瘍により術後32か月目に死亡し,この際行った剖検の結果,組織学的には高分化管状腺癌を示したことから,異時性肝門部胆管癌と判定された.乳頭部癌手術においては,術前から肝動脈走行を十分に把握することが重要であり,肝動脈血流の維持や重複癌を発生した際の治療も考慮したうえで,非浸潤癌においては肝動脈を温存,浸潤癌においては切除,再建することが必要と考えられた.
  • 大橋 洋一, 土田 憲, 櫻井 直, 佐藤 博子, 安田 幸治, 貝羽 義浩, 佐藤 馨, 山口 正明, 森谷 卓也
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1676-1681
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     消化管原発の悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma;以下,MFH)はまれな疾患である.なかでも,炎症性悪性線維性組織球腫(Inflammatory MFH)は報告例も非常に少ない.今回,我々は十二指腸原発Inflammatory MFHの1例を経験した.症例は60歳の男性で,右季肋部腫瘤にて紹介された.白血球数25,700/μl,granulocyte colony-stimulating factor(以下,G-CSF)=156 pg/mlと高値を示し,画像診断で十二指腸腫瘍と診断され,G-CSF産生十二指腸腫瘍疑いとして右半結腸切除術,膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的診断でInflammatory MFH,免疫染色検査で腫瘍細胞の細胞質内にG-CSFを認め,十二指腸原発G-CSF産生炎症性悪性線維性組織球腫と診断された.術後5年経過するが,再発は認めていない.文献的考察を含めて症例報告する.
  • 吉川 雅輝, 野末 睦, 小棚木 均
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1682-1686
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は56歳の男性で,4年前から慢性腎不全のため透析を受けている.今回,食後の右季肋部痛を主訴に来院.初診時,発熱と右季肋部圧痛を認め,Murphy徴候も陽性であった.血液検査で肝機能障害と炎症反応の上昇を認めた.画像検査では胆嚢の軽度腫大と壁の軽度肥厚を認めたが,明らかな結石はなかった.無石急性胆嚢炎として保存的に治療し,軽快したため退院した.しかし,その後も食後の右季肋部痛が続いたため,初診から4か月後に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.胆嚢結石はなく,病理組織学的検査では,胆嚢壁の線維化とアミロイドの沈着を認めた.術後,右季肋部痛は消失した.病理組織学的検査結果をふまえて可及的に他臓器のアミロイド沈着を検索したが認められなかった.何らかの機序で胆嚢にアミロイドが沈着し,それが原因となって急性胆嚢炎が惹起された極めてまれな例と考えられたので,文献的考察を加えて報告する.
  • 平光 高久, 永田 二郎, 大西 英二, 中西 賢一, 大屋 久晴, 西 鉄生, 間瀬 隆弘, 川崎 晋吾, 橋本 昌司
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1687-1692
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は70歳の男性で,主訴は心窩部から右側腹部の痛みであった.腹部USにて胆嚢腫大,胆泥を認め,ERCP,drip infusion cholangiography CT(以下,DIC-CT)で胆嚢は描出されなかった.胃内視鏡検査にて胃角部小彎後壁側に1型胃癌を認めた.さらに,胆泥などによる胆嚢管の閉塞が疑われたため,幽門側胃切除術,胆嚢摘出術を施行した.切除標本にて胆嚢管の硬化を認めた.病理組織学的には胆嚢管に漿膜下まで達する腺癌を認め,切離断端にも腫瘍組織を認めた.後日,肝外胆管切除術,肝十二指腸靭帯周囲リンパ節郭清術,胆管空腸吻合術を施行した.最終的な病理組織学的検査で,切除組織に腫瘍の遺残を認めず,Farrarの診断基準を満たす胆嚢管癌と診断した.術後2年経過したが,再発を認めていない.Farrarの診断基準を満たす症例はまれであり,自験例を含む本邦報告37例の検討を行った.
  • 岡本 佳樹, 因藤 春秋, 若林 久男, 鈴木 康之, 前場 隆志
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1693-1698
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は81歳の女性で,上腹部痛,嘔気嘔吐で近医を受診し,胆嚢の異常を指摘され,当院内科を紹介受診となった.CT,MRCP,ERCP,胃十二指腸造影などの検査所見から,胆石症および輪状膵と診断し,手術を行った.手術は開腹胆嚢摘出術,総胆管切石術の予定で開始した.膵頭部は十二指腸前面から右側方に約2/3周取り囲んでいた.摘出胆嚢には,体部腹腔側に18×15×2 mmの隆起性病変を認めたため,No12cリンパ節とともに,迅速病理組織学的検査に提出したところ,胆嚢癌とその転移と診断された.肉眼的漿膜浸潤はなく,年齢を考慮し,D2郭清のみ追加し,手術を終了した.術後経過は良好で,術後40日目に退院,4年6か月間,無再発生存中である.
  • 川口 耕, 伊藤 剛, 上田 英史, 佐々木 祐二, 當麻 敦史, 中村 憲司, 藤 信明, 真崎 武, 内藤 和世
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1699-1704
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は64歳の男性で,心窩部痛にて近医受診,腹部CTにて膵頭体部に嚢胞性病変を指摘され当院紹介となった.腹部CTで膵管の拡張,膵頭体部に最大径25 mm多房性嚢胞性病変を認めた.ERCPでは主乳頭の口側に副乳頭および粘液の流出を認め,拡張した背側膵管が造影され膵管外への造影剤の漏出,壁在結節を疑う所見を認めた.以上より,膵管癒合異常を合併し背側膵管から発生した分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary-mucinous neoplasm;以下,IPMN)と診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的診断では背側膵管に発生した混合型IPMN(adenoma)であった.非常にまれな膵管癒合異常を伴う背側膵管原発の膵管内乳頭粘液性腫瘍の1例を経験したので報告する.
  • 浜崎 景子, 中崎 隆行, 清水 香里, 進藤 久和, 佐野 功, 谷口 英樹, 高原 耕
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1705-1710
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     今回,我々は脾転移を来した非機能性膵内分泌腫瘍の1例を経験した.症例は63歳の女性で,HBVキャリアの経過観察中,腹部CTにて膵体尾部腫瘍,脾腫瘍を指摘され,当科紹介受診.腹部MRIにて脾静脈腫瘍栓を伴う,膵体尾部から脾門部および脾内に広がる腫瘍を認めた.病変は脾臓に占める割合が多く,脾静脈腫瘍栓も認めたことから脾原発腫瘍や脾門部発生腫瘍を疑い,膵体尾部脾合併切除術を施行した.肉眼的には膵腫瘍からの脾臓浸潤が疑われたが,病理組織学的診断は膵臓の悪性内分泌腫瘍であり,脾臓は孤立性転移であった.悪性非機能性膵内分泌腫瘍は比較的まれな疾患であるが,本症に孤立性脾転移を来した症例は極めてまれである.
  • 小薗 真吾, 千々岩 一男, 大内田 次郎, 今村 直哉, 旭吉 雅秀, 大谷 和広, 古小路 英二, 榮 建文
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1711-1716
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     膵頭十二指腸切除術後の門脈狭窄により発達した側副血行路からの消化管出血に対して,門脈内ステント留置が有効であったまれな1例を報告する.症例は49歳の男性で,2003年6月膵頭部癌に対し亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後補助化学放射線療法を追加,以後再発なく経過良好であった.2005年6月腹痛を伴う下血を認め,大腸憩室炎出血の診断で右半結腸切除術を施行したが,その後も下血を認め10月に再入院となった.門脈本幹の狭窄と肝管空腸吻合部周囲に静脈瘤を伴う側副血行路の発達を認め,小腸内視鏡で肝管空腸吻合部近傍の小腸粘膜に静脈瘤と潰瘍病変を認めた.門脈狭窄による消化管出血と診断し,経皮経肝門脈造影下に門脈狭窄部へ金属ステントを留置,側副路への血流は消失し,下血は認めなくなった.ステント留置後3年経過したが消化管出血なく門脈血流も良好で健在である.
  • 米沢 圭, 中川 淳, 後藤 俊彦, 張谷 素子, 小林 敏樹, 竹花 卓夫, 前田 賢人, 森木 利昭, 宮下 正
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1717-1722
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は55歳の男性で,激しい腹痛を主訴に当院に搬入された.腹部造影CTにて門脈から上腸間膜静脈(以下,SMV)にかけて血栓を認め,回腸の浮腫および腹水を認めたために門脈・SMV血栓症による回腸壊死の診断にて,緊急手術を施行した.腹腔内には漿液性の腹水を認め,回盲弁より20~70 cm口側の回腸が壊死していた.術中エコーにてSMVは塞栓しており,門脈本幹にも血栓が存在し,門脈血流の多くは脾静脈から流入していた.壊死腸管切除と腸瘻造設を行い,手術を終了した.24時間後にsecond-look operationを行ったが,新たな壊死腸管は認めなかった.将来的に門脈本幹の完全閉塞が危ぐされたため,門脈の血栓除去を行った.術後は抗凝固療法を行い経過良好にて退院した.原因検索をしたところ,プロテインS活性が41.1%と低下しており欠乏症と考えられた.プロテインS欠乏症に起因する門脈・SMV血栓症はまれであり,文献的考察を加えて報告する.
  • 山本 晃太, 竹上 智浩, 新海 宏
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1723-1727
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は77歳の男性で,回盲部を中心とした腸管壊死に対し同部位を緊急切除後も,食後の腹痛があり血管撮影検査で小腸が下腸間膜動脈のみで支配される腹部アンギーナと診断した.待機手術準備中に再度腸管壊死および汎発性腹膜炎を発症.自家静脈がなく,人工血管による血行再建を必要としたが,感染を考慮し腸切除のみとした.腹腔内汚染が落ち着いてから血行再建の方針として中心静脈栄養管理としていたが,腸管壊死が再度認められた.腸切除のみでは今後も腸管壊死を繰り返すおそれがあったため,緊急で虚血回腸切除・人工肛門造設・人工血管による上腸間膜動脈へのバイパスを施行した.術後経過は良好で,人工血管感染や短腸症候群を呈することなく人工肛門も閉鎖できた.腸切除と人工血管を使用する手術は2期的手術が原則であるが,止むを得ず行う場合には厳密な術中操作を施行すれば可能であると考えられた.
  • 成井 一隆, 渡會 伸治, 木村 準, 大田 貢由, 市川 靖史, 嶋田 紘
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1728-1732
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は69歳の女性で,41歳時に子宮頸癌の術後に放射線療法を受けた.2006年1月,放射線照射後から認めた下腹痛の増悪を自覚した.腹部CTで,回腸末端から約20 cm口側の回腸に結石と狭窄を認めた.下腹痛の原因は結石と狭窄と考え,2006年4月,手術を施行した.回腸の狭窄とその口側の拡張腸管内に結石を認め,回腸部分切除術を施行した.摘出標本の病理組織学的検査所見は放射線腸炎で,狭窄部は潰瘍瘢痕であり,狭窄の原因は放射線照射による潰瘍の瘢痕狭窄と考えられた.結石の主成分は胆汁酸であった.放射線照射後は,数十年が経過しても放射線腸炎に留意するべきであり,腸石症も考慮すべき病態の一つであると思われた.
  • 村岡 孝幸, 泉 貞言, 鈴鹿 伊智雄, 大橋 龍一郎, 徳毛 誠樹, 塩田 邦彦
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1733-1736
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     ストーマ旁ヘルニアはストーマ造設後にみられる後期合併症の一つであるが,絞扼性イレウスを呈するものはまれである.我々は先行する脱出腸管とは別係蹄の腸管が嵌入したことによって絞扼性イレウスを発症したと考えられる回腸導管ストーマ旁ヘルニアの1例を経験した.症例は86歳の女性で,30年前膀胱癌のために膀胱全摘術および回腸導管造設術を受けていた.数年前から回腸導管ストーマ旁ヘルニアを認めていたが,経過観察していた.平成20年1月起床後にストーマ周囲に著明な膨隆を認め,精査の結果回腸導管ストーマ近傍から小腸および結腸が脱出し,嵌頓していたため,緊急手術を施行した.ヘルニア嚢内には30 cmの回腸と5 cmの横行結腸を認めた.壊死した2か所の脱出腸管を切除し,ヘルニア門の単純縫合閉鎖を施行した.再発を認めず外来経過観察中である.
  • 諸橋 一, 山田 恭吾, 松浦 修, 山崎 総一郎, 藤田 正弘
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1737-1742
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は39歳の女性で,近医で卵巣腫瘍を指摘され当院婦人科に紹介となった.CA125の上昇と画像検査で骨盤内に充実性部分を伴う嚢胞性腫瘤が認められたことから左卵巣癌との術前診断で開腹手術が施行された.開腹時トライツ靭帯より約230 cmの小腸粘膜下に充実性部分と嚢胞部分からなる腫瘍が認められ,小腸部分切除が施行された.病理組織像では束状に配列する紡錘型細胞が認められ,免疫染色検査でc-KIT陽性のため,小腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)と診断された.嚢胞を伴う小腸GISTは比較的まれであり画像診断で卵巣腫瘍との鑑別に難渋した報告が散見される.骨盤内腫瘍において小腸GISTも念頭におき,原発巣を特定する検査を加える必要があると考えられた.自験例を含め,卵巣腫瘍と術前診断され,手術時に小腸GISTと診断された本邦報告9例について若干の文献的考察を加え報告する.
  • 田中 浩司, 中村 浩志, 桑原 博, 中島 和美, 五関 謹秀
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1743-1747
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は79歳の女性で,腹痛を主訴に当院を受診.触診上腹膜刺激症状がみられ,CTでは多量の遊離ガス像と多発S状結腸憩室および骨盤内に液体・空気貯留を伴った腫瘤を認めた.骨盤内膿瘍を伴ったS状結腸憩室穿孔による汎発性腹膜炎と診断し手術を施行した.術中所見では子宮底部が穿孔し,膿汁が漏出していた.また,S状結腸は浮腫状に壁が肥厚し,発赤・腫脹した左卵管と癒着していた.子宮留膿腫穿孔による汎発性腹膜炎,S状結腸憩室炎と診断し,単純子宮全摘左付属器切除,S状結腸切除,Hartmann手術を施行した.病理組織学的に子宮留膿腫の所見を認めた.原因として,S状結腸癒着部近傍の卵管壁内に食物残渣があり周囲に強い炎症所見を認めたことより,S状結腸卵管瘻が推測された.本症例は,S状結腸憩室炎に起因すると考えられた子宮留膿腫穿孔から汎発性腹膜炎を来したまれな症例であった.
提言
  • 松末 智, 西村 理, 吉村 玄浩
    原稿種別: 提言
    2009 年 42 巻 11 号 p. 1748-1754
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PD)施行を誰に委ねるのか,またその指導者の資格についての議論は十分でない.初回PD施行時の外科医の調査を行いこの問題を検討した.31年間に一定術式で施行されたPD 334例のうちシニアレジデントが初めて施行した18例(以下,R群)について診療録から外科医の情報と手術結果を調査した.同時期に新任スタッフが施行した8例(以下,S群)を対照とした.R群執刀医の経験年数の中央値は5.35年,S群13.2年であった.R群の指導助手は7人が担当し手術時経験年数は22年でPD経験数は19.5例であった.S群指導助手は2人で,経験年数とPD経験数は24年と42.5例であった.両群の手術時間,出血量,手術合併症,在院日数は変わらなかった.PDは特殊ではなく,地道な基礎的手技の修練と経験豊富な指導の基で十分な達成度が得られる.多症例施設は指導体制を整備し,PD施行医と指導医の効率的養成の責務を負う.
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