日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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42 巻, 4 号
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原著
  • 小林 大介, 本田 一郎, 加藤 伸幸, 坪井 賢治, 大河内 治, 松下 英信, 服部 正嗣, 高見 悠子, 橋本 良二
    原稿種別: 原著
    2009 年 42 巻 4 号 p. 339-346
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     はじめに:P0CY1症例の臨床病理組織学的因子,予後について検討し,P1症例と比較した.方法:当院で1996年から2005年までに手術を施行した656例の胃癌症例のうち,開腹時に腹腔洗浄細胞診(以下,CY)を施行した339例を対象とした.CYはPapanicolaou染色にて判定し,ClassVをCY1と診断した.結果:P0は281例でそのうちCY1は33例(11.7%)であった.P0CY1全例が深達度T3もしくはT4で,リンパ節転移陽性であり,P0CY0と比較してT因子,N因子の進展を認めた.生存期間を比較すると,P0CY0,P0CY1,P1の順に不良であった.腹膜播種陽性例を胃癌取扱い規約第12版に従い,P1,P2,P3に分類してP0CY1も含め比較したところ,P0CY1,P1はP3に比べ生存期間は長かった.また,P0CY1の腹腔洗浄細胞診における癌細胞数の多寡による比較を行うと,癌細胞数少数例のほうが多数例に比べ生存期間は長かった.胃切除,リンパ節郭清を行ったP0CY1のうち,有意差はないがMSTはD2群が497日,D0,D1群が264日という結果であった.考察:CY1は予後不良因子であるが,P1より生存期間は長い.腹腔洗浄細胞診における癌細胞数の多寡は予後予測因子になりうると考えられた.
  • 大嶋 野歩, 和田 道彦, 梶原 建熈, 細谷 亮
    原稿種別: 原著
    2009 年 42 巻 4 号 p. 347-354
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     はじめに:膵癌は予後不良の疾患であり,術後補助化学療法による予後の改善が期待されている.Gemcitabine(以下,GEM)による膵癌術後補助化学療法が,生存期間延長効果に寄与するかどうかを明らかにするため,GEMを用いた膵癌術後補助化学療法の治療成績とその解析を行い,主評価項目を全生存期間として検討した.対象と方法:1981年8月から2007年3月までに浸潤型膵管癌で当外科にて膵切除術を施行した症例213例(切除率55%)を対象とし,うち2002年1月から2007年3月までに,膵切除術後にインフォームドコンセントが得られた80症例をGEMによる化学療法群とし,術後補助療法なしに経過観察された133症例を経過観察群とした.結果:全生存期間でみると化学療法群では経過観察群に比べて有意に良好で(p=0.029;log-rank法),ハザード比は0.785(95%CI:0.642-0.949)であった.層別化因子では,癌遺残度R1例,リンパ節転移陽性例,門脈浸潤陽性例,神経叢浸潤陽性例,膵頭部癌例でそれぞれ経過観察群よりも,GEM投与群で有意に全生存期間延長効果が認められた.考察:膵癌術後GEM補助化学療法は生存期間延長効果があることが強く示唆された.画像診断上進行膵癌を疑っても積極的に切除を目指し,術後GEM補助化学療法を施行することは予後改善に寄与すると考えられる.
症例報告
  • 明石 義正, 出江 洋介, 加藤 剛, 三浦 昭順
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 355-361
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は49歳の男性で,嚥下時つかえ感を契機に受診され,食道胃接合部に2型進行癌を認めた.腫瘍周囲にはBarrett上皮を認め,生検では腺癌であった.腫瘍マーカーはα-fetoprotein(以下,AFP)89.8 ng/mlと上昇を認めた.CTでは噴門,小彎リンパ節に腫大を認め,T3N1M0 StageIIIの診断で左胸腹連続下部食道切除胃全摘術を施行した.病変の中心はBarrett上皮近傍であり,Barrett腺癌(食道胃接合部癌,Siewert typeII)と診断した.組織学的には中分化型腺癌像が主体であり,AFP染色で腫瘍細胞が濃染され,AFP産生癌と診断した.術後血清AFPは基準値以下へ低下し,以後上昇なく8年経過した現在も無再発生存中である.AFP産生食道癌は本症例を含めて本邦8例と比較的まれであるが,他のAFP産生消化器癌と同様に予後は不良と考えられる.しかし,根治切除ができれば長期生存を得ることもできるため,切除可能症例に適切な術式を選択することが重要である.
  • 渡辺 剛, 伊丹 淳, 近藤 正人, 宮本 心一, 吉澤 明彦, 坂井 義治
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 362-367
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は58歳の女性で,主訴は嚥下困難.平成17年12月より食事摂取時の咽頭痛を自覚し,その後,嚥下困難が出現した.嚥下困難は徐々に増悪し,平成18年3月には,固形物の摂取が不可能となった.食道腫瘤は頸部食道内腔を占め,長径約5 cm,表面は正常粘膜に覆われた茎を有するポリープ様の形態であった.CT,MRIにて周囲浸潤像を認めず,生検にて悪性所見を認めなかったことから,良性食道ポリープと診断し内視鏡的ポリープ切除を施行した.病理組織学的検査結果は小細胞癌であった.術後6か月に局所再発を認め,30 Gyの照射単独で完全寛解となり,以後,現在まで新たな再発を認めず生存中である.内腔を占居するような発育形態を示す頸部食道ポリープは,そのほとんどが良性腫瘍とされる.しかし,頻度は少ないが,ポリープ様形態を示す,いわゆる特殊型の悪性腫瘍が存在することを念頭におき,鑑別診断をする必要がある.
  • 森山 秀樹, 山村 浩然, 北村 祥貴, 西田 佑児, 竹原 朗, 芝原 一繁, 佐々木 正寿, 小西 孝司
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 368-371
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は18歳の女性で,自動車運転中の自損事故で受傷し,当院へ救急搬送された.シートベルトは着用していなかった.腹部全体が板状硬で上腹部に著明な圧痛を認めた.腹部CTで腹腔内遊離ガスを認めた.外傷性消化管損傷による汎発性腹膜炎が疑われたため緊急手術を施行した.腹腔内には血性の腹水があり,胃前庭部の離断を認めた.幽門側胃切除を施行し,Billroth II法再建,Braun吻合を行った.術後経過は良好で術後15日目に退院した.他臓器の損傷を伴わない外傷性胃離断の報告は今までに1例もない.その発生機序を考察し報告する.
  • 高橋 孝行, 藤崎 真人, 平畑 忍, 前田 大, 戸倉 英之, 大山 隆史, 塩田 規帆, 石松 久人, 星野 好則, 清水 和彦
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 372-376
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は71歳の男性で,左側腹部痛を主訴に近医で胃内視鏡検査を行い,活動性潰瘍を認め,生検で高分化型管状腺癌と診断され当院紹介となる.胃内視鏡検査では胃体下部小彎後壁にIIc+III型胃癌および潰瘍瘢痕による大彎からのひきつれを認めた.その3週間後に行った造影検査では,胃体部後壁に中心陥凹を伴う粘膜下腫瘍様病変が新たに観察された.腹部CTでは明らかなリンパ節の腫大を認めず.術前は早期胃癌と粘膜下腫瘍の診断で,D1+β郭清を伴う腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を施行した.病理組織学的診断ではIIc+III病変は中分化型管状腺癌(SM,ly1,v1,N0),粘膜下腫瘍様病変はシナプトフィジン・NSE陽性で内分泌細胞癌と診断された(MP,ly2,v2,N1).胃内分泌細胞癌は術前診断が難しく予後が極めて不良とされるが,術後1年6か月の現在,無再発生存中である.内分泌細胞癌と腺癌の同時性多発胃癌の報告例は自験例を含め5例とまれであり,文献的考察を加え報告する.
  • 吉川 幸造, 島田 光生, 栗田 信浩, 岩田 貴, 西岡 将規, 東島 潤, 宮谷 知彦, 近清 素也, 中尾 寿宏, 小松 正人
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 377-381
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は77歳の男性で,8年前より本態性血小板血症の診断でアスピリン,ヒドロキシカルバミドの内服で治療をされていた.心窩部の不快感を主訴に近医で胃内視鏡検査を施行したところ,U領域に胃癌が認められ手術目的に紹介となった.術前7日前よりアスピリンを中止し,ヘパリンの経静脈投与を開始し,ヒドロキシカルバミドを術前2日前に中止した.手術は腹腔鏡補助下胃全摘出術を施行した.術後はヘパリン,アスピリン,ヒドロキシカルバミドを投与し血小板をコントロールし,血栓などの合併症を引き起こすことなく退院となった.本態性血小板血症は血栓などの合併症の報告があるために,周術期には血小板のコントロールや厳重な抗凝固治療が重要である.検索した範囲では本態性血小板血症を合併した消化管癌に対して腹腔鏡での治療例は本例が1例目であった.
  • 山本 晴美, 永野 靖彦, 中嶌 雅之, 藤井 正一, 國崎 主税, 佐々木 毅, 嶋田 紘
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 382-387
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は74歳の女性で,2007年2月心窩部痛を主訴に近医を受診し,腹部超音波検査で膵頭部近傍の嚢胞性腫瘤を指摘され当院を受診した.腹部CT,超音波,MRI検査で肝尾状葉に内部に造影効果を示す隔壁のある7 cm大の多房性の嚢胞性腫瘤を認め,一部に石灰化を伴っていた.肝粘液性嚢胞腺腫(mucinous cystadenoma;以下,MCA)と診断し,肝左葉・左尾状葉切除術を施行した.摘出標本は,5.5 cm大の多房性嚢胞性腫瘍であり,嚢胞内容は淡黄色透明の粘液であった.病理組織学的検査で嚢胞壁は粘液を有する円柱上皮で被覆され,一部に卵巣様間質に類似する部分を認めた.異型は認められず,肝MCAと診断した.尾状葉原発の肝MCAはまれな疾患で,本邦報告は3例のみである.嚢胞腺腫と嚢胞腺癌を術前に鑑別することは困難であり,肝MCAと診断しても経過観察はせず外科的切除が必要である.
  • 伊地知 秀樹, 寺師 貴啓, 白石 猛, 高橋 郁雄, 和田 寛也, 西崎 隆, 小林 雄一, 上甲 康二, 村田 繁利, 大城 由美
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 388-393
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は62歳の女性で,前医で膵嚢胞を指摘され当院紹介受診となった.腹部CT上,膵頭部に径9 cmの嚢胞性腫瘤を認め,膵体尾部は欠損していた.Positron emission tomography/CTにて腫瘤に一致して,18F-fluorodeoxyglucoseの異常集積亢進認められたため,悪性の可能性も否定できず手術施行した.術中腫瘤内溶液を穿刺吸引し迅速細胞診断に提出したところ悪性所見は認められなかった.腫瘤を切開すると,内腔には泥状物質が認められたため一部摘出した.迅速病理組織学的診断の結果,充実性腫瘍であり核異型が認められ癌の可能性が否定できなかったため根治術を施行した.術後の病理組織学的検査ではsolid-pseudopapillary tumorの診断であり,腫瘍は静脈侵襲,膵後面リンパ節転移を認めた.悪性所見を示すsolid-pseudopapillary tumor,とりわけ膵体尾部欠損症に合併することは極めてまれであり,文献的考察を加えて報告する.
  • 川口 雅彦, 島田 雅也, 福本 将人, 加藤 秀明, 渡邊 透, 佐藤 博文
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 394-398
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は45歳の男性で,数日前から胃部不快があり下血を主訴に来院した.既往歴は8年前の急性膵炎で,嗜好歴は一日飲酒2合,タバコ20本であった.来院時にショックおよび貧血は認めず,膵酵素や炎症反応の異常も認めなかった.CTにて脾動脈に連続する脾仮性動脈瘤と慢性膵炎所見を認め,結腸への瘻孔形成が疑われた.開腹手術にて脾仮性動脈瘤を瘻孔形成した横行結腸とともに膵尾部脾合併切除を行った.術後経過は良好であった.脾仮性動脈瘤の結腸穿通は本邦では3例目であった.また,脾仮性動脈瘤は比較的まれで脾真性動脈瘤と混同しやすいが,破裂危険率が高く迅速な診断と治療を要する.
  • 大高 和人, 森田 高行, 藤田 美芳, 岡村 圭祐, 山口 晃司, 阿部 元輝, 川村 武史, 高橋 利幸
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 399-403
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は77歳の男性で,2006年11月よりイレウスを繰り返し前医で加療され,2007年2月に精査目的で当院へ紹介.腹部CTで小腸に重積像を認め,小腸内視鏡検査で空腸に隆起性病変を認めた.小腸腫瘍と診断し腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行した.病理組織学的診断は低分化の小腸平滑筋肉腫であった.術後5か月目にUS,CT,MRI,positron emission tomographyを施行するも異常所見は認めなかった.術後6か月目に腹痛で受診.腹部CTで骨盤腔内に10 cm大の腫瘤を認め腸間膜血腫の診断で入院.4日後に施行した腹部CTで血腫の増大傾向を認めたため,血腫を含めた小腸部分切除術を施行した.病理組織学的に平滑筋肉腫の腸間膜再発と診断された.免疫組織化学染色検査ではαSMA,desmin陽性,KIT,CD34陰性であった.現在,小腸において平滑筋肉腫と診断される症例はまれであり,極めて悪性度の高い疾患群であると考えられる.
  • 中野 雅人, 飯合 恒夫, 寺島 哲郎, 川原 聖佳子, 岩谷 昭, 丸山 聡, 谷 達夫, 長谷川 剛, 味岡 洋一, 畠山 勝義
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 404-410
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     近年,非ステロイド性抗炎症薬(Nonsteroidal antiinflammatory drugs;以下,NSAIDs)により,下部消化管病変を発生しうることが明らかになってきた.今回,我々はNSAIDs投与によると考えられた大腸穿孔・穿通を2例経験したので報告する.症例1は75歳の女性で,lornoxicamにより横行結腸,下行結腸に穿通を来し,左半結腸切除術を施行した.症例2は72歳の女性で,sulpyrineにより終末回腸,横行結腸に穿孔を来し,S状結腸にも多発潰瘍を認めたため,回盲部,横行結腸,S状結腸の部分切除術を施行した.2例ともNSAIDs開始後1週間前後で穿孔・穿通を来しており,また穿孔・穿通部以外にも多発潰瘍を認めた.NSAIDsによる下部消化管穿孔・穿通例では,病変部が広く,非連続性で,複数ある可能性があるため,術中内視鏡の使用も含め,切除範囲の決定を慎重に行う必要があると考えられた.
  • 梅原 誠司, 廣中 愛, 山口 明浩, 内山 清, 清水 義博, 南川 哲寛
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 411-416
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は51歳の男性で,肝機能障害加療中に下血が出現し,大腸内視鏡検査で下行結腸潰瘍を認めたが,生検組織は非特異的炎症のみであった.退院2日後,再下血による出血性ショックで救急搬送され,内視鏡的に止血できなかったため緊急手術となった.結腸の潰瘍が脾臓と膵臓へ穿通しており,穿通部を含む結腸,脾臓,膵尾部を切除した.組織学的検査では病変部の壊死が高度で浸潤細胞の変性が著しいため,原因疾患を特定できなかった.術後8日目に縫合不全を合併し人工肛門造設術を行ったが,以後の経過は良好であった.術後71日目に急激な肝機能障害を認め,劇症肝炎と診断した.集中治療を開始したが術後77日目に死亡し,剖検から肺,肝,腎臓への多発性転移を伴う,左結腸部原発natural killer/T細胞性悪性リンパ腫と診断された.原因不明の結腸潰瘍では,頻度は低いが悪性リンパ腫の可能性も考慮し,詳細な全身検索および病理組織学的検索が必要である.
  • 豊坂 昭弘, 村田 尚之, 三嶋 康裕, 安藤 達也, 大室 儁, 関 保二, 金廣 裕道
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 417-423
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     日本で受けた男性性転換手術後に晩期合併症として超高位の直腸膣瘻を経験し局所的に閉鎖しえたので報告する.患者は33歳で,7年前に男性から女性への性転換手術を受けた.3年前から人工膣から出血,排便をみている.注腸および内視鏡検査で,直腸S状部の超高位の直腸と人工膣が大きな瘻孔を形成していた.まず人工肛門を造設し,2か月後経仙骨的経路で手術を施行し癒着に難渋したが瘻孔を閉鎖した.術後は順調に経過し,2か月後人工肛門を閉鎖した.現在術後1年3月経過し再発はなく,美容的にも満足している.術後は再発の恐れから膣は使用されていない.本例は解剖学的に通常では発生しえない直腸S状部の超高位の直腸膣瘻であり,このような超高位の直腸S状部の直腸膣瘻の報告は内外とも見られず,局所的手術で修復した報告も見られないので報告した.本例での瘻孔の原因は人工膣内へ狭窄防止用ステントの使用による圧迫壊死であった.
  • 間 浩之, 前田 敦行, 岡村 行泰, 石井 博道, 大城 国夫, 金本 秀行, 松永 和哉, 上坂 克彦
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 424-429
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は53歳の男性で,2002年6月に直腸癌に対して低位前方切除術が施行され,術後テガフール・ウラシルによる化学療法を受けた.2004年7月に肺転移に対し肺切除を施行した.2007年3月に閉塞性黄疸が出現し入院となった.血液検査では総ビリルビン値は6.3 mg/dl,CEAは103 ng/mlと高値であった.CTでは膵頭部に石灰化を伴う造影効果の乏しい16 mmの腫瘍を認め,上流側総胆管・主膵管の拡張を認めた.また,総胆管内への腫瘍進展も認めた.直腸癌術後膵転移を第1に考え亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.大腸癌孤立性膵転移はまれな病態で,転移性と原発性膵癌の術前鑑別診断は一般に困難である.本例では腫瘍内石灰化,胆管内腫瘍進展を伴っており大腸癌膵転移を強く疑った.本邦での大腸癌膵転移報告例23例を集計すると膵転移切除後1年未満の早期死亡例は5例みられたが,1年以上の生存例は12例確認された.以上から,長期生存のためにも外科的治療は選択されうると考えた.
  • 沖野 哲也, 栗崎 貴, 大原 千年, 内野 良仁, 三角 郁夫
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 430-435
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は74歳の女性で,肝浸潤を伴う胃癌にて胃全摘+肝外側区域切除を施行した.第1病日,突然頻脈と呼吸促拍が出現し,胸痛はないものの胸部違和感を訴えた.トロポニンTとbrain natriuretic peptide(以下,BNP)は上昇を示したが,心筋逸脱酵素は正常であった.胸部写真で心拡大と,心電図の前胸部誘導でST上昇を認めた.心エコーで心基部の過収縮と,広範囲の壁運動低下を認め,蛸壺様の特徴的な所見からたこつぼ型心筋症と診断した.第6病日,著明な低酸素血症とショック状態となり人工呼吸管理を要した.胸部写真でうっ血と肺炎像を認め,肺炎による増悪が考えられた.肺炎の改善につれ全身状態は改善し,術後3週間で左室壁運動も正常化した.たこつぼ型心筋症は非心臓疾患が誘因となり手術以外でも麻酔,内視鏡検査,その他外科的処置などで発症するとされ,外科医が日常臨床の身近なところで経験する疾患であるとの認識が重要であると考えられた.
  • 森 隆太郎, 永野 靖彦, 上田 倫夫, 松尾 憲一, 國崎 主税, 嶋田 紘
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 42 巻 4 号 p. 436-441
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     症例は79歳の男性で,平成9年,右前腕の皮下型平滑筋肉腫に対し腫瘍切除術,その後切除断端陽性で追加切除術の既往があった.平成15年11月に頸部精査のため施行したcomputed tomography(以下,CT)で肝腫瘍を指摘され,当科を紹介受診した.腹部超音波,造影CTおよびsuperparamagnetic iron oxide(SPIO)造影MRI検査でSegment(以下,S)4/5/8に径35 mm,S8に径15 mmの腫瘍を認め,肝生検所見から前腕皮下原発の表在性平滑筋肉腫の多発肝転移と診断し,肝拡大S4切除,およびS8部分切除術を施行した.術後4年経過し,無再発生存中である.表在性平滑筋肉腫はまれな疾患であり,この中でも皮下型は再発,転移とも高率で予後不良とされる.しかし,転移巣の完全切除により長期無再発生存が得られたので報告した.
臨床経験
  • 小島 泰樹, 松井 隆則, 上村 孝法, 藤光 康信, 呉 成浩, 小島 宏, 三澤 一成, 木下 敬史, 藤原 道隆
    原稿種別: 臨床経験
    2009 年 42 巻 4 号 p. 442-447
    発行日: 2009/04/01
    公開日: 2011/12/23
    ジャーナル フリー
     腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(laparoscopy-assisted distal gastrectomy;以下,LADG)に対してbody mass index(以下,BMI)およびCT計測による内臓脂肪量が及ぼす影響について検討した.対象は,2007年3月より2008年2月までの間に,術前診断にてT1N0でかつ内視鏡治療の適応のない胃癌に対してLADGを施行した16症例とした.手術時間・出血量およびBMIあるいは内臓脂肪量との相関関係を解析した.さらに,領域別郭清時間を対象とした解析も行った.BMIと手術時間・出血量との相関がみられた(r=0.63,0.60).内臓脂肪量値のほうが,BMIよりそれらと強い相関を示した(r=0.74,0.68).領域別郭清時間では,リンパ節No.4d,6の郭清,No.7,8a,9郭清の区間の症例間格差が大きく見られ,この所要時間は内臓脂肪量と相関した(r=0.55,0.66).LADGでは,対象症例,手技が均一化されているため,手術時間や出血量に関する肥満の影響が統計として現れやすいと思われる.
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