日本消化器外科学会雑誌
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43 巻, 1 号
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原著
  • 京兼 隆典, 弥政 晋輔, 澤崎 直規, 東島 由一郎, 後藤 秀成, 大城 泰平, 渡邉 博行, 田中 征洋, 高木 健裕, 松田 眞佐男
    原稿種別: 原著
    2010 年 43 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     はじめに:胃十二指腸潰瘍穿孔に対する腹腔鏡下手術の限界は明確ではない.腹腔鏡下手術の成功例と後日開腹を必要とした開腹移行例の比較から,腹腔鏡下手術の適応の限界を明確にすることを目的とした.方法:2000年1月から2008年3月までに,当院で腹腔鏡下手術を行った胃十二指腸潰瘍穿孔64例を対象とし,これらを後日開腹術を必要とした開腹移行例(A群)5例,腹腔鏡手術成功例(B群)48例,術中開腹移行した症例(C群)11例に分け,比較検討した.結果:A,B群間の比較では,年齢,性,穿孔部位,腹部理学的所見,体温,発症から受診までの時間,白血球数,血清CRP値,いずれも有意差はなかった.術前腹部CTで肝周囲腹水15 mm以上の症例は全例A群で,差は有意であった.10 mm以上,かつ骨盤内に腹水貯留を認める症例は有意にA群に多かった.また,穿孔径が10 mmを超える症例は有意にA群に多く,15 mmを超える症例はA群にのみ存在した.術後経過に関する検討では,C群はA群と異なり,合併症発生率,食事再開までの期間,術後在院日数,すべてB群と有意差はなかった.考察:術前腹部CTによる腹水の量と広がり,穿孔径が,腹腔鏡下手術を行った場合の治療困難予測因子と考えられた.これらの因子を参考に,開腹するかどうかの判断は,術前あるいは腹腔鏡下手術中に行うことが良好な術後経過につながるものと考えられた.
  • 高橋 崇真, 宮田 完志, 渡邊 真哉, 湯浅 典博, 竹内 英司, 後藤 康友, 三宅 秀夫, 長澤 圭一, 大森 健治, 小林 陽一郎
    原稿種別: 原著
    2010 年 43 巻 1 号 p. 10-19
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     背景と目的:クリニカルパス(以下,CP)は消化器外科領域でも有用性が報告されているが,イレウスに関するものは少ない.我々は癒着性イレウスに対して経鼻胃管による減圧を初期治療の基本とするCPを導入したのでその意義を明らかにする.対象:CP導入前後の48例と68例.方法:導入前後で在院日数,入院医療費を比較し,CP完遂・逸脱を検討した.結果:1)CP完遂率は79%で完遂例の平均在院日数は8.8日であった.2)在院日数はCP導入前後で平均16.5日から14.4日にやや減少し,特に保存的治療例では平均12.6日から9.2日と有意に減少した(p=0.045).入院医療費も平均458,950円から436,310円にやや減少したが,1日当たりの入院医療費は平均28,310円から30,370円と有意に増加した(p=0.018).3)入院後1日目からの24時間の経鼻胃管からの排液量はCP完遂例と逸脱例では大きく異なり,これが270 ml以上の場合は85%の症例がCPを逸脱し,有意にCP完遂・逸脱と関連していた(p<0.0001).考察:癒着性イレウスに対するCP導入により在院日数・入院医療費ともに減少し,1日当たりの入院医療費が有意に増加した.経鼻胃管からの排液量測定はCP完遂・逸脱の予測に有用である.
  • 工藤 大輔, 大橋 大成, 赤坂 治枝, 神 寛之, 小山 基, 豊木 嘉一, 村田 暁彦, 鳴海 俊治, 鬼島 宏, 袴田 健一
    原稿種別: 原著
    2010 年 43 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     はじめに:近年の大腸癌化学療法の進歩に伴い,多くの肝転移症例で切除術が選択しうるようになりつつある.一方で,化学療法が肝障害を引き起こす例も報告されてきている.そこで,術前に化学療法が行われた大腸癌肝転移切除症例について,病理組織学的な類洞拡張や脂肪肝炎の程度を検討した.方法:2004年1月から2008年12月に行われた大腸癌肝転移切除例48例を対象とし,化学療法の内容と切除正常肝の病理組織学的障害度について検討を行った.結果:類洞拡張スコアは化学療法非施行群で1.17±0.41,5-FU単独群で0.92±0.49,5-FU+イリノテカン群で2±0.82,5-FU+オキサリプラチン群で1.66±0.66であり,5-FU+イリノテカン群と5-FU+オキサリプラチン群で化学療法非施行群,5-FU単独群に比べて有意に類洞拡張スコアが高かった.しかし,術後合併症の発生頻度については有意差を認めなかった.非アルコール性脂肪肝炎スコアについては各群間に有意な差を認めなかった.結語:術前にイリノテカンやオキサリプラチンを含む化学療法が行われた大腸癌肝転移症例では,術後合併症発生頻度は増加しなかったが,病理組織学的に類洞拡張が出現する頻度が高かったので,耐術性の判断を厳密に行い術後合併症発生に留意すべきであると考えられた.
症例報告
  • 川崎 誠一, 佐藤 弘, 坪佐 恭宏, 小野 裕之, 寺島 雅典
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は72歳の女性で,2005年6月頸部食道癌,cT2N0M0,stage IIAと診断され,根治的化学放射線療法(chemoradiotherapy;以下,CRT)を施行された.完全奏功状態(complete response;以下,CR)を維持していたが,約10か月後に再発した.上部消化管内視鏡検査で頸部食道に原発巣の再燃を認め,さらにCTで右頸部リンパ節転移を診断した.Endoscopic mucosal resection(以下,EMR)とphotodynamic therapy(以下,PDT)で食道病変の局所治療を行い,47日後に右頸部リンパ節郭清を行った.術後2日目に頸部食道穿孔を認め,保存的加療行うも改善なく,大胸筋皮弁による瘻孔閉鎖術を行い閉鎖した.本邦では頸部食道癌再発に対してPDTと頸部郭清を施行し,食道が穿孔したとする報告はなく,文献的考察を加え報告する.
  • 衣笠 章一, 西 健, 立花 光夫, 上田 修平, 下条 芳秀, 久長 恒洋, 山本 徹, 百留 亮治, 平原 典幸, 田中 恒夫
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は64歳の男性で,貧血精査の内視鏡検査で胸部下部食道に0-IIc病変を指摘され生検にて高分化扁平上皮癌と診断された.左声帯膜様部にも白板病変を認め,高分化扁平上皮癌と診断された.食道癌の深達度は超音波内視鏡検査にてsm1,CTにて気管分岐部のリンパ節腫大を認めるも生理的な腫大と判断した.胸腔鏡補助下食道亜全摘術(D3)および腹腔鏡補助下胃管による再建術を施行した.喉頭癌(T1N0M0,Stage I)には同時にレーザー切除が施行された.術中No. 109左リンパ節が食道外膜に浸潤する所見を認めた.術後の病理組織学的診断では,食道癌は高分化扁平上皮癌pT1aN0M0,Stage 0で郭清リンパ節59個中扁平上皮癌の転移はなかったが,No. 109左と107リンパ節はCD79aとL26が陽性でdiffuse large B cell lymphomaと診断された.術後R-CHOP療法3クール,放射線照射後外来通院となった.
  • 原田 昌和, 岩谷 泰江, 中川 元典, 藤 勇二, 永江 隆明, 野明 俊裕, 荒木 靖三
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 38-43
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は55歳の男性で,嘔気,嘔吐を主訴に当院を受診し精査・加療目的で入院となった.胃透視検査では幽門部狭窄を認め,胃拡張の状態であった.胃内視鏡検査では内視鏡は容易に十二指腸まで通過し,胃・十二指腸に悪性を疑う粘膜病変は認めなかった.おのおの生検を行ったが異常は認めなかった.CTでは幽門部の壁肥厚を認めた.確定診断は得られなかったが,癌を否定できないため,壁肥厚部を含めた幽門側胃切除を施行した.摘出標本よりAL型アミロイドーシスと診断され全身検索を行ったが,他臓器へのアミロイド沈着は認められなかった.また,胃以外の消化管からもアミロイド沈着は認められず,胃に限局したアミロイドーシスと診断した.胃限局性アミロイドーシスは,本邦で詳細に報告した症例は19例と比較的まれな疾患であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 川井田 博充, 板倉 淳, 河野 寛, 日向 理, 藤井 秀樹
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は48歳の女性で,検診の腹部超音波検査で膵体部に腫瘤を指摘された.腹部造影CTで膵体部に多血性腫瘤を認め,肝S4,S8にも濃染する腫瘍を認めた.Gd-EOB-MRIで,S4の腫瘤は動脈相で濃染し,肝細胞相は染まり抜けはほとんど認められなかった.膵内分泌腫瘍(islet cell tumor;ICT),肝転移の疑いで膵体尾部切除,脾合併切除,肝S4部分切除術を施行した.S8は生検にて悪性所見は認められず切除は行わなかった.病理組織学的には膵腫瘤は免疫染色検査でグルカゴンが陽性であり内分泌腫瘍と診断された.肝腫瘤は炎症細胞の浸潤と繊維性結合織の増生が認められ炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor;IPT)と診断された.
  • 楠本 英則, 水島 恒和, 位藤 俊一, 水野 均, 杉村 啓二郎, 中川 朋, 岸本 朋也, 今北 正美, 岩瀬 和裕, 伊豆蔵 正明
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は76歳の女性で,平成19年1月褐色尿を自覚し来院した.精査の結果,高ビリルビン血症および総胆管腫瘤,総胆管の拡張を指摘された.ERCPにても中部胆管に造影欠損を認め総胆管腫瘍が疑われた.CEAは7.4 ng/ml,CA19-9は40.9 U/mlとともに軽度上昇を認めた.胆汁細胞診,ERCP時の胆管擦過細胞診の結果はClass IIIであったが,胆管癌の可能性があり,手術を施行した.術中超音波検査にて茎を持つ胆管内に発育する3 cm大の腫瘍を認めた.術中迅速診断の結果,低悪性度の間葉系腫瘍であったため,胆管切除術,胆嚢摘出術,胆管空腸吻合術を施行した.術後,病理組織学的検査の結果,巨細胞腫と診断された.術後再発なく経過している.肝外胆管に発生した巨細胞腫は過去5例しか報告されておらず極めてまれな症例を経験したので報告する.
  • 中沼 伸一, 萱原 正都, 中川原 寿俊, 伊藤 博, 田島 秀浩, 藤田 秀人, 北川 裕久, 藤村 隆, 太田 哲生
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は30歳の男性で,体重120 kg,BMI 41の高度肥満であった.重症急性膵炎と診断され当院に紹介された.CTでは両側胸水,膵実質の不明瞭化,後腎傍腔に及ぶ滲出液が認められた(Grade IV).また,SIRS,急性循環不全の状態であった.入院後4病日,炎症反応の持続とCTにて膵頭部の血流障害が認められ,感染性膵壊死と判断し,necrosectomyを行った.腸管・組織浮腫のため,閉腹によるabdominal compartment syndromeが危ぐされたため,術後zipper techniqueとして衣類圧縮用袋を腹壁に固定し,腹腔内洗浄を伴うplanned necrosectomyを継続し,残存膵壊死組織の除去を行った.退院1年目の現在,患者は職場復帰している.衣類圧縮用袋を用いたzipper techniqueは高度肥満を有する感染性膵壊死の術後に有用な処置と考えられ若干の文献を加え報告する.
  • 渋谷 雅常, 寺岡 均, 中尾 重富, 玉森 豊, 新田 敦範
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     膵頭十二指腸切除後の膵液瘻は治療に難渋する合併症の一つである.膵液瘻の多くは保存的に軽快するが,完全外膵液瘻の場合,自然軽快は期待できない.瘻管消化管吻合術などの外科手術などが報告されているが手術の難易度も高いことが多い.今回,膵頭十二指腸切除術後に発生した難治性膵液瘻に対して非観血的に内瘻化し良好な結果が得られたので報告する.症例は77歳の女性で,膵管内乳頭粘液性腫瘍の診断で膵頭十二指腸切除術を施行した.術後わずかに膵液瘻を認めていたが軽快したため,術後21日目に膵管チューブを抜去した.その後よりドレーン排液量が増加したため,ドレーン造影を施行したところ,主膵管と腸管の交通が消失しており完全外膵液瘻と診断し,自然治癒は不可能と判断,X線透視下にドレーン瘻孔より挙上空腸を穿刺し,非観血的内瘻術を施行した.経過は良好で,内瘻化後より約1週間で退院し,約3か月後に内瘻化チューブを抜去,膵液瘻は閉鎖した.
  • 寺師 貴啓, 伊地知 秀樹, 丸山 晴司, 島袋 林春, 小林 雄一, 上甲 康二, 吉岡 真二, 村田 繁利, 大城 由美, 西崎 隆
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 66-71
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は63歳の女性で,近医でC型慢性肝炎経過観察中にCA19-9,ALTの上昇を認め,当院紹介受診した.造影CTでは膵体尾部腫大と膵体部側腹側に8 mm,背側に5 mmの低吸収性腫瘤を認めた.MRIでは二つの腫瘤はT2強調像で高信号を呈し,EUS,ERCPでは二つの低エコー性腫瘤と10 mmの主膵管狭窄を認めた.Positron emission tomography(PET)-CTでは膵体尾部に30 mmの低吸収域とF-18 fluorodeoxyglucose(FDG)集積亢進を認めた.膵体尾部癌を疑い,膵体尾部切除,脾臓合併切除,リンパ節郭清を施行した.標本にて膵体尾部に不整形腫瘍を認めた.病理組織学的検査にて腫瘍部は膵管癌と内分泌癌が接しており衝突癌と考えられた.リンパ節転移は内分泌癌,膵体尾部腫大部は慢性膵炎であった.膵臓の管状腺癌と内分泌癌の衝突癌はまれであり報告した.
  • 谷口 浩一, 遠藤 格, 矢澤 慶一, 松山 隆生, 松尾 憲一, 諏訪 宏和, 田中 邦哉, 秋山 浩利, 今田 敏夫, 嶋田 紘
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 72-76
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は67歳の女性で,慢性関節リウマチで通院中に血液生化学検査で閉塞性黄疸を指摘された.腹部dynamic CTで膵頭部に3.5 cmの低吸収域を認め,また上腸間膜動脈根部に4 cm長の著明な狭窄と胃十二指腸動脈からの膵頭動脈アーケードの代償性拡張を認めた.開腹生検で腺癌の確診を得た後,膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PD)の方針となった.まず,上腸間膜動脈根部および各分岐のテーピングを行い,ドップラー血流計にて血流を測定した.下膵十二指腸動脈,第一空腸動脈をクランプしても上腸間膜動脈末消の血流低下を認めず,これらを結紮切離した後にPDを施行した.切除後は中結腸動脈から逆行性の血流供給を認めた.術後経過は良好で,第20病日に軽快退院した.本症例はPD後の腸管虚血が懸念されたが,上腸間膜動脈分枝の先行処理により血流が保たれることを確認したうえで安全に切除することが可能であった.先行処理は有用な手法であると考えられた.
  • 遠藤 文庫, 武田 和憲, 成島 陽一, 島村 弘宗, 大塩 博, 手島 伸, 齋藤 俊博, 菊地 秀, 鈴木 博義
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 77-82
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は44歳の男性で,アメーバ性大腸炎,肝膿瘍の既往あり.左下腹部痛,血便が出現したが放置.2か月後,腹痛が増悪し,近医を受診した.画像検査所見上,腹腔内遊離ガス像,下部内視鏡検査にてS状結腸までにタコイボ状の多発性潰瘍を認めた.Human Immunodeficiency Virus(以下,HIV)抗体陽性であり,当院に転院した.アメーバ性大腸炎穿孔による腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した.S状結腸に穿孔を認め,Hartmann手術を施行した.術後の検査でアメーバ原虫が認められ,メトロニダゾールの内服を開始した.2週間後に人工肛門が脱落し,再手術を施行した.全大腸が浮腫状かつ脆弱で,全層性の腸管壊死が疑われ,大腸亜全摘,回腸瘻造設術を施行することで救命しえた.劇症型アメーバ性大腸炎の死亡率は極めて高い.早期診断,抗アメーバ剤投与,症例に適した術式を選択することが救命へとつながる.
  • 宮本 良一, 山本 雅由, 明石 義正, 柳澤 和彦, 菅原 信二, 大河内 信弘
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 83-89
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     肝細胞癌の放射線治療は,局所療法の一つである.しかし,周囲の臓器への放射線障害に対する注意が必要である.近年,その中で良好な線量分布特性をもつ陽子線治療が肝細胞癌治療にも利用され,良好な成績を修めており,副作用の報告例も少ない.今回,我々は肝細胞癌への陽子線治療で,放射線腸炎を来し手術を必要とした1例を経験したので報告する.症例は70歳の男性で,肝S8の肝細胞癌に対して,肝動脈塞栓療法を計5回施行された.徐々に副作用増強したため,陽子線治療へと変更となった.照射半年後より貧血を認め,さらに2か月後に下血が出現し,当院緊急入院となった.精査の結果,放射線腸炎との診断で,結腸切除術施行となった.術後経過は良好で,肝細胞癌の新規病変への陽子線治療を施行され,外来にて経過観察中である.
  • 塩谷 猛, 野村 聡, 渡邉 善正, 南部 弘太郎, 青笹 季文, 山田 太郎, 渋谷 哲男, 柳本 邦雄, 徳永 昭, 田尻 孝
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 90-94
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は69歳の男性で,主訴は右下腹部腫瘤.約2年前に,Kugel法による右鼠径ヘルニア手術を他院で受けていた.小児期の鼠径ヘルニア手術,急性虫垂炎手術の既往があった.CT,注腸検査で右側結腸憩室炎による膿瘍形成を疑い,手術を行った.回盲部が腹壁に強固に癒着しており,剥離するとメッシュが盲腸に癒着,穿通し一塊となり腫瘤を形成していた.メッシュを取り除き,回盲部切除術を行った.病理組織では膿瘍内に放線菌の菌塊を認めた.術後は麻痺性イレウス,surgical site infectionを起こしたが保存的に軽快した.過去に報告のない,Kugel法による鼠径ヘルニア手術後にメッシュが盲腸に穿通した症例を経験した.
  • 川野 陽一, 鈴木 英之, 松本 智司, 菅 隼人, 鶴田 宏之, 秋谷 行宏, 佐々木 順平, 堀田 正啓, 内藤 善哉, 田尻 孝
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 95-100
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     腹腔内癌術後の腹腔内デスモイド腫瘍の診断は,癌再発との鑑別が困難である.症例は70歳の男性で,上行結腸癌(SE,N0,H0,M0,P0:Stage II)に対して腹腔鏡補助下結腸右半切除術を施行した.術後1年6か月目の画像検査で十二指腸腹側に径3 cmの腫瘤を認め,CT,MRIではリンパ節再発を疑う所見であったが,positron emission tomography(以下,PET)-CTではSUVの最大値は早期相1.95から後期相2.05と軽度上昇にとどまり,癌再発は否定的であった.手術は十二指腸壁と上腸間膜静脈壁の一部を合併切除する腫瘍摘出術を行った.病理組織学的検査では結腸腸間膜原発デスモイド腫瘍と診断され,PET-CTでの術前診断が癌再発との鑑別に有用であると判断された.家族性大腸腺腫症を伴わない腹腔内手術後の腹腔内デスモイド腫瘍発生はこれまで20例が報告されているが,本症例のごとく腹腔鏡手術後発生の報告はない.
  • 濱中 洋平, 鈴木 高祐, 西尾 剛毅, 小野寺 久
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 101-106
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は59歳の男性で,既往に直腸癌,ベーチェット病,ホジキンリンパ腫,上行結腸癌がある.胃癌に対して胃切除術を施行した際に,横行結腸に3 cm大の腫瘤性病変を認めたため合併切除を行った.病理組織学的検査結果は筋線維芽細胞性腫瘍であった.術後7か月目より右季肋部痛が出現し,腹部CTにて肝臓に多発低吸収域が認められた.肝生検の結果,筋線維芽細胞性腫瘍の肝転移と考えられた.肝転移巣の進行抑制を目的に,Mitomycin CとDegradable starch microspheresを用いた肝動注療法を週1回7コース施行したが,術後14か月目に肝不全にて死亡した.
  • 竹内 正昭, 赤木 由人, 衣笠 哲史, 石橋 生哉, 白水 和雄
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 107-111
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は47歳の男性で,下部直腸(Rb)のIIa集簇様病変(約5 cm)に対し前医で2007年3月経肛門的局所切除術を施行された.病理組織学的検査結果は,高分化型腺癌,ly0,v0であったが,深達度pSM(1,500 μm)であったため,根治術目的で当科紹介となった.術前造影CTで明らかなリンパ節の腫大は認めなかった.術前血清CEAは5.3 ng/mlと若干上昇を認めた.2007年5月内括約筋切除(internal sphincteric resection;以下,ISR),上方D3郭清,回腸人工肛門造設術を施行した.病理組織学的検査結果で,一部外括約筋切除となっており,1か所坐骨直腸窩リンパ節転移を認めた.2007年10月回腸人工肛門閉鎖した.術後CEAは正常化し,術後約1年経過したが正常範囲内である.今回,我々は早期下部直腸癌(Rb)にて坐骨直腸窩リンパ節に転移を認めた極めてまれな1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 知念 順樹, 宮里 浩, 久志 一朗, 伊禮 聡子, 早坂 研, 松浦 文昭, 豊見山 健, 高江洲 享, 金城 泉, 山城 和也
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 112-117
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     肛門周囲Paget病に対して,肛門括約筋を温存し,肛門管および広範囲皮膚切除と分層皮膚移植による再建を行い,良好な経過を得た1症例を経験したので報告する.症例は70歳の女性で,肛門周囲掻痒を訴え当院皮膚科を受診し,皮膚生検にて肛門周囲Paget病と診断した.肛門管浸潤が疑われ,当科紹介となり,手術の方針となった.病変部辺縁から2 cm離し,脂肪層の深さで広範囲皮膚切除を施行し,肛門管は歯状線から1 cm口側で肛門粘膜を切除した.切除ラインの直腸粘膜を肛門へ引き出し,外肛門括約筋と全周性に縫合し,右大腿後面より採皮し分層皮膚移植を施行した.術直後は便失禁を認めていたが,徐々に改善し,懸念された肛門狭窄は軽度であり,術後1年半経過した現在,肛門機能の低下を認めていない.肛門周囲Paget病に対して,広範囲皮膚切除と分層皮膚移植による再建は,一時的人工肛門造設の必要がないため,患者のquality of lifeに寄与すると考えられた.
  • 川井 覚, 山中 秀高, 石坂 貴彦, 鬼頭 靖, 松永 宏之, 朝本 はるる, 神谷 里明, 松崎 安孝
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 118-121
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は85歳の女性で,2年前に両側閉鎖孔ヘルニアに対しメッシュプラグを用いた修復術の既往あり.今回,左下腹部痛,嘔吐を主訴に受診し,腹部CTで閉鎖孔ヘルニア再発による嵌頓と診断され,緊急手術を施行した.開腹時,嵌頓は解除されていたが,両側の閉鎖孔は開大しており,両側ともに収縮,硬化したメッシュプラグと思われる硬結を触知した.右側はヘルニア嚢を反転しメッシュプラグとヘルニア嚢を切除し,シート状メッシュを用い修復した.左側はヘルニア嚢の反転切除ができず,ヘルニア門を直接縫合閉鎖し,さらに膀胱の一部を縫着し修復した.再発の原因は,前回手術で挿入されたメッシュプラグの収縮によるものと思われ,手術の際少なくともメッシュプラグの固定が必要で,再発の可能性も念頭におくことが肝要と思われた.閉鎖孔ヘルニアに対しメッシュプラグを用いた修復術後の再発の報告はなく,非常にまれな1例と思われ文献的考察を加え報告する.
  • 杉山 陽一, 呑村 孝之, 山中 啓司, 横山 隆
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 1 号 p. 122-127
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     非観血的および自然整復された閉鎖孔ヘルニアの症例を3例経験し,うち待機的に手術を行った2例について報告する.症例は70歳と81歳の女性で,いずれも腹痛および大腿部痛を主訴に来院.骨盤CTおよび腹部超音波検査により閉鎖孔ヘルニアと診断した.症例1は発症7時間にて自然還納し,待機的に鼠径法にてメッシュシートを用いて根治術を行った.症例2は発症2時間にてエコーガイド下整復を行い,待機的にKugel法にて治療を行った.いずれの症例も術後合併症なく術後6日目に軽快退院した.閉鎖孔ヘルニアは診断がつき次第緊急手術を行うことが多かったが,最近では自然整復や非観血的治療を行い,待機的手術を行った症例が散見される.ただし,その適応には十分な注意が必要であり,本邦報告例の検討から発症翌日までの期間であること,CTでの脱出腸管の大きさが重要であると考えられた.
臨床経験
  • 永田 二郎, 平林 祥, 大西 英二, 中西 賢一, 大屋 久晴, 福本 良平, 西 鉄生, 森岡 祐貴, 間瀬 隆弘, 橋本 昌司
    原稿種別: 臨床経験
    2010 年 43 巻 1 号 p. 128-133
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は76歳の男性で,肛門管にかかる下部直腸原発の粘膜下腫瘍gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)の診断で手術を行った.Jack-Knife位で臀部を弧状に切開して直腸に到達し,腫瘤を含めて直腸後壁を切除して縫合閉鎖した.予防的に造設した人工肛門は6週間後に閉鎖した.腫瘍の大きさは6.5×4.8×4.0 cmで,病理組織学的に直腸原発のuncommitted typeのGISTと診断された.排便機能は良好に保たれており,術後2年の現在,再発徴候なく外来で経過観察中である.直腸原発GISTに対する後方からの臀部弧状切開によるアプローチは,従来の後方アプローチによる術式に比べて創感染を含めた術後合併症の発生を軽減できる可能性があり,また術野が良好で直視下にsafety marginを確保しながら切除しうることから根治性の面でも満足できる術式であると考えられた.この症例につき文献的に考察を加えて報告する.
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