日本消化器外科学会雑誌
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43 巻, 6 号
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原著
  • 勝野 剛太郎, 福永 正氣, 永仮 邦彦, 菅野 雅彦, 李 慶文, 須田 健, 飯田 義人, 吉川 征一郎, 平崎 憲範
    原稿種別: 原著
    2010 年 43 巻 6 号 p. 609-616
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     はじめに:2005年度版大腸癌治療ガイドラインではstage0,I結腸癌に対する腹腔鏡補助下大腸切除術(laparoscopy-assisted colectomy;以下,LACと略記)は標準治療の一つとして認められているが,進行大腸癌における手術成績・侵襲性・安全性・長期遠隔成績はいまだ十分明らかにされていない.現在,国内外で臨床試験に基づいた遠隔成績が報告されつつあり,我が国ではJCOG0404の登録が終了したところである.方法:当院にて2009年1月までに大腸癌に対して施行した1,007例のLACのうち最も症例数が多いS状結腸癌298症例のうちS状結腸切除術施行された根治度A231症例を対象とした.手術成績(出血量,手術時間など)・侵襲性(在院日数,鎮痛剤使用など)・安全性(術中術後合併症)について早期(LAC0-I:98例)と進行期(LACII-III:133例)での比較を行い,進行期でのLACの有用性・安全性を評価するとともに長期遠隔成績の検討も行った.結果:LACII-III群では入院中の化療導入のため在院日数が13.1±7.1日とLAC0-I群:11.5±5.1日に対し若干長かったが(有意差なし),そのほかの検討項目に関しては両群ともに有意な差は認めなかった.また,根治度A症例病期別累積5年生存率ではII:96%,IIIa:93%,IIIb:85%と遠隔成績も良好な結果であった.結語:高度の多臓器浸潤やイレウスなどを除いたS状結腸進行癌(II-III期)に対するLACは術中・術後の合併症頻度は低率かつ5年生存率も良好であるので,現時点でp stage II,III S状結腸癌(cur A)に対する腹腔鏡下S状結腸切除の適応は妥当であると考えられた.
症例報告
  • 古賀 聡, 力丸 竜也, 山口 博志, 濱津 隆之, 山懸 基維, 園田 孝志
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 617-621
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     食道に発生する平滑筋肉腫は比較的まれである.そのなかでも粘膜筋板から発生した有茎性の平滑筋肉腫は極めてまれである.今回,食道内腔を占居する巨大な有茎性平滑筋肉腫を経験したので報告する.74歳の男性で,徐々に増悪する嚥下困難感を主訴に受診した.上部内視鏡検査にて胸部下部食道を閉塞するような10 cm大の巨大腫瘍を認め,生検の結果,食道発生の平滑筋肉腫と診断された.食道亜全摘および胃管による胸腔内再建を施行した.組織診断の結果,深達度粘膜下層までの平滑筋肉腫であった.食道管腔内に突出した有茎性腫瘍は粘膜筋板から発生した場合に起こりうる.報告例は本症例を含め5例と非常にまれである.この巨大な有茎性平滑筋肉腫はリンパ節転移や脳転移を伴う症例があり,術後十分な経過観察が望まれる.
  • 森嶋 友一, 豊田 康義, 里見 大介, 高見 洋司, 福冨 聡, 山本 海介, 守 正浩, 赤沼 直毅, 小林 純
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 622-627
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は62歳の男性で,胸痛を主訴に来院し,胸部中部の食道扁平上皮癌の診断のもとD2リンパ節郭清を伴う右開胸開腹食道亜全摘術を行った.術後の病理検査で低分化型扁平上皮癌成分が4/5,腺癌成分が1/5の腺扁平上皮癌(混在型),pT1bN2M0,pStage IIと診断された.腺癌成分が少ないものの,脈管侵襲(ly1,v2)はいずれも腺癌成分によるもので,#109 Lに1個のみリンパ節転移を認めた.文献的には食道腺扁平上皮癌のリンパ節転移の多くは扁平上皮癌成分であり,腺癌成分のみが転移したものは本邦2例目であった.
  • 山中 秀高, 朝本 はるる, 石坂 貴彦, 川井 覚, 松永 宏之, 鬼頭 靖, 神谷 里明, 松崎 安孝
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 628-634
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は50歳の男性で,35歳時,常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease;以下,ADPKDと略記)と診断され,48歳より高血圧と全身湿疹の症状が出現し加療されていた.家族歴は父が死亡(慢性腎不全あるも詳細不明).今回,腹痛で受診し,上部消化管造影および内視鏡検査でスキルス胃癌と診断し,胃全摘出術を施行した.最終診断は印環細胞癌を含む低分化腺癌,UML,4型,pT3(SE),pN0,sH0,pP1,pCY1,sM0,stageIVであった.術後12日目に退院し,化学療法を施行しつつ,術後1年3か月生存中である.ADPKDと腫瘍の関連はin vitroで,原因遺伝子産物であるpolycystin-1とpolycystin-2の影響が報告されているが,臨床的には賛否両論で,胃癌に関しての報告はない.今回,日本病理剖検輯報(2002年~2006年の5年間)による剖検例で検討すると,胃癌に関しては非分化型が多かったが,関連は不明であった.
  • 松田 正道, 渡邊 五朗, 橋本 雅司, 大橋 健一
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 635-639
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は68歳の女性で,C型慢性肝炎の経過観察中に腹部超音波検査で肝腫瘍を指摘された.US上腫瘍は肝S7に,辺縁に高エコー帯を伴う17 mm大の境界明瞭な低エコー結節として描出された.内部には5 mm大の無エコー域を伴っていた.造影CTで病変はドーナッツ状にenhanceされ,門脈相では低吸収域を示した.術前の大腸内視鏡検査で小さなS状結腸癌が発見されたが,画像は肝細胞癌・転移性肝癌のいずれにも典型的ではなく,鑑別診断に腐心した.切除の結果,腫瘍は中心部に壊死を伴う,境界明瞭な白色調の結節で,組織学的には紡錘型細胞により構成され,肉腫様肝細胞癌と判定した.腫瘍は薄い被膜を伴い,高分化型肝細胞癌が辺縁を輪状に取り囲んでいた.本例はTAEなどの前治療もなく,臨床症状を欠き,肉腫様肝癌としては極めて小さい.肉腫様肝癌の自然史を考えるうえで示唆に富む症例と考えられたので報告を行った.
  • 廣瀬 哲朗, 西村 充孝, 東 大介, 高橋 則尋, 山岡 竜也, 安田 勝太郎, 石川 順英, 嶋田 俊秀, 荻野 哲朗, 西平 友彦
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 640-646
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は60歳の女性で,1年前より腸炎症状にて輸液治療をされており,低カリウム,脚力低下にても入院歴あり.本年になり糖尿病指摘.交通事故を契機の精査で膵臓に10 cm大の腫瘍を指摘された.治療目的で近隣病院に入院中1日あたり5~8回におよぶ下痢による腎不全となり当院へ転送,循環不全,高度アシドーシス,低カリウムに対し輸液管理,塩酸ロペラミド・酢酸オクトレオチド投与,透析・持続的血液濾過透析で生命維持を図りつつ,臨床症状よりvasoactive intestinal polypeptide産生腫瘍による下痢を疑い,その血清中の高値確認後速やかに膵体尾部切除術を施行した.術後下痢は2日で収束し透析・持続的血液濾過透析より離脱でき救命できた.循環不全,高度アシドーシスで周術期に透析・持続的血液濾過透析を要する危機的状態でも積極的に切除を行うことこそが救命につながり,不良な術前状態に躊躇することなく手術に持ち込むべきと考えられた.
  • 樋口 亮太, 安田 秀喜, 幸田 圭史, 鈴木 正人, 山崎 将人, 手塚 徹, 小杉 千弘, 平野 敦史, 植村 修一郎, 土屋 博紀
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 647-653
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     近年,画像診断の進歩により膵腫瘍が偶然に発見される機会が増加している.今回,我々は術前診断しえたものの嚢胞成分の悪性を否定できず縮小手術を行った膵内副脾の1例を経験したので報告する.症例は55歳の女性で,急性虫垂炎のため行った腹部CTで膵尾部に径約3 cm大のcysticな領域を伴う充実性腫瘤を認めた.EUSで腫瘤の充実性領域は脾臓と同程度のエコー像を呈し膵内副脾を疑った.腫瘤はSPIO MRIで脾と同様の信号低下を,99mTc-スズコロイドシンチグラフィーで集積増加を示した.膵内副脾と診断したが,cysticな成分もあり悪性が完全に否定できないことを説明したところ,外科治療を希望され手術となった.膵尾部背側に3 cm大の軟らかい赤褐色腫瘍を認め,脾温存膵尾部切除術を行い術中ゲフリールにて膵内副脾を確認した.経過は良好で術後16日目に退院した.術前診断しえた膵内副脾の報告は少なく貴重な症例と思われ若干の文献学的考察を加え報告する.
  • 石上 俊一, 矢澤 武史, 大江 秀明, 北口 和彦, 浦 克明, 平良 薫, 吉川 明, 田村 淳, 馬場 信雄, 白瀬 智之
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 654-660
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     患者は69歳の女性で,2004年11月の卵巣腫瘍摘出術の際に,回腸末端から約70 cmの腸間膜対側に充実性腫瘍を伴う径2 cmのMeckel憩室を指摘された.右卵巣腫瘍,憩室腫瘍とも中分化型腺癌であり,いずれも免疫組織学的検査でサイトケラチン(以下,CK)7(−),CK 20(+)であることから,Meckel憩室癌の卵巣転移と診断された.ムチンコア蛋白(以下,MUC)の免疫組織染色でMUC 1(+),MUC 5AC(+)であったがMUC 2の発現がみられず,迷入した異所性組織が癌化したものと考えられた.腹水細胞診陽性であり,術後TS-1/cisplatin(以下,CDDP)併用療法を施行した.腹膜再発があるが,患者は初回手術から4年半を経過した現在も生存中である.Meckel憩室に発生した腺癌の文献報告は,1950年以降 国内外で46件あるが,卵巣転移合併症例はなかった.本例はMeckel憩室の異所性胃癌であった可能性が高く,抗癌剤治療が奏効し長期生存が得られたと推察された.
  • 金澤 伸郎, 吉田 孝司, 三井 秀雄, 飯塚 童一郎, 新井 冨生, 黒岩 厚二郎
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 661-666
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例はタール便と高度の貧血を認めたため緊急入院となった84歳の男性で,上部,下部消化管内視鏡検査では明らかな出血部位は同定できなかった.腹部骨盤造影CT,および出血シンチグラフィーにて回盲部付近,および口側小腸の最低2か所の出血源が予測された.出血のコントロールがつかず頻回の輸血を要したこと,これ以上の術前検査を行う体力的,時間的余裕がなかったため,患者に十分な説明,同意を得たうえで開腹止血術を施行した.術中内視鏡検査を付加したことにより,出血源として空腸gastrointestinal stromal tumor以外に回腸のvascular ectasiaを同定することができ,これら2か所を切除することにより治癒可能であった.同病変は内視鏡検査以外では同定不可能であった.可能なかぎり,小腸出血の診断・治療に際しては腫瘍性病変の有無にかかわらず,内視鏡検査による全小腸の観察が強く望まれる.
  • 横山 義信, 大上 英夫, 南村 哲司, 塚田 一博
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 667-672
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     完全型虫垂重積症を来した早期虫垂癌の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.患者は96歳の女性で,下血のため精査を受けた.注腸造影検査・大腸内視鏡検査にて盲腸腫瘍を認め,腹部CTにてtarget signを認めた.盲腸腫瘍による腸重積が疑われたため,回盲部切除術を行った.切除標本の病理組織学的検索では盲腸内に完全に翻転重積した管状絨毛腺腫内虫垂癌(M,ly0,v0,N0,stage 0)であった.虫垂重積症を来した虫垂癌を術前に確定診断することは難しいが,大腸内視鏡検査にて盲腸腫瘍を認める場合には,本症も鑑別として考え,CTや注腸造影所見等とあわせて判断すれば,診断は可能であると思われた.虫垂重積症を来した虫垂癌の報告例は早期癌や腺腫内癌が大部分を占めていることから,リンパ節転移を認めなければ,縮小手術も適応になると考えられる.
  • 保科 克行, 保坂 晃弘, 松本 潤
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 673-677
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は66歳の男性で,2007年9月に腹痛を主訴に救急外来を受診した.山梨県生まれで10歳時に日本住血吸虫症による肝障害で治療歴あり.イレウスの診断で治療を開始し,イレウス管による減圧後の検査でS状結腸2重進行癌および腺腫(2か所)の診断となった.生検で高分化型腺癌の下層に日本住血吸虫卵を認めた.10月に高位前方切除術を行った.術後5日目に黄疸を認め軽快したが,肝生検では虫卵を認めた.日本住血吸虫症と大腸癌との関連性については諸説あるが,結論はでていない.大腸の同一領域に多発癌,多発腺腫を認めた報告はまれであり,同感染症の発癌性が強く示唆される症例であった.本症例は肝炎の発症もあり,より厳密なフォローを必要とし,大腸に関しては今後のsurveillanceも検討すべきと考えられた.
  • 生澤 史江, 三浦 康, 柴田 近, 小川 仁, 石田 和之, 安藤 敏典, 小山 淳, 福島 浩平, 佐々木 巖
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 678-684
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は53歳男性で,肛門周囲の掻痒感と発疹を主訴に近医を受診し,皮膚生検でPaget病の診断となり当院紹介となった.肛門周囲皮膚および肛門管腫瘍の生検を施行し,肛門管癌のPagetoid spreadの診断にて腹会陰式直腸切断術を施行した.病理組織学的診断では肛門管より印環細胞を伴った低分化腺癌細胞が肛門皮膚上皮下へ進展し,免疫染色検査でCEA(+),CK20(+),CK7(−),GCDFP-15(−)で,直腸肛門管癌のPagetoid spreadと診断した.直腸肛門管癌のPagetoid spreadの本邦報告例は本症例を含め42例であり,60%に肛門皮膚病変を認めていることから,早期発見には視診と皮膚生検の実施が肝要である.
  • 鈴木 一史, 千葉 聡, 中島 一彰, 大竹 喜雄, 入江 康文
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 6 号 p. 685-690
    発行日: 2010/06/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は76歳の男性で,両下肢の浮腫,腹部膨満を主訴に当科受診.既往歴に明確な腹部外傷はなかった.腹部CTでは,肝外側区域に接する21×14×20 cmの巨大な嚢胞性病変を認め,下大静脈を圧排していた.腹部MRIでは,T1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号の均一な内容をもつ嚢胞であった.嚢胞の原発部位の特定は困難であったが,肝外発育性肝嚢胞の可能性が高いと考えられた.下肢の浮腫が増悪傾向のため,経皮的に嚢胞を穿刺し,嚢胞内容のドレナージを行ったのち,手術を行った.腫瘍は,胃結腸間膜から発生した単純性嚢胞であり,腹腔鏡下嚢胞摘出術を行った.病理組織学的には,嚢胞内面に上皮細胞の裏打ちがなく線維性組織から成ることから,腸間膜仮性嚢胞であった.腸間膜仮性嚢胞の報告は,本邦18例目であり,腹腔鏡下手術は2例目であった.原発不明の腹腔内嚢胞性疾患の鑑別診断に当疾患を加える必要があると考えられた.
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