日本消化器外科学会雑誌
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43 巻, 7 号
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原著
  • 孝冨士 喜久生, 白水 和雄, 緒方 裕, 山下 裕一, 亀岡 信悟, 小川 健治, 島田 光生, 安田 秀喜
    原稿種別: 原著
    2010 年 43 巻 7 号 p. 691-695
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     はじめに:近年,ディスポーザブル手術材料の使用頻度は増加しているが,消化器外科領域においての手術材料使用実態に関する多施設調査はほとんど行われていない.胃全摘術と低位前方切除術に使用されたディスポーザブル手術材料の使用実態について多施設調査を行った.方法:調査協力病院と対象症例は,胃全摘術が20施設156例,低位前方切除術が14施設109例であった.ディスポーザブル手術材料を滅菌シーツ・ガウン,切り糸,針付き糸,ドレーン関連用品,創縁保護開創用品,スキンドレッシング用品,皮膚閉鎖用品の7項目に分類し,それぞれの価格中央値を計算した.結果:両術式とも針付き糸費が7項目中最も高額であった.ディスポーザブル手術材料費の中央値は,胃全摘術が72,385円,低位前方切除術が57,725円で,胃全摘術が高かった.手術料に対するディスポーザブル手術材料費中央値の占める割合は,胃全摘術が12.4%,低位前方切除術が13.1%であった.考察:手術料に対するディスポーザブル手術材料費の占める割合は,胃全摘術,低位前方切除術とも1割を超えていることが明らかとなった.技術料と器材費は分けて考えるという概念から,ディスポーザブル手術材料費は,手術料とは別途に請求できるようにすべきであると思われた.
総説
  • 平岡 武久, 井上 克彦
    原稿種別: 総説
    2010 年 43 巻 7 号 p. 696-703
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     膵癌に対する標準郭清手術と拡大郭清手術との間には,治療成績をめぐって論争があり,無作為比較試験(randomized controlled trial:以下,RCT)による評価が不可欠であった.本邦と欧米で四つのRCTが行われ,両者の生存成績に有意差がないことが明確になったが,その結果の評価は各研究デザインには違いがあり,十分検証して今後に生かす必要がある.各RCTで治癒切除率は両群で高く差はなく,また欧米のRCTでは補助療法を付加しており,拡大郭清の意義は根治性でなく,大動脈周囲リンパ節郭清の効果にかぎって評価すべきと解される.現在対象の進行癌はすでに全身病であり,もはや局所対策の大動脈周囲リンパ節の予防的郭清の意義はないと思われる.しかも拡大郭清の有効性は理論上小さく,評価には膨大な症例を要しRCTの規模に問題残るが,それによる評価は現実的ではない.拡大郭清論議には終止符を打ち,今後は治癒切除に付加する補助療法の確立に全力を注ぐべきと思われる.
  • 辻本 広紀, 平木 修一, 坂本 直子, 矢口 義久, 堀尾 卓矢, 愛甲 聡, 小野 聡, 市倉 隆, 山本 順司, 長谷 和生
    原稿種別: 総説
    2010 年 43 巻 7 号 p. 704-709
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     近年,周術期管理技術の向上がめざましいが,消化器癌手術後の感染性合併症の頻度は,必ずしも減少していない.術後の合併症は短期的な予後のみならず長期的な予後にも影響を及ぼす.そこで,消化器癌術後の感染性合併症の併発と長期予後との関連に関する検討を俯瞰し,そのメカニズムを考察したい.さまざまな消化器癌において,術後合併症,特に縫合不全や肺炎などの感染性合併症を併発した場合には,その長期予後が悪化するという報告が散見される.このメカニズムとして,合併症併発時に過剰に産生されるサイトカイン・ケモカインや,制御性T細胞の増加などの宿主の免疫抑制,微生物構成成分などが関与していると考えられる.術後の合併症は患者のquality of lifeの低下などの短期的な不利益のみならず,患者の長期予後にまで影響を及ぼすため,術後合併症根絶に向けての精力的な病態解明や積極的な予防策を講じることが,外科医の使命であろう.
症例報告
  • 田畑 智丈, 藤村 昌樹, 佐藤 功, 舛田 誠二, 千野 佳秀, 沖田 充司, 弓場 孝郁, 飯田 稔, 有馬 良一, 米村 豊
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 710-716
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は69歳の男性で,2007年4月,4型胃癌で胃全摘術を施行した.術後は他医で補助化学療法を施行し,再発徴候なく経過した.2008年12月,汎発性腹膜炎で緊急手術を施行.手術所見は肛門縁より約3 cm口側の直腸(Rb)に全周性狭窄を認め,さらに約2 cm口側の拡張した直腸に間膜内への穿孔を認めた.過大侵襲を避けるため,穿孔部で直腸を切断し,人工肛門造設術を施行した.腹膜播種は認めなかった.後日施行した直腸狭窄部の生検で低分化腺癌を認めたため,2009年1月,腹会陰式直腸切断術を施行した.病理組織学的検査では低分化腺癌の浸潤性増生を粘膜下層主体にほぼ全層に認めたが,粘膜面は正常陰窩が保たれていた.以上から,胃癌の直腸転移と診断した.胃癌の直腸転移の報告はまれであり,胃癌の直腸転移で直腸穿通を来した症例は,文献検索上見当たらず,本邦で初めての報告と考えられた.
  • 吉村 玄浩, 長谷川 傑, 木田 肇, 本庄 原, 奥村 晋也, 政野 裕紀, 近藤 正人, 内藤 雅人, 浅生 義人, 古山 裕章
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 717-723
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     患者は41歳の男性で,5か月にわたり閉塞性黄疸,腹痛と肝胆道系酵素の上昇を繰り返していた.超音波内視鏡検査と管腔内超音波検査,CT,MRIおよびFDG-ポジトロン断層法でVater乳頭直上の膵内胆管内に突出する,卵円形で表面平滑な小腫瘍を認めた.膵実質,主膵管,胆管壁,所属リンパ節および遠隔臓器に異常は認められなかった.胆汁細胞診はClass 1,生検で正常胆管上皮が認められた.Gastrointestinal stromal tumorのような粘膜下腫瘍が強く疑われたが,胆管の隆起性病変のほとんどが悪性腫瘍であること,腫瘍が最近の数か月で増大してきた可能性があり,胆管悪性腫瘍の可能性が完全には否定できず,膵頭十二指腸切除術を施行した.肉眼的には下部胆管にVater乳頭の乳頭部胆管領域から発生した有茎性で弾性硬の腫瘍を認めた.病理組織学的診断でinflammatory fibroid polypと診断された.極めてまれな十二指腸乳頭部原発inflammatory fibroid polypの特徴について文献をもとに考察する.
  • 粟根 雅章, 内藤 雅人, 松末 智, 本庄 原, 小橋 陽一郎, 前田 浩晶
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 724-729
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は48歳の女性で,突然の右季肋部痛のため当院を受診した.CTにて肝S8に径6 cmの腫瘤を認め,腹腔内に中等量の液体貯留を来していたことより腹腔内出血を来していたと考えられた.腫瘍は造影CTで動脈性早期濃染を伴い,MRIではT1強調画像で低信号,脂肪抑制T2強調画像で高信号であり典型的ではないが肝癌と診断した.待期的に肝部分切除を行った.病理組織学的検査では類上皮細胞のみからなる充実性,類洞状増殖を認め肝細胞癌類似の所見であったが,HMB-45陽性であることから肝血管筋脂肪腫と診断された.肝血管筋脂肪腫は血管,平滑筋,脂肪の成分をさまざまな割合で含むまれな良性腫瘍である.その多様性のため,画像・病理の診断が困難なことがある.肝血管筋脂肪腫の破裂は極めてまれであるが,術前診断が困難であること,悪性化の可能性があることなどからも,病態によっては切除の適応とすべきである.
  • 村橋 邦康, 高垣 敬一, 岸本 圭永子, 西野 光一, 青木 豊明, 曽和 融生, 石黒 信吾
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 730-735
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     今回,我々は脾類上皮嚢胞自然破裂というまれな疾患を経験したので報告する.症例は21歳の女性で,突然の下腹部痛にて当院を受診した.来院時血圧低下なく,貧血も認めなかった.腹部は平坦で,下腹部正中に強い圧痛と反跳痛および筋性防御を認めた.腫瘤は触知されなかった.入院時腹部CTにて,脾下極に接した10 cm大の球形腫瘤と少量の腹水を認めた.8時間後の腹部超音波検査にて,腹水の著明な増量と脾下極に血腫と思われる腫瘤像を認めた.脾腫瘍の破裂に伴う腹腔内出血と診断し,緊急手術を施行した.腹腔内には,多量の血液が貯留し,脾下極に破裂した手拳大の嚢胞性腫瘤を認めた.脾摘術を行い,病理組織学的所見では嚢胞壁に重層扁平上皮細胞列を認め,類上皮嚢胞と診断された.術後経過は順調にて術後16日目に退院となった.
  • 中山 伸一, 小島 一人, 阿曽 和哲, 野崎 治重
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 736-740
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は58歳の男性で,慢性C型肝炎で外来通院中,1年程前より腹痛,イレウス症状を繰り返すようになった.CTで上行結腸の壁肥厚と腸管壁の結節状の石灰化を認めた.大腸内視鏡検査で粘膜は浮腫状で暗紫青色変化,血管透見像の消失を認めた.保存的に加療されていたがイレウス症状を繰り返すこと,患者の希望もあり手術目的に入院となった.2008年7月に手術を施行し術後病理組織学的検査所見にて静脈硬化性大腸炎の確定診断を得た.
  • 打田 裕明, 川崎 浩資, 西田 司, 梅本 健司, 三好 和裕, 稲田 悠紀, 松木 充, 石橋 孝嗣
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 741-745
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は75歳の女性で,腹痛,発熱,嘔吐を主訴に救急搬送された.画像上,坐骨孔より脱出する小腸と腸管の拡張を認め,坐骨ヘルニアによるイレウスと診断し,緊急入院となった.触診上,腸管虚血や壊死を示唆する所見はなく,またイレウス管造影検査で,腸管の完全閉塞が否定されたため,緊急手術は施行せず,保存的に経過観察を行った.第5病日,イレウス管を抜去し経口摂取を開始したが,腹部症状の増悪はなく,第56病日に転院となった.その後,特にイレウスの再燃はなく,15か月が経過している.坐骨ヘルニアは非常にまれな疾患であり,文献検索にて,海外で51例,本邦では自験例を含め10例の報告をみるにすぎない.今回,我々は坐骨ヘルニアによるイレウスと画像診断し,保存的に経過観察しえた症例を経験したので,これを提示するとともに,文献的考察を加えて報告する.
  • 指山 浩志, 阿部 恭久, 笹川 真一, 花田 裕之, 羽鳥 優子, 窪田 真理子, 坂尾 誠一郎, 廣島 健三
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 746-751
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     左眼視力低下を初症状として再発を来した直腸癌の脈絡膜転移症例を経験したので,報告する.症例は49歳の男性で,直腸癌の根治手術15か月後に左眼視力低下を初症状として受診.眼底検査で左眼に,漿液性網膜剥離を伴う脈絡膜腫瘍を認め,胸部CTで両肺に空洞形成を伴う小結節影を多数認めた.経気管支肺生検で腺癌を検出したため,直腸癌の左脈絡膜転移,両側多発性肺転移と診断した.全身化学療法を施行した後,漿液性網膜剥離,網膜下の滲出性変化は改善,脈絡膜腫瘍は縮小し扁平化したが,視力の改善は得られなかった.一方,肺転移は次第に増悪,頸椎転移も出現し,再発後11か月で死亡した.結腸直腸癌の脈絡膜転移報告例は自験例を含め9例とまれであり,報告例は多臓器転移症例が多く,肺,肝転移から2次的に脈絡膜転移を起こす可能性が示唆された.
  • 山川 俊紀, 小野田 裕士, 溝尾 妙子, 村岡 孝幸, 徳毛 誠樹, 鈴鹿 伊智雄
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 752-757
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     今回,我々は術前診断に苦慮した腹腔内デスモイド腫瘍に対して,腹腔鏡補助下脾合併膵体尾部切除術を施行した1例を経験したので報告する.症例は21歳の女性で,開腹手術,腹部外傷などの既往歴,家族性大腸ポリポーシスの家族歴もなかった.腹部CT,MRI,超音波検査にて,膵体尾部表面から胃を前方に圧排するように発育する腫瘍を認めた.膵臓もしくは膵前筋膜より発生した良性腫瘍を考慮し,診断的治療目的で手術を施行した.腹腔鏡所見では,腫瘍は膵体尾部に存在し,腹膜播種,リンパ節腫脹,周囲臓器への浸潤はなかった.膵臓との剥離は困難で,腹腔鏡補助下に脾合併膵体尾部切除術を施行した.病理組織学的検査にて膵被膜より発生したと推測されるデスモイド腫瘍と診断された.デスモイド腫瘍は組織学的に核分裂像に乏しい良性腫瘍であるが,周囲浸潤性発育,局所再発ゆえ臨床的には良・悪性境界腫瘍に含まれ,今後注意深い経過観察が必要と思われる.
  • 鎌田 喜代志, 松村 一隆, 中川 正, 赤堀 宇広
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 758-764
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は42歳の男性で,腹痛を主訴として当院を受診した.超音波検査で左上腹部に内部に嚢胞成分を有する約70 mm大の腫瘤を認めた.CT,MRIでは内部が不均一に造影される充実性腫瘍で,小腸壁と一部で接しており,小腸造影検査で粘膜の不整像を認めず,壁外性の圧排を認めることより,小腸原発の壁外性に発育した間葉系腫瘍と診断し手術を施行した.腫瘍は横行結腸間膜より発生し,間膜より尾側に垂れ下がるように存在,他臓器への浸潤は認めなかった.摘出標本は60×90×50 mmの被膜に覆われた弾性硬で内部に嚢胞部分を有する充実性腫瘤であった.病理組織学的検査では異型性の乏しい紡錘型細胞が間質に膠原線維を伴い密に増生しており,免疫組織化学的にCD34(+),c-kit(−),SMA(−),S-100(−)であり,核分裂像が3/10HPFと少ないことより横行結腸間膜由来の低悪性度孤立性線維性腫瘍と診断した.術後3年経過した現在,無再発生存中である.
  • 山村 進, 池田 研吾, 小林 匡, 小林 正昭, 藤田 逸郎, 横室 茂樹, 内田 英二
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 7 号 p. 765-769
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は38歳の男性で,腹痛を主訴に平成18年2月当院初診し,入院となった.既往歴にはリウマチ,内ヘルニアによるイレウスなどがあった.当初イレウスを疑ったが,明らかなイレウス所見なく,腹痛も軽快したため入院後第13病日に退院となった.その後外来通院していたが,平成18年4月にイレウスとなり再入院した.S状結腸に全周性狭窄を認めたため結腸切除術を施行した.術後縫合不全を併発したため,下行結腸に単孔式の人工肛門造設術を行った.狭窄部の切除検体の病理組織学的検査では漿膜下組織を中心とした,Endoarteritis型の血管炎による虚血性の潰瘍形成が認められた.悪性関節リウマチにおける血管炎による潰瘍形成ならびに狭窄によりイレウス症状を来したものと考えられた.
臨床経験
  • 朝倉 武士, 月川 賢, 伊藤 弘昭, 三浦 和裕, 宮崎 賢澄, 野田 顕義, 小林 慎二郎, 小泉 哲, 中野 浩, 大坪 毅人
    原稿種別: 臨床経験
    2010 年 43 巻 7 号 p. 770-775
    発行日: 2010/07/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     S状結腸軸捻転症(sigmoid volvulus;以下,SV)にS状結腸間膜形成術(mesosigmoplasty;以下,MSP)を施行後に長期経過観察ができた症例を検討し,再発予防のための術式の工夫を報告する.MSPとはS状結腸間膜を腸管と垂直方向に切開し,切開部間膜を水平方向へ牽引して縦に縫合するものである.結腸間膜を短縮させS状結腸の可動を制限することで軸捻転を予防することができる.片側1か所に行うものをMSP原法,両側複数か所に行うものをMSP変法とした.1999年2月から2004年7月までにMSP原法2例・MSP変法3例を実施し,全症例症状が改善し退院した.MSP原法1例は27か月後に再発したためS状結腸切除を行った.もう1例は26か月後に再発し,内視鏡的に整復した.MSP変法3例は再発徴候を認めていない.MSPを施行時には可能なかぎり腸間膜両側の間膜の縫縮を複数か所行い,腸間膜を短縮してS状結腸の可動を制限することを推奨する.
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