日本消化器外科学会雑誌
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43 巻, 9 号
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原著
  • 田中 則光, 外村 修一, 日月 裕司
    原稿種別: 原著
    2010 年 43 巻 9 号 p. 877-881
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     はじめに:食道癌に対する根治的化学放射線療法(chemoradiotherapy;以下,CRT)後の遺残・再発症例は,salvage手術が唯一の治療法である.しかし,合併症率が高く,特に気道壊死は致死的合併症となる. 方法:1997年から2007年まで,当院で胸部食道癌に対しsalvage手術を施行された49例を対象.気道壊死症例の検討を通してsalvage術後の気道壊死の特徴を明らかにし,臨床学的背景,手術手技について,気道壊死症例と非気道壊死症例で比較検討した.結果:気道壊死は5例(10.2%)に認められた.気道血流障害が主因のprimary necrosis(3例)と胃管の縫合不全が先行したsecondary necrosis(2例)に分類できた.穿孔時期は術後7~36日と幅広く,腫瘍局在,深達度,手術時間,出血量と気道壊死との関連性は認められなかった.気管支動脈切除,頸部・気管分岐部リンパ節郭清が気道壊死に関与している傾向にあった.そして,secondary necrosisの2症例は,後縦隔経路再建例に認められ,胃管気道瘻へ発展した.考察:Salvage手術後の致死的合併症は,気道壊死が大きく関与していた.気道血流に与える放射線照射の影響が,気道壊死を招く大きな要因と考えられた.郭清操作は血流に配慮して行い,再建経路は胸骨後経路が望ましいと考えられた.
  • 藤川 貴久, 田中 明, 安部 俊弘, 吉本 裕紀, 近藤 克洋, 横井 宏佳, 白石 慶, 吉田 智治, 瀬尾 勝弘, 延吉 正清
    原稿種別: 原著
    2010 年 43 巻 9 号 p. 882-892
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     はじめに:当院で経験した,冠動脈疾患に対して薬剤溶出性ステント(DES)留置後に外科切除を行った消化管悪性腫瘍症例につき検討を行った. 方法:2007~2009年までの2年5か月間に当院にてDES留置後に消化管悪性腫瘍に対して外科手術を施行した15例を対象とした.術前状態および周術期管理,術後合併症の発生状況と転帰につき検討した. 結果:疾患の内訳は胃癌が9例,結腸癌が3例,直腸癌が3例であり,施行術式は幽門側胃切除6例,胃全摘+脾摘1例,胃全摘2例,結腸切除(腹腔鏡下手術含む)3例,直腸低位前方切除(腹腔鏡下手術含む)3例であった.DES留置後より外科切除までの期間は中央値17か月であり,特に直近の10症例のうち4例がDES留置後12か月以内の外科切除を余儀なくされた.チエノピリジン系剤投与は術前1週間前に中止しヘパリン投与に切り替え,手術前日までのアスピリン内服継続による周術期管理を原則とした.術中術後を通してステント血栓症や重篤な出血性合併症は認めず,安全に外科切除を完遂しえた. 考察:DES留置後においても,厳密な周術期の投薬管理により消化管悪性腫瘍への外科切除は安全に行いうることが示された.今後はさらに症例の増加が予想され,DES留置前の消化器癌を含めた悪性腫瘍スクリーニングの重要性を強調するとともに,周術期の投薬管理のプロトコール確立が重要と考えられた.
症例報告
  • 川崎 健太郎, 大澤 正人, 小林 巌, 中山 俊二, 金治 新悟, 仁和 浩貴, 大野 伯和, 藤野 泰宏, 富永 正寛, 中村 毅
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 893-899
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は55歳の男性で,食道癌に左開胸開腹下部食道噴門側胃切除(well diff. adenocarcinoma, Ae, 10 mm, T1aMM, n0, M0, stage 0)を施行した.周術期に出血傾向はなかった.術後53日目(53 POD)右股関節が腫脹,その後右背部も腫脹してきたため64 P0D当院を受診した.Hb 7.5 g/dlと貧血を認め緊急入院となった.CTで右腸腰筋から右股関節,背部の筋肉内に広範な出血を認めた.PTが軽度,APTTが高度に延長していた.輸血,FFPで経過を観察したが出血は持続,71 POD血管造影にて塞栓術を行った.しかし,貧血は進行,第VIII凝固因子活性が1%以下と判明したため全身疾患を疑い転院となった.精査の結果,第VIII凝固因子インヒビターによる後天性血友病であり,第VII凝固因子製剤によるBy-pass療法とステロイドで軽快した.消化器癌術後の凝固因子インヒビターによる出血はまれな疾患であるが,重篤な結果を招くこともあり,本疾患に対する認識と迅速な対応が必要であると思われた.
  • 伊藤 浩明, 原田 明生, 出口 智宙, 小西 滋, 末岡 智, 園原 史訓, 吉田 弥生, 宮嶋 則行, 多代 充
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 900-905
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は70歳の男性で,嚥下時のつかえ感にて近医を受診し,胸部下部食道に1型腫瘍を認めて入院したが,38度以上の発熱が続き,当院に転院した.血液検査では白血球が18,100 /mm3, CRPが22.64 mg/dlと高値を示した.転院後も39度以上の発熱が毎日続き,白血球20,500 /mm3, CRP 25.09 mg/dlと高値が持続した.血中G-CSFが64 pg/ml(正常値18 pg/ml以下)と高値でありG-CSF産生性腫瘍と診断した.化学療法は行わずに手術を行い,食道中下部切除術・2領域郭清・亜全胃管・胸腔内吻合術を施行した.病理組織学的検査では腫瘍部には上皮成分と非上皮成分があり,食道癌肉腫と診断した.GCSF免疫染色検査は腫瘍細胞の胞体に陽性であった.TNM分類による進行度は,pT2, pN0, M0, pStage IIAであった.術後の経過は良好で,熱・白血球・CRPとも正常化し,術後38日目に退院した.術後5年を経過して再発の徴候はない.
  • 相場 利貞, 加藤 岳人, 鈴木 正臣, 柴田 佳久, 平松 和洋, 吉原 基, 池山 隆, 鈴村 潔
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 906-911
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は62歳の男性で,2006年1月胸部上部食道癌に対し,右開胸・開腹下食道亜全摘術,食道胃管胸腔内吻合を施行した.病理組織学的検査所見は,中分化型扁平上皮癌で深達度はpT1b,リンパ節転移はなく,組織学的進行度Iであった.術後18日に軽快退院したが,退院14日後に発熱が出現し,画像診断で胃管気管支瘻による肺炎と診断された.保存的治療を行ったが肺炎が重症化し,人工呼吸管理による治療となった.肺炎は軽快したが胃管気管支瘻が閉鎖しないため,再手術を施行した.右開胸下に胃管と肺の癒着を剥離し胃管と肺の欠損部を縫合閉鎖した.再瘻孔化防止のため,胃管閉鎖部を有茎横隔膜筋弁によって被覆固定した.患者は術後3年半経過し健在である.有茎横隔膜筋弁は,胃管気管支瘻に対する修復法の有力な選択肢の一つであると考えられた.
  • 山田 博之, 小嶋 一幸, 井ノ口 幹人, 加藤 敬二, 大槻 将, 藤森 喜毅, 河野 辰幸, 杉原 健一
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 912-917
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は49歳の女性で,早期胃癌にて腹腔鏡補助下幽門側胃切除術・D1+β郭清,結腸前Roux-en-Y再建を施行された.外来での経過観察中に腹痛が出現し改善がみられないため当科受診した.明らかなイレウス所見を認めなかったが,腹部CTにて腸間膜の軸捻転が認められ内ヘルニアと診断した.自然整復は困難と判断し腹腔鏡手術を行った.腹腔鏡の観察では,ほぼ全小腸が挙上空腸と横行結腸間膜の間隙(Petersen's defect)に入り込み左側へ変位していた.虚血性変化はなく腹腔鏡下に整復し手術を終了した.幽門側胃切除後の内ヘルニアは比較的まれな病態であるが,Roux-en-Y法では挙上空腸と横行結腸間膜との間隙が生じることで内ヘルニアの危険性が高く,Roux-en-Y法においては内ヘルニア発生の可能性を常に念頭に置く必要がある.
  • 杉町 圭史, 東 秀史, 北川 大, 田中 旬子, 永吉 洋介, 水田 篤志, 牧野 一郎, 安蘇 正和, 下釜 達朗
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 918-922
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は32歳の女性で,心窩部痛を主訴に上部消化管内視鏡を行ったところ胃体上部大彎に約1.5 cmの発赤調の隆起病変を認め,生検にてsignet-ring cell carcinomaと診断された.胃全摘を施行したところ肉眼所見では既知の病変以外に異常を認めなかったが,胃全割病理組織学的検査にて既知の病変を含めて胃全体に38個の粘膜内多発癌病変を認め,すべてsignet-ring cell carcinoma,深達度Mであった.家族歴は祖父,母,叔父,弟に若年発症のスキルス胃癌があり家族性発症が強く疑われた.本症例は家族内集積のある若年発症の多発印環細胞癌であることから,欧米で報告されているE-カドヘリン遺伝子異常を原因としたびまん性遺伝性胃癌の家系に臨床経過が類似しており,遺伝的要因の関与が疑われる興味深い症例であると考えられた.
  • 土屋 勝, 大塚 由一郎, 田村 晃, 久保木 幸司, 羽鳥 努, 金子 弘真
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 923-928
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は52歳の女性で,意識消失発作にて入院した.下腹部に弾性軟で表面平滑な腫瘤を触知したが圧痛や腹膜刺激症状はなかった.血糖値は22 mg/dl,ブドウ糖点滴にて意識障害は改善した.腫瘍マーカーは正常.内分泌学検査は血中インスリンとC-ペプチドは低値,IGF-IやIGF-IIは基準値内だった.腹部CTで腹腔内を占拠する巨大な腫瘍を認め,原因不明の低血糖症状をともなう巨大な腹部腫瘍の診断にて手術を施行した.手術所見では肝外側区域より連続した腫瘍が骨盤内まで延垂しており,腫瘍を含めた肝部分切除を行った.摘出腫瘍は大きさ25.0×22.5×6.4 cm,重量3 kg.免疫組織学的にはCD34(+),Vimentin(+),C-kit(−).以上より,肝原発solitary fibrous tumor(以下SFT)と診断した.手術直後より低血糖発作は消失し第8病日に退院となった.術後3年経過するが再発兆候は認めていない.通常良性の経過をたどる肝原発SFTだが腫瘍径が大きく低血糖を来した極めてまれな1例を経験した.
  • 岡本 信彦, 山藤 和夫, 窪地 淳, 朝見 淳規, 竹島 薫, 林 憲孝, 馬場 秀雄
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 929-934
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     患者は25歳の女性で,2007年9月中旬に上腹部痛を自覚し,近医を受診した.腹部超音波検査で肝腫瘤を指摘され当院へ紹介となったが,来院中に腹痛の増強あり救急外来へ搬送となった.当院到着時頻脈,血圧低下を認め,腹部超音波検査上,モリソン窩,ダグラス窩,左横隔膜下に出血が疑われた.肝腫瘍破裂と診断し腹部造影CTを行ったところ,肝S3の腫瘤と,その周囲への血管外漏出を認め,緊急血管造影にて止血術を行った.入院後のダイナミックCT,MRI,造影超音波精査により腫瘍径約70 mm大の内部に壊死を伴う動脈血流豊富な腫瘍と診断された.AFP,protein induced vitamin K absence(PIVKA)-II高値であることから肝細胞癌が最も疑われ,手術を予定した.開腹所見では肉眼的に腹膜播種は認めず,肝外側区域切除を施行した.術後経過は良好で術後7日目に退院となった.病理組織学的には中分化型肝細胞癌であり,術後21か月経過するが現在のところ再発所見を認めていない.
  • 村上 崇, 森 隆太郎, 佐々木 真理, 徳久 元彦, 長谷川 誠司, 簾田 康一郎, 江口 和哉, 仲野 明
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 935-941
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は81歳の男性で,2006年1月急性胆嚢炎を発症し入院保存的治療で軽快したが,経過中に突然嘔吐・食思不振が出現した.腹部CTで胆嚢内に認められた径8 cm大の結石が十二指腸球部へ移動しており,上部消化管造影検査で胆嚢と十二指腸間に瘻孔を認め,胆嚢十二指腸瘻を通過した結石が十二指腸球部で嵌頓したと考えBouveret症候群と診断した.その後結石は自然に胃内へ移動し症状は軽快したが,内視鏡的結石摘出はできず,また十二指腸狭窄を合併していたため,開腹し瘻孔閉鎖,胃内結石摘出,胆嚢摘出,胃空腸吻合術を行った.Bouveret症候群はまれな疾患で,さらに結石が胃内へ逆行した報告はなく,文献的考察を加え報告した.
  • 村瀬 勝俊, 阪本 研一, 関野 誠史郎, 小久保 健太郎
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 942-947
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     主膵管との交通を認め,分枝型intraductal papillary mucinous neoplasm(以下,IPMN)との鑑別を要し手術に至った漿液性嚢胞腺腫(serous cystic tumor;以下,SCT)macrocystic typeの1例を経験したため報告する.症例は63歳の女性で,右背部痛のため当院を受診した.CTで膵頭体移行部に3 cm大の嚢胞性病変を指摘された.ERCPで病変は主膵管との交通を認めた.主膵管の拡張は認めなかった.膵液細胞診は悪性所見を認めなかった.Endoscopic ultrasonography(以下,EUS)で壁在結節を認めたため腺腫以上のIPMNと診断した.手術適応と判断したが,手術を希望されなかったため経過観察とした.10か月後のEUSで壁在結節が増大傾向を示したため再度手術をすすめ幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.腫瘍は26×15 mm大の多房性の嚢胞性病変で,内腔には褐色の壁在結節様構造物を認めた.病理組織学的検査でSCT macrocystic typeと診断された.壁在結節に細胞性成分は認めなかった.
  • 間下 直樹, 越川 克己, 谷口 健次, 望月 能成, 横山 裕之, 末永 裕之, 桑原 恭子
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 948-952
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は32歳の女性で,12歳時に他院にて膵腫瘍に対して腫瘍核出術を施行され,病理組織学的診断はsolid-pseudopapillary neoplasm(以下,SPN)であった.29歳時より腹痛を認め,精査の結果膵頭部の嚢胞内出血を伴った仮性嚢胞と診断,経過観察されていた.31歳時の腹部CTで充実性部分の増大が考えられた.また,体尾部は存在せず欠損症または脂肪変性が考えられた.EUS下に腫瘍生検を施行,SPNと診断されたため,十二指腸を温存して腫瘍核出術を施行した.病理組織学的検査所見は小型類円形の核,好酸性の胞体をもつ細胞が充実性あるいは偽乳頭状に増生しており,免疫染色検査ではNSE,ビメンチン,PgR,シナプトフィジン陽性であった.術前の腫瘍生検と同様にSPNと診断され,20年前の膵腫瘍と同一であった.長期間の経過で局所再発を来したSPNの1切除例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 小野 文徳, 平賀 雅樹, 工藤 克昌, 大山 倫男, 白崎 圭一, 土師 陽一, 吉田 節朗, 小野地 章一
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 953-957
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は51歳の女性で,イレウスの診断にて当院に入院した.保存的療法にて軽快と再燃を繰り返すため,原因不明のイレウスにて手術を施行した.開腹したところ,トライツ靭帯から約170 cm肛門側の空腸に腫瘍性病変による閉塞を認め,2.6×2.2 cm大の腫瘍を含めた空腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査にて,Heinrich III型の異所性膵から発生した高分化型管状腺癌と診断した.術後の腹膜再発に対して塩酸ゲムシタビンの投与を行い,患者は初回手術後約28か月後に死亡したが,原発性膵癌と同様に異所性膵癌に対しても塩酸ゲムシタビンが有効である可能性が示唆された.空腸における異所性膵癌はまれであり,文献からの症例を総括したものを加え報告する.
  • 上神 慎之介, 今村 祐司, 中光 篤志, 香山 茂平, 桑田 亜希, 藤解 邦生, 羽田野 直人, 垰越 宏幸, 臺丸 裕
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 958-963
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は74歳の女性で,1か月前より左下腹部痛を自覚するようになり当院消化器内科を受診した.血液検査では炎症反応の上昇を認め,腹部超音波検査で下行-S状結腸移行部に結腸と連続した低エコー病変を認めた.CTでS状結腸の一部が憩室状に拡張し,壁肥厚と周囲の脂肪織の濃度上昇を認めた.下部消化管内視鏡検査ではS状結腸に易出血性の憩室様の開口部が確認され,後腹膜膿瘍形成を伴ったS状結腸憩室炎と診断され,当科紹介となりHand-Assisted Laparoscopic Surgery(以下,HALS)を施行した.手術所見ではS状結腸から壁外に突出した表面平滑で硬い腫瘤を触知し壁外発育型腫瘍と診断しS状結腸切除術を施行した.病理組織学的検査にてgastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)と診断された.術後経過良好で14日目に退院となり,術後12か月再発無く外来にて経過観察中である.本症例は壁外発育型GISTの中心部が自壊し結腸内腔と交通したため憩室様形態を呈した極めてまれな症例と考えられた.
  • 小林 慎一朗, 永田 康浩, 渡海 大隆, 北里 周, 中田 哲夫, 前田 茂人, 鬼塚 伸也, 藤岡 ひかる, 伊東 正博
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 964-969
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     我々はfluorine-18-fluorodeoxyglucose and positron emission tomography(以下,FDG-PET)で陽性所見を呈した腸間膜炎症性筋線維芽細胞性腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は78歳の男性で,腹部不快感で近医を受診した.CTにて上腸間膜に腫瘤を指摘された.FDG-PETにて高集積を認めたため,悪性腫瘍を疑い,小腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査では腸間膜炎症性筋線維芽細胞性腫瘍と診断された.腸間膜炎症性筋線維芽細胞性腫瘍とFDG-PETに関して若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 雄谷 慎吾, 宮田 完志, 湯浅 典博, 竹内 英司, 後藤 康友, 三宅 秀夫, 長澤 圭一, 大森 健治, 小林 陽一郎
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 970-975
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は64歳の男性で,主訴は嘔吐で,見当識障害・起立困難で救急車で当院に搬送された.検査所見から糖尿病性ケトアシドーシス・膵炎と診断した.翌日,腹部所見の増悪,Creatine Kinaseの急激な上昇,CTにおいて腸管の拡張や肥厚が増悪し胸腹水が出現したことより,腸管壊死を疑い緊急手術を施行した.上腸間膜動脈とその主幹血管の拍動は良好であったが,回腸末端近くの小腸が斑状に壊死していたため,小腸部分切除を施行した.来院時HbA1cが正常で,尿中Cペプタイドが低値であったことから,劇症1型糖尿病に伴った非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI)と診断した.術後経過は良好であった.NOMIは腸間膜動脈の攣縮によって生じる腸管虚血であり,全身の低潅流状態が誘因で起こる.糖尿病性ケトアシドーシスなど循環虚脱を来す疾患は,NOMI発症のリスクが高いにもかかわらず意識障害を来すため診断の遅れが予想され,経時的な腹部所見の診察,画像検査が肝要である.
  • 瀬戸口 智彦, 池松 禎人, 中田 祐紀, 金井 俊和, 西脇 由朗, 木田 栄郎, 森 弘樹, 小澤 享史, 太田 学, 今野 弘之
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 976-983
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     症例は63歳の男性で,心窩部痛を主訴に当院を受診.腹部エコーで肝右葉に巨大腫瘍を指摘され緊急入院した.腹部CT,血管造影検査で,同部に血流豊富な充実性腫瘍を認めた.15年前に大網平滑筋肉腫の既往があり,同腫瘍の肝転移と診断し,肝右三区域切除を施行した.病理組織学的検査は紡錘細胞が束状に配列し,免疫組織染色検査ではKIT陽性で,消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor)の肝転移と診断された.大網腫瘍も同様の結果であり,かつて大網の平滑筋肉腫と診断された腫瘍は,消化管外間質腫瘍(Extragastrointestinal stromal tumor)とあらためて診断された.肝切除6年半後に頭蓋底再発を認め腫瘍摘出術を施行し,現在スニチニブ内服中である.EGISTの予後や転移巣に対する治療方針はいまだ明らかでない.今後EGIST転移例を集積しGIST転移例との生物学的悪性度の違いを検討して,治療方針を明確にしていく必要がある.
  • 森本 純也, 前田 清, 野田 英児, 井上 透, 山田 靖哉, 澤田 鉄二, 大平 雅一, 西口 幸雄, 池原 照幸, 平川 弘聖
    原稿種別: 症例報告
    2010 年 43 巻 9 号 p. 984-989
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     後腹膜に発生する嚢胞性腫瘍はまれであり,悪性嚢胞腺癌は極めて少ない.症例は56歳の女性で,下腹部痛と血便を主訴に近医を受診し,骨盤内腫瘍,直腸浸潤の疑いと診断され,手術目的に当科紹介となった.術中所見では,後腹膜腔に存在した腫瘍は,膣後壁と直腸に浸潤し,周囲に多数のリンパ節腫大を認めた.根治術を行い,径11×13 cm大の類円形で表面平滑な腫瘍の内腔を確認すると,粘稠な内容物と黒褐色の泥状物質を含み,また嚢胞内壁には無数の乳頭状隆起を認めた.病理所見で乳頭状構造,充実性増殖を呈する異型腺管の増殖を認め,上皮の性状から発生学的にミュラー管組織が示唆され,加えて両側の卵巣が正常であったことより後腹膜原発の嚢胞腺癌と診断した.また,所属リンパ節に多数の転移と直腸および膣後壁に直接浸潤を認めた.術後経過は良好であり,外来にてTS-1+少量CDDP療法を開始し,現在まで術後1年2か月間,再発は認めない.
臨床経験
  • 清島 亮, 小柳 和夫, 中川 基人, 永瀬 剛司, 岡林 剛史, 田渕 悟, 小澤 壯治, 金井 歳雄
    原稿種別: 臨床経験
    2010 年 43 巻 9 号 p. 990-995
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     食道癌根治術後の難治性頻脈性不整脈は頻度の高い合併症の一つである.我々は食道癌術後上室性頻脈性不整脈に対して短時間作用型β1選択的遮断薬(塩酸ランジオロール)を投与し有効に作用した5症例を経験した.いずれも術前の心電図や心臓超音波検査で異常は認めなかった.頻脈性不整脈は術後2ないし3日目に発生した.塩酸ランジオロール投与は2例目まではジギタリス製剤もしくは塩酸ベラパミル投与の無効症例に,その後の3例は第1選択として使用した.投与開始量は,1例目は20 μg/kg/分,2例目からは2 μg/kg/分で,適宜増減した.脈拍数はいずれの症例も塩酸ランジオロール開始数分後に減少し,投与中に収縮期血圧は低下しなかった.塩酸ランジオロールは半減期が短く調節性に優れており,食道癌術後の頻脈性不整脈に対しても有用であると考えられた.
  • 大田 貢由, 藤井 正一, 市川 靖史, 諏訪 宏和, 辰巳 健志, 渡辺 一輝, 山岸 茂, 田中 邦哉, 秋山 浩利, 遠藤 格
    原稿種別: 臨床経験
    2010 年 43 巻 9 号 p. 996-1001
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     大腸癌における血清p53抗体測定の意義について検討した.対象は手術を施行した大腸癌251例であり,うち同時性多発癌を28例に,同時性重複癌を8例に認めた.術前に血清CEA, CA19-9, p53抗体を測定し,臨床病理学的背景と比較した.多発癌,重複癌を除いた215例の陽性率はCEAが31.2%,CA19-9が15.8%,p53抗体が31.6%で,これら三者のいずれかが陽性になる率は60.0%であった.便潜血陽性の症例でp53抗体の陽性率がCEAに比べて有意に高かった(p=0.0215).また,Stage Iでp53抗体の陽性率がCEAに比べ有意に高かった(p=0.0002).同時性多発癌におけるp53抗体の陽性率は53.6%であり,単発癌に比べて有意に高かった(p=0.0213).重複癌におけるp53抗体の陽性率は50%で,単発癌に比べて有意差はないものの,陽性率が高い傾向がみられた.p53抗体を測定することは早期癌の発見や,多発癌,重複癌の見逃しを防止するために有用であると思われた.
  • 勝野 秀稔, 前田 耕太郎, 花井 恒一, 升森 宏次, 松岡 宏, 宇山 一朗, 金谷 誠一郎, 石田 善敬
    原稿種別: 臨床経験
    2010 年 43 巻 9 号 p. 1002-1006
    発行日: 2010/09/01
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
     大腸癌に対するda Vinci Surgical System®を用いたロボット手術は医学中央雑誌およびPubMedで「大腸癌(colorectal cancer)」, 「ロボット手術(robot surgery)」をキーワードとして1999年10月から2009年9月末までの10年間において,検索しえた範囲内で本邦での報告はなく,本症例が初の報告である.症例は77歳の男性でBMIは22.4であった.S状結腸腫瘍に対して内視鏡下粘膜切除術を施行した結果,病理組織学的検査でSM浸潤度1,000 μm以上であったため,追加手術目的にて外科へ紹介となった.内側アプローチによる下腸間膜動脈周囲のリンパ節郭清や血管処理,外側からのS状結腸の授動,直腸の剥離操作などをロボット手術下に施行した.初例のため,手術時間は要したが,術後に特記すべき合併症は認めず,術後6日目に軽快退院となった.今回教室で経験したロボット支援下手術によるS状結腸切除術について文献的考察を加えて報告する.
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