日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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ISSN-L : 0386-9768
44 巻, 6 号
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原著
  • 田仲 徹行, 高山 智燮, 松本 壮平, 若月 幸平, 榎本 浩士, 右田 和寛, 中島 祥介
    原稿種別: 原著
    2011 年 44 巻 6 号 p. 657-664
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     はじめに : 近年胃癌手術の安全性は向上しているが術後膵液漏は依然として一定の頻度で発生し,経過によっては死亡に至る重篤な合併症の一つである.そこで,膵液漏発症の危険因子および術後ドレーン管理について検討した.対象症例 : 2003年1月から2008年6月にD1以上のリンパ節郭清を伴う初発胃癌症例418例のうち,膵浸潤(T4)にて膵尾部脾臓合併切除を施行した4例,多量の出血を来した肝合併切除1例,縫合不全により腹腔内膿瘍を形成した11例(2.6%)を除外した402例を対象とした.また,膵液漏の診断はドレーン排液の性状または腹腔内膿瘍のCT所見を基準とした.結果 : 膵液漏の発症は402例中23例(5.7%)であった.多変量解析の結果BMI(P=0.004),術式(胃全摘術)(P=0.009),膵上縁リンパ節の郭清度(P=0.019)が独立した危険因子であった.危険因子別の検討では3因子とも含む高危険群での膵液漏発症率は16.2%と高頻度で,いずれの因子も含まない症例では膵液漏の発症は認めなかった.結語 : 胃切除後膵液漏危険因子はBMI,術式(胃全摘術),リンパ節郭清度(膵上縁リンパ節以上)であった.これらいずれの因子も含まない胃切除症例では膵液漏に関する予防的ドレーンは留置省略もしくは早期抜去ができる可能性が示唆された.術後はこれら危険因子を考慮したドレーン管理が必要である.
  • 木村 豊, 加納 寿之, 谷口 博一, 團野 克樹, 大西 直, 金 致完, 東野 健, 矢野 浩司, 門田 卓士, 今岡 真義
    原稿種別: 原著
    2011 年 44 巻 6 号 p. 665-669
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     はじめに : 胃癌と大腸癌は重複する頻度が比較的高いと報告されているため,当院では胃癌患者の大腸癌の重複の有無を診断する目的で,胃癌の術前患者に対して大腸内視鏡検査を施行している.方法 : 当院で2004年から2009年に既に大腸癌の診断が得られていた症例を除いて胃癌術前に大腸内視鏡検査を行った293例を対象とした.年齢の中央値は65歳,男性:204例,女性:89例,大腸癌の既往歴のある症例は8例,胃癌発見の契機は腹痛が89例,検診発見が83例,貧血が32例,その他が89例であった.大腸癌を合併した症例と合併しなかった症例で臨床病理学的特徴を比較検討した.結果 : 大腸に病変を認めなかったのは167例(57.0%)で,憩室など非腫瘍性病変を44例(15.0%),腫瘍性病変を82例(28.0%)(腺腫:70例,大腸癌:12例)に認めた.大腸癌の壁深達度はMが3例,SMが2例,SEが7例で,その治療は4例に内視鏡治療,8例に術中同時切除が行われた.大腸癌合併の有無と胃癌の臨床病理学的特徴に関する検討では,貧血が胃癌の発見の契機となった症例や大腸癌の既往のある症例で大腸癌を合併する割合が高かった(p<0.01).考察 : 胃癌術前症例に対する大腸内視鏡検査による大腸癌発見率は比較的高く,特に貧血を伴う患者や大腸癌の既往のある患者には大腸内視鏡検査によるスクリーニングを行う意義があると考えられた.
症例報告
  • 竹林 克士, 木ノ下 義宏, 宇田川 晴司, 上野 正紀, 江原 一尚, 田中 毅
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 670-676
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     症例は74歳の男性で,1998年,食道癌T1bN0M0,stage Iに対して根治的化学放射線療法を施行し,Complete Responseを得た.2004年,同部位に結節性病変を認め,狭窄を危ぐし,内視鏡的切除を行った.2008年,再度隆起性病変を認め,生検では異型上皮だったが,その肛門側に不染領域を認め,扁平上皮癌と診断された.不染領域は隆起と連続し,粘膜下進展を考慮し,右開胸開腹食道胃上部切除,2領域リンパ節郭清,消化管再建を施行した.病理組織学的検査ではcarcinosarcomaであり,扁平上皮癌とともに,異型紡錐状細胞の密な増生を認めた.術後1年経過し,再発を認めていない.化学放射線療法後の食道癌肉腫の発生は本邦では1例のみ報告されているが,本症例は初回治療から長期間を経て発生しており,その発生機序,病理組織学的検査所見について若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 井本 博文, 柴田 近, 木内 誠, 田中 直樹, 三浦 康, 内藤 剛, 小川 仁, 安藤 敏典, 羽根田 祥, 佐々木 巖
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 677-683
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     胃癌の腹壁転移はまれであり,今回,我々は腹壁腫瘤を契機に発見された胃癌の1例を経験したので報告する.症例は61歳の男性で,上腹部の小豆大の皮下腫瘤が半年間で約5cm大に増大したため当院紹介となり,針生検で腺癌が検出された.その後の精査にて胃幽門部狭窄を伴う胃癌の診断となった.狭窄の解除を主目的として幽門側胃切除術を施行したが,術中所見上も原発巣の腹壁への直接浸潤の所見はなく,病理組織診などから腹壁腫瘤は胃癌の血行性転移と推測された.
  • 水間 正道, 石山 秀一, 山内 淳一郎, 近藤 典子, 三浦 孝之, 島村 弘宗, 成島 陽一, 八巻 孝之
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 684-691
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     我々は,まれとされる十二指腸第4部に発生した十二指腸癌に対し根治切除を行った4例を経験した.いずれも全周性狭窄を来した進行癌であり,うち1例は同時性肝転移を認めた.肝転移の症例はリンパ節郭清を伴う十二指腸空腸部分切除術と肝切除術を2期的に行った.それ以外の3例は,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を行った.病理組織学的に,T3N0M0(Stage IIA)が1例,T3N1M0(Stage IIIA)が2例,T3N0M1(Stage IV)が1例であった.リンパ節転移を認めた2例は,いずれもNo.14リンパ節への転移であった.Stage IIAの症例は術後11年,Stage IIIAの2例は術後5年無再発生存中である.同時性肝転移の症例は術後12か月に肺転移で死亡した.第4部原発の十二指腸癌に対し膵頭十二指腸切除術を行うか局所切除術を行うかは議論の分かれるところであるが,その至適術式について文献的考察を加え報告する.
  • 金城 達也, 砂川 宏樹, 兼城 達也, 當山 鉄男, 稲嶺 進, 座波 久光, 大城 直人, 末松 直美
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 692-698
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     症例は61歳の女性で,2002年の検診時にUSで肝S6に嚢胞を指摘され,近医で経過観察されていた.2008年のCTで嚢胞内に壁在結節を認めたため,精査加療目的に当院紹介入院となった.USでは肝S6に4cm大の高エコー腫瘤像を認め,CTでは腫瘤は早期相で不均一に造影され,徐々に全体に広がる漸増型濃染像を呈した.肝嚢胞腺癌の診断で肝S6亜区域切除術を施行.嚢胞内結節は表面平滑,弾性軟であり,割面では厚い被膜を有する暗赤色,凝血塊状であった.病理組織学的検査では肝乳頭状内皮過形成(papillary endothelial hyperplasia;以下,PEHと略記)の診断であった.PEHは器質化血栓の特殊型であり,肝PEHは非常にまれである.今回,画像所見の経時的変化および病理組織学所見から嚢胞出血後の血栓器質化過程で発生したと考えられた肝PEHを経験したので若干の文献的考察を含め報告する.
  • 龍野 玄樹, 鈴木 昌八, 落合 秀人, 犬塚 和徳, 神藤 修, 宇野 彰晋, 松本 圭五, 齋田 康彦, 谷岡 書彦, 北村 宏
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 699-705
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     症例は62歳女性で,検診での超音波検査で肝腫瘍を指摘され,当院を受診した.B型・C型肝炎ウィルスマーカーは陰性であり,血清CA19-9値が281.6U/mlに上昇していた.腹部CTで肝左葉の肝内胆管拡張と肝外側区域に境界不明瞭で辺縁が軽度造影される5cm大の腫瘍を認めた.門脈左枝内は腫瘍栓で充満していた.門脈腫瘍栓合併肝内胆管癌あるいは混合型肝癌を考え,5-FUによる肝動注化学療法を先行させた.治療開始後にCA19-9値の低下,肝腫瘍の縮小と門脈腫瘍栓の退縮を認めた.化学療法終了から1か月,後肝拡大左葉切除,肝外胆管切除・胆道再建,リンパ節郭清,門脈再建を施行した.病理組織学的には乳頭状の増殖を示す高分化型腺癌から成る腫瘍であり,門脈腫瘍栓を伴った肝内胆管癌と診断された.術後22か月の現在,再発なく社会復帰している.門脈腫瘍栓合併肝内胆管癌に関する文献的考察を加え報告する.
  • 前田 健晴, 赤木 純児, 大地 哲史, 土居 浩一, 緒方 健一, 鈴木 俊二
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 706-713
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     von Recklinghausen病(以下,VRDと略記)はさまざまな腫瘍性疾患を合併することが知られている.我々は,肝内胆管癌と十二指腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)を合併したVRDの1例を経験したので報告する.症例は66歳女性で,18歳頃から皮膚結節が多発しVRDと診断された.63歳頃から皮膚結節が増加するため当院皮膚科受診した.CTにて肝外側区域に2cm大の腫瘍と十二指腸下行脚に1.5cm大の腫瘍を指摘され当科紹介となった.肝内胆管癌,十二指腸腫瘍と診断し肝外側区域切除術,十二指腸部分切除術を行った.病理組織学的検査にて肝腫瘍は高分化型腺癌であり,肝内胆管癌と診断された.十二指腸腫瘍は紡錘形細胞からなり,c-kit陽性でGISTと診断された.肝内胆管癌と十二指腸GISTを合併したVRDはまれなため文献的考察を加えて報告する.
  • 田上 聖徳, 上野 真一, 前村 公成, 益満 幸一郎, 迫田 雅彦, 蔵原 弘, 又木 雄弘, 新地 洋之, 夏越 祥次
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 714-720
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     腹腔動脈起始部圧迫症候群を合併した肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;以下,HCCと略記)に対し,経肝動脈的治療導入を目的に行った正中弓状靭帯切離が有効であった2例を経験したので報告する.症例1は56歳の男性で,血管造影で腹腔動脈根部は狭窄し,肝血流は上腸間膜動脈から供給されていた.HCCに対し肝動脈塞栓療法を試みるも治療に難渋した.開腹下に正中弓状靭帯を切離行い,腹腔動脈根部の圧迫を解除し,経肝動脈的治療を継続中である.症例2は66歳の女性で,血管造影で腹腔動脈根部の狭窄と上腸間膜動脈から供給される肝血流を認めた.HCCに対し肝外側区域切除と,将来の経肝動脈的治療導入に備え正中弓状靭帯切離を行った.現在術後再発病変に対して肝動脈塞栓療法を行っている.腹腔動脈起始部圧迫症候群に対する正中弓状靭帯切離は,経肝動脈的治療を要する症例には,積極的に試みてよい手技と考えられた.
  • 小川 久貴, 高橋 秀典, 大東 弘明, 後藤 邦仁, 山田 晃正, 長田 盛典, 冨田 裕彦, 石川 治
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 721-728
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     脾動脈,総肝動脈に浸潤を認める進行膵体部癌に対して,Indocyanine Green(以下,ICGと略記)を用いた術中蛍光血管造影検査と術中ICG負荷試験を用い,術中リアルタイムに肝血流・胃血流および肝機能を評価し,安全に肝動脈非再建・全胃温存の腹腔動脈切離膵体尾部切除術を施行しえた1例を報告する.症例は59歳の男性で,脾動脈,腹腔動脈に浸潤を認める進行膵体部癌に対して術前化学放射線療法を施行後,手術を施行した.術中蛍光血管造影検査にて腹腔動脈遮断後も膵頭部アーケードを介した固有肝動脈への血流,胃血流が明瞭に確認できた.また,術中ICG負荷試験により肝機能も良好に保たれることを確認しえた.以上の術中検査の結果により肝動脈非再建で全胃温存した腹腔動脈合併膵体尾部切除術を実施したところ,術後経過は合併症を認めず非常に順調であった.
  • 京兼 隆典, 渡邉 克隆, 諸藤 教彰, 中村 勇人, 久世 真悟, 馬場 聡
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 729-737
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     症例は71歳の女性で,背部痛のため当院紹介となった.造影CTで膵体部と尾部に35×27,20×15mm大の不整形腫瘤を認め,前者は腹腔動脈の左側壁に接し,脾動脈,左胃動脈を巻き込んでいた.腹腔動脈に浸潤する多発膵癌の可能性が考えられた.全胃温存腹腔動脈合併尾側膵切除術を施行,術後より背部痛は消失した.切除標本では膵体尾部に2か所病変を認め,ともに浸潤性膵管癌であるが,両者の組織像は異なり,体部病変はより低分化で,病変内にin situ病変と考えられる部分を認めたため多中心性発癌と考え,同時性多発膵癌と診断した.背景膵にpancreatic intraepithelial neoplasia(以下,PanINと略記)を認めた.術後補助化学療法を行い,18か月が経過したが無再発生存中である.本邦報告例を検索したところ,多発浸潤性膵管癌は18例であり,うち同時性多発例は10例とまれであった.自験例同様,背景膵にPanINを認めた報告が4例あり,多発膵癌発生との関連が示唆された.
  • 草間 啓, 袖山 治嗣, 長谷川 智行, 町田 泰一, 西尾 秋人, 中田 伸司, 北原 修一郎
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 738-744
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     症例は20歳の男性で,小児期から腹部てんかんの診断で経過観察されていたが,2009年4月右上腹部痛を主訴に当院紹介となった.腹部造影CTで上腸間膜動脈の周囲を腸管が取り巻くwhirl-like patternを認め,CT-colonographyでは上行結腸の左方変位が認められた.上部消化管造影検査で十二指腸空腸移行部の位置異常を認め,腸回転異常症に伴う中腸軸捻転症と診断された.同時に下腹部に造影効果のない多房性の嚢胞性病変を認め,MRIでも嚢胞内に結節性病変を認めないことから,腸間膜嚢腫と診断した.腸管血流障害の可能性が低いことから,待機的に腹腔鏡下に空腸部分切除,Ladd手術および虫垂切除を施行した.病理組織検査で嚢胞性病変が空腸筋層まで連続し,腸間膜リンパ管腫と診断された.中腸軸捻転,腸間膜嚢腫に対する腹腔鏡下手術は,腸管の血流障害がない症例に対して安全で有効な手技と考えられる.
  • 加藤 恭郎, 渡辺 孝, 前田 哲生, 垣本 佳士
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 745-751
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     わが国においてスターチ腹膜炎についての認識は低く,パウダーフリーの手術用手袋の普及も進んでいない.今回,虫垂切除後にスターチ腹膜炎を発症し,その後の経過を長期に観察しえた1例を経験したので報告する.症例は16歳女性で,1994年,虫垂炎に対し虫垂切除を行った.術後9日目から小腸通過障害をおこし,12日目に腹腔鏡下癒着剥離術を行った.黄色混濁腹水と腹膜小結節を認めた.腹水の培養は陰性であった.術後発熱と高い炎症反応が続いた.CTで腹水の貯留と腸間膜の肥厚を認めた.手袋のパウダーでの皮内反応が陽性であった.スターチ腹膜炎と判断しステロイド投与を行ったところ炎症反応は低下し,腹水も消失した.その後も小腸通過障害,複数回の腹痛があったがいずれも保存的に軽快した.スターチ腹膜炎が長期にわたり患者のQOLを悪化させた可能性があった.今後パウダーフリーの手術用手袋を普及させる必要があると思われた.
  • 村田 嘉彦, 宮田 完志, 湯浅 典博, 竹内 英司, 後藤 康友, 三宅 秀夫, 永井 英雅, 小山 明男, 田畑 光紀, 小林 陽一郎
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 752-758
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     症例は63歳の女性で,17歳時に急性虫垂炎と腹膜炎のための手術を受けている.その46年後に腹痛を主訴に当院を受診した.下部消化管内視鏡検査で回腸—横行結腸吻合の存在,回腸終末部から上行結腸,横行結腸がそれぞれ盲端であることが診断された.この6か月後,右下腹部痛のため当院を再診した.腹膜刺激症状を認め,CTで盲腸・上行結腸の壁肥厚・拡張と腹水を認めたため緊急手術を施行した.盲端となった上行結腸が穿孔していたため,回腸終末部・上行結腸の盲端部分を切除した.盲端内には8個の腸石を認めた.本症例の穿孔はself-filling typeの盲端の内圧上昇,細菌の異常増殖による感染,腸石による機械的刺激が原因と考えた.穿孔を合併した盲端症候群の本邦報告は10例で,自験例は腸石を伴う唯一の症例であった.腹痛を伴う盲端症候群は穿孔の可能性があるため,手術を考慮すべきである.
  • 藪内 伸一, 中川 国利, 鈴木 幸正, 遠藤 公人, 小林 照忠, 小村 俊博
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 759-766
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     大腸癌の骨格筋転移例を経験したので報告する.症例は63歳の女性で,平成18年12月上行結腸癌に対して結腸右半切除術を施行した.術後,UFT/UZELの補助化学療法を6か月間施行した.術後9か月目にcarbohydrate antigen 19-9の上昇を認めたが,画像検査では明らかな所見を認めなかった.腰痛が生じ,さらに腫瘍マーカーが上昇したため,再度精査を施行したところ,fluorodeoxyglucose-positron emission tomographyで腰部に高集積を認めた.CT,MRIで腰部骨格筋に周囲が濃染する腫瘍を認め,針生検で大腸癌の骨格筋転移と診断した.局所に放射線療法を施行した.mFOLFOX6療法を8クール施行し,腫瘍マーカーは著明に下降した.Grade 3の神経症状が出現したため,sLV5FU2療法で加療を継続中で,術後2年9か月現在,明らかな遠隔転移を認めていない.大腸癌の骨格筋転移は検索しえた範囲で16例目と非常にまれであるため報告する.
  • 末田 聖倫, 宮崎 道彦, 宮本 敦史, 辻江 正徳, 安井 昌義, 池永 雅一, 三嶋 秀行, 中森 正二, 辻仲 利政
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 767-772
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     大腸癌の膵臓転移はまれとされ,外科的切除となることもまれである.今回,我々は大腸癌術後に膵腫瘍を生じ,原発性,転移性の鑑別に苦慮し,外科的に切除可能であったまれな1切除例を経験したので報告する.症例は62歳の女性で,2007年S状結腸癌にてS状結腸切除術+D3郭清を行い,病理組織にてpSi(後腹膜)pN0pH0pP0pM0 stage IIと診断した.2009年腹部造影CTで膵尾部にlow density area(LDA)を,PETでFDG集積(SUV max 9.1)を認め,膵悪性腫瘍と診断した.同年膵体尾部切除術を施行した.病理組織で以前のS状結腸癌と類似した組織像を呈していた.また,遺伝子解析でk-ras遺伝子変異は両者から見いだされなかったが,p53遺伝子exon5のcodon176にTGC→TACの共通の遺伝子変異が認められた.組織像および遺伝子変異の共通性からS状結腸癌膵転移と診断した.
  • 小林 弘典, 宮本 勝也, 中井 志郎, 藤本 三喜夫, 横山 雄二郎, 坂下 吉弘, 嶋田 徳光, 藤野 豊寿
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 773-779
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     症例は59歳の男性で,主訴は下血.近医受診し下部消化管内視鏡検査にて進行直腸癌と診断され当科紹介となる.CTにて右肺S1に2.4×1.7cm大,左肺S8に2.3×2.1cm大腫瘤を認めた.術前,上部消化管内視鏡検査にて早期胃癌あり.まず,直腸癌に対して低位前方切除術施行し,胃癌に対して内視鏡的粘膜下層剥離術施行した.その後,まず左肺腫瘍に対して,次に右肺腫瘍に対してそれぞれ胸腔鏡補助下肺部分切除術施行した.病理組織学的には,直腸が中分化型管状腺癌であり,胃が高分化型管状腺癌,左肺が低分化型扁平上皮癌,右肺が中分化型乳頭型腺癌の診断であり,同時性4重複癌と診断した.以後,1年間化学療法を行い,1年9か月再発所見を認めていない.同時性4重複癌は非常にまれな疾患であり,進行直腸癌に両肺癌を合併した同時性重複癌の報告は本症例のみである.直腸癌の両肺転移と原発性肺癌の鑑別が困難であったため報告する.
  • 小久保 健太郎, 関野 誠史郎, 阪本 研一, 下川 邦泰
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 6 号 p. 780-786
    発行日: 2011/06/01
    公開日: 2011/06/21
    ジャーナル フリー
     症例は74歳の男性で,数日前に突然右下腹部痛が出現し近医を受診後,当院に紹介となった.初診時,腹部は全体に膨隆しており,反跳痛を認めた.腹部CTで腹腔内中央部に辺縁が不均一に造影され内部が低濃度な300mm大の腫瘤,最大径40mm大の多発肝病巣,腹腔内に散在する小結節を認めた.以上より,多発肝転移・腹膜播種を伴う腹腔内腫瘍の切迫破裂と診断し開腹手術を施行した.主病変は小児頭大で幽門下部の大網付着部に基部を有する腫瘍および複数の小播種結節を認めた.主病変および周囲の粗大播種結節を切除した.主病変は300×280×80mm大で,重量は2,413gであった.病理組織学的に高悪性度大網原発線維肉腫と診断された.退院後,化学療法としてドキソルビシンを使用したが,術後7か月目に死亡した.大網に発生したきわめてまれな線維肉腫の1例を経験した.
臨床経験
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