日本消化器外科学会雑誌
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44 巻, 8 号
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原著
  • 中村 勇人, 京兼 隆典, 渡邉 克隆, 諸藤 教彰, 久世 真悟
    原稿種別: 原著
    2011 年 44 巻 8 号 p. 929-935
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     はじめに : 急性虫垂炎手術における術後創感染は,入院期間の延長により患者のQOLを損ね,医療費に与える影響も大きい.当院では,術後創感染防止策として,2008年4月から開腹下急性虫垂炎手術症例全例に対し,ラッププロテクター(Lap-protector;以下,LPと略記)を使用している.本稿では,当院の症例を振り返り,開腹下急性虫垂炎手術におけるLPの創感染防止効果につき検討した.対象と方法 : 2006年10月から2009年10月までの開腹下急性虫垂炎手術症例99例を対象とした.これらを2008年3月までのLP導入前の49例,2008年4月以降のLP導入後の50例に分け,両群間で臨床項目につき比較検討した.結果 : 両群間に患者背景,術前白血球数,術前CTでの腹水の有無,虫垂の炎症の程度に有意差はなかった.LP使用群では,非使用群と比較して術前CRP値は有意に高く,術前CTで膿瘍合併例が多い傾向があるなど,より炎症の進行した症例が多かったが,創感染合併例は認めなかった.一方,LP非使用群では7例に術後創感染を認めた.創感染合併例は創感染非合併例に比べ,入院日数は平均で4.6倍,入院費の出来高比較は2.9倍で,双方とも差は有意であった.考察 : LPの使用は,開腹下急性虫垂炎手術後創感染を明らかに減少させた.医療経済,患者の術後QOLの点から,開腹下急性虫垂炎手術におけるLPの有用性が示された.
  • 内藤 善久, 橋口 陽二郎, 三好 正義, 神藤 英二, 上野 秀樹, 梶原 由規, 島崎 英幸, 望月 英隆, 山本 順司, 長谷 和生
    原稿種別: 原著
    2011 年 44 巻 8 号 p. 936-943
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     はじめに : 下部進行直腸癌に対する術前短期化学放射線照射(short-term preoperative chemoradiation;以下,SCRTと略記)の術前効果判定は,的確な術式選択に寄与する可能性がある.そこで,SCRT後の内視鏡的治療効果判定の有用性と精度を検討した.方法 : 2001年8月より2007年5月の間にSCRT(全骨盤照射4Gy×5日+UFT 400mg経口×7日)を施行され,前・後の内視鏡写真が確認でき,SCRT後に手術を施行された直腸癌75例を対象とした.このうち56例は注腸造影,61例はMRIでも評価可能であった.内視鏡的には,腫瘍周堤の高さがSCRT前の1/3以下に平低化した場合を治療効果高度,1/3より高いものを治療効果軽度と定義した.注腸造影・MRIでは,腫瘍の腸管軸1方向の長さを測定し,縮小率30%以上を治療効果高度,30%未満を治療効果軽度と定義した.判定は2検者が独自に行い,組織学的判定と比較した.結果 : 組織学的判定と内視鏡的判定との間に有意な相関が認められた.また,注腸造影検査による判定と組織学的判定の間にも有意な相関が認められたが,MRIとの間には認められなかった.また,検者間の一致性の指標であるkappa値は,いずれも中等度の一致を示した.考察 : 内視鏡所見から組織学的効果判定を推定することが可能であると考えられた.
  • 杉本 起一, 石山 隼, 秦 政輝, 高橋 玄, 小島 豊, 五藤 倫敏, 田中 真伸, 仙石 博信, 冨木 裕一, 坂本 一博
    原稿種別: 原著
    2011 年 44 巻 8 号 p. 944-954
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     はじめに : 切除不能遠隔転移を有する症例における原発巣切除の是非に関して,現時点ではコンセンサスは得られていない.特に肝内に広範囲の転移巣を有する同時性肝転移症例では,術前から肝機能障害や黄疸,腹水を認めることがあり,原発巣に対する治療方針の判断が難しい.今回,我々は同時性肝転移症例に対する原発巣切除時における術後短期成績およびその予測因子についてretrospectiveに検討し,原発巣切除の適応を慎重に検討すべき症例の選別について考察した.対象と方法 : 過去10年間に同時性肝転移を有する症例のうち,肝転移巣は切除せず原発巣切除のみ施行した81例を対象とした.術後短期成績として,在院死亡と術後合併症に関して,周術期の臨床病理学的因子を用いて検討した.結果 : 在院死亡は6例(7.4%)に認めた.多変量解析では,在院死亡の予測因子として,T-Bil値高値のみが独立した因子として選択された(P=0.04,Odds ratio=24.13).術後合併症は34例(42.0%)に認めた.術後合併症発生群と非発生群の2群間において,単変量解析で有意差を認めたのはT-Bil値高値のみであった(P=0.01).その他の臨床病理学的因子では有意差を認めなかった.考察 : 同時性肝転移症例に対する原発巣切除の適応を含めた治療方針の決定の際には,術前T-Bil値を十分に考慮する必要があると考えられた.
症例報告
  • 富永 哲郎, 日高 重和, 田中 研次, 田口 恒徳, 七島 篤志, 澤井 照光, 安武 亨, 永安 武
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 955-962
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は48歳の男性で,検診にて食道癌を指摘され,手術目的で当科入院となった.術前精査の胸腹部造影CTで,腸回転異常および肝部下大静脈欠損・奇静脈拡張・多脾症等の解剖学的異常を認めた.手術は,胸部食道全摘出術+D2郭清・脾臓摘出術,胸骨後経路胃管再建術(頸部吻合)を行い,術後経過は良好で術後32日目に退院した.腸回転異常症は種々の血管異常を合併することがあり,しばしば手術困難であった例が報告されている.今回,我々は,腸回転異常症・血管走行異常を合併した食道癌の1切除例を経験したので報告する.
  • 深瀬 耕二, 伊関 雅裕, 森川 孝則, 佐藤 俊, 富永 剛, 海野 倫明
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 963-969
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は74歳女性で,増悪する右季肋部痛のため当院紹介となる.来院時上腹部膨満著明,右季肋部に圧痛を認めた.CTで食道裂孔より胃が左胸腔内に嵌入,胸腔・腹腔内で胃は著明に拡張していた.胃管挿入による減圧を試みるも困難であった.さらに検査中ショック状態に陥り,食道裂孔ヘルニア嵌頓の術前診断で緊急手術を施行した.胃は臓器軸性に捻転し一部が食道裂孔より胸腔内へ嵌頓していた.食道胃接合部と幽門の絞扼により胃は広範囲に壊死しており胃全摘術を施行した.術後食道空腸吻合部に縫合不全を発症したが保存的に治癒した.胃軸捻転症は比較的まれな疾患であり,慢性的な経過を取り再発を繰り返すことも少なくない.横隔膜へルニアに伴う急性胃軸捻転の場合緊急手術となることもあるが,整復は容易であることが多く,本症例のように広範囲胃壊死での胃全摘術例は非常にまれである.
  • 藤田 博崇, 篠原 永光, 大畑 誠二, 田淵 寛, 梶川 愛一郎
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 970-977
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は69歳の男性で,主訴はタール便で,上部消化管内視鏡で異常所見を認めなかった.絶食で下血は治まるが,経口摂取にて下血,貧血が続いたので,CTを施行し小腸静脈瘤を疑った.血管造影検査にて上腸間膜静脈~門脈,脾静脈の閉塞と十二指腸空腸静脈瘤を認めた.小腸内視鏡で十二指腸~空腸静脈瘤を認め,当科紹介となった.本症例は,静脈瘤が多発し,空腸にまで静脈瘤が存在したため,内視鏡的治療は行えなかった.また,原因不明の肝外門脈閉塞を伴っており血管郭清を伴った十二指腸空腸部分切除は,術後肝不全になる可能性が高かったので,開腹下経回腸静脈静脈瘤塞栓術を施行した.塞栓術後5年以上経過しているが,下血などの再発は認めていない.しかし,塞栓した側副血行路が再開通するという報告もあり,今後も厳重な経過観察が必要であると思われる.
  • 鈴村 和大, 平野 公通, 飯室 勇二, 杉本 貴昭, 宇山 直樹, 佐竹 真, 中正 恵二, 藤元 治朗
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 978-984
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の女性で,約8か月前より肝嚢胞を指摘され経過観察されていた.2009年6月,CA19-9が上昇したため精査目的にて入院となった.腹部超音波,CT,MRIにて肝左葉に嚢胞性病変を認め,嚢胞壁の一部に壁肥厚を認めた.FDG-PETを施行したところ嚢胞内部に異常集積像を認めた.腫瘍マーカーの上昇およびFDG-PETの異常集積像より胆管嚢胞腺癌と診断し,肝左葉切除術を施行した.切除標本では嚢胞の一部に壁肥厚を認め,嚢胞内部に血腫および粘液を認めた.病理組織学的検査では胆管嚢胞腺癌であり,卵巣様間質を伴っていた.術後合併症は認めず,術後12か月の現在,再発なく健在である.卵巣様間質を伴う胆管嚢胞腺癌は極めてまれな疾患であり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 武藤 純, 調 憲, 間野 洋平, 本村 貴志, 武石 一樹, 戸島 剛男, 内山 秀昭, 武冨 紹信, 前原 喜彦
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 985-990
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は30代女性で,健診時,腹部超音波検査にて肝外側区域に限局する胆管拡張を指摘されたが充実成分を伴わず経過観察されていた.1年後,胆管拡張は左葉全域から総胆管におよび外側区域内に5cm大の充実性病変が認められた.精査の結果,粘液産生性胆管腫瘍(Intraductal papillary neoplasm of the bile duct;以下,IPN-Bと略記)と診断し,肝拡大左葉・尾状葉切除術,胆道再建を行った.腫瘍は外側区域を中心とする最大径5.5cmの多房性嚢胞性腫瘤で,病理組織学的にムチン産生性のIntrductal papillary adenocarcinomaであった.切除後11か月が経過した現在,再発なく経過している.IPN-Bの自然経過についてはいまだ不明な点が多く,本症例のように経過を観察しえた症例はまれである.若干の文献的考察を加え,報告する.
  • 友松 宗史, 安井 智明, 生田 真一, 相原 司, 飯田 洋也, 柳 秀憲, 覚野 綾子, 原 均, 山中 若樹
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 991-996
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は39歳の男性で,ビール約1,500ml/日の飲酒歴(エタノール換算75g/日×18年間)がある.上腹部痛,嘔吐,食欲低下で紹介入院となった.血中アミラーゼ値が上昇しており,上部消化管造影,内視鏡検査で十二指腸下行脚に全周性狭窄を認めた.腹部CT,MRIでは膵頭部に径20×15mm大の嚢胞性腫瘤を認め,門脈本幹の閉塞と肝門部には側副血行路の発達を伴っていた.画像上Groove pancreatitisと診断した.保存的治療を行いいったん退院したが,3週間後再燃したため手術を行った.手術は幽門側胃切除,Roux-en Y再建を行った.術後は症状の軽快と嚢胞性腫瘤の消失を認めた.保存的治療に抵抗するGroove pancreatitisに対し膵頭十二指腸切除術を施行した報告がみられるが,本術式も低侵襲かつ有効な治療法の一つと考えられた.
  • 沼賀 有紀, 大矢 敏裕, 高橋 憲史, 清水 尚, 多胡 賢一, 松本 広志, 家里 裕, 横森 忠紘, 長谷川 剛, 竹吉 泉
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 997-1004
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は71歳の男性で,嘔吐を主訴に近医を受診したが,症状が改善しないため当科を紹介され入院した.入院時CA19-9が2,804U/ml,DUPAN-2が841U/ml,Span-1が134U/mlと上昇していた.CTで十二指腸水平部に6cm大の腫瘤を認めた.内視鏡検査で,同部位に粘膜下腫瘍様の病変を認め,生検ではgroup 1であったが,十二指腸GIST疑いで手術を施行した.摘出標本では壁外性に発育した腫瘍で,粘膜面に潰瘍を伴っていた.病理学的には腺癌成分と扁平上皮癌成分を認め,腺扁平上皮癌と診断した.術後補助化学療法を開始したが,術後8か月で局所再発による狭窄症状が出現したため胃空腸吻合術を施行した.術後9か月に腸閉塞で入院し,CTで多発肝転移も認め,人工肛門造設術を行ったが術後10か月で死亡した.小腸原発の腺扁平上皮癌はまれで本邦では26例目の報告である.
  • 濱口 純, 前田 好章, 篠原 敏樹, 二川 憲昭, 上田 宣仁, 鈴木 宏明, 濱田 朋倫
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1005-1010
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は55歳の女性で,右大腿軟部肉腫の診断にて根治術施行された.病理組織学的検査にてMalignant fibrous hisciocytoma(MFH)の確定診断となり,術後化学療法を施行されていた.1年11か月後,follow中のCTにて両側肺転移の診断となった.手術予定となるも下血・貧血が出現した.下部消化管内視鏡検査にて回盲部に腫瘍が指摘された.腫瘍部生検を行い,消化管精査後の待機手術を予定されたが直後より嘔吐などの腸閉塞症状を併発し当科紹介,緊急の開腹手術となった.術中所見では空腸と回腸に1か所ずつ計2か所の病変部を認め,空腸の再発巣は腸重積を呈していた.この2病変に対し小腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査所見でMFHの再発と診断された.腹腔外を原発とする悪性腫瘍が腸管へ転移し手術加療を行う例は少なく,その中でも腸重積を呈する症例は非常にまれであり,文献的考察を加え報告する.
  • 石岡 興平, 内本 和晃, 大槻 憲一, 小山 文一, 中川 正, 中村 信治, 植田 剛, 錦織 直人, 藤井 久男, 中島 祥介
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1011-1017
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は67歳の女性で,糖尿病などで加療中であった.α-グルコシダーゼ阻害剤のミグリトール服用開始8か月後に,突然の腹痛と発熱で受診された.画像所見で小腸壁内・腸間膜内に気腫と腸管壁の菲薄化を認め,穿孔を伴う腸管嚢腫様気腫症と診断し,試験開腹術を行った.術中所見で穿孔はなく,回腸とその腸間膜にのみ多発する気腫像を認めた.術後よりミグリトールを中止し,約1年間再発を認めていない.α-グルコシダーゼ阻害剤による腸管嚢腫様気腫症の報告はまれで,ミグリトールによる報告は初めてである.他のα-グルコシダーゼ阻害剤と異なり,ミグリトールは小腸上部でのみ糖吸収を抑制するため,小腸下部で糖は吸収される.α-グルコシダーゼ阻害剤誘発腸管嚢腫様気腫症の好発部位は大腸であるが,本症例では回腸に限局していた.小腸下部で糖が吸収・発酵され,糖が大腸まで到達せず,回腸のみで内圧が上昇したことが原因と考えられる.
  • 瀧井 麻美子, 大谷 博, 中村 哲生, 有本 裕一, 平川 弘聖
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1018-1023
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     妊娠中に発症した急性虫垂炎は,しばしばその診断に苦慮することも多く,他の産婦人科的疾患との鑑別が必要になる.本症例は妊娠18週の患者で,上腹部痛を主訴に来院し,臨床所見および術前画像検査で急性虫垂炎が疑われたものの確定診断には至らなかった.腹腔鏡を施行のうえ,急性虫垂炎と診断し,腹腔鏡下にて虫垂切除術を安全に施行した.術後,合併症なく退院し,その後の妊娠経過も良好であった.腹腔鏡手術は妊娠時期により安全に施行できる点や,診断的治療が可能である点において有効であると考えられた.
  • 宮本 健志, 福長 徹, 木村 正幸, 菅本 祐司, 久保嶋 麻里, 今西 俊介, 松原 久裕
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1024-1030
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は79歳女性で,急性虫垂炎で発症した虫垂粘液嚢胞腺癌(stage II)に対して,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.1年4か月で卵巣転移と骨盤内腹膜播種性再発を来し,子宮付属器切除,播種巣の摘出を実施した.局所化学療法として,Cisplatin,5-FU,Mitomycin Cによる腹腔内化学療法を3回施行した.この治療後腹痛が生じるようになり,その後腸閉塞となったため,入院となった.画像所見では腹膜播種の増悪よりも嚢状物による腸閉塞の可能性が高いと判断された.開腹手術を実施した結果,腹膜播種の再燃は認めず,被嚢性腹膜硬化症の診断となった.硬化腹膜の剥離により症状は軽快した.虫垂癌腹膜播種への腹腔内化学療法に接する機会は少なく,これらに伴う被嚢性腹膜硬化症の報告はほとんどないが,その病態からは,発症する可能性を多く含んだ治療であることが示唆された.文献的考察を加え報告する.
  • 篠藤 浩一, 大島 郁也, 吉村 清司, 有我 隆光, 尾崎 正彦
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1031-1038
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は62歳の女性で,腹痛を主訴に当院を受診した.腹部CTで腹腔内液体貯留および中結腸動脈に動脈瘤の所見を認めた.中結腸動脈瘤破裂による腹腔内出血を疑い,その後ショック状態となったため緊急手術を行った.出血源が,中結腸動脈右枝の動脈瘤の破裂であることを確認し同血管を結紮・切除した.病理組織学的所見では中膜壊死を認めるのみであり特発性中結腸動脈瘤の破裂と診断した.術後経過は良好で第20病日に軽快退院となった.中結腸動脈瘤の破裂は,まれな疾患である.その治療法には,interventinal radiologyと開腹術があるが,個々の症例の全身状態に応じた治療法を選択することが肝要であると考えられた.
  • 細野 知宏, 川村 武, 村上 慶四郎, 佐藤 力弥, 野口 忠昭, 佐々木 邦明, 川村 統勇, 池上 雅博
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1039-1046
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は53歳の男性で,血便を主訴に来院した.下部消化管内視鏡検査にて下行結腸に易出血性の径約15mmのIspポリープを認めEMR施行した.病理はpyogenic granulomaであった.外来通院中に再び血便を認め,再度下部消化管内視鏡検査施行した.前回EMR施行した同部位に径20mm大の腫瘍性病変を認めた.精査にてpyogenic granulomaの再発と診断した.再度の再発を懸念し外科的切除の方針とし,下行結腸部分切除術を施行した.最終病理もpyogenic granulomaであった.pyogenic granulomaは口腔粘膜以外の消化管発生の報告は極めてまれである.易出血性であるため消化管出血の原因として念頭に置く必要があり,さらに本症例のように再発することも多く,発育速度も比較的急速なため,治療方法の選択に熟考が必要と考える.
  • 北村 謙太, 齊藤 修治, 塩見 明生, 絹笠 祐介, 山口 茂樹, 草深 公秀, 金本 秀行, 坂東 悦郎, 上坂 克彦, 寺島 雅典
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1047-1054
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は61歳の男性で,下部消化管内視鏡検査でS状結腸に2型腫瘍を指摘され,術前生検では中分化腺癌であった.術前造影CTにて腎静脈下縁尾側のNo216リンパ節転移陽性と診断した.肝硬変を併存しており根治手術は困難と判断し,ハルトマン手術,D2郭清,根治度C(遺残病変はNo216リンパ節のみ)を施行.病理組織学的検査において,原発巣および転移リンパ節にはそれぞれ腺癌細胞と約20%,約30%の内分泌細胞癌成分の混在を認めた.遺残病変に対し,肺小細胞癌に準じてCPT-11+CDDP療法を施行した.2コース終了後にNo216リンパ節腫大は著明に縮小し,その後4コース追加し化学療法を中止,以後経過観察のみを行っている.化学療法終了後4年6か月間Complete Responseを維持しており,術後5年1か月現在生存中である.
  • 佐野 真規, 中山 隆盛, 新谷 恒弘, 白石 好, 森 俊治, 磯部 潔
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1055-1061
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は79歳の女性で,以前より右鼠径部に膨隆を自覚していたが還納可能なため放置していた.膨隆が増大したため当院外科を受診し鼠径靭帯の尾側に径4cmの膨隆を認めた.腹部CTではヘルニア嚢内に腸管ガス像と腹水を認め用手還納は不可能であり大腿ヘルニア嵌頓と診断し,脊椎麻酔下に緊急手術を施行した.ヘルニア嚢内に漿液性腹水と虫垂の嵌頓を認めた.虫垂に軽度炎症を伴っており虫垂切除術とヘルニア根治術を施行した.術後合併症を認めず経過良好であった.本邦での鼠径部ヘルニアの虫垂・回盲部嵌頓症例を検討した.大腿・虫垂型は鼠径・虫垂型に比べ高齢女性に発症し,腸閉塞を高率に呈した.虫垂型は回盲部型に比べ腸閉塞発生率は低く,手術創は鼠径部のみであることが多かった.嵌頓した虫垂は壊疽性炎症の頻度が高く早期に壊死・穿孔に至る可能性が示唆された.ヘルニアに対するメッシュの使用は炎症が軽度であれば良好な成績であると考えられた.
  • 大森 健治, 宮田 完志, 湯浅 典博, 竹内 英司, 後藤 康友, 三宅 秀夫, 高橋 崇真, 雄谷 慎吾, 小林 陽一郎
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1062-1069
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は67歳の女性で,主訴は食事摂取後の胸背部痛である.当院内科での上部消化管造影検査で左横隔膜上にくびれを持って嚢状に突出する胃穹隆部を認めたため,傍食道型食道裂孔ヘルニアと診断された.その後に行われた食道内圧検査,24時間食道pHモニタリングでは胃食道逆流症を示唆する所見はなかった.CT像を詳細に検討すると,腹部食道と左横隔膜上に脱出する胃の間に左横隔膜脚を認めたため,横隔膜傍裂孔ヘルニアと診断した.腹腔鏡下にヘルニア内容の還納,ヘルニア門の縫縮を行った.横隔膜傍裂孔ヘルニアは傍食道型食道裂孔ヘルニアと臨床像,画像所見が似ているため正しく術前診断されないことが多く,これまでその多くは手術中に診断されてきた.傍食道型食道裂孔ヘルニアでは噴門形成術が必要なことが多いが,横隔膜傍裂孔ヘルニアでは噴門形成術は原則として不要である.病態の理解・治療の観点からも両者は正しく区別されるべきである.
  • 榎本 浩也, 大熊 誠尚, 小林 徹也, 中島 紳太郎, 小菅 誠, 衛藤 謙, 羽田 丈紀, 小川 匡市, 柏木 秀幸, 矢永 勝彦
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 44 巻 8 号 p. 1070-1078
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2011/08/23
    ジャーナル フリー
     症例は54歳の男性で,幼少期に右鼠径ヘルニアに対する修復術を施行されていた.2009年3月に右鼠径部の膨隆を自覚し疼痛が増強したため前医を受診した.再発右鼠径ヘルニア嵌頓の疑いで精査加療目的に当科紹介となった.来院時,右鼠径部に皮膚の発赤と圧痛を伴う鶏卵大の膨隆を認めた.ヘルニア嵌頓と診断して用手還納を試みるも還納できず,術前精査の目的で腹部CTを行ったところ右鼠径ヘルニア嚢内部に回盲部から連続する管状構造物の脱出が確認された.以上より,ヘルニア内容が虫垂であるAmyand's herniaと診断し同日緊急手術を施行した.虫垂切除術とIliopublic tract repairによるヘルニア修復を行い,第6病日に退院となった.鼠径ヘルニア内容が虫垂であるAmyand's herniaはまれであり,術前に診断されることは少ないとされている.今回,我々は腸閉塞症状を認めない鼠径ヘルニア嵌頓に対し術前骨盤部CTによりAmyand's herniaと診断しえた症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
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