日本消化器外科学会雑誌
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45 巻, 12 号
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症例報告
  • 久倉 勝治, 寺島 秀夫, 永井 健太郎, 高野 恵輔, 只野 惣介, 榎本 剛史, 稲川 智, 橋本 孝之, 櫻井 英幸, 大河内 信弘
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1145-1152
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     筑波大学では食道癌に対し陽子線治療を施行し良好な治療成績を報告している.一方で,照射後食道潰瘍が56.4%の頻度で発生し,そのうち治癒不能な潰瘍を22.7%に認めている.陽子線照射後の難治性照射後潰瘍を当科では7例経験し,5例に穿孔または穿通を認めた.保存的治療を行った3例は合併症の制御が困難となり死亡したが,その後の2例は外科治療を施行し救命しえた.臨床的特徴として,初発症状が狭窄であること,初発症状から潰瘍形成,穿孔・穿通までの期間が1~2か月と極めて短期であり,すみやかな外科療法を検討する必要があることが挙げられる.手術所見の特徴として,潰瘍部位は周囲と強固に癒着しており剥離層の同定が困難であったが,血管障害を受けているため出血をほとんど認めず,鋭的操作により一度正しい剥離層を同定した後は比較的容易に剥離可能であった.
  • 山川 雄士, 佐藤 弘, 草深 公秀, 近藤 晴彦, 坪佐 恭宏
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1153-1160
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     症例は61歳の女性で,検診での上部消化管内視鏡にて胸部中部食道に粘膜下腫瘍を指摘され,当院に紹‍介受診となった.胸部CT,MRIにて気管分岐部背側に位置する境界明瞭な囊胞状病変を認め,bronchogenic‍ ‍cyst,もしくは食道duplication cystが疑われた.上部消化管超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography;以下,EUSと略記)にて,食道の固有筋層と囊胞壁の筋層間に連続性を認めたため,食道duplication cystと術前診断した.手術は右開胸にて囊腫を摘出し,食道壁欠損部は食道縦走筋を縫合し修復した.切除標本を病理組織学的診断した結果,囊胞壁は未熟な扁平上皮で覆われ,平滑筋層がよく発達しており,食道duplication cystと診断された.今回,EUSを用いて術前に食道duplication cystを診断しえた1例を経験したので報告する.
  • 神賀 貴大, 安西 良一, 丹野 弘晃, 森谷 卓也, 海野 倫明
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1161-1169
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     症例は53歳の男性で,腹部超音波検査にて肝左葉に腫瘍を指摘されて当院へ紹介となった.上部消化管内視鏡検査にて胃体上部前壁に深い潰瘍がある3型腫瘍を認め,生検では中分化型管状腺癌であった.腹部造影CTでは小網内に胃体上部前壁と胃癌を介して連続する腫瘍を認めた.腫瘍は被膜を有し,大部分が脂肪成分で,囊胞構造と微小石灰化が混在し,胃奇形腫と診断した.胃癌と胃奇形腫に対して胃全摘術,脾合併切除術を施行した.病理組織学的検査にて小網内腫瘍は多様な組織を持つ成熟奇形腫であった.胃癌の深い潰瘍と考えられた構造物は腸上皮と固有筋層を有する真性胃憩室であった.胃癌は大部分が胃憩室内に存在しており,胃憩室に生じた胃癌と考えられた.本症例は胃外型の胃奇形腫の牽引により生じた胃憩室に胃癌が発生した非常にまれな症例であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 岩本 哲好, 中村 直彦, 原田 英樹, 四元 文明, 山本 秀和, 内海 貴彦, 武内 英二, 財間 正純
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1170-1179
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     症例は45歳の男性で,心窩部痛を主訴に来院した.上部消化管内視鏡検査で胃体中部小彎から前庭部に複数の潰瘍性病変を認め,生検でT細胞性悪性リンパ腫と診断した.末梢血中の抗human T-lymphotropic virus type-1(以下,HTLV-1と略記)抗体は陽性であった.末梢血,骨髄中に異常リンパ球を認めず,CT,PETでは胃と所属リンパ節以外に異常を認めなかったため,胃原発悪性リンパ腫と診断し,胃全摘,胆摘,D2郭清術を施行した.切除組織中にHTLV-1 proviral DNAの組み込みを認めたが,末梢血中にはHTLV-1 proviral DNAを認めず,HTLV-1関連胃原発悪性リンパ腫と診断した.術後は補助化学療法としてTHP-COP療法を6クール施行し,術後27か月を経過したが,再発徴候なく生存中である.
  • 藤本 大裕, 河野 史穂, 寺田 卓郎, 三井 毅, 中沼 安二, 山口 明夫
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1180-1185
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     症例は67歳の女性で,心窩部痛にて紹介医を受診し急性膵炎にて入院となった.保存的加療にて症状は軽快し,急性膵炎の原因精査のため当院内科紹介となった.ERCPにて膵管合流型の胆管非拡張型膵管胆管合流異常と診断.腹部CTでは胆囊底部に不整な壁肥厚を認め,胆囊癌の合併も否定できないため,開腹肝床合併胆囊摘出術を施行した.組織学的には胆囊体部から頸部にかけては,粘膜のびまん性乳頭状過形成を認めたが,細胞異型は認めなかった.一方,体部から底部にかけては,乳頭状の病変で,軽度から高度までさまざまな程度の異型性を認め,一部には癌に相当する異型も認められた.びまん性乳頭状過形成粘膜を背景に,多段階的な異型上皮から粘膜上皮癌を認め,膵管胆管合流異常における発癌過程において示唆に富む症例と考えられた.
  • 市川 剛, 小川 雅生, 川崎 誠康, 出村 公一, 堀井 勝彦, 亀山 雅男, 吉村 道子, 上西 崇弘, 竹村 茂一, 久保 正二
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1186-1193
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     症例は71歳の女性で,嘔吐を主訴に来院した.血液検査でCRPおよび肝・胆道系酵素の上昇が見られた.腹部CT像上,回腸内に3 cmの結石と口側小腸の拡張および胆管内気腫が見られた.イレウス管挿入時に十二指腸から胆囊が造影され,胆囊十二指腸瘻を伴う胆石イレウスと診断した.開腹所見で胆囊十二指腸瘻と回腸への結石嵌頓が見られた.嵌頓結石の摘出と胆囊摘出を試みたが,炎症性に胆囊管の同定が困難であったため胆囊を頸部で離断し瘻孔を含め摘出した.遺残胆囊頸部断端は結節縫合閉鎖した.摘出胆囊粘膜内には一部に異型腺管が散在し,抗p53抗体およびMIB-1陽性細胞が見られたため胆囊上皮内癌と診断された.非癌部粘膜には偽幽門腺化生が見られた.瘻孔への癌浸潤は認めなかったが切除断端が陽性であったため,初回手術から2か月後に根治切除を行った.内胆汁瘻を有する症例は胆囊癌の合併を念頭に置いて治療を行うべきと考えられた.
  • 廣瀬 淳史, 田島 秀浩, 牧野 勇, 林 泰寛, 中川原 寿俊, 高村 博之, 北川 裕久, 谷 卓, 藤村 隆, 太田 哲生
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1194-1201
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     症例は62歳の男性で,10年程前より糖尿病にて加療されており,2007年のCTで膵体尾部の腫大を指摘されたが経過観察となっていた.2010年8月頃より頻回の下痢を認めるようになり,同年12月に同症状および高血糖・高ケトン血症を認め前医入院となった.精査にて膵vasoactive intestinal polypeptide(以下,VIPと略記)産生腫瘍と診断され,2011年1月当院内科に転院となった.膵体尾部ほぼ全体を占める腫瘍で肝転移および胆囊総胆管結石を伴っており,脱水や電解質異常は保存的に補正できたものの,2‍ ‍l/day近い下痢が改善しないため,手術目的に当科紹介となった.同年2月初旬に膵体尾部切除術,肝部分切除,胆囊摘出術および総胆管切開切石術を施行した.術直後より下痢は消退傾向となり,術後1日目には消失した.血中VIP値に関しても術後3時間で著明に低下し,高血糖や顔面紅潮,高カルシウム血症も術後2日目までには全て軽快した.
  • 黒田 陽介, 中島 雄一郎, 増田 隆伸, 丸山 晴司, 島袋 林春, 高橋 郁雄, 飛田 陽, 大城 由美, 西崎 隆
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1202-1209
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     腫瘍径30 mm未満の小型膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;以下,IPMNと略記)からの発生が示唆された浸潤型膵癌の2例を経験した.症例1は67歳の男性で,膵癌と,近接する径17 mmの分枝型IPMNを指摘され膵頭十二指腸切除術を施行.組織学的に両者は接し境界部に移行像を認めた.2例目は59歳の男性で,2年前より経過観察中の膵鈎部の径25 mmの分枝型IPMNに接して膵癌の発生を認め膵頭十二指腸切除術を施行.組織学的に囊胞性病変にはIPMNと浸潤型膵癌の混在を認めた.国際診療ガイドラインでは囊胞径30 mm以上,壁在結節,膵液細胞診陽性,主膵管拡張,症状ありの5因子が分枝型IPMNの手術適応とされる.本症例のように壁在結節のない小さな分枝型IPMNからの浸潤癌の発生もまれながら存在するためIPMNの経過観察において注意を要する.
  • 伊藤 麻衣子, 遠藤 出, 大谷 弘樹, 久保 雅俊, 宇高 徹総, 水田 稔
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1210-1217
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     出血性ショックを呈した多発空腸憩室症の1例を経験したので報告する.症例は44歳の男性で,大量下血とショックを主訴に当院を紹介受診した.腹部造影CTでは空腸に造影剤の漏出所見を認め,空腸出血が疑われた.小腸ダブルバルーン内視鏡を施行したが,胃・十二指腸・上部空腸の観察範囲内に明らかな出血部位は確認できなかった.ガストログラフィンにて造影すると上部空腸に多数の憩室を認め,CT結果と合わせて空腸憩室出血が疑われた.準緊急的に開腹手術を施行した.術中所見では腸間膜付着側に小腸全長にわたって多数の憩室を認め,上部空腸には径3 cm大前後の比較的大きな憩室を複数認めた.出血源と思われる憩室を含め約90 cmの空腸を切除した.切除標本では小腸平滑筋層と連続して憩室にも平滑筋層を認め,真性憩室からの出血と診断された.Meckel憩室を除くと小腸憩室の大半は仮性憩室であり,本症例はまれな症例と考えられた.
  • 大原 勝人, 大村 拓, 初貝 和明, 石井 正, 金田 巖
    原稿種別: 症例報告
    2012 年 45 巻 12 号 p. 1218-1223
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/14
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     症例は65歳の男性で,2005年より閉塞性動脈硬化症による高位大動脈閉塞にて当院血管外科外来に通院中であった.2009年,便潜血陽性を主訴に当院内科を受診した.大腸内視鏡でS状結腸に3 cm大のIspポリープを認め,腺腫内癌のSM浸潤が疑われたため,手術目的に当科紹介となった.CTでは,腫瘍は周囲への浸潤が見られず,病的腫大リンパ節や他臓器転移も認めなかった(c stage I).また,血管再構成にて下腸間膜動脈の血流は,中結腸動脈左枝からRiolan動脈弧を経由し,左結腸動脈を介して供給されていた.これにより,血流障害を回避するため,D1郭清を伴うS状結腸切除を行った.今回,我々は高位大動脈閉塞を合併したS状結腸癌に対し,術前のCTによる血流評価によって,安全に手術を施行しえた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
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