日本消化器外科学会雑誌
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48 巻, 7 号
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原著
  • 相本 隆幸, 水谷 聡, 川野 陽一, 松下 晃, 池田 研吾, 小林 匡, 鈴木 英之, 内田 英二
    原稿種別: 原著
    2015 年 48 巻 7 号 p. 549-557
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     目的:膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)に対するrating systemを用いた行程別手術教育プログラムの意義と有用性,安全性につき検討した.方法:指導医3名,対象は修練医の12名で,基本手術手技評価表とPD行程別技能評価表(A:基本的行程,B:胃癌・大腸癌手術と共通行程,C:PDに特異的行程)を用い,執刀ごとの到達度をrating systemでスコア化し,A+BとC項目の合計スコアで修練医をlevel 1~4に層別化した(level 3以上PD執刀有資格,level 4は膵癌や血管合併切除術も可とした).検討項目は,①個別スコアの経時的推移と手術完遂率,②指導医群・修練医群間での手術成績比較,③アンケート結果検討とした.結果:A+Bの合計スコアは,level 2以下の4名を除き執刀ごとに上昇し,C項目スコアは個人差があった.手術完遂率は執刀ごと上昇した.手術時間は指導医群で有意に短縮(P<0.05),出血量や術後合併症率・術死率に差はなかった.アンケート結果は,改善すべき手技や行程が明確などであった.結語:PDに特異的行程の習得には個人差があり本プログラムの導入のみでは不十分だが,胃癌・大腸癌手術との共通行程の向上に本プログラムは寄与した.本プログラム下で,修練医執刀症例でも安全性は十分確保された.
症例報告
  • 春木 茂男, 滝口 典聡, 有田 カイダ, 薄井 信介, 伊東 浩次, 松本 日洋
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 558-564
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     症例は42歳の男性で,食事つかえ感を主訴に当科紹介受診となった.胸部下部食道に不整潰瘍性病変を認め,生検にて高分化腺癌と診断された.接合部には胃粘膜襞の口側終末部より口側に円柱上皮形成を認めバレット食道の併存を疑った.また,胃体上部小彎に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.右開胸食道亜全摘術を施行し,胃粘膜下腫瘍は胃管作成時に切除した.病理組織学的検査において胃粘膜下腫瘍は粘膜下層に主座をおく胃壁内転移と診断された.左胃動脈幹,左反回神経周囲リンパ節を含む16個のリンパ節転移を認めた.接合部では円柱上皮下の粘膜下層に固有食道腺を認め,バレット粘膜が併存していたためバレット食道腺癌と診断した.化学療法を1年間行い経過観察中であるが,術後41か月現在無再発生存中である.胃壁内転移を伴うバレット食道腺癌に対する外科治療の意義は明らかではないが,集学的治療は必須と考えられ,症例の蓄積が待たれる.
  • 伊藤 裕介, 五十嵐 佑子, 稲葉 基高, 大東 弘明
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 565-571
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     症例は82歳の男性で,吐下血・呼吸困難を主訴に救急搬送された.精査中に血圧低下を来し,炎症反応高値とエンドトキシン陽性より敗血症性ショックとして入院した.入院後に腹膜刺激徴候を認めたため,緊急手術を施行し,空腸と十二指腸の分節状の色調不良を認め,非閉塞性腸間膜虚血症(non-occlusive mesenteric ischemia;以下,NOMIと略記)と診断した.循環動態が不安定であり,可及的に空腸と十二指腸の一部を切除し,吻合・創閉鎖を行わずopen abdomenにて管理した.術後3日目にsecond look operationを施行したところ,腸管の壊死は十二指腸水平脚まで進行しており,十二指腸部分切除を追加し,十二指腸と空腸を吻合して手術を終了した.十二指腸に虚血を来したNOMIの本邦報告はまれであり,報告する.
  • 石原 陽介, 高橋 滋, 奥川 郁, 中野 且敬, 秋岡 清一, 大坂 芳夫, 土屋 邦之, 迫 裕孝
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 572-581
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     患者は26歳の男性で,右季肋部痛を主訴に受診した.腹部超音波検査およびCTで肝右葉に80 mm大の内部不均一腫瘤を認め近医より紹介された.その後,当院受診時のCTで100 mm大の低吸収域,MRIで腫瘍実質はT1 low,T2 highを呈し,T1,T2ともにhighの領域を腫瘍内部に認め出血が疑われた.選択的血管造影ではhypovascularであった.悪性腫瘍を疑い右肝切除術を施行した.病理組織学的検査所見より悪性線維性組織球腫と診断された.8か月後,CTにて右横隔膜に同様の腫瘍を認め開胸下に腫瘍を切除した.さらに6か月後,肝S4に再発性単発腫瘤を認め,肝部分切除術を施行した.初回切除後より5年経過するが現在無再発にて生存中である.肝原発悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma;MFH)は我々が検索しえたかぎりでは本例を含めて56例にすぎず,再発症例に対し手術を選択しえた症例は非常にまれなのでこれを報告する.
  • 小松原 隆司, 藤本 康二, 浅利 建吾, 長谷川 寛, 錦織 英知, 古角 祐司郎, 上原 徹也, 石井 正之, 東山 洋
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 582-589
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     症例は76歳の男性で,倦怠感を主訴に受診した.血液検査にて白血球数が37,100/μlと上昇し,腹部造影CTにて肝右葉に辺縁に造影効果のある径8 cmの腫瘤を認めた.まず肝膿瘍を疑い,膿瘍ドレナージを含めた保存的加療を開始したが改善傾向を認めなかった.その後白血球数が71,000/μlと異常高値を示したためgranulocyte-colony stimulating factor(以下,G-CSFと略記)を測定したところ,800 pg/ml(基準値<39 pg/ml)と上昇を認め,G-CSF産生腫瘍を疑い手術を行った.病理組織学的検査は肝未分化癌で,G-CSF免疫染色陽性でありG-CSF産生肝未分化癌と診断した.手術後,白血球数は一旦正常化したが再び上昇し,次第に全身状態不良となり術後32日目に死亡した.非常にまれなG-CSF産生肝未分化癌を経験したので報告する.
  • 大森 隆夫, 濱田 賢司, 野口 大介, 伊藤 貴洋, 大倉 康生, 金兒 博司, 田岡 大樹
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 590-595
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
    ジャーナル フリー HTML
     症例は46歳の男性で,心窩部痛を主訴に受診した.来院時黄疸と,CTにて胆囊結石,右肝円索,輪状膵,多脾症を認めた.また,心臓,肝臓,胃は正位ながら,十二指腸水平脚が上腸間膜動静脈背側を左側から右側に通過,体の左側に上行結腸,右側に下行結腸を認め,十二指腸より遠位消化管の部分内臓逆位症であった.DIC-CTにて総胆管結石を認め内視鏡的治療を試みたが施行不能であり,胆囊摘出術,総胆管切開切石術を予定した.術中所見では胆囊は肝円索裂の左側に位置し,総胆管は門脈左側かつ十二指腸の腹側面を走行,胆囊管は総胆管左側より合流していた.総胆管内に結石は認めなかったが,遺残結石に備えretrograde transhepatic biliary drainageチューブを留置した.部分内臓逆位症例に対し肝胆道系手術を行う際は,慎重な解剖把握と術後合併症対策が必要と考える.
  • 辻 敏克, 芝原 一繁, 岩城 吉孝, 棚田 安子, 羽田 匡宏, 竹原 朗, 野崎 善成, 佐々木 正寿, 前田 宣延
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 596-604
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     症例は77歳の女性で,腹痛にて近医を受診したところ腹部USおよび腹部CTで胆石胆囊炎が疑われ,当科紹介となった.右季肋部に腫大した胆囊を触知したが,腹部は軟で圧痛は認めなかった.腹部US,腹部CT,腹部MRIで胆囊の著明な腫大と壁肥厚を認め,胆囊頸部に胆石を認めた.明らかな腫瘍性病変は指摘できなかった.胆石胆囊炎の診断で胆囊摘出術を行った.病理組織学的検査にて,混合型腺神経内分泌癌と診断されたため,追加で胆囊癌所属リンパ節郭清を行った.所属リンパ節転移を認め,最終病期分類はstage III Bであった.補助療法として,塩酸ゲムシタビンによる化学療法を施行したが,終了後のCTおよびPETで肝S8および腹部傍大動脈リンパ節転移を認めた.肺小細胞肺癌再発例に準じてCPT-11単剤療法を行ったところ転移巣は消失した.本症例の再発症例に対する完全寛解の報告例はなく,CPT-11の有用性が示唆された.
  • 高橋 大五郎, 後藤田 直人, 大久保 悟志, 岡田 嶺, 中山 雄介, 西田 保則, 北口 和彦, 加藤 祐一郎, 高橋 進一郎, 小西 ...
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 605-610
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     症例は64歳の男性で,黄疸を主訴に近医を受診し精査にて膵頭部癌と診断され紹介受診した.術前検査で,PT-INR 2.52,APTT 63.1秒と延長,第V因子活性5%と低下,第V因子インヒビター陰性であり,第V因子欠乏症を合併した膵頭部癌と診断した.術前に新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma;以下,FFPと略記)を輸血し凝固機能の改善を確認し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(subtotal stomach-preserving pancreaticoduodenectomy;SSPPD)を施行した.周術期は凝固機能を測定しFFP輸血を術後4病日まで投与し後出血を起こすことなく術後第11病日に退院した.本症例のような閉塞性黄疸症例では血液凝固異常を来していることは少なくないが,本疾患を含めた血液凝固異常の疾患についても注意が必要と考える.
  • 藤井 昌志, 藤井 圭, 外園 幸司, 小川 芳明, 籾井 眞二, 佐藤 裕
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 611-617
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
    ジャーナル フリー HTML
     囊胞性小腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)の破裂により腹膜炎を生じた症例を経験したので報告する.症例は87歳の女性で,腹部膨満感と強い下腹部痛を主訴に当院へ救急搬送された.腹部CTで骨盤内小腸に接し辺縁造影効果を伴う囊状構造を認め,内部に液体貯留を伴っていた.また,腹水と周囲脂肪織の濃度上昇を認めており,小腸に由来する囊胞性腫瘍の破裂を疑い緊急手術を施行した.開腹所見として,少量の血性腹水を認め,回腸末端から約170 cmの回腸に1 mm程度の穿孔を伴う約5 cmの小腸腫瘍を確認した.術式として腫瘍を含む小腸部分切除術および腹腔内洗浄ドレナージ術を選択した.病理組織学的診断は小腸GISTであったが,術後1年間の観察期間中,無再発で経過している.
  • 鈴木 興秀, 隈元 謙介, 福地 稔, 近 範泰, 幡野 哲, 松澤 岳晃, 熊谷 洋一, 石橋 敬一郎, 持木 彫人, 石田 秀行
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 618-627
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     ミスマッチ修復遺伝子の一つであるMSH6の変異を原因とするリンチ症候群大腸癌を経験したので報告する.症例は25歳の女性で,便潜血陽性と貧血を主訴とし受診した.家族歴では,父方の祖父が大腸癌,祖母が膵臓癌,母方の祖母が子宮内膜癌に罹患していた.2型横行結腸癌に対し,結腸部分切除(D3)を施行した.病理組織学的検索では,T3N0M0 stage IIの低分化腺癌で,術後6か月間,UFT/LVによる補助化学療法を行った.改訂ベセスダガイドラインの3項目を満たすことから,リンチ症候群のスクリーニングとしてマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability;MSI)検査を行ったところ,高頻度マイクロサテライト不安定(microsatellite instability high;MSI-H)であった.ミスマッチ修復タンパクに対する免疫染色検査では,大腸癌細胞の核でMSH6タンパクのみが欠失していた.遺伝学的検査では,MSH6のexon 5,codon 1087にフレームシフト変異が認められた.術後3年5か月経過した現在,無再発生存中である.
  • 久野 真史, 松橋 延壽, 高橋 孝夫, 市川 賢吾, 奥村 直樹, 吉田 和弘, 宮崎 龍彦
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 628-635
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     症例は84歳の男性で,60歳時より痔瘻を発症していた.近医で3度の痔瘻根治術を施行されたが症状改善なく当科紹介となった.CT,MRIで肛門管背側に30 mm大の隔壁を有する囊胞性病変を認めた.生検などで悪性所見はなく経過観察中腫瘍が増大傾向を示したため経肛門的に摘出したが病理組織学的検査では悪性像は認めなかった.術後半年で囊胞性病変の再発・増大傾向を認めた.囊胞内粘液の穿刺細胞診で悪性所見は認めずPET-CTでも有意な集積を認めなかったが血清CEAが10.0 ng/mlと上昇傾向にあり,囊胞内粘液のCEAが異常高値であり,リスクを踏まえたうえで十分なinformed consentを行い,腹会陰式直腸切断術+D2郭清を施行した.術後病理組織学的検査で痔瘻癌と診断した.痔瘻癌の診断は困難であることが多いが,今回画像検査,度重なる生検では診断がつかず病変内粘液によるイムノクロマトグラフィー法が診断の一助となった症例を経験した.
  • 岡田 治彦, 佐藤 雅彦, 尾崎 麻子, 藤原 大介, 山田 正樹, 石戸 保典, 齋藤 徹也, 根上 直樹, 渡部 英, 伴  慎一
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 636-643
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     Enterocolic lymphocytic phlebitis(以下,ELPと略記)は消化管および腸間膜の静脈炎から虚血に至る重篤な疾患である.今回,我々が経験したELP 2症例を報告する.症例1は26歳の男性で,8日前から続く腹痛が増悪し消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を行った.上行結腸に多発する壁の菲薄化と穿孔を認め,右半結腸切除術を施行した.症例2は32歳の女性で,5日前より続く下痢と腹痛が増強し当院を受診した.腹膜刺激症状およびCTで小腸の限局した浮腫性変化とその口側腸管の拡張,腹水貯留を認め,絞扼性イレウスを疑い緊急手術を行った.空腸が分節状に発赤浮腫と白苔付着を呈し,その口側腸管が拡張していた.小腸部分切除を行った.いずれの症例も病理組織学的に静脈に限局した血管炎とそれに伴う腸管の虚血性変化を認め,ELPと診断した.
  • 山下 洋, 平塚 真弘, 森 隆弘, 重枝 弥, 海野 賢司, 小山田 尚, 赤松 順寛, 阿部 啓二, 宮崎 修吉, 北村 道彦
    原稿種別: 症例報告
    2015 年 48 巻 7 号 p. 644-649
    発行日: 2015/07/01
    公開日: 2015/07/14
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     フルオロウラシル(以下,5-FUと略記)有害事象を来したジヒドロピリミジナーゼ(dihydropyrimidinase;以下,DHPと略記)欠損症について報告する.症例は56歳の女性で,盲腸癌に対し回盲部切除術を施行し,病理組織学的診断はStage IIIaであった.カペシタビン内服後8日目に口内炎が出現し,10日目に中止したが,嘔吐,下痢,高熱,白血球減少を来し,播種性血管内凝固,意識障害に陥った.抗菌剤投与,顆粒球コロニー刺激因子投与,血液透析などにより,内服中止後17日目に解熱し,血液検査所見も正常化した.尿中ピリミジン分析にてジヒドロウラシルが異常高値を示し,遺伝子検査では1001A>G/1393C>Tのコンパウンドヘテロ接合体であり,DHP欠損症と診断した.DHP欠損症は5-FUの分解酵素DHPが欠損する極めてまれな遺伝疾患であり,本症例は本邦での5-FU有害事象初報告例である.
特別寄稿
編集後記
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