日本消化器外科学会雑誌
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49 巻, 9 号
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原著
  • 大橋 浩一郎, 岡田 敏弘, 麻野 泰包, 末岡 英明, 裵 正寛, 宇山 直樹, 平野 公通, 藤元 治朗
    原稿種別: 原著
    2016 年 49 巻 9 号 p. 827-833
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     目的:術前診断が胆囊良性疾患である症例に対して腹腔鏡下胆囊摘出術を施行後,偶発的に胆囊癌と診断された症例(incidental gallbladder carcinoma;以下,IGCと略記)について検討した.方法:腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した1,034例中,術前疑診例を除いたIGC症例は11例(1.1%)であり,これらの臨床病理学的検討を行った.結果:全例が結石を保有し,うち7例が急性胆囊炎を併発していた.肉眼形態は表面型4例(36.4%),結節型1例(9.1%),平坦型6例(54.5%)であった.深達度は,m癌2例(18.2%),mp癌2例(18.2%),ss癌5例(45.4%),se癌2例(18.2%)でありpT2以上が63.6%であった.pT1症例はいずれも無再発生存中である.pT2以上の7例では全例追加切除が行われ,1例は追加切除組織内に癌を認めず無再発生存中であるが,残る6例はいずれも癌を認めた.そのうち1例は無再発生存中,1例は担癌生存中,4例は原病死した.結語:IGCにおける早期癌は予後良好であったが,進行癌では追加切除を行ったが予後不良であった.IGCは胆石性胆囊炎併存例に多くほとんどが非隆起性病変であり,これらが術前診断を困難にしている要因と考えられた.急性胆囊炎併存下では,胆囊評価が不十分になることが多く積極的な追加検査が必要と考えられた.

  • 中野 順隆, 寺島 秀夫, 檜山 和寛, 角 勇作, 古川 健一朗, 今村 史人, 神賀 正博, 廣島 良規, 間宮 孝, 堀口 尚
    原稿種別: 原著
    2016 年 49 巻 9 号 p. 834-841
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     目的:本邦でも2012年に大腸閉塞用self-expandable metallic stent(以下,SEMSと略記)が保険適応となり,閉塞性大腸癌の緊急手術を回避するbridge to surgeryが普及しつつある.その短期的有用性を経肛門イレウス管と比較した.方法:2011年から2015年の期間で閉塞性大腸癌に対し手術が行われた36例を術前減圧処置法別にSEMS挿入の24例(以下,S群と略記)と経肛門イレウス管留置の12例(以下,I群と略記)の2群に分け比較検討した.結果:S群では,全例経口栄養摂取が可能となり,75%が退院して外来精査を受けており,I群に比べて体重減少率と腸管減圧効果において有意に良好な結果を示した.病理組織学的にステントによる機械的挫滅は粘膜下層までに留まり,脈管侵襲の程度に関して両群間で有意差はなかった.結語:SEMS挿入は脈管侵襲に悪影響を及ぼさずに良好な条件下の手術を可能にした.

  • 秋山 泰樹, 藤本 康二, 小松原 隆司, 東山 洋
    原稿種別: 原著
    2016 年 49 巻 9 号 p. 842-849
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     目的:膵切除術は術後合併症により重篤な状態に陥ることも少なくない.2007年に報告されたsurgical Apgar score(以下,SASと略記)は術中の出血量,最低平均血圧,最低心拍数を用いてスコアリングすることで,合併症予測に有用とされている.今回,膵切除症例の合併症予測におけるSASの妥当性を検討した.方法:2007年12月から2015年9月までの膵切除症例81例を対象とした.高,中,低リスク群に分類し,年齢,術後在院日数,膵液瘻,Clavien-Dindo分類,CRP,生存期間との相関について比較検討した.結果:Pancreaticoduodenectomy(PD)では有意差は認めず,distal pancreatectomy(DP)では中リスク群に比べて高リスク群で術後膵液瘻の頻度が高い傾向にあった(P=0.062).全81例の検討では,術後在院日数が低リスク群に比べ高リスク群で有意に長かった(P=0.042).Clavien-Dindo分類については,高リスク群でGrade II以上の合併症の頻度が高かった.術後膵液瘻において最低平均血圧が独立した危険因子であった(P=0.043,95% CI:0.90~0.99).結語:SASに応じた術後管理で在院日数を短縮できる可能性があり,術中のバイタルコントロールが重要と考えられた.

症例報告
  • 伊藤 栄作, 大平 寛典, 斉藤 庸博, 柳 舜仁, 筒井 信浩, 吉田 昌, 柳澤 暁, 山内 栄五郎, 鈴木 裕
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 850-856
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     症例は53歳の女性で,胃癌に対して腹腔鏡補助下胃全摘術を施行した.再建は機能的端々吻合によるRoux-en Y再建を行った.術後,食道空腸吻合部の屈曲による通過障害を発症し,内視鏡的な処置を繰り返し行ったが改善を認めず,術後1年の時点で磁石圧迫吻合術(山内法)を施行した.術後経過は良好で食事摂取可能となった.自験例での通過障害の原因としては,吻合部が縦隔内へ引き込まれたこと,盲端のステープルが挙上空腸へ癒着したこと,術後に食道が短縮したことなどが考えられた.山内法は磁石を用い管腔臓器を吸着し,挟まれた組織の壊死をじゃっ起し瘻孔を形成する治療法である.自験例は食道空腸吻合部が縦隔内に近い位置に存在するため再吻合術は困難が予想された.屈曲部に対する吻合を行う場合は吻合すべき腸管同士は近接しており,山内法による空腸-空腸吻合術は良い適応と考えられた.

  • 田中 裕美子, 今野 元博, 曽我部 俊介, 岩間 密, 白石 治, 安田 篤, 新海 政幸, 今本 治彦, 古河 洋, 安田 卓司
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 857-866
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     症例は71歳の男性で,HER2陽性4型胃癌に対し審査腹腔鏡検査を施行した.SE N1 M1 P1 CY1 Stage IVにてtrastuzumabを含む化学療法を行った.再度審査腹腔鏡検査で腹膜播種消失を確認後,胃全摘(D2),脾摘術を施行した.病理組織診はpor SM N0 M0 P0 CY0 Stage IAで,術後にS-1+trastuzumabを投与した.術後8か月より嘔気が出現し,CEA上昇を認めた.胸腹部造影CTで再発所見はなかった.意識レベルの低下で近医に緊急入院となった.頭部造影MRIで小脳,中脳,右側側頭葉内側の軟膜に異常濃染を認めた.感染所見はなく感染性髄膜炎は否定的で,経過より髄膜癌腫症と診断するも発症12病日に死亡した.胃癌の髄膜癌腫症はまれで極めて予後不良である.症状も多彩で診断に苦慮することが多い.脳症状・神経症状を認めた場合は髄膜癌腫症を念頭に精査する必要があると考えられた.

  • 前澤 幸男, 佐藤 勉, 神尾 一樹, 瀬上 顕貴, 中島 哲史, 青山 徹, 利野 靖, 尾形 高士, 長 晴彦, 吉川 貴己
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 867-872
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     症例は77歳の男性で,胃癌cT4a(SE)N0P1H0M0,cStage IV,HER2陰性と診断しS-1+CDDP療法を開始した.1コース目day 19に胃穿孔による汎発性腹膜炎を来し緊急手術を施行し胃体部前壁の腫瘍潰瘍底に穿孔を認め穿孔部縫合閉鎖,大網被覆術を施行した.腹膜播種がHER2陽性であったためcapecitabine(X)+CDDP+trastuzumab(H)療法に変更し,計11コース後の診断的腹腔鏡でP0CY0と診断した.胃全摘術,脾温存D2郭清術(R0)を施行し最終診断はypT3N0(0/45)yP0H0M0,ypStage IIAで組織学的効果判定はGrade 1bであった.術後X+H療法を再開し胃全摘後7か月経過したが無再発生存中である.原発巣のHER2が陰性であっても転移巣のHER2が陽性であればtrastuzumabを用いた化学療法が奏効する可能性が示唆された.

  • 井上 雅史, 種村 匡弘, 伊禮 俊充, 中平 伸, 澤田 元太, 山下 晋也, 文 正浩, 清水 洋祐, 富永 春海, 畑中 信良, 倉岡 ...
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 873-881
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     症例は53歳の男性で,人間ドックにて膵頭部付近の多発囊胞を指摘された.6か月間に多発囊胞は増大した.それぞれの囊胞には囊胞内隔壁や壁内結節を認めず,主膵管との交通も認めなかった.上部消化管内視鏡検査で原発性十二指腸癌と診断され,全ての囊胞とあわせて膵頭十二指腸切除術を行った.切除標本の病理検索では十二指腸球部前壁を中心に5.5×4.2 cmの不整な周堤を伴う潰瘍性病変を認め,乳頭状腺癌と診断した.癌は著明な細胞外粘液を産生し多囊胞状となっていたが,膵内に囊胞は認められず,膵管内粘液性乳頭腫瘍は否定された.一部の囊胞周囲にリンパ節組織を含む部分を認め,多発囊胞は粘液産生細胞を含んだ癌細胞の局所浸潤とリンパ節転移によるものと診断した.粘液免疫染色検査では胃型形質を有していた.原発性十二指腸癌は消化器症状を契機に発見されることが多いが,十二指腸近傍に多発囊胞を認めた場合は本疾患も考慮されるべきである.

  • 千田 圭悟, 神山 俊哉, 折茂 達也, 横尾 英樹, 菅野 宏美, 武冨 紹信
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 882-888
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     症例は34歳の女性で,嘔気と腹痛を主訴に近医を受診した.CTで肝右葉を主座とする長径20 cmの腫瘤を認め,肝血管腫の診断で当科を紹介受診した.手術待機期間中に腹痛が増悪し,緊急入院となった.術前精査で肝前区域~内側区に23×15 cmの肝血管腫を認め,右肝静脈と中肝静脈は圧排され,肝右3区域にうっ血に伴う側副血行路を認めた.左肝静脈と門脈臍部は開存していた.肝右3区域切除でCT volumetryによる有効肝切除率は80%と算出されたが,Tc-99m-labeled galactosyl human serum albumin single photon emission CT/CT(99mTc-GSA SPECT/CT)fusion imageで算出した機能的肝切除率は39.2%であり,十分な残肝能を予測できたため,肝右3区域切除術を施行した.術後経過は良好で,術後14日目に退院した.

  • 市川 健, 小松原 春菜, 河埜 道夫, 近藤 昭信, 田中 穣, 長沼 達史, 伊佐地 秀司
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 889-896
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     症例は70歳の男性で,10年前より胆石を指摘されていたが,今回右季肋部痛を主訴に当院内科を受診した.腹部USでは胆囊の壁肥厚と胆囊内に複数の結石を認め,drip infusion cholangiographic-CT(以下,DIC-CTと略記)でB5胆管は走行異常を認め,胆囊管と共通管を形成していた.術中胆管損傷を防止するために,術前にB5胆管に内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;ENBD)留置を施行し,当科で待機的に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.術中所見では,胆囊頸部で結石が嵌頓しさらに隣接するB5胆管に瘻孔を形成しており,瘻孔部でB5胆管を損傷した.このため,腹腔鏡下に胆囊とB5胆管部分切除を行い,B5末梢側胆管内に無水エタノールを注入するablationを加えた.胆管走行異常を伴い,胆囊結石の嵌頓による胆囊B5胆管瘻に対し,腹腔鏡下に胆囊とB5胆管部分切除に加え,B5末梢胆管のbiliary ablationを加えることで良好な結果が得られた.

  • 古賀 浩木, 三好 篤, 山地 康大郎, 田中 聡也, 北原 賢二, 佐藤 清治
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 897-904
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     症例は57歳の男性で,検診にて肝内胆管拡張および肝機能障害を指摘され,精査の結果,肝門部領域胆管癌と診断された.2013年10月肝左葉尾状葉切除+肝外胆管切除施行した.pT2a,pN0,fStage II,fCurAであった.術後経過観察中に2014年6月に膵内胆管に腫瘤を認め,再発を疑う所見を認めた.明らかな遠隔転移は認めず膵頭十二指腸切除術を施行した.pT1,pN0,fStage I,fCurAで前回腫瘍と類似した腫瘍であった.術後約6か月無再発生存中である.画像や病理組織所見などを振り返ると,本症例では初回手術時の乳頭状腫瘍が下部胆管へ脱落後に生着して再発した可能性が高く,比較的まれな再発機序と思われる.

  • 内藤 雅人, 佐藤 文平, 木田 睦士, 村田 徹
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 905-910
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     小腸粘膜下動脈瘤は,破裂により突然の大量下血,ショック状態を来す.術前診断や病変位置の確定が難しいため,緊急開腹により切除されることが多く,腹腔鏡下での切除はほとんどない.今回,腹腔鏡下に緊急切除しえた空腸粘膜下動脈瘤の破裂例を経験した.24歳の女性が大量下血しショック状態となった.CTで小腸出血と診断し,血管造影により出血部位を確定した.続いてマイクロコイルによる血管塞栓止血術を行ったが完全には止血できず,緊急手術となった.術中透視でマイクロコイルを確認することにより病変の位置を確定し,安全かつ低侵襲に腹腔鏡下に切除しえた.小腸粘膜下動脈瘤の破裂例でも低侵襲に腹腔鏡下での緊急切除が可能である.まず止血のために血管造影,マイクロコイルによる血管塞栓術を行うべきであるが,緊急切除が必要となった場合は術中透視の併用が腹腔鏡下での切除に有用である.

  • 久保田 将, 塩入 誠信, 工藤 真司, 長谷川 誠, 小杉 千弘, 池田 重雄, 永嶌 嘉嗣
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 911-917
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     症例は65歳の男性で,糖尿病治療目的のため当院受診したが腹部造影CTで回盲部に70×40 mm大で造影効果を伴う壁を有する囊胞性腫瘤を指摘され当科紹介となった.大腸内視鏡検査では虫垂口に外方圧排像を認めたことから虫垂粘液囊胞腺腫が疑われたが,注腸造影検査では虫垂は正常であり,傍虫垂に認められた鶏卵大の透亮像が腫瘤と一致すると思われた.このため悪性疾患の除外診断目的で手術となった.腹腔鏡で観察すると虫垂間膜に白色で表面平滑な鶏卵様の腫瘤を認め,回盲部切除を行った.肉眼所見では囊胞と虫垂は交通なく,内腔には黄色透明な粘液を有し,粘液中CEAは著明高値であった.病理組織学的検査で囊胞内腔に単層の上皮細胞配列を認めたことから腸間膜真性囊腫と診断された.術後経過良好で,術後第13病日に退院した.このような性状を有す腸間膜囊腫の本邦報告例は検索した範囲で認めなかったため報告する.

  • 伊藤 和幸, 中田 博, 趙 斌, 後藤 振一郎, 元吉 誠, 齋藤 幸夫
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 49 巻 9 号 p. 918-925
    発行日: 2016/09/01
    公開日: 2016/09/22
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     症例は75歳の女性で,食欲低下・腹痛などを契機に膿瘍形成を伴う上行結腸癌と診断され,2週間の抗菌薬投与後に結腸右半切除術を施行した.術後3日目に急激な血小板減少を認め,その数日後には口腔粘膜出血斑が出現し,ドレーン排液が血性に変化した.縫合不全や敗血症を示唆する症状がなく臨床的に特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP)を疑いプレドニゾロンの投与を開始したが血小板数は回復せず,消化管出血も認められた.その後,術後15日目から徐々に血小板数が上昇して術後28日目に問題なく退院し,結果的に術前から投与されていたセフメタゾールによる薬剤性血小板減少症と考えられた.術後早期に本症を発症した報告は少ないが,頭蓋内出血など重篤な出血性合併症にも発展しうるため周術期管理においては本疾患も念頭に置くことが大切であると考えられた.

臨床経験
特別寄稿
編集後記
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