日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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50 巻, 12 号
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原著
  • 原田 宏輝, 山下 継史, 細田 桂, 森谷 宏光, 三重野 浩朗, 江間 玲, 鷲尾 真理愛, 堅田 親利, 小森 承子, 渡邊 昌彦
    原稿種別: 原著
    2017 年 50 巻 12 号 p. 941-955
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    目的:当院特有の食道癌治療は,cStage II/III(cT4除く)症例に対するdocetaxel/CDDP/5-FUを用いた術前化学療法,cT4あるいはcM1 lymph node metastasis症例に対するdocetaxel/CDDP/5-FUを用いた化学放射線療法の施設臨床研究からなる.Cancer board(以下,CBと略記)に基づく食道癌治療戦略の決定と最新の予後解析について報告する.方法:2009年1月から2016年3月までに食道CBで検討された504例の食道扁平上皮癌の前向きデータベースに基づく予後解析を行った.結果:(1)手術治療症例のcStage 毎(I/IIA/IIB/III/IV)の5年全生存率は,88.3/85.2/83.8/55.8/66.7%であった.(2)cStage I/IIB症例に対する手術治療例においては,5年疾患特異的生存率は95.3/90.2%と極めて良好であった.cStage IIBでは90.5%の症例に術前化学療法が施行された.(3)cStage IIA/III症例の手術治療成績は,予後不良のcT4症例を除いた非手術治療と比較して有意に良好であった(P=0.0229).(4)遠隔転移cStage IV症例の長期生存例は,傍大動脈リンパ節転移例に対するconversion surgeryであった.結語:食道CBによる集学的治療方針決定により予後が最適化された.特に手術治療症例の予後が良好であり,適応患者には最も推奨できる治療法と考える.

症例報告
  • 森本 大士, 藤井 努, 山田 豪, 鈴木 耕次郎, 高見 秀樹, 多代 充, 田中 伸孟, 林 真路, 杉本 博行, 小寺 泰弘
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 12 号 p. 956-964
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    症例1は77歳の男性で,黄疸の精査にて遠位胆管癌と診断された.症例2は57歳の男性で,貧血の精査にて内視鏡的切除が困難な十二指腸腫瘍と診断された.2例とも腹部ダイナミックCTにて腹腔動脈(celiac artery;以下,CAと略記)起始部の狭窄が指摘された.血管造影検査でも特に吸気時でCA狭窄が強く認められ,肝動脈血流は,上腸間膜動脈からの膵頭部アーケードを経由して得られていた.いずれも正中弓状靭帯による圧迫が狭窄の原因と考えられ,手術では靭帯切離,狭窄解除を行った.術中大動脈造影にてCAの血流の正常化が確認できたため,血行再建を行わずに膵頭十二指腸切除を施行した.一般的には,正中弓状靱帯切離前後の血流評価は触診や超音波ドプラ法によって行われることが多い.今回,我々はハイブリッド手術室にて術中血管造影を行うことでCA血流の改善を従来の方法と比べて視覚的に評価することができた.

  • 今岡 拓郎, 金岡 祐次, 前田 敦行, 高山 祐一, 深見 保之, 高橋 崇真, 尾上 俊介, 宇治 誠人, 森 治樹
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 12 号 p. 965-971
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    症例は60歳の男性で,心窩部痛を主訴に救急外来を受診し,腹部造影CTで膵頭部に20 mm大の乏血性腫瘤を認めた.内視鏡的逆行性胆膵管造影で,膵頭部膵管軽度狭窄に伴う尾側膵管の軽度拡張を認め,PET-CTで膵頭部腫瘤に限局性集積を認めた.超音波内視鏡下の穿刺吸引細胞診でadenocarcinomaを認め,膵癌の診断で幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査は腺管形成が乏しく,核の大小不同・核縁不整な紡錘形の腫瘍細胞が増殖を示し,退形成性膵管癌(紡錘細胞型)と診断した.術後22日目に退院したが,術後32日目に腹痛で当院受診し,腹部造影CTで多発肝転移,腹膜播種再発を認めた.原病増悪により術後43日目に死亡した.退形成性膵管癌は膵管癌の中ではまれな組織型であり,浸潤性膵管癌の中でも予後不良とされる.退形成性膵管癌の中でも紡錘細胞型はまれであり,ここに症例を報告する.

  • 愛須 佑樹, 高松 雄一, 木村 有佑, 中原 麻帆, 安川 大貴, 加藤 滋, 門川 佳央, 堀 智英, 吉村 玄浩, 本庄 原
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 12 号 p. 972-978
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    症例は72歳の女性で,嘔吐と体重減少を主訴に当院を受診した.CTではTrietz靭帯の肛門側10 cmの空腸に全周性の病変を認め通過障害を来しており,小腸内視鏡検査での生検で低分化型腺癌が得られたため,原発性小腸癌と診断し,リンパ節郭清を含む小腸切除術を行った.術中所見では肝転移,播種,腹水などはなく,漿膜外浸潤を認めたが腫瘍は局所にとどまっていた.病理診断は空腸の異所性胃粘膜から発生した低分化型腺癌,pT4a(SE),pN0,pM0:fStage II(大腸癌取扱い規約 第8版)であった.腫瘍は異所性胃粘膜と連続しており,免疫染色検査からも異所性胃粘膜が発生母地と考えられた.異所性胃粘膜を背景とした発癌は食道,十二指腸,Meckel憩室では報告例も散見されるが,Meckel憩室以外での小腸ではこれまで報告がない.空腸での異所性胃粘膜由来の小腸癌はまれと思われるため報告する.

  • 中川 陽史, 高野 学, 秋山 裕人, 小川 敦司, 井垣 啓
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 12 号 p. 979-985
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    症例は64歳の男性で,黒色便を主訴に受診した.血液検査で貧血を認め,上部消化管内視鏡検査で十二指腸水平脚に2型腫瘍を認めた.腫瘍生検の結果は腺癌,免疫染色検査でcytokeratin(以下,CKと略記)7陽性,CK20陰性,TTF-1陽性であり,肺腺癌からの転移性病変が鑑別疾患に挙げられた.しかし,胸腹部造影CT,PETで小腸腫瘍,右鎖骨上および縦隔リンパ節腫大を認めたが,肺実質内に明らかな病変を認めなかった.小腸造影で上部小腸に多発する腫瘤を認めた.小腸腫瘍による閉塞および消化管出血のコントロール目的で小腸切除を先行した.小腸腫瘍摘出標本の病理組織学的検査では,肺癌原発が強く疑われた.小腸転移を契機に診断された原発不明癌はまれな臨床形態でありその原発の推測および続くリンパ節転移に対する化学療法の選択に免疫染色検査が著効した1例を経験したので報告する.

  • 川島 龍樹, 横田 満, 橋田 和樹, 大目 祐介, 長久 吉雄, 山口 和盛, 岡部 道雄, 河本 和幸
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 12 号 p. 986-992
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    若年女性の虫垂腫瘤に対して単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を施行し,術後の病理組織学的検査で虫垂子宮内膜症の診断を得た1例を経験したので報告する.症例は43歳の女性で,T細胞性急性リンパ性白血病に対する化学療法中にCTで虫垂腫瘤を指摘された.神経内分泌腫瘍の可能性も否定できなかったが,腫瘍径は小さく,転移を示唆するリンパ節もなかったことから,診断的治療として単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を施行し,術後の病理組織学的検査で虫垂子宮内膜症と診断された.虫垂に生じる腫瘍性病変の中では子宮内膜症の頻度は低く,子宮内膜症はさまざまな症状を呈し,月経周期との関連性がない場合もあるため診断に苦慮することも少なくない.女性における虫垂腫瘍の場合には,女性特有の疾患として虫垂子宮内膜症も鑑別疾患に挙げる必要があると考えられた.

  • 藤井 雅和, 折田 雅彦
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 12 号 p. 993-998
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    症例は79歳の男性で,主訴は血便であった.2015年7月に血便で下部消化管内視鏡検査を施行され,肛門管に約20 mmの易出血性な表面不正の腫瘍を認めた.生検で悪性黒色腫の診断で,外科紹介となった.CTでは腫瘍周囲の明らかなリンパ節の腫脹や肺・肝臓などの遠隔転移は認めなかった.腹会陰式直腸切断術,D2廓清を施行した.歯状線上に径約4.0×2.0 cmの部分的にメラニン色素沈着を伴うⅠ型腫瘍を認め,病理組織検査では紡錘状の悪性黒色腫細胞と,印環細胞様の腺癌が明確な境界を持つことなく混在して存在しており,悪性黒色腫と腺癌の混合と診断した.術後6か月目の経過観察のCTで両肺野に複数の小結節を認め,直腸肛門部悪性黒色腫の肺転移が示唆された.高齢で化学療法などの適応でないため,無治療での経過観察とした.直腸肛門部で腺癌と悪性黒色腫が混在した症例はこれまで本邦では報告がなく,まれな症例と考えられた.

  • 近藤 彰宏, 伊藤 雅昭, 佐々木 剛志, 西澤 祐吏, 塚田 祐一郎, 小嶋 基寛
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 12 号 p. 999-1007
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    症例は78歳の男性で,下部消化管内視鏡検査でRb直腸に2型の腫瘍を認めた.全身精査の結果,所属リンパ節転移と肝S4/8に20 mm大の転移を疑う所見を認めたが,切除可能肝転移であったため,原発巣に対する根治術として,腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術,両側側方郭清を施行した.病理組織学的に,神経内分泌細胞癌と,高分化型管状腺癌の混在を認めた.また,肛門管の扁平上皮内には,上皮性マーカー陽性を示すPaget細胞を認めた.腫瘍内では,神経内分泌癌成分と腺癌成分を各々30%以上認め,mixed adenoneuroendocrine carcinoma(以下,MANECと略記)がPagetoid spreadを呈したものと診断した.術後早期に肝転移の増悪を認め,術後9か月で原病死された.極めてまれと考えられるPagetoid spreadを呈する直腸MANECの症例を経験したので報告する.

  • 保坂 優斗, 盛 真一郎, 馬場 研二, 喜多 芳昭, 又木 雄弘, 上之園 芳一, 内門 泰斗, 前村 公成, 北園 育美, 谷本 昭英, ...
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 12 号 p. 1008-1015
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    膠原病は結合組織の障害による消化管の運動異常により,しばしば消化管病変を合併する.症例は60歳の女性で,17年前に混合性結合組織病(mixed connective tissue disease;以下,MCTDと略記)の診断を受け,以後当院膠原病内科で加療を行っていた.腹痛を主訴に来院され,盲腸軸捻転症と診断し緊急手術を施行した.回結腸動脈を軸に360°捻転していたため,捻転解除術と盲腸固定術を行った.退院後の術後37日目に腹痛を来し,腹部CTで腸管捻転の所見を認めたため,緊急手術を施行した.捻転は解除されたが広範囲の回腸の拡張を認め,減圧処置後に腸管を切除する方針とした.初回手術から51日目に再々手術を行い,拡張し蠕動低下を認めた回腸を30 cm切除した.病理検査で固有筋層の萎縮を認めた.限局した固有筋層の萎縮が限局性の蠕動低下,腸管内容物の停滞を起こし,軸捻転症が発症したものと推測した.MCTDに腸管軸捻転症の合併を認めた報告例はなく,病理所見も合わせて報告する.

  • 大原 忠敬, 楠本 長正
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 12 号 p. 1016-1021
    発行日: 2017/12/01
    公開日: 2017/12/22
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    鼠径ヘルニアは腹膜透析(peritoneal dialysis;以下,PDと略記)患者における合併症の一つであるが,手術術式や周術期の透析管理などについては確立された見解はない.今回,我々はPD中に発症した鼠径ヘルニアに対してダイレクトクーゲル法による修復術を行った3手術例を経験した.症例1は60歳の男性で,PD導入後31か月目に右鼠径ヘルニアを発症,ヘルニア修復術を行い術当日よりPDを再開した.症例2は66歳の男性で,PD導入後19か月目に左鼠径ヘルニアを発症,ヘルニア修復術を行い術当日よりPDを再開した.症例3は65歳の男性で,PD導入後30か月目に左鼠径ヘルニアを発症,ヘルニア修復術を行い術当日よりPDを再開した.PD患者の鼠径ヘルニアに対してはunderlay法による修復術を行うことにより術当日からのPDが可能となり,患者のさまざまな負担の軽減につながると思われる.

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