目的:肝門部領域胆管癌の術前multi-detector row CT(以下,MDCTと略記)をもとにdorsal sectorの門脈胆管枝の走行形態を検討し,左側肝切除で切除すべき尾状葉の右側境界を明らかにする.方法:2008年から2012年まで,肝門部領域胆管癌110例の術前MDCTにおいて,dorsal sectorを走行する門脈胆管枝を同定し,Couinaudの定義をもとにdorsal sectorのb,c,d,cp,l領域を走行する門脈枝(P-b,P-c,P-d,P-cp,P-l)および胆管枝(B-b,B-c,B-d,B-cp,B-l)の分岐合流部位を検討した.結果:P-dの85%,B-dの91%は前/後区域枝などの二次分枝に,P-cの91%,B-cの96%は一次分枝に分岐合流した.P-bの98%,P-cpとP-lは全例が一次分枝から分岐し,B-bとB-lは全例,B-cpの92%が一次分枝に合流した.B-cの61%およびB-cpの35%が前後区域分岐部周辺に合流し,尾状葉胆管枝の合流部位は,前後区域分岐部周辺の頻度が最も高かった.結語:尾状葉の右側境界はc領域とd領域の境界にほぼ一致するが,5~10%において,cもしくはd領域側に偏移する.左側肝切除に伴う尾状葉切除の際には,c領域の肝実質切除とともに,前後分岐部の胆管を完全に切除することが必須であり,右側境界がd領域側へ偏移する症例は,d領域までの切除を考慮する必要がある.
症例は69歳の女性で,上顎洞癌に対する化学放射線療法後に行ったPET-CTで肝腫瘍を指摘され当科紹介受診となった.血管造影下CTでは肝S6に35 mm大の腫瘤を認め,動脈相で辺縁に造影効果を認め門脈相で低濃度であった.直腸癌の既往があり,画像所見と合わせ直腸癌異時性肝転移の術前診断のもと,腹腔鏡下肝S6部分切除術を施行した.病理組織学的には既往の直腸癌,上顎洞癌のいずれの組織型とも異なっていた.免疫組織学的検査でsynaptophysin,chromogranin A,CD56が陽性であり,神経内分泌癌と診断した.術後早期に肺・肝再発し,5th lineまで薬物療法を行ったが,術後1年7か月で死亡した.肝原発神経内分泌癌は非常にまれな疾患で,その治療対策を講じるためにはさらなる症例の蓄積が必要である.
症例は71歳の女性で,貧血精査にて横行結腸進行癌および肝右葉傍正中領域(S5/8)に2個の転移性肝癌を指摘された.当初右肝円索と診断しておらず,肝病変切除には中央2区域切除が必要と判断した.同時切除は侵襲が大きいと考え結腸左半切除を先行した.術後,化学療法を6コース施行し,初回手術後5か月に肝切除の方針とした.肝切除前の3D-CTによる解析でRex-Cantlie線の右側に肝円索を認め右肝円索と診断した.肝切除ではCTシミュレーションにより術前に同定したグリソン枝をテーピング,阻血領域を確認した後,右傍正中領域背側のみの肝実質温存切除によりR0切除を得た.術後3年現在,再発を認めていない.右肝円索ではグリソン系変異を高頻度に伴うため,安全に解剖学切除を行うために,第一に術前本変異を認識すること,その上でCTシミュレーションを利用し綿密な切除計画を立てることが重要と考えられた.
症例は73歳の男性で,腹部超音波検査で胆囊腫大を指摘され,腹部造影CTおよびMRIにて肝門部領域胆管に全周性壁肥厚と造影効果を伴った腫瘤を認めた.肝門部領域胆管癌の診断にて肝左葉尾状葉切除,亜全胃温存膵頭十二指腸切除,門脈切除再建術を施行した.病理組織学的には腫瘍の角化傾向がみられ,免疫染色検査で扁平上皮のマーカーであるCK5/6,p63が腫瘍全体に発現しており,扁平上皮癌と診断した.腫瘍に腺癌の成分は確認されなかった.術後3年9か月経過した現在,無再発で外来通院中である.肝門部領域胆管扁平上皮癌の術後長期生存の報告はまれである.
症例は64歳の男性で,心窩部痛を主訴に来院した.精査にて下部胆管に腫瘍を認め,生検にてrosette様配列を呈する腫瘍細胞を認めた.免疫染色検査にてchromogranin A,synaptophysinが陽性であり胆管原発の神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma;以下,NECと略記)を疑い亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.腫瘍細胞のKi-67指数は40%であり胆管原発large cell NEC(以下,LCNECと略記),pT3aN0M0 stage IIA(胆道癌取扱い規約第6版)と診断した.術後はtegafur/gimeracil/oteracil(S-1)による補助化学療法を行い24か月間無再発生存中である.胆管原発NECの本邦報告例は51例とまれであり,さらに本症例は極めてまれなLCNECであり貴重な症例と考えられるため報告する.
症例は黄疸の精査目的に来院した71歳の女性で,遠位胆管癌の診断で膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査では,異型腺管構造を呈する低分化腺癌の成分に加え,N/C比の高い腫瘍細胞が混在しており,後者は免疫染色検査の結果,neuroendocrine carcinoma(以下,NECと略記)と診断された.各々の成分が30%以上を占めており,最終的にmixed adenoendocrine carcinoma(以下,MANECと略記)と診断された.術後はCPT-11/CDDPを用いた化学療法を施行し,術後13か月生存中である.胆管原発MANECはまれな疾患であり,治療に関してコンセンサスは得られていない.過去の報告例から胆管原発MANECの悪性度はNECに規定されると推察され,完全切除が得られた場合でも術後にNECに準じた化学療法の導入が有用と思われた.
膵頭十二指腸切除(pancreatoduodenectomy;以下,PDと略記)術後に生じた腹腔内出血に対し,開腹止血術による総肝動脈血流消失を認め,門脈部分動脈化(arterioportal shunting;以下,APSと略記)を施行することで救命し,後日Longmire法による胆管空腸吻合術を施行した1例を経験したので報告する.症例は76歳の男性で,胆道系酵素の上昇を認め,精査の結果中部胆管癌を疑い,PD術を施行した.術後膵液漏と腹腔内感染を生じ,第17病日に腹腔内出血による出血性ショックで緊急手術となった.胆管空腸吻合部を切り離して術野を確保し,出血源であった総肝動脈を縫合止血した.肝動脈の血行再建が不可能であったため,回結腸動静脈シャント術を施行しAPSを行った.胆管の再吻合は行わず,胆管内にドレナージチューブを留置し,完全外瘻化した.後日,Longmire法による胆道再建を行った.術後24か月経過しているが,現在無再発生存中である.
症例は39歳の男性で,健康診断で血小板減少を指摘され受診した.腹部超音波検査で内部血流を伴う10 cm大の低エコー脾腫瘤を認めた.腹部造影CTで脾実質と同程度に濃染される比較的境界明瞭な腫瘤を脾臓下極に認め,MRIで脾正常実質と比べT1強調画像で等信号,T2強調画像で等~一部高信号を呈した.18F-FDG-PET/CTで軽度集積(SUV max 3.0)した.悪性を否定できず,脾機能亢進が原因と考えられる血小板減少を認め,脾破裂の危険性があることから手術適応と判断した.手術は左肋骨弓斜切開で脾摘出術を施行した.病理診断ではCD8陽性の類洞内皮細胞とCD34陽性の血管内皮細胞を腫瘤全体に均一に認め,脾過誤腫と診断した.血小板値は術直後に正常化し,術後14日目に退院となった.脾過誤腫はまれな疾患で,血小板減少症にて発見された巨大脾過誤腫の1例を経験したので報告する.
症例は74歳の女性で,2015年2月初旬より腰痛を自覚したため近医受診し,CTで脾臓内に多発性病変を指摘された.上部と下部消化管内視鏡検査で異常所見はなく,PET-CTでは脾臓に限局してFDGの異常集積亢進を認めた.脾原発性悪性リンパ腫を疑われ,手術による組織診断目的に当院紹介となった.当院で腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した.病理組織学的検査で類上皮細胞および星芒小体を伴う多核巨細胞増生から形成される大小多数の非乾酪性類上皮肉芽腫を認め,脾サルコイドーシスと診断した.術後は無治療で経過観察したが,術後3か月目に虹彩毛様体炎が出現したためサルコイドーシスの再発と診断し,ステロイド点眼にて加療している.術後に眼病変で再発した脾限局性サルコイドーシスのまれな1例を経験したので報告する.
症例は脳梗塞治療中の69歳の男性で,突然の腹痛で当院を受診した.造影CTにて小腸壁の造影不良と上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)の閉塞を認め,血管造影検査にてSMA塞栓症と診断した.さらに,血管攣縮を認め非閉塞性腸管虚血症(non-occlusive mesenteric ischemia;以下,NOMIと略記)様の病態を合併していた.検査中に腹膜刺激症状が出現したため緊急手術を施行した.壊死腸管を切除後,一期的に吻合し手術を終えた.術中からプロスタグランディンE1(prostaglandin E1;以下,PGE1と略記)の静脈内持続投与を開始し,術後は動脈内持続投与に切り替え,縫合不全を合併することなく救命しえた.腸間膜動脈閉塞症に対しても,PGE1を早期に投与することにより,併存するNOMI様の病態や潜在的な血管攣縮による腸管虚血発症のリスクを下げ,結果的に急性腸間膜血行不全症全体の予後改善に寄与しうると考えられた.
症例は73歳の女性で,2015年12月下旬,突然の右下腹部痛,嘔気,嘔吐で発症した.往診医の診療を受けたが症状改善しなかったため,当院救急外来を受診した.腹部診察所見では右下腹部に圧痛を認めた.来院時検査所見では特記すべき異常を認めなかった.腹部単純CTでは盲腸の背外側にclosed-loopを形成した拡張小腸を認めた.盲腸周ヘルニアによる絞扼性腸閉塞の診断となり,発症から約12時間で腹腔鏡下に緊急手術を施行した.回盲部から90 cmの回腸約20 cmが盲腸外側の傍結腸溝にある約2 cmの小孔から盲腸の背外側に嵌入していた.ヘルニア門を鈍的に広げ嵌頓小腸を整復した後,ヘルニア囊を切開開放した.嵌頓腸管に壊死所見を認めなかったので腸管切除は行わなかった.術後経過良好で第10病日退院となる.腹腔鏡下に治療しえた盲腸周囲ヘルニアの1例を経験したので報告する.