日本消化器外科学会雑誌
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50 巻, 4 号
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原著
  • 松宮 由利子, 山口 智弘, 絹笠 祐介, 塩見 明生, 賀川 弘康, 山川 雄士, 沼田 正勝, 古谷 晃伸, 倉井 華子, 寺島 雅典
    原稿種別: 原著
    2017 年 50 巻 4 号 p. 265-273
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     目的:直腸・肛門管癌に対する腹会陰式直腸切断術(abdominoperineal resection;以下,APRと略記)後の骨盤死腔炎の起因菌と危険因子を検討し,予防的抗菌薬と骨盤死腔炎の関係を明らかにすること.方法:2002年10月から2013年11月にAPRを施行した173例のうち骨盤死腔炎と診断した43例の起因菌を検討した.この期間の予防的抗菌薬はcefmetazole(以下,CMZと略記)を投与し,2013年11月以降はampicillin/sulbactam(以下,ABPC/SBTと略記)に変更した.次に,2002年10月から2015年4月の203例を対象に骨盤死腔炎の危険因子を単変量解析,多変量解析を用いて解析した.結果:骨盤死腔炎の起因菌は,Staphylococcus sp.が72.1%と最も多く,続いてCMZに感受性を有さないEnterococcus sp.が34.9%検出された.予防的抗菌薬種類別の骨盤死腔炎発症頻度は,CMZ群43例(24.9%),ABPC/SBT群3例(10.0%)(P=0.097)とABPC/SBT群が少ない傾向を示した.多変量解析の結果は,年齢(70歳以上),糖尿病(あり),予防的抗菌薬(CMZ群)が骨盤死腔炎の独立した危険因子として抽出された.結語:APR後の予防的抗菌薬はCMZよりABPC/SBTの方が骨盤死腔炎の発症を抑えられる可能性が示唆された.

症例報告
  • 高野 裕太, 三森 教雄, 志田 敦男, 岩崎 泰三, 中田 浩二, 矢永 勝彦
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 4 号 p. 274-279
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     我々は腹腔鏡下胃全摘術施行時に作成したY脚空腸パウチが逆行性に空腸重積症を来した症例を経験したので報告する.症例は54歳の男性で,2011年3月,多発胃癌(M,Ant,0-IIb,pT1a pN1cM0 p-Stage IB)に対して腹腔鏡下胃全摘術およびY脚空腸パウチRoux-en-Y法再建術を施行した.術後経過は良好で,術後第10病日に退院した.2011年7月以降,間歇的に腹痛を訴え,数回当院を受診したが,ガストログラフィンによる上部消化管造影検査では明らかな異常を認めなかった.また,術後4年目の定期検査では再発や転移の所見は認めなかった.2015年7月,腹痛,嘔吐を訴え近医を受診し,腸閉塞と診断された.同日,当院に救急搬送され,精査の結果,腸重積症の診断にて緊急手術を行った.腹腔鏡で腹腔内を観察するとY脚部より肛門側5 cmの空腸がY脚パウチ内に逆行性に重積していた.鏡視下に整復しえた.

  • 真船 太一, 民上 真也, 福岡 麻子, 佐治 攻, 松下 恒久, 榎本 武治, 大坪 毅人
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 4 号 p. 280-287
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     Leriche症候群は慢性腹部大動脈閉塞性疾患である.今回,我々はLeriche症候群に合併した胃癌の1例を経験した.症例は73歳の男性で,Leriche症候群で通院中であった.貧血の精査目的に施行した上部消化管内視鏡検査で胃癌を指摘され,精査の結果T4aN1M0 Stage IIIAと診断した.耐術能評価を綿密に行い,抗血小板薬を休薬し,幽門側胃切除術,D2郭清を施行した.下肢血流を維持する側副血行路損傷回避のため,上腹部正中切開とし腹壁の愛護的操作や手術時間の短縮に努めた.術後1日目の創部離開以外は経過良好で術後3日目に抗血小板薬を再開し,術後16日目に退院となった.Leriche症候群は骨盤腔内や下肢の血流が側副血行路で維持され,また動脈硬化を基盤とした他臓器の障害の頻度も高く,周術期の抗血小板療法の問題もある.手術の際に手術方法や周術期管理に関与するため,注意深い治療戦略が必要である.

  • 中川 朋, 遠藤 俊治, 松本 謙一, 中島 慎介, 太田 勝也, 小西 健, 池永 雅一, 山田 晃正, 西嶌 準一
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 4 号 p. 288-295
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     症例は71歳の男性で,心窩部痛と食欲不振の原因検索で貧血と炎症反応の亢進を指摘された.造影CTで十二指腸前壁に全層性の造影不良域として腫瘍が描出され,上部消化管内視鏡検査で同部に2型腫瘍を認め,生検の結果adenocarcinomaであった.開腹手術時に,Treitz靭帯付着部とTreitz靱帯から10,20,40,50 cm肛門側の空腸,Bauhin弁から20,25 cm口側の回腸に同様の腫瘤を認め,計7個の小腸腫瘍を確認した.治癒切除は不可能と判断し,出血コントロールの目的に空腸腫瘍の肛門側で胃空腸バイパスを行い,終末回腸の腫瘍を小腸部分切除にて摘出した.十二指腸腫瘍の生検検体と切除した小腸腫瘍のサイトケラチン(cytokeratin;CK)を用いた免疫染色検査を行い,十二指腸癌からの多発小腸転移と診断した.多臓器転移のない多発小腸転移を伴う十二指腸癌は極めてまれなため報告する.

  • 早川 俊輔, 宮井 博隆, 渡部 かをり, 藤幡 士郎, 安田 顕, 山本 稔, 北上 英彦, 清水 保延, 早川 哲史, 田中 守嗣
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 4 号 p. 296-302
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     症例は69歳の男性で,気分不快を主訴に近医受診中に心肺停止となり,自動胸骨圧迫装置を使用した心肺蘇生が施行された.当院搬入後,急性心筋梗塞と診断され,緊急冠動脈造影を行い,血栓吸引およびステント留置,抗凝固療法にて血流再開を確認した.集中治療室入室後の経過は良好であったが,当院搬入から6時間後,急激にショックバイタルに移行したため,腹部超音波検査および造影CTを施行し,胸骨圧迫に起因する外傷性肝損傷および腹腔内出血と診断し,緊急開腹止血術を施行した.術後一時的に呼吸状態が悪化したものの,集中治療室退室後の経過は良好で,術後28日目に独歩退院となった.自動胸骨圧迫装置を使用した心肺蘇生に起因する肝損傷は極めてまれであるが,心肺蘇生後,原疾患が十分治療されているにもかかわらず循環動態が安定しない症例については本症を念頭において診療を行うべきであると考えられた.

  • 佐藤 正規, 深瀬 耕二, 有明 恭平, 大塚 英郎, 村上 圭吾, 藤島 史喜, 元井 冬彦, 内藤 剛, 江川 新一, 海野 倫明
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 4 号 p. 303-310
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     症例は85歳の女性で,食思不振,倦怠感を自覚し,腹部USで右下腹部に巨大囊胞性腫瘍を認め紹介となった.CTで腹部から骨盤におよぶ15 cmの囊胞性病変で,造影効果を伴う結節性病変が散在し悪性腫瘍が示唆された.ERCPにて膵頭部で膵管との交通が確認され,分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;以下,IPMNと略記)が疑われた.膵外に突出した囊胞を切除し,膵管断端に腫瘍進展を認めず手術を終了した.病理組織学的検査では軽度~中等度異型のIPMNが疑われた.結節病変の遺伝子解析でGNAS遺伝子変異が確認されIPMNと診断確定した.膵外に突出する巨大囊胞を形成し,囊胞切除で治癒切除可能であった膵頭部IPMNの1例を経験した.非常にまれな形態を示し術前・術後診断,術式選択など示唆に富む1例であったと考えられた.

  • 前平 博充, 川崎 誠康, 奥村 哲, 豊田 翔, 革島 洋志, 山本 堪介, 水村 直人, 伊藤 文, 今川 敦夫, 小川 雅生, 吉村 ...
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 4 号 p. 311-316
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     患者は81歳の女性で,自己免疫性肝炎のフォローのCTで空腸の腸重積を指摘された.腹膜炎症状や腸管壊死を認めず,経鼻イレウス管を挿入し,バルーンを使用して整復した.整復3日後のCTで重積の再発が疑われたため,腹腔鏡補助下手術を施行した.腹腔鏡の鉗子による触診では,重積部近傍に腫瘤を認識できなかった.しかし,小切開創から空腸を創外へ誘導し,手指による触診をしたところ腫瘤を触知したため,小腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査で腫瘤は腺腫内癌と診断された.小腸の腸重積を経鼻イレウス管で整復した報告は過去に認めず,第一に非観血的な整復術を試みることが治療方針の一つになる可能性が示唆された.また,器質性病変を伴った腸重積症に対して整復後に腹腔鏡補助下手術を選択することで,根治性や安全性を損なうことなく,低侵襲性および整容性に優れた手術を施行することができると考えられた.

  • 矢部 沙織, 本間 重紀, 吉田 雅, 下國 達志, 崎浜 秀康, 川村 秀樹, 三橋 智子, 岡田 宏美, 武冨 紹信
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 4 号 p. 317-325
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     症例は60歳の男性で,30年前に他院にて,家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis;以下,FAPと略記)に対し大腸亜全摘術,人工肛門造設術を施行され,通院は自己中断していた.2013年,人工肛門の変形・疼痛を主訴に当科を初診した.人工肛門粘膜面の不整,内腔の狭小化を認めた.下部消化管内視鏡検査では,人工肛門表面から口側5 cmにわたりポリープが多発し,生検の結果は腺癌であった.人工肛門部癌の診断で,人工肛門を含めた腸管切除および回腸人工肛門造設術を施行した.術中,回盲弁と盲腸が残存しており,腫瘍は残存盲腸に発生したことが判明した.病理診断はpT2N1M0 Stage IIIaであった.術後補助化学療法としてCapeOXを6か月間施行し,術後24か月無再発生存中である.FAPは大腸癌発症率が高く大腸全摘が治療の基本であるが,本症例のように残存腸管のサーベイランスが不十分であった例や回腸人工肛門部癌の報告例もあり,長期的かつ定期的な観察が重要である.

  • 鶴田 祐介, 迫田 雅彦, 又木 雄弘, 飯野 聡, 南 幸次, 川崎 洋太, 蔵原 弘, 前村 公成, 上野 真一, 夏越 祥次
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 50 巻 4 号 p. 326-333
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     症例は76歳の男性で,2014年9月,下行結腸癌の診断で左半結腸切除術を施行した.最終病理診断はType 2,pT3,ly1,v2,N0,M0でpStage IIであった.2015年4月のCTで左肺腫瘍,多発肝腫瘍を指摘された.大腸内視鏡で上行結腸ポリープも認め,内視鏡的切除したところ上皮内癌であった.肺腫瘍に対して精査されたが,原発と転移の鑑別はできず,診断的な意味も含め左肺上葉切除術を先行させた.最終病理診断は原発性肺腺癌,pT2a,N0,M0で pStage Ibであった.その後,肝腫瘍の精査・加療目的に当科紹介となった.肝S7は肝細胞癌,S3およびS4は転移性肝腫瘍と術前診断した.同年8月,肝病変に対して肝部分切除術を施行した.病理組織学的所見は術前診断と同様であった.肝細胞癌,結腸癌肝転移を含む同時性4多重癌のまれな症例を経験したので報告する.

臨床経験
  • 本城 弘貴, 三毛 牧夫, 草薙 洋
    原稿種別: 臨床経験
    2017 年 50 巻 4 号 p. 334-338
    発行日: 2017/04/01
    公開日: 2017/04/15
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     現在までに,腸管壊死を伴わないS状結腸捻転症に対してさまざまな術式が行われてきたが,まだ確立的なコンセンサスは得られていない.我々は今回6例のS状結腸捻転症に対してSharon手術を行い良好な経過であったため報告する.2010年1月から2015年12月までに,腸管壊死を伴わないS状結腸捻転症6例に対して,術前に下部消化管内視鏡検査にて整復・減圧を行い,待機的にSharon手術を施行した.6例中1例に術後創部感染を認めたもののその他は良好に経過し,現時点で全例に捻転の再発を認めていない.明らかな腸管虚血や壊死を認めないS状結腸捻転症に対しての待機的なSharon手術は病態や手術時間,侵襲の面からも非常に良い適応と考えられた.

編集後記
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