日本消化器外科学会雑誌
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52 巻, 10 号
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原著
  • 船橋 公彦, 板橋 道朗, 赤木 由人, 幸田 圭史, 前田 耕太郎
    原稿種別: 原著
    2019 年 52 巻 10 号 p. 551-563
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/29
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    目的:全国アンケート調査から括約筋間切除術(intersphincteric resection;以下,ISRと略記)の術後排便障害発生の現状と問題点を明らかにする.方法:日本大腸肛門病学会の認定施設441施設を対象に無記名の郵送法で行った.結果:回答率は,39%(172施設)であった.調査対象の1年間にISRを施行した施設は88施設(51%)で,施行件数は5件未満に集中し7割を占めた.ISRの術後はほぼ全施設で一時的ストーマが造設されていた一方で,52%の施設で再発,吻合部の問題,括約筋機能障害の理由から閉鎖できず,一時的ストーマの永久化を経験していた.また,約9割の施設で一時的ストーマを閉鎖して術後2年以上経過している患者においても何らかの排便障害が認められ,便失禁は81%の施設で認められた.その原因には「括約筋切除量」,「肛門吻合トラブル」,「年齢」,「放射線療法」,「性」があがった.便失禁患者の頻度は,ISR術後患者の「20~30%」に認めるとした施設が41%と最も多く,「半数」20%,「ほぼ全員」12%,「70~80%」8%であった.発生した排便障害の各施設の対応は,術者が単独で対応している施設が最も多く,さまざまな対応法が考えられる中で薬物療法が多くを占めた.結語:ISRの術後には一時的ストーマの永久化や便失禁の重篤な排便障害が高率に発生している現状が判明した.術式の選択に大きな影響力をもつ外科医は,術後の排便障害を含めてISRを理解し,十分なインフォームドコンセントと適応を含めたISRの適正な実施が重要である.

症例報告
  • 清水 康博, 木村 準, 牧野 洋知, 石部 敦士, 秋山 浩利, 國崎 主税, 遠藤 格
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 10 号 p. 564-571
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/29
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    症例は49歳の男性で,進行度IIIの食道胃接合部癌に対して,DCS療法2コース施行後に開腹下部食道胃全摘術,Roux-en Y再建を施行した.術後5病日に食道空腸吻合部の縫合不全を来し,同日吻合部ドレーンより血性排液を認めた.術後10病日に多量の吐血を認め,出血性ショックに陥ったため,同日緊急手術を施行した.吻合部背側の下行大動脈に約10 mmの穿孔を認め,ガーゼパッキングで止血した.術後11病日に大動脈ステントグラフト内挿術(endovascular aneurysm repair;以下,EVARと略記)を施行し,以降再出血は認めなかった.術後12病日に胸部食道切除,唾液瘻造設術を施行し,6か月後に空腸を用いた食道再建術を施行した.術後,縫合不全を認めたが,約3か月後に瘻孔閉鎖術を行い退院となった.EVARは通常大動脈瘤治療に使用されているが,上部消化管術後の大動脈食道瘻に対しても有用であると考えられた.

  • 馬場 健太, 佐々木 秀, 新原 健介, 田崎 達也, 杉山 陽一, 香山 茂平, 臺丸 裕, 中光 篤志
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 10 号 p. 572-581
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/29
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    症例は52歳の女性で,検診で乳癌を指摘され当院乳腺外科を受診し,腹部超音波検査で肝門部腫瘤を指摘された.CT,MRIにて胆囊管に隣接する20 mm大の腫瘤を認め,FDG-PETでは腫瘤に一致してSUV max 3.5の異常集積を認めた.ERCPでは胆囊管に圧排像を認めるも途絶はなく,胆囊内に造影剤の流入を認めた.胆囊管癌としては画像所見が非典型的であり,鑑別として胆囊・胆囊管原発の非上皮性腫瘍,リンパ節腫大などを考えたが,悪性疾患の可能性が否定できず胆囊摘出・肝外胆管切除術,肝管空腸吻合術を施行した.肉眼所見では胆囊管より突出した境界明瞭な充実性腫瘤であった.組織学的には胆囊管の粘膜下から漿膜面までの間に発生した腫瘍であり,紡錘形細胞の柵状配列を認め,免疫染色検査でS-100蛋白が陽性であった.以上より,胆囊管原発の神経鞘腫と診断した.

  • 大倉 友博, 仁熊 健文, 児島 亨, 渡辺 信之, 能勢 聡一郎, 三村 哲重
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 10 号 p. 582-589
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/29
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    症例は86歳の女性で,76歳の時に膵頭部癌の術前診断で亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後病理組織学的検査にて,紡錘細胞型退形成膵管癌と診断した.術後補助化学療法を施行後,再発を認めず経過観察としていたが,術後10年目に血清CEAの上昇を認めた.腹部造影CTにて残膵断端に腫瘤性病変と残膵膵管の拡張を認め,超音波内視鏡下穿刺吸引生検によりadenocarcinomaの診断を得たため,残膵全摘出術を施行した.術後病理組織学的検査では初回手術時の退形成膵管癌の組織像は認めず,新たに生じた中分化型膵管状腺癌と診断した.退形成膵管癌は,浸潤性膵管癌の中でも非常にまれな腫瘍であり,予後も極めて不良とされる.本邦において10年以上の長期生存例や長期生存後の異時性膵癌発症の報告は少なく非常に貴重な症例を経験したため報告する.

  • 福田 啓之, 岡屋 智久, 芝崎 秀儒, 唐木 洋一, 中村 祐介, 越川 尚男, 菅野 勇
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 10 号 p. 590-598
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/29
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    症例は77歳の男性で,過去4年間にわたり内視鏡的止血術を行ってきたが再出血を繰り返す大腸憩室に対して待機的に腹腔鏡下手術を行った.まず,術中内視鏡を施行し内視鏡的止血術時の止血クリップを目印として責任憩室を同定した.次いで,内視鏡でガイドしつつ腹腔鏡下に全層で牽引糸をかけ責任憩室を挙上し自動縫合器を用いて局所切除術を施行した.経過良好にて退院し術後1年経過観察中である.大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドラインでは内視鏡的止血術や血管内治療などに抵抗性の大腸憩室止血困難例に対して出血部位を特定したうえで大腸切除術を施行することが推奨されているが,大腸憩室は良性疾患であるので切除範囲をより少なくし侵襲軽減を図ることが望ましいと考える.本法により手術リスク軽減や腸管大量切除回避などのメリットが得られる可能性がある.過去に同様の報告例はなかった.

  • 谷川 隆彦, 石川 彰, 森 至弘, 樋口 一郎, 秋山 洋介, 蓮池 康徳, 宮本 誠, 土田 泰昭, 磯崎 由佳, 山田 滋, 関本 貢 ...
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 10 号 p. 599-604
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/29
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    症例は63歳の男性で,2015年11月に直腸癌に対して腹腔鏡下低位前方切除術(D3郭清)および,カペシタビン併用術後照射,術後補助化学療法を施行した.手術から1年9か月後,仙骨前面左側に2 cm大の局所再発を認めた.根治には仙骨合併切除を伴う低位前方切除術が必要と考えられたが,インフォームドコンセントの結果,患者の希望により重粒子線治療を選択した.腫瘍は結腸と近接していたため,重粒子線治療後に腹腔鏡下低位前方切除術(被曝腸管切除術),回腸ストマ造設術を施行した.重粒子線治療時に腫瘍と近接臓器のセーフティーマージンを確保する方法としてスペーサー挿入術が報告されているが,本術式は重粒子線治療後に手術を行うため速やかに治療が開始でき,人工物を用いたスペーサー留置術に比べ感染やアレルギーなどの合併症が起こりにくく,重粒子線治療の適応拡大に有用であると考えられた.

  • 松岡 信成, 石田 隆, 岡林 剛史, 鶴田 雅士, 横江 隆道, 前田 祐助, 蛭川 和也, 長谷川 博俊, 北川 雄光
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 52 巻 10 号 p. 605-610
    発行日: 2019/10/01
    公開日: 2019/10/29
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    症例は39歳の男性で,骨盤内solitary fibrous tumorに対して腫瘍膀胱前立腺合併切除,代用膀胱造設術を施行された.術後12日目より腸閉塞を発症し,精査の結果,腹腔内に遊離された左尿管を原因とする内ヘルニアと診断したため,同22日目に再手術を施行した.術中所見では,左傍結腸溝に突出した左尿管がヘルニア門となり,同部位に小腸係蹄が陥入していた.内ヘルニアを解除し,尿管を大網で被覆して手術を終了した.術後経過は良好で,再手術後32日目に退院した.尿管が原因となった,極めてまれな内ヘルニアの症例を経験した.

編集後記
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