目的:腹腔鏡下手術において,低圧気腹が術後疼痛を軽減し肝機能の変化を抑えると報告されているが,本邦の報告はない.低圧気腹(6 mmHg)の術後疼痛に与える影響を,当院の通常設定圧(10 mmHg)と比較検討した.方法:腹腔鏡下胆囊摘出術症例を対象とした,前向き無作為比較試験である.通常圧気腹群23例,低圧気腹群25例を対象とした.結果:両群間で,患者背景因子に有意差を認めなかった.低圧気腹群では20例で手術を完遂し,5例で8~10 mmHgまで上昇させたが,その理由は癒着3例,視野確保困難2例であった.開腹移行はなかった.通常圧気腹群と,低圧気腹の完遂例を比較すると,術後第1病日のvisual analogue scaleは低圧気腹群25.8,通常圧気腹群29.3で有意差を認めなかった(P=0.8).手術時間,出血量,術中呼気終末二酸化炭素濃度増加量,鎮痛剤使用回数,肝機能の変化に有意差を認めなかった.合併症は認めなかった.低圧気腹群の完遂例と非完遂例を比較すると,年齢,性別,body mass index,疾患,手術時間,出血量に有意差を認めなかった.気腹時間と術中呼気終末二酸化炭素濃度増加量は,通常圧気腹群のみ正の相関がみられた(相関係数=0.54,P=0.008).結語:本検討では低圧気腹の有用性は認められず,10 mmHgが気腹圧として適当である.
症例は59歳の女性で,神経性食思不振症に対して精神科入院中,経鼻胃管による栄養投与を受けていた.胃管挿入後8日目に生じた腹痛に対して撮影したCTで胃壁全体の浮腫,胃壁内気腫と門脈ガス血症(hepatic portal venous gas;以下,HPVGと略記),縦隔気腫,皮下気腫を認めた.上部消化管内視鏡検査で,胃体上部大彎に限局性粘膜壊死を認めた.縦隔気腫,皮下気腫に関しては原因の特定はできないものの気腫性胃炎からのHPVGの診断で胃全摘術を施行した.BMI 10 kg/m2と低栄養状態であったが,術後経過は良好であった.本症例は,胃管留置による胃粘膜傷害からの感染が原因で気腫性胃炎を発症,それに伴いHPVGを生じ,同時に低栄養状態による組織の脆弱性を背景として,胃管挿入の刺激で気道内圧の上昇,肺胞の破裂が起こり,縦隔気腫と皮下気腫が発生したと考えられた.このような二つの病態が同時に起こったと推測されるまれな症例を経験したため報告する.
症例は65歳の女性で,膵頭部癌に対する門脈・上腸間膜静脈合併切除・左腎静脈グラフト再建(脾静脈(splenic vein;以下,SVと略記)非再建)を伴う膵頭十二指腸切除1年1か月後に繰り返す血便を発症した.下部消化管内視鏡検査で結腸肝彎曲静脈瘤から出血を認め内視鏡治療で止血を得たが,その後も血便の改善なく,上部消化管内視鏡検査で膵空腸吻合部近傍静脈瘤からの消化管出血を認めた.腹部造影CTで膵癌再発所見を認めず,膵空腸吻合部近傍に静脈瘤を認めた.SV非再建による左側門脈圧亢進を起因とした膵空腸吻合部近傍静脈瘤からの消化管出血と判断した.内視鏡的止血術およびSV圧減圧を目的とした部分的脾動脈塞栓術を施行したが奏効せず,再出血を繰り返した.保存的治療による止血は困難と判断し,残膵全摘および脾臓摘出術を施行した.術後経過は良好で,インスリン自己注射導入後,術後第24病日に退院した.術後12か月現在,消化管出血の再燃なく経過している.
症例は18歳の男性で,突然の左肩痛と背部痛,腹痛を主訴に当院を受診した.腹部造影CTで,脾腫,脾周囲の血腫および遅延相での造影剤の血管外漏出像を認め脾破裂と診断した.循環動態は安定していたために保存的治療とした.また,顎下リンパ節の腫脹,疼痛があり,血液検査で単球の上昇,EB virus抗体VCA-IgM陽性,異型リンパ球の出現などを認め,伝染性単核球症による脾破裂と診断した.以後,再出血することなく軽快し21病日に退院した.脾臓は免疫において重要な臓器であり,若年者では脾破裂の場合も可能なかぎり温存することが望まれる.伝染性単核球症による脾腫が原因となって生じた脾破裂に対して,保存的治療で脾臓を温存することができた症例を経験したので報告する.
症例は肺癌と胃癌の手術歴をもつ78歳の男性で,胃癌手術から2年4か月後の胸部CTで胸水貯留を指摘された.漸増するために胸腔鏡下胸膜生検を施行し悪性胸膜中皮腫,上皮型と診断された.三次までの化学療法と放射線療法が施行されたが病勢は進行した.緩和療法中に下腹部痛が出現し,造影CTで多量の腹水と腹腔内遊離ガス像を認め,消化管穿孔と診断し緊急手術を行った.腹腔内に混濁した腹水と腹壁に散在する白色結節を認めた.空腸に全周性の壁肥厚を伴う硬結を触知しその中心部に7 mm大の穿孔部を認め,小腸部分切除術を施行した.病理組織学的に悪性胸膜中皮腫の小腸転移による穿孔と診断した.悪性胸膜中皮腫の小腸転移報告は少ないため報告する.
FDG-PET/CTは,癌の新規病変や再発病巣の発見に対する感度は優れているが,一方で偽陽性の症例が報告されている.症例は79歳の男性で,上行結腸癌に対して結腸右半切除術を行った.術20か月後の血液検査でCEAの上昇を認め,FDG-PET/CTで吻合部,右下腹部の腹壁に異常集積を認めた.下部消化管内視鏡検査で吻合部に再発所見は認めなかった.右下腹部の腹壁に腫瘤を認め生検を行ったが,病理組織像に悪性所見はなかった.再発の可能性が否定できなかったため,化学療法を施行した.24か月後に下部消化管内視鏡検査で吻合部再発が認められたため,吻合部切除を行い,あわせて腹壁腫瘤も摘出した.病理組織学的検査所見で,吻合部再発が確認され,腹壁腫瘤は縫合糸による異物肉芽腫と診断された.今回,大腸癌術後に異物肉芽腫と吻合部再発を同時に認め,いずれもPETで陽性を示し診断に苦慮した1例を経験したので報告する.
大腸癌術後の腹腔内デスモイド腫瘍の2例を報告する.症例1は69歳の男性で,直腸癌に対して低位前方切除術が施行され,pStage Iであった.術後1年2か月のCTで大動脈分岐部直下の腹側に不整型の軟部腫瘤影を指摘された.PET-CTでSUV-maxが4.47の上昇を認め,再発と診断し腫瘤摘出術施行した.術後病理検査でデスモイド腫瘍と診断された.症例2は69歳の男性で,横行結腸癌に対して腹腔鏡補助下結腸左半切除術施行され,pStage IIbであった.術後2年のCTで小腸間膜内に不整型腫瘤の指摘があった.PET-CTではSUV-maxが2.41であった.診断的治療目的に腫瘤摘出術施行し,術後病理検査でデスモイド腫瘍と診断された.大腸癌術後のデスモイド腫瘍はまれであるだけでなく,再発との鑑別が困難であり,報告する.
目的:進行食道癌におけるdocetaxel・5-fluorouracil併用術前補助化学放射線療法(neoadjuvant chemoradiotherapy with docetaxel・5-fluorouracil;以下,DF-NACRTと略記)に対する有効性と安全性について検討した.方法:2007年12月~2017年8月までにDF-NACRTを行った進行食道癌12例を対象とした.結果:内訳はcStage II:2例,III:1例,IVA:8例,IVB:1例,年齢中央値は68歳[50~82].Grade 2以上の血液毒性は4例(33.3%),非血液毒性は6例(50%)に認めた.組織学的効果はpCR 4例(33.3%)であり,down-stagingが9例(75%)であった.手術・手術関連死亡は0例であった.結語:DF-NACRTは安全性が高く有効な治療と考えられた.