日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
53 巻, 3 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
症例報告
  • 桐山 俊弥, 間瀬 純一, 洞口 岳, 原 あゆみ, 八幡 和憲, 井川 愛子, 佐野 文, 足立 尊仁, 白子 隆志, 岡本 清尚
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 213-220
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    症例は78歳の男性で,胃体部および噴門部癌があり,造影CTで肝門部および気管分岐部リンパ節転移を伴いStage IVと診断した.化学療法としてpaclitaxel+S-1療法を行い,のちにHER2陽性であることが判明しtrastuzumab+cisplatin+capecitabine療法を計17コース施行した.化学療法後の上部消化管内視鏡検査では瘢痕を認めるのみであり,転移リンパ節も著明な縮小を認めたため,幽門側胃切除術,D2+#8p・#13リンパ節郭清を施行した.術後病理組織結果では,#4dに腫瘍細胞の残存を認めたが,原発巣は組織学的CR(pathological complete response;pCR)であった.HER2陽性胃癌の術前化学療法としてtrastuzumabを含むレジメンの有用性が示唆された.

  • 三浦 文彦, 佐野 圭二, 和田 慶太, 渋谷 誠, 貝沼 雅彦, 川村 幸代, 峯﨑 俊亮, 笹島 ゆう子, 近藤 福雄, 海宝 雄人
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 221-229
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    症例は78歳の男性で,近医で胆囊総胆管結石と急性胆囊炎に対して内視鏡的胆管結石除去術後に開腹胆囊摘出術を施行した.術後の病理検査でpT2胆囊癌の診断となり根治手術目的で当科紹介となった.胆囊摘出術から3週後に胆囊床切除術+肝外胆管切除術を施行した.切除標本では病理組織学的癌遺残およびリンパ節転移は認めなかった.術後S-1による補助化学療法を15か月施行した.胆囊摘出術から2年10か月後に右肋骨弓下斜切開部の腹壁転移に対して腫瘍摘出術を施行した.術後ゲムシタビン+S-1療法を4か月,ゲムシタビン療法を8か月施行した.2年7か月後に腹壁転移の局所再発に対して腫瘍摘出術+右第VIII・IX肋骨切除術を施行した.切離断端が陽性であったため放射線照射50 Gyを施行した.その後GEM+S-1併用療法を14か月,S-1療法を10か月施行し,現在胆囊摘出術から8年5か月(腹壁再発腫瘍摘出術から5年7か月)後の現在,再発の徴候なく生存中である.

  • 弓削 拓也, 武井 英之, 岡本 篤之, 藤崎 宏之, 野田 直哉, 伊藤 史人, 内田 克典
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 230-238
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    症例は65歳の女性で,近医で上腹部の腫瘤を指摘されて当院へ紹介された.腹部正中やや左寄りに可動性良好な手拳大の腫瘤を触れ,腹部USで内部に液体成分と乳頭状充実性成分が混在する球形腫瘤を認めた.CTでは膵頭部に直径約7 cm大の球形単房性囊胞性腫瘤を認め,囊胞壁から内腔に増殖する不整形充実成分が存在し,腫瘤尾側の主膵管拡張を認めた.腹部MRI所見では囊胞内に出血が示唆され,MRCPでは拡張した尾側の主膵管は,膵頭部で腫瘤の圧排により先細りとなっていた.Mucinous cystic neoplasmやsolid pseudo-papillary neoplasmなどを疑い,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を行った.病理所見は膵管内管状乳頭腫瘍であり,臨床的に分枝膵管発生と考えられた.術後合併症なく約3年間無再発生存中である.非典型的な画像所見を呈した分枝膵管発生の膵管内管状乳頭腫瘍を報告する.

  • 大江 正士郎, 山岡 竜也, 古元 克好, 山口 真彦
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 239-245
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    症例は62歳の男性で,関節リウマチに対してメトトレキサートを5年間内服中であった.夕食後に激しい腹痛が出現し,救急搬送された.来院時,左上腹部を中心に著明な圧痛と反跳痛があり,腹部CTで腹腔内遊離ガス像を認め,消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した.開腹所見では,Treitz靭帯より約120 cmの空腸に8 mm大の穿孔を認め,空腸部分切除術を施行した.切除標本では周堤を伴う潰瘍性病変を認め,病理診断では異型リンパ球が増殖し,CD20陽性,EBV-encoded small RNA in situ hybridizationが陽性であり,Epstein-Barr virus関連B細胞性リンパ腫であった.メトトレキサート治療症例の一部にリンパ腫が発生し,メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患と定義されている.消化管穿孔を合併した本邦報告は自験例を含めて7例である.

  • 横山 元昭, 永井 啓之, 松本 玲, 齋藤 徹, 野澤 聡志, 郷地 英二
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 246-256
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    症例は87歳の男性で,横行結腸癌と胃癌に対する横行結腸切除および幽門側胃切除術を施行し,残胃十二指腸吻合の縫合不全をドレナージ中,第27病日に発熱を認めceftriaxone(以下,CTRXと略記)・vancomycin(以下,VCMと略記)を開始し,第33病日に腹部膨満と右季肋部痛,発熱と高度炎症反応亢進を認めた.下痢は伴わず,縫合不全による敗血症の診断でCTRXを増量後に肝機能障害が出現し,cefozopranに変更後も所見は改善せず,第46病日のCTで全結腸と直腸の壁肥厚像,内視鏡で直腸とS状結腸に偽膜を認め,便中Clostridium difficile(以下,CDと略記)toxin陽性となった.VCM内服に変更後も腹部膨満が増悪し,劇症型CD腸炎の診断で第50病日に回腸瘻造設術を施行し,人工肛門に留置したイレウス管より腸管洗浄とVCM腸管内投与を行い,第59病日に偽膜の消失を確認した.

  • 相川 佳子, 田中 荘一, 森 弘樹, 小澤 享史, 松田 聡, 尾田 典隆, 新井 賢一郎
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 257-263
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    症例は41歳の女性で,5年前,他院で子宮内膜症の手術歴があった.便潜血陽性の精査目的に当院を受診した.精査でS状結腸に狭窄を認め,便通異常の原因と診断した.臨床的には子宮内膜症,病理所見(生検)では大腸癌を疑い,手術を施行した.病理検査の結果,粘膜下層と筋層には子宮内膜症の所見を,粘膜層と粘膜固有層には卵管内膜症の所見を認め,ミュラー管症と診断された.

  • 園田 至人, 篠田 公生, 橋場 隆裕, 佐野 渉, 知久 毅, 十川 康弘, 豊田 亮彦
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 264-271
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    症例は62歳の男性で,下痢,浮腫,労作時動悸を主訴に前医受診し,直腸癌の疑いで,精査加療目的に当院紹介となった.下部消化管内視鏡で直腸S状部に全周性2型腫瘍を認めた.生検で高分化型管状腺癌の診断であった.造影CTでは両側総腸骨動脈,腹部大動脈周囲に軟部陰影を認め,後腹膜線維症を疑った.高位前方切除術,後腹膜生検を施行し,病理結果を踏まえ,直腸癌(pT3pN0cM0,pStage II)および後腹膜線維症と診断した.術後はステロイド投与なく後腹膜軟部陰影は改善した.術後31か月現在,無再発生存中である.本症例は経過から悪性腫瘍関連後腹膜線維症と考えられた.悪性腫瘍根治切除により,ステロイド投与を行わず続発性の後腹膜線維症の改善を認めた症例を経験した.

  • 水谷 文俊, 山本 英夫, 山本 竜義, 青山 吉位, 西垣 英治, 大森 健治, 長谷川 洋, 早川 直和
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 272-281
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    Endoscopic Rives-Stoppa法(以下,eRives法と略記)では,intraperitoneal onlay mesh法(以下,IPOM法と略記)で使用するタッキングデバイスに起因する疼痛や,IPOM-plus法で行う腹壁縫合に起因する疼痛を回避することができる.症例は76歳の男性で,膵頭部癌に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後,正中切開創部に径5 cm大の腹壁瘢痕ヘルニアを認めた.前回手術時の疼痛が強くeRives法を選択した.術後3日目に退院したが,鎮痛剤の使用は1回のみであった.退院後2週間で漿液腫を生じたが,保存的治療で消失した.eRives法では,腹腔内留置メッシュによる合併症である癒着や腸管への侵食に起因する腸閉塞,膿瘍形成,メッシュ感染なども回避することができ,有用な術式と考えられた.

特別報告
  • 堀 周太郎
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 282-289
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML
    電子付録

    手術記事では短時間に手術内容を理解できることが望ましい.そのためには手術イラストが重要な役割を担う.手術イラストは複数の異なる手技・術中経過を一つの絵の中に盛り込むことで「手術の流れ」を表現することができ,術中写真を張り付けた手術記事に比べて情報量に優れる.筆者は手術を「術前解剖」「切離ラインの設定」「標本摘出時」「手術終了時」の4段階に分け,それぞれに対応した手術イラストを作成することを基本としている.近年は高精細タッチスクリーンを備えたタブレット型コンピューターを用いることで,従来の手描きと遜色のないデジタル描画が可能である.手描きの手術イラスト作成に必要な鉛筆や紙,これらを広げるスペースが不要となり,時と場所を選ばず手術イラストが作成できる.また,レイヤー機能を活用するとイラストの修正が容易で,上手な絵を「下絵」として指導医-研修医間で共有することができ,外科教育面における寄与も大きい.

  • 佐藤 悠太, 長尾 成敏
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 290-298
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    オペレコとは,皮膚の下に広がる膨大な解剖構造を,外科医がいかに解体・再構築したかを描いた個人情報であり,スケッチが持つ正確性とシェーマが持つ単純性を併せ持った図譜(イラスト)であることが望ましいと考える.また,オペレコを繰り返し描くことで,反復する手術イメージによって経験値が増幅され,知識が整理されてインプット精度の向上に繋がるため,若手外科医の手術手技上達を加速させる最良の手段といえる.著者は,症例ごとに変化する手術内容の「相違点」を抽出することと,実際の現場でのみ体験的習得が可能な「見聞録」を図譜に落とし込むことを意識してオペレコを描いている.今回,医師9年目に執刀した64歳男性の食道癌に対する胸腔鏡下食道切除術症例のオペレコを提示する.

  • 佐藤 太祐, 塩崎 滋弘
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 299-305
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    手術記録は単なる記録ではなく考証的,教育的な側面を併せ持つべき書類であり,イラストを多く用いることが最も効率的,効果的と考える.合理的な手術手順,手術の中間目標となる視野をイラストでわかりやすく示した手術記録として,今回は膵頸部に存在する切除可能境界膵癌に対する亜全胃温存膵頭十二指腸切除の1例を呈示した.手術の中間目標となる場面を描くことによって手順を正確に理解でき,最も重要である『手術戦略を練る力』が養われると信じている.

  • 工藤 雅史, 後藤田 直人
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 3 号 p. 306-312
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2020/03/31
    ジャーナル フリー HTML

    オペレコの用途は多岐に渡っており,手術経験のない医療従事者からベテラン外科医までさまざまな人が閲覧する公的文書である.それゆえに,誰が見てもわかるオペレコの作成は手術を執刀する外科医の責務でもある.誰が見てもわかるオペレコの作成には文章を用いた「手技の言語化」とイラストを用いた「術野の再現」の併記が重要であると考えている.使用した針糸や自動縫合器のサイズなど,イラストでは伝えにくい事項は「手技の言語化」をする必要がある.一方で,腫瘍の局在,膵切離位置や神経叢郭清などの情報はイラストを用いて「術野の再現」を行い,視覚化することが大切である.本稿では実際の亜全胃温存膵頭十二指腸切除術の手術記事を通して「手技の言語化」と「術野の再現」に基づいた,私なりの誰が見てもわかるオペレコ作成の工夫について概説する.

編集後記
feedback
Top