日本消化器外科学会雑誌
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53 巻, 6 号
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症例報告
  • 勝又 健太, 榎本 武治, 大坪 毅人, 樋渡 正樹, 塚本 芳嗣, 亀井 奈津子, 嶋田 仁, 小林 慎二郎, 芦川 和広, 民上 真也
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 6 号 p. 481-486
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2020/06/30
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    症例は84歳の男性で,食後の腹痛を主訴に当院を受診した.既往として6年前に胃癌で幽門側胃切除術,Roux-en-Y再建,1年前に胆囊結石,総胆管結石,傍乳頭十二指腸憩室症候群で胆囊摘出術,胆管十二指腸吻合術を施行されていた.腹部MRIで輸入脚内に低信号の構造物を認め,結石の嵌頓による輸入脚症候群と診断し,緊急手術を施行した.上腹部正中切開で開腹,Treitz靱帯より5 cm肛門側の空腸に結石を触知した.空腸の一部に切開を加え摘出,単純縫合で閉鎖した.術後23日目に軽快退院した.摘出された結石はステアリン酸カルシウムが主成分であった.ステアリン酸カルシウムは胆囊結石のうち,ビリルビンカルシウム石に比較的多く含有されるほか,服用薬で酸化マグネシウムに含有されていた.本例は胃石を核として周囲にステアリン酸カルシウムが沈着したものと考えられた.胃石由来のステアリン酸カルシウム腸石による輸入脚症候群は非常にまれな疾患であるので報告する.

  • 吉田 俊彦, 山岸 農, 山根 秘我, 松本 拓, 佐久間 淑子, 藤野 泰宏, 富永 正寛
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 6 号 p. 487-495
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2020/06/30
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    Perivascular epithelioid cell tumor(以下,PEComaと略記)は多分化能を有するperivascular epithelioid cell由来の腫瘍の一群を指し,比較的まれな疾患とされる.症例は45歳の女性で,スクリーニング検査で施行した腹部超音波検査で肝S2に多血性腫瘍を指摘され,肝細胞癌の診断で精査治療目的に紹介となり,腹腔鏡下肝S2部分切除術を行った.背景肝は慢性B型肝炎であり中等度の炎症は認めるものの線維化は目立たなかった.腫瘍径は2 cmで,免疫染色検査でαSMA,HMB45が陽性であったことから肝原発のPEComaと診断した.肝原発のPEComaは特にまれであり,良悪性の診断基準についてはまだ確立されていないが,術前に肝細胞癌との鑑別が困難であったことも含め示唆に富む症例と考えられた.

  • 笹倉 勇一, 尾澤 巖, 白川 博文, 富川 盛啓, 菱沼 正一, 尾形 佳郎, 星 暢夫
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 6 号 p. 496-503
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2020/06/30
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    症例は66歳の男性で,前医において肝機能異常を契機に肝腫瘤を指摘され当センターに紹介となった.肝S7の腫瘤以外に膵尾部にも腫瘤性病変を認めた.画像上確定診断が困難であり,切除の方針とした.術中超音波検査で複数の肝腫瘤を確認後,膵尾部腫瘤の診断確定のため脾温存膵尾部切除術を施行,術中迅速病理診断で炎症性腫瘤と診断された.その結果を踏まえ肝腫瘤の針生検を施行し,同様に炎症性腫瘤と診断された.病理組織学的にIgG4関連疾患(IgG4-related disease;以下,IgG4-RDと略記)と診断された.肝腫瘤あるいは膵腫瘤を認めかつIgG4高値の場合には,IgG4-RDの可能性があり生検または超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration;以下,EUS-FNAと略記)を積極的に考慮すべきと考えられた.

  • 木村 七菜, 渋谷 和人, 吉岡 伊作, 田中 伸孟, 平野 勝久, 渡辺 徹, 馬場 逸人, 川部 秀人, 鳴戸 規人, 奥村 知之, 長 ...
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 6 号 p. 504-511
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2020/06/30
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    症例は78歳の男性で,健康診断の腹部超音波検査にて肝右葉に腫瘤を指摘され,当院に紹介となった.腹部ダイナミックCTでは,肝右葉に動脈相で濃染する部分を有し,門脈相で低吸収域を呈する8.5 cm大の腫瘤性病変を認め,肝細胞癌と診断した.門脈右枝に対して経皮経肝門脈塞栓術を行った後に,肝右葉切除術を施行した.術中,標本摘出後に超音波検査を施行したところ,残肝の門脈血流が確認されなかった.続けて確認のため術中門脈造影を施行すると,尾状葉のみが造影され門脈左枝以降の血流を認めなかった.肝左葉が右葉のあったスペースへ傾くことによる門脈左枝の捻転による閉塞と診断し,術中に門脈ステント留置を選択,施行した.ステント留置後は門脈血流の速やかな改善を認めた.術後は抗凝固療法を導入し,第23病日に退院となった.術後13か月経過するが,ステント内血栓は認めず良好な門脈血流を維持している.

  • 友野 絢子, 佐溝 政広, 松本 晶子, 大坪 出, 光辻 理顕, 和田 隆宏, 木崎 智彦
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 6 号 p. 512-517
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2020/06/30
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    症例は76歳の女性で,心窩部痛を主訴に当院救急外来を受診した.白血球およびアミラーゼ,リパーゼの上昇が見られ,腹部CT上,左腎下極に腸間膜脂肪織濃度上昇を認めた.異所性膵膵炎を疑われて入院となり,保存的加療が開始された.入院2日後から腹痛の最強点は右側腹部に移動し,炎症反応の増悪を認めた.CT上,腸間膜脂肪織濃度上昇は右側腹部に移動し,腹水も出現したため,急性腹症の診断で当科紹介となり,同日緊急手術を施行した.Treitz靭帯より20 cm肛門側の部位から30 cm長にわたる,小腸間膜の色調変化と血腫形成を認めた.小腸憩室炎による腸間膜穿通を疑い,小腸部分切除および腸間膜内血腫切除術を施行した.病理学的には空腸憩室近傍に発生して憩室内に開口部を持ち,急性出血性膵炎を発症した異所性膵であった.

  • 木内 亮太, 倉地 清隆, 小嶋 忠浩, 松本 知拓, 山本 真義, 森田 剛文, 坂口 孝宣, 石川 励, 馬場 聡, 竹内 裕也
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 53 巻 6 号 p. 518-523
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2020/06/30
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    症例は60歳の女性で,当院整形外科で関節リウマチによる右変形性肘関節症に対し関節置換術を施行後,偽関節を合併し,2018年11月に自家右腸骨片移植術を施行した.2019年1月,発熱と意識障害を主訴に救急外来を受診した.腹部造影CTで,腸骨片採取部頭側の右側腹部に造影効果の乏しい横行結腸の脱出と,その周囲に腹水と腹腔内フリーエアーを認め,腰ヘルニア嵌頓による消化管穿孔と診断し,緊急手術を施行した.嵌頓横行結腸を含めた右半結腸切除術を施行し,再発予防のためヘルニア門は単純閉鎖に加えて,大網を授動して腹壁補強を行った.術後呼吸状態が不安定であったため気管切開術を施行したが,意識状態の改善に伴い呼吸状態も改善した.その後はリハビリなどの多職種による介入をして術後79日目に自宅退院となった.

臨床経験
  • 天野 さやか, 柴崎 晋, 戸松 真琴, 中村 謙一, 中内 雅也, 中村 哲也, 菊地 健司, 角谷 慎一, 稲葉 一樹, 宇山 一朗
    原稿種別: 臨床経験
    2020 年 53 巻 6 号 p. 524-532
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2020/06/30
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    食道癌手術において,具体的にどの操作で反回神経損傷を起こしているかは明らかにされていない.今回,縦隔鏡下食道亜全摘術における反回神経損傷の早期同定と,直接的原因の特定を目的とした,術中持続神経刺激モニタリング(continuous intraoperative nerve monitoring;以下,CIONMと略記)の使用経験を報告する.迷走神経本幹に持続電極を装着し,声帯収縮能をlatency,amplitudeの2項目で評価することで反回神経の機能をモニタリングした.左反回神経周囲の剥離操作時,左反回神経に緊張がかかり,一時的にamplitudeの低下を認めたが,操作を中止すると速やかに改善した.左右迷走神経ともにamplitudeの値の変化は基準値の50%以内の低下で操作を終了でき,術後は両側とも反回神経麻痺を認めなかった.CIONMは危険な操作をリアルタイムに感知,認識することで,不可逆的な反回神経損傷への移行を未然に防ぐことが可能となり,有用な方法であると考える.

特別報告
  • 長田 梨比人, 別宮 好文
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 6 号 p. 533-541
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2020/06/30
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    外科医は手術記載を作成することを怠ってはならない.その内容には,医療行為の中で特に侵襲的な外科手術が行われるに至った根拠,施行中の経過と結果について簡潔かつ明瞭に記載しなければならない.診療録の一部であり,公文書であることは論を俟たない.その一方で学術的活動に必要な情報の保持媒体となり,かつ外科医本人の診療にかける熱意を表現できる数少ない手段でもある.外科臨床にはscienceとartの両面があるといわれるが,業務の効率性が重視される近年においては,特にartの領域について論じることは以前よりも難しくなったと感じる.それでもなお,手術記載には外科医個人の持つ個性,「疾患に対する侵襲的処置」という本質的に望ましくない事象に向き合う姿勢をartの側面から他者に伝える機能が残っている.

  • 中澤 幸久, 榊原 巧
    原稿種別: 特別報告
    2020 年 53 巻 6 号 p. 542-548
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2020/06/30
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    一般市中病院において開腹手術の手術記録として手術イラストを毎回作成している.通常のボールペンや色鉛筆を用いて,開腹所見や手術のポイントや流れなどをできるだけ分かりやすく記載している.手術イラストは,①術後できるだけ早く描き始め,②手術書や術中写真などを見ながら正確に記載し,③他医やスタッフに手術の内容が伝わるようになることを工夫し努力している.手術写真は詳細できれいであるが,情報量が多いために術者以外が記録を見たときに重要なことが伝わらない欠点がある.手術イラストは,術中情報を1枚の絵に記載することができるため術者以外の者が後で見ても,その手術の経験を追体験することができると考える.イラストは手術内容を伝えるツールとして不可欠なものだと考える.電子カルテ化された昨今の手術記録は効率的に作成できるようになっているが,手術の上達には,毎回コツコツと手術イラストを描くことが大切である.

編集後記
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