日本消化器外科学会雑誌
Online ISSN : 1348-9372
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54 巻, 12 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著
  • 斎藤 百合奈, 西川 和宏, 浅岡 忠史, 山本 和義, 三宅 正和, 宮本 敦史, 関本 貢嗣, 平尾 素宏
    原稿種別: 原著
    2021 年 54 巻 12 号 p. 839-845
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    目的:Human immunodeficiency virus(以下,HIVと略記)陽性患者の外科手術の際には,術前CD4陽性Tリンパ球数(以下,CD4値と略記)により免疫状態を把握することが手術後の経過において重要とされている.我々は,鼠径ヘルニア根治術を施行したHIV陽性の症例を陰性の症例と比較して,術後合併症の頻度について検討した.また,鼠径ヘルニア根治術のHIV感染症への影響を検討した.方法:2008年1月から2012年12月に当院で鼠径ヘルニア根治術を施行した316例を対象とし,HIV陽性は9例であった.HIV陽性群と陰性群で術後の創部感染,出血,血腫,水腫,再発,慢性疼痛,術後入院日数について比較して検討した.また,HIV陽性症例における術前後のウイルス量,CD4値の変化を検討した.結果:創部感染,出血,血腫,水腫,再発,慢性疼痛,術後入院日数は両群で有意差を認めなかった.HIV陽性症例で,術前ウイルス量の中央値は40 copy数/ml,術前CD4値の中央値は378 cells/mm3であった.術前後のウイルス量,CD4値の変化は有意差を認めず,周術期に日和見感染症を発症した症例はなかった.結語:鼠径ヘルニア根治術においては今回検討したCD4値200 cells/mm3の症例では,HIV陽性であってもHIV陰性症例と同様に手術適応を決めることができると考えられた.

症例報告
  • 前原 惇治, 二渡 信江, 秋元 佑介, 渡邉 隆太郎, 橋本 瑶子, 長尾 さやか, 榎本 俊行, 渡邉 学, 斉田 芳久
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 12 号 p. 846-852
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    症例は45歳の男性で,4年前に食道胃接合部癌に対して腹腔鏡下噴門側胃切除,空腸間置再建を施行した.術後9か月目のCTにて食道裂孔ヘルニアを認め,左胸腔内に横行結腸が脱出していた.徐々にヘルニアは増大し,運動時に呼吸苦も認めたため手術の方針となった.腹腔鏡下で手術を行い,食道裂孔ヘルニア内に入り込む大網,間置空腸,横行結腸間膜を確認した.間置空腸の腸間膜と横行結腸間膜を認識しながら癒着剥離をすすめ,大網,横行結腸,横行結腸間膜を腹腔内に還納した.ヘルニア門は8×5 cmであり,横隔膜脚を縫縮したのち,メッシュを使用し修復した.術後経過良好にて術後6日目に退院となった.術後6か月経過した現在再発は認めていない.腹腔鏡下噴門側胃切除,空腸間置再建後に認めた横行結腸の脱出を伴う食道裂孔ヘルニアに対して腹腔鏡下ヘルニア修復術にて治癒した1例を経験したので報告する.

  • 宮﨑 葉月, 西川 和宏, 浜川 卓也, 俊山 礼志, 三代 雅明, 高橋 佑典, 三宅 正和, 宮本 敦史, 加藤 健志, 森 清, 平尾 ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 12 号 p. 853-860
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    HER2陽性食道胃接合部癌再発に対して四次治療でnivolumabが奏効した1例を経験したので報告する.症例は71歳の男性で,15年前に胃癌に対して幽門側胃切除術を施行した.術12年後に食道胃接合部に3型癌を認め,残胃全摘・下部食道切除を施行した.術後2か月で傍大動脈リンパ節再発を認めたため,capecitabine+oxaliplatin+trastuzumabを開始し,その後paclitaxel+ramcirumab,trifluridine/tipiracilを施行した.経過中に膵尾部リンパ節転移の増大と新規多発肝転移を認めたため,今回一次治療開始後1年9か月の時点で四次治療としてnivolumabを導入した.1コース目途中で一時的増大を来したが,3コース後に転移巣の著明な縮小を認め,部分奏効(partial response;以下,PRと略記)となった.PS・腫瘍マーカーともに改善し,現在PRを維持している.

  • 石坂 直毅, 黒岩 雄大, 野竹 剛, 清水 明, 窪田 晃治, 池原 智彦, 林 輝, 安川 紘矢, 小林 聡, 松本 有機, 小林 実喜 ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 12 号 p. 861-868
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    症例は56歳の女性で,健康診断で施行した上部消化管内視鏡検査にて十二指腸下行部副乳頭領域に2 cm大の腫瘍を指摘された.腹部CTでは造影早期に濃染する2 cm大の境界明瞭な結節として認められ,膵頭部周囲にリンパ節転移を疑う腫大したリンパ節を認めた.Endoscopic ultrasonography(以下,EUSと略記)では第3層に2 cm弱の辺縁不整な低エコー腫瘤を認めた.EUSガイド下生検で十二指腸原発の神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm;以下,NENと略記)と診断され,膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査で腫瘍は十二指腸副乳頭粘膜直下および副膵管を囲むように発育しており十二指腸副乳頭原発NENと診断した.膵頭部周囲のリンパ節には転移を認めた.術後経過は良好で,術後22日目に退院となった.十二指腸NENの発生部位は球部や下行部が大半を占め,副乳頭部は2.2%とまれである.また,十二指腸副乳頭NENは腫瘍径が小さくてもリンパ節転移を高率に伴うことが報告されている.今回,副乳頭原発NENの切除例を経験したため報告する.

  • 羽部 匠, 酒向 晃弘, 西田 耕太郎, 小松 更一, 荒川 敬一, 丸山 岳人, 青木 茂雄, 三島 英行, 松井 郁一
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 12 号 p. 869-875
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    症例は82歳の男性で,総胆管結石併存急性胆囊炎に対して内視鏡的総胆管結石採石術と内視鏡的胆囊ステント留置術(endoscopic gallbladder stenting;以下,EGBSと略記)を施行した.胆囊炎は改善して退院となったが,ステント留置後30日目に生じた吐血に対して撮像したCTで肝動脈後区域枝に仮性瘤を認め,胆囊管に穿通が疑われた.仮性動脈瘤穿通による胆道出血の診断で同日,開腹止血術と胆囊摘出術を施行した.その後,腹腔内の特段の合併症を認めず,退院となった.本症例はステントに接して仮性動脈瘤が位置し,穿通しており,これにより吐下血を来したものである.機械的刺激が指摘され,EGBSによる医原性と考えられた.EGBSによる医原性で仮性動脈瘤を形成し,穿通したと推測されるまれな症例を経験したため報告する.

  • 秋山 浩輝, 大原 佑介, 大和田 洋平, 杉 朋幸, 山中 俊, 久倉 勝治, 明石 義正, 小川 光一, 榎本 剛史, 小田 竜也
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 12 号 p. 876-883
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    Osler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性毛細血管拡張症,hereditary hemorrhagic telangiectasia;以下,Osler病と略記)は多臓器にわたる異常な毛細血管の拡張を来すまれな疾患で,出血やシャントによる臓器障害の危険性があり手術の際には十分な注意が必要である.症例は65歳の女性で,Osler病による消化管出血に対し,外科的治療,内視鏡的治療,輸血などが繰り返し行われていた.貧血の精査のための下部消化管内視鏡検査で,S状結腸癌と診断された.S状結腸癌に対して腹腔鏡下S状結腸切除術を行った.Osler病による腸間膜血管の拡張を認めたが,術前の血行動態の精査,術中の細かな止血操作を徹底し,合併症なく手術を遂行することができた.Osler病を有する大腸癌患者に対する腹腔鏡手術においては,手術ならびに周術期管理に注意が必要であった.

  • 杉本 智樹, 井上 彬, 小森 孝通, 西沢 佑次郎, 賀川 義規, 小松 久晃, 宮﨑 安弘, 友國 晃, 本告 正明, 伏見 博彰, 藤 ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 12 号 p. 884-891
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    症例は45歳の男性で,過去に男性との性交渉の経歴があった.半年前からの左側腹部痛を主訴に当科を紹介受診した.下部消化管内視鏡検査で直腸S状部に全周性の狭窄を伴う2型病変を認め,生検結果より直腸癌と診断した.腫瘍の肛門側に浮腫状で白苔を伴うタコイボ様隆起と多発する糜爛を認めた.内視鏡検体より赤痢アメーバ中体が検出され,アメーバ性大腸炎の合併と診断した.腹部造影CTでは直腸に造影効果を伴う壁肥厚と,大動脈周囲リンパ節および肝門部リンパ節の腫大を認めた.閉塞性腸炎による縫合不全のリスクを考慮し,術前に大腸ステントを留置した.20日間の抗菌薬加療後の下部消化管内視鏡検査ではアメーバ大腸炎の改善を認めた.ステント留置42日後に,直腸癌に対して腹腔鏡下高位前方切除術を施行した.直腸癌の最終病理結果は,pT3N2M1 Stage IVであった.術後9日目に軽快退院した.

  • 田代 真優, 梶原 由規, 永生 高広, 島崎 英幸, 神藤 英二, 岡本 耕一, 小林 美奈子, 辻本 広紀, 岸 庸二, 青木 茂弘, ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 12 号 p. 892-900
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    症例は69歳の男性で,Stage IIIaの上部直腸癌に対し,低位前方切除を施行した2年半後に吻合部再発が出現した.この際の腹部CTにおいて,下大静脈前面に十二指腸水平脚に接して経時的に増大する2 cm大の辺縁整な腫瘤を認めた.FDG-PET/CT所見では下大静脈前面の腫瘤にFDGの有意な集積を認め十二指腸あるいは後腹膜由来の腫瘍である可能性も考え,まず吻合部再発に対して超低位前方切除,回腸人工肛門造設を行った.下大静脈前面の腫瘤は術後の超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診にて腺癌疑いの組織像であり,他に原発と考えられる臓器を認めなかったため直腸癌の転移再発と判断し,人工肛門閉鎖とともに腫瘍摘出術を施行した.病理学的に直腸癌の転移として矛盾しない所見であった.下大静脈前面への孤立性転移はまれであるため報告する.

  • 服部 卓, 高山 悟, 田藏 昂平, 原田 幸志朗, 坂本 雅樹
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 12 号 p. 901-908
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    近年,正中弓状靭帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome;以下,MALSと略記)についての治療報告例が散見されるが,その診断についてはいまだ明確な基準がないのが現状である.腹部造影CTでの狭窄評価や腹部超音波を用いた流速評価が有用とされているが,腹腔動脈起始部狭窄の原因は多岐に渡り,靭帯切離術後も血流改善を認めない報告例がある.今回,膵十二指腸動脈瘤破裂に対して経皮的カテーテル治療後,血管内超音波を用いてMALSと診断し,待機的に腹腔鏡下靭帯切離術を施行した1例を経験したため報告する.

  • 富永 哲郎, 野中 隆, 福田 明子, 森山 正章, 小山 正三朗, 橋本 泰匡, 濱崎 景子, 日高 重和, 重松 和人, 安倍 邦子, ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 54 巻 12 号 p. 909-916
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2021/12/28
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    骨髄脂肪腫の多くは副腎由来で骨盤内発生はまれであり,骨盤側方領域に発生した報告はない.症例は52歳の女性で,尿路結石のため施行した腹部CTで右骨盤側方領域に36×34 mm大の境界明瞭・内部不均一で一部脂肪成分を含んだ腫瘤を認めた.良性腫瘍が疑われ経過観察を行ったが,1年後に腫瘍径は44×35 mmに増大し,MRIで充実部ではapparent diffusion coefficientの低下もみられ悪性の可能性が考えられた.骨盤側方リンパ節郭清に準じた手術で完全切除が可能と判断し腹腔鏡下腫瘤摘出術を施行した.腫瘍は辺縁平滑な40×40×20 mm大の腫瘍で,病理組織学的に副腎外骨髄脂肪腫と診断された.術後経過は良好で術後9日目に自宅退院した.骨髄脂肪腫は,適切な画像モダリティーによる精査や経時的な画像変化が鑑別の一助となる可能性がある.また,腹腔鏡手術の良い適応と考えられ,術前画像による適切な切除アプローチの検討が必要である.

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