目的:胃癌患者に対する胃切除が,体重や血糖,脂質にどのような影響を及ぼしているか検討した.方法:当科で2014年1月から2018年7月までに根治手術を施行した胃癌症例299例を対象とし,術後1年の体重減少率を算出した.また,糖尿病群58例における空腹時血糖値およびHbA1c値の変化,脂質異常症群74例における総コレステロール値および中性脂肪値の変化を検討した.さらに,糖尿病改善群と脂質異常改善群を定義し,それぞれ非改善群との比較を行った.結果:体重減少率中央値は9.45%であり,術式で有意差を認めた(胃全摘術 vs 幽門側/噴門側胃切除;14.5% vs 8.9%;P=0.0005).糖尿病群の平均空腹時血糖値およびHbA1c値は,150 mg/dlから128 mg/dl,7.06%から6.51%に改善していた.脂質異常症群において中性脂肪値は189 mg/dlから107 mg/dlへと著明な低下を認めた.術式別の変化を比較したが,低下の程度はともに差を認めなかった.糖尿病改善に影響する有意な因子は認めなかったが,Roux-en-Y再建が多い傾向にあった.また,脂質異常症は体重減少率高値の症例で改善している傾向にあった.結語:胃癌術後において,体重減少だけでなく,術前糖尿病や脂質異常症が改善し,特に糖尿病症例ではRoux-en-Y再建がよい可能性が示唆された.
目的:急性胆囊炎に対する治療は,急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドラインやTokyo Guidelines 2018に基づき早期手術が推奨されており,当院における緊急手術例の治療成績から早期手術の安全性について検証した.方法:2013年11月から2018年10月までに,当院で施行した急性胆囊炎に対する緊急手術例201例を対象とし,1)急性胆囊炎発症から手術までの期間(72時間以上:n=42/未満:n=159)と2)年齢(85歳以上:n=23/未満:n=178)に基づき各々2群に分類し,その治療成績の詳細を後方視的に検討した.結果:1)発症から72時間未満の早期手術群では晩期手術群と比較し,有意に腹腔鏡下胆囊摘出術施行率が高く(82.4% vs 57.1%;P=0.0005),術中出血量が少なく(92.9 ml vs 185.1 ml;P<0.0001),術後合併症率は低値(6.3% vs 16.7%;P=0.03),術後入院期間は短期であった(7.4日vs 8.5日;P=0.029).2)超高齢者群(85歳以上)では非超高齢者群と比較し,腹腔鏡下胆囊摘出術施行率や合併症発症率に差は認めなかったが,有意に術中出血量は増加し(166.1 ml vs 105.2 ml;P=0.04),術後入院期間は延長した(14.2日vs 6.8日;P=0.0001).結語:急性胆囊炎に対する外科的治療の成績は概ね良好で,安全に施行可能であった.ただし,発症から72時間以上経過した症例や85歳以上の超高齢者の緊急手術例では出血量の増加と入院期間の延長を認め,厳重な周術期管理を要すると考えられた.
症例は67歳の女性で,腹痛を主訴に当院へ救急搬送された.腹部CTで腹腔内遊離ガスを認め穿孔性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.術中所見では十二指腸に多発の穿孔と広範な粘膜壊死を認め,十二指腸壊死による穿孔性腹膜炎と診断した.壊死範囲は球部からVater乳頭に及び,膵頭十二指腸切除(pancreatoduodenectomy;以下,PDと略記)を施行した.ショックバイタルであり,damage control surgeryの概念から消化管は非再建で手術を終了した.循環動態の安定化を図り,初回手術から約72時間後に,二期的消化管再建を施行した.術後吻合部出血などの合併症を認めたが,第65病日にリハビリ病棟に転棟となった.外傷や出血に対し,緊急でPDを施行した報告は散見されるが,十二指腸壊死に対するPDを施行した本邦の報告例はなく,その治療経過を病態の考察を含めて報告する.
有症状の多発性肝囊胞症(polycystic liver disease;以下,PLDと略記)に対しては,経皮的ドレナージ・硬化療法や囊胞開窓術などの治療法があるが,現在でも治療の選択に明確なコンセンサスはない.症例は併存症に常染色体優性多発性囊胞腎がある49歳の女性で,主訴は腹部膨満感,食思不振で,CTで多発肝囊胞による肝腫大で胃が圧排されている所見を認め,有症状の多発肝囊胞と診断した.肝機能,腎機能は正常であり,肝囊胞は外側区域と後区域を中心に存在し,外側区域はほぼ全て囊胞に置換されていた.そのため治療法として開窓術を伴う外側区域切除術を選択した.術後2年経過し,症状の改善は得られており,CTで術前と比べ54%の肝容積の減少と20%の肝実質の増加を認めている.有症状のPLDに対する肝切除の報告例は少なく,術後の肝再生に着目し経過を報告する.
症例は66歳の女性で,CTで偶発的に膵頭部腫瘤を認め当院へ紹介された.造影CTで膵頭部に小囊胞が集簇し早期から濃染を示す45 mm大の多房性腫瘤を認めた.また,膵体部に尾側膵管拡張を伴う10 mm大のlow density tumorを認めた.術前診断は膵頭部漿液性囊胞腺腫(serous cystadenoma;以下,SCAと略記)と膵体部癌の合併病変と考え,膵全摘術を施行した.病理所見は膵頭部病変,膵体部病変ともにSCAであった.SCAは良性腫瘍であり,一般的に単発で膵管狭窄を伴わない.主膵管狭窄を伴った多発SCAは非常にまれである.4 cmを超えるSCAは自覚症状が出現しやすく手術適応とする報告があり,主膵管狭窄を伴った膵体部病変は膵癌の可能性もあり,本症例では膵全摘術を選択した.
症例1は47歳の女性で,膵癌を疑う膵腫瘍に対し亜全胃温存膵頭十二指腸切除を施行した.膵尾部は脂肪置換され残膵断端の主膵管は同定できなかったため,膵管空腸吻合をせず膵断端を縫合し挙上空腸と膵実質を密着縫合した.術後に膵液漏は認めたが内分泌機能は良好で術後第33病日に退院した.術後2年5か月無再発で耐糖能良好である.症例2は46歳の男性で,慢性膵炎の既往がある膵神経内分泌腫瘍に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除を施行した.膵実質は脂肪置換され主膵管を同定できなかった.断端迅速組織診断にてランゲルハンス氏島細胞のみを認め主膵管は退縮していたため,膵断端を縫合閉鎖して残膵空置とした.術後Cペプチドの軽度低下を認め,ヒューマログ2-2-2で経過観察中である.膵体尾部脂肪置換に対する膵頭十二指腸切除は,残膵空置して可能なかぎりランゲルハンス氏島を残すことで膵全摘よりも良好な耐糖能を維持できると考えられた.
症例は39歳の男性で,2011年に左上腕悪性黒色腫に対して腫瘍切除術を施行されており,肺・脳転移による再発に対してニボルマブにて治療されていた.2017年7月,腹痛を自覚し当院へ救急搬送された.身体所見に関しては右季肋部に圧痛を認めた.造影CTにて複数の小腸重積によるtarget signを認め緊急手術の方針とした.腹腔鏡下に観察したところ,小腸の数か所に褐色の小腫瘤と複数の小腸重積を認めた.視触診にて8か所の腫瘤と5か所の腸重積を認めた.腸重積は全て腫瘤を先進部とし,それぞれ腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行した.病理組織診断にて腫瘍の異型細胞内にメラニン顆粒を認め,免疫染色検査にてS-100,Melan-A,HMB45染色がいずれも陽性であり,皮膚悪性黒色腫の小腸転移として矛盾のない所見であった.悪性黒色腫の小腸転移により同時性に5か所の多発腸重積を来した症例は非常にまれであり報告する.
症例は66歳の男性で,胆道癌に対して肝膵同時切除(肝拡大左葉切除・膵頭十二指腸切除術)を施行された.術後5か月より膵空腸吻合部に仮性囊胞を形成し徐々に増大し,術後7か月で膵液排出障害による急性膵炎を発症した.本症例に対し開腹下に挙上空腸盲端より腹腔鏡用トロッカーシステムを挿入し経空腸的超音波内視鏡下ドレナージ術を施行し良好な内瘻化を得た.本法は腹腔鏡用トロッカーシステムの気密性を応用した簡便かつ安全な方法と考えられ,ここに報告する.