日本消化器外科学会雑誌
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最新号
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原著
  • 伊藤 大地, 井口 友宏, 伊勢田 憲史, 佐々木 駿, 本坊 拓也, 定永 倫明, 松浦 弘
    原稿種別: 原著
    2024 年 57 巻 3 号 p. 101-108
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    目的:門脈ガス血症・腸管気腫症に対する手術適応判断におけるバイオマーカーを探索するためにneutrophil lymphocyte ratio(以下,NLRと略記)やpan-immune-inflammation value(以下,PIVと略記)を含めて検討した.方法:2002年~2022年に当院で門脈ガス血症・腸管気腫症と診断された26例を腸管切除適応群12例と腸管切除非適応群14例に群別化し,臨床因子を比較した.結果:腸管切除適応群は腸管切除非適応群と比較し腹膜刺激徴候や腸管壊死を疑うCT所見を高率に認めたが,腹水や遊離ガス像に差はなかった.白血球数,CRP,CKは群間で差を認めなかったが,乳酸値,好中球数は腸管切除適応群で有意に高かった.PIVは腸管切除適応群で腸管切除非適応群と比較して有意に高かったが,NLRは群間で差は認めなかった.Receiver operating characteristic曲線解析ではPIV,好中球数,乳酸値のカットオフ値はそれぞれ373(感度58.3%,特異度92.9%),11,168.4(感度66.7%,特異度85.7%),1.9(感度90.9%,特異度58.3%)であった.結語:門脈ガス血症・腸管気腫症例においてPIV,乳酸値は手術適応判断の一助となる可能性が示唆された.

  • 益子 隆太郎, 本多 通孝, 河村 英恭, 外舘 幸敏, 宮川 哲平, 中尾 詠一, 俊山 聖史, 山本 竜也, 髙野 祥直
    原稿種別: 原著
    2024 年 57 巻 3 号 p. 109-116
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/29
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    目的:悉皆性の高い一医療圏の統合データベースを用いて,Stage IV大腸癌の診療実態を明らかにし,予後予測の観点から,大腸癌取扱い規約第9版における亜分類の臨床的妥当性を検討する.方法:2008年から2015年の期間で福島県がん診療連携拠点病院の院内がん登録を利用しStage IVの確診が得られた症例を研究対象とした.転帰不明,追跡不能な症例は除外した.結果:Stage IV大腸癌1,187例を解析対象とした.観察期間中央値は18.6か月[四分位範囲: 7.5~32.9]で,878例(73.9%)に死亡イベントが発生した.転移部位の割合は肝臓69.0%,肺26.0%,腹膜播種 28.7%,領域外リンパ節24.4%,その他7.8%であった.治療は原発巣切除が67.3%,遠隔切除は18.5%,化学療法は56.4%,best supportive care 15.7%であった.大腸癌取扱い規約第9版のM分類別(M1a,M1b,M1c1,M1c2)の生存期間中央値はそれぞれ25.0,19.6,21.3,12.1か月であった.結語:医療県単位の大規模な調査研究により,Stage IV大腸癌の診療実態,予後を明らかにした.取扱い規約上のStage IV亜分類は予後予測に関して一定の妥当性を認めた.

症例報告
  • 中社 泰雅, 岡本 浩一, 島田 麻里, 齋藤 裕人, 山口 貴久, 森山 秀樹, 木下 淳, 中村 慶史, 二宮 致, 池田 博子, 稲木 ...
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 57 巻 3 号 p. 117-124
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/29
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    症例は57歳の男性で,全身倦怠感と食欲不振の精査にて進行食道癌と診断された.治療前indocyanine green(以下,ICGと略記)検査で15分値が72.1%と異常高値,99m-Tc-galactosyl-human serum albumin(GSA)肝シンチグラフィでも肝予備能の低下を認めたが,血液検査ではChild-Pugh Grade Aに相当した.術前化学療法としてDCF療法を3コース後,術前肝生検を踏まえ耐術可能な体質性ICG排泄異常症と診断した.手術はロボット支援下胸腔鏡下食道切除(胸管温存),頸胸腹部郭清,後縦隔経路胃管再建を施行し,術中に表面平滑で形態学的異常のない肝臓が確認された.化学療法,手術における重篤な有害事象や合併症は認めなかった.体質性ICG排泄異常症を有する進行食道癌に対して集学的根治治療が可能であった症例を報告する.

  • 河瀬 信, 金城 洋介, 原田 和, 河端 悠介, 神頭 聡, 中村 友哉, 山浦 忠能, 小河 靖昌, 竹井 雄介, 黒田 暢一
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 57 巻 3 号 p. 125-135
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/29
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    症例は72歳の男性で,膵管内乳頭粘液性腫瘍に対し経過観察していた.腹部CTで肝S4に占居性病変を指摘され,EOB-MRIにて肝細胞癌に類似した所見があった.血清AFP,PIVKA-IIの上昇を認めたため,原発性肝細胞癌の診断で肝S4部分切除を施行した.病理所見は大部分が腺癌であり,免疫染色検査から肝細胞癌は否定され,胆管細胞癌の診断となった.術後5か月の時点で血清AFP,PIVKA-IIの再上昇を来し,上部消化管内視鏡検査にて胃角部小彎に1型腫瘍を認め,生検にて腺癌の所見を得た.胃癌もしくは胆管細胞癌胃転移を疑い腹腔鏡下幽門側胃切除を施行した.病理所見は肝切除標本に類似した腺癌であり,高度静脈浸潤を認めた.抗AFP抗体による免疫染色検査を行い,肝臓,胃いずれも陽性であったため,AFP産生胃癌,肝転移と最終診断した.原発巣に先行して転移巣が増大し切除に至った初めての報告である.

  • 大林 未来, 森田 剛文, 松本 旭生, 牧野 光将, 井田 進也, 村木 隆太, 武田 真, 菊池 寛利, 平松 良浩, 後藤 真奈, 馬 ...
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 57 巻 3 号 p. 136-142
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/29
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    膵癌根治術後の単発肺転移再発に対し転移巣切除を行い,長期生存を得た症例を報告する.症例は71歳の男性で,IPMNフォロー中に膵腫瘍を指摘され,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.診断は中~高分化型腺癌でpT3N1aM0,pStage IIB(膵癌取扱い規約第7版)であった.術後補助化学療法としてgemcitabineを1年間投与した.術後21か月時点のCTで右肺上葉に結節影を認め,肺転移または原発性肺癌を疑って右肺上葉切除を行った.病理組織学的検査にて肺腫瘍は膵癌肺転移と診断した.膵癌術後10年,肺転移切除後8年の現在も無再発生存中である.膵癌術後肺転移は症例の適切な選択によって切除による予後延長が得られることが報告されている.本症例のように転移巣切除後も長期生存している症例の報告が増加しており,転移巣切除で治癒が得られる可能性についても期待される.

  • 石原 慶, 吉野 潤, 塚原 啓司, 井垣 尊弘, 小郷 泰一, 加藤 俊介, 長野 裕人, 井ノ口 幹人, 櫻井 うらら, 入江 工
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 57 巻 3 号 p. 143-150
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/29
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    症例は64歳の女性で,耐糖能異常を指摘され,腹部超音波検査を施行し膵頭部腫瘤を認めた.精査で膵神経内分泌腫瘍の診断となり,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術前のCTでは膵体尾部は周囲の脂肪と判別困難であり,術中同様に膵体尾部の膵実質は脂肪と類似しており,膵体尾部の脂肪置換と判断した.膵断端の迅速病理組織診断では外分泌線は消失し主膵管は同定不能であったが,ランゲルハンス島は残存しており残膵は切除せず非再建とした.術後は膵液瘻を認めず,血糖コントロールは比較的良好であった.病理組織学的検査では主病変と離れて神経内分泌腫瘍を認め多発神経内分泌腫瘍(WHO分類grade 1)の診断となった.膵体尾部脂肪置換症例に対する膵頭十二指腸切除は,残膵を非再建としてランゲルハンス島を温存することで膵全摘より良好な耐糖能を維持できると考えた.

  • 千葉 小夜, 猪瀬 悟史, 田中 保平, 利府 数馬, 田原 真紀子, 栗原 克己
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 57 巻 3 号 p. 151-157
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/29
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    症例は56歳の男性で,腹痛,嘔吐を主訴に前医受診した.鎮痛薬投与により一時的に症状が改善したが,翌日腹痛が増悪したため精査加療目的に当院を紹介受診した.腹部単純X線で小腸拡張像を認め,腹部造影CTでS状結腸間膜左葉背側へ小腸が嵌入しており,S状結腸間膜窩ヘルニアと診断した.イレウス管を留置し減圧を行ったのち,待機的に腹腔鏡下手術を施行した.腹腔内を観察するとS状結腸間膜窩に小腸が嵌頓しており,S状結腸間膜窩ヘルニアの所見と一致した.小腸を牽引し嵌頓を解除した.ヘルニア門は約2 cmであり,S状結腸間膜のfusion fasciaを切開剥離し,ヘルニア門を開放した.S状結腸間膜窩ヘルニアは比較的まれな疾患であり,CTによる術前診断がなされ,腹腔鏡下に治療しえた報告は少ない.今回,CTにて術前診断し,腹腔鏡下に整復したS状結腸間膜窩ヘルニアの1例を経験したので報告する.

特別報告
  • 新原 正大, 比企 直樹, 鷲尾 真理愛, 黒田 慎太郎, 今村 一歩, 滝口 光一, 大段 秀樹, 江口 晋, 市川 大輔, 調 憲
    原稿種別: 特別報告
    2024 年 57 巻 3 号 p. 158-168
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/03/29
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    日本消化器外科学会ワーク・イン・ライフ委員会では「働き方改革」導入直前の消化器外科医の労働環境の状況や改善への取り組み,会員の意識を明らかにする目的で会員を対象にアンケートを行い,2,932名(18.6%)より回答を得た.その結果,労働環境の改善に向けた取り組みはみられるものの労働時間等の改善は十分とは言えない結果であった.それにも関わらず会員の要望で最も多かったのは賃金の改善であった.兼業が収入の30%以上を占めるものが62%で,手術技術料としてのインセンディブの導入を望む回答が多かった.休日・深夜・時間外加算1の導入は65%まで浸透してきているが,インセンティブの導入は全体の28%であった.

    後輩や子供に積極的に消化器外科を勧める会員は38.2%,14.6%と少数で,「どちらでもない」という回答が最も多かった.自身が再度消化器外科医を選択するという回答は半数を超えているのに次世代の医師に勧める回答は少数に留まった.このことは自身の仕事に意義は感じているものの,現状の消化器外科医を取り巻く環境をそのままに次世代に引き継ぐことに疑問やためらいを感じる会員が多くいることを示唆しているのではないだろうか.

    本学会としては消化器外科離れに歯止めをかけるべく,会員を取り巻く労働環境の改善に資する活動に取り組み,社会に向けて情報を発信していきたいと考える.

編集後記
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