ラットを種々の濃度の水銀蒸気に間けつ的に暴露し, 一定期間後の組織別水銀量を測定した先の実験成績
1)をもとに, 水銀の組織間移行 pattern を数学モデルで simulate し, 組織別水銀量の推移を数式的に表現することを目的として本研究を行なった。先の実験で, 水銀暴露終了後の組織別水銀量は対数値でほぼ直線的に減少し, その速度の差から11組織は肺, 脳, 腎およびその他の組織の4群に大別できたので, この各群をそれぞれ1つの compartment とみなし, はじめに各 compartment の水銀量の推移を simulate した。水銀の組織間移行速度は, その時の組織水銀量に比例
3),4)し, 4 compartment 相互間に水銀の授受があるものとみなして連立微分方程式を立てた。数学モデルによる計算値が実験値と満足な一致を示すか否かは, アナログ計算機ALS-2000を用いて検討した。いくつかのモデルについて試行錯誤的に検討したが, 水銀は屎尿の他, 肺からも体外へ排泄されることを組込んだモデルが最もよく実験値に一致し, その時の各 compartment の水銀の移行速度定数が推定できた。次に, 水銀の移行速度定数は水銀暴露・非暴露期間で等しく, また, 吸気から肺への移行速度定数を1.0とみなして, 先の実験での2つの暴露様式, 6.0mg/m
3×1hr. (HS), と1.0mg/m
3×6hrs. (LL) による compartment 別水銀量の推移を同じ数学モデルを用いて, ALS-2000およびCLOAP-2000により計算した。暴露4週目の実測値と計算値は満足な一致を示し, (濃度×時間) の値が等しくても水銀蒸気暴露による組織水銀量はHS群とLL群とで異なることも simulate された。先の実験で水銀量は肺でHS群の方がLL群より, またその他の組織ではLL群の方がHS群より多くなる理由として, 水銀の移行速度定数が (肺→他の組織) に比して (吸気→肺) の場合の方が大きいことが推測されたが, 本数学モデルによる simulation の結果からもそのことが推測された。
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