本報は青年期女子の脂肪と体実質との身体組成の正確な判定方法究明を目的としたものである。身体組成の判定指標としての人体比重は,この研究分野では絶対的コンセンサスが得られている。本研究では人体比重を女子大学生81人を対象として水泳プール利用した水中体重測定法により計測した。しかし,人体比重測定は水中体重測定,残気量測定という複雑な手順と手技に加えて特殊な機器が必要であるため,簡便に測定できる身体諸計測値からより正確に人体比重を推定するための予測式を作成した。方法としては,実測された人体比重を従属変数とし,同時に並行して測定した身長,体重,周囲径,皮厚ならびに年齢と運動歴を独立変数として重回帰分析と因子分析を行った。得られた主なる所見は以下のようである。
1.本測定法によって得た対象集団の人体比重の平均値と標準偏差は,1.0480±0.0126(X±S.D.)である。これは,同年齢者を対象とした既報文献成績と比較して若干高値である。しかしながら,本報の非運動群(N=23)のみの対象者の成績では,1.0433±0.0120と既報文献と同様な成績である。すなわち,全体としての平均値を高値にしているのは現運動群(N=19)の1.0569±0.0126および,旧運動群(N=39)の1.0465±0.0113の影響のためである。
2.年齢,運動歴,身長,体重,上腕囲,胸囲,腹囲,腰囲,大腿囲,上腕部皮厚,肩甲骨下部皮厚,側腹部皮厚,大腿前中部皮厚および人体比重を変数とした因子分析により4個の因子(累積説明率は77.7%)が得られた。第1因子は体重と周囲径すなわち身体の幅厚,第2因子は全身の脂肪量,第3因子は躯幹の皮下脂肪量,第4因子は身長に関する因子と解釈された。人体比重は第2因子に含まれていた。運動歴を除いての同様な分析では3個の因子が得られた。3個の因子による累積説明率は67.3%である。第1因子は体型,第2因子は体脂肪量,第3因子は体格に関する因子と解釈された。人体比重は第2因子に含まれていた。
3.人体比重を従属変数とした重回帰分析により,第1編入説明変数は上腕部皮厚,第2編入説明変数は運動歴,第3編入説明変数以下は側腹部皮厚,大腿前中部皮厚,身長,肩甲骨下部皮厚,体重,腹囲,胸囲,腰囲,上腕囲,年齢の順序であった。
4.スクリーニングなど現場で利用する場合の人体比重予測式としては,運動歴が明確に判別できる場合Yc=1.062221-0.001166・X
1+0.005512・X
2〔X
1:上腕部皮厚,X
2:運動歴(現;2,旧;1,非;0)〕R=0.619(
p<0.001)が得られた。また,運動歴が明確に判別できない場合Yc=0.994044-0.000979・X
1-0.000755・X
2+0.000693・X
3〔X
1:上腕部皮厚,X
2:体重,X
3:身長〕R=0.590(
p<0.001)が得られた。なお,この予測式は既報文献のものと比べて相関係数では高値とは言えない。しかしながら,人体比重予測式は身体組成の体実質と体脂肪のそれぞれの因子に関連する変数を使用すること,ならびに,使用する測定項目は上腕部皮厚と運動歴(現,旧,非),または,身長と体重と上腕部皮厚であり,容易に測定ないし聴取できるため実際面での簡便さにおいても優れている。
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