医療経済研究
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巻頭言
特別寄稿
  • 遠藤 久夫
    2024 年 36 巻 1 号 p. 3-28
    発行日: 2024/10/22
    公開日: 2024/10/18
    ジャーナル オープンアクセス

     少子高齢化が進み、85歳以上人口の増加、生産労働人口の減少は、医療保険制度、医療提供体制、薬価基準制度に変革を余儀なくしている。本稿では、これらの制度の現状と課題、および今後の方向性について論ずる。特に、政策手段に焦点を当てて医療制度改革を展望する。

    1.医療保険制度改革

    (1)政策手段と特性

     〇主な政策手段は、診療報酬の改定、患者自己負担率の変更、保険料の変更。

     〇政策効果の不確実性は低いが、政策実行までの合意形成に時間がかかる。

    (2)現状と課題 

     〇医療保険の効率性

     ⅰ)医療費の自然増(政策介入がない場合の医療費増加率)は低下している、ⅱ)診療報酬改定率はマイナスが続いている、ⅲ)高齢者の1人当たり医療費の増加率は非高齢者の増加率を下回っており高齢者の医療費は抑制されている、ⅳ)高齢者の医療費が介護保険にシフトしている有意な証拠はない、ということで、医療保険は効率的に運営されている。むしろ人件費や物価の上昇に対応できるか懸念がある。

     〇医療費負担の公平性

     1人当たりの純保険給付額(医療費-保険料-自己負担)の時系列変化をみると、非高齢世代は高齢世代より不利益が生じており、世代間の不公平が存在する。

    (3)今後の方向性 

     高齢者の負担を増やす視点から、以下の議論がある。

     〇後期高齢者の自己負担率と保険料の引き上げは行われたが、今後、さらに引き上げるか。

     〇(高齢者の保有割合が多い)金融資産の額に応じて自己負担率や保険料を決めるか。

    2.医療提供体制改革 

     (1)政策手段と特性

     〇主な政策手段は、診療報酬改定、補助金、規制的手法(医療法など)、情報提供による地域の「見える化」、教育・研修など。

     〇医療提供体制改革の対象は人(医師等)や施設(病院等)であるが、人は基本的人権により行動は原則自由であり、日本の病院は私立が多いため私有財産の処分には限界がある。

     〇医療提供体制の改革は地域の特性を反映する必要があるため、診療報酬改定など効果が全国一律の政策手段では限界がある。地域の課題を関係者が理解することが重要で、地域の「見える化」が重要。

     (2)現状と課題

     〇地域別の病床数の調整を目的とした地域医療構想は、全体としては概ね目標に近づいた。今後の地域医療構想の目的は、外来、在宅医療、介護を含めた合理的なネットワークを構築することに拡大する見込みである。この方針は正しいが、調整はかなり難しくなる可能性がある。

     〇都道府県単位での医師偏在は多少改善されてきたが、未だ不十分である。これまで偏在対策に効果があったのは入学試験の「地域枠」であった。今後、偏在対策を加速させる政策手法として、これまでのインセンティブから規制的手法へシフトすべきという意見もあるが、規制的手法の副作用についても検討すべきであろう。

    3.薬価制度改革 

    (1)政策手段と特性 

     〇薬価を引き上げる・維持する手段として、「高い加算率」「新薬創出等加算」などがある。

     〇薬価を引き下げる手段として、「費用対効果評価」「中間年薬価改定」などがある。

     (2)現状と課題

     低分子薬からバイオ薬等へのシフトに伴い、「良く効くが非常に高価」な医薬品が登場してきている。高額医薬品の薬価算定をどのように考えるかが課題である。

     (3)今後の方向

     「高い薬価をつけることが患者の優れた新薬へのアクセスが促進する」という製薬企業と「薬剤費を適正化することが安定的に患者の新薬へのアクセスを保障する」と保険者や医療団体の意見対立をどのように調整するかが課題である。

  • 2022-2024 年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) ヘルスケア社会実装基盤整備事業委託研究「SDGs を意識した 予 ...
    2024 年 36 巻 1 号 p. 29-67
    発行日: 2024/10/22
    公開日: 2024/10/18
    ジャーナル オープンアクセス
研究論文
  • 森田 和仁, 笹渕 裕介, 佐藤 壮, 康永 秀生
    2024 年 36 巻 1 号 p. 68-80
    発行日: 2024/10/22
    公開日: 2024/10/18
    ジャーナル オープンアクセス

    [目的]

    40 歳以上の高血圧症・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病の重症化予防や管理においてプライマリ・ケアは重要な役割を担っている。Ambulatory care sensitive condition(ACSC)とは適切な外来診療を受ける事で入院を避 ける事のできる状態である。このうち適切な外来管理により避けられる、高血圧症・糖尿病・脂質異常症の重症化に 関連する入院は慢性ACSC に含まれる。プライマリ・ケアにおける生活習慣病の外来診療に関連した医学管理料に、 生活習慣病管理料と特定疾患療養管理料がある。しかし、これらの計画的な医学管理が患者の健康に与える影響につ いてあきらかになっていない。本研究の目的はプライマリ・ケアが行われる診療所において、40 歳以上の高血圧症・ 糖尿病・脂質異常症を有する患者に対するプライマリ・ケアでの医学管理が慢性ACSC による入院に与える影響に ついて検証することである。

    [方法]

    診療所において高血圧症・糖尿病・脂質異常症のいずれかに対して、初回の再診から5 ヶ月以内に3 回連続で生活 習慣病管理料または特定疾患療養管理料が算定されている40 歳以上の患者を対象とした。生活習慣病管理料を算定 した群と特定疾患療養管理料を算定した群で高次元傾向スコアによるマッチングを行い、群間でアウトカムを比較し た。主要アウトカムは慢性ACSC による入院とした。副次アウトカムは、慢性ACSC のうち、狭心症・心不全・糖 尿病・高血圧症による入院とした。観察開始日から2 年間を追跡期間としてカプランマイヤー法による生存時間分析 を行ない、群間差の検定にはログランク検定を用いた。

    [結果]

     生活習慣病管理料を算定した群と特定疾患療養管理料を算定した群で、慢性ACSC による入院に有意差を認めた (11.0% vs. 14.7%, P=0.004)。また、狭心症による入院(0.5% vs. 0.8%, P=0.396)、心不全による入院(1.6% vs. 2.6%, P=0.084)、糖尿病による入院(1.1% vs. 0.6%, P=0.138)は群間に有意差を認めず、高血圧症による入 院(6.8% vs. 8.9%, P=0.041)のみ有意差が認められた。生存時間分析では慢性ACSC による入院で群間に有意差 が認められた(P = 0.004)。

    [結論]

     診療所で40 歳以上の高血圧症、糖尿病、脂質異常症を治療している患者に対する生活習慣病管理料による診療は、 特定疾患療養管理料による診療と比べ、慢性ACSC による入院の減少と有意に関連していた。

研究ノート
  • 吉村 剛, 田城 孝雄
    2024 年 36 巻 1 号 p. 81-95
    発行日: 2024/10/22
    公開日: 2024/10/18
    ジャーナル オープンアクセス

     国民医療費が伸び続けるなか、調剤医療費における薬剤料の伸びも顕著である。本研究では構造方程式モデリング(SEM)の一つであるパス解析を用いて、現在の医薬分業制度が、院外処方における薬剤料に与える影響を、ナショナルデータを用いて構造的、定量的に分析した。

     院外処方における、処方箋1 枚あたり1 種類あたり1 日内服薬剤料(以下、薬剤料)に与える影響を、一人当た り県民所得及び、人口千人あたりの生活保護被保護者数、65 歳以上高齢化割合を変数に加え、医薬分業率の進捗とともに薬剤料に与える効果を、総合効果、間接効果、直接効果として比較した。

     その結果、一人当たり県民所得が年間10 万円高くなると薬剤料は0.377 円上昇(総合効果)し、医薬分業率が 1%ポイント高くなると、薬剤料は0.228 円減少した(総合効果)。また、人口千人あたりの生活保護被保護者数が 1名増えると、薬剤料は0.093 円上昇し(間接効果)、65 歳以上高齢化割合が1%ポイント上昇すると、薬剤料は 0.135 円上昇する(間接効果)ことが確認された。

     このことは、本モデル内においては、現在の医薬分業制度とその進捗が、社会経済的要因の変化により上昇する医療費、特に処方箋1枚あたり1種類あたり1 日内服薬剤料を抑制している可能性があることを示した。

     本研究では、適切な医薬分業制度を発展、維持することで調剤医療費における薬剤料の上昇を抑制できる可能性を仮説モデルという形で示唆した。

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