人文地理
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69 巻, 4 号
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論説
  • 谷本 涼
    2017 年 69 巻 4 号 p. 425-446
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/23
    ジャーナル フリー

    日本の都市部では,特に医療・介護サービスへのアクセシビリティの不足と格差が,将来的に問題化することが予想される。本稿では,二段階需給圏浮動分析法によるアクセシビリティ分析と,現在の政策の検討を通じて,都市郊外(大阪都市圏北部)における病床へのアクセシビリティの変容やその問題点を考察した。アクセシビリティの現状分析からは,病床へのアクセシビリティには,供給総量の不足と,移動手段間・地域間での格差という二つの問題が存在することが明らかになった。また,公共交通の改善と病床機能別の病床数調整を想定した2025年のアクセシビリティの将来推計から,「不足と格差」の現実的な解決には,地域の既存の資源を効率的に活用するための,多面的なアプローチが必要となることが明らかになった。加えて,国と都道府県の医療政策による入院患者の削減には,受け皿としての介護施設の容量が大きな問題になる可能性も示された。現在の政策の考察からは,医療・介護へのアクセシビリティの確保には,各自治体の都市計画と専門的・広域的な医療・保健政策の連携の実現が必要であることと,その上で各自治体が自らの都市計画の妥当性を柔軟かつ批判的に検討し続ける必要があることが示された。

研究ノート
  • 粉川 春幸
    2017 年 69 巻 4 号 p. 447-466
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/23
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,複数のエスニック集団によるエスニック・ビジネスの混在がみられる大阪市中央区南部を対象地域として,エスニック・ビジネスの実態を明らかにすることである。対象地域には,2016年12月時点で200軒近いエスニック系施設が確認された。その大半を占めるのが韓国系施設と中国系施設であり,前者は対象地域北部を中心として大小の通り沿いに分布する一方,後者は対象地域南部の主要通り沿いに線状に分布している。また,この地域のエスニック・ビジネスは,韓国系・中国系のいずれも飲食業・サービス業が多く,特に飲食業では多様化や専門化が進展している点は共通している一方,サービス業に関しては,韓国系では日本人向けの業態への進出もみられるのに対し,中国系では同胞向けにとどまっていることが明らかになった。また対象地域におけるエスニック・ビジネス事業所では,事業所内での国籍・エスニシティが複雑化している事例がみられるなど,その実態は多様である。

  • 梶田 真
    2017 年 69 巻 4 号 p. 467-484
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/23
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,1965年および1980年国勢調査における最小の集計単位である調査区別集計結果と地理情報システム(GIS)を用いて,東京都心部の高精度の社会地図を作成し,この間に生じた居住者の社会-空間パターン変化について考察することである。1965年の社会地図,特に職業別の就業者比率の地図は,低地(下町地域)と台地(山手地域)の間だけでなく,山手地域内の台地と谷地の間でも明瞭なコントラストを示している。これらの地図は,卸売・小売業地域における前近代的な職住近接の就業形態も強く反映している。しかし,1980年の地図では,これらの特徴がかなりの程度において消失している。主たる原因は,(1)雇用形態の近代化による職住分離,(2)工場などの転出・廃止,(3)地下鉄整備をはじめとしたインフラ整備による立地条件の改善,に求められる。その結果,1980年の社会地図および統計数値では,1965年のものと比べて,下町地域と山手地域のコントラストがより明瞭にあらわれるようになっている。

フォーカス
  • 中村 周作
    2017 年 69 巻 4 号 p. 485-499
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/23
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,佐賀県域における伝統的地域文化としての魚介類食の特性を明らかにすること,そしてそれらの地域差と分布要因を解明することである。研究の結果は,以下のようにまとめることができる。第一に,県内各地365件のアンケート調査の結果,佐賀県域には,魚介類食摂食地域の分布パターンとして,8つの分類,すなわち,①凡県域高摂食型,②凡県域中摂食型,③沿岸広域摂食型,④玄界灘沿岸域摂食型,⑤有明海沿岸・佐賀平野域摂食型,⑥内陸・山間地域摂食型,⑦その他の地域摂食型,⑧消滅危機直面型を見出すことができた。第二に,伝統的魚介類食の展開の背景には,様々な歴史・経済・文化的要因がはたらいていた。分布の市町村別展開をみると,高摂食地域は,高齢化の進む内陸山間町村,中位が沿岸の漁業・都市地域,下位が内陸農村・都市地域に展開していた。伝統的魚介類食は,貴重な地域文化である。それゆえに,その記録を残すこと,さらにそれらを使った地域振興を考えていくことが重要である。

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