人文地理
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論説
  • 桑林 賢治
    2021 年 73 巻 1 号 p. 5-30
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/13
    ジャーナル 認証あり

    先住民による「記憶の場所」の構築と,支配的マジョリティがそこに与えた文化的・社会的な影響を分析することは,先住民のアイデンティティと過去,そして場所の関係性を解明する一助となりうる。本稿は,アイヌによってシャクシャインに関する「記憶の場所」へと構築された北海道新ひだか町の真歌山を事例に,その構築がいかに彼(女)らをめぐるポストコロニアル状況に影響されていたのかを考察する。真歌山は従来からシャクシャインに対する顕彰行為の場であったが,1960年代末以降,和人のまなざしの影響を受けながら,アイヌ・アイデンティティと結びつく「記憶の場所」へと構築され,各地のアイヌを巻き込んでいった。その後も,アイヌによる和人のまなざしの受け止め方が変化するたびに,真歌山という「記憶の場所」は再構築され続けている。こうした動きには,文化的な喪失と同化を経験し,今なお和人のまなざしから解放されていない,現代のアイヌをめぐる文化的・社会的なポストコロニアル状況が映し出されていた。その意味で,真歌山は現代のアイヌを取り巻くコロニアリズムの残滓を反映した,ポストコロニアルな「記憶の場所」として位置づけられる。このようなコロニアリズムの残滓について,多様な解釈が存在することを想定し,それらを丁寧に読み解くことが,真歌山という「記憶の場所」の構築をより深く理解するためには必要である。

  • 石川 慶一郎
    2021 年 73 巻 1 号 p. 31-54
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/13
    ジャーナル 認証あり

    本稿は東京都中央区の民間賃貸住宅居住者の住民特性と移動歴を明らかにした。中央区の民間賃貸マンション居住の単身者を対象とした質問紙調査では,分析対象者の76.4%が未婚者,16.4%が有配偶者であり,両者の9割以上がホワイトカラー従事者であることが明らかとなった。分析対象者の半数以上を占める25~39歳の未婚者の移動歴をみると,出身地によって異なる傾向が示された。東京圏出身者は学卒後に東京圏郊外や都区部から中央区に転入する傾向があった。一方,非東京圏出身者は,就職を機に一度都区部や東京圏郊外に着地した後で中央区に住み替えるか,転勤や転職を機に非東京圏から中央区に転入する傾向があった。このように未婚者の住居移動の経路は複数に分岐しているが,いずれの場合であっても,彼らの中央区への来住は主として職住近接を志向した自発的移動の結果とみなせる。移動歴について1960~1980年代の郊外化時代の多産少死世代と現在の団塊ジュニア以降の世代を比較すると,後者の移動歴には,未婚者の都心3区への内向移動と未婚者が都心に転入する時の年齢の上昇が生じている。本稿は1990年代後半以降の東京都心3区における人口回復の背景として,団塊ジュニア以降の世代の住居移動に効果を及ぼす未婚期の長期化という家族形成規範の変化とバブル経済崩壊という時代背景を指摘した。

研究ノート
  • 中村 努
    2021 年 73 巻 1 号 p. 55-74
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/13
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,台湾島嶼部の地理的条件と地域固有の歴史的経緯から多様な空間スケールのケア供給体制が構築されてきた過程と,現在のケアの利用行動からケア供給体制が抱える課題を明らかにした。台湾本島との隔絶性が高い緑島では,1990年代以前,衛生所による一次医療が展開されるのみで,その他のケアニーズはもっぱら近居の家族による支援によって対処せざるを得なかった。一方,民主化が進展した1990年代後半以降は,民間診療所の開設と,東南アジアからの介護労働者の受け入れによる高齢者介護や生活支援サービスの確保が確認できた。こうして,複数のアクターがローカル・スケールのみならず,グローバルなレベルに及ぶ広域で重層的なローカル・ガバナンスを形成することによって,台湾の島嶼部におけるケア供給が図られてきた。しかし,台湾政府は時間的,地理的制約を克服するために有効とされる,遠隔画像診断と救急搬送の活用に消極的であった。ケアサービスの利用行動を検討した結果,島内では家族や外国人労働力が在宅介護を支える一方,休職や家族の分断を伴った島外への受療行動が確認できた。こうした政府の役割を代替あるいは補完しようとするアクターで構成されるローカル・ガバナンスは,台湾固有のケア規範に加えて,緑島固有の歴史的経緯とも密接に関係しており,外国人介護労働者の人権に対する法的整備や,身近な地域でケア供給が完結する体制の整備が課題であることも明らかになった。

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