人文地理
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75 巻, 1 号
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論説
  • 竹内 祥一朗
    2023 年 75 巻 1 号 p. 3-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    都市化と産業化が進行した近代日本では,果物の生産と産地が拡大を遂げた。大都市の遠隔地で鉄道を用いた輸送園芸が展開した一方で,近郊園芸も大都市の周辺で存続または拡大を遂げた。近郊園芸を代表する果物の1つである葡萄の産地のなかでも,大阪府堅下村(現柏原市)は山梨県や岡山県の産地などよりも早期に葡萄への専門化が図られ,より高価に取引される高級葡萄の生産を達成したことが指摘されている。既往研究では,綿作や他の果物生産からの転換が進められたこと,技術改良や流通改善に地域の篤農家が活躍したことが解明されている。本稿ではこれらの事象を個別に検討するのではなく,特定の篤農家の生業活動全体の実践を通じて,高級葡萄生産がいかにして実現に至ったのかを検討することを試みた。その結果,高級葡萄生産が確立した背景には,家の生業内で山稼ぎや養蚕・畑作を縮小して葡萄生産に集中したことが確認された。そして,篤農家たちは葡萄生産への専門化を進め,村落内で家同士の関係性に基づきながら技術交流を促し,高級葡萄生産を支える高い技術を培った。さらに彼らは,他の生産者への金銭の貸与や,仲買人・問屋・運送会社との主体的な交渉や利害関係の調整を通して高級葡萄生産の拡大に寄与していた。

研究ノート
  • 田和 正孝
    2023 年 75 巻 1 号 p. 25-47
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

    石干見は,潮汐の変化が顕著な沿岸部に石垣を組み,満潮時に接岸した魚群をこのなかにとどめ,干潮時にこれらを漁獲する,伝統的な大型の定置漁具である。本稿では,この漁具が日本の漁業地理学のなかでいかにとらえられ,地理学者はどのような記述を残してきたのかを,1950年代から1970年代にかけて発表された研究に注目しながら検討する。最初に石干見の記録を残した地理学者は,吉田敬市である。吉田は,有明海に存在する石干見漁が,自然環境に応じておこなわれる特徴的な漁業形態であることを明らかにした。続いて藪内芳彦が,漁具の発展段階と世界的な分布について考察するなかで,石干見にも注目した。その後,藪内の研究をふまえて,1960年代,1970年代を中心に世界各地の沿岸域にて調査・研究に従事した地理学者によって,石干見が漁撈(漁業)文化を考えるひとつの指標としてとらえられ,多くの記述が残された。しかし,1980年代になると,石干見に関する研究や記述はほとんどみられなくなった。主たる理由としては,漁具の分布や伝播の問題を究明する漁撈(漁業)文化研究に方法論的な限界が生じたこと,各地の石干見が現代的な漁船漁業の発展にともなって無用化し,それに応じて研究者の注目度が急激に低下してしまったこと,が考えられる。

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