中世の絵図には,差図(指図とも表現)と題されたり,名付けられたりしている一群の地図類がある。その一部は荘園図の一種として個別荘園研究において使用され,また用水を描いたものも比較的よく史料として用いられてきた。しかし,差図そのものの全体的研究はほとんど行われてこなかった。そこで改めて差図の特性を類別すると,① A 群:村やその共有地などの所在地の説明,ないしその説明と一体となった地図的表現(9例),② B 群:所有する土地と他領の位置関係の図化(18例),③ C 群:用水の取り入れ口,灌漑先,名称などの表現(17例),④ D 群:条里方格による字名などの位置表現(14例),⑤ E 群:地片(地筆)の位置や大きさの表現(10例)など,5群からなることが判明した。このうちの A・B 群は村とその境域の生成と状況に関わり,D 群は字の発生と定着の過程を反映し,さらに大字・小字が成立する前段階をも示している。E 群は近代における各地片への地番の導入基盤となり,一筆丈量図の原型とみられることも判明した。