本稿では,近代日本海側地域の主要港湾都市敦賀を事例に,在来・新興貿易商として葉加瀬家・木村家をとりあげ,地方財閥や企業家・名望家的資産家などとは異なる,地域の中小規模の商人がいかにして対岸進出を果していたのかという点を,人的ネットワークに注目して明らかにした。両者は,近代期敦賀において有力な経済主体の一つであった地元貿易商として,その性格や経営動向などは異なりながらも,敦賀港の対岸貿易の変化に対応しつつ商家経営を行っていた。その貿易事業の展開からは,事業停滞がありながらも経営回復した商人,地域外部から来住したものの事業成長がみられた商人の姿が見出せた。両家の対岸進出においては,地域社会内外での私益・公益双方に関わる活動から獲得した信用・名望によるもの,血縁関係者の存在や対岸地域での就業経験によって構築されたものという,それぞれ経営協力を獲得可能となる人的ネットワークが背景に存在していた。このような地域内外の経済主体との関わりによって,帝国日本の範囲において形成されていた広域の人的ネットワークが,中小資本たる地元貿易商に対して人材や資金,資材の確保という面で,対岸貿易事業の継続や拡大をもたらし,対岸進出を可能としていた。
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