頭頸部癌
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36 巻, 4 号
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第34回日本頭頸部癌学会
シンポジウム1
ガイドラインに沿った上顎癌治療
  • 吉田 知之, 伊藤 博之, 中村 一博, 清水 顕, 塚原 清彰, 高田 大輔, 岡本 伊作, 近藤 貴仁
    2010 年 36 巻 4 号 p. 373-378
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    上顎洞癌の治療戦略として1998年からSeldinger法による超選択的動注療法を放射線療法,手術と併用している。超選択的動注化学療法は腫瘍の栄養血管より大量高濃度の抗癌剤を投与することが可能で,CDDPの副作用も中和することで許容できる範囲内に留めることができる。1998年から2008年にかけて当科において放射線同時併用大量超選択的動注化学療法を施行した上顎洞扁平上皮癌40例に対して一次治療効果,有害事象について検討を行った。対象の年齢は43歳から75歳(中央値61歳),性別は男性30例,女性10例であった。T3が17例,T4が23例,N+も8例含まれており,総て進行癌で頭蓋底,眼窩深部に接しているものもみられた。大腿動脈よりSeldinger法による超選択的動注化学療法を施行した。CDDPの総量は200-300mg/m2(平均210mg/m2)であった。治療に選択した血管は総て外頸動脈系の血管で内頸動脈系には動注は行っていない。動注に引き続きday2より5-FU 800mgを4日間全身投与した。放射線治療はday2より1回2Gyの同時併用とし60Gyを目標とした。1週から2週間のインターバルをおいて2クール目を施行し放射線は総計60Gyまで照射するアームを1998年2007年まで続けていた。術後の病理学検査などを踏まえて2008年からは腫瘍の大きさにかかわらずSeldinger法による超選択的動注化学療法2クールに根治照射60Gyを行い40Gyの段階での治療効果判定は行わないことを基本とした。残存・再発時には追加治療としてサルベージ手術を行うwait & seeを基本とした。治療による有害事象,予定された超選択的動注化学療法併用放射線療法が終了した。4週間後の肉眼所見,画像所見,病理組織検査所見を参考に効果判定を行った。40症例で合計73回のSeldinger法を施行した。治療に用いた栄養血管は平均2.3本であった。有害事象はgrade 3以上の口腔炎が45%に生じ,摂食障害や嚥下困難につながることが多かったが全例可逆性であった。白血球低下のためG-CSF投与を要した症例は5例あった。CDDP投与によるgrade 3以上の腎機能障害は6例あった。grade 4の腎機能障害は3例あり人工透析を導入したが全例離脱可能であった。また一過性脳虚血を疑う症状が3例で生じた。しかし,それ以外は全て可逆性で重篤な有害事象はみられなかった。一次治療効果は40Gy時の判定ではCR 50.0%,PR 25.0%,奏功率は 75.0%であった。動注後に手術を施行した症例は30例あり,そのうちのCRと判定したが手術をおこなった10例はいずれもpathological CRであった。また超選択的動注化学療法併用放射線療法の一次治療効果がPRであったと判定した10例のうち5例は術後病理学的評価でpathological CRであった。最終的なCR率は62.5%であった。この治療は有害事象も比較的軽微で許容される範囲であると考えられた。また局所コントロールの面から見ても侵襲の高い手術を回避できる可能性のある治療法と考えられた。
  • 西野 宏, 川田 和己
    2010 年 36 巻 4 号 p. 379-382
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    背景と目的:上顎洞癌治療は根治性のみならず,視機能や咀嚼・嚥下などの機能の保存も考慮しなくてはならない。両者を両立させる治療体系を検討する。
    方法:1979年から2005年の間,121人に集学的治療(上顎部分切除,放射線治療,抗癌薬動注)をおこなった。頸部リンパ節転移を認める症例のみ,頸部リンパ節転移に対して治療をおこなった。症例の内訳は男性77人,女性44人,平均年齢は63歳であった。
    結果:平均観察期間は79ヶ月であった。症例全体の5年全生存率は73%,5年局所制御率は72%であった。T分類別の5年局所制御率はT2:70%,T3:86%,T4a:55%,T4b:54%であった。扁平上皮癌症例の5年局所制御率は76%,非扁平上皮癌症例の5年局所制御率は54%であり,両者には統計学的な有意差を認めた。
    結論:本集学治療は上顎洞癌に有効な治療と考えられた。
  • 原田 浩之, 小村 健
    2010 年 36 巻 4 号 p. 383-387
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    当科における上顎歯肉・硬口蓋扁平上皮癌の治療法,治療成績について報告した。
    2001年4月から2009年3月までに加療した上顎歯肉・硬口蓋扁平上皮癌59例を対象とした。原発巣の初回治療法は,小線源治療が3例,手術単独が43例,手術と放射線あるいは化学放射線療法を併用したのは13例であった。
    原発巣再発は11例(18.6%)に認めたが,追加治療により7例が救済された。全症例の5年累積生存率は89.1%で,手術単独群は93.9%,術前治療群は71.3%であった。最適な術前治療法の決定およびその適応基準に関しては,今後検討する必要があると考えられた。
    頸部リンパ節転移は16例(27.1%)23側に認め,そのうち対側転移は8例に認めていた。pN別の5年累積生存率はpN0:94.0%,pN1・2b:83.3%,pN2c:70.0%と比較的良好であったが,上顎歯肉・硬口蓋扁平上皮癌においては対側頸部リンパ節転移が高頻度に認められることを念頭におく必要があると考えられた。
シンポジウム2
表在癌の取り扱い
  • ―NBI拡大観察の臨床的有用性―
    郷田 憲一, 吉村 昇, 田尻 久雄, 清野 洋一, 加藤 孝邦, 池上 雅博
    2010 年 36 巻 4 号 p. 388-394
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    背景と目的:Narrow band imaging(NBI)の臨床応用により,中・下咽頭癌の早期発見例は増加しているが,dysplasiaも含めた表在性中・下咽頭腫瘍の内視鏡像については不明な点が少なくない。本研究では,中・下咽頭の表在性腫瘍の通常・NBI内視鏡像を明らかにし,NBI拡大内視鏡の臨床的意義を検討したい。
    対象と方法:中・下咽頭の表在性病変148例203病変の内視鏡像をprospectiveに評価し,それらの組織像と対比検討した。組織学的診断は新ウィーン分類に基づいてなされた。
    結果:組織学的所見によって203病変はnon-neoplastic lesion(non-NL)111病変(全てCategory 1:正常,炎症など)とneoplastic lesion(NL)92病変(Category 3または4)に分別された。NL群はnon-NL群に比し,通常所見“発赤調”,“平坦・陥凹型”,非拡大NBI所見“brownish area”を呈する頻度が有意に高く,拡大NBIでは微小血管の“増生”,“拡張”,“不整”を示す頻度が有意に高かった。多変量解析の結果,“平坦・陥凹型”,“不整”所見のみが有意に高い頻度でNL群に認められた。NL群のCategory 3(n=38)とCategory 4(n=54)の比較では,通常・非拡大NBI所見において有意差はなかった。拡大NBI所見である“微小血管間褐色調変化”と“不整”はCategory 4に認められる頻度が有意に高く,多変量解析では“不整”のみ有意差を認めた。
    結論:NBI拡大内視鏡はNL病変に対する通常内視鏡診断を補完し,Category 4病変では通常内視鏡の診断精度を向上させる可能性が示唆された。
  • ―内視鏡的病型分類診断について―
    谷口 雅信, 渡邉 昭仁, 辻榮 仁志
    2010 年 36 巻 4 号 p. 395-399
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    2005年の頭頸部癌取扱い規約改訂第4版より,表在癌の病型分類が記載される様になったが,現時点でその意義は明らかにされていない。当院で治療を行った中下咽頭表在癌176例262病変を対象に,病型分類と臨床病理学的関係について検討した。中下咽頭表在癌における病型分類の違いにより,腫瘍の厚みおよび上皮下浸潤頻度に有意な差が確認された。またリンパ節転移例はいずれも0-I型または0-IIa型にのみ認められた。
    続いて,同一病変を耳鼻咽喉用内視鏡と上部消化管内視鏡でそれぞれ観察し病型分類診断を行ったところ,診断の不一致が確認されたのは全体の4.0%のみであった。いずれも上部消化管内視鏡で0-IIaと診断されたが耳鼻咽喉用内視鏡では0-IIbと診断されたもので,比較的腫瘍の厚みが小さく,リンパ節転移例は認めなかった。
    リンパ節転移の可能性があるため0-I型および0-IIa型表在癌の病型分類診断は大切であるが,耳鼻咽喉用内視鏡での病型分類診断は十分実用に耐え得るものと思われた。
パネルディスカッション1
遊離皮弁再建後合併症とその対応
  • ―瘻孔形成―
    三浦 弘規, 鎌田 信悦, 多田 雄一郎, 増淵 達夫, 中村 成弘, 伏見 千宙, 丸屋 信一郎, 坂下 智博, 門馬 勉, 永藤 裕, ...
    2010 年 36 巻 4 号 p. 400-405
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    瘻孔形成はいまだ未解決な遊離皮弁再建術の合併症のひとつである。我々は保存的対応での救済を基本としている。
    方法:当センターで5年間に経験した遊離皮弁再建術321例をretrospectiveに検討した。
    結果:瘻孔が先行した皮弁全壊死,頸動脈破裂の症例はなかった。1例を除き全例保存的対応で救済し得た。閉鎖まで6週以上を要したのは,咽頭皮膚瘻作成,早期再発あるいは術後放射線治療を優先した計3症例であった。
    結果:遊離皮弁再建術後の瘻孔の救済には,積極的手術は通常必要なく的確なドレナージによる保存的対応で充分である。個々に患者の状態を的確に判断できれば,重篤合併症あるいは追加治療の遅れをきたすことはない。
  • ―遊離皮弁全壊死後の対応―
    石田 勝大, 加藤 孝邦, 牧野 陽二郎, 清野 洋一, 青木 謙祐, 平澤 良征, 寺尾 保信, 内田 満
    2010 年 36 巻 4 号 p. 406-413
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    2005年1月から2010年1月まで頭頸部癌切除後に遊離組織移植を行った328例の内,皮弁全壊死となったのは15例で,初回原発巣手術は咽喉食摘(以下TPLE)7例,上顎全摘術2例,上顎部分切除2例,舌・口腔底癌のpull through法による腫瘍切除2例などで,全壊死した遊離組織移植は遊離空腸7例,腹直筋皮弁3例,前外側大腿皮弁2例,腓骨皮弁2例などであった。遊離空腸移植に関しては全例移植空腸壊死発見後速やかに再手術を施行している。15例中再度皮弁もしくは遊離空腸を移植したのは10例で,残りの5例はデブリードマンのみであった。移植空腸壊死症例において,再遊離空腸と大胸筋皮弁再建の間に在院日数,食事形態に明らかな差は認めなかったが,後者では内視鏡的拡張術を余儀なくされた。遊離皮弁全壊死後の救済処置は機能面・整容面を考慮すれば再遊離組織移植が望ましい。再遊離移植困難な場合は,有茎皮弁でもある程度の機能の維持が可能である。
パネルディスカッション2
頭頸部癌治療における緩和ケアのありかた
  • 吉澤 明孝, 行田 泰明, 石黒 俊彦, 吉澤 孝之, 川端 一嘉
    2010 年 36 巻 4 号 p. 414-416
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    頭頸部がん緩和ケアは,頭頸部がんのケアの特徴である容姿変形・意思疎通障害,嚥下障害に対するケアを理解し,病態の特徴である臭気,出血,反射などの特異的症状の管理と理解が必要である。そのためには頭頸部がん専門医との顔の見える連携があれば,一般病院でも可能なケアである。
  • ―耳鼻咽喉科医の立場から―
    横島 一彦, 中溝 宗永, 粉川 隆行, 稲井 俊太, 酒主 敦子
    2010 年 36 巻 4 号 p. 417-419
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    頭頸部癌治療における緩和ケアに耳鼻科医である我々がどの様に関わるべきかについての意見を述べた。
    頭頸部癌診療の全過程において,耳鼻科医の関わりは非常に重要である。初診から癌治療の選択においては,手術,放射線治療や化学療法などの治療法の解説を充分に行う必要がある。また,その内容だけでなく,伝える際の精神的な配慮を含む全人的な対応が重要である。終末期にも,耳鼻科医が関わり続けることには意義が大きいと思われる。頭頸部癌特有の症状への対応には,我々の知識や経験が生かされる場合は多い。また,主治医として治療を行ってきた我々が終末期医療を行うことを希望する患者・家族が多いことも考慮すべきである。
  • ―頭頸部外科医の立場から―
    吉本 世一, 浅井 昌大, 小野 貴之
    2010 年 36 巻 4 号 p. 420-423
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    再発癌や超進行癌の治療選択においてもエビデンスが重視されるべきであるが,治療開始時にすでにクオリティ・オブ・ライフ(QOL)が低い症例では根治性が低くとも手術の適応を考慮すべき場合があると考えられる。その際にはNarrative Based Medicine(NBM)が重要であり,患者との十分な対話と患者医師間の良好な人間関係が必要であると思われた。最終的な判断は多業種カンファレンスにおいて決定されるべきであり,また今後は手術による在宅期間の延長やコストパフォーマンスについてのエビデンスの構築が望まれる。
  • ―放射線科医の立場から―
    鈴木 恵士郎, 西尾 正道
    2010 年 36 巻 4 号 p. 424-427
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    近年,進行あるいは再発頭頸部癌に対する治療法は大きく変わりつつある。IMRT(強度変調放射線治療)のような新しい放射線治療の技術や分子標的治療薬を含む新薬は,手術適応がない超進行癌にも治癒の機会をもたらすものである。また,抗癌剤の超選択的動脈内注入もこういった症例における一つの選択肢となりうる。IMRTは,従来禁忌と考えられていた根治照射後の再発に対する再照射にも用いられ,有効であり副作用も認容できる範囲であったとの報告がある。これらの新しい治療技術は姑息的治療における方針決定に影響を与える可能性がある。なぜならば以前は治癒不能と考えられていた腫瘍が,新しい治療を導入することにより治癒に至る可能性があるからである。ここでは進行あるいは再発頭頸部癌に対する新しい治療戦略の現状を述べてみたい。
  • ―逆行性超選択的動注化学療法を中心に―
    藤内 祝, 光藤 健司, 藤本 保志, 伊藤 善之, 齋藤 清, 亀井 譲, 不破 信和, 佃 守
    2010 年 36 巻 4 号 p. 428-435
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    5例の頭頸部領域における超進行癌に対して逆行性超選択的動注化学放射線療法を中心とした治療を行った。
    症例1:下顎歯肉癌(T4N0M0)で浅側頭動脈と後頭動脈からの超選択的動注化学放射線療法を術前治療として行った。
    症例2:舌癌(T4N3M0)で原発巣には浅側頭動脈よりの超選択的動注化学放射線療法を,頸部リンパ節転移にはハイパーサーミアを追加した。
    症例3:眼窩癌(T4N0M0)で浅側頭動脈よりの超選択的動注化学放射線療法を術前治療として行った。
    症例4:舌癌(T4N3M0)で原発巣には超選択的動注化学放射線療法を行った。頸部リンパ説転移にはハイパーサーミアと大腿動脈よりのSeldinger法の超選択的動注化学療法を行った。
    症例5:上顎癌肉腫(rT4N0M0)で浅側頭動脈動脈よりの超選択的動注化学放射線療法をと陽子線治療との併用療法を行った。いずれの症例も著効を認め,新たな治療戦略の一つになり得る。
パネルディスカッション3
明日の診療に役立つ頭頸部癌の基礎研究
  • 濱 孝憲, 加藤 孝邦
    2010 年 36 巻 4 号 p. 436-441
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    様々な癌関連タンパク質を標的分子とした分子標的薬が多く設計されており,頭頸部扁平上皮癌においてEGFR(上皮成長因子受容体)およびVEGF(血管内皮増殖因子)はその発現が患者の予後と関連していると報告されており重要な分子標的治療のターゲット蛋白質となっている。また,頭頸部癌領域においてもEGFRに特異的に結合するキメラ抗体であるセツキシマブの治療有効性が認められた。肺癌においてはEGFRのチロシンキナーゼドメインの遺伝子の変異が分子標的薬の有効性と非常に高い相関関係があることが報告され,遺伝子変異の有無により患者選択を必要とする個別化医療の検討が行われている。頭頸部癌患者のEGFR遺伝子変異の報告は少なく,出現頻度は32/386(8.3%)であり,明らかに肺癌と比較し出現頻度は少ない。
    分子標的薬の主要標的因子であるEGFRとVEGFを中心に頭頸部癌の遺伝子背景および臨床試験についてまとめた。
  • 太田 一郎, 岡本 倫朋, 家根 旦有, 細井 裕司
    2010 年 36 巻 4 号 p. 442-446
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    近年,頭頸部癌をはじめ同定されてきた癌幹細胞は,正常幹細胞と同様に自己複製能と多分化能を有し,癌幹細胞集団を維持しつつ,癌組織を構成する多様な分化段階にあるすべての癌細胞を生みだすと考えられている。また,癌幹細胞は,ニッチという微小環境の中では細胞周期の静止期にあり,薬剤排出能も高いことから通常の癌治療には抵抗性で癌の浸潤・転移や再発の原因と考えられている。癌幹細胞を制御するための分子標的治療が,再発や転移を阻止することにつながり,癌根絶の試金石となることが期待される。
  • 鵜澤 成一
    2010 年 36 巻 4 号 p. 447-451
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    悪性腫瘍を対象とした,近年の分子生物学・遺伝学的研究の蓄積により,その発生,進展過程に関与する様々な染色体や遺伝子異常について解明されてきた。それらの異常の中で,最も共通した異常は,染色体異常が挙げられる。従来,染色体の解析は,GやQバンド分染法をもちいて染色し,解析していた。しかし,近年の細胞遺伝学の領域の著しい技術革新により,FISH(fluorescence in situ hybridization)法とその応用型であるCGH(comparative genetic hybridization)法,SKY法,さらに,マイクロアレイ技術への応用などにより染色体解析の質,量ともに急速に発展していった。
    今回の概説では,染色体やFISH解析がどのように臨床応用されているのか概説し,さらに,今後の課題について述べてゆく。
  • 中島 寅彦
    2010 年 36 巻 4 号 p. 452-455
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    頭頸部癌に対する化学予防の研究の歴史と,米国を中心に行われている頭頸部癌化学予防の臨床研究について概説した。疫学的,基礎的研究から以前よりビタミンA誘導体のレチノイン酸を用いた化学予防が注目されており,前癌病変の進行抑制には一定の効果を示す。しかしながら,二次癌の予防については大規模なランダム化比較試験ではその有用性は証明されていない。その他にCOX-2阻害薬,カテキン(EGCG)などの化学予防効果も注目されているが,二次癌予防への有用性はいまだ確立はしていない。頭頸部癌治療の現場において治療成績向上のためには,重複癌の制御は大きな課題であり,今後の臨床研究の結果が待たれる。
  • 三澤 清, 峯田 周幸
    2010 年 36 巻 4 号 p. 456-460
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    高リスクヒトパピローマウイルス(HPV)16型,18型は,子宮頸癌やその他の悪性腫瘍の原因であることが分かり,最近の遺伝子工学の発達でHPV関連子宮頸癌を予防するワクチンが開発された。頭頸部領域において口腔内HPV感染は,oral sexによっておこりHPV関連中咽頭癌の明らかなリスクファクターになっていることが明らかになった。HPVワクチンの普及で子宮頸癌の減少だけでなく,中咽頭癌も減少するのと期待されている。本稿ではHPVとHPVワクチン接種の状況,男性への接種について最近の知見を述べる。
ハイビジョンビデオパネル
私の手術・工夫
  • 冨藤 雅之, 荒木 幸仁, 山下 拓, 塩谷 彰浩
    2010 年 36 巻 4 号 p. 461-465
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    声門上癌・下咽頭癌に対する喉頭機能温存治療の一つとして我々は経口的咽喉頭部分切除術を行っており,同様の手技を中咽頭癌に対しても応用している。手術手技としては拡張型喉頭鏡により広い操作腔を確保し,喉頭内視鏡をハイビジョンカメラセットに接続して広く鮮明な映像を見ながら両手操作による手術を行う。
    手術適応はT1,T2病変と一部のT3病変を対象とするが,明らかな深部浸潤を伴うもの,咽喉頭内腔の半周を超えて広がるものは適応外としている。頸部リンパ節転移については同時または二期的に頸部郭清術を施行する。
    現在までに声門上癌,下咽頭癌42例(初回治療35例,救済治療7例)に本術式を施行した。1年以上観察しえた35例(観察期間中央値31ヶ月)において3年粗生存率,疾患特異的生存率,喉頭温存率は83%,96%,96%であり,咽喉頭の機能温存治療,低侵襲手術として今後重要な選択肢といえる。
  • 松浦 一登, 野口 哲也, 片桐 克則, 今井 隆之, 石田 英一, 角田 梨紗子, 浅田 行紀, 小川 武則, 加藤 健吾, 西條 茂
    2010 年 36 巻 4 号 p. 466-472
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    食道表在癌ではEMRやESDといった内視鏡治療が確立されているが,咽喉頭表在癌には無い。しばしば放射線治療が選ばれるが過剰治療と思われる。我々は2007年2月より内視鏡医と共に内視鏡的咽喉頭手術(ELPS)を取り入れてきた。手術のポイントは,術野の展開と病変部の認識,切除時のカウンター・テンションである。我々は彎曲喉頭鏡を用いて咽頭を筒状の腔として展開し,ルゴール染色や高画質内視鏡・NBI内視鏡で正確に病変部を確認できた。そして経鼻的に喉頭内視鏡を挿入し,把持鉗子を用いたカウンター・テンションでESDを行った(ダブル・スコープ法)。2010年1月までに39病変にELPSを行い,20病変を本法にて切除した。長径50mmを超える切除や喉頭内腔に達する切除も可能であった。また術後病理所見は完全切除であった。将来的にはELPS用デバイスの開発が待たれるが,現時点では本法は有用であると考えられた。
一般投稿
頭蓋底
  • 冨士原 将之, 山本 聡, 土井 啓至, 高田 康弘, 石藏 礼一, 上紺屋 憲彦, 寺田 友紀, 佐伯 暢生, 宇和 伸浩, 廣田 省三
    2010 年 36 巻 4 号 p. 473-477
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    聴器癌に対する超選択的動注化学療法併用放射線治療の治療成績を報告する。対象は2003年3月から2009年7月にかけて超選択的動注化学療法併用放射線治療を施行した聴器癌15例。男性7例,女性8例。扁平上皮癌13例,未分化癌1例,腺癌1例。Moodyらの分類によるT分類は,T1:1例,T2:1例,T3:1例,T4:12例。経過観察期間は,4~44ヶ月(中央値14ヶ月)。
    放射線治療は1日1回2Gyで40~60Gyを施行。動注化学療法は,大腿動脈アプローチのセルジンガー法でシスプラチン単剤を1回50mg/bodyで週1回を4~5回投与した。中和剤としてチオ硫酸ナトリウムの点滴と血管炎予防目的にプレドニン20mgの動注を行なった。
    Kaplan-Meier法による2年粗生存率は73.4%,2年無増悪生存率は53.3%であった。遷延する皮下の炎症を1例に見られたが,重篤な晩期有害事象は出現していない。聴器癌に対する超選択的動注化学療法併用放射線治療の有効性が示唆された。今後さらに長期の経過観察が必要と考える。
上顎(鼻・副鼻腔)
  • 前田 明輝, 梅野 博仁, 千年 俊一, 千々和 秀記, 三橋 拓之, 中島 格, 力丸 英明, 渡部 功一, 井上 要二郎, 清川 兼輔, ...
    2010 年 36 巻 4 号 p. 478-482
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    1984年から2009年までに当科で治療を行った篩骨洞癌20例,前頭洞癌3例,蝶形骨洞癌6例の臨床的検討を行った。年齢は35歳から82歳,平均62歳,検討項目は,病理組織型,治療方法,転帰とした。篩骨洞癌は,手術症例10例中,生存は6例,原発巣死は2例で,非手術症例10例中,生存は2例,原発巣死は7例であった。前頭洞癌は前頭蓋底手術を含めた集学治療を行っており,全例局所制御できていた。蝶形骨洞癌は全例,化学放射線治療を行い,生存4例,原発巣死2例であった。篩骨洞癌,前頭洞癌は頭蓋底手術を含めた集学的治療,蝶形骨洞癌は化学放射線治療が有効と考えられた。
  • 小池 修治, 那須 隆, 石田 晃弘, 野田 大介, 青柳 優, 長瀬 輝顕, 斉藤 史明
    2010 年 36 巻 4 号 p. 483-487
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    上顎洞扁平上皮癌30例(男性19例,女性11例)に対しSeldinger法による超選択的動注化学療法を併用した術前放射線照射後に手術を行う集学的治療の治療成績,機能温存,晩期合併症について検討した。全症例の,Kaplan-Meier法による5年粗生存率は83.1%,5年疾患特異的生存率は89.6%であった。T因子での検討では,T3およびT4の5年疾患特異的生存率は,それぞれ100%と84.7%であった。一次治療終了後の機能温存率については,全症例で眼球は保存され,26例で口蓋が保存された。晩期合併症として,5例に頬部の高度な変形が生じ,2例に眼窩内感染に伴う視機能喪失が生じた。上顎洞扁平上皮癌に対する超選択的動注化学療法を併用した集学的治療は,生命予後および機能温存に寄与する優れた治療であるが,少なからず晩期合併症の発生があることを考慮すべきである。
口腔
  • 木村 幸紀, 花澤 智美, 岡野 友宏
    2010 年 36 巻 4 号 p. 488-497
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    舌リンパ節は,舌下間隙内にある介在リンパ節で,1938年にルビエールが外側群と正中群に分類した。昭和大学歯科病院で1991~2008年に7例で舌扁平上皮癌の舌リンパ節転移または舌リンパ管腫瘍塞栓の疑いとCTで診断したが,5例が原病死した。そこで,自験例と本邦文献で報告された他の32例を臨床像とCTやMRI所見とともに検討した。原発部位は,34例が舌,5例が口底であった。34例(87%)で頸部リンパ節転移の合併があり,5例(13%)で頸部リンパ節転移は見られなかった。26例(76%)で舌リンパ節転移が頸部転移と同時に発見されていた。2年生存率は50%未満であった。自験例のCT所見としては,辺縁強調像と内部低吸収域が舌リンパ節転移の画像診断に有用であった。舌リンパ節転移は術後6ヶ月以内に多くみられるため,頻度は少ないが早期の経過観察においても舌癌や口底癌では舌リンパ節転移に関して考慮すべきである。
上・中・下咽頭(頸部食道癌を含む)
  • 水町 貴諭, 加納 里志, 原 敏浩, 鈴木 章之, 鈴木 清護, 本間 明宏, 折舘 伸彦, 福田 諭
    2010 年 36 巻 4 号 p. 498-501
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    中咽頭扁平上皮癌53例を対象にHPV感染と治療成績との関連について検討を行った。53例中14例(26%)がHPV陽性であったが,扁桃原発例に限れば19例中11例(58%)が陽性であった。HPV陽性14例中12例(86%)がHPV16陽性で,HPV18およびHPV58陽性が各1例みられた。疾患特異的5年生存率はHPV陽性例の方が陰性例に比べ有意に高い結果となった。放射線化学療法施行症例においてもHPV陽性例の方が陰性例に比べ有意に疾患特異的5年生存率は高い結果となり,HPV陽性例では11例全例局所は制御されたが,陰性例では22例中9(41%)が局所再発した。以上の結果から,中咽頭癌症例の治療成績の向上のためにはHPV感染の有無による層別化が必要であり,HPV陰性例では局所の制御が課題であると考えられた。
その他臨床
  • 本多 啓吾, 安里 亮, 辻 純, 神田 智子, 牛呂 幸司, 渡邉 佳紀, 森 祐輔
    2010 年 36 巻 4 号 p. 502-506
    発行日: 2010/12/25
    公開日: 2010/12/28
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者頭頸部扁平上皮癌患者治療の特徴を明らかにする。
    対象と方法:2005年から2009年の間に京都医療センターで治療した頭頸部扁平上皮癌患者177名の診療録調査を行い,75歳未満の非高齢群(131例)と75歳以上の高齢群(46例)の臨床的特徴と治療結果を比較検討した。
    結果:男女比は高齢群で低かった(5.6:1 vs. 1.7:1,p < 0.01)。早期例では,群を問わず大部分で根治治療が施行された(96.7% vs. 90.5%)が,進行期例高齢群では根治治療施行率が低かった(92.3% vs. 52.0%,p < 0.01)。2群間で治療法の選択頻度に有意差はなかったが,高齢群の多くで補助化学療法や術後照射は避けられていた。進行期例に対する根治手術後の局所合併症率は同等だったが,全身合併症は高齢群で高率だった(0% vs. 27.3%)。根治治療後の疾患特異的3年生存率には有意差を認めなかった(早期例:100% vs. 100%,進行期例:65.2% vs. 60.6%,カプラン・マイヤー曲線)。
    結論:高齢頭頸部癌患者の治療は,PS不良や並存疾患により妨げられることがあるが,根治治療後の治療成績は非高齢者と比して遜色ない。
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