キノロン薬と呼ばれる合成抗菌薬の歴史は 1962 年に Lesher により合成された Nalidixic acid(NA)から始まった.NA は腸内細菌に良好な抗菌力を示し,主に尿路感染症,腸管感染症の治療に用いられた.NA の発見がきっかけとなり,抗菌作用の増強,抗菌スペクトル,体内動態面での改良を目指したキノロン誘導体の研究開発が始まり,Oxolinic acid, Piromidic acid, Pipemidic acid などのキノロン薬が次々と開発された.我々も1970 年中頃からキノロン薬研究を開始し,1977 年にキノリン骨格の 6 位にフルオロ基を 7 位にピペラジニル基を有する AM-715(Norfloxacin : NFLX)を見出した.NFLX は従来のキノロン薬に比べ数十倍以上強い抗菌力を示し,グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対し幅広い抗菌スペクトルを有していた.体内動態面でも良好な体内(組織内)移行性を示し in vivo 感染症モデルで有効性が認められた.動物を用いた各種安全性試験を行った後に第 1 相臨床試験を 1978 年から開始した.その後第 2 相臨床試験と各疾患領域における第 3 相臨床試験を順次実施した.NFLX は,優れた抗菌力と主要組織への良好な移行性により,尿路感染症,腸管感染症のみならず呼吸器感染症,皮膚感染症,耳鼻科感染症においても優れた臨床効果を示した.これらの臨床試験において高い安全性も確認された.この NFLX の発見がきっかけとなりその後数多くの優れたキノロン薬が開発された.NFLX 以降に開発されたこれらの薬剤はニューキノロン(フルオロキノロン)薬と呼ばれるようになった.この総説ではニューキノロン薬の先駆けとなった NFLX の創薬の歴史をまとめた.
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