目的:わが国市場で,流通している Passiflora の基原植物はおおむね P. incarnata と想定される.しかし一部にP. edulisが混在している可能性が報告された.P. incarnataは鎮静剤として最もよく知られている種である.それはブラジルをはじめ北米南部,中米から南部にかけて分布している.そして西欧では,古くから植物療法に使われてきた.一方,P. edulis は多くの国で,食用果実として栽培され,ブラジルは世界最大の原産国である.また薬用として,近年のブラジル薬局方の FB5(2010)および FB6(2019)に収載されている.さらにそれには,P. alata も収載されている.ブラジルでは,P. alata が古くから鎮静剤,抗不安薬の植物療法に使われてきた.そこで今回は FB1(1929)~FB6(2019)に収載された Passiflora の規格・試験法の変遷について調査した.さらに近年,2000 年以降,Passiflora に関する海外の学術文献を抽出し,P. edulis,P. alata
の植物化学成分,生物学的活性効果について調査を行った.そして両種が P. incarnata と同様の生物学的活性効果を発揮できる可能性,さらに代替品の可能性について考察した.
方法:1)FB1(1929)~FB6(2019)に収載された P. edulis および P. alata を基原とした Passiflora の規格・試験法の変遷の調査を行った.2)近年,2000 年以降の,P. incarnata,P. edulis,P. alata を基原植物としたPassiflora に関する海外の学術文献を抽出した.そして P. edulis,P. alata の植物化学成分組成に関して,両種間における違い,分析化学技術の進歩による変遷,生物学的活性効果への影響について,検証を行った.
結果:1)FB5(2010),FB6(2019)では,従来の P. alata と新たな P. edulis を基原植物とした 2 種のPassiflora が収載された.その規格・試験法の調査から,両種間における化学的成分組成に大きな違いあることがわかった.P. edulis のフラボノイド成分組成の複雑さに対して,P. alata が単純であることがわかった.また P. alata は,P. edulis よりもサポニンを多く含んでいることもわかった.2)近年,2000 年以降のPassiflora に関する海外の学術文献から,定性分析結果として,P. edulis,P. alata などの Passiflora sp. には,幅広い種類のフラボノイドが観察された.P. edulis は P. alata の約 2 倍のフラボノイドを含有し,それに比例して,約 2 倍の抗酸化活性を有することが示された.P. edulis は P. alata よりもフラボノイド成分組成が複雑である.UPLC-IM-MS は UPLC-MS プロダクトスペクトルに直交した断面解析により,異性体ペアの検出を含めて,その複雑さを明確化した.P. alata は P. edulis のフラボノイド成分組成プロファイルよりも単純であるが,サポニンを多く含有している.
結論:P. edulis と P. alata の両種は P. incarnata と同様に,豊富なフラボノイド(ポリフェノール)などの生物活性物質の存在により,抗酸化活性などの生物学的活性を示している.両種は鎮静剤,抗不安薬などの植物療法の他に,フラボノイド(ポリフェノール)などの抗酸化物質の重要な供給源となり,天然のフィトケミカルの供給源として,今後,展開していく可能性が考えられる.そして両種について,成分的,薬理的観点から,P. incarnata の代替品として,医薬品,健康食品への配合の可能性を検証することが,今後の課題と考える.
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